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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/02/06


みんなの思い出



オープニング



 種子島の人口は、そう多くはない。
 しかし、そんな島にも児童養護施設――所謂、孤児院が存在した。

 そのひとつに、南種子町の「ひまわり園」がある。
 場所は種子島宇宙センターのすぐ近く、子供の足でも歩いて行ける距離だ。
 そんなご近所さんのよしみで、宇宙センターでは毎年この時期になると、施設の子供達を招待した見学ツアーを行っていた。

 ところが――

「ごめんな、今年は呼んでやれなくて」
 宇宙センター職員、涼風 爽(すずかぜ・そう)は、そう言って子供達の頭を撫でた。
 センター周辺には相変わらずサーバントが彷徨いている。
 大人達は既にその状況に慣れ、上手く避けるコツも覚えたが、子供達は別だ。
 危険に晒す訳にはいかないし――出来る事なら天魔の姿を見せる事も避けたかった。
 この施設には、新しく入所して来た子供が多い。
 そんな子供達は大抵、ここ最近に起きた天魔の襲撃によって家族を失っていた。
(外に出られないのは可哀想だけど……)
 その辛い体験を思い出させるよりはマシだ。
「代わりに、今日はお兄さん達が皆に宇宙のお話をしてあげまーす」
 この日、施設を訪問したのは爽を入れて三人の職員。
 三人とも子供達とは顔馴染みだが、中でも爽はプライベートでもよくこの施設を訪れている為、最も子供達に懐かれていた。

 職員が手作りしたロケットや探査機の模型、センターの図書室から持って来た子供向けの本や写真集。
 そんなものが所狭しと置かれた一室で、子供達は好き勝手に本を読んだり、職員とお喋りしたり、質問攻めにしたりと、思い思いに楽しんでいた。
 しかし中には、沈んだ表情のまま何をするでもなく、ただぼんやりと座っている子供が何人か。
「宇宙とか、星とか……あんまり興味ないかな?」
 爽は、そんな子供達に積極的に声をかけていった。
(わかってる。今はまだ、そんな気分になれないって事は)
 家族を失い、自身も身体や心に傷を負った子供達。
 そんなに早く、笑える筈がない。
 楽しい気分になれる筈もない。
 それでも、声をかける。
 鬱陶しいと思われても構わない、しつこい奴だと嫌われても良い。
(和幸も桂も、最初はそうだった)
 偶然の出会いから家族になった、血の繋がらない弟達。
 今は久遠ヶ原学園に通う撃退士である彼等も、当初は口数が少なく表情に乏しかった。
 一見すると元気で何の問題もない様に見えても、ふとした事で恐慌を来す。
 炎に怯え、大きな物音に怯え……その度に、声も出さずにただ大粒の涙を零しながら、必死に縋り付いてきた。
 もう、ずっとこのままなんじゃないかと、不安になった事もある。
 この子達が普通に泣いて、笑って、将来の夢を語れるようになるには……どれだけの時間が必要なのだろう。
 でも、いつかはきっと。
 その為に出来る事といったら、こうして話相手になったり、自分が頑張っている姿を見せたり……その程度しか思い付かないけれど。

「お兄さんはね、宇宙飛行士になりたいんだ」
 爽は宇宙空間に浮かぶ青い星の写真を見せながら言った。
「宇宙から見たら、地球って本当にこんな風に見えるのかなって……小さい頃から思ってた」
 でも大きくなるにつれて、いつの間にか空を見上げる事もなくなって。
 夢は夢として、心の奥底で燻り続けてはいた。
 けれど天魔の襲撃で全てを失い、夢など追いかけている場合ではなくなった。
 兄として新しい家族を守り、養っていかなくてはならない。
 その為に、学校を辞めて働きに出た。
 夢は夢のままで終わると、そう思っていた。
 けれど――
「弟達がね、頑張れって言ってくれたんだ」
 だから、今も頑張っている。
 宇宙に一番近いこの島で、宇宙に一番近い仕事をしながら。
(そういえば、あいつらの夢は今も変わらないのかな)
 幼い頃に語っていた夢を、今も追い続けているのだろうか。
 今度会う機会があったら、訊いてみようか。
 もっとも、素直に答えてくれるかどうかは疑問だが……特に、上の和幸は。
 照れ隠しにそっぽを向いて、頬を膨らませる姿が目に浮かんだ。

