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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/06/12


みんなの思い出



オープニング

 人ならざるものを人間はどこまで許容できるのか。
 それは遥か太古より命題であった。「こちら」と「あちら」が違う――、それだけの理由で戦い続けてきた人類という存在の業。
 その決着が一つの形として終焉を迎えかけている。
 天魔という異種と人類という種。
 それらが結びつき、新たなる世界の形を示そうという時に、その存在は「好かぬ」と口にしていた。
「好かぬな、この有り様。貴様もそうであろう?」
 人の寄り付かぬ廃棄区画、染め上げられた鈍い色の路面の上で一体の天魔が身を翻した。
 黒いマントを硝煙の風になびかせるその姿は異形というだけでは足らない。
 昆虫のような複眼に触覚を有する銀色の痩躯はそこに「在る」だけで嫌悪感を催す。
 まさしく「異質」そのもの。
 その眼前にかしずくのは同じく異質を体現したヴァニタスであった。こちらも虫を思わせる身体の造りをしている。特徴的なのは人間の執事のように片目にモノクルをつけていることであった。
「はっ。このままでは異質を許容するのに人間はあまりにも脆弱。分解し、解体し、解析するのにも、時間が足りません。マイマスター、――ソニックウェイヴ」
「分かっておるではないか、モスキート」
 マントを風になびかせ、ソニックウェイヴと呼ばれた天魔はモスキートなるヴァニタスの額に鋭い爪を立てる。
 そのまま鍵を開けるかのように手首をひねった。
 モスキートの額に赤い傷跡が浮かび上がり、照り輝く。
「狩りの合図だ、モスキート。円盤と遣い型をつけてやる。一晩で三十人。慈悲など要らぬ。――殺せ」
「御意に」
 身を翻したモスキートに付き従うのは低空を舞う円盤型吸血鬼とエイリアン型のディアボロであった。
「行くぞ、ディアボロ共。ヒトの感覚で我ら天魔の域に土足で踏み入ること、どれほどの覚悟か問い質す」

「廃棄区画にて、前回目撃されたエイリアン型と思しきディアボロが確認されました。問題なのは、これを」
 同時にプロジェクターに映し出されたのはエイリアン型だけではない。随分と前に寒村を騒がせた円盤型吸血鬼も同伴している。
 そして――異質さを醸し出しているのは、円盤型とエイリアン型が結託して、人を攫い、廃棄区画にて処刑を行っていることであった。体液を奪われ、ミイラのようになった人々をエイリアン型が捕食している。
「総数にして三。円盤が一、エイリアンが二ですが……依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「廃棄区画に蔓延るディアボロの駆逐作戦です。人間を攫い、処刑する。それだけでも許せない存在ですが、それと、気になる影がもう一つ」
 エイリアン型、円盤吸血鬼に混じって観測されたのは蚊と人が混じったかのような姿形のヴァニタスであった。
「ヴァニタス、しかしそれほどの能力の高さではないのはディアボロと密集していることからも明らかと。ですが今は、一つでも天魔勢から人類の盤面を取り戻すことが重視されます。ディアボロ三体にヴァニタス一騎。既知の敵とは言え油断なさらぬよう。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


リプレイ本文


 エイリアン型が運んでくる生贄に不備はない。モスキートが片手を振るい、殺害を命じると、円盤吸血鬼が触手を伸ばし、命令を実行する。モスキートは片手に懐中時計を握っていた。
「一晩で三十人。目標は達成されつつあります、マイマスター。しかし、どこか空気が……」
 モスキートの感覚していたのは空気の澱みだ。今までのような圧倒の空気にどこか異質なものが混じり始めている。
 瞬時にその細い指先から銀糸を発生させた。予感だ。
 敵が来る、という第六感。モスキートは姿勢を沈め、エイリアン型に命令した。
「捕食やめ。どこか……妙だ。彼奴らの中に我らを殺し、滅ぼし尽くす存在……撃退士の接近を感じる」
 それは額につけられた傷口が天魔の本能を呼び起こしているからだろうか。赤く滲む傷が開き、脳裏に直後巻き起こる剣圧の暴風を感覚させた。
 モスキートが反射的に飛び退る。
 先ほどまで自分のいた空間を引き裂いたのは雪室 チルル(ja0220)の剣であった。
「惜しいわね! でも、鎧袖一触よ! 一気に決めてやるんだから!」
 構えたチルルへとエイリアン型が殺到する。二体のエイリアン型が挟むように攻撃しようとしたのを雫(ja1894)の一撃と水無瀬 文歌(jb7507)の放った炎が阻んだ。
 モスキートが歯軋りし、撃退士の到来に苦々しい感情を浮かべる。
「力ある者共か……」
「どうして人と天魔の皆さんで手を取り合おうとしているこの時期に、こんなことをするんですっ!」
 文歌の問いかけにモスキートはモノクルを付け直し、些事だ、と返す。
「今、なんと?」
 雫が剣を構え、姿勢を沈める。モスキートは今一度言ってのけた。
「些事だ、と言っている。人と天魔の共棲? 手を取り合う? 馬鹿馬鹿しいこと、この上ない。貴様らとて、許容できる存在とそうではない存在がいるはずであろう。我らはその提案、許容できかねる。ヒトからして我らが異形のように、我らからもヒトは異形なのだ」
「そんな……私にはナハラさんという複眼の悪魔さんやドォルさんという異貌の天使さんとも友達です。ただ異形というだけで嫌ったりしません。……でも罪もない人たちをむやみに傷つけるというのなら、私は貴方たちを倒すことに、躊躇いはありませんよっ」
「躊躇い、か。笑わせるな、撃退士。違うから殺すのだろう? 違えばそこに、異論を挟む余地はない」
「――確かに、俺らとお前は随分と違うようだ」
 モスキートの背後へと降り立った向坂 玲治(ja6214)が白銀の槍を突き上げた。
 モスキートの銀糸が固まり、糸の結界を形成する。暴風のような一撃は防がれた形となったが、玲治の瞳に宿る闘志は熱く滾っている。
「ようやく……落ち着くって時に出てきやがって。賑やかしのつもりか? それこそ余計なお世話ってもんだ」
 モスキートは手を繰って円盤吸血鬼を走らせる。高速回転を伴わせながら円盤吸血鬼が玲治へと迫った。槍で受け止めつつ、モスキートの射程から逃れまいと攻撃を返そうとする。
 雫とチルルが一斉にモスキートの背中へと飛びかかったが、エイリアン型がその太刀を制した。
「雪室さんは円盤の破壊に!」
「分かっているわ! 邪魔よ!」
 エイリアン型を突き飛ばし、チルルの俊足が円盤吸血鬼へと向かう。
「逃すと思うか」
 モスキートの手繰る糸はそれぞれのディアボロの神経部位へと接続されていた。
 エイリアン型の首裏にそのまま繋がった糸の作用か、エイリアン型があり得ないほどの速度で跳躍しチルルへと並走する。
 チルルは剣で瓦礫を巻き上げその足を阻害しようとしたが、エイリアン型は瓦礫を受けてもまるで効果がないようであった。
 円盤吸血鬼の触手が引き出され、玲治が槍を一回転させていなす。
「核はそう簡単には見えないか……!」
「手順、じゃないですかねぇ」
 円盤型へと不意に降り立ったのはエイルズレトラ マステリオ(ja2224)である。漆黒の衣装が翻り、ヒリュウを伴わせる。
「ハート。好位置だよ。円盤の真上なら、他のエイリアンやヴァニタスも視野に入れられる」
 ヒリュウが鳴いて円盤吸血鬼の内部から発せられた触手を翻弄した。エイルズレトラ本人は円盤の直上を取り、手にした刀で触手の先端を切りさばいていく。
「末端のほうが痛みは鋭いってのは生物なら共通でしょ。チマチマ刀夜っていると本丸に逃げ出されてしまうんでね。今回ばっかりは不本意ながら」
「――チームワークって奴を見せてやんよ」
 言葉尻を引き継いだジョン・ドゥ(jb9083)が円盤のすぐ脇へと出現する。触手が走ったが、その攻撃をあろうことか受け止めた。
「引きずり出してやる」
 黒く濁った炎が噴き出され円盤吸血鬼を内側から灼熱が焼き尽くす。あまりの熱に円盤吸血鬼が裏返った。
 その好機をチルルが見逃さない。
「そこよ!」
 跳ね上がったチルルの剣が一閃し、円盤吸血鬼の核を両断する。最後の足掻きか、円盤吸血鬼が高速回転をジョンへと放とうとしてきた。しかし、彼は落ち着き払ってその捨て身を薙ぎ払う。
 黄金の槍が鬼の咆哮を発し、円盤吸血鬼がこの世にいた証明すらも粉砕していた。
「さっさと本丸行くぞ」
 エイルズレトラへと言葉を発したジョンに、彼は疑問を呈す。
「今回は随分と……言葉少なですね」
「――んー、いや。何でもねぇわ」
 言葉にするべきではないだろう。
 今回の敵との対峙、自分にも思うところがあるなど。彼らの思想にどこかで共感しているなど、言うべきではあるまい。
「こちらジョン、円盤は破壊した。あとは」
「あとは、エイリアン二体と、ヴァニタス……!」
 エイリアン型の一撃を剣で弾いて後ずさり、雫はその手から滴る毒に眉根を寄せた。
「……変な毒じゃないでしょうね? それ。そうでなくとも、今までに戦ったことのない形状の敵、こちらは慎重にならざるを得ない、わけですか。まさしく未知との遭遇、ですね」
「雫さんっ。炎で敵の動きを止めます。その隙に召喚獣を」
「ええ、そうしたいのは山々なんですが、敵の動き、気づいていますか?」
 文歌は唾を飲み下した。
「……よくなっています、よね……。玲治さんと戦っているヴァニタスが遠隔操縦している、ってことなんでしょうか」
「二体とも一気に仕留めたいところ。でもこのままじゃ半端で、し損ねる」
 どう動くべきか、慎重に足を擦らせた雫へとエイリアン型が飛翔する。上を取られれば不利になるのは必定。
 やはり早期に決断をするべきか。そう考えかけた二人へと、声が弾ける。
「鬱陶しいなぁ、あれ。速いし、飛ぶしねぇ」
 瓦礫の上でしゃがみ込んでいるのは鬼羅を肩に担いだ鬼塚 刀夜(jc2355)である。
「鬼塚さん……。いけそうですか」
 文歌が目線で窺う。刀夜は飴を齧り、口角を吊り上げて見せた。
「速いと言ってもあれじゃ、まだまだだ。隙が欲しいんでしょ? いいよ、あげる」
 瞬時に射程に入れた刀夜が鯉口を切る。エイリアン型の刃のような爪と打ち合い、瞬間的な火花が咲いた。
 降り立ったのはアスファルトの地面である。背後から爪を軋らせてエイリアン型が肉迫してきた。
 刀夜は振り返り様に刀を繰り出し、爪を弾く。飛翔するエイリアン型が一気に決めようと翅を振動させ、刀夜の頭蓋を割ろうとする。
 刀を掲げて受け止めつつ、反転して攻勢に移った。刃をその喉笛に突き刺そうとするが、寸前のところで敵は射程外へと逃げる。
 鬼羅を掲げ、刀夜は瞬間的に地の利を脳裏に叩き込む。
 エイリアン型が仕掛けた瞬間、宙返りを決めつつ大きく後退しそそり立った壁を足場にした。そのまま膝に力を込め、中空のエイリアン型へと一気に接近する。
 エイリアン型がさらなる高空に身を浸そうとするのを、刀夜は刀の鍔先で自身の親指を切りつけていた。
 滴った血が鬼の力と呼応し、斬撃の軌道が分散する。
 鞭のようにしなった紅い刃がエイリアン型の背筋を切りつけていた。次いでその横合いから一閃。中空のエイリアン型が打ちのめされる。
「よっと、背中借りるよ」
 高度を下げていたエイリアン型の背を足場とし、刀夜は地上のエイリアン型を見据えていた。
 放たれた無数の剣閃がエイリアン型の逃げ場をなくす。直後に刀の峰で踏み台にしたエイリアン型の横腹を殴りつけた。
 二体のエイリアン型がもつれ合いつつ地上へと落下する。
 言葉にはしない。ただ戦士としての直感が雫へと攻撃の好機を伝えていた。
 白の召喚獣が魔術の陣から引き出されていく。猛る妖獣――ティアマット。口腔部からこの世ならざる呼気を吐き出しつつ、その異形が二体のディアボロを睥睨した。
 雫が手を払う。
 瞬間、放出された溶岩の灼熱が地面を伝い、二体のエイリアン型へと火柱を見舞った。
 一撃だけでも表皮を焼かれるほどの威力。それが何度も、いくつも交差して続くのである。
 攻撃が止んだその時には、ディアボロは完全に炭化していた。黒煙を棚引かせつつ、エイリアン型が倒れ伏す。
 降り立った刀夜へと謝辞を述べようとして、彼女は既に次の標的を見据えていた。
「歯ごたえはあるんだろうね? この局面で出てくるんだ。それなりの覚悟ってのは持ってもらわないと」
「……行きましょう」
 駆け出すと同時に雫は通信機に吹き込む。
「エイリアン型二体を殲滅。残りはヴァニタスのみです」
「了解! ……とのことだ、モスキートさんよ。いい加減、終わるとも知れないこの打ち合いもとどめと行こうぜ」
 槍の穂を下段に構え、玲治が言いやる。モスキートは懐中時計を見やっていた。
「十分未満……それなりの熟練度と見た」
「計算している場合か? 言っておくけれど、おたく、ピンチだぜ」
 円盤吸血鬼を破壊したチルルが飛び込み、横合いから剣筋を叩き込もうとする。
「これでっ!」
「捉えたつもりか」
 糸の束が壁となりチルルの剣術を押し留める。
 しかし、その銀糸の軌道に乱れが生じていた。ジョンの放つ攻撃がモスキートの銀糸に極めて近い動きを演じ、その精密な稼動を弱めているのである。
「小癪な……撃退士共め」
「随分と三下な発言だぜ、そりゃ。如何な覚悟だと? 勘違いするなよ。俺は依頼だから殺す。貴様らはヒト如きを叩き潰す……虫の駆除に理由がいるか?」
「理由、か。言う通りだ、撃退士。貴様らは我らからすれば虫――否、それ以下よ」
 放たれた糸が地面から発し、玲治の突き上げ攻撃を弾いた。舌打ちを漏らしつつ、玲治が下がる。
「どこから来るのか分からないのだけが厄介だな、この糸。だが、そろそろ年貢の納め時だぜ」
 エイリアン型を倒した三人が合流しつつある。モスキートは片手を払い、糸の結界を強固にした。
「なれば、時間稼ぎと行こうか。いずれにせよ、この強靭な結界を破壊する術は――」
「ない、とでも言いたいの?」
 遮られた言葉と共に放たれたのは突撃。全身の膂力を解放した一打に結界がたわみ、それぞれの糸の連結が乱れていった。
 糸の結界を引き千切った先にいたのは、殺気を滾らせた瞳を持つ桜庭愛(jc1977)である。
 平時のような水着姿ではない。制服姿の彼女は糸を握り締め、根元から引き抜いた。
 糸は触れればそれだけでダメージの代物であるはずなのに、愛からは気圧された様子は一つもない。それどころか静かに歩み寄ってくる。
「ねぇ、あなたたちからすれば、人間はエサなのかな。よく分かんない。だって、あなたたちの価値観で殺された人たちって、じゃあ何なの」
「惑わせるか。ヒトの分際で!」
 地面から次々と糸が放たれる。それぞれに攻撃性能を宿らせた糸は刃の如き威力を誇るのだが――愛はそれらを迸ったオーラと共に切り裂いていた。
 オーラの形状は不動明王を形作り、その憤怒の眼差しがモスキートを睨み据える。
「もっと本気で来れば? 手加減はしないから」
 袖を捲くり、愛は手招きする。モスキートは両腕を交差させさらなる千刃の糸で愛の体躯を叩き潰そうとした。
 応えたのはただの一閃のみ。
 明王の刃が薙ぎ払った空間がねじれ、モスキートへと千刃がそのまま反射されていく。
「解体なら、お前ら以上に私のほうが得意よ♪」
 モスキートは結界陣を練り直し、愛を相手取るのに新たな糸の塊を構築しようとする。愛は黒く澄んだ瞳のまま、笑みさえ浮かべつつモスキートへと一閃を放った。
 一撃、モスキートの脚部が薙ぎ払われる。
 もう一撃、姿勢を崩したその体躯へと明王の剣が引き裂かんと迫った。
 咄嗟に張った糸による制動をかけなければ胴を割られていただろう。モスキートは肩で息をしつつ、愛へと視線を投じる。
「貴様、一体……」
「あ、痛覚あるの? 羽虫の癖に」
 瞬時に接近した愛がモスキートの腹腔へと掌底を浴びせる。よろめいた身体へと明王の刃が無慈悲に打ち下ろされた。
 首を刈った、かに思われたが首筋を保護したのは無数の糸による鎧である。
 舌打ち混じりに愛がモスキートの身体を足蹴にする。
「情報、首だけでも喋れるんじゃないの? 昆虫だし」
 玲治は圧倒されていた。平時とはまるで異なる愛の戦いぶり。まさしく鬼神と形容しても差し支えない。
 エイリアン対応班が合流したその時には、モスキートは無力化されていたに等しかった。
 玲治が代表してその背筋に槍を突きつける。
「で? おたくらは何のつもりでこんなことを?」
「知れたこと。我が主のためだ。いいことを教えてやろう、撃退士諸君。異なる者同士が争うのが世の常……ヒトは因習に縛られ、宿命の上に闘争する。如何に天魔と人間が手を取り合う、とは言ってもそれは形骸の話だ。誰も彼もが同じように思っているわけではない」
「もういい。喋らなくても。首を落としましょう」
 愛が明王の刃を振り上げる。刹那、モスキートは――嗤っていた。
 背筋が開き翅が超振動の音叉を打ち鳴らす。警戒していた撃退士たちはその程度で掻き乱される集中力ではなかったが、完全に想定外であったのは、翅の内側から発せられた爆発性のある種であった。
 いくつかの種がばら撒かれ、その視界を奪う。
 玲治が槍を打ち下ろしたその時にはモスキートは中空にあった。
「廃棄区画第七号。その場所にて、我と主――ソニックウェイヴ様が待つ。貴様らはその饗宴に招かれた駒よ。今は」
 身を翻して飛翔したモスキートに追いつく術はなかった。
 悔恨を噛み締める中、雫がそっと口にする。
「エイリアン型を倒した際、何かこの場所に手がかりがあるのでは、と思って探索したのですが、この血文字が……」
 壁面に血で描かれていたのは悪魔の署名であった。
 虫のシルエットに月を抱いた形状のシンボルに、玲治は舌打ちする。
「連中、まだ先があるってことかよ。ったく、ようやく落ち着くって時に出てきやがって。……いや、だからこそ終わり切る前にってことなのかもな」
 月下、血に濡れた廃棄地区で撃退士たちは次の戦いへの蠢動を感じていた。


依頼結果