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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/03/01


みんなの思い出



オープニング

「昨年、我らは煮え湯を飲まされた……」
 そう呟く男に数人が首肯する。
 バレンタインにてチョコレートという浮かれ調子なイベントとは無縁な男達であった。
 彼らが戴くのは、昨年活躍した鬼型ディアボロ棍棒を模した武器と白いふんどしである。
「どうやら今年も連中に教えてやらねばならないようだな。2月14日が何の日なのか……」
 外套を身に纏った男達はめいめいに外に飛び出す。最後尾の男が棍棒と象徴たるふんどしを手に空に祈った。
「我らに祝福を授ける鬼よ! 滅バレンタイン教団の名において、現れたし!」
 その言葉に雷鳴が轟いた。
 直後、粉塵と共に現れた巨躯に男達は感嘆する。
「我々の声にお応えなさった!」
 鬼のディアボロが棍棒を両手に携え、下半身には真っ白な――ふんどしを纏っていた。
「パワーアップされた!」
 ふんどしを旗の如く振るう滅バレンタイン教団の男達の声に呼応し、鬼のディアボロが吼える。
「いいぞ……ふんどしの日に向けて、盛り上がってきたっ!」
 男達に守られたふんどしの鬼は今年もまた、一対一の果し合いを求め、唸り声を上げるのであった。
「我々の魂が告げている……。ふんどし好きに、悪い奴はいない、と!」

「依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が、どこか憂鬱に告げる。
「滅バレンタイン教団、もといふんどし推進男の会、というのが今年もまた、鬼のディアボロを呼び出しました。連中の要求は例の如く『どうしても討伐したければ、ふんどしの似合う実力者を連れて来い! そうでなくては一歩も通さん!』の一点張りで……。言ってしまえば去年で懲りていなかった、という話です。相手は二十四時間体制でディアボロを監視、狙撃手を通さない鉄の管理体制。当のディアボロとの戦闘条件はただ一つ。ふんどしの似合う奴になら、このディアボロを倒させてやってもいい、と……。つまり、こちらの撃退士もふんどしさえ装備していれば彼らに邪魔されず、むしろ歓迎されてディアボロとの戦いにもつれ込めるでしょう。例の如く鬼がいつ暴れ出さないとも限らないので、一応は慎重かつ冷静に……。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


リプレイ本文


「また今年も……嘘でしょ……」
 バスの中で項垂れた遠石 一千風(jb3845)は、ため息を漏らしつつ頭痛に苛まれていた。
 ふんどし推進男の会。あの時、解散したのだとばかり思っていたのだが――。
「な、なんていうか、なんていうかな依頼だね……。でも、頑張ろ、ね?」
 困惑した猫野・宮子(ja0024)のフォローに一千風は頭を振った。
「言っておくけれど、去年も全然容易くなかったのよ? 本当に脱がされるんだから……」「と、撮られちゃうんですか?」
 あたふたと慌てふためく宮子だがもう遅い。バスは現地に到着してしまった。
 頭を抱える一千風と赤面する宮子を他所に、一人、ニヤリと笑みを浮かべる存在がいた。
「女の子のふんどし……パラダイス」
 よだれを垂らして自前のカメラを磨いているのは東風谷映姫(jb4067)である。自らも女性でありながら、この戦いにおいて一番に気合が入っていた。チタンフレームの眼鏡が照り輝き、彼女がこの戦いにかける戦意を示す。
「……あの子、大丈夫なの?」
 声を潜める一千風に宮子は首をひねる。
「どうでしょう……撃退士なので味方、ではあると思うんですが……」
「こういうの、多数に意見を押される形になるのよ……普通こんな寒い中、裸に近いふんどし一丁なんて……」
「あっ、見えてきましたよ」
 バスの車窓から望んだ景色の中には、昨年と同じか、あるいはさらに規模が増長した、裸一貫にふんどしの風を棚引かせた男たちがいた。
 彼らの囲うのは両手に棍棒を有した鬼の巨体。
 昨年よりもふんどしが長く、自ら風を発生させているようであった。
「パワーアップしてる……」
 絶望的に一千風が呟く。宮子は男らの半裸に赤面した。顔を覆いつつも、目元を開く。
「本当にふんどし一丁なんですね……」
「来た。遂に、時は来た、というわけですね」
「い、言っておくけれど、あんたもふんどしにならないと、戦いはおろか、撮影なんて……」
「ご心配はなく。その心構えなら、既に」
 雅に笑い返そうとした映姫だが、邪念が溢れ出たのか、ぐふっ、とその可憐さに似合わぬ笑みが漏れた。
 一千風は敵がディアボロだけではない、と頭を抱えるばかりであった。

「ちょっ、聞いてねぇぞ」
 現地に到着したラファル A ユーティライネン(jb4620)はふんどしを棚引かせた男たちの説明するルールに困惑していた。
「ひとーつ! ふんどし神たるこのお方を撃退するのには、ふんどしの似合う者のみの果し合いにおいて勝敗は決定される」
「嘘だろ……? 鬼退治って聞いてきたのに、ヘンタイ同盟の集まりじゃねぇか」
「ガマンよ、ラファルさん。これ、聞いておかないと酷い目に遭うんだから!」
 経験則のある一千風の言葉を無下にはできない。それはそうとしても、とラファルは面子を見やる。
 困惑顔を浮かべ、いちいち赤面する宮子に、既に何かしらの気合が入っているような映姫。
 その中で、流麗にルール説明を聞き入っていたのは桜井・L・瑞穂(ja0027)であった。
「ようは勝てばいいんでしょう?」
 踏み込んだ彼女に一千風が押し止める。
「駄目よ! あなた。よくルールを聞かないと酷い目に――」
「問題ないですわ。そこの、ただ単に図体がでかいだけのディアボロを倒しさえすれば、何の問題もないことは明白」
 バッと着衣が解かれる。
 瑞穂は冬の寒空にその肢体を晒した。ふんどしはしっかりと装着している。
「うむ、通ってよーし」
 眼前に迫ったのは鬼の棍棒による一撃。それを瑞穂は軽くステップを踏んで回避し、紋章を振り翳した。
 炎が巻き起こり、鬼へと侵食する直進攻撃が放たれる。
 すぐに決着がつくか、と思われたが鬼の両腕の棍棒は飾りではない。瞬時に構築された棍棒の作り上げる暴風域が炎を掻き消した。
 あまりの風圧に何人かの会員たちが吹き飛んだほどだ。
「お、鬼よ。我々さえも道連れにするほどの苛烈なる力……!」
「ねぇ! よく分からないんだけれどこれ、どうなってるの!」
 粉塵が舞い上がり、フィールドが灰色に染まる。瑞穂が踏み入る機会を逃し、相手の射程を掴み損ねた瞬間、薙ぎ払われた棍棒の一撃に大きく後退した。
「フィールド、アウト!」
 審判の判定の旗に瑞穂が目を白黒させる。
「フィールドアウト? わたくしが?」
「だから言ったのに……。ルールをよく聞いておかないと、去年酷い目に遭ったって……」
 一千風の声に瑞穂はふんと鼻を鳴らした。
「まぁ、それなりにやるのではなくって? 先鋒の役目としては上々でしょう」
「そりゃあ、確かに今回のディアボロの戦力は割れたけれどさ……。次は誰が行くの?」
 できるだけ先延ばしにしつつ、自分の役目は回ってこないようにしたい。その懇願が届いたのか、二番手を自ら率先して引き受けたのは映姫であった。
「夜叉」と書かれた鉢巻を締め、ふんどし一丁の姿である。既に準備は万端の様子であった。
「その心意気……通ってよーし」
 審判の判定で映姫が踏み入る。鬼は両腕に掴んだ棍棒を高く掲げた。
 そのまま打ち下ろした一撃を映姫は軽業師めいた動きで回避し、瞬時に鬼の背後に回り込む。
「食らい知りなさい。豆機関銃!」
 真っ赤な機関銃の照準が鬼の後頭部を捉えた。
 そのあまりに流麗な射線に全員が、これは取った、と確信する。
 後頭部を撃たれれば如何に鬼とは言え即死。そのはずであったのだが……発射されたのが実弾ではなく、ただの豆であった、という想定外を除いては。
 文字通りの豆鉄砲に鬼はよろめくまでもなく棍棒を薙ぎ払う。
 映姫が、ひゃんと悲鳴を発して転がった。
「技あり!」
 判定に映姫は後頭部を掻く。
「節分仕様で豆を入れっ放しだったのを忘れておりました」
 てへ、とドジをした映姫に一千風は覚悟を決めたらしい。
「ちょっと待ってて。準備してくるから……」
 逃げられない、と悟ったのだろう。
 ラファルは依然としてこの寒空の下で鬼とふんどし一丁で語り合うなど冗談だと思っていた。
「……なぁ、俺、鬼退治って聞いたから来たんだが」
「ボクも、鬼退治のつもりだったんですけれど……どうやらこのようで」
「脱がずに済むんなら、それに越したことはないよなぁ?」
「ボクは……でもやるなら頑張りたいです」
「うむ! しかしながら、今回、ヘンタイ集団の検挙が最適だな!」
 言葉を継いだ雪ノ下・正太郎(ja0343)にラファルと宮子がうわっと仰け反る。
「……いつからいたんだよ」
「最初からいたが、どうにも相手のルールを知る必要があってわざと気配を消していた。ディアボロに便乗したテロか。許さん!」
「どうでもいいけれどよ……唯一の男ならもっと早くに戦えばよかったんじゃねぇの?」
「まぁ、シバキ倒すのに変わりはないが、相手の手の内を見るのも戦局を見るうちに当たるからな」
 目標の鬼は棍棒を肩に担ぎ次の相手を待ち望んでいる。
「き、来たわよ……」
 きょどきょどと周囲を見渡しつつ現れた一千風は金のふんどしと白のビキニトップに着替えていた。
 ふんどし推進男の会が一気に沸き立つ。
その時、シャッターが切られた。その音の先を見やると映姫がふんどし姿のまま、砲身のようなカメラを手にしている。
 よだれを垂らしつつ、堂々と撮影器具を向けていた。
「さ〜て、やりましょうか。今日はふんどしの女の子を堪能するんだ〜♪ 鬼退治は男性陣にお任せ〜」
「あ、あんた! そのためにわざと豆鉄砲で先にやられたのね!」
「何のことやら〜。あっ、もうちょっと下目に。いいカットお願いしまーす」
「……さっさと終わらせるわよ」
 鬼が棍棒を振り上げた。あまりに大振りなその立ち回りに一千風は素早く射線をかわし、背後へと回り込む。
 足元を薙ぎ払えばすぐにケリがつくはず、と放ったローキックを鬼は跳躍して回避した。
 だがその身体は隙だらけだ。
「もらった……!」
 拳を固め鬼へと猛攻を放つ。よろめいた鬼は今にもすっ転びそうだ。一千風は足を擦り、宙返りを決めた。
 着地した瞬間の鬼へと放たれたのは雷の如き跳び蹴りである。ふんどしをなびかせた渾身の蹴りが鬼の片方の棍棒に亀裂を走らせた。
「こんの! 潰れなさいよ!」
 もう片方の足で蹴りつけ背面宙返りをしつつ着地する。
 鬼が棍棒を振るうと着弾した棍棒が折れ曲がっていた。フッと一千風が笑みを刻む。
「思っていたよりその棍棒、頑丈じゃないみたいね。これで最後よ。ディアボロも、この会も」
 鬼は棍棒を捨て、一本の棍棒を正眼に構えた。
 どうやら本気の様子。一千風は両腕を構え、相手の動きを観察した。
 ――二の腕の筋肉が膨れ上がっている。来るのは真正面からか。
 足を大きく引いて次の一撃への布石を打つ。
 腕の構えはあくまでフェイク。鬼の次の一手を確実に潰す。
 鬼が誘いに乗った。唐竹割の一閃を一千風は両手を交差させていなし、その本懐を足元への薙ぎ払い攻撃に充填する。
「転ばせればいいんでしょ! この勝負、もらった!」
 鬼の姿勢が崩れ、その体躯が震える。取った、かに思われた鬼が即座に棍棒の位相を変え、地面に突き立てた。棍棒が支えとなり鬼の姿勢を維持する。
 一千風はそのまま鬼を押し倒せれば、と力を込めようとして、激しく切られたシャッター音に我に帰った。
「さ、最高ですやん……!」
 映姫がハァハァと息を切らしてビデオカメラと撮影器具を激しく稼動させている。
「な、何撮ってるのよ!」
 ぼんと湧いた羞恥心が、勝てた勝負に亀裂を走らせた。
 鬼が棍棒を振るい上げ一千風を後退させる。
「フィールド、アウト!」
 勝てた、という悔恨よりも一千風が指差したのは映姫であった。
「何やってるのよ!」
「いやはや、へヴンを見せてもらってこっちはもう、最高の素材を……」
 文句を漏らしつつも負けたことには変わりない。
 宮子がぐっと拳を握り締めた。
「ボクの番ですね。と、とりあえず、魔法少女まじかる♪ みゃーこ、お祭りバージョンで出陣にゃー♪」
 真っ白なふんどしに身を包んだ宮子に映姫がすかさずカメラのレンズを向ける。
「なに、俺もここいらで本気になるか。龍転!」
 叫んだ正太郎が双剣を頭上で回転させる。さながら龍のように舞い上がった剣がその手に再び握り締められた時、光纏が青龍のヒーロースーツを顕現させていた。
「リュウセイガー! 見参!」
 リュウセイガーのスーツの上より正太郎はふんどしを締める。
 その気迫に審判役も息を呑んだ。
「行くぞ。まじかるみゃーこ!」
「ふ、ふぇっ? そ、そうにゃね! よい子のヒーロータイムにゃ!」
 前傾姿勢になった宮子の猫パンチが疾風の如く駆け抜けた。
 鬼が視線を奪われている間に正太郎がその懐へと完全に潜り込む。
「行くぞ、鬼よ! 相撲スタイルでいざ尋常に、勝負!」
 四股を踏んだ正太郎の膂力に鬼が正眼に棍棒を打ち下ろすが、その射線を宮子の拳型のアウルが突き崩す。
「ロケットパンチにゃ! 今度はボクの番にゃね♪ 正義の魔法少女、いっくにゃー♪」
 奔ったのは魔法少女の刹那の拳。それらが幾重にも折り重なり、鬼の目線を翻弄する。
「前にも気をつけないと、危ないぜ」
 正太郎が鬼を押さえ込み、その姿勢を崩そうとする。
「転ばせればいいにゃら足狙いでいくにゃ♪ 姿勢を低くして、突撃にゃー!」
 鬼の横腹に宮子の猪突が入り、鬼が棍棒を投げつけた。直後、本懐であるところの張り手が正太郎に炸裂した。
 覚えず距離を離したところで宮子が割り入って来る。張り手の射程制空権は逃れようもない。
「いけない……! まじかるみゃーこ! 避けるんだ!」
「避ける……? ダメにゃ。正義の魔法少女に、二言はないのにゃ! このまま突撃にゃ!」
 張り手が嵐のように宮子へと襲いかかった。確実にその小さな身体を吹き飛ばしたかに見えた張り手であったが、宮子は突撃の瞬間、自ら身体を丸め、その射線の下に潜り込んだのだ。
 一瞬、その姿が消えたかに思われた直後、宮子の猫パンチのアッパーが鬼の顎を捉えていた。
「どうにゃ! これがまじかるみゃーこの実力にゃ!」
 鬼が仰け反り、そのまま倒れ込む。審判が信じられない心地でそれを呆然と眺めていた。「カウントだ、カウント!」
 正太郎の声に審判がカウントを取り始める。テンカウントを宣言された途端、男たちが呆然とした。
「ふんどし神が、負けた……」
「勝利のポーズにゃ! 魔法少女は負けないのにゃ!」
 腰に手を当てた宮子が完全勝利を感じ取って立ち上がった途端、ふんどしがはらり、と落ちた。
 誰もがその視線の先を追っている。
「うに、何か……みゃみゃみゃ……」
「駄目だ! このような破廉恥は許さん!」
 リュウセイガーが視線に割って入る中、映姫がローアングルからばっちりとそれを決めていた。
「うひょひょひょひょ、こりゃ天国やで〜! 大量、大量!」
「とかく、これでディアボロの討伐は完了――」
 言いかけた正太郎の声音を男たちが遮る。
「おい、待てよ! そこにいる金髪美少女だけふんどしじゃないぞ!」
 びくり、とラファルが肩を震わせる。
「べ、別にいいだろーが!」
「いや! 全員何だかんだでふんどしになったんだ! そいつはずるい!」
「そう言われてみれば……」
 一千風たちも疑念の視線を向ける。リュウセイガーもさすがにこれは言い返せないらしい。
「……せめてふんどしの証を……」
 カッと頬を赤らめたラファルが偽装と服飾を脱ぎ捨てる。
 神のふんどしが風を棚引かせ、腹腔から声を張り上げた。
「う、うるせー! ヘンタイ共が! これで塵に還りやがれ!」
 背筋からリアクターが出現し、腕が双塔超重力砲に移行する。神のふんどしを視線に入れた人々はその輝きを網膜に焼き付けつつ、放たれた羞恥の赤い重力砲の恍惚に抱かれた。
 映姫がばっちりと撮影し、笑みを焼き付ける。
「まさに、へヴンやでぇ……!」
 爆炎の嵐がふんどし集団を吹き飛ばした。

 一応は犯罪行為、ということで正太郎は人々を警察のお縄につかせる。
「しかし……とんだケリがついたもんだ」
 鬼は完全消滅し、戦場にいた自分たちもラファルの羞恥のあおりを受けた。
 けほけほと一千風が咳払いする。映姫は生き残った撮影機器のメンテナンスに余念がない。
「絶対! もう二度とやらないからっ!」
「さて、それはどうだろうなぁ……」
 次々と警察車両に入っていくふんどし集団を脇目に、正太郎は嘆息をついた。

「別に、俺はふんどしがどーとか、んなんじゃねーからな。断じて違うから!」
 ペンギン帽を弾いて、ラファルは今日も我が道を独走する。


依頼結果