●
とある新設クラブの部室の前。
まるで連太鼓の様にけたたましい足音をたてながら6人の凄腕(?)スイーパーが集結する。
「ああ、よかった! 依頼を受けてくれた人がこんなに……ありがとうございます!」
部員・福田陽権は天から降りてきた蜘蛛の糸を見つけたように喜ぶ。
「こんな可愛い女子達を独り占めして作業できるなんて、貴方は幸せ者ですね〜 」
そう、陽権を出会い頭にからかうのは葛城 巴(
jc1251)だった。
確かに、集まったのは、一人として見劣りする事の無い美少女達ばかり。
陽権はポッと赤くなり否定するように返す。
「ぼ、僕は、その……皆さんの連携を崩してはアレですので簡単なお手伝いだけさせて下さい!」
「それで充分ですよ」
巴はニッコリと応えた。
「掃除するのは、ここの部室で良いのですね?」
エルム(
ja6475)は、時間が迫っている事もあって、会話もそこそこに訊ねる。
「そうです、部活に必要な器材が運ばれる前に出来る限り綺麗にしてください!」
言いながら、陽権が部室の引き戸をそっと開ける。
むわっ……
ただ戸を開ける、それだけの事で室内の汚れは歓喜するように蠢く。
見えるだけでも相当の汚れ。
窓は煤けてしまい、日が出ているのにも関わらず室内は鈍く明るい。
「うわ……これはひどい埃ですね。これをあと10分で綺麗にするの? それはたしかに急ぎの案件ですね」
「おもしれー、やってやろうじゃねーか」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)には、既に汚れが敵に見えてるのだろう、傷の治りきっていない身体でもやる気は充分のようだ。
「普段着がジャージで良かったわ。皆、入る時はそぉーっと、ね?」
巴が注意を促す。
「それじゃ、がんばってやりましょうか」
颯爽と、埃を気に掛けつつエルムが入ると他のメンバーも同様に息を呑みつつ、覚悟を決め続いた。
●
残り10分・掃除スタート。
「わわ、煙上っちゃいますね…!」
歩きながらも、絡みつく様な埃に澤口 凪(
ja3398)が戸惑いながらも進む。
室内は淀んだ空気が漂い、そして用途の不明なガラクタや劣化した机が存在を誇示する様に密集していた。
「す…すごい量のゴミですね」
リゼット・エトワール(
ja6638)が腕まくりをしてガラクタの処分に掛かる。
それらを目線の端で捉え、状況を客観的に把握した巴が指示を飛ばす。
「まずは軽く初期清掃しましょうか。窓側と、ガラクタや机側に別れて大まかに汚れを取ってしまいましょう、それから……」
と、その指示の最中。
【ガラ】
窓の開く音。
と、それと共に外気圧と内気圧の差で室内に風が生まれて埃が空中にせり上がる。
「ゴホ、ゴホ……!」
咄嗟に、自前のマフラーで呼吸器官を覆う凪。
他の者もジャージの袖やハンカチで口を覆う。
「……し、閉めてくださーい……」
月乃宮 恋音(
jb1221)も、堪らず懇願する。
「す、すみません。風通しを良くしようとしたのですが」
ピシャリと閉じる音。
窓を開けたのはエルムだった。
すぐに窓を閉め直す事で、徐々に埃は地面へ帰り室内は落ち着きを取り戻す。
「……大丈夫ですよぉ、こんなに淀んだ空気では……窓を開けたい気持ちは痛いほど解ります……」
そう、素直にエルムへ告げる恋音。
もちろん、他の者も淀んだ空気は嫌だっただろう。
たまたま、窓を開けたのがエルムだっただけで誰が開けてしまっていても不思議ではない。
当然、特にエルムを責める者はない。気を取り直して、掃除に取り掛かる。
「よっし、まずは一番見えるところからしっかりとやらなきゃ!」
凪の発言でサッと皆も動き出す。
