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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/02/03


みんなの思い出



オープニング


「……少し遅くなったが……今年も、やるぞ」
 門木章治(jz0029)が発したその一声で、今年も不良中年会議という名の新年会が執り行われる事となった。

 昨年の会議に参加した者には説明するまでもないだろうが、会議と言っても中身はただのどんちゃん騒ぎ。
 飲み食いしながら各自で好き勝手に過ごす、ただそれだけの集まりだ。
 勿論、参加は誰でも歓迎。
 不良でなくても中年でなくても構わないと言うか、寧ろそのどちらでもない者が大多数を占めるだろう。

「……今年はもう……正月気分でも、ないか」
 この国の正月というものに関しては、昨年の会議で学習した――それが正しいかどうかはともかく。
 新年を迎える作法についても、つい先日の登山で実践してきた――それが(以下略
 遅れて来た正月気分に浸るのも良いし、普通に飲み会気分で騒ぐのも良いだろう。

「……皆が楽しく過ごせれば、それで良い……な」
 早速、会場の準備を始めるとしよう。
 去年と同じ空き教室と、調理実習室を確保して、後は――
 商店街を適当に回れば、お菓子や食材は黙っていても手に入りそうだ。
「……そういえば俺、あの商店街でまともに買い物した事ない気が……」
 経営は大丈夫なのだろうかと、少し心配になる。
 けれど、人の好意は有難く受けるのが礼儀だという事も学習した。
 お返しは……
「……皆が安心して暮らせるように、頑張る事……かな」
 頑張ってくれるのは、生徒達だが。
 自分に出来る事は、僅かばかりの改造と、こうして息抜きの場を提供する事くらいだ。

 戦いの合間に、ちょっとした息抜きを。
 参加は誰でもご自由に――




リプレイ本文

「新年会! わあ、楽しみです(*´∀`)!」
 話を聞いて、レグルス・グラウシード(ja8064)は顔を綻ばせた。
 そうと決まれば、早速お買い物。
 商店街で、お正月らしいものを買ってこよう。
「でも、日本のNewYearらしいものって、なんでしょうね(´・ω・)?」
 よくわからないから、商店街の皆さんにお任せした結果――
 会場となった教室の入口には小さな門松、教卓の上には鏡餅がセットされる事となった。
 そこに続々と集まって来る参加者達。
「…面白い趣向だねぇ☆この学校の先生はこれだから♪」
 一番乗りしたジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は、じっと入口に目を据えていた。
 目的は勿論、会場入りする女の子達の品定めだ――後でナンパする為の。
 だがしかし。
 女性参加者の殆ど全員が、見覚えのない渋イケメンの周囲に群がっているではないか。
「誰、あいつ」
 門木ですが、何か。

「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。王である!」
 不良中年会議というものはよ〜わからんが、せっかくの誘いなのである!
 よって本日は宴を楽しみに来たのである!
「王として宴は楽しまねばの〜」
 そして、この会議を制するのだ。
 その為にはまず敵の将を知るべし!(訳:主催者である先生に挨拶しなきゃ!
「しかし…もじゃ男先生は何処じゃ?」
 ハッド(jb3000)は気付かなかった。
 目の前にいるのに気付かなかった。
 彼にとっては眼鏡+もじゃ頭以外、門木とは認識されないのだ。
 逆に言えば、その条件さえ整っていれば誰でも――
「もじゃ男先生、ひさしぶりじゃ〜(>ω<)ノシ」
「…え?」
 いや、その人はたこ焼き準備中の黒井 明斗(jb0525)くん。
「ひさしぶりじゃ〜(>ω<)ノシ」
「…ん?」
 読み返していたカルタの札から顔を上げたのは、戸蔵 悠市(jb5251)さん。
 二人とも共通点は眼鏡のみ、しかも門木の野暮ったい黒縁とは全然違う、洗練された銀フレームだ。
 って言うか人違いってレベルじゃないと思うの、その間違え方。
「はて、もじゃ男先生はいずこ??」
 だから、目の前ですってば。

 わからないのも無理はない。
 本日の門木には、アレン・マルドゥーク(jb3190)の手による気合いの入った改造が施されていたのだ。
 さて、ここで少し時間を遡る。


「先生、新年会に相応しい服装など、お持ちでは…ないですよね」
 レイラ(ja0365)の問いに、門木は無言で頷いた。
 やっぱり。
 わかっていた、訊くまでもない事は。
 だから――
「どうぞ、これを」
 事前に用意していた紋付袴を差し出すレイラ。
 ところが。
「あの、これを着てほしいの…」
 華桜りりか(jb6883)も、やはり用意していたのだ――渋い深緑を基調にした着物を。
「実は、章治にぃ…せんせいと、お揃い、なの…」
 りりかは桃色を基調にした桜柄の振袖。
 門木に用意した物も、色違いの桜柄だった。
「…ありがとう」
 折角だから順番に、両方着ようか。
 どちらが先かは、じゃんけんで決める。
 勝ったのは、りりか。
「でしたら、着付けは私が」
「良ければお手伝いするの、ですよ?」
 レイラはお嬢様の嗜みとして、りりかはこの日の為にわざわざ勉強してきたらしい。
 とは言え女の子に頼むのはちょっと、ね?
 という事で、アレンさんお願いします。
 もっとも、この彼も本日は彼女にしか見えない艶やかな振袖姿である訳ですが、まあ中身はちゃんと男性ですので。
「大丈夫です〜、責任持って紋付袴の似合う渋イケメンに変身させちゃうのですよ〜」
 去年の実績もあるし、任せて安心。
「他にも着付け必要な方いらっしゃったらこちらへどうぞ〜」
「そうかい? なら、お言葉に甘えさせて貰うかな」
 ディートハルト・バイラー(jb0601)が立ち上がる。
「俺も頼む」
 ミハイル・エッカート(jb0544)も、日本の伝統行事という事で紋付袴に挑戦だ。
「俺も! 俺も是非、紋付袴で!」
 伊藤 辺木(ja9371)は始まる前から爆発していた――主に服装が。
 一人じゃ着られないというか、着てみた結果がこれだよ!
 袴の前後は逆だし、あちこちズレてるし、ハミ出してるし!
 アレンさん、直してあげてくれます?

「俺はいい。自分で出来る」
 緋山 要(jb3347)は更衣室の隅へ。
「せっかくの正月だ、楽しまないのは損だろう。お袋が何やら和服も荷物に入れていたし…えっ」
 現れたのは、何故か見事な辻が花の振袖。
 要の脳裏に過去の記憶が甦った。
 そう、彼の母親は「性別の異なる服装で育てると健康に育つ」という迷信を頑なに信じていたのだ。
 そのお陰か丈夫で健康に育ちはしたが、小学校に入るまで彼はずっと男の娘だった。
 あれはもう、過去の事だと思っていたのだが。
 しかし昔取った杵柄と言うべきか――似合っていた。
 無駄に似合っていた。
 意外に化粧映えするタイプらしい。
 そこにしっかり付け毛までセットすれば、存在感たっぷりな大柄美女の出来上がりだった。


 そして現在。
「初めて着たけど…ちょっと苦しいね」
 特に胸の辺りが、と鏑木愛梨沙(jb3903)は小さく溜息。
 クリス・クリス(ja2083)が振袖を着ると聞いて便乗させて貰ったのだが――
「でも、振袖にして良かった」
 女性の参加者は殆どが振袖姿、この中に普段着はかなり目立つだろう。
「愛梨沙お姉ちゃん、綺麗なんだよ」
「ありがと、クリスも可愛いね」
 愛梨沙は白地に淡いピンクの雪の結晶が散る振袖。
 クリスは黄色とオレンジが主体の元気な配色の中にウサギが飛び跳ねている。
「センセにも褒めて欲しいんだけどな」
 あれは絶対、自分から積極的に女の子を褒めるタイプではない。
 求められれば答えるだろうけど…例えば、こんな風に。

「あの、章治…せんせい。どう…です?」
 りりかに問われ、門木はその頭を撫でた。
「…ん、可愛い。いちごチョコ、みたいだな」
 その褒め方はどうかと思うが、りりかにとってチョコはご褒美。
「ありがとう、なの」
 実はこれ、門木に見せる為にわざわざ誂えたのだ。