 と、その時。
「涼風、ちょっと」
 仲間の職員が声をかけてきた。
 子供達に「ちょっと待ってて」と声をかけ、廊下に出る。
「あれ、見ろよ」
 言われて窓の外を見ると、そこには――
「天魔か」
 もう見慣れた存在となった、白いカマキリの姿があった。
 そこから見えるだけでも、5〜6体はいるだろうか。
 今のところ襲って来る様子はなさそうだったが、襲うつもりがあろうとなかろうと、危険な存在である事に変わりはない。
 ましてや、子供達にとっては。
「子供達は、まだ誰も気付いてないな?」
 爽の問いに、同僚は黙って頷いた。
「そのまま、窓の外に注意を向けさせないように気を惹いておいてくれ」
 言うなり、爽は玄関に向かう。
「涼風、お前どこ行くんだ!?」
「外」
 それは見ればわかる。
 同僚が言いたいのは「こんな時にわざわざ外に出てどうするのか」という事だ。
「奴等を引き離す。」
「ってお前、簡単に言うけど……!」
「大丈夫、鍛えてるから」
 爽は名前の通り、それはそれは爽やかな笑顔で答えると、施設を取り囲む雑木林の中に飛び込んで行った。
「そういう問題じゃねぇだろこの馬鹿ーーーっ!」
 という同僚の声を後に残して。



 久遠ヶ原学園、斡旋所。
「種子島宇宙センター付近にサーバントが出た」
 連絡を受けた職員が生徒達に告げる。
「施設の子供や職員は無事だ。だがセンターの職員が一人、外で囮になっているらしい」
 土地勘があり、足に自信もある様だが……しかし、一般人だ。
 本気で追われたら、そうそう逃げ切れるものではないだろう。
「急いでくれ」
 その言葉に、集まった生徒達は弾かれる様に飛び出して行った。




リプレイ本文

「桂さんのお兄さんか〜。一度だけ会ったけど、頑固そうだったな〜」
 転送装置へ急ぎながら、ハウンド(jb4974)は記憶を辿る。
「後頭部の寝癖が印象的でしたよね」
 水屋 優多(ja7279)もその時、一緒に会っていた――向こうが覚えているかどうかは、わからないけれど。
 その彼が今、敵の目を引き付けているらしい。
「素直に退いてくれるかな〜?」
「もしゴネるなら、僕が静かに一喝して差し上げますよ」
 ハウンドの言葉に、幸広 瑛理(jb7150)が穏やかな笑みと共に答える。
(どうやら俺の方が年上の様だしな)
 見た目の年齢は同じくらいだが、実年齢では瑛理の方が先輩だった。
 ここは年長者として、言うべき事はしっかり言ってやらなければ。
 退かなかったとしても、守りながら戦う事は出来るだろう。
 だが、もし万一の事でもあれば、子供達に今以上のトラウマを植え付けかねない。
「一刻も早く、涼風さんを保護する必要がありますね」
 八神 翼(jb6550)の言葉と共に、彼等は転送装置に飛び込んで行った。


