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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/06/23


みんなの思い出



オープニング

 地方には、奇妙なものが展示されている施設がある。
 80年代あたりをピークに、そういうものが乱立された時期があった。奇妙なもの、いかがわしいもの、くだらないもの。出来の悪い見世物小屋と大差ないものが、かなり多く存在していた。
 不況と共に、それらは次第に淘汰の対象に。現在はそのほとんどすべてが、維持できず閉館。取り壊すための予算すら無く、建物が空しく残るのみ。
 それはここ、北海道名寄市の「名寄びっくり怪奇郷土館」も同じ。
 ここはバブル時、地方の成金・金賀総一がウケ狙いで作った郷土館。本当は秘宝館を作りたかったらしいが、さすがに周辺に反対され、郷土館という名目で作られた。
 もっとも、展示物はかなりの際物ばかり。蛇の瓶詰標本だの、宇宙人の死体の模型だの、怪物のロウ人形だのといった、オーナーの金賀の悪趣味がうかがえるものばかりが展示されていた。
 一階には食堂や土産物屋も併設されてはいるものの、それらの質はあまり高くはない。それでも一時期は、ここだけでかなりの売り上げがあったものだった。
 が、バブルが弾け、そして不況になり、郷土館に来る観光客は徐々に減り、とうとう年間来場者はゼロに。
 羽振りが良かった金賀だが、業績は急激に悪化。95年に経営していた会社は倒産、金賀は家族や従業員に払うものも払うことなく、手持ちの金を手にしたまま失踪し、いまだに行方不明。

 しかし、持ち主がいなくなり閉館しても建物はそのまま残っている。ここも倒産後に閉館。現在に至るまでこの建物は荒れ放題、立ち入り禁止になってはいる。

 名寄市役所に勤める中岡俊郎は、ここが嫌いだった。とはいえ、仕事はしなければならない。
現時点でこの建物内部に残された物が何か、詳細を調査し記録する。それが今回の中岡たちの仕事。
これから十名ほどの人員で、その仕事に取り掛かるところだったのだ。

「目録には無いものも、かなり保管されてますね。なんで白いニシキヘビの剥製なんかあるんでしょう」
「しかも、保存状態も展示状態もいいかげん。うわ、内臓がはみ出ているよ」
 部下の佐藤とともに、中岡はチェックを続けていた。そこには、アルコール漬けされたり剥製にされたりした蛇の標本がいくつも飾られている。
「ま、後で専門家に任せよう。今回は数と内容物のチェックだけでよかったよ。こんなもん、触りたくもないし」
 ため息をつきつつ中岡は、手元のタブレットに映し出された怪奇郷土館の図面をチェックした。
建物は、地上三階、地下一階。地上一階は、エントランスに、土産物屋と一体になっている食堂。エントランス部には、ぼろぼろになっている「人食いクマ」の剥製が置かれている。
 奥には二階と地下に向かう階段。二階部分は爬虫類の標本を展示した「恐怖!世界の毒蛇!」と、呪われた道具や魔法のかかった像などが飾られた「呪い!なぞの魔術!」の二つのコーナーが、壁で仕切られていた。中岡らは今、そこの蛇コーナーで作業している。
 三階部分は、事務所と倉庫。展示されず保管されている標本やらなにやらが、ぞんざいに山積みされているとの事。
「ま、滞りなく終わりそうだ。はやくこんな薄気味悪いところから……」
 そうつぶやきかけた途端。どこからか、悲鳴が聞こえてきた。

「どうした!?」
 悲鳴は、地下から。一階のスタッフも引き連れ、中岡は地下へと向かう。
 地下は「地獄!悪魔のミイラとゾンビ!」。蝋人形のゾンビや、本物というふれこみのミイラや骸骨などが飾られていた。
 こけつまろびつ、地下一階にいたスタッフが階段へと駆け寄ってくる。
「あ、あ、あ、あれを!」
 中岡は、部下が指差した「それ」を見た。
 地下のコーナーには、人が立っていた。ぼろぼろの服を着ているところから、おそらくはどこからか入り込んだホームレスだろう。ここをねぐらにして、知らぬ間にスタッフと鉢合わせしてしまったに違いあるまい。
 暗い照明の下で、周囲には地獄を模した安っぽい内装。そこにいきなり現れたら、誰だって驚く。
「なんだ、ただの人じゃないか。……すみません、我々は名寄市役所の者です」
 しかし中岡は、言葉を止めた。
 二つ、おかしな点に気付いたのだ。
 一つ。そいつの顔には、死斑が浮いていた。それだけでなく、頬も落ち窪み、肌の色も灰色。どこをどう見ても、それは生きている人間の肌ではなく顔ではない。
 一つ。そいつの後ろにも、同じく人影が。展示物のミイラや蝋人形? だったらなぜ、それらが歩くのか? ミイラはただの乾燥した死体、そんなものが動くはずがない。
 ならば、「そいつ」の後ろで動いているミイラはなんなのか? そして、ミイラの両脇に動いている骸骨は?
 中岡はすぐに、そんな考えを頭から吹き飛ばした。
「そいつ」が、手を前にかざしてつかみかかってきたのだ。

「中岡氏たちは、なんとかそいつらから逃げた。無傷というわけにはいかなかったがな」
 幸いにして、中岡たち市役所の所員たちはなんとか逃げおおせたが、無傷では済まなかった。
 地下でミイラの数や状態を調べていた二人は、ミイラに殴られ、骸骨が持ってた剣に切り付けられ、歩く死体には噛みつかれた。
 傷を負った者たちは、全員が病院に入院しており、命に別状はない。
「それで、こちらへと話が回ってきた。おそらくは怪奇郷土館の中に、本物の死体やらミイラやらがあり、それらを元にしてサーバントまたはディアボロが作られたんだろう。こいつらを退治することが、今回の依頼だ」
 そして、と、依頼の斡旋者は付け加えた。
「この化物どもをぶっ倒す前に、中に入って確認してもらいたいことがある。中岡氏につかみかかった、死体のような奴だ」
 おそらくはそれは、すでに死んでいる者だろう。しかし、そいつは生前、「誰だったのか」。それを確認する必要があった。
「一言でいえば、この建物の管理人や権利所有者たちに、金賀は死亡したという『証拠』を示さねばならんのだ。金賀の生死は未だ定かでないから、この建物を整備して今後の名寄のために有効活用するためには、金賀は死んだと証明しなければならない。でないと、名寄市が法律違反したって事になり、ちと面倒になる」
「で、中岡氏が言うには、あの掴み掛ってきた奴は、生前の金賀に面相が似ていたというんだな。あれの死体が金賀だと、証明する証拠を持ってきて欲しい。で、その証明の方法だが」
生前に金賀は、背中の肩のところに小さく入れ墨を入れていたという。金が有り余っている時に、彫り師に大金を積んで無理やり頼み込み入れたもので、精緻な温泉美人の絵柄だという。それが入っていれば、その死体は金賀だと。
「絵柄はこれだ。こんなアホな入れ墨を入れる奴は、金賀以外にはいないだろう。というわけで、頼まれてくれるか?」


リプレイ本文

 名寄市の郊外。そこに、「名寄びっくり怪奇郷土館」はあった。
『朽』
 漢字一文字でそれを表すとしたら、それがまさに相応しい。
 正面玄関に立つ鬼の像が、その漢字を象徴するかのように立っていた。色あせた鬼の身体は、顔はひび割れ落ち窪み、腕はすでに自重で折れて、失われていた。
「……こ、怖くないよ? なんだかこれ、鬼の死骸に見えなくもないけど、ただの飾りだしハハハ……はぁ」
 明らかに怖がってるとわかる口調で、淀川 恭彦(jb5207)はおっかなびっくり、鬼の像へと近づきしげしげと見る。
 玄関は、今のところは閉められていた。入り込む事は容易だが、今のところ誰か、または何かが入り込んだ、出て行った様子は見られない。
「やれやれ……玄関からして、あまりいい趣味とは言えないね。本当に、長居したい場所じゃあないよ」
 不破 玲二(ja0344)が顔をしかめつつぼやく。彼の言葉に、御神島 夜羽(jb5977)も同意した。
「ちっ、薄汚ねぇ場所だ……」
 こんな場所に行かねばならないのは、正直気が滅入る。が、引き受けたからには、仕事を遂行しなければ。
「……周囲を見てきましたが、何かが外に出た様子はなかったですね」
 前髪を伸ばし、眼差しを隠した少女、只野黒子(ja0049)が戻ってきた。裏側を探り、確認していたのだ。
「窓ガラスは、いくつか割れていました。ですが、人間が出入りできるような穴や出入り口は見受けられませんでしたね」
 黒子とともに、裏口に向かっていた和装の少女が、そう付け加える。彼女の名は、織宮 歌乃(jb5789)。
「……金賀さん。この中にいるかも、しれないんですよね」
 不破や御神島らとともに、正面玄関で見張っていた山里赤薔薇(jb4090)が、小さく言葉をもらす。
「……お金だけに執着した人生って、どうなのかな。どんな気持ちで、最期を迎えたのかな」
「さあね、俺には良くわからないな」
 赤薔薇の言葉に、不破はぶっきらぼうに返答する。
「だが……まずは俺たちがすべき事をしよう。それじゃ……」
 皆を促すように、不破は玄関口を指し示した。
「行こうぜ、みんな」

 まだ昼間であるが、外は曇り、室内には電気が通じていない。ゆえに室内は暗く、暗黒の空間と化している。
 玄関より、撃退士たちは内部へと入っていった。入りながら、赤薔薇は皆で立案した作戦をもう一度、心の中で確認する。

 ……出入り口を閉鎖。そして、黒子さんのスマホを玄関に、通話状態で置いておく。
 通電しているか否かの確認。これは完了。通電はされてなく、室内の電灯や電気機器は動かない。
 提供された館内概略図をもとに、階段と出入り口、展示物の配置を確認。
 金賀さんの写真……確認用に、顔写真。それに加え、指紋や歯型の照会もできるよう依頼して……それで、本人確認するようにして。
 従業員用階段も封鎖して、木と金属の、二種類の鳴子を、釣り糸と一緒に階段に仕掛けて。
 そして、みんなで三階から捜索。一階づつ降りて、最期に地下一階を調べる……。
 うまく……いくかな……?
「……山里、どうした? 怖いのか?」
「あ……いえ、大丈夫、です……」
 不破に問われ、赤薔薇は我に返った。
 ううん……うまく、やらなきゃ!
 
 一階、エントランス。
 そこには、熊がいるはず。歌乃は聖燐神聖なる太刀を取り出していた。
 赤薔薇も、彼女と同様に周囲を警戒しつつ、皆とともに先に進む。黒子、不破、歌乃、御神島、淀川、そして自分……赤薔薇。
 この六名で、周囲を警戒しているのだ。後ろや横から、いきなり襲われる事は無かろう。仮に襲撃を受けても、最悪被害は一人ですむ。
 真っ先にその最悪の一人になりそうな人物は、オドオドしつつ周囲をきょろきょろ。
「い、いやぁ……なんだかその、ちょっとだけでいいから手をつないでは……くれませんよねそうですよね」
「うっせーぞ、静かにしろ」
 御神島が、うっとおしそうに言い放った。
 既に、建物の一階出口は、裏も含めて出られなくしている。内部にいる天魔が、これ以上逃げる事はできない……そのはず。
「しっ! ……前方に、『居ます』!」
 警告すると同時に、歌乃が携えたフラッシュライトの光の中に……「熊」がいた。
「ひぃぃっ! あっあっあっくまっくまっくまっ!」
 悪魔の淀川がうろたえている横で、赤薔薇は見た。
歌乃が聖燐の刃に白光をまとわせ、「熊」に切り付ける様子を。
「はっ!」
 白光の刃が、「熊」を一刀両断する。袈裟斬りされた「熊」は、抵抗する事無く、倒れ……静寂が再び訪れた。
「……? 手ごたえ、なさすぎませんか?」黒子が言葉をもらし、
「ああ、こいつは……」不破が、黒子の言葉にうなずく。
 全員で近づくと。そこには両断された、熊の剥製が転がっているだけだった。

「すみません……」
 歌乃が攻撃したのは、何の変哲もないただの剥製だったのだ。
「まあ、敵じゃなくて良かったよ。用心に越したことはないからね」不破がそう言う横で、赤薔薇はその熊の剥製を見つめていた。
 乾燥し、ぼろぼろに崩れたそれは、改めて見ると物悲しささえ感じさせる。状態も良いとは言えない。そして……この熊もかつては懸命に生きていたのだろう。そう思うと、物悲しさが更に増す。きっと……金賀も同じではないだろうか。
「……皆さん、行きましょう」
 自分がそう言って、使命感が溢れてくるのを、赤薔薇は知った。

 三階から、二階へと降りる。
 三階から二階、一階へと降り、地下一階を最後に調査する段取り。三階には、なにもなかった。
 そして、二階。が、ここでも結果は同じく「何も無し」。
「!? ね、ねぇ! 何かいるって!」
 同じ言葉を、淀川が口にした。三階でも彼は、こう言っては剥製やら瓶詰標本やらを指差すも、それらしい存在は未だ発見されず。今回も毒蛇の瓶詰標本や、剥製や、その他恐ろしげな展示物を見るたび、腰が引け恐れおののく始末。
「あの、ちょっと落ち着いてください。さっきから何も出てきませんし」
「あ、いやぁ、その……見間違えちゃって……」
 黒子へと、淀川は言い訳めいた言葉をもぐもぐさせた。
「……ともかく、探そう。こんなB級ホラー映画にありそうなシチュ、見るだけなら嫌いじゃないが、関わり続けるのは御免こうむりたい……」
 不破がそこまで言った、その時。
 鳴子が、鳴った。それとともに、撃退士たちの心の中にも警戒と緊張、戦慄とが走った。

 一階。
 鳴った鳴子は、作業員用階段。おそらくは、地下から一階に階段を用いて上り、扉を開いたのだろう。二〜三階を見た限りでは、今のところ誰もいなかった、何もいなかった。
 が、鳴子が鳴った事で、確実に何かが「存在する」。それが明らかに。
 エントランスの奥には、従業員専用の廊下。廊下の先には、階段の踊り場と兼用の、エレベーターホールがある。鳴った鳴子の材質から、間違いなく作業員用階段から、「何か」が来た。
「しっ!……来るわ」
 廊下に入り、黒子がそれを見据える。歌乃が剣を構え、不破はシルバーマグ……拳銃を取り出し構えた。
 廊下の幅は、約4m。そして皆の視線の先には、エレベーターホールに続く扉が。その扉が今……動いている、開いている。その影から、「それ」が現れた。
 そこにあったのは、一見して、人間に見える三体の影。彼らは、撃退士たちの姿を見た途端に、掴みかからんと前方へと歩き出した。
「……でっでっでっ、でたーっ!」
 淀川の悲鳴と共に、撃退士たちも動く!
 骸骨。その三体は、昆虫のような動きで、撃退士たちへと襲い掛かった!
「『エナジーアロー!』」
 赤薔薇が、即座に魔法を放つ。薄紫色の光の矢が放たれると、それが骸骨を貫き、破壊した。
 一体の骸骨が倒れ、霧散する。が、仲間の屍を乗り越え、二体目、三体目が迫ってきた。
 接近した骸骨二体に、接近した撃退士二人が襲い掛かる。
「血を奉じ、祓魔宿魂の剣符と化せ……!」
 歌乃が、太刀・聖燐の刃に左手の指を走らせる。滴った血が符に付着し……それを投擲した。
「『炸裂符』!」
 骸骨は符を受け、胸部を爆裂させた。
「てめぇら……近づくな!」
 続き、シャドウレガースを装着した、御神島の蹴撃! アウルを纏わせたキックの一撃が、二体の骸骨の頭部を蹴り飛ばし、砕き……そのまま霧散させた。
「や……やっつけたのかな……?」
 腰が引けつつ、淀川が霧散しつつある骸骨を覗き込む。
 確かに、やっつけた。だが……これは前哨戦でしかない事を、皆は承知していた。

 地下へ続く階段を降り切った。そこに広がっていたのは……人工的に作られた、安っぽい「地獄」。
 明かりをかざすと、三体の人形のミイラが視界に入ってきた。それらは全て、倒れて手足がバラバラになっている。その隣には、糸で吊られたプラスチックの骸骨。
 注意しつつ、さらに奥へと進む。迷路のように仕切られた壁沿いに進み、多少は広いフロアの中心部あたりにまで来ると、そこには三体の悪魔の像が。そして、さらなるコーナーへと誘う出入り口とがあった。
 その、出入り口の奥から……かすかな音が聞こえてくる。間違いなく、「何かがいる」。それも、実体を持った何かが。
「な……何か聞こえてきましたよね〜、なんでしょうね〜」
「……あの、静かにしてください」
 淀川をたしなめ、歌乃が目前の闇にライトを当てた。
「ひいいいっ!」
「……どうやら。発見したみたいですね」
「だな……」
 淀川の悲鳴とともに、言葉少なに黒子と不破が視線を交わし……目前の「そいつら」を見据えた。
 死体だった。落ち窪んだ眼窩と、げっそりとした頬。そして死体の肌色。鈍重な動きがなおの事、恐ろしくおぞましい。
 歩く死体……腐骸兵。そいつらは先刻の骸骨同様に、撃退士たちへと掴みかかる!
「……真ん中の死体、金賀さんに似てる!」
 赤薔薇が、写真を取り出しそれと見比べ、叫んだ。
 他の二体は、片方が女、もう片方は痩せており、顔が崩れている。
「……ならば!」
 シルバーマグを構えた不破が、腐骸兵へと狙いを定め、二発を撃つ! 
濁った暗闇を切り裂き、弾丸が生ける屍へ、ないしはその膝頭を撃ち抜いた。立つ力を失い、一体は床に這いつくばった。
 もう一体が、ワイヤーに足をからめ捕られた。両足を、黒子が放ったカーマインが食い込み絡みついたのだ。女の腐骸兵もまた、床に倒れ込んだ。
 残る一体の腐骸兵が、よたよたと迫ってくるが……。
「はっ、うぜぇ奴だ………『鳴神』!」
 鋭い蹴りを、雷とともに放つ。流れる電撃が屍の身体に流れ、痙攣させ……膝をつかせた。
「まぁとりあえず、背中の刺青を見れりゃいいんだろ?……おら、とっとと見せろ」
 よたよたと立ち上がろうとする腐骸兵を、御神島は蹴りを放ちひっくり返した。着ているぼろ服をはぎ取るように脱がせると……腐臭とともに、その背中があらわに。
「確認……しました! 金賀の刺青です!」
 写真を片手に、黒子が叫んだ。刺青の写真……趣味の悪い絵柄と、寸分たがわぬ刺青が、腐骸兵の背中にあった。
「よし……山里、写真!」
「は、はいっ」
 不破の言葉に従い、カメラを取り出し、その背中、そしてその顔の写真を撮る。
 身体へのダメージが大きいためか、そいつの動きは弱々しい。手足を力なくばたばたさせ、立ち上がれない様子を見せている。
「あの……」
「よし、証拠確保。後は……」不破が、床上でのたうちまわる腐骸兵たちの頭部へ、弾丸を撃ち込む。
「あのー……」
「後は、この金賀をぶっ潰せば終わりだな? はっ、とっとと終わらせて帰りたいぜ」面倒くさいとばかりに、御神島がぼやく。
「あのー、皆さん?」
「そうですね。ただ、せめてもの情け。荼毘に付して差し上げたいです……」歌乃が、憐みを込めた声でつぶやいた。
「あのー、皆さんってばー……」
「そうですね……って、さっきから一体なんです?」黒子の声とともに、赤薔薇もまた上ずった声を上げた。
「み……見てください!」
 赤薔薇が指摘した、その先。
 模造品の、張りぼての悪魔の像が「内側から」壊され……。
 おぞましき腕が、身体が、頭が、そこに現れた。

 まるで、醜い蛹から、より醜い蛾や蝶が羽化するかのよう。ぼろぼろの包帯を全身に巻き付けた、乾燥した死体。
 三体の木乃伊……マミーは、汚れた包帯を振り回しつつ、撃退士たちへと接近した!

 撃退士たちは、予想外の場所から出現した敵に面食らい……立ち直るのに時間をかけすぎた。五秒もかかったのだ。
 その五秒間をかけて、全員が戦闘態勢を整える。
 まず最初に、不破のシルバーマグが火を噴いた。拳銃のマズルフラッシュとともに、弾丸がマミーの一体の顔面と胸板へと食い込み、貫いた。
「クリスタルダスト!」
 続き、赤薔薇の魔法……出現した氷の錐が、吹雪と共にマミーへと吹き付けた。氷が突き刺さり、氷結が汚れたマミーの身体を貫く。乾燥したその巨体が崩れおち、一体目が沈黙した。
 二体目の、より巨大なマミーが、赤薔薇と不破に掴みかからんと迫る!
 その前に、歌乃が立ちはだかった。左手の血を得た符が、力を得て歌乃の手の中で活性化する。
「『炸裂符』!」
 一枚の符が、マミーへと直撃し爆裂した。
すかさず御神島の両足が、暗闇の中に弧を描く。
「クソうぜぇぞ、てめぇ! 消えろ!」
 シャドウレガースの一閃が、マミーの腕を蹴り飛ばし、マミーの胸板へと食い込み、その乾いた心臓を蹴り抜いた。
 声なき悲鳴とともに、二体目も沈黙した。
 残る三体目もまた、一歩を踏み出そうとしたが。
「!?」
 黒子のカーマインが、片足に巻き付いていた。細く鋭い鋼糸は、そのまま片足へと食い込み……切断する!
 倒れたところに、アルマスブレイドを握った淀川が、
「うわわわわーっ!」
 マミーの心臓を、その刃で貫いた。

 その後の調査で、天魔が掃討された事が確認。金賀は行方不明になってから、この郷土館の地下の一室に隠れ住んでいた事も判明した。
 やがて、孤独死した後に、展示品の中に含まれていた本物のミイラや人骨とともに、彼の死体もサーバント化したのだろう……。そう結論付けられた。
「取り残されてしまった心……救えたのでしょうか……」
 それを聞き、歌乃は寂しそうにつぶやいた。が、
「きっと……救えたと、思います」赤薔薇は、彼女にそう答えた。
 だって、最期に止めを差す一瞬。
 金賀さん、苦しみから解放されたような、そんな顔になったんだもの。
 気のせいかもしれない。しかし、赤薔薇には少なくともそう見えた。
 それを信じ、あの建物はこれから……笑顔と幸せを提供するために使われて欲しい。そう思う赤薔薇だった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:1人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
撃退士・
不破 玲二(ja0344)

大学部8年181組 男 インフィルトレイター
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
事件を呼ぶ・
淀川 恭彦(jb5207)

大学部2年95組 男 インフィルトレイター
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
能力者・
御神島 夜羽(jb5977)

大学部8年18組 男 アカシックレコーダー:タイプB