 そして当の門木は髪を整え眼鏡を外し、メイクを施せば、F山M治も真っ青だ。 ※主観モード

「お雑煮、お待たせしましたー!!」
 藤咲千尋(ja8564)が大きな鍋を抱えて入って来る。
 皆が振袖で着飾っている中、普段着にエプロンという、いかにも裏方さんの格好だ。
「お雑煮って地方や家庭によって作り方違うよね。わたしの実家のお雑煮はおすましに鶏団子と野菜、それとお餅が入ってたよー!!」
 藤咲家の雑煮はかつおだしで鶏団子を煮て、グリルで餅を焼いて、野菜は短冊切り…だった筈。
「覚えてる通りに作ってみたよ!!」
 料理の腕は壊滅的ではないけれどプロ級とかでもないとの自覚がある。
 つまりはごくごく平均的。
 キャラが立たない?
 いやいや充分に立ってますよ、寧ろこれ以上立たなくて良いでs(げふ
 それはともかく。
「…お前も、着替えて来たらどうだ?」
 門木に言われたが、千尋は何も持って来ていなかった。
 しかし、こんな事もあろうかと用意させて頂きました、ピンクの撫子柄の振袖を。
「…レイラと、りりかには…着付けを、頼めるかな」
 チビ門木を出せない分の、ちょっとしたサービスみたいな。うん。

「まぁせっかくだ。新年って事だし、俺も雑煮を作ってみたぜ」
 続いて入って来たのは地堂 光(jb4992)だ。
「俺の所の雑煮はこんな感じだな。実家じゃ餅は焼かずにそのまま入れていたが、今回は焼いておいた」
 隣で作っていた千尋の鍋が、とても美味しそうに見えたから。
「味は多分、ごく一般的だと思うぞ」
 そう思っていたものが実はレアケースである事は稀によくあるが、少なくとも姉が作る実験料理よりは一般的だと言えるだろう。
 今日はここに参加したお陰で、姉の料理からは逃れられた。
(…助かったぜ)
 しかし彼は知らなかった。
 宴の最後に、世にも怖ろしい企画が待っている事を。

 会場の隅には、たこ焼きの屋台が並んでいた。
 そこで腕を競うのは四人の職人。

 本格派の明斗は、手伝いを申し出た光にして「あれは相当数こなしてやがる」と言わしめる程の腕前だった。
「この会議を利用して、タコヤキの素晴らしさを広めるのです」
 スタンダードなソースたこ焼き、塩たこ焼きをメインに、アレンジを加えた各種のタコ焼きが勢揃い。
「こちらは生地にイカ墨を混ぜた、ブラックたこ焼きになります」
 洋風が好みなら、たこ焼きにバジルソースをかけトマトを添えた、たこ焼きイタリアン。
 タコ焼きって、ソースだけだと思ってました。
「どうです、奥が深いでしょう? 存分に食べて下さいね」

 隣のゼロ=シュバイツァー(jb7501)も、腕前は確かだった。
「プロ級のタコ焼き作り、魅せたるわ! 伊達に関西弁は使ってへんで!」
 粉モンと言えば関西、タコ焼きイカ焼きお好み焼き。
 しかし今日はタコ焼き一筋。
「プロの技、盗みたいんやったらこっち来て見とけや!」
 光を手招きしてみる。
 どうやら指導もしてくれる様だ。
「なら手伝わせて貰うか。その技術、盗んでやるぜ!」
 料理のレパートリーを増やそうと、光は気合いを入れて腕まくり。

 Unknown(jb7615)は、何事にも形から入る男だった。
 上着を勢いよく脱ぎ捨て、エプロンを装着、後ろで髪を結って――あれ、髪がある?
 そうか、今は擬態中なんですね。
 という訳で、いざぁ!
 だが、彼のタコ焼き道は始まったばかり。
 今回は過酷な修行の成果、いや途中経過を見る為のぷち腕試しだ。
 とは言え意外と手際よく効率的に焼いていく。
 出来映えにも異常はない。寧ろ非常に美味しそうだ。
 隠し味が美味しさの決め手だよ☆

 そして一番端はシグリッド=リンドベリ (jb5318)のフルーツたこ焼き――いや、たこ焼き用の鉄板で作った一口サイズのホットケーキだ。
 中身はバナナやチョコやカスタード。そこに生クリームやいちご等のフルーツを添えれば、立派なデザートになる。
「甘いのは別腹ですよねー」
 うっかり手が滑って隣のたこ焼きにもフルーツがINしちゃったけど、気にしない!