 飛び出したのは、孤児院の目の前。
「カマキリが出たと聞いて!」
 会いに来――いや、退治しに来ました!
 ポーズを取る白カマキリ香奈沢 風禰(jb2286)の姿に、外の様子を伺っていた男は腰を抜かす程に驚いた。
 恐らく彼が学園に一報を入れた、爽の同僚だろう。
「敵がこんな所まで!?」
 いや、彼等は良いカマキリですから、ご心配なく。
 これは着ぐるみで、中身は人間だし。
「あの方向だね、急ごう!」
 その男に爽が向かった方角を聞いた緑カマキリ私市 琥珀(jb5268)が、そちらに向けてカマを振り上げた。
「私は空から捜索します」
 山科 珠洲(jb6166)が闇の翼で舞い上がる。
 目標はすぐに見付かった。
「良かった、まだ無事な様です」
 とは言え、疲労の色は高所からでも見てとれる。
 次の瞬間にも追い付かれ、切り刻まれてしまいそうだ。
 珠洲の手から放たれた無数の蝶が、白いカマキリの姿を覆い隠す。
 同時に、地上からは鋭い笛の音が響いた。
「ぴーぴーっぴりりりりー!(訳:こっちむきやがれー!」
 紫苑(jb8416)が吹き鳴らしたその音に、カマキリ達は足を止めて振り返る。
 そこに、優多が後方から魔法攻撃を撃ち込んだ。
「涼風さんの保護はお任せします」
 邪魔者の出現に、カマキリ達の意識は爽から離れる。
 それに応え、仲間達が間に割って入った。

「ちょっとまった、そこのカマキリ達!」
「爽くん、下がってなの!」
 白と緑、二体のカマキリがポーズを取る。
「カマキリが喋った!?」
 敵が声をかけて来たのかと驚く爽。
 でも、彼等は良いカマキリですからと、大事な事なので二度!
「君達は…撃退士か」
 そうか、途中から敵の動きが鈍った気がしていたが――
「あれは君達が透過を阻止してくれたお陰、か」
 呟いた爽のすぐ脇で、元気な声が聞こえた。
「桂さんのお兄さん、また会ったね〜!」
「君は確か…」
 弟の友人、だったか。
 その反対側からは、落ち着いた女性の声。
「涼風さん、あとは私達に任せて、安全な場所までさがってください」
「そうそう、孤児院の方へ下がってね〜! 爽さんが怪我したら俺、桂さんに怒られちゃうから〜! 宜しくね〜!」
 助かった、もう大丈夫だ。
 そう思った途端に気が緩んだのか、爽の身体がぐらりと揺れる。
 ハウンドと翼が、それを両脇から抱えた。
「怪我をしているのですか?」
 治療の出来る仲間のもとへ運ぼうと、珠洲が急降下して来る。
「いや、大丈夫」
「でしたら、孤児院の子供達に気づかれず敵達を退治する役目は私達で引き受けますので、涼風さんは用心の為、孤児院の防衛をお願いします」
「防衛? 俺、一般人だけど…」
「武器をとって戦えと言っている訳ではありませんよ」
 そう言ったのは、何やら大きな袋を抱えて来た瑛理だ。
 珠洲も頷き、言葉を継ぐ。
「孤児院の子供達に、外の状況を気づかせない工作をして頂くのも、立派な戦いだと思います」
「そういう事ですね。戦闘音が聞こえるかもしれませんから、窓を閉じて室内で大声で騒ぐような遊びをしていてくれませんか?」
 瑛理は持っていた袋を押し付ける様にして、爽に手渡した。
「子供達の心を護るのは貴方にお任せしますね」
 中身は子供達が好きそうなお菓子だ。
「お互いベストを尽くしましょうか、『爽お兄さん』」
 言われて、爽は素直に頷く。
「ありがとう。これは預かっておくから、君の手で皆に配ってくれよ」
 無事に戻って、皆と遊んで行け――という意味だ。
「では、私が護衛に付きますので」
 宙に舞い上がり視界を広く取った珠洲が、安全なルートへと誘導する。
 それを追って何体かのカマキリが動いた。
 しかし。
「ピピーッ!」
 再び響いた笛の音。
「おめーらのあいては、こっちですぜぃ」
 爽達が逃げた方向とは逆の空に舞い上がり、紫苑はミカエルの翼を投げ付けた。
 注意を惹いた所に、ハウンドが飛び出す。
「逃げた奴なんかほっといて、俺と遊んでよ!」
 走り去る爽の背中を守る様に、両腕を広げて立ち塞がった。

