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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/13


みんなの思い出



オープニング

「……どうしましょう」
「……いや、どうしましょうって言われても、ねえ……」
 雅子はできるならば、非常にややこしいこの状況から逃れたかった。

 久遠ヶ原学園近くの商店街。そこのリサイクル店「とんとんショップ」店長・東崎雅子。
 彼女は、色々な顔を持つ。店長としての顔、ラーメン好きな顔、人生の先輩としての顔。
 でもって、今は相談者の顔。相談相手は、店員にして友人の西ヶ谷翠子。
 翠子は、大変な目に合っていた。指輪を無くしてしまったのだ。彼からもらった、大切な婚約指輪を。

 西ヶ谷翠子。彼女は「とんとんショップ」の店員。そして、近々結婚する予定。
 相手は、雅子の親戚で、パン屋「アカンベーカリー」を営む青年・阿寒助清。ラブコメの鈍感主人公めいたモノスゴク鈍感なやつではあるが、同時に働き者。なおかつ、ご近所に無償奉仕し、ささやかながら世のため人のために尽力する事を惜しまない「良いヤツ」。
 ちょっと前に色々あって、彼は翠子と交際開始。紆余曲折があり、婚約し、結婚する事に。
 だがしかし、駄菓子菓子。
 翠子は基本しっかり者だが、時折とんでもないドジっ子属性を発動。そこからトラブルを発生させ、なんとか解決はするものの、周囲から「いい加減にしてよねーホントに」的なコトを言われるのもしばしば。
 で、今回もそのドジっ子属性が発動してしまった。

 翠子は、ネコを飼っている。でもって翠子は、ちょっとアレなネーミングセンスを有している。
 今飼っているネコは、全部で四匹。以前から飼っている「コブラ」の他に三匹。ちょっと前に別の、三匹の猫を保健所から引き取っていた。
 三匹の特徴は、右耳が黒い茶色の猫、左耳が茶色い白猫、両耳が白い黒猫、付けた名前はそれぞれ「ハブ」「マムシ」「ガラガラ」。
 別にあえて毒蛇の名前を付けたい……と思ってこんな名前にしたわけではなく、考えた結果偶然こうなった……というのは翠子談。
 ちなみに、
「ハブ」は、「ハーブティーの匂いがお気に入りだから。ハーブを縮めてハブ」。
「マムシ」は、「まるでマムシ丼=うな丼を食べたかのようにスタミナあるから」、
「ガラガラ」は「赤ちゃん用のガラガラが好きでそれに懐いてたから」。

 で、翠子が言うには。このうち一匹が婚約指輪を持っているはずだ、というのだ。

 どういう事かと言うと、話は三日前。
 翠子は寝る前には毎回指輪をはずし、お守り袋に入れていた。そのお守り袋はいつもベッド脇のテーブルに置き、そして眠る。
 しかしその日は、ネコたちの新調した首輪、およびちょっとしたアクセサリーとして、首輪に付ける小さなお守り袋も一緒にテーブル上に置いてしまっていた。
 翌朝、起床。しかし低血圧気味な彼女は、ニャーニャーと朝飯をせがむ猫たちに起こされ、寝ぼけた状態で起き上がった。
 餌をやった後、
「……あ、そうだ。首輪付けてあげなきゃあ」
 と、寝ぼけた状態でお守り袋を首輪に付け、首輪を猫たちに付ける。そしてそのまま二度寝。

 二度寝から目覚めると、午後1時。まあ昨日は疲れたし、今日の休日は一日このまま寝てようか……と、サイドテーブルに目をやったところ。
 無い。
 指輪を入れた、あのお守り袋がない。
 その代わりに、猫の首輪に付ける用のお守り袋が一つある。
「……えーと」
 寝ぼけた思考が徐々に覚醒していくうち、翠子は現在の状況を認識しつつあった。
 婚約指輪を入れたお守り袋が無い。代わりに猫に付けたはずのお守り袋が一つ。
「なーんだ、間違えちゃったんだーははははー……」
 笑ってこの状況を楽観視しようと思ったが、その試み失敗。
「……って! ちょっとハブ!? マムシ!? ガラガラ!? どこよっ!」
 必死ぶっこいて愛猫たちの名前を呼ぶも、出てきたのはコブラ一匹のみ。
「あ、コブラ! ねえ、他の子たちどこに居るか知らない!? ……知ってるわよね? ね? 教えてよ!」
 すがるようにコブラに言葉をかける翠子ではあったが、当のコブラ本人、もとい本猫は、
『うっさいわねー、猫のワタシが人間の言葉で返事できるわけないでしょーが。マヌケかご主人は』的な眼差しを返し、そのまま大あくび。ご主人様の都合など知った事かと、そのまま専用の猫ベッドに入り込み、眠り込んでしまった。
「……ま、まあ。夜になったら帰ってくるわよね」
 と、夜を待った翠子であったが。
「その日から、猫たちの姿は消えてしまったのです」というナレーションがバッチリと似合うかのように、真夜中が過ぎ、朝を迎えても、ハブもマムシもガラガラも、帰ってこなかった。

「どうしたの、翠子さん。顔色悪いよ?」
「あ、いやあ……ははは。夕べ夜更かししちゃって」
 なんでこんな時に限って、鋭いのよと思いつつ、翠子は助清へと愛想笑い。
 一日前。
 パン屋、「アカンベーカリー」。
 未来の夫となる予定の、阿寒助清の店の手伝いをしていた彼女は、迷っていた。
 あれから三匹とも戻ってこない。何かあったのかもしれない、事故に遭った? 連れ去られた?
 猫たちは今も、戻ってこない。翠子は自分でも可能な限り探したが、猫は見つからなかった。
 もう、自分一人の力では探すのは無理。誰かに協力してもらい、探すしかない。
 けど、そうなると助清も「僕も手伝うよ」と申し出てくるに違いない。実際彼は、過去にボランティアで何度も迷い猫の探索を行い、見つけてもいた。指輪の事を隠しても、ひょっとしたら先に見つけられ、お守り袋を開けられてしまうかもしれない。
 助清に隠れ、他の人に頼んでも無駄だろう。「助清くんに頼めばいい」と言われ、彼の耳に入る事は必至。
 それに、何より……自分が情けない。あの指輪は、助清の恩人からもらった……大切な品だという。詳しくは教えてくれなかったが、捨てられた自分を育ててくれた、親代わりの人の形見だと。
 指輪そのものは安物だが、彼にとっては大事な品物。それを、自分にくれたというのに。自分ときたら、寝ぼけて無くしてしまい、なおかつ……保身のために、見つける事しか考えてない。
 言えない。言ったところで、許してくれるわけがない。きっと……幻滅し、怒り、嫌うだろう。自分の不注意で、こんな事を起こしてしまった。こんな自分が一番腹が立つし、情けない。
「ねえ、翠子さん。なんだか様子が変だよ? 体の調子でも……」
「……ごめん。急用を思い出したから、今日は手伝いを休ませて」
「え?」
 逃げるように、そのまま彼の元を去ってしまった。

「……と、こういう事があってね」
 雅子が、君たちへと依頼内容を告げていた。
「彼女は私に全て打ち明け相談し、そしてこちらに『三匹の猫を探してくれ』という依頼を持ってきた。つーわけで、『ハブ』『マムシ』『ガラガラ』の三匹の猫を探し出してはくれないかしら? ……あの子、私の住居に入り込み、悩み続けて夜は眠れず昼寝をし、悩むあまりに三度の食事も喉を通らず六度の夜食と九度のオヤツを口にしているため、色々な意味で大変なのよ(家計的に)」
 手がかり的には、三匹はそれぞれ、好みのラーメンスープがあるという。ハブは醤油味、マムシは味噌味、ガラガラは塩味をそれぞれ好み、ラーメン屋の軒先に現れる事もしばしだとか。
「そういうわけで、なんとかしてやってくれないかしら?」


リプレイ本文

「さて……それじゃ、先日に設定していたSNSから、ラーメン屋に関する情報を調べたいと思います」
 依頼人、東崎雅子のリサイクル店「とんとんショップ」。
そこの大きめな応接室にて。集まった7名の一人、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)。彼は手元のスマートフォンを取り上げた。
 皆が考えた作戦の第一段階は、様々なSNS的なもの……すなわち、皆がオンラインつなげてメールやりとりする的なものとか、短文を色々ツイっとつぶやける的なものとか、そういったものでの情報収集。
 とにもかくにも、そういうシステムから情報を得て、そこから流行りのラーメン屋や店舗を確定。そこから各小猫を捜索……と考えたわけなのだが。

「……おお、どんどん情報が集まってきますね。 この依頼を受けた甲斐があるというもの……です……」
 エイルズレトラの言葉通り、情報は集まっていた。
 だがしかし、駄菓子菓子。
「……気のせいかなー。なんだか、ラーメン屋じゃないお店の名前が出てるけど」
 佐藤 としお(ja2489)の指摘通り、「ラーメン屋『ではない』店の名前」、そして、商店街にて店を出しているまたは働いてる「個人名」の情報が、半分くらい入ってきているのだ。
「ええと、……整体師に、雑貨屋さん? なんでそんなとこがラーメンを?」
それらを読み、首をひねる雫(ja1894)。
「ああ……なあ、なんで『店』以外の情報が入ってきてるんだ?」
 ミハイル・エッカート(jb0544)が、不思議そうに疑問を口に。実際、なぜかお店自体よりも、素人の誰それが作ったラーメンがうまい……という情報がかーなーり多かったりするのだこれが。
「あー……皆さん、ちょっと言い忘れてたわ。お店を出してない『素人の趣味ラーメン』ってのもこの商店街は多いのよね」
 そこに、依頼人の東崎が。彼女は、七人分のラーメン丼を載せた盆を手にしていた。美味そうな湯気と匂いとが、皆の鼻をくすぐる。
「この商店街は、ラーメンフェスってのをやっててね。その参加者が多くて、この辺りは本業ではなく趣味でラーメン作ってる人の方が多いのよ。で、それも結構評判が良かったりするのよね」
 実は私も、「ラーメン四天王」の一角を担うその一人。そう付け加えると、彼女は豚骨ラーメンの丼を皆の前に並べる。
「とりあえず、景気づけに私の豚骨ラーメン食べてって。『クイーン・オブ・トンコツ』の二つ名は、伊達じゃあないわよー」

「ふう、美味しかったです。ごちそうさまでした」
 木嶋香里(jb7748)が、空の丼を前に手を合わせる。
 ラーメン目当てで参加したミハイルも、満足そうに箸を置いた。
「こいつは美味かった。さては……麺は自家製、豚骨や豚肉は特別なところから仕入れていますね?」
 ズバリ的中! ……と自信満々に指摘したミハイルに対し、
「いえいえ。今日のラーメンの食材は、どれも近くの激安マートでそろえた市販品ですよ。さて……」そう返答しつつ丼を片付けた東崎は、電話をかけ始めた。
「私にも手伝わせてね。『ラーメン四天王』の他の皆からも情報を得て、猫ちゃんたちが寄りそうな場所を絞り込みましょう」
「ええ、お願いいたしますわ。……ミハイルさん、どうかいたしまして?」
「いや……別に……」
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)の問いに、どこか上の空的なミハイルだった。

 作戦、第二段階。
 とりあえず、東崎を含めた「ラーメン四天王」の四人の助けも借り、この近場のラーメン屋マップは一応の完成を見た。
 そのマップに従い、只野黒子(ja0049)は味噌ラーメンの評判の店へと向かっていた。他の皆も、それぞれマップの情報を元に聞き込みと捜索に向かっている。
 ミハイルはハブを、レティシアはガラガラを、雫はハブおよびガラガラを担当し、捜索していた。
 黒子の担当は、活発な雄猫で味噌ラーメンを好む『マムシ』。
 香里は翠子の自宅アパート……の隣りの空き部屋を拠点に、皆をモニターしている。香里へと、黒子は携帯機器で連絡を入れた。
「こちら只野。聞こえます?」
『はい、感度良好です。そちらの様子は?』
「味噌ラーメンの評判のお店、到着しました。猫がいます」
 これで、三軒目。
 訂正、三軒目と四軒目。目前にある店は『麺処・彩味』。隣には、エビからダシを取るエビ味噌ラーメン『えびめん・二幻』の支店が。
 その正面扉前には、数人のお客が行列を作り、その足元には数匹の猫が。ある猫は一緒に並ぶかのように座り込み、別の一匹は人懐っこくお客にまとわりついている。
『マムシちゃんの姿は?』
「いえ、黒猫に、茶色の猫に……ぶち模様。白猫はいませんね」
 マムシらしき猫は見当たらない。聞いたところによると、マムシは「左耳が茶色の白猫」。そして目前の猫たちは、マムシの特徴とは異なるものばかり。
 だが、猫の方も黒子に気が付いたのか、薄汚れた灰色の猫が勢いよく駆けてくると、黒子にまとわりつきはじめた。にゃーにゃーと、まるで遊んでくれとせがんでいるかのよう。
「ごめん、悪いけど遊んでいる暇は……」
 黒子はそう言って、その猫を追い払おうとしたが……。
 その猫の、二つの点に注目し……言葉を失った。「左耳」と、「首輪」に。
 その猫は、左耳が茶色だった。加えて、話に聞いていた「首輪」をしていたのだ。首部分には、お守り袋が。
『只野さん、どうしました?』
 香里が、心配そうな声で問いかけてくる。
 それに答えず、すり寄ってくるその汚れた猫を抱き上げた黒子は……その体が、土や乾いた泥で汚れてしまっているのに気が付いた。きっと風呂に入れてやったら、真っ白になるだろう。
「……ひょっとしたら、マムシ、見つけたかもです」
 黒子の言葉に、嬉しそうに猫はにゃあと鳴いた。

「え? 只野さんがマムシを見つけましたか?」
『はい。ただ、首輪のお守り袋には、指輪は入っていませんでした』
「じゃあ、あと二匹ですね。こちらも引き続き捜索します」
 香里からの連絡を終了させ、佐藤は猫探しのチラシ配りを再開した。が、成果はほぼゼロ。保健所に向かって、保護されてないかどうかも確認したが、そちらも空振り。
「はー、東崎さんの豚骨ラーメンうまかったなー……いやいやいや、今は集中!」
 ぱんぱんっと自分の頬を叩き、彼はチラシ配りを再開。

 そこからそう遠くない場所にて。
 金髪碧眼の、落ち着いた雰囲気を漂わせた背広姿の男が……失われたかつての夢を思い出しているかのように、遠い目で静かに座っていた。
 周囲には、若干の人が。中には彼を油断なく見つめている者もいる。
 だが、そんな事は彼にとってはどうでもいい。今の彼の頭にあるのは、60年代のジャズバンドが奏でる曲のような、五感に訴えかけてくる「彼女」の存在。
 そんな物思いにふけりつつ、彼はその場に……住宅街の静かな公園内、ないしはそのベンチに座っていた。
 じきに、奴が来る。そう、重要な相手が。

「……あんたか」
 見るからに屈強そうな男が、大きな何かを持ち、彼の元へと近づいてきた。
「そこで止まれ」
 制した彼は、男の持つ大き目のケースに目をやる。
「それが、例のブツか?」
「ああ」
 確認しろとばかりに、男は彼へと、取り出した「それ」を見せた。
 まちがいない。口元ににやり……と笑みを浮かべつつ、彼は手を伸ばそうとしたが、男に阻まれた。
「カネが先だ」
 ちっ、仕方があるまい。まあいい、ブツは確かだ。
「ご苦労だったな。対価だ、受け取れ」
 うやうやしくトランクを開き、こちらもまた相手に中身を確認させる。
「……ちょうどだ、毎度」
 代金を受けとり、その男は……その場を去ろうとした。
 しかし、
「……そうだ、ちょいと忘れていたが」
「……な、なんだ?」
「半ライス、オマケでつけときます。あと、ドンブリは直接店まで返してくださいね?」
 男……ラーメン店「麺下無双」の店員はそう告げると、そのまま去って行った。
 そしてミハイルは、注文した醤油ラーメンを前に、その香りを胸いっぱいに吸い込むと……。
 割り箸を割り、美味へと取り掛かった。

「……麺は中太の縮れ麺。スープは基本鶏ガラと野菜のダブルで、さっぱりした中にもコクがあり、深い味わいを醸し出している、か……」
 じっくり、ゆっくりと……麺をすすり、スープを味わう。口中に広がる「ウマさ」が、ミハイルの心の中を満たしていく。
 焦がした味わいの醤油とネギ、そしてマー油がまた、いい味を出している。思わず美味に恍惚に……。
「……おっと、いかんいかん。仕事仕事。これはハブをおびき出すための作戦なんだからな」
 心の中で、まるで誰かに言い訳するように、彼は自分の作戦を確認した。醤油ラーメン好きなハブをおびき出すためにと、わざわざこうやって屋外の公園にラーメンを出前で持って来させたのだ。
 ハーブティーも用意してある。そう、これは作戦の一部。足元には、猫用のケージも用意してある。決して「ラーメン食えてラッキー♪」とか思っていない! ……たぶん。
 やがて、ドンブリはスープをわずかに残して空に。持参した魔法瓶からハーブティーを口にするが、やっぱり猫は来ない。
 それにしても、いい天気だ。腹もいっぱいになったし、ちょっと眠気が……。
「いかんいかん、眠っては……ぐー」
 しばらくして、差し入れにとホットウイスキーを手にした黒子が公園に向かうと。
 居眠りしているミハイルの残したハーブティーを、ぺろぺろと舐めている子猫……ハブの姿がそこにあった。

「あとは、ガラガラだけ……でも、どこに?」
 雫は、携帯で連絡を受けとっていた。マムシに続きハブも確保したと。しかし、指輪はやはり持っていなかった、との事。
 雫は、魔法瓶に塩ラーメンのスープを用意していた。ラーメン屋マップにて店に直接赴いたものの……目撃者はおらず、情報も得られなかったのだ。
 なので、仕方なく適当な店から塩ラーメンの半ラーメンを用意した丼に入れ、子供が集まりそうな公園で食しているのだが……。やはり一行に現れない。
 児童公園ゆえ、子供と母親の姿は多い。が、猫は見当たらない。
「……ここまで探して見つからないとは。あるいは……猫は知りすぎたのかもしれない。そう、猫は知っていた、暗黒から響き渡る怨念と執念と呪怨の煉獄を……」
 などと中二病的なコトを口にしながら、レティシアは公園内をガラガラ玩具をふりふりしつつ「さー猫ちゃん、どこかな〜?」などと探し中。
「母ちゃん、あの子ヘンー」「見るんじゃないよ!」などと言われてるけど、本人は全く意に介さぬ様子。
 手には翠子から借りた、ハブとマムシ、そしてガラガラが使ってた敷布もある。ぼろぼろになってるが、臭いはばっちり付いている。この臭いに誘われて、ガラガラは現れないものか。
 結局、ラーメンを食べ終わってしまった。「麺工房・極」のお持ち帰り用ラーメン・塩味は、さっぱり風味だが後を引き、もう少し何か食べたくなってしまう。
「はぁ……もう一杯」
 と、腰を浮かせたその時。
「ははは、若い子たちは元気ねえ。ほーら怖くないよー」
 レティシアが猫たちと戯れていた。玩具のガラガラに、近くの野良猫たちがなぜか集まり、ごろごろと喉を鳴らしてまとわりついている。
 その中には、両耳が白い黒猫の姿も。
「まさか……ガラガラ?」
 立ち上がり、レティシアの方へと向かう。
 とたんに、猫たちは一斉に「びくっ!」と反応し、何か怯えるようにして逃走……。
 しようとした。
「……に、忍法『友達汁』!」
 雫が必死こいてかけた忍法が、猫たちの動きを止めた。そして……。
 必死こいて猫のガラガラを確保。その首には、指輪の入ったお守り袋があった。

「次からは、気を付けて下さいね。あと……」
 レティシアは雫と共に、ガラガラと指輪とを翠子に手渡していた。
 そして、他の五人も翠子のアパートに集合し、ハブとマムシを彼女に手渡していた。
「あと……翠子さん。悩みの方向が、ちょっと猫さんに向いていないのが、気になりますね」
 レティシアの言葉に、翠子は「えっ?」と疑問符を。
「子猫は、引き取られたばかりの頃はナイーブなのです。末永く、大切に……」
 にこにこしつつ、若干威圧的に迫るレティシア。そんな彼女に対し、翠子は「は、はい……」とうめくのみ。
「まあ、これで無事にすんで、めでたしめでたしですね。ただ……」
 香里もまた、翠子に話しかける。
「ただ、改めて今後の事を助清さんと話し合うべきだと思います」
「で、でも!」
「私は、隠し事でこそこそされるのって心配かけてしまいますし、それに信頼がないと、相手も落ち込むと思いますよ」
「それは……わかりますけど……」
 それでも、不安そうにもじもじとする翠子。
「大丈夫です。助清さんの事が好きなんでしょう? なら、もっと助清さんの事を信じてあげてはいかがですか? 夫婦には、お互いがお互いに隠し事をせず、信じ合う事が重要。でしょう?」
 香里の言葉に、翠子はしばらくの沈黙の後、小さく、しかしはっきりとうなずいた。

 だが、この直後。
皆と一緒に助清の元に赴いた翠子だが。
「ああ、やっぱり指輪、無くしていたんだね?」という助清の第一声を聞く事に。
「な、何で知ってたのよーっ!」
「いや、猫ちゃんたちがいなくなったにしては、必要以上になんだかそわそわしていたし、変だなって思ってたんだよ。でも翠子さんが何も言ってこないし、もし違ってたら翠子さんに失礼だし、どうしたものかって僕も悩んでいたんだ」
 で、東崎雅子に相談しようと思ってた矢先に、翠子がやってきて、今回の事の次第をこうや
って聞かされた、と。
「な、何よ! それじゃまるで、私バカみたいじゃない! 一人で勝手に悩んで、一人で大慌てして、結局……こんな……」
「そんな事ない!」翠子の言葉を、助清は強くさえぎった。
「バカなんかじゃないよ、翠子さん。指輪を無くして悩んでたのに、それに気づかなかったのは僕の責任だよ。それに……」
 助清は、翠子を静かに抱きしめ……ささやいた。
「それに、指輪より、翠子さん自身の方がずっと大切。どんなに貴重な品物でも……代わりはある。けど、翠子さん自身には、代わりになるものなんてない。だから……」
 もう、気にしないで。
 その言葉が翠子に吸い込まれていくのを、撃退士たちは実感していた。

「……心配は無用だったみたいですね」その様子を見た雫は、ほっと胸をなでおろし……翠子へ問いかけた。
「そうだ。あの、西ヶ谷さん。猫ちゃんですが……どうやったら、猫に好かれるようになりますか?」
「え? ええっと……そうね。素直になる事、好きと言う気持ちを素直に猫ちゃんたちに伝える事、かしら?」
 そう、助清さんに対するように。
 照れながらそう言う翠子に、末永く爆発しろと思ってしまう皆だった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 刹那を永遠に――・レティシア・シャンテヒルト(jb6767)
 和風サロン『椿』女将・木嶋香里(jb7748)
重体: −
面白かった!:6人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド