.


マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/11/25


みんなの思い出



オープニング

 人の介入を精神的に拒む場所、というのは古来より存在する。
 古代遺跡、あるいは未開の洞窟、深海、宇宙――。
 ただし、この地上で、なおかつ文明化の甚だしい現在において、未開の地、というのは物理的な問題でしか未解決などあり得ない。
 成層圏から地上を俯瞰する衛星映像に誰もが恩恵を受けられる時代において、真の意味での前人未踏はあり得ないはずであった。
 しかし、それを覆すとある投書が、テレビ局にもたらされた。
「団地一つ分ほど離れただけの場所に入れない」
 その投書に疑問を発し、数人のテレビクルーが町に招かれた。最初は深夜番組の埋め合わせ程度に思われていた依頼であったが、現地に到着した人々を待っていたのは、閑散とした団地の中にある異常地区であった。
 カメラマンが声を張り上げる。
「おい! あれ! あれ、人じゃないぞ!」
 指差された方向にいたのは銀色の身体を持つ異形であった。赤いてらてらとした眼がカメラを睥睨する。全体像は細身であり、鬣のような銀色の体毛に覆われていた。
 途端、こちらへと追いすがってきた。
 逃げ惑うカメラマンだが仕事の習い性か、きっちりカメラを異形に向け続けていた。
 しかしそのせいかすぐに追いつかれ、異常発達した爪がカメラマンを襲った。
 血飛沫が舞い、カメラが放り出される。
 そのカメラを異形が覗き込み、掴み上げたところで映像は途切れた。

「この世には、未開の地、というものは物理的障害以外では存在し得ない、と思われてきました。衛星映像の発達から鑑みても、全く理解不能な場所、というのは数えるほどしかありません」
 そう切り出されるが、全員の視線はプロジェクターに映し出された銀色の異形に注がれていた。
「天魔を相手取っている我々からしてみれば、瑣末かもしれませんが……。依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「銀色の身体をしたディアボロが一区画を占拠している、とのことです。調べたところ、廃棄区画を行き来する存在のようで、この一区画のみ、ディアボロの巣窟になっている、とのことです。出現するのは、先ほどから表示しているこのタイプ」
 銀色の体毛と細身の肉体を持つディアボロはまさしく宇宙生命体のようであった。
「便宜上、これをエイリアン型と……宇宙人など信じられないでしょうが呼称します。銀色のこれの総数は五。人間の介入を拒んでいる殺戮個体です。周辺住民の安全も鑑みて、早期に討伐すべきでしょう。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


リプレイ本文


「なぁ、宇宙人っていると思うか?」
 そう切り出した赭々燈戴(jc0703)に桐ヶ作真亜子(jb7709)は怪訝そうに眉をひそめる。
「いるわけないじゃないですか。いたらだって、もっと世の中面白いですよ」
「だよなぁ。でも、今回の標的はそれっぽい。エイリアン型っていうのは伊達じゃないらしい」
 双眼鏡から覗き込んだ廃棄区画を度々行き交う銀色のディアボロに燈戴はふんと息をついた。
「ボクからしてみれば、天魔だとか人間だとかそういういざこざってのはいまいち分からないですけれど、手の届く範囲を守るだけです」
「いい覚悟だ。真亜子嬢。俺もそれには賛成。ただ、今回の敵の場合は絶対に一人にならないこと。常に班行動をしておくこった。その辺りは黄昏の坊主に任せておくけれどよ」
「どうであれ、ボクがやるのはシンプルなことだけです。戦って勝てばいい。廃棄区画だって言うのなら、少しくらい派手にやっても大丈夫でしょうし」
 双眼鏡を覗き込んでいた燈戴はその言葉に首肯する。
「だな。しかし、真亜子嬢よ。そいつは何だ?」
 真亜子は片手に携えた拡声器を持ち上げた。
「これでえいりあんさん方を炙り出すんです」
「そいつはまた……、随分と思い切ったな。エイリアンに言葉通じると思うか?」
「言葉が通じないのなら、ぶっ倒せばいいだけですから」
 あまりに明朗快活な答えに燈戴はかはは、と笑う。
「違いない。討伐ってのはいつだってそうだからな。にしたって、宇宙人ねぇ。宇宙戦争と洒落込むかぁ?」

 黄昏ひりょ(jb3452)は廃棄区画の地図を片手に作戦内容を反芻していた。
 班分けをする前にまずは合流と歩み出していたが、ただの団地のはずなのに迷宮に迷い込んだ心地になってしまう。
 異形区画から覗くディアボロたちの気配はするものの、その数の測定は困難を極めていた。
「遠くからじゃ、やっぱり見えないな。でも気配ばかり大きい。これが、エイリアンって奴か。未知との遭遇ってのはなかなかにワクワクはするが……」
 だが視線の先にいるのはディアボロに違いない。
 赤い眼がこちらの視線を見返したような気がしてひりょは息を呑んだ。

「居るのは分かっています……多分」
 セレスの視野に入っているのは廃棄区画を飛び回る銀色の躯体。
 蚊の飛翔音が耳朶を打ち、セレスは眉をひそめる。
「……早いうちに倒してしまおう」
 割り切っているセレスの精神は今、ディアボロ関知に最大限に充てられていた。
 ディアボロのうち一体がこちらを見やったのを気配で感じ取る。
 その視線一つ一つを薙ぎ払うイメージを脳裏に描き、セレスは戦闘神経を研ぎ澄ましていた。

「君は飛べるのだろう? 飛翔による相手の行動を制するのは任せた」
 カミーユ・バルト(jb9931)の尊大な声音に藍那湊(jc0170)は辟易していた。
「ええ、まぁ、そのつもりですけれど……カミーユさんは地上班で?」
 その言葉にカミーユは嘆息をついた。
「当たり前の帰結を言ってくれるな。飛翔班と地上班で分かれる。君がそうするのなら、僕は地上で敵を引き裂く。なに、こちらも策がないわけじゃないさ」
 貴族のような井出達のカミーユの言葉はどこか重々しい。廃棄区画に馴染むのか、と湊は疑問視していた。
「敵、エイリアン型って聞きましたけれど、宇宙人とかそういうのは?」
 尋ねた言葉にカミーユは肩をすくめる。
「ナンセンスだ、湊君。まさか、この世にそんな超常現象があるとでも?」
 あまり信じてはいないようである。今回の敵もディアボロだとしか思っていないのか。
「でも、昔に比べて、今はそういう映像とかもテレビでは出回らなくなりましたね。トリック映像が多かったからなのかな」
「偽りと虚飾に塗れた俗世間のテレビショウは観ないのでね。疎くって申し訳ないが」
「いえ、別にいいんですけれど……」
 湊は微笑みつつも、カミーユの言動が読めずにいた。
「しかし、宇宙の神秘があるとすれば、それは地上に非ず、だろう」
 無意識に二人は空を仰いでいた。晴天の広がる中で白昼の残月が視界に入る。
「空、ですかね……。そういえば宇宙と書いて、そら、とも読めるんだったかな」
「大宇宙の神秘は僕でも分かり得ないさ。ともすれば誰にも、永遠に分からぬ命題かもしれない」
 今回の敵はその一端だとでも言いたげだった。湊はそれとなく窺う。
「結構、信じる派ですか?」
 その問いにカミーユはふんと鼻を鳴らした。
「言ったろう? テレビショウには、疎いんだよ」

『えいりあんさーん! 出てきてくださーい!』
 廃棄区画に真亜子の声が響き渡る。電柱に飛び移ったエイリアン型が赤い眼で標的を狙い澄ました。
 屋根を伝い、エイリアン型が真亜子へと接近を試みる。
 銀色の手が少女に伸びようとした途端、その手の甲を弓矢が貫いた。
「っと、まずは一体目。第一種接近遭遇はやっぱり、少女の特権なのかな?」
 振り向いたエイリアン型が中空の湊を睨み据える。蚊の飛翔音に似た音を発生させ、エイリアン型が手を引き裂いて湊へと肉迫しようとする。
 その時、不意に出現した術符がエイリアン型の足を縛りつけた。
「お前たちの足、止めさせてもらう。厄介だからね」
 背筋へと踊り上がったひりょの刃がエイリアン型へと突き刺さった。
 取った、と確信したひりょは途端に肌が粟立ったのを関知する。
 習い性の動きで身をかわすと、爪が空間を引き裂いていた。
「二体目……、速いな、こいつら」
 蚊の飛翔音を想起させる音を発生させながら、電柱と屋根瓦を蹴りつけ、多角的に相手がひりょを襲おうとする。
 中空の湊が矢を番えるが、ことごとく放たれた矢が空を裂いていった。
「速過ぎる……どうすれば」
 武器を持ち替えようとする湊の視線を掻い潜って、エイリアン型がひりょへと殺到した。
「式神・縛! 足を止める!」
 展開された術符による効力が相手の動きを縛ろうとしたが、攻撃網を跳躍し、エイリアン型は一挙にひりょへと迫った。
「恐ろしく速いな……。だけれど俺たちは!」
「一人じゃ、ないからねっ!」
 大剣を掲げた真亜子が跳躍し、ひりょを狙ったエイリアン型を両断した。
 そちらに気を取られていたもう一体へと、ひりょが回し蹴りを叩き込み、怯ませた隙をついて中空の湊の矢とひりょの切っ先が交差する。
 着弾点が交じり合い、エイリアン型を貫いていた。
 ひりょが汗を拭い、眼鏡のブリッジを上げる。
「連携が怖いな、こいつら……。しかもこの場所を理解し尽くしている……。誘い込まれたのは、案外俺たちかもしれない」
「エイリアンだと侮っていたら、僕らのほうが連中からしてみればインベーダーだった、ってわけですか。真亜子ちゃん、大丈夫?」
「ボクは平気だけれど……ちょっとでも気を抜くとまずい展開に転がりかねないね」
 残り三体……と警戒網を走らせた三人のうち、その接近に気づけたのは面を上げた真亜子だけであった。
 電柱を蹴って足場にしつつ、一体のエイリアン型が高速で接近してくる。
 咄嗟の判断で真亜子は武器を弓に持ち替えた。
 死角になっているひりょがうろたえる。
「桐ヶ作さん?」
「右に避けてください!」
 瞬間的な判断に対応したひりょの動きと真亜子の攻撃によってエイリアン型の肩口へと弓矢が突き刺さる。
 屋根瓦を蹴りつけようとして足を滑らせたエイリアン型が地上で身悶えした。
「本当……どこから来るのか分からないな。背中合わせになってもう一方の班の合流を待ちつつ迎撃するのが一番か」
 屋根の上でひりょと真亜子が背中合わせになり、飛翔した湊が周辺警戒をする。
 痙攣している射抜いたエイリアン型へと湊が注意を巡らせていた。
 その時である。
 蚊の飛翔音が一際大きく響き渡った。
 どこから、と視線を巡らせた湊はひりょの声に瞠目する。
「直上だ……、上から来るぞ!」
 振り仰いだ陽光を遮り、銀翼のエイリアン型が跳ね上がっていた。
「飛翔個体か……!」
 苦々しげに発した湊が攻撃姿勢に移ろうとするも相手の動きがあまりに素早い。
 振り上げられた爪に一撃は覚悟した、直後、巨大な魔術の火球がエイリアン型を焼き尽くした。
 灼熱を発生させたのはセレスである。
 片手を軽く払い、相手を見据える。
「ディアボロ、ですね。討伐します」
 翅を焼かれたエイリアン型が離脱軌道に至ろうとするのを、無数の銀糸が遮った。
 地上展開していたカミーユが無数に紡ぎ出した糸の包囲網がエイリアン型を誘い込む。
「悪いが、三流テレビショウはここまでとしよう。幕切れは、きっちりしているほうがいい」
 ピン、と指先で弾くとエイリアン型の背筋がもがれた。
 翅を失い、地上を這い進むエイリアン型へと翳りが宿る。振り仰いだエイリアン型の視界に直上から隕石の如く迫る燈戴が大写しになった。
「エイリアン共! ケツにぶち込んでやる!」
 炸裂したのは銃火器による多重攻撃であった。火を噴いた一斉掃射にエイリアン型が煽られたように身体を仰け反らせる。
「その頭に! スナイパー一射!」
 武器を持ち替えた燈戴の狙い澄ました一撃が眉間を貫き、着地の瞬間、エイリアン型がよろめいて倒れた。
「フッ……決まったぜ」
 銃口から漂う硝煙を吹く真似をして、燈戴が降り立つ。
 セレスが痙攣しているエイリアン型へと歩み寄る。
「とどめが差されていません。消します」
 すっと狙い澄まされた指先が稲妻を帯びた途端、突然にエイリアン型が跳ね上がり、決死の攻撃を奔らせた。
 爪がセレスを切り刻もうとする。
 軋った銀の閃光をセレスはステップで回避しつつ、稲妻を叩き込んだ。
 エイリアン型が内側からぶすぶすと黒煙を燻ぶらせて倒れ伏す。
「おっ、やったのか?」
 不用意に歩み寄った燈戴へと、エイリアン型が悪あがきの一閃を浴びせた。
「うおっ、こいつぁ……」
 カミーユが割って入り、銀糸がエイリアン型を細切れにする。
「傷は?」
 問いかけたカミーユへと、燈戴が切れ切れに声を出す。
「……俺が、ここで散ったら、頼みがある……残した孫に……愛していると伝えてくれ……それだけが、俺の最後の……」
 瞬間、燈戴の横合いへと弓矢が叩き込まれた。
 起き上がった燈戴が身を転がらせる。
「あっぶねぇなぁ! おい!」
 当の孫である湊は番えた矢を照準し嘆息をつく。
「そういうのいいですから。カミーユさんも本気にしないでいいです。その人、見た目より頑丈ですから」
「うわ、ひでぇ。これでも決死だよ? 仲間のためなら犠牲も厭わない精神なんだぜ?」
「残り二体います。全員で周辺警戒を」
「無視かよ!」
 その時、電柱を蹴って銀色の躯体が跳ねた。目で追える範囲に二体。どちらも素早く、一ところに留まらない。
「速いな……」
 こぼしたひりょに、真亜子は言いやる。
「全員ならば削りきれます」
「その通り。撃退士嘗めんなよ、エイリアン連中! 俺の射線にかかれば、イチコロだぜ!」
「……さっきまで無茶していた人がよく言う。年寄りの冷や水って言うんですよ、もう」
 エイリアン型が攻勢に転じようと屋根瓦を蹴って肉迫しようとした途端、その足場が崩れ去った。
 カミーユの手から伸びた銀糸が屋根を伝い、結界陣を作り上げている。
「かかったな、エイリアンとやら。ヤラセも大概にしておけ」
 ピンと弾いた途端、粉塵が浮かび上がりエイリアン型の銀の身体が空間に刻み込まれる。
 それを逃す者たちではない。
「よく見えるぜ、これならっ!」
 燈戴の銃撃が一体を打ち据え、怯ませた身体へと硝子結晶の攻撃網が敷かれていく。
「隙あり、だね。この射線なら、僕がやれる! 灯れ――硝子の燭台」
 シャンデリアのように周囲に散りばめられたアウルの結晶が攻撃色を灯し、エイリアン型を散弾の如く貫いた。
 姿勢を崩したもう一体のエイリアン型が背筋から翅を展開させる。
 逃げるつもりなのだろう。
「――させない。桐ヶ作さん!」
「ボクたちから、逃れられると思ってるの?」
 二刃が閃き、エイリアン型の頭部を切り裂いた。生き別れになった頭部と胴体がそれぞれ地上にぶち当たる。
「情況終了!」
 ひりょの声音に、異形地区がようやく静まり返った。その眼鏡を真亜子が拭き取る。
「なっ! 何を……」
「ボク、曇った眼鏡って気になっちゃうんだよね。ほら、これでよく見える」
 手渡された眼鏡のブリッジを上げ、ひりょは嘆息をついた。

 カミーユは衣装についた埃を払っていた。
「こういうのがいいと思える凡俗ではいのでね。宇宙戦争など……ナンセンスだ」
「そうかぁ? 俺は割と好きだぜ、こういうの。あいつらもまた……棲む場所を追われた存在だったのかもしれないな」
 空を仰いだ燈戴が一番星をその目に宿す。
「いつか、分かり合える日が来るといいな。エイリアンだとか、天魔だとか関係なく」
 ひりょも空を振り仰ぐ。その視線の先で星が流れた気がした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 来し方抱き、行く末見つめ・黄昏ひりょ(jb3452)
 おじい……えっ?・赭々 燈戴(jc0703)
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
暴将怖れじ・
桐ケ作真亜子(jb7709)

高等部1年28組 女 ディバインナイト
孤高の薔薇の帝王・
カミーユ・バルト(jb9931)

大学部3年63組 男 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
おじい……えっ?・
赭々 燈戴(jc0703)

大学部2年3組 男 インフィルトレイター