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マスター:押下 子葉
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/12/13


みんなの思い出



オープニング

 剣先がひらめく。
 銃口がほえる。
 アウルがかがやく。
 
 千葉県のとある市街地は、演劇の上演の只中にあった。
 主演するのは、全高四メートルはあろうかという獅子の顔をした巨人。それが、両手に携えた大剣を振るい、舞台の中央でエキストラたち――撃退庁所属の撃退士たちと戦いを繰り広げている。
「遠藤は右から回り込め、安里は左から!」
 六人の攻撃チームを統率する撃退庁の職員は、必死に指示を飛ばしつつ冷や汗をかく。
 
 大柄な見た目に似合わず、繊細な剣裁きで確実にこちらに傷を負わせてくるし、
 大仰な見た目に似合わず、一気に距離を詰めてくるほどに突進力が高いし、
 大袈裟な見た目に似合い、いやそれを考慮してもありえないほど傷を付けられない。
 
 サーバントが市街地に出たというので、幾度と無くサーバントを狩ってきた優秀な攻撃チームを率いて現地入りしたのが五分前。
 その五分で、魔の力に寄った攻撃チームは、ほとんど敵に傷を付けられずに敗北しようとしている。
 ……ほとんど、というのは例外があるからで、つまりカオスレートが中立である隊長自身の攻撃は通っているのだ。倒せない相手ではないと思うのだが――
「遠藤ッ!?」
「……っ!!」
 隊長の一瞬の思惟を中断させたのは、仲間の叫びと、今まさに大剣で切り裂かれる隊員の姿。
 敵は隊員の身体を完全に引き裂くまで剣を振るうと、血と肉塊を払いつつ、周囲へ向けぎろりと眼光を走らせる。
「キサマラ、ワレ、タオス、ムリ。ヨワイ、サガレ」
 カタコトではあるが、言葉も喋れるらしい。おまけにその内容は歴史小説に出てくる古い武将のようだ。
「本当に弱いかどうか、試してみろ……っ!!」
 サーバントに叫び返す隊長の背を、冷たいものがつつっと流れ落ちた。

 攻撃チームが全滅し、久遠ヶ原学園へ救援要請が出されるのに、そう長い時間はかからなかった。


リプレイ本文

 実際に巨躯を目にし、自らの身をその前に晒したところで、彼女の心には何の感情も起こさなかった。
 赤色のシンボルを手にした今のRobin redbreast(jb2203)は、一個の戦闘マシン。
 そうなるように、躾けられた。
 ――顔も知らない依頼主の依頼に従って、あたしは任務を遂行するだけ。
 少女の矯正は、まだその途上にあった。

 獅子顔サーバントの退治を依頼された六人の撃退士は、商店街をその主戦場に選んだ。
 ロビンが誘引する間、他の五名が配置に就く。
「予定した罠が張れなかったのは残念だね」
 残念そうに言うのはジェラルド&ブラックパレード(ja9284)。彼は商店街に罠を張ることを予定していたのだが、生憎、それは予算オーバーで却下となっていた。
「残念、ジェラやんの悪巧みに便乗させてもらいたかったんやけどな」
 得物のスナイパーライフルの最終点検をしつつからからと笑うゼロ=シュバイツァー(jb7501)は、ジェラルドの悪友だ。
「無いなら無いで戦いようはあるわ。……ところで連絡のほうはどうだったの、ミハイル?」
「重体で入院している隊長さんの報告によるとだな」
 ケイ・リヒャルト(ja0004)が周囲の店舗や障害物の配置を確認しながら問うと、ミハイル・エッカート(jb0544)も今しがた確認し終えたばかりの情報を仲間たちに開示する。
 レートを魔に大きく寄せた攻撃チーム隊員たちの攻撃は、敵の身体に届くも一ミリたりと傷を穿つことはなかったと。
 攻め方も包囲を用いた正攻法であり、攻撃チームに特段の落ち度は無い。
「下らんな人間。最初から知れていたことだ。だから我々は対策を講じてきたのだろう」
 今まで興味無さそうにしていたフローライト・アルハザード(jc1519)だが、会話自体は聞いていたらしい。
 とはいえ、その口調は相変わらず興味が無さそうではあったが。
「まぁな。何か他に新しい情報があればと思ったんだが」
 フローライトの手厳しい言葉に、ミハイルは思わず頭を掻くものの……
「おっと、情報共有の時間は終わりだね。そろそろ来るよ」
 ロビンのものであろう魔法の音とシシガオのものであろう足音を感じ取った五人は、ジェラルドの一言で戦闘態勢に入ったのであった。