 さあ、ここからが本番だ。

「君達は僕ら、力のカマふぃと技のきさカマが相手になるよ! 此処に釘付けにさせてもらうからね!」
 きさカマが弓で牽制した所に、カマふぃの呪縛陣が炸裂する。
「お久しぶりなの、カマキリさん! カマふぃなの!」
 さっき二回も間違えられたし、今度こそ仲間だと認めて貰える筈だと全力アピール!
 しかしカマキリ達は恐らく言いたい事だろう、仲間だと思うなら何故、範囲攻撃に巻き込んだのかと。
 因みに撃退士は一人も巻き込まれていない。
 即ちこれ、仲間ではない証拠!
「バレたら仕方がないなの」
 今度は八卦石縛風で石化を狙う。
 続けて背後に回ったハウンドが、ありったけの力を込めて刀を振った。
 下手に弱点を攻撃しては、逃げられる危険がある。
 そこを避けて弾き飛ばすと、カマキリはスタンの効果を受けて動けなくなった。
「あはははは! 動けないって辛いよな〜?」
 更には、翼が具現化させた死神が巨大な鎌を振るう。
「さぁ、深淵の眠りにつきなさい」
 それを受けたカマキリは、次々に眠りの淵へと落ちて行った。
 波状攻撃で移動を封じられ、眠りに落とされ、行動不能に陥ったカマキリ達。

「影響を受けなかったものから、先に片付けましょう」
 優多が遠い間合いからライトニングやマジックショット、それに加えて魔法で羽根を狙っていく。
 安全性と子供達の感情を考えると、1匹たりと逃がさず全滅させたい。
 その為に、まず狙うのは逃げやすい通常型だ。
「跳躍されると涼風さんも危険ですし子供達が気付く危険性もあります」
 弓も持っては来たが、物理攻撃は命中に不安がある。
「間違って胴体に当ててしまう危険が高くなりますから…」
 少しでも命中率を上げる為に、わざわざCR低下の効果がある抗魔のドレスを着て来たのだ。その努力を自ら無にする様な事は出来なかった。
 翼も優多が狙うその同じ固体に魔法攻撃を集中させる。
「近付くのは危険ですね」
 翼のCRは攻撃には有利だが、守りには不向き。
 不用意に近付けば、一撃で致命傷になりかねなかった。
「近付かず、なるべく射程ギリギリの間合いで…」
 かつ、胴体に当てないように。
 二人がそうして弱らせた所に、きさカマが走り込んだ。
 得物を武器としても使える攻撃盾、エポドスシールドに持ち替えて突撃!
「きさカマあたーっく!」
 叩き付ける瞬間にインパクトを使い、強烈な一撃を叩き込む。
 続けて、盾ごと体当たりだ!
「きさカマじゃんぴんぐあたーっく!」

 通常型は彼等に任せ、残る仲間達は強化型に攻撃を集中させた。
 純白の身体にキラリと光る金色のライン。
 これぞカマふぃが夢にまで見た幻の――
「……見つけたなの。カマふぃの宿敵。強化型カマキリさんなの」
 静かに佇む一人と一匹。
 交わる視線は何を語るのか。
 やがて沈黙が破られた。
「いざ尋常に勝負なの!」
 マンティスサイスを振りかざし、突進するカマふぃ。
 まずは真っ正面から真っ向勝負!
 しかしその一撃は、振り上げた鎌で防がれ跳ね返される。
「こうなったら魔法連打なの!」
 吸魂符で生命力を奪い取り、更に得物を光陰護符に持ち替え魔法攻撃を叩き込んだ。
「加勢しますよ」
 背後に回り込んだ瑛理が、赤兎双戟で胴体を薙ぎ払う。
 意識を刈り取られたカマキリは、その場で凍り付いた様に動かなくなった。
「……種子島レベルギリギリで最後に出会えた事には感謝しておくなの」
 さらば。またいつか、この地に足を踏み入れるその時まで。
 トドメの一撃を叩き込み、カマふぃはくるりと背を向けた。
「カマキリ卒業、なの」

 残る一体の威嚇する様に広げた羽根を狙って、紫苑はミカエルの翼を投げ付けた。
 戻って来た時に背後から当たるように角度を調節し、連続で投げる。
 これなら敵はどこから攻撃されたのかわからず、戸惑う筈だ。
 更にその間も反撃を受けないように姿勢を低く保ち、立ち止まらずに動き続ければ、攪乱の効果はもっと上がるだろう。
 その攻撃に合わせ、瑛理が側面から攻撃を仕掛ける。
 それに気付いた紫苑は、自分の攻撃を囮にすべく、わざと敵の視界に入るように扇を投げた。
 鋭い鎌の一撃がそれを叩き落とす。
 だがそれと引き替えに、虹色の光を帯びた瑛理の槍が反対側の鎌を付け根から斬り落とした。
 身を捻り、この苦痛を与えた敵の身体を切り刻んでやろうと、無事な方の鎌を振り上げるカマキリ。
 だが――
「雷帝の名において、敵を殲滅する! 喰らえ、雷帝虚空撃!!」
 飛び込んで来た翼が強烈な雷撃を放った。
 青白い雷光に身を焼かれ、それは鎌を振り上げた形のまま力尽き倒れた。

 残るは通常型のみ。
 バステが切れる前に、素早く確実に叩く必要がある。
「さぁ! 全力で行かせてもらうぜ! だから、死にな!」
 上から狙いを付けたハウンドが、急降下から背中に痛打を叩き込んだ。
 動きを止めたところに飛び込んだ紫苑が、扇で円を描くようにその足を薙ぎ、転ばせる。
 そこに優多が煌めく氷の錐を撃ち込んで、トドメを刺した。
 動き出したものには、翼が再びの深い眠りに誘う。
「目覚めるのはまだ早い、眠りなさい」
 そのまま、永遠に。
 もう二度と目覚める事はないだろう。
 それを逃れたものは、不利を悟って逃げ出そうとする。
 だが、瑛理はその兆候を見逃さなかった。
「右端の一体が逃げます、方角は――」
 孤児院の方だ。
「逃がさないよ!」
「俺の方が早いから行かせね〜ぜ! 諦めな!」
 きさカマが全力移動で追い、ハウンドが縮地で空から先回り。
 だが、それよりも早く――
「ここは通しません」
 アサルトライフルから放たれたアウルの弾丸が、カマキリの身体を貫く。
 撃ったのは、爽を無事に送り届けて戻って来た珠洲だった。
「遅くなりました。さあ、急いで残りの敵を片付けましょう」


 暫く後。
 周辺のカマキリは、一匹残らず屍と化した。
「怪我をした人はいませんか?」
 きさカマが仲間達に声をかけるが、誰もが後を引く事もない軽い怪我で済んだ様だ。
 さてその間、カマふぃは恒例のアレを。
「やっぱり鎌のお持ち帰りはダメ、なの?」
 はい、記念撮影で我慢して下さい。
 という訳で、カマふぃは最後の記念写真を撮りまくる。
 金色ラインも眩しい鎌を撮影するのも忘れずに。
 それに、皆と一緒の写真も。
 強化型の残骸を前に、はいちーず!

「もう片付けても良いでしょうか」
 それが終わった頃を見計らい、珠洲が撃退署に連絡を入れた。
 残骸を速やかに処理して貰う為だ。
 勿論、それは普段から行われている。
 しかし今回は子供達の目に触れる事がないように、一刻も早く。
「私はここで処理班の到着を待ちますので、皆さんは先に孤児院の方にお願いします」
 報告も必要だろうし、子供達と遊ぶ事も大事な任務のひとつだ。
「処理を確認したら、私も合流しますので」
 
 その言葉に甘え、仲間達が孤児院に向かった後。
 もう一人、現場に残った者がいた。
「…おめーらのまねはしねえでさ」
 カマキリの残骸に手を触れ、紫苑は静かに語りかける。
「かみさまもてんしも、おがんだってなんにもしてやくれねぇ。おめーさんらつくったことも、おれみたいにわすれられてますぜぃ」
 骸はひんやりと冷たかった。
「…だから、おれがおぼえときまさ」
 指先で、そっと撫でる。
「おやすみなせぇ。やさしいゆめみなせえよ」


 その頃、孤児院では。
「気持ちは尊いですし、一人が囮になるのは確かに有効ですけど…」
 爽が優多に捕まっていた。
「弟さん達に怒られる事は覚悟しておかれた方が良いですよ。私達だって桂さん達に恨まれたくないですし」
 だが爽は、名前通りの爽やかな笑みを浮かべる。
「あいつらは君達を恨んだりしないよ」
 怒られるのは覚悟しておくけれど。
「弟さん達もそうですが」
 瑛理が笑って言った。
「今後は無理して同僚を困らせないであげて下さいね」
 と、お説教が終わったところで。
「爽さん、遊ぼう!」
 帽子をしっかりと被り直したハウンドが言った。
 勿論、子供達も一緒に。
「悪魔だって事は黙っといた方が多分良いよね〜…」
 と、これは独り言。

 あっという間に子供達と打ち解けたハウンドは、一緒に遊んだり、悪戯カメラで色々な面白写真を撮ってみたり。
「おもちゃだって作れるし、あ、修理も出来るかも〜」

 翼は女の子達と一緒に、あやとり等の比較的おとなしい遊びを。
 しかし中には殆ど笑わない子や、表情を動かす事さえしない子もいる。
(この子達や私と同じ境遇の子供をこれ以上増やさないために、天魔は必ず殲滅します)
 翼は心の中で、そう誓った。
 この子達が安心して暮らせる世界にするために。

「星についてご教授頂けますか?」
 瑛理は爽に話しかけてみた。
「あ、俺も聞きたい〜!」
 ハウンドが手を上げると、周りの子供達も真似して一斉に手を上げる。
「わかった。でも、少し待っててくれるかな」
 一人足りないみたいだから。
 そう言って、爽は孤児院の外に出て行った。

「たのしそうですねぃ。おれもあそびてぇなぁ…」
 ぶすくれた表情で木陰に身を隠し、遠くから孤児院を見つめている小さな影。
 その背後から――
「み〜つけた!」
 その声に、紫苑は思わず飛び上がる。
「ごめん、驚かせたかな」
 振り向くと、爽の笑顔があった。
「でも、かくれんぼは終わりだよ」
 手が差し伸べられる。
「一緒に遊ぼう、紫苑ちゃん」
 最初は怖がる子もいるかもしれない。
 嫌なら無理しなくていい。
 でも。
「堂々としてて、良いんだよ」
 君も希望の芽を守ってくれた、大事な恩人のひとりなんだから。



「ちぇきーら、なの☆」
 最後に爽や孤児院の子供達、皆で撮った記念写真。
 その隅っこに。
 爽の後ろに半分隠れるようにして、紫苑の姿も写っていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

希望の守り人・
水屋 優多(ja7279)

大学部2年5組 男 ダアト
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
桂の大切な友人・
ハウンド(jb4974)

高等部1年1組 男 阿修羅
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
迅雷纏いし怨恨・
八神 翼(jb6550)

大学部5年1組 女 ナイトウォーカー
仄日に笑む・
幸広 瑛理(jb7150)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー