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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/16


みんなの思い出



オープニング

「この季節ってさ、女子増えるじゃん」
 コンビニの前にたむろしていた不良の一人がそうこぼした。他の二人の仲間も、それに同調する。
 駐車場にはエンジンのかかったままのバイクがあった。
「おお、増える増える」
「どうすんだよ?」
「決まってんだろ。ちょっと誘えば寄ってくるようなガードの緩い女の子だぜ?」
 帰結する先は決まっている、とでも言うような笑みであった。他の二人も似たような笑い方をする。
 夜中のコンビニで張っていれば、この春に新たな学級に昇級した女子が釣れるだろうと判断しての不良たちであった。
 その時、不意に冷たい風が吹き抜ける。
 この時期にしてはいやに背筋を凍らせる、ぞっとするような風であった。
 それと同じくして、赤い衣の少女がコンビニの前に現れていた。
 三人の少女は顔を伏せ、赤い服飾にショートの金髪を流している。
 都合よく網にかかった。そう不良は感じて立ち上がる。
「へい、彼女。なに、深夜のコンビニに来てんのさ。オレらと、ちょっと面白いとこ行かね?」
 向こうも三人、こっちも三人。ちょうどいいと不良は感じていた。
 少女たちは背丈も低い。ともすると小学生か、とも感じられる。
 しかし金髪と、華美なほど夜には映える赤い装束が、どこか夜に手を出し始めた不良少女なのだと判断された。
 他の二人もやおら立ち上がろうとする。
「ねぇ、行こうよ」
 肩を引っ掴もうとした不良へと、声が投げられた。
「どうして、あなたのお顔は真っ赤なの?」
 可笑しなことを言う。真っ赤なのは少女らの衣装のほうだ。
「真っ赤なのはそっちじゃ……」
 そう呟こうとした不良が、不意に何も聞こえなくなるのを感じた。
 突然の静寂。エンジン音も、仲間の声も、ましてやコンビニから流れる音楽も、いきなり聞こえなくなる。
 仲間がこちらを目にして驚愕したのが伝わった。
 指差してその口がぱくぱくと言葉を紡いだようだ。
 ――なんだ、その顔は、と。
 理解できない不良は自分の顔をさする。すると、パンパンに膨れ上がっていた。表皮が固まっており、目に入る部位は全て、通常の倍以上になっている。
 その静寂の中でどうしてだか、少女らの声だけは明瞭に響いた。
 肩に触れているからか、接触した少女が面を上げる。
 仰天して、悲鳴を上げた……つもりだった。
 確信できなかったのは何も聞こえない無音の世界のせいだ。
 少女だと思っていた赤装束の人間は、影が凝固した顔面であった。赤い眼がてらてらと輝いている。
 口が耳元まで裂けていた。作り出された笑みは、邪悪そのものである。
「ねぇ、何で……、今にも弾けてしまいそうなの?」
 またしても冷たい風が吹く。その瞬間、不良の頭部が風船のように膨れ上がり、ある一点に達して弾け飛んだ。
 仲間たちが逃れようとするのを、もう二人の赤装束が許さない。
「ねぇ、どうして、あなたのお顔は真っ赤なの?」
 問いに、彼らは悲鳴を上げるしかなかった。

 翌日、妙に風が冷たいと感じたコンビニ店員が目にしたのは、冷気に晒されて膨れ上がった四肢を仰向けにしたままの、頭のない不良たちであった。

「依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「不良少年や、深夜に出歩く人々がとある田舎町で目にした三人組のディアボロに殺される事件が多発しています。その少女を模した姿と、問いかけをすることから対象を赤ずきん型、と呼称します」
 写真に写し出された赤ずきん型は一メートルあるかないかの小型である。
 それほど脅威には思えない、と感じていると向こうも察したらしい。
「その見た目に反して、攻撃方法は残忍極まるもの。瞬間的に冷気を発生させ、相手の皮膚を凍傷に晒す。ゆえに、被害者は全員、このように」
 次々と写されていくのは赤く腫れ上がった表皮を晒している死体である。
「凍結も、ある一点に達すると対象を破砕する性能を保持するようです。この赤ずきん型の有するのは、自分の周囲の冷気を操る擬似的な腕でしょう。特殊な加工を施すと、その冷気の腕が可視化できます」
 先ほどの写真に加工を施したものが投影される。赤ずきん型の背中から長大な両腕が引き出されていた。夜半であるのと、通常の人間には目にできないほどの密度の薄い、紙のようなぺらぺらの両腕である。
「この両腕で触れた箇所から冷気を注入、あるいは冷気を発生させて攻撃、と言ったところでしょう。過負荷に耐えかねた肉体が悲鳴を上げ、赤く腫れ上がるほどの冷気を操る……。冷気の腕の射程範囲はさほど脅威ではありませんが、この赤ずきん型、攻撃を受けるだけでもまずいのが分かります。三体が確認され、出現前にぞくりとするほどの冷たい風が吹くと報告があります。被害は一点、このコンビニに集中しており、活動は夜半。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


リプレイ本文

「今夜は少しばかり営業を控えてもらえますか?」
 浪風 悠人(ja3452)は近隣の店舗にそう言って事情を説明して回っていた。感知範囲が広がればその分、戦闘範囲も広がるとの考えである。
 だが、その店員を少しばかりびくつかせるのは後ろでだんまりを決め込んでいる天王寺千里(jc0392)の威容であった。
 凄味を絵に描いたような千里が後ろについているので店員はどこか怯えたように了承する。
「これで、ノルマの件数は回れた。感知範囲が広がるとは言っても二キロも三キロも大きくなるわけじゃないだろう。充分だ」
「あたしにとっちゃ、どっちでもいいぜ。クソッタレ赤ずきんの天魔をぶっ飛ばせるならな」
「……天王寺さん、もうちょっと気さくにお願いするよ。店員さんもビビッていたし」
 その言葉に千里はけっと毒づく。
「びびるのなら、店の中にこもっていりゃいいだけの話だろ。戦闘に打って出ろとか言ってるんじゃねぇ」
「そうだけれど、赤ずきん、か。知っているかな? 赤ずきんの民話には様々なパターンがあるんだ。その中には、猟師が出ないものもあるらしい」
「救いがないってことかよ。それってお話になるのか?」
「狼は猟師に討ち取られ、そのお腹の中から助け出された赤ずきんとおばあちゃんは無事、お腹に石を詰められた狼は池に沈められ、めでたしめでたし、って話がメジャーだから、そういうのもあるのは意外と知られていない。ただ、俺たちの今回の立ち位置は、猟師というよりも、狼のそれだ」
「違いないな。赤ずきんを食っちまう役割か」
「その赤ずきんも、食われまいとする凍てつく氷のディアボロ。俺たち狼は、せいぜいどうやって赤ずきんを討つのかを考えなければならない」
「妙な役回りだぜ。あたしらはおとぎ話の敵か?」
 千里の口調に悠人はフッと微笑んだ。
「少なくとも、人を食いものにする天魔の敵ではある」

「弾丸も射止める、か。しかし、妙な情報よの」
 駐車場を視野に入れつつそうぼやいたのは白蛇(jb0889)である。浪風 威鈴(ja8371)がその言葉に疑問を呈した。
「何で?」
「圏内の空気を自在に操る、は理解できるが拳銃は秒速三百米以上、小銃ならば千米以上じゃ。そんなものを、射止める、というのは解せんだけよ」
「……難しいことは分からないけれど、要は弾丸を止めるってのは言い過ぎだってこと?」
 威鈴の理解に白蛇は今回の戦場となるコンビニと駐車場を見渡した。
 さほど広いわけではない。だが感知範囲拡大を阻止しながら戦うことになる都合上、この狭い盤面から相手を取りこぼさない戦術が求められる。
「まぁ、言い過ぎだとしても、油断は禁物じゃからな。赤ずきんの天魔……、春爛漫の風が吹くかと思えば冷風か。いつになったら春になるのやら」
 呆れ返る白蛇に威鈴は武器の点検を行う。
「赤ずきん……狼さんが敵じゃないんだ……」
「さしずめ、童話の狼はわしらじゃな。もっとも、その襲われ役の赤ずきんが、簡単に腹に収まってくれそうにもない奴らよ」
「ボクが、狼さん、か……。でも、ボクなら、猟師なんかには、負けないけれどな……」
「猟師のいない赤ずきんの開幕じゃな。物語の結末は、果たして……」

「今夜は外に出ないようにお願いします。夜シフトの方にも伝えておいてください。できれば、夜は窓を閉めて、明かりだけ点けておいてくださると助かります」
 不知火藤忠(jc2194)はそうコンビニ店員に忠告した。彼らはここ最近の事件に参っているのか、了承するも余分な一言を加えた。
「その……何もしないでいいんですよね?」
 不安げな店員に藤忠は微笑みかける。
「ええ、何も」
 雅な笑みに店員が呆然としている中、常盤 芽衣(jc1304)は店員に断りを入れる。
「大きな音がするかもしれないですけれど、外は見ないようにしてください」
 そう言いつつも、今回の敵の前情報だけで、少しうろたえている。
 藤忠がそれを見抜いて声をかけた。
「赤ずきん、という奴らしい。芽衣はそういうのを読んだことがあるのだろう? 女の子ならばみんなが知っている童話だ。狼に食べられた赤ずきんは、っていう」
「でも、今回の、都市伝説に出るみたいな情報じゃないか……。できれば、真正面からは見たくないなぁ……」
「正面から切り込むのは俺や前衛に任せてくれればいい。それに、俺自身、こういう手合いは許せなくってね。何も知らない人間を利用する。そういうのが一番嫌いだ。ここで仕留める」

 赤ずきんのディアボロが出現と同時に視野に入れたのは、コンビニの前でたむろしている一人の人間だ。
 習い性の身体が凍結の両腕を引き出して揺らめかせる。すっと、近づこうとした、その時である。
「――可愛げのねぇ、赤ずきんだぜ」
 人影は口走るなり、一気に距離を詰めた。その手には刀が握られている。
 ぷっと吹かしていた煙草を捨てて、千里は赤ずきんへと斬りかかった。
「レッドキャップの間違いじゃねぇのか? どっちにせよ、気に食わねぇんでな! てめらの血でその衣装、赤く染めてやる!」
 払い上げた刀の一閃を背筋から漂った両腕が防御する。千里は舌打ちと共にもう一太刀を浴びせかけようとして、真正面の赤ずきんが腕を引いたのに気がついた。
 大振りの一撃。しかし、その通過した空間を確実に凍てつかせる氷の腕。僅かに漂う冷気に千里は呟く。
「寒ぃ攻撃がお望みか? だがよ、もう季節は春だぜ?」
 背後についていたもう二体の赤ずきんが攻防に加わろうとする。それを遮ったのは放たれた声だった。
「俺の闘志まで凍て付かせられるか? 勝負っ!」
 悠人が手を払うと彗星の輝きが連鎖した。二体の赤ずきんが巻き込まれ、大きく引き離された。
 先鋒の赤ずきんが背後を窺った瞬間、もう一方から咲いた火線があった。
 炎の球体が円陣を成し、一挙に先鋒の赤ずきんを焼き尽くさんとする。凍結の両腕を振るい上げて相殺させた赤ずきんの目に映ったのは雅な立ち振る舞いの藤忠だ。
「まずは炎で炙る。その上で、お前の、今まで凍て付かせてきた人間の分だけ、食らい知るがいい」
 下段に構えたのは薙刀。その切っ先が煌く。
 閃いた瞬間、薙刀が赤ずきんの肩口へと突き刺さっていた。しかし、手応えには浅い。反撃の両腕が振るわれようとする。
 不意に耳朶を打ったのは複雑な音階である。
 奏でられた音が術式を組み上げ、直後に炎熱の瀑布が花火を咲かせた。
 赤ずきんが煙を棚引かせて後退する。その赤い瞳が芽衣を捉えた。
「ほらぁ……、やっぱり怖い奴じゃん。もう、やだぁ!」
 そう言いつつも、咲くのは複雑に絡み合った炎の風圧。
 悠人に薙ぎ払われた二体が感知範囲の拡張を行うべく、お互いを弾こうとする。その瞬間に影の中でペンライトをくわえた威鈴が腕を振るい上げる。
「狼さんの、役割って……、やっぱり、赤ずきんを食べること、なのかなぁ……」
 疑問は攻撃の形に変じた。漆黒の鎧じみた武具を掲げて威鈴の接近攻撃が赤ずきんに叩き込まれた。寒風の腕が払い落とされようとしたが、威鈴はその射線を読んだようにバック宙を決めて逃れる。
 もう一体の赤ずきんが感知範囲拡張を行おうとしたが、その領域は既に威鈴の戦闘範囲であった。
 弓を番えた威鈴が赤ずきんの足を射抜く。
「逃げるのは……駄目、だよ」
 たたらを踏んだ赤ずきんの直上に凝ったのは雷雲であった。それを仰ぎ見た瞬間、高熱の落雷が赤ずきんの身体の芯を打ち震わせる。
 白蛇がスレイプニルに騎乗し、赤ずきんを指し示す。
「今にその身体、砕け散るぞ」
 雷雲が狙い澄まそうとしたが、赤ずきんの対応も素早い。両腕を伸ばして雷雲の形成を阻害した。
 冷気を操る赤ずきんディアボロならではの戦法である。
 白蛇は舌打ちする。
「低気圧か……、いや、もっと精度の高い、空気の温度そのものを操作し、司の作り上げた雷を相殺するなど」
 白蛇へと雷撃を食らった赤ずきんが視線を向ける。
「――どこを見ている?」
 その背後から跳躍したのは悠人だった。腰にランタンを輝かせ、視界を確保している。彼の眼には克明に冷気の両腕が見えていた。
 長物を思わせる数珠を腕から棚引かせて悠人は手を払った。それに連動して炎が顕現し、赤ずきんの表皮を焦がす。
 既に雷撃を受けた身である。その身体にダメージが蓄積しているのが見て取れた。
「決めにかかろう! 白蛇さん!」
「わしに命令するな、小童」
 白蛇が手繰り雷雲を赤ずきんの直上に発生させる。
 無論、赤ずきんが防御の姿勢を取れば、その身体には大きな隙が生まれるはずだ。あるいは相殺のために両腕を伸ばし切る。
 ――どちらだ? 悠人は次の瞬間の一撃のために唇を舐めた。温度と気圧を変容させる敵との戦場では唇に感じられる僅かな湿度の差で次の一手が決定する。
 果たして、赤ずきんは防御姿勢を取った。凍結の両腕を自身に巻きつけ、擬似的な氷の皮膜を獲得したのである。
 だがそれは、その場から動かぬと言ったようなもの。
 白蛇の操る司の発生させた雷撃は、確かに身体の表層を滑っていくであろう。
 だが、悠人の即座に決定せしめた攻撃には対応できるはずもなかった。一度、炎を操る数珠を用いてまずは表層を焼き払う。
 防御が緩んだ箇所を的確に見据え、そのまま掌底の形を取った炎の一撃をぶつけた。
 赤ずきんの表皮が瞬時に暴風に晒されたように逆立つ。悠人は雄叫びを上げて赤ずきんの身体を射抜いた。
 ぷすぷすと黒煙を上げながら赤ずきんが倒れ伏す。
 一体撃破、の報を継ぐ前に威鈴がもう一体と格闘していた。
 冷気の両腕が互い違いに振り払われるも、威鈴は紙一重の回避を繰り返し、赤ずきんを翻弄する。
 生じた隙は逃さず、威鈴の格闘戦術が叩き込まれた。よろめいた赤ずきんに白蛇が雷撃を命じる。
 放たれた雷の一閃に硬直した相手へと、威鈴の拳、肘打ち、掌底が続け様に打ち出される。ほとんど虫の息にある赤ずきんに威鈴が言いやった。
「狼さんの……役割ってのも、大変だね……。赤ずきんを食べた、って一言を記すのに、こんなにかかる」
 赤ずきんが凍結の両腕を引き出し、自らに制動をかけた。ぐっと力がこもったのを気配で悟った威鈴が構えを取る。
「いいよ……、こっちの牙が速いか……、赤ずきんの持ち物が、速いか……」
 赤ずきんが両腕をばねのように用いて威鈴へと猪突する。片腕を即座に固めた様は、ほとんど特攻の構えであった。
 威鈴は姿勢を沈め、赤ずきんへと駆け出す。まず片腕を掲げて変熱攻撃をいなした。
 しかし相手も必死。
 威鈴の白銀の髪を氷結の旋風がなびかせる。
 下段から放たれた打ち上げる拳が赤ずきんの鳩尾へと入った。絶叫が迸る。それを境にして赤ずきんは沈黙した。
「二体撃破、か。後は……」
 悠人が視線を振り向けた先には先鋒の赤ずきんと鍔迫り合いを繰り返す千里と藤忠の姿があった。
 芽衣が指先を恐怖に震わせつつも、魔法の炎の照準には迷いがない。攻め手を着実に奪われていく赤ずきんの側面に藤忠が入った。
「意趣返しだ。どうだ? 自分の肌が変質する気分は」
 火炎の陣が赤ずきんを取り囲み、その身体が逃れようと流れゆく。
「お化け怖い……。さっさと消えて欲しいよおおお!」
 芽衣の絶叫と共に赤ずきんの背面で花火が散り、後退という選択肢を奪った。
 肉迫した藤忠が腰だめに薙刀を構え直し、足を擦る。
「とどめだ。行くぞ」
 薙ぎ払われた切っ先は赤ずきんの胴を叩く。直前に凍結の腕を盾とすることによって直撃を免れた赤ずきんであったが、その行く先には刀を大きく引いた千里の姿があった。
「舐めんじゃねぇ。あたしはそこいらのチンピラと同じようにはいかねぇぜ! てめらのケリは、ここでつけさせてやる!」
 奔った刀と同時に放たれたのは盾に使わなかったほうの腕である。瞬時の凝固を約束する腕の射線が千里の肌を凍結に晒す前に、その頭部を一閃が割った。
 薙ぎ払われた刀の太刀筋が赤ずきんの胴体と首を生き別れにする。
 凍結の腕が半端に冷気を発生させ、千里の纏う服飾を冷風が吹き抜けていった。
「――刀のサビになりな。悪いが狼の牙が勝っちまう童話ってのも、現実にはあったってことだ」
 胴体が仰向けに倒れた。芽衣は決着を感じ取ってそっと口にする。
「やった……終わった――」
 その安息を引き裂くようにけたたましい笑い声が響いた。
 胴体から切り裂かれたはずの頭部が哄笑を上げたのである。舌打ちと共に千里と藤忠の剣閃が叩き込まれた。
「往生際は」
「潔いほうがいいぞ」
 芽衣は安堵しかけたところに来たショックで耳を塞いでいる。
「嫌だぁ……。今の声、こびりついちゃったよ……」
「とはいえ、三体とも撃破完了、だな」
 悠人の満足気な声に白蛇がカイロを手で揉む。
「あたたかい茶でも飲もうぞ」
「それより、俺の家で宅飲みでもしないか? 戦いの後の労いには、酒がピッタリだ」
「おう、あたしも参加するぜ、それ」
 刀を担いだ千里がにやりと笑みを浮かべる。
「おっ、酒盛りか? よいぞ、よいぞ。わしもどちらかというとそっちのほうが興味がある」
「白蛇さん、見た目的に駄目なんじゃ?」
 悠人の疑問に白蛇が抗議する。
「子供扱いするでないわ、たわけ!」
「私、帰る。帰って寝たい……」
 芽衣は恐怖でそれどころではなさそうである。悠人がフォローに入った。
「じゃあ俺と威鈴は常盤さんの帰り道に同行しよう。酒盛り班とはここで」
「よし、飲むとするか。丁度コンビニにも無事終わったと伝えなければならないし、ついでにつまみも買おう」
 別れの挨拶を告げた撃退士たちは、それぞれの日常へと回帰していく。
 全身を芯まで焼かれた赤ずきんの遺骸のうち、一つがピクリと動いた。赤い眼をぎらつかせる。
「……どうして、そんなに――」
 そこから先の言葉は聞き取れなかった。しかしその質問の声だけが、現場に残響した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 白銀のそよ風・浪風 威鈴(ja8371)
重体: −
面白かった!:5人

おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
焔潰えぬ番長魂・
天王寺千里(jc0392)

大学部7年319組 女 阿修羅
鎮魂の名の剣・
常盤 芽衣(jc1304)

大学部1年40組 女 ナイトウォーカー
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師