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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/05/31


みんなの思い出



オープニング

 男児の健やかな成長を願い、催される鎧武者の飾り――五月人形。
 その家でも五月人形が一年ぶりに外に出ようとしていた。しかし小屋のどこを探しても五月人形は見当たらないのである。
「あれ? どこに仕舞ったかな……」
 父親が探していると、不意にコツンと天井裏の梁で物音がした。
 仰いだ視線の先にいたのは骸骨が身に纏った五月人形であった。
 ハッとした直後には五月人形の草鞋が父親の頭部を踏み台にしていた。
 五月人形一体を身に纏った骸骨がケタケタと嗤い、宵闇に消え行く。
 腰に提げた刃がぎらりと輝いていた。

「五月人形とは古来、男児の健やかなる成長のため、催されるものでありましたが……」
 濁したのはその五月人形が悪鬼の如く荒れ狂い、人々を襲う狂乱である。纏っているのは骸骨であったが、血潮を吸ったかのように赤い。
「まさかこんな時にまで現れるとは……。依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「五月人形の鎧自体にはさほど耐久力はないと思われますが、依頼主からできるだけ五月人形……つまり兜部分には傷を与えないで欲しい、とのお達しがありました。元々個人の所有物ですから破壊は最終手段でお願いします。纏っている骸骨型ディアボロが本体と思われます。五月人形の鎧は本物ではありませんから非常に機敏であり、鎧武者だとは思わないほうがいいかもしれませんね。ただし、刀だけは自前なのか、刃には殺傷性能があります。刀とディアボロのみ確実に破壊してください。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


リプレイ本文


「要はただのコソ泥やろ? つまらんことするやつやなぁ」
 欠伸をかみ殺し、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はぼやいていた。五月人形を粗末に扱うディアボロの存在に心の底から辟易している様子だ。
「コソ泥でも、やらなきゃならない戦いがある」
 結んだ龍崎海(ja0565)は出現情報を纏めていた。宵闇に混じり、人を斬る異形。今回の依頼が厄介なのは、纏っている鎧兜は破壊しないでくれ、というお達しだ。
「自分はいつから五月人形出さんようになった?」
「いつからだっただろうな……覚えてさえもない。案外、そういうものなのかもしれない」
「ま、健やかに育つように祈りを込めて作られた代物を出さなくなって久しいってのはある意味、健やかに育っている証明でもあるからな。いいことなんやろ」
「破壊せずに中身だけ攻撃しろ、というのはなかなかに骨が折れる。俺はそこまで精密な一撃を約束はできない。だからゼロ、お前が……」
「俺が引き剥がしを務めろ、言うんやろ。分かっとる。しかし、壊せ言う依頼は数多いが壊すな、言うのは難しいな」
 それも一つの依頼の形式ではある。ディアボロの纏っている五月人形に傷をつけるな、というのならばそれに従おう。
「さて、けったいなディアボロを叩きのめしに行こか」
「壊すなよ?」
「承知の上やって」
 言いやってゼロはひらひらと手を振った。

「いつもの水着だとおとりにならないかな? 行動は制服に着替えて、そこから変身に繋げてみせますかっ」
 意気揚々と桜庭愛(jc1977)は戦闘までの行動を脳内でシミュレートする。雫(ja1894)は嘆息を漏らしていた。
「破壊するな、ですか。今確認を取りましたが、やはり五月人形の兜だけではなく、纏っている鎧も込み、とのことで」
 体操をする愛に雫は確認する。
「あの、壊しちゃ駄目なんですよ?」
「えー、うん。分かってるって」
「何時ものように破壊してもいいのならば別なんですが、傷つけるな、というのは思ったよりも精神をすり減らすもので」
「正義のプロレス技でその辺は大丈夫! 何も当り散らすみたいに攻撃するだけがプロレスじゃないって」
「……分かっているのならいいんですけれど」
 大雑把な攻撃では自分でも破壊しかねない。今回の場合、緻密なパズルのように慎重を期すべきだろう。
 制服を纏った愛は、よしと息巻いた。
「私が囮は引き受けたから。他の三人で包囲して攻撃。可能でしょ?」
「可能かどうかを議論するのならば可能ですけれど……囮でいいんですか? 正義のプロレスの……」
「反するって? うーん、私にも一応、考えはあるから。あんまり心配しないで」
 雫の懸念にあったのはプロレス技で今回のディアボロに対抗できるのかの疑問であった。
 敵は刃の持ち主。加えてかなりの速度を伴っていると聞く。
 ともすれば生身に近い愛では深手を負いかねない。武装した自分のような人間のほうが囮に相応しいのではないか、と考えていたが愛は手を振る。
「正義のプロレスは悪を断つ! そういうもんだからさっ」
 そこまで言われてしまえばこちらも深く介入するのは止したほうがいいだろう。いずれにせよ、自分たちは撃退士。そう容易くやられるようならばこれまでの激戦を潜り抜けてはいまい。
「じゃあ、私は敵の足止めにかかります。桜庭さんは想定通り」
「うん。囮として使命を全うさせてもらいます!」
 その笑顔には余裕さえも窺わせた。

 五月人形を纏った悪鬼はその夜も獲物を探し求めていた。
 目にも留まらぬ速度で電柱の陰に隠れ、無防備な対象を視野に入れる。一気に肉薄して背筋を断つ。
 刃が奔りかけた瞬間、振り向いた愛がニッと笑みを浮かべた。
「かかったわね」
 背後からの刃に気づけたのはディアボロにも先天性の戦闘神経があったからだろう。
 ゼロの大鎌が先ほどまでディアボロの首があった空間を引き裂いていた。
「あちゃー、一撃必殺のつもりやったんやけれどな」
 そう言いつつも、ゼロの戦闘姿勢からは全く油断など垣間見られない。ディアボロが刃を構え、姿勢を沈めた直後、ゼロへと飛びかかった。
 飛翔したゼロが一閃を回避し、鎌で刃の追撃をいなしていく。
「スピードが持ち味、言うて聞いたで。速さ比べと行こか?」
 ディアボロの刃がゼロの首筋を掻っ切ろうと迫る。ゼロは全ての刃をギリギリのところで防御し、返す刀で峰打ちを仕掛けていた。
「壊せへん、言うんは厄介やな」
 ケタケタと嗤ったディアボロが刃を携えて突撃しようとして、影から発生した腕がその体躯を掴んだ。
 拘束された形のディアボロに雫が言いやる。
「このまま一気に破壊する……のならばまだ簡単なのですが」
「せやなぁ。俺もやり方考えなあかん」
 布の槍に持ち替えたゼロが突き出し、結び目を解いた。
 兜が宙を舞うのを海がその手にキャッチする。
「これで第一段階はクリアだ」
「第二段階は、その鎧の剥ぎ取り。さて、いただこうか!」
 ディアボロの骸骨が急速に赤く染まる。毒の霧を発生させ、より軽量化したディアボロが闇の手を逃れる。
「軽過ぎて、掴み損ねた?」
 瞬時に跳躍したディアボロがゼロの上を取る。しかし彼も負けてはいない。飛びかかった刃を瞬時に避け、反転しつつ槍を打ち込む。
 突き上げた形の槍の一撃をディアボロは軽業師めいた動きで翻弄した。
 踊るようにこちらの攻撃をいなすディアボロがゼロを嘲笑うかのごとく距離を取る。
 しかしそれは愛の攻撃射程であった。
 制服を脱ぎ捨て、水着の戦闘スタイルへと変身を遂げた愛が瞬間的な速度を得て鎧に突撃する。
 突進の勢いのみでディアボロが鋭く吹き飛ばされた。
「ここからはっ、正義のプロレス技の出番よ!」
 跳躍した愛がディアボロの背後を取り、足を絡めて関節を極める。
 ミシミシとその身体が軋んだ。
「鎧は傷つけさせない! でも、骨の中身ならこれは効くでしょ?」
 ディアボロが毒の霧を放出すべく骨を赤く染めた。
 このままでは至近の距離である愛はダメージを負うであろう。
「桜庭さん! 迂闊だ!」
 叫んだ海に愛はサムズアップを寄越す。
「大丈夫! 私だってそこまで軽率じゃない!」
 蹴り上げた愛がディアボロを中空に浮かせる。
 落下先では雫が白い体毛に包まれた召喚獣を指揮していた。
「パサラン! ……唾液でべとべとになるかもしれませんが、これも致し方ないこと」
 パサランが大口を開ける。その口腔内へとディアボロは飲み込まれた。暫時、静寂が降り立つ。
 パサランがもごもごとディアボロを咀嚼していた。
 直後、その背筋が割れ、ディアボロが飛び出す。
 しかし、その身体には鎧はほとんど剥がれているも同義であった。パサランの唾液が鎧とディアボロの接続を緩くしたのだ。
「これで剥がしやすくなったはず! ゼロさん!」
 ゼロが布槍を下段に構え、そのまま突き上げた。
「もろうたで、その鎧、引っぺがす!」
 正確無比な槍の刺突が鎧を一枚一枚、剥がしていく。海が宙を舞うそれらを手に取っていった。
 気がつけば、敵の鎧は正面の胸当て一枚である。
「ここまで軽うなったら、もう逃げられへんぞ」
 当然、手加減もそこまでだ。ゼロが静かに鎌へと武装を変える。ディアボロが急速に制動をかけ、ゼロの射程距離の手前で跳躍した。
 その先に待ち構えていたのは雫である。刃が彼女の頭蓋を両断せんと迫った。雫は逃げも隠れもしない。
 その手からすっと、大剣を離した。
「雫さん?」
 愛も思わず、という形でその姿に瞠目する。脳天唐竹割りの刃を、雫はその手で――白刃取りを決めてみせた。
 刃の力を奪い、そのまま翻すことで敵の武装を完全に無力化する。
 ディアボロの背後へと心得たようにゼロが迫っていた。
 大きく引いたその手には鎌が握られている。
「武士の罪は打ち首が基本やろ? 似合わん五月人形を纏った罪、その他諸々、清算させてもらおうか。御首頂戴させて頂きますってな!」
 一閃。
 ディアボロの首を鎌の一撃が刈り取る。そのまま動きを止めたディアボロに愛が遅れて蹴りを叩き込んだ。
「雫さん! 大丈夫?」
 雫はふぅと息をつく。
「慣れないものですが、成功したようですね」
「おう。ナイスファイト」
 ゼロの拳が突き出され、雫はコツンと突き合わせた。

 鎧兜は無事、依頼主の元へと返還されたらしい。それを聞き届けてようやく今回の依頼の終了であった。
「しかし、五月人形なんて盗んで、けったいなディアボロやったな」
 ゼロの感想に雫は首肯する。
「破壊だけならばまだ楽だったんですけれどね」
「正義のプロレス技も叩き込めたことだし、よしとしますか」
「……俺、ほんまはそれも警戒に入れとったんやけれどな。プロレス技で壊してもうたら洒落にならんやん」
 その言葉に心外だとでも言うように愛は言い返す。
「正義のプロレス技は、相手の心をも砕くもの。物理的な攻撃ばかりが、何もプロレスの真骨頂ではありませんよ? 何なら試してみます?」
「いや、遠慮しとく」
 海が通信を受け取り、全員に達する。
「依頼主からもオーケーが出た。今回五月人形に損傷はなし。完璧なオーダーだったとのことだ」
「情況終了、言うこっちゃな」
 欠伸をかみ殺し、ゼロが言いやる。
「大分暖かくなってきたし、春眠暁を……言うことはもう五月も終わりか」
 一つの季節が区切りを迎えようとする宵闇の中、撃退士たちは明日に向けて歩を進めた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
 天真爛漫!美少女レスラー・桜庭愛(jc1977)
重体: −
面白かった!:2人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