●
「ふぅ……あらかた、机やガラクタの汚れは落とせましたね、そちらはどうですか?」
リゼットは、ガラクタ班のラファルや恋音と一緒に大まかな埃の拭き取りをしながら、窓を掃除していた巴・凪・エルムの状況を見る。
「窓は乾拭きのほうがいいですか?」
先程の失態を取り戻そうと、エルムが素早さを生かしてみるみるうちに窓ふきを終えてゆく。
巴や凪もサポートするかのように窓の淵や拭き残しを確認しながら作業する。
その様はまるでムービーの早送りをしているように淀みない。
またたく間に窓拭きが終わると、巴は凪に。
「澤口さん、レジャーシートを!」
「はい!」
折角磨いた窓に再び汚れを付けまいと、シートを被せる。
パパパッ。
慣れた手付きでシートを巴の可愛いどうぶつシールで養生してゆく。
あまりの手際の良さに、凪はあらかじめ養生テープも持っていたのだが、出しそびれてしまった。
●
まだまだ壁は黄ばみや埃で薄汚れている。
巴は変わらずしっかりと左上隅から汚れを逃がさぬように指示を出している。
「なんだかここまでってなるの、すごいですね…あ、ここの埃は事故のもと、です!」
凪は壁の上から順に拭き掃除をしながらも、ショートの原因にもなるコンセントを見つけると丁寧に掃除していた。
「コレはガムかな?この粘着物は後回しにしよう」
エルムは見つけた頑固そうな汚れを巴に教えると、そこを飛ばして清掃に勤しむ。
「相合傘なんて可愛いな〜。消しちゃうけど、私の日記には残すからね 」
持参した段ボールに転倒予防で水入りのバケツを入れ、それを使い、絞った雑巾でさらりと怖い事を言いながら落書きを消す巴。
皆、実に楽しそうである。
一方、ガラクタ班。
「……私に任せてくださぁい……」
キリリとした表情で恋音が、天井ギリギリに魔法陣を展開すると、ガラクタの密集場所へ光線弾を撃ちだした。
轟音と共に、用途の解らない謎のガラクタが壊れてゆく。
隅っこ等の離れた物を除き、10個のガラクタが只のゴミへと変貌する。
「やるじゃん!」
ラファルがヒュウと口笛を吹く。
「……残りのガラクタも、壊しちゃいますねぇ……」
あっという間。
物言わぬガラクタは全て運べるようになった。
「ん、んぅ…後はこれをどう運び出しましょうか?」
「リゼット先輩! でしたら、これを使って下さい!」
運び出しに悩んだリゼットへ凪が持参の養生テープを渡す。
「まぁ、ありがとう凪さん」
「いえいえ、いいんですよぅ、運び出し頑張って下さい!」
言いながら壁拭きに戻る凪。
養生テープを見てラファルが。
「お、それいいじゃん! 粗大ゴミを纏めるだけじゃなくて机もニコイチにしたいから使わせてくれよ。いっぺんに机運びたかったんだけど、どうにもボロい机だから急いで運んで壊すの心配してたんだ。それがあれば天盤合わせて運ぶ時に壊さずに済みそうだ」
「……良い、アイデアだと思います……」
方針が固まり、ガラクタ班は粗大ゴミを纏めつつ、机を合わせて一旦部室の外へ運び出す。
●
掃除開始から5分程過ぎて。
拭き掃除班は壁部分の清掃をほぼ終えて床の清掃に取り掛かっていた。
「……ふう。だんだん綺麗になっていくのをみると、やる気も出てきますね」
エルムの言うとおり、残り時間の半分程を残して清掃は終わりの目処が立ち始めている。
リゼットは短い時間での慌ただしさに少々目を回し気味であるが。
「リゼット先輩、大丈夫です?」
凪がリゼットに呼び掛ける。
「うん! 大丈夫よ。お掃除は好きなのだけれど、せわしなくて作業に付いて行くのがやっとだわ。皆すごいのね」
「そうですね、特に月乃宮先輩もあんなに大人しそうなのに、エルム先輩のような凄いスピードでゴミ出しをしていましたよ」
そこへ会話を聞いていたエルムがぼそっと言った。
「……あんなに胸が大きいのに私と同じだけ動ける彼女には尊敬を覚えますね」
そしてタイミングよく恋音が戻ってくる。
じっ……
つい、エルムは恋音の大きな胸を見つめてしまう。
「……?!」
見つめられて、恋音の顔が真っ赤になり、そそくさと次の粗大ゴミを抱えて行ってしまった。
その様子を微笑ましく眺めた3人は。
「さて、作業に戻りましょうか。あと少しです」
ほっぺをぺちんと叩いて、意気込むリゼット。
「はい!」
「私も彼女に負けないように頑張ろう」
と、凪とエルムも持ち場に戻って行った。
「おい、福田、次はこれ持ってけ」
「うわっとと……!」
ラファルが福田に机を持たせながら、巴に状況確認をする。
「なぁズラ、そっちはどうだ?」
「ズラじゃなくてカツラギです! ……まったく。今は蛍光灯の埃を落としてるわよラルの方はどう?」
「俺の方はもう終わるぜ。この机を運ぶだけだ」
グッと重ねられた机を抱えるラファル。
「……ラルはまだ怪我が治りきって無いんだから無理しないようにね?」
「心配すんなよ、天魔と戦ってる訳じゃないんだ、これくらいは……な?」
凛々しく笑いながら、足にローラーを展開させたラファルは、言いながら勢いよく机を持って行った。
その様子をあっけらかんと見ていた福田へ巴が作業を促す。
「福田さん、準備室までの机運び、お願いしますね?」
「あ、いってきます!」
もう見えなくなったラファルの後を追うように運び出す陽権だった。
●
なんと、開始から7分と少しで清掃が完了する。
バサッ!
窓に掛かっていたレジャーシートを巴が外す。
磨かれた窓からは、爽やかな日差しが部室を明るく照らす。
それから、改めてエルムが窓を開けると、6月特有の少し土臭いが新鮮な空気が満ちる。
リゼットは細かく残った塵を、凪と二人で箒を使い掃き取っている。
ラファルと恋音も、ゴミ出しや運び出しを終えて戻ってくる。
加えて部室を見た陽権が。
「これは……見事ですね」
「当然だろ、俺たちが掃除してやったんだからな」
「お掃除、一緒に来てくれてありがとうねラル」
言いながら、そっとラファルへ牛乳を差し出す巴。
受け取ったラファルはお礼を告げて一気に飲み干した。
「私とリゼット先輩も皆で頑張りましたよ」
「やれば出来てしまうものですね。あんなに汚れていたのに」
「私が見つけた粘着物も、皆で取り除いておきました」
「……(コクコク)……」
凪、リゼット。
続いてエルムと、相槌で応えた恋音。
「では、部長にすぐ伝えますね!」
携帯を取りだした陽権はすぐに完了報告をした。
●
すぐに部長の宝子が部室にやってくる。
「な、なによこれええええ!」
やっとの思いで、運搬業者の器材チェックを終え意気揚々と、掃除が終わったと聞いた部室を見た宝子は、歓喜を大量に含んだ絶叫をあげた。
「私も部長だから、部屋が汚くて残念な気持ち、分かります。だから、今回は全力でお掃除させていただきました。それから、これを。創部おめでとうございます。良かったら使って下さい」
巴が、新品の手作り雑巾をお祝いに手渡す。
「丁寧に縫い込まれて丈夫そうですね、大事にします!」
全員が新クラブ創立を祝って拍手。
綺麗な部室を素直に喜ぶ顔が見たい。
掃除をすること自体が自分を磨く為になる。
色々な思惑で集まった皆の思いが形になった瞬間だった。
それから程なくして、業者が器材を搬入してきた。
「もしよかったら、新しい机や器材の配置も手伝いましょうか?乗りかかった船ですし」
エルムが宝子へ訊ねる。
「大丈夫ですよ、私の器材はちょっと特殊なので業者にやらせますわ」
「新設クラブにこれだけの器材なんて、よっぽど有望なんですね、一体何をするクラブなんですか?」
「……それは、私も気になってました……」
大掛かりな器材を眺めつつ、疑問を浮かべるエルムと恋音。
「有望かどうかはさておき、器材は実費ですよ。お金なんて外貨取引でもしてれば勝手に集まりますからね。活動内容については、今のところ秘密ですけれど、アウルに関わる物だと思ってください」
さらりと。
常識とかけ離れた事を言ってのける宝子は、そのまま業者へ設置場所の指示を出しながら忙しそうに行ってしまった。
「私これからお風呂に行こうかと思うんですけど、誰か一緒に行きませんか?」
綺麗になった部室へ滞りなく器材が運ばれている様子を見て安堵した巴が、今回の依頼をやり遂げた皆を風呂へ誘う。
真っ先に返答したのはラファルとエルム。
「俺は、遠慮しとく。錆びるからな」
「私も、すぐに次の依頼を見に行きたいので同行はまたの機会にします」
「そう、残念ですね。他の人はどうです?」
おずおずと、手を僅かにあげて恋音が。
「……その、ぜひとも、同行させてください……」
続いてリゼットと凪。
「皆でお風呂、いいですね」
「リゼット先輩が行くなら私も御供します!」
「決まりですね! じゃあ4人で寮の公共浴場に行きましょう」
両手を合わせて明るく微笑んだ巴。
●
公共浴場にて。
凪や巴が、さっさと服を脱ぐ間、恋音は一人、服を脱ぐのを躊躇っていた。
「どうしたんですか、月乃宮先輩?」
お風呂大好きな凪が、少々急かすように恋音へ訊ねる。
「……えと、そうですね、ごめんなさい……」
自身の発達し過ぎた胸を気にしていた恋音はフルフルと首を振り、意を決すると、服を脱ぎ、サラシを取った。
「……Super!」
効果音で表すならドンと聞こえて来そうなほど、たわわに実った恋音の胸にリゼットは思わずフランス語で凄いと呟いてしまう。
当たり前のように皆の視線がその大きな胸に釘付けになる。
「……その、こんなに、おっきくて怖いですよね……」
恋音は恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまう。
その仕草に何かを悟った巴が語りかける。
「大きな胸を気にしているんですね。大丈夫ですよ、それは所謂あなたの個性で、魅力であり可愛らしさです。恥じる事はないんです」
「そうです! 私にも少し分けて欲しいくらいです!」
憧れるような目つきで凪も俯いた恋音へ詰めよる。
もちろんリゼットも。
「とても、大きくて素敵だと思いますよ、まるで聖母のよう……」
「……あ、あの……ありがとうございます……」
褒められ慣れてもいないのか、喜んではいるのだが、どちらにしても赤くなって俯いてしまう恋音だった。
それから。
「ふぁあ、いいお湯ですね」
「…………♪」
凪と恋音はさっそく湯船でほっこり。
リゼットはミルクティー色のふわ髪を洗おうと手元でシャンプーを探す。
「ええっと、シャンプー…シャンプーはどこですか? あ。ありました! あれ、泡立ちません…」
「それはコンディショナーですよ!」
隣で身体を洗っていた巴がツッコミを入れる。
公共浴場に溢れる笑い声。
女三人寄れば姦しいと言うが、すでに女子4人、楽しくない訳が無い。
もちろん、お風呂に参加しなかった2人も、どこかのタイミングでは身体の汚れを落とすだろう。
女の子ですからね。
●
さて、今回の依頼なんていうのは、学園の何処にでもある、在り来たりな物。
けれど願わくば、そんな小さな一節でも、彼女達の小さな思い出に成り得ますように。
【やだ、私の部室、汚すぎ?!】完