.


マスター:押下 子葉
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/09/29


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園の購買。
 購買のカウンターの前で、黒髪の少女が財布を覗き込んではため息をついていた。
「残金250久遠かぁ……はぁ」
 彼女の注文を受けた店員が知る限りでは、そのため息ですでに五回目くらい。見ているほうが気の毒になってくるが、こちらも商売なので如何ともし難かった。
 少女の名はアカネ・ポーヴル。フランス人の父と日本人の母を持つ日系フランス人である。遠くフランスから来訪して久遠ヶ原学園の高等部1年に籍を置く彼女は……その、貧乏であった。
 アカネの実家自体は普通の家庭であり、取り立てて裕福でも貧乏でもないのだが、彼女の父が『可愛い子には旅をさせよ』とばかりに日本までの旅費しか出してくれなかったものだから、さぁ大変。
 生活費のためにアルバイトを始めたものの、初めての慣れない一人暮らしに何かと物入りで、稼いだわずかなバイト代はすぐさま消えるという有様であり、とても撃退士として装備を揃えるなど出来なかった。
 しかし今日、長い期間をかけて少しずつコツコツ貯めたお金を使って、初めて購買で魔具や魔装を買ったというわけだ。
 撃退士として活動するために。
「お待たせしました。こちらがご注文の商品になります」
「あぁ、はい。ありがとうございました」
 愛想よく笑う店員から商品の入った紙袋を差し出されたアカネは、すっからかんになった財布を仕舞うと、笑みを浮かべてそれを受け取ったのであった。
 
 空き教室に撃退士たちを集めた教師は、開口一番に声を張り上げた。
「千葉県のとある高校に、二体のリトルリザードが現れました。撃破して下さい」
 教師の口からはさらに、このサーバントが突如として学校の校庭に出現したこと。校内を闊歩して獲物を探していること。高校の生徒は教師の誘導で早々に避難したことなどが告げられる。
 それらの教師からの情報を元に、空き教室に集う撃退士たちが口々にこうすべき、あぁしようと相談を始める中、彼らと共に依頼を受けることになった少女……アカネだけは心ここにあらずで、
「どのくらい報酬貰えるのかなぁ……わくわく」
 まだ見ぬ報酬に胸をときめかせていたのであった。


リプレイ本文

 依頼を受諾した撃退士たちは、転移装置へと向かった。
 ……早速依頼に、と思ったのだが、どうやら転移装置が混み合っている。恐らく同じタイミングに依頼がたくさん出たのだろう。
 待ち時間を告げられる一行だが、その時間を利用するのも、有効な時間の使い方だ。

「同じルインズと見たが、実戦経験はどれくらいかな」
「わひゃぅ!?」
 今回が初陣になる撃退士、アカネ・ポーヴル。その彼女に声をかけたのは、歴戦の撃退士鳳 静矢(ja3856)だった。
 その様子に初々しさでも感じたのだろう。紫色の視線が初陣の少女を見つめる。
「え、えと、これが初めてです……今まで武器を買うお金が無くて……」
「あらまぁ、そうなの?」
 アカネの答えを聞いて話に入って来たのは常木 黎(ja0718)。いや、彼女だけではない。他の撃退士も話に加わってくる。
 かくして、撃退士たちによるアカネへの即席講座が始まった。
 常木が『一撃離脱に徹し被攻撃に備えること』『傷を負った場合は後退し班員にフォローを受けること』『離脱や後退時は敵に背を向けず迅速かつ慎重に動くこと』『実はあんまり稼げないよ』と要請すれば、それに次いで鳳が『後退する際は背を向けずバックステップで引く方が安全な場合もあること』『今回の敵のように広範囲に攻撃がわたりそうな敵相手には味方と距離をとって複数巻き込まれないように敵と味方の位置に留意すると良いこと』と矢継ぎ早にアドバイスを重ねる。
「にゃふぇ〜……」
 しかし、聞くほうのアカネはその情報量に目を回していた。聞いたことが頭には入っているようだが……初陣が近付いて緊張し、理解力が鈍ったか。
 そんな彼女に同情的な視線を投げかけるのは、綿貫 由太郎(ja3564)。彼は金銭面の苦労が少ないという理由から、アカネに同情的だった。
「……ところでアカネ。君は食材の安いあのスーパーを知っているかね」
「ぁえっ? え、ええと……あのスーパーというと……あそこの?」
 自分の関心の一つである安売り情報に、少女は落ち着きを取り戻し……興味津々といった様子で綿貫との話に華を咲かせ始める。
「実は、あの店は午後八時ちょうどに特売をやるのだよ」
「し、知りませんでした……なるほど……他には何かご存知のことは?」
「そうだな……あの店の四軒ほど隣にある店だがね、あそこは……」
 綿貫と話し込んでいるうちにいつしかアカネの緊張は解けていき、貰ったアドバイスが彼女の頭に染み込んだ頃、転移装置の順番は来たのだった。

 現地に到着した撃退士たちは、すぐさま二つの班に分かれ、現場の高校の正門から突入した。

 A班こと鳳と綿貫はそれからすぐ……テニスコートにおいてサーバントと遭遇した。事前の情報のとおり、手足の短いトカゲのような敵……リトルリザードだ。
「トカゲさんはこんなところを徘徊しておいででしたか」
「周囲に被害は与えられん。校庭の中央まで誘導するぞ」
 自らの提案に綿貫が首肯するのを目の端に捉えつつ、鳳は柳一文字を抜いてリザードへと近付いた。敵はまだこちらに気付いていない。
 アウルの力を腕と脚に集めた鳳が、四メートル先のリザードへ向けて一気に跳躍する。
「はあぁぁぁ!!」
 距離を詰めたのが一瞬ならば、その得物が振るわれるのもまた一瞬。それこそが鳳の技の一つ……瞬翔閃だ。
 閃いた刃は見事にリザードを切り裂いた……かに見えたが、がきりと音をさせて刃が阻まれた。
 ……そういえば、とその様子を見ていた綿貫が思い出す。戦闘前、リザード系との交戦経験があるという常木の言っていた言葉を。
「尻尾の切り離し、火炎放射 、硬化に注意、か。なるほどな」
 どうやら外皮を硬化させた亜種らしいリトルリザードは、その攻撃によって鳳へと気を向けた。首を向け、牙を剥く。
 これで良い。あとはリザードの気を引きつつ、校庭へと誘導するだけ。A班の二人は合意に従い、戦いを開始した。
 
 一方、B班となった常木、十八 九十七(ja4233)、鴉(ja6331)、アカネの四人も、校庭の一角でリザードと接触していた。
 まず鴉が、爬虫類を模したサーバントへとリボルバーの銃口を向け発砲する、も……鈍い音こそするもののリザードに大した変化は見られない。どうやら表皮に弾かれたようだ。
「ッハハ! もっと強いのがイイのかなっと……それじゃ♪」
 だが、鴉は楽しそうに……そう、戦闘を楽しんでいるというかのような口ぶりをしつつ……アウルを銃口へと集わせていく。鴉のリボルバーの銃口が紅く輝き始め……。
「本能の牙……天魔を穿ち、喰らい尽くせ。……さぁ行け、殲滅の強襲猟犬(アサルトドッグ)!」
 言葉と共に弾丸が放たれる。鴉の二発目は、まるで曳光弾のように紅い尾を引きつつサーバントの体へと吸い込まれていき……硬質な表皮の一部を爆ぜさせる。
 そのダメージにリザードが怯みを見せた隙に、常木は敵の右側を通って左後方を取ると、近接戦闘も想定した独自の改造を施してあるオートマチックP37の銃口をリザードに指向した。
 目的は……いくら表皮を硬化させようとも覆いようが無いであろう、脚の関節。常木の口元に薄笑いが浮かぶ。
「ヘイ、鴉の弾にだけ気を遣ってないで。こっちもだよ!」
 P37の銃口が空気を震わせ、連続で撃ち出された弾が真っ直ぐにリザードの脚関節目指していく。その多くは脚の硬化した外皮に受け止められてしまうものの……そのうち一発が、装甲に覆われていない脚の関節に突き刺さる。
 柔らかい部分に弾を食い込まされたサーバントは再びの苦痛に震えるが、撃退士たちは間髪を入れなかった。
「まぁ、誰しもが一度は通る道です故……アカネさん、よく見ていて下さい」
 自分が先に仕掛けますねぃ、と初陣の少女に言い置いた十八が、ショットガンSA6を構えてリザードへ突撃する。彼女はアカネに実際の動きで手本を見せ、参考にさせようというのだ。すでに他の者が仕掛けている間に、敵の形状から『分析』し『推察』する旨を伝えてある。……今日は、いつもの狂化は無しだ。
 ショットガンとは本来、弾が散る……すなわち散弾を撃ち出す武器だ。硬質化していると知れている敵の装甲には効果が薄いようにも思える。しかし……
「硬い相手には、こういうのも有効なのですよ!」
 ショットガンに淡い光が点るのはアウルが動いた証。その銃口をリザードに向けた十八は、その胴体上面に向けて引き金を引いた。
 刹那、発射されるのは一発の大粒の弾丸……スラッグ(一粒)弾!
 リザードの外皮に触れた弾丸は、その質量とアウルの力、さらに運動エネルギーによってそれを貫き、弾けさせる。
 だが、リザードとてやられてばかりではない。苦痛に恨みを込めた視線を一時離脱中の十八へ向けると、その口に赤々とした炎を溜め込み始めた。
「九十七!」
「オーライ!」
 咄嗟に鴉が叫ぶ。その声と背中の熱気に敵の反撃を知った十八は、アカネにさらなる手本を示すべくすぐさま振り向いてリザードへ銃口を向け。
 次の瞬間、リザードの口は上に仰け反り……放たれた炎は虚空を切り裂いて終わる。ビーンバッグ(袋入り豆弾)をサーバントの口元に当てて、その狙いを逸らしたのだ。
 それもまた、アカネへの手本の一環。不利な場合は離脱する。回避にはスキルも使って。
「さ、やってみなって」
 常木がアカネへ言葉を投げる。言われた少女は頷くと、サバイバルナイフを片手に意を決し……
「やぁぁぁ!!」
 いまだ態勢を整え直せないサーバントへ向けて走り出した。鴉のリボルバーと常木の自動拳銃の銃口が火を噴き、リザードを牽制してアカネの突貫を援護する。
「はぁぁ!!」
 二人の援護射撃に釘付けになっているサーバントへ、アカネはアウルの力を込めた刃を振るう。
 がきんという鈍い音と共に、リザードの表皮に傷が付く。それは、アカネが撃退士として初めて敵に与えた攻撃だった。
「初陣はどうだ? 楽しいかお嬢さん?」
 教わったセオリーどおり離脱したアカネに、リボルバーを敵に向けたまま鴉が声をかける。
「わ、わかりません……」
「そうかい……俺は、最高に楽しいぞっと♪」
 整った顔立ちに妖艶な笑みを浮かべながら、鴉はリボルバーの引き金を引き絞った。外傷の目立ってきたリザードへ放たれた橙色の光を放つそれは、ただの攻撃ではない。
「小さな道化……どこへ逃げようとも道化は追い、猟犬を誘き寄せるだろう」
 一瞬、橙色の鼠がサーバントに噛み付いた、かに見える。それは追走の大鳴き鼠(スコールラット)……すなわち、マーキングだ。
 リザードが尻尾を切り離して逃げるだろうというのは、外見等からも予想できた。それを追尾するための攻撃だった。
 案の定、満身創痍のリザードはアカネや鴉、十八に背を向けると、尻尾を切り離しびたびたと暴れまわらせる。……触れれば痛いだろうが、そんなものに当たるほど撃退士たちも弱くは無い。
 また、三人に背を向けたところで……
「とりま、逃がすわけないでしょうにっと」
 リザードは常木に挟まれているのだ。逃げられようはずもない。化粧嫌いの口元に笑みが浮かぶと同時に、アウルを乗せた強力な弾丸がリザードの頭を貫き、絶命せしめたのであった。

 他方、A班の二人はリザードを校庭の一端まで誘導することに成功していた。
「ここであれば、遠慮はいらんな」
 トカゲの化け物と対峙する鳳を前衛に、ショットガンを持つ綿貫が後衛。鉄板の布陣だ。
「では、始めようかね!」
 鳳から少しずれるように動いて射線を確保した綿貫は、その近接を援護すべく射撃を開始。
 V兵器から放たれた散弾のシャワーに打ち付けられて怯みを見せるリザードに、柳一文字を閃かせた鳳が難なく近付いた。
 その接近を認めたリザードが、口元に赤い炎を溜め込む。……だが、二人にとって火炎攻撃は織り込み済みだ。狙いは鳳か、と敵の頭の向きから素早く読み取った綿貫は、通った射線の先……リザードの頭にショットガンの銃口を向ける。
 刹那、再びの散弾の雨。それはリザードの頭を容赦なく殴り付け、その衝撃で殴られた頬と反対側へと頭を向けさせた。
 鳳の左側を炎が通過する。
「さすがだ、感謝する」
 綿貫の見事な援護によって無傷で敵へと近付いた鳳は、
「お前の相手は此方だ……冥魔の一撃、堪えるだろう?」
 暗さを感じさせる濃い紫色の光を刃に宿しながら、リザードの胴体目掛けて斬り付けた。瞬間、刃の当たった表皮が溶けるように崩れ、中の身を切り裂いていく。……それは冥魔の力を刀に乗せる技、紫冥刃。
 苦悶に身をよじりつつも必死に反撃しようと炎をちろつかせるリザードだが、綿貫はそれを許さない。
「ふむ……側面、いや表皮は硬いか?」
 ショットガンをヒヒイロカネに格納しつつ新たに取り出したのは、小さな弓。何も番えずに引き絞り、アウルを込める。
「では、こちらの弓ではどうだい?」
 次の瞬間に綿貫が指を離せば……びいんという弓鳴りと共に、白い矢の形をしたアウルがサーバントへと飛翔し、胴体の中央部へと容易に突き刺さった。
 さらなるダメージに揺れるリザード。アウルによる魔法攻撃には弱いようだ。
 そこへ鳳が追撃をかけるべく柳一文字を鳴らした。学園一の撃退士となるには、この程度の敵に苦戦してはいられない。
「……っ!」
 だが、そのままやられるわけにはいかないとばかりに、リザードも尻尾を鞭のように振るって反撃を試みる。トドメに掛かろうとしていた鳳はわずかに不意を突かれるも……やはりそこは歴戦の撃退士。護りの法を発動すると、振るわれる尻尾を刀の峰でいなして回避する。
 その間に綿貫は梓弓による第二射を放つが……狙いを誤ったか、それは高校の校庭に吸い込まれる。
 一方、リザードはいなされた尻尾を逆に振るって再度の攻撃に出……ようとするも、それは未遂に終わった。紅い尾を引いた一発がサーバントの背面に突き刺さり、爆ぜたのだ。
「二人とも、助けに来たぞっと♪」
「あれま。ぼっこぼこだねぇ」
「あっちは終わりましたよぉ。援護しますねぃ」
 B班の面々だ。自分たちの受け持ちを倒した後、校庭のもう一端で戦闘の音が聞こえたため、救援に来たのだ。リザードが喰らったのは鴉の『殲滅の強襲猟犬』だった。
 撃退士に援軍が来た……というのを察知したわけでもないのだろうが、リザードも攻撃を受け続けて限界だったのだろう。振るおうとして止められた尻尾をそのまま切り離すと、逃げに転じた。
 びたびたと暴れまわる尻尾が、切り離される際に鳳に当たってわずかに傷を付ける。
「やはりな……逃がさん!」
 もちろん、尻尾を離して逃げるのは想定済み。鳳は右手で柳一文字を保持すると、左手で飛燕翔扇を取り出して、逃げるリザードへ向けて投擲した。
 同時に、綿貫が尻尾には目もくれずに白いアウルの矢を放つ。
 予想をしていた以上は対策をする。そして満身創痍のサーバントが、その対策の上を行けるわけが無かった。

「ありがとうございました!」
 戦いの終わった後、高校の中庭で若干の休憩を挟んだ一行に、アカネが頭を下げた。
「皆さんのおかげで、無事に初めてのお仕事を終えることが出来ました!」
 銀色のポニーテールを揺らしつつ感謝する少女に、まず常木が答えた。
「良いって。私らも仕事なんだし。ま、これからも気負わずに頑張って。銃の扱いとか近接格闘の技が知りたかったら、いつでも聞きに来てくれて良いから」
 渡米してPMCの訓練にも参加したことがある常木は、現代戦のスペシャリストだった。心強い言葉にアカネがはいと答える。
「同じルインズブレイドなのだ、私も助力しよう」
 自らのスキルで先に負った傷を塞いだ鳳が、次にそう声をかける。これにアカネも「ありがとうございます」と応じた。
 次に話しかけるのは、持参していたタバコをふかしている鴉。彼は紫煙をふうと吐き出すと、
「まずはたくさん依頼を受けて、戦いに慣れることだ」 経験に勝るものはない。それは、十六歳の頃から『異端を狩る組織』の一員だった彼だから言える言葉かも知れない。
「ま、お互い頑張ろうか。あぁ、購買での支給品はきちんと貰っておけよ。意外と違ってくるから」
 金銭の苦労が身に染みてわかっているのだろう、綿貫の言葉は前の三人とは少々ベクトルが違うようだ。
「はい。教えていただいたお店、こんど行ってみます」
 アカネが頷いたところで、
「じゃぁ、まぁ。皆さんお疲れ様。そろそろ帰りましょか」
 十八の言葉に六人の撃退士は腰を上げる。
 快晴の中、場違いなレインコート姿の少女を囲むようにして、撃退士たちは帰路についたのであった。

 終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 胸に秘めるは正義か狂気か・十八 九十七(ja4233)
重体: −
面白かった!:12人

筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
殲滅の黒鎖・
鴉(ja6331)

大学部6年319組 男 インフィルトレイター
クオングレープ・
cicero・catfield(ja6953)

大学部4年229組 男 インフィルトレイター