 カーディス=キャットフィールド(ja7927)は、もこもこ冬毛仕様の黒猫姿にタキシードという出で立ちで現れた。
 その手に捧げ持つのは、手作りの猫型ケーキだ。
 黒猫はチョコレートケーキ、白猫はショートケーキ、チーズケーキは三毛猫風にアレンジを施してある。
「可愛い上に美味しいので二度お得なのですよ☆」
 しかし可愛すぎて食べるのが勿体ないという問題はどうすれば。
「美味しく食べていただく事が、ケーキの幸せなのです」
 こくり、黒猫さんは頷いた。

「門木先生主催の新年会ですか、お世話になった方も多く参加するでしょうし楽しみですね」
 濡羽色に渋く染め上げた振袖姿のユウ(jb5639)は、大皿に山盛りの煮物を運んで来る。
「お酒を飲まれる方が多いという事で、煮物を多めに作って来ました」
 具材はタケノコ、蓮根、牛蒡、椎茸、人参、さやえんどう、呑兵衛には少し濃いめの味付けが良いだろう。
 腕はプロ級とは言えないが、上手な方だという自信はあった。

「よ〜わからんが、我輩はすし、てんぷら、フルーツもりを用意してきたのじゃぞ〜(>ω<)b」
 ハッドが大量の出前を運び込む。
 並べ終わると、上から皆の様子を撮影する為デジカメを持ってふわりと浮き上がった。
 因みに支払いは全て門木のツケだが、問題はない。
 全部持つって自分で言ったんだから、どうぞ遠慮なく!

「遅ればせの新年会か」
 藤堂 猛流(jb7225)はウイスキーをダース単位で運び込んだ。
(門木先生には色々と「お世話」になったし、参加することで恩返ししようかな)
 お世話の中身は…知らない方が良いのかな、うん。

「今日はあったかいお部屋でのんびりできるんですね!」
 レグルスくん、先日の遭難がちょっとトラウマになったらしい。
 そんな彼が音頭を取って、乾杯!
「新年会だー! 自営業時代はあんま無かったイベントだし、楽しくいくぜー!」
 辺木が早速盛り上げて、無礼講の始まりだ。


「ケーキの最初の一口は門木先生へどうぞなのですよ〜」
 黒猫さんに言われて、門木は悩む。
「どれを切り分けます? それとも全部にします〜?」
 悩んでいる隙に、背後からじりじりと忍び寄る白い影。
 その手には猫耳が握られていた。
「初夢はすごく良い夢だった気がするのです…」
 夢よ、再び。
「…キュピーン☆今なのです!」
 その瞬間、黒猫さんが印を切った。
「忍法! 黒猫にゃんにゃんの術☆にゃん!」
 説明しよう! これは門木に黒猫の猫耳&尻尾をつけてしまう忍法なのである!
「ソーイ」
 かぽーん!
 門木の耳に、黒猫の耳が生えた!
 いや、背後からシグリッドが猫耳を嵌めただけなんだけど。
「しっぽも…えいっ」
 少し遅れて尻尾も生えた!
 いや、これも背後から(ry
「いい仕事したのです☆(*´∀`*)」
「やっぱり似合いますね、先生」
「…にゃ?」
 そう言われると、ついノリで語尾を変化させてしまう中年天使、ただし渋イケメンなう。

 しかし、ここで――
「ピピーッ」
 警告の笛が鳴った!
 瞬間、水を打った様に静まりかえる場内。
 音の発生源は――パンダこと下妻笹緒(ja0544)だ。
 彼は真っ当かつ真剣に、この不良中年会議に参加していた。
「この私の目の周りが黒い内は、不良中年っぽくない行いは容赦はしない」
 よって、今からこの会議にはパンダルールが適用される!
「不良中年が正月に食べるものといったらやはり餅だ。餅しかない」
 餅を食べているものには10不良中年ポイントを与えよう。
 カップラーメンなどのインスタント食品や、何か単純かつコンビニで買ったような品も正月に相応しいとは言い難い。
 しかし、その怠惰さがまさしく不良中年。故に5ポイントだ。
「だが、小洒落た料理を食べている者には容赦なくホイッスルを吹き、ファウルを取らなければならない」
 今の笛は、そういう事。
 だからといって特にペナルティがある訳でもないし、逆にポイントを稼いでも良い事はない、っぽい。
 つまり、スルー推奨?

(新年会? 何それおいしいの?)
 そんな疑問を心の中で問いかけた愛梨沙には、はっきりとこう答えよう。
 新年会、美味しいよ!
 千尋の雑煮は門木の舌に合った様だ。
「ほんと、美味しい」
 勧められて口をつけた愛梨沙にも好評な様子。
 とは言うものの実は彼女、まだ人界の食べ物に関する好き嫌いが定まっていなかった。
 この分だと門木に影響されて、そっくり同じ味覚になりそうな気がする。

「どうぞ、です」
 りりかが別の料理を小皿に取り分けてくれた。
 ついでに新年のご挨拶を。
「おそくなったけど、あめましておめでとうございます…です?」
「…うん、おめでとう…だ」
 とっくに時期は過ぎているが、こうして着飾って集まり正月料理を囲んでいると、やっぱりおめでたい気分になるものだ。
 そこに、今度はユウが自慢の煮物を取り分けてくれる。
「明けましておめでとう御座います」
 彼女はお世話になった方々への挨拶回りをしつつ、給仕をして回っている最中の様だ。
「今年もよろしくお願い致します」
 いや、ご丁寧にどうも。
 寧ろ門木の方が一方的にお世話になっている気が、しないでもないのだが。
「門木先生、はい、あーん?」
 次は待ち構えていたシグリッドが、一口ケーキを「あーん」で食べさせてくれた。
「…お返し、だ」
 門木からは、たこ焼きをぽいっと。
 勿論、レイラだって負けてはいない。
(こういう催しは初めてですけれど門木先生と楽しめればそれで…)
 華やかな茜色の振袖姿で、いつもの様に甲斐甲斐しく。
 しかし、何だか様子がおかしい。
 少しほろ酔い気分?
 だがレイラは未成年だし、呑んだとしても撃退士は酔わない。
「もう少しで一緒にお酒が飲めるようになりますのに」
 ならば場酔いか。
「いいえ、その…門木先生に酔って…(////」
 門木酔いか。
 それは何と言うか…重症デスネ。
「センセ、楽しい? あたしはセンセが居るから楽しいな♪」
 反対側からは、愛梨沙が体を寄せて来る。
 楽しいけれど、ちょっと困る、様な…?

 そんな賑やかな様子を、ディートハルトは一人手酌で酒を呑みながら、遠くから優しく見守っていた。
 そんな所にいないで、こっちに来れば良いのに。
 だが彼は動こうとしなかった。
「折角の楽しい時間だ、邪魔をしちゃあ悪いだろう?」
 君は随分モテるから、と悪戯っぽく笑う。
 本人には相変わらず自覚はない様だが、確かにモテモテだ。
 これでは少し押しの弱い者など輪の中に入れないだろう――今も部屋の隅で様子を伺っている、セリェ・メイア(jb2687)の様に。
(人がいっぱい…)
 気が付いたら流れで参加していた彼女は、まずは礼儀として主催者に挨拶しなければと、その機会を伺っていた。
 しかし黙って待っていても、その機会は訪れそうもない。
 それに気付いたディートハルトが腰を上げた。
「やはり酒の相手は欲しいものだね。失礼、ちょっと借りるよ」
 人垣の中から門木を引っ張り出す。
 その機を捉えて、セリェは飛び出した。
「えっと…その、せ、先生」
 意を決して、ご挨拶。
「あけまして…おめでとう、ございます」
 ぺこり、そして返事も聞かずに猛ダッシュで部屋の隅へ逃げる!
 それを呆然と見送った門木はしかし、追いかけた。
「…せっかく、だし。向こうで…呑まないか?」
「ぁ、わわ、あぅ、ぁ、ぅ」
 だが、セリェは涙目でキョドる。
 思いっきりキョドる。
「…ぁ、すまん」
 別にナンパとか、そういう事じゃなくて。
 ただ、壁の花じゃ折角の振袖姿が勿体ないかな、と。
 だが今はそっとしておいてやれと、ディートハルトは目で合図を送る。
(然しまあ、代わり映えしないように見えるこの景色も随分と変わったものだ)
「そういえば…Mrカドキは、名前で呼ばれるのは嫌いか?」
 戻った門木にディートハルトが訊ねた。
「この前、君が俺の名前を呼んでくれたのが嬉しくてね。君さえ良ければ、俺も君をショウジと呼びたい。
 もし許してくれるなら…とても嬉しいよ」
「…ん、構わない…ディート」
「ありがとう、ショウジ」
 何だろう、このらぶらぶ感。