 少女は、シシガオの突進を何とかいなして、どうにか商店街の入り口まで辿り着いた。
 遠距離から魔法で気を引いて、なんて考えていたのは最初のうちだけで、あとは直線的ながら一気に三〇メートルを詰めてくるサーバントを立ち回りで回避しながらの誘い出し。
 まさに薄氷の上で踊っているかのような紙一重の状況ではあったが、それをやり遂げたのは、ロビン本人の冷静さによるところが大きいだろう。
 ……しかし。
「コロス……」
「……」
 シシガオの言葉に、ロビンは気付く。背には雑貨屋の壁があった。
 ……誘導された。
 ロビンの回避を見越して、彼女を回避不可能な状況に追い込む。片言とはいえ言葉を話すだけはあり、それなりの知能はあったらしい。
「シネ」
 踏み込みで勢いの乗った大剣の刃が、小柄な少女の身体に迫り――
「鬼さんこちら……てな!!」
 しかし、届かなかった。
 空中から地上に向けて漆黒のアウルのレーザーが奔り、不意の一撃ゆえに巨体を弾き飛ばす。
 シシガオがすぐに攻撃の元を見るや、そこには翼を展開して浮遊しつつニッと白い歯を見せるゼロの姿。
「シネ……!!」
「ま、嫌がらせは得意分野やからな♪」
 そこへ影がひとつ走り込む。愛銃「ブラックファルコン」を手にしたミハイルだ。
 シシガオが彼の気配に気付いて迎撃の態勢を取るも、それは完遂されない。
「見るからに硬そうな身体……どれ位、柔らかくなってくれるのかしら?」
 サーバントがミハイルに気を取られた一瞬の隙を突いて、生花店の陰から姿を見せたケイが、装甲を溶解させるアウル弾を撃ち放ったためだ。
 絶妙のタイミングで行われたそれは、巨躯を覆う外皮に弱点を穿つとともに、不良中年に対応しようとした敵の行動を阻害する。
 その間にミハイルは壁を走る鬼道忍軍のスキルを活用し、雑貨屋の壁を足場に三角飛びの要領でシシガオの頭部に肉薄した。
「ウドの大木、おとなしくしてろ!」
 飛びかかる勢いのまま体重を乗せ、見事なたてがみを持つサーバントの頭を木製の銃床で殴打する。
「――ッ!?」
 ミハイルは攻撃後にすぐさま着地するが、シシガオはその隙に追撃を加えることが出来なかった。
 彼の兜割りがその瞬間、サーバントの意識を強制的に奪っていたからである。
「なかなか見栄えのする敵だね」
 離脱して狙撃位置へ移動する不良中年と入れ替わるようにしてシシガオに接近するジェラルド。
 白い長髪をなびかせる彼の目には、いま……どこを狙えば敵を無力化できるかが視えていた。アウルで観察眼を強化しているのだ。
 一方のシシガオも、朦朧とはしていてもジェラルドの動きの気配は捉えたらしく、これを迎え撃たんと身体を彼のほうへと向ける。
 ……だが、遅い!
「ここ、止まってもらおうか?」
 妨害せんと振り下ろされた刃を身を右に転じることで難なく避けたジェラルドは、ケイが穿った弱点目掛け、薄暗い赤色の光を放つ格闘武器を突き出した。
「ゴ、アァ……ッ」
 拳の衝撃が、アウルが、外皮の溶解した箇所よりシシガオの体内に伝播する。
 それはただの痛打ではない。四メートルの巨体が動きを停止させられるほどの打撃。
 サーバントは朦朧としていた意識を取り戻す代わりに、身体の自由を失った。

 ――ここで一気に行くべきやな!
 敵の状態を見て取ったゼロは今を攻め時と判断し、浮遊したまま魔具を交換する。
 狙撃銃の代打として現れたのは、くちばしを持つ一本の杖。
「……!」
 ハーフ天魔の青年がその杖に深く黒いアウルを注ぎ込むや、ぴたりと閉じられていたくちばしが徐々に開いていくではないか。
 そして上下に開かれていったその中心部から、まるで血に染まっているかのような紅い刀身が姿を見せる。刀身の反対側から半透明の紅い翼を発現したそれは、今や杖ではなく、悪魔の鴉を彷彿とさせる一本の黒き大鎌であった。
「仕掛けるで!!」
 三色三対の翼を張り詰めさせ、一気に降下を開始する。目標はシシガオの懐。
 あらゆる行動を封じられている現在、サーバントに対処するすべは無く、難なく滑り込むことに成功する。
 狙いはセオリーどおり、外皮の継ぎ目。
「あらゆる血を食らったこの鎌、次の糧はお前さんや!!」
 紅に彩られた黒き刃が、シシガオの胴体で最も弱い場所のひとつに深々と食い込んだのだった。

 ゼロが突撃をかけるのを、鮮魚店の屋上で伏せ撃ちの態勢に入ったミハイルは、スコープのサイトごしに観察していた。
 兜割りの後、サーバントに射線を通せる高所を探し、壁走りでここまで移動したのだ。
 十字のサイトの中で、黒き青年が敵の懐に入り込んでいく。
 そのサイトを安定させる土台は、『黒き隼』の名に相応しい黒き銃身と、可搬性向上のための大きな穴が開いた木製の銃床を持つ狙撃銃。
 ミハイルの手に最も馴染む銃器のひとつだ。
「おとなしくしていろ、変なところに当たっても知らないぞ」
 冗談めかした言葉を呟く。まぁ、黒い十字の中で踊る巨体に聞こえるはずもないが。
 ふっと息を吐いてから、ミハイルは十字の中心をシシガオ……その巨躯の、ケイによって穿たれた弱点へ合わせる。
 そして息を止め……
 …………
 ……
「――っ!」
 乾いた音。発砲音。
 銃身を飛び出したアウルの弾は、空気抵抗などの外的要因をいっさい無視して直進し。
 正確に外皮の溶解した箇所へと飛び込んで、胴体を切り裂かれたばかりのサーバントにさらなるダメージを与えたのだった。

 太腿にまで届く長い銀髪を揺らしながら、フローライトは戦場となった商店街に想いを馳せる。
 生花店、鮮魚店、雑貨店。
 いずれも、本来ならば人の行き交いで賑わっていただろう店ばかりだ。
 ――その日常を害したのだ。意志があろうと例外なく排除する。
 二五〇年前から続く戦いの日々に不要なものを捨てていった結果、彼女に残ったのは『人の世を守る』という今は亡き女性の願い。人の世の平穏のために、という戦いの理由。
 じゃらり、と先端に刃の付いた鎖が音を立てる。
 ――だが、それで良い。それ以外のものは必要ない。
 黒色の鎖に、淡く白い光が宿る。
「悪の報いを受けろ、サーバント」
 鎖の先端を投擲。それは過たずにシシガオの胴体へ向かい、外皮をまるでプリンか何かのように容易に貫いて、その内側へと傷を穿った。
 さらに鎖を振り回すようにして、刃で胴体を抉りつつ、飛び出した先端を自身の手元へと回収する。
 追加のダメージに苦悶するサーバントを、フローライトは感情の無い目で見つめた。

 無感情な視線という意味ではロビンも同様だったが、彼女はやや事情が異なる。
 人形であることを強制され、命じられたままに殺す。コマドリのコードネームを持つ少女型の暗器。
 それが、Robin redbreastという少女だった。
 そして……不幸なことではあるが、彼女に教え込まれた事柄は、今この瞬間も効果を発揮していた。
 ――あの素早いのが自由を取り戻したら厄介だし、足を潰しておかなきゃ。
 ――足の次は首かな。手に神経が通じてたら、剣を振り回せなくなるかも。
 頭の中で相手を殺すことだけを計算しながら、ゼロがいったん距離を離すのを目の端に捉える。
 ――あぁ、そうだ。まずはあれを試さなきゃ。
 黒い鴉と入れ替わるように、カマエルの紋章をかまえる。
「死ぬのはそっち」
 紋章が輝き始めると同時、シシガオの巨体が淀んだものに覆われ、次の瞬間には淀んだ気の内側を砂塵が舞った。
 アウルの砂塵はサーバントの全身を覆い、蹂躙していく。そのダメージはゼロやミハイルの攻撃に何ら劣らない。
 ……だが、砂塵が収まったとき、傷をさらに増やされた以外に巨体に変化は無かった。
 ――これに耐える抵抗力はある、と。
 敵が石化しなかったという結果を確認してから、ロビンは次の一手を打ちにかかった。

 ロビンの砂塵が収まると同時、一頭の黒揚羽がひらりと、淀みのない美しい動きで獅子の元へと舞い込む。
 敵は今も身動きが取れないが、たとえ身動きできたとしても、その接近に気付いて阻むことは出来なかったであろう。
 それほどまでに、ケイ・リヒャルトの身のこなしは洗練されていた。
 足音すら感じさせずに敵の懐に潜り込んだケイの手には、一丁の自動拳銃がある
 細身の女性には不釣り合いな、しかし彼女の妖艶さを引き立てるそれは、しかし天魔を狩るための得物。共鳴の名を持つもの。 
「接射での鉛の飴玉の味は如何かしら?」
 流れるような仕草で、それを外皮の隙間へと押し付けて引き金を引く。
 瞬間、銃口から飛び出したのは鉛色のアウルの弾丸。
 それは獅子の体内を引き裂いて、さらなる深手を追わせていくが、ケイはその結果を確認することなく、再び商店街の隙間へと姿を消していった。
 
「ゴアァァァ!!」
 獅子が吠えた。
 大地を踏み鳴らし、素振りのように両手の大剣を振るう。
 これまで、撃退士たちの激しい攻撃にされるがままだったシシガオだったが、ようやく身体の自由を取り戻したらしい。
 とはいえ、それまでに刻まれた傷はかなり深いことは、撃退士たちの目からも明らかだった。
「恐れることはないよ、もう一押しだ」
「コロス!!」
 ジェラルドの言葉に反応してかしないでか、シシガオは激しい怒りを口にするものの、特に理性を失っているわけではないようだ。
 素早く視線を走らせ、最初に目に目に付いた少女……ロビンへと狙いを定める。
 次の瞬間の敵の動きは、攻撃による妨害を考えていた撃退士たちの予想を超えた。
 跳躍。
 それも、巨体に似付かわしくない機敏な跳躍。
 大剣を携えた巨体が迫るのを、訓練されたロビンの目は正確に捉えていたが、さりとてそれに反応する能力を彼女は持ち合わせていない。
 ……だが、ひとりだけ。
「――ッ!!」
「フローライト!」
 銀髪のハーフ天魔だけが自らの身を敵前に投げ出し、華奢な少女の盾となることが出来た。
 盾となった少女へ、サーバントは容赦なく大剣を振るう。
 跳躍同様、巨躯に似合わぬ力に因らない繊細な剣技、しかして触れる度に、身体の内に確実に衝撃を伝えてくる。
 一撃。
 …二撃。
 ……三撃。
 シシガオが剣を振り切ると同時、フローライトの身体が後ずさった。
 盾の意匠を取り入れた彼女のコートは刃で傷付き、その内側は無残な傷になっている。
 一瞬のうちに与えられた傷としては決して浅くはないが、しかし銀髪のハーフ天魔は、その程度でやられるほどヤワでもない。
「フローライト!」
「この程度、何ともない」
 それに、味方を庇うのは私の役割だからな。
 さらに後ずさって立て直しつつ、フローライトはさらなる防御態勢を取った。

 サーバントはなおも戦闘態勢にあった。
 視線を後退したフローライトへと移し、さらに追撃する構えだ。
 ……しかし、
「ゼロぽん!!」
 それを許す撃退士たちではない。
「あいよ、ジェラやん!!」
 シシガオが再度の跳躍でフローライトに襲い掛かろうとしたその瞬間、幽鬼の如く敵の背後へと回ったゼロは、飛びかかる態勢にある背に向けて大鎌の鋭い一撃を見舞った。
 不意の一撃にシシガオの姿がぐらつき、巨体がそのまま転倒する。
「よくもフローライトを」
 自らの周囲に浮かべた光の剣を、ロビンは一斉に倒れた敵へ殺到させる。それは肩口から背中にかけて深々と突き刺さっていき、光の剣山を作った。
「その体躯に見合う力を、貴方は本当に持っていたのかしら?」
 靴屋の陰から陽光の元へと躍り出たケイが、銃撃で追撃をかける。高精度の射撃が一発、二発と敵の弱点に飛び込んだ。
「立派だね。素敵な負け犬になれるよ♪」
 ケイの射線を遮らぬように注意しつつ、どこか軽薄なジェラルドも敵へ近付いていく。その間に倒れた状態のどこを打つのが最も良いかをその観察眼で吟味した彼は、その回答に従って一撃を加えた。
「全ては、人の世の平穏のために」
 そのための小さな一歩として、眼前のサーバントを滅する。フローライトの鎖が宙を舞い、猛将の身を切り裂く。
「さようなら、だ」
 そして、服飾店の屋上まで移動していたミハイルの狙撃がたてがみのある額に命中し、ようやくサーバントは消滅したのだった。

 かくして、戦いは終わった。
 終わってみれば商店街に被害らしい被害すら無いという、まさに完勝と呼べる結果。
 この結果に喜んだ商店街の組合長から、後日、六人に感謝の言葉が送られたのだった。

 終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト