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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/01/30


みんなの思い出



オープニング


「少し、お伺いしたいのですが……」
 わざわざ久遠ヶ原学園の斡旋所を訪ねた男は言った。
「ディアボロにされた人間は……もう、生き返る事はないのですか?」
「はい」
 職員は簡潔に答える。
 恐らくこの男は、親しい誰かをディアボロにされてしまったのだろう。
 下手に希望を与える言い回しをするよりも、ここは事実だけを伝えた方が良い。
「そう、ですか」
 男は頷いた。
 その顔に大きな失望や悲しみの色はない。
 既に知っていた事実を改めて確認し、納得した――そんなところだろう。
 男は礼を言って立ち去ろうとした。
 が、その足は出口を向いているのに、身体は何か未練を残す様に、動き出す事を渋っていた。
 足を床に釘付けにしたまま、上半身だけで行ったり来たりを繰り返す。
「あの」
 やがて意を決した様に、再び職員に向き直った。
「人間だった時の、記憶も人格も……何も残っていないというのも、本当ですか?」
「はい」
「話す事も出来ない、話しかけても何もわからないというのも……?」
「はい」
 今度も、男は「やっぱり」と言う様に首を項垂れた。
 それで気が済んだのだろう、男は今度こそ、踵を返して出口へ向かおうとした。
 しかし。
「お待ち下さい」
 職員は男を呼び止めた。
 生き返らないのかと問うのは、生き返って欲しいから。
 記憶がないのかと問うのは、覚えていて欲しいから。
 話せないのかと問うのは、話がしたいから。
「もし、よろしければ……詳しいお話を、お聞かせ頂けませんか?」
 わざわざ足を運ぶというのは、何か余程の事情があっての事だろう。
「何か、お役に立てるかもしれません」
 生き返らせる事も、思い出させる事も出来ないけれど。
 気が済むまで付き合う事は出来る。
「天魔を退治する事だけが、撃退士の仕事ではありませんから」


「大した事では、ないのです」
 きっと、よくある話だ。
 そう前置きして、男は話し始めた。

 それは去年の暮れ。
 男の元に、一人のくたびれた老人が訪ねて来た。
 それはもう何十年も前に、借金だけを残して家を出て行った父親。
「家にいた頃も、仕事もしないで昼間から酒ばかり呑んで……本当に、ろくでもない奴でした」
 優しくして貰った記憶はない。
 それどころか、男も母親も生傷が絶えなかった。
 出て行ったと知った時は、心の底から嬉しいと感じた。
「その借金も漸く返し終わって、これで本当に縁を切る事が出来ると、そう思っていた矢先でした」
 元の家はとっくに引き払った。
 勿論、新しい住所は知らせていない。
「なのに、どうやって調べたのか……とにかく、訪ねて来たんですよ。私達の事も、よく知っていて……」
 借金が全て片付いた事も、母親が健在である事も、男が結婚して孫が生まれた事も、その子がもうすぐ五歳になる事も。
 聞けば、彼は病院を抜け出して来たらしい。
「余命僅かだと、言っていました」
 だから、せめて最後の日々を家族と共に過ごしたいと。
 それが無理なら、最期の瞬間だけでも良いから一緒にいてくれないかと。
「冗談じゃないって思いますよね。今まで散々好き勝手して、迷惑かけて、勝手に病気になって……ふざけるなって」
 だから追い返した。
 僅かばかりの金を握らせて。
「その数日後の事でした。近所の川原で野宿していた老人が……化け物になったと、噂で」
 父親だと思った。
 病院にも戻らず、かといって息子の所へも戻れず、川原で夜を明かして――恐らくは、凍死。
 その遺体を悪魔に利用されたのだろう。
「確かめた訳ではありません。でも、それが本当に……あの人、なら」
 今でも父親は嫌いだ。大嫌いだ。
 憎んでいると言っても良い。
 けれど、死んで欲しいとまでは……多分、思っていなかった。


「それで、あなたは……どうしたいのですか?」
 職員に問われ、男は視線を宙に彷徨わせた。
「どう、したいんだろう」
 謝りたいのか。
 ぶん殴りたいのか。
 ただ、もう一度顔が見たいだけなのか。
「わかりません。けれど……会えるものなら、会いたいと……思います」
 その「化け物になった」という老人が本当に父親なのか、確証はない。
 人違いかもしれないし、本人は何処かでひっそりと生きて……或いは死んでいるのかもしれない。
 せめて、確かめたかった。

 わかりましたと、職員は頷く。
「出来る限りの事は、してみましょう」
 その言葉に、男は深々と頭を下げた。



リプレイ本文

●斡旋所
「俺だったら、そんな親父訪ねて来た時点で叩き出すけどな!」
 杜七五三太(ja0107)がそう言ったのも頷ける。
 聞けば聞くほど、その父親はロクでもない人間に思えた。
「…けどまあ、依頼人のおっさんも迷ってるってことは、恨み以外の感情もあるんじゃねーかな。本人は気付いてないかも知れないけどさ」
「複雑な心境だろうが…心の整理がつかないんだろうね」
 リチャード エドワーズ(ja0951)が呟く。
 出来る事なら、心の決着をつけさせたい――前に進む為に。
「でも、それが本物かどうかは、まだわかんないんだよな?」
 戦いの前に確かめる事は出来ないだろうかと、七五三太。
 しかし、まだ被害が出ていないとは言え、ディアボロを野放しにしておく訳にはいかない。
「退治が先やね」
 少し迷った末に、志摩 睦(jb8138)が言った。
「そやけど、倒す前に話させてやりたいとは、思ぅてる」
 本物かどうか分からなくても。
「気持ちの問題であるなら、それが確かに本物である必要はない様に思えるね」
 リチャードが言った。
 大切なのは、想いをきちんと形にする事。
「勿論、確実に届ける事が出来れば、それが一番なんだろうけど」
 その言葉を聞いて、藤咲千尋(ja8564)が頷く。
「届かなくても届けたい、彼のその想いは叶えたいな」
 思い出すのは、少し前の苦い経験。
 あの時は何も伝えられなかったけれど――


●河川敷
 一般人の立ち入りが禁止されたその場所に、鬼はいた。
 のそのそと歩き回り、時々思い出した様に棍棒を振り回してはいるが、獲物を求めて積極的に移動する気配はなかった。
 一見、さほど危険はなさそうに思えるが。
「ご存知と思いますが相手は危険なディアボロです」
 田口と名乗った依頼人に、護衛役の千尋が言った。
「なので勝手に敵に近づいたり飛び出したりしないでくださいね」
「あんたの無事も仕事の内なんでな」
 御琴 涼(ja0301)が、その肩を軽く叩く。
「無視して突っ走るってんなら、そんときゃ力づくでも止めんぜ?」
 じっと目を見据えられ、田口は生唾を呑み込みつつ、素直に頷いた。
「ま、それ以外ぁ…好きにやんな。全力で、護ってやんよ」
 涼はニィっと白い歯を見せる。
「邪魔ぁさせねぇからよ」
(…最後ぐれぇ、やりてぇようにやらせてやりてぇし、な)
「それと…田口さん」
 少し言いにくそうに、千尋が切り出す。
「最終的に敵は全て討伐します。例えそれが、お父さんであっても…」
「わかってる。もう、助からないって事は…理解してるから」
 しかし頭では理解していても、心が納得しない事はままあるものだ。
 そうした場合、本人が自覚しないまま体が勝手に動く事もあるだろう。
 千尋は一見するとただのお札にしか見えない心霊護符を取り出した。
 それを彼の首筋に当てて、練り上げたアウルを撃ち込む。
「…おまじないです。想いを届けられますように」
 それは彼の動きを把握する為のマーキング弾だが、「おまじない」だと素直に信じてくれたのは、怖がらせない為に使った護符のせいだろうか。
「ありがとう、何だか勇気が出て来た気がするよ」
 そう言われると、少々心が痛まないでもない。
 けれど、願う気持ちは嘘ではないから…きっと許して貰えるだろう。

「まずは犬を片付けるよ」
 ソーニャ(jb2649)が光を纏い、飛び出した。
 鬼だけを最後に残す。
 それから、ゆっくりと話をしてもらおう。
「いいか、絶対に近付くなよ」
 牙撃鉄鳴(jb5667)が厳しい口調で念を押し、七五三太、リチャード、睦がそれに続いた。
 彼等の接近に気付いた犬達が群れをなして襲いかかって来る。
 半数は右に、残りは左、リーダーと思しき大きな個体は真ん中から。
「騎士様、向こうが優勢っぽく見えるように、防戦気味に時間を稼いでくれますか?」
 味方の優位を感じている間は、鬼が逃げ出す事もないだろう。
「了解した」
 ソーニャの言葉に、リチャードは真ん中のボス犬に向けてタウントを放った。
 その注目を自分に向ければ、残る犬達も自然とそれに従う筈だ。
 案の定、犬達は団子の様に固まって、リチャード目掛けて押し寄せて来た。
 その攻撃を受け止めつつ、リチャードはじりじりと後退する。
 劣勢に見せかける為でもあるが、同時に鬼との距離を離す策でもあった。
 その間に他の仲間が壁を作り、囲い込んだ所で睦がファイアワークスを撃ち込んだ。
「吠えんなや。花火みたいに綺麗には散らさんで」
 そこから逃れた犬には、専門知識で能力を底上げした鉄鳴が蒼い光を宿した散弾を浴びせる。
 と、そこに棍棒を振り回しながら鬼が近付いて来た。
「こいつは俺が止める!」
 飛び出したのは七五三太だ。
 体格的には大人と子供、いや横幅も考慮に入れれば巨人と小人ほどの差があるが――
「デカけりゃ良いってもんじゃねーぞ、こんちくしょー!」
 ベルフェゴルの鉄槌を振り上げ、足元を狙う。
 CRの影響でダメージは通りにくいが、今はそれで丁度良い。
「田口のおっさんに会わせる前に、くたばってもらっちゃ困るからな!」
 負け惜しみじゃない。負け惜しみじゃないぞ!
 とは言え、頭上から振り下ろされる棍棒の重たい攻撃を受け続けるだけで精一杯。
「杜さん、無茶せんと下がっといてや。怪我せぇへんで、ね…?」
 ポジションを代わろうと睦が声をかけるが、七五三太は頑なに首を振った。
「ぜっっってーーー退かなねーーーっっっ!!」
 今のうちに、早く犬を!
「わかった、任せる…けど、援護が必要ならいつでも言うてや?」
「おうっ!」
 睦は残りのファイアワークスを犬達に撃ち込むと、各個撃破に移った。
 突破を防ぎながら一撃離脱を繰り返す。
 一方、リチャードは包囲を解かない様に、また逆に包囲されない様に少しずつ場所を移動しながら、敵の目を惹き続けた。
 しかしタウントが切れた途端――ボス犬がその注意を後方に向ける。
 その目には、一般人の方が良い獲物に見えるのだろう。
 ボスが一声吠えると、二頭の犬がリチャードを目掛けて飛び掛かって来た。
 一頭を武器で受けて逸らし、その体を盾代わりにもう一頭の攻撃を阻んだ――までは良かったのだが。
 その隙にボスはリチャードの頭上を飛び越えて、包囲網を抜けた。
 そのまま一直線に、後方へ――

「すまない、誰かそいつを頼むよ!」
 リチャードの声に応え、走るボスの背後から鉄鳴がショットガンの連射を見舞う。
 だが、それは何発喰らっても構わずに走り続けた。
「近付くんじゃねぇよ」
 迫るボスに涼が銃で牽制、しかしその足は止まらなかった。
「しゃぁねぇな…足ぁなんとか止めてやんよ。後ぁ頼むぜ、藤咲?」
「大丈夫、任せて!」
 涼がブレイジングソウルの連射で動きを制限した所に、千尋がイチイバルの弦を引く。
「これ以上は、近付けさせない!」
 淡いオレンジ色の光を纏った矢が、ボスの眉間に吸い込まれた。
 ギャンと一声上げて、それは地面に転がる。
 それでも再び立ち上がった犬の目は、最後尾で立ち竦む田口に据えられていた。
「結構しぶといねぇ」
 その目を、涼は強引に自分に向けさせる。
「これでもディバインナイトだぜ?」
 一撃くらいは止めて見せる。だが、それで充分だ。
「俺ぁ、一人じゃねぇ、かんな。…頼りにしてんぜ?」
 頼りの相棒は、敵にその一撃を加える暇さえ与えなかった。
 千尋が放った二撃目の矢がその体を貫き、ボスは完全に動きを止める。
 司令塔を失った他の犬達は烏合の衆と化した。
 連携もとらず闇雲に襲いかかるそれは、もはや撃退士達の敵ではない。
 瞬く間に蹴散らされ、残るは鬼のみ。

「おっと、逃げるなよ!」
 得物をトンファーに持ち替えた七五三太は、鬼の背後に回ってその足元を払った。
 無様に膝を付いた所を、仲間達が取り囲む。
 致命傷を与えない様に気を付けながら、適度に体力を削り――


●それぞれの想い
 最後の対面前。
「お前は父親を殺したいほど憎いと思ったことがあるか?」
 他の皆とは少し離れた場所で、鉄鳴が声をかけた。
「自分の全てを掛けて殺したいほど、父親を憎いと思ったことが…」
「何故、そんな事を?」
 問われて、鉄鳴は静かに語った。
「俺は親父が殺したいほど憎い」
 親父を殺すために今を生きていると言ってもいいくらいに。
「何でも屋をしているのも撃退士として戦うのも金が欲しいのも、全部親父を見つけて復讐するためだ」
 親父が姿をくらませなければ、屋根のあるところで生活できたかもしれない。
 親父が借金を押し付けなければ、母さんが身体を壊してまで働くこともなかったかもしれない。
 親父が真っ当に父親をしてくれれば、多分もっと真っ当な人間でいることができた…。
「俺は親父を許すつもりはない」
 誰に止められても否定されても、それを曲げることはできない。
「だから、聞きたい」
 あるのなら、何も言わない。
 これが彼の復讐の一助になれるのなら、それはそれで構わない。
 しかし――
「私も、ついこの間までそう思っていたよ」
 だが、わからなくなった。
「親父が死んだと、そう思った途端に…ね」
 絶対に、死んでも許さないと思っていた筈なのに。
「なら、まだ間に合うはずだ」
 ぽつり、鉄鳴が言った。
「許してやれとは言わん。父親と向き合ってやってくれないか?」
 多分、彼の父親は謝りたかった筈だ。
 …自分がそう思いたいだけなのかもしれない。
 けれど――
(俺にはもう出来ないから)

「人の骸を材料に作られたディアボロかぁ」
 そこに生前の面影があるなら、希望を抱いてしまって当然だとソーニャは思う。
 姿形が変わっただけで生きているのではないか。
 生前の記憶を感情を持っているのではないか。
「切ないけど、思わずにはいられないよね」
 だから確かめればいい。
 問いかけて、叫び、泣けばいい。
 悲しめる時に悲しみ、悔やむべき時に悔やめばいい。
「だけど、そう切に願ったのは君だけじゃない。そうしたくても出来なかった人達を、ボクは見てきた」
 誰もがその機会を得られるわけではないから。
 彼等の分まで確かめればいい。
「それでも忘れないで」
 数え切れない多くの者が願い、そして、あきらめてきた事を。
「幼子を食い殺そうとする親の形をした物を、母親の喉笛を噛み千切ろうする子供の形をしたものを、ボクたちは殺してきた――愛するものの目の前で」
 彼だけが特別ではないのだ。
「だから君も覚悟しておいてほしい」
 それがどんなに大切な存在でも、多くの人を不幸にするものなら殺さなければならないという事を。
「ほんとのこと言うとね、ボクはちょっとだけ期待しているのかもしてない」
 人の心を持ち、人と理解し合えるディアボロが現れる事を。
 だからといって殺さない理由にはならないけれど――人同士だって殺し合うのだから。
「でもね、同じ殺し合いでも相手を理解してあげたいと思うの」
 だって。
「そうじゃないと、ディアボロって悲しすぎると思わない?」

「お父さんか分からんくても、言いたい事あるんやったら言うてもうたらえぇと思います」
 睦も、親に優しくしてもらった記憶などなかった。
(親からの愛なんや、知らん)
 けれど、本当は――
(優しくしてほしい、褒めてほしい、声を掛けてほしい、笑顔を見せてほしい)
 そんな気持ち、認めたくないし、認める事など出来ないけれど。
「…言える時に言わんと、次いつ言えるんか分からへんし、ね」
 そっと背を押されて、田口はふらふらと鬼の姿をしたものに近付いて行った。

 その顔をよく見ようとした彼の前に、千尋が静かに立ち塞がる。
「ごめんなさい、これ以上は…危険ですから」
 動きも攻撃も封じてあるが、油断は出来なかった。
 予想外の動きや隠し球、最後の悪足掻き…千尋はどんな事が起きても護れる位置に立つ。
「邪魔するつもりはないです。想いを、声を、届けに行きましょ」

 しかし、いざとなるとなかなか言葉が出て来ない。
「…なんて、言えば…良いんだろうな」
「好きにすりゃ良いさ」
 涼が答える。
「あんたが抱いてるその気持ちが、くだらねぇ感傷か、それとも大切なモンか。そいつぁ、あんた自身が決める事だろ」
 何を言うかも、言わないかも。
「ま、精々悩むこった。そんで…てめぇなりの答え、ってのが見つかりゃいいな」

 黙ったまま、時間だけが過ぎていく。
 しかし、撃退士達は待っていた。
 ただ静かに、待ち続けた。
 やがて――
「これ、な」
 ポケットから、一枚の写りの悪い写真を取り出した。
「俺は写真なんか全部捨てた。けど、お袋は…大事に、持ってたんだ」
 そこには笑顔があった。
 幼い彼と、両親の。
「持ってけ」
 ひらり、それを投げ捨てると、田口は鬼に背を向けた。
「決着は、つきましたか?」
 リチャードの言葉に、首を縦に振る。
 きっと心の中で別れを済ませたのだろう。
「…声、届いてるとえぇですね」
 写真を拾い上げた睦が、小さく笑みを浮かべた。
 この鬼が本当に彼の父親なら、後で棺に入れてやろう。
 きっとここには、全ての想いが詰まっているから――


●鬼の骸
 ディアボロの骸は、造り主たる悪魔が存命の間は人間に戻る事はない。
 だが、それが本人かどうか確かめるすべはある筈だった。
 例えば――所持品を調べたり、目撃者に尋ねたり。
 だが、田口はそれを望まなかった。
「確かめなくて良いんですか?」
 千尋の言葉に、彼は少し照れた様に頷く。
「最初はそのつもりだったけど…」
 決着は付いた。
 長年にわたって溜め込んで来た澱の様なものが、すっきりと消えていった。
 もう、それだけで良い。
 父親の死が確定するのが怖いという気持ちも、あるかもしれない。
「ありがとう。君達には感謝してるよ」
 今度、娘の顔を見においで――そう言って、彼は一足先に帰って行った。

「そうは言っても、俺らは確かめないわけにいかないよな」
 七五三太がそのボロ服の懐を探る。
「親父さん、おっさんの家族の事をよく知ってたみたいだし、本物なら写真とか持ってたりしねーかな」
 と、出て来たのは――
「手帳に、運転免許…期限切れてるけど」
 そこに書かれた名前は、別人のものだった。
「じゃあ、本物は…」
「まだ生きてるかもしんねーぞ!」
 訊ねた千尋に、七五三太は興奮した様子で頷く。
 生きているなら、会わせてやりたかった。
「俺はそこらの病院を当たってみる」
 鉄鳴が駆け出して行く。
「私はこの辺りを探してみるね!」
 何か手がかりがあるかもしれないと、千尋。
「俺も、目撃者とか探してみるぜ。さっきの写真、借りて良いか?」
 七五三太が睦に訊ねる。
 写りが悪い上にかなり昔のものだが、何もないよりは良いだろう。
「それに…」
 と、鬼の骸に目をやる。
「この人も、探してる家族とかいるかもしんねーから」
 探して、連絡してやろう。





 数日後、田口の元へ一通の手紙が届けられた。
 中身はとある病院の住所が書かれた一枚のメモと――
 あの写りの悪い笑顔の写真だった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 全身バネ・杜七五三太(ja0107)
 輝く未来の訪れ願う・櫟 千尋(ja8564)
 総てを焼き尽くす、黒・牙撃鉄鳴(jb5667)
重体: −
面白かった!:8人

全身バネ・
杜七五三太(ja0107)

大学部1年129組 男 阿修羅
撃退士・
御琴 涼(ja0301)

大学部3年174組 男 ディバインナイト
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
宛先のない手紙・
志摩 睦(jb8138)

大学部5年129組 女 ナイトウォーカー