「お、可愛い子はっけ…男かΣ」
 ゼロの屋台の前に陣取ったジェラルドは、たこ焼きを肴に呑みながらダベり、ついでにナンパ。
 店主であるゼロも、一通り作り終わった後は店を畳んでタコ焼きをアテに呑み放題だ。
 なぜか?
「俺はタコ焼きを作りに来たんやない! この世の酒を飲み干しに来たんや!!」
 ここ重要。最重要。
「兄弟も酒持ってきてくれてるしな!」
 兄弟とは猛流の事だ。
「おっさけおっさけ〜♪ さ、みんな飲もか? アンノもカーさんも、こっち来て飲めや!」
 Unknownは呑まれやすく一舐めでぽわぽわ状態だが、楽しいから飲む。
 天魔もアルコールの影響は受けないが、雰囲気や気分で酔う事はあるのだ。
 カーディスにくっついてきた未成年、シグリッドはその様子を見て一言。
「お酒って美味しいです?」
「美味いでぇ、なあジェラやん!」
「そうだね、美女が注いでくれる酒なら尚美味い」
 へぇ、そうなんだ?
「早く僕も大人になってお酒飲んでみたいなぁ…」
 飲んでも良いけど、お手本は選ぼうね。

 明斗の屋台前には、天羽 伊都(jb2199)が貼り付いていた。
 脇目もふらずに、ひたすら飲み食いに精を出す。
 その食べっぷりに、明斗の顔も思わず綻んだ。
「食べた人が笑顔になってくれるのが嬉しいですよね」
 では、今こそ更なる奥行きを示す一品を提供しよう。
「たこ焼きグラタンです、食べてみて下さい」
 それはマカロニの代わりにたこ焼きを入れたグラタン、チーズではなくマヨネーズで焼いてあった。
「うん、美味しいです! 何と言うか、すごく斬新で!」
「はい〜、とても美味しいのです〜」
 もう一人の客、アレンにも好評な様だ。
「リクエストも良いですよ」
「ではお言葉に甘えて〜納豆入りとかあるでしょうかー」
 アレンは納豆大好き。
「もんじゃ屋さんでも納豆入りをよく頼むのですー」
 でも好き嫌いはないから、何でも美味しくいただけるよ!
「この赤い液体なんでしょうー美味しそうなのですー」
 ハバネロエキスを酒にどばーっと。
「ピリッとして美味しいですね〜」
 味覚、崩壊してませんか?

 ゼロの元での修行を終えた光も、今度は自分が食べる側だ。
「今のうちに食い溜めだ!」
 と、その前に。
(華桜は大きな戦いで一緒した事がある)
 挨拶くらいはしておこうか。
「あ、光さん」
「今年もよろしくな」
「はい、よろしくお願いします、なの」
 取り分けた料理を差し出しつつ、りりかも挨拶を返す。
「よし、食うぞ!」
 後はひたすら、食べる物がなくなるまで!


 やがて食事も一段落したところで、次は余興のお時間。
「カルタ取りをやるぞ」
 ミハイルの宣言に、辺木が頭を抱えた。
「百人一首なんて覚えてるわけねぇ! 蝉丸押し付けるやつだっけ?」
「それは坊主めくりだろう」
 答えたのは要だ。
 百人一首なら多少は覚えている。
(狙い目は一字決まりと大山札、あと菅公といったところか)
 だがしかし。
「いや、普通のカルタだ」
 ミハイルも外人さんだから、百人一首なんて知らないし。
「普通のカルタならいける!」
「だが、やり方は普通じゃないぞ。手段を問わず戦う仁義無きカルタ取りだ」
「何でもOKのバトルカルタ? 参加するー」
 はいっとクリスが勢いよく挙手。
「折角だから皆でワイワイできる遊びがいいよね。そうだ、罰ゲーム有りだと盛り上がると思うの」
 という訳で、たこ焼き屋さん出番です。
「最下位賞の『ロシアンたこ焼き』をお願いしまーす!」
 何が入るかは食べてのお楽しみ♪
「 え え ん や な ? 」
 ニヤリ、ゼロがそれはそれは悪い笑顔を返す。
 ええ、存分にどうぞ。

「章治せんせいも一緒に遊ぶの、です」
 りりかに誘われ、門木も輪の中に。
「おう、先生は妙な発明品使ってもいいぞ」
 などと急に言われても用意できないが、りりかがサポートに入るし、守護神レイラもいる。
「大勢で遊ぶのはそれだけで楽しいです…!」
 シグリッドも応援してくれるし。
 約一名「カルタって、何?」という見学者がいるけれど、応援もしてくれるよね?
 参加者はクリス、辺木、ミハイル、アレン、要、ユウ、そして門木の7人。
 読み手は悠市だ。
「折角だから久遠ヶ原かるたでやってみるか」
 勿論、あの畳半分の巨大カルタではない。
 室内用のコンパクトサイズだ。
「危険行為やそれに繋がるものはストレイシオンに静止させるぞ」
 淡々と、悠市が注意事項を述べる。
「まさか【ピンポイントブレイク】で潜行や飛行を解除したり、【防御効果】や【マスターガード】あまつさえ【ヒーリングブレス】が必要な事態にはなるまい」
 なるまい、な?
「「はい!」」
 よろしい、では――
「このバーリトゥード・カルタを制し罰ゲームを回避するのはこの俺だ!」
「辺木、手加減はしないぞ」
「ヒリュウ召還し視覚共有で供に戦うのですー」
「勝っても負けても恨みっこなしだな…人数多いし」
「全力で優勝を目指します、ただしフェアプレーで」
「張り切って振袖着たけど、カルタ取りは袖が邪魔…」
 こういう時は、たすきがけにすれば良いんだっけ?」
「あれ? あれれ? 絡んだー門木せんせ助けてー」
 しかし助けを求めた相手が悪かった。
「って、もっと状況が悪くなったよー」
 これはもしかして、お子様には教えられないあの縛りか。
 門木、そんな趣味があったのか。 ※偶然の産物です
「大丈夫、です?」
 良かった。りりかが解いて、たすきがけもやってくれたよ。

 では、試合開始!
『く――』
 読み手の悠市が最初の文字を読み上げた途端、ミハイルが動いた。
 先手必勝!
「はい! 俺のもんだ!」
 どすっ!
 抜刀・翔刃を投げ付けた!
 しかし。
「札を傷つけるとは、言語道断! バケツと一緒に廊下だ!」
「ええっ!?」
 だが抗議は受け付けない。
 今回、読み手は審判を兼ねていた。
「ゲームにおける審判は神!」
 はい、5ターン廊下ね。
 それともピーマン焼き食べる?
「廊下で」
 即答だった。

「みんな存分にはっちゃけるといいよ」
 今日の千尋は見てるだけ。
 皆が楽しめる様に、サポート役に徹するのだ。
 勿論、料理は美味しく頂くけれど…ロシアンたこ焼き以外は。

 ミハイルの復帰後、辺木は一枚の札も取れずにいた。
 手を伸ばす度に蹴り飛ばされたり、刀を突き付けられたり!
 そのくせ女性には甘く、クリスには超甘いってどういう事!?
 やっぱり親子だから仕方ないのか! ※違います
 しかしこのままではロシアンたこ焼きの餌食に!
 インフィルの真骨頂は射程距離だが、マジックハンドの類は当たると痛い。
(何か怪我の心配がないもの…たこ焼き…タコ…吸盤…)
 そうだ、タコ足の吸盤で代用しよう。
 この際生きてるタコも連れてくる!
 という訳で、タコを腕に絡めてイザ勝負!
「これなら当たってもヌメるだけだ!  吸い込め、カルタコ!!」
 ぶしゅーーーっ!
「違う、逆だ!」
 墨吐いてどうする!
「はい廊下→」

 パンダはゴロゴロしていた。
 不良中年たるもの正月はゴロゴロしているだけなので、遊ばない。
 元気良く遊んでいるのはもはや不良中年ではない。
 なので、カルタに興じる者達には警告の笛を吹く必要があるのだが。
 もはや眠い。
 きっとこれは餅の食べ過ぎだ。

「ヒリュウが取った札は私のもの、私が取った札も私のものなのですー」
 アレンは順調に手札を増やしていた。
 クリスは焦る。
 このままでは負けてしまうと。
(こうなったら…!)
 トワイライトで目くらまし&懐に忍ばせたブロマイドを取り札とすり替えてしまえ。
(ボクはリーチ短くて不利なんだから、これくらい良いよね!)
 しかし、それでもまだ班では埋まらない。
 せめて目の前にある札くらいは――と思ったのに、ここにも誰かの手が!
「おっと、死にたくなければそれ以上動…いや、何でもない」
 クリスが狙う札を取ろうとした「誰か」の喉元に、ミハイルが抜刀を突き付けようとして…慌てて引っ込めた。
「すまん、クリス」
 でも、わかるだろう?
「相手が先生じゃ…俺はあいつに勝てる自信がない」
 あいつとは勿論、門木の背後で目を光らせる阿修羅のお嬢さんの事だ。

(楽しそう…)
 皆が子供の様にはしゃぐ姿を、セリェは微笑ましげに眺める。
(ここはこんなにも平和なんだ)
 一緒に騒ぐよりも、見ている方が好きだった。
 セリェはそっと、会場の隅に花を飾る。
(いつかは枯れるけど…今はその命、楽しい空気の為に、咲かせてね…)

 そしてカルタ取りは終盤に差し掛かっていた。
『べ――』
『れ――』
『きょ――』
『ろ――』
 何だろう、ここに来てくず鉄やら強化失敗やらロスト率やらの札が連続で読まれるのは…わざと、ではないと思うが。
「…門木先生、仕方ないことですから無表情で落ち込まないでください…」
 わかってる。
 それに落ち込んでいる場合ではない。
 こうしている間にも、要とユウは堅実かつ着実に札を取っているのだ。
(ここは、あたしが…!)
 りりかは忍法「魔笑」をこっそり使って強敵を妨害、しかし――!

「さて、そろそろ戦いも終わる頃か」
 猛流はウイスキーを片手に鍋の準備を進めていた。
 雑煮やら何やらは殆ど食べ尽くされてしまったが、戦いが終わればまた腹も空くだろう。
「口直しの意味もあるしな」
 何のって、それは勿論――

 丁度その時、カルタ会場では辺木が爆発していた。
 そう、罰ゲームのロシアンたこ焼きによって。

 しかし、たこ焼きは当たりからハズレまで、まだまだ沢山用意してある。
 それを活用しないのは勿体ないし、折角だから皆でロシアンしようぜ!
 そして辺りは忽ち阿鼻叫喚。
 ハズレのたこ焼きには悪魔印の濃縮激辛液や致死量の激甘液、そして各自の嫌いな物が入っているのは勿論、当たりもUnknown作の隠し味に隠しきれない量のサドンデスソースを使ったデスたこ焼き。
 つまり、どれを食べてもアウトなのだ。
 当りが一つだといつから錯覚して略。
「では感想を…どったの貴様ら」
 無邪気に感想を求めるUnknownに悪気はない。
 味が解らぬ故に、純粋に感想が聞きたいだけなのだ。
 因みに無事だったのは不参加の面々と、アレン、悠市、猛流の三人のみだったという――


「教諭の周囲は、いつもこんななのか?」
 漸くダメージから回復した要が門木に尋ねるが、答えは勿論イエスだ。
「そうか…案外楽しいものだな」
 楽しんで貰えたのなら、幸い。

 後はのんびり食べて、飲んで…ゆったりと。


 片付けが始まった頃、今度はジェラルドが声をかけてきた。
「お疲れ様です♪ お陰様で、何とか生き残っていますよ☆」
 ナンパではない。
 普段はあまり話す事もないが、その分、機会がある時にきちんとお礼と気持ちを伝えておきたいと考えたのだ。
「…貴方の仕事は、確実に生徒たちを助けている。その魂は、ともに戦場に立っている」
「…そう、か。ありがとう」
「…おっと、まじめなこと言っちゃった☆ これからも宜しく頼みますよ☆」
 た・だ・し。
「あ、武器ロストは勘弁な☆」

 ところで――
「門木先生、日本には素敵な習慣があるんですよ」
 レグルスがやけに嬉しそうな顔で話しかけて来たと思ったら。
「日本では、おとなはこどもに『オトシダマ』っていうお金を上げるんですって(・∀・)!」
 それ、去年お兄ちゃんも言ってたよね。
 でも今年は無理、食費で全部飛んじゃったから。
 どうしてもと言うなら、たこ焼きでも良いかな。
 ほら、丸くて玉っぽいし。
 だめ?

「では最後に、皆で記念写真も撮りましょう〜」
 アレンの掛け声で、皆が集まって来る。
 また来年も、楽しい時間を――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:16人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
しあわせの立役者・
伊藤 辺木(ja9371)

高等部2年1組 男 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
恋愛道場入門・
セリェ・メイア(jb2687)

大学部6年198組 女 ダアト
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
守護心誓の光騎士・
緋山 要(jb3347)

卒業 男 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
道を拓き、譲らぬ・
地堂 光(jb4992)

大学部2年4組 男 ディバインナイト
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
最高のタフガイ・
藤堂 猛流(jb7225)

大学部6年247組 男 バハムートテイマー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー