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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/17


みんなの思い出



オープニング

「ええと、頼まれてくれるかしら?」
 リサイクル店「とんとんショップ」。
 その店の店主・東崎雅子は、商店街ではラーメン四天王のひとりとして有名で、「クイーン・オブ・トンコツ」の通り名を持つ。
「平たく言えば、頼み事ってのは『ペットの捜索』。まあ、話せば長くなるんだけど、できるだけ短くすると……」
 と、雅子は依頼内容を述べ始めた。

「なあ、どうしたんだよ?」
 この男の名は阿寒助清。雅子の親戚で、職業は商店街のパン屋「アカンベーカリー」。店では焼きそばパンが人気だが、本人は好きではない。
 そして、助清が声をかけたのは、同じく商店街のリサイクル店「とんとんショップ」に勤める、西ヶ谷翠子。
「……何でもないわよ」
「何でもないわけが……ああ、そうか。焼きそばパンの予約入れたいのかな? 僕は焼きそばがそんなに好きじゃないけど、人気あるからね。大丈夫、まだ今日の分は……」
「そんな事じゃ無いわよ! この莫迦! 阿保! 弩阿保! スカポラタン! ろくでなしの卑怯者の臆病者のすっとこどっこいの土偶! 青カビだらけの甘酢あんかけさくら餅!」
 翠子は、そんな助清の鈍さが嫌い。嫌いゆえに罵倒の言葉も、だんだんと訳の分からんものになってしまう。
「……何怒ってるんだろうなあ、彼女は」
 マジにわけがわからんとばかりに、去りゆく彼女の背中を見つつ、助清は頭をひねっていた。

 阿寒助清。彼にはとてつもない欠点があった。
 鈍いのだ。それも半端なく。
 助清は悪いやつではない。それよりむしろ、スゴクイイやつである。見た目も良く、結構気が利くし優しいし、さらにはどっかのイケメン声優みたいな声をしているため、学生時代には(友人として)交際してた女性も結構多い。どっかの総統閣下が「リア充爆発しろチキショーメ」と言いたくなるくらいに、
 だが、デートっぽい事しても、好きだとフラグ立てしても、それにまっっっったく気が付くことなく、相手はプンプン。それに対し素で、「彼女、何怒ってんだ?」
 で、さらに悪いことに、相手から本気と書いてマジモードで告られても。

「ええ? 僕なんかに告白? 冗談はやめてよ、僕はそんな告白されるに値する人間じゃないって」

 素でこんな風に返すものだから、皆怒るか呆れるかするばかり。
 本気で好きだと何度も食い下がっても、

「僕程度の男に本気になる? 何の冗談だよ。……ああわかった、これはドッキリか何かだね?」
「僕なんか何も取柄は無いし、顔だって人並みだし、いいとこないよ。からかわないでほしいな」
「優しいから? そんなに僕は優しくないよ。勉強もスポーツも中の下だし、ただ言われた事をするだけの退屈な奴だよ僕は」
「だからさあ、そんなに僕に付きまとって好きだ好きだって言われても、正直困るよ。女の子に告られるような都合のよい事が、僕ごときに起こるわけないんだからさ」

 ……と、「自分はモテるわけがない」「告白されるわけがない」と、変なところでゆるぎない確信を持ち続けている。いうなれば、ベタベタな三流ギャルゲーまたはラノベの主人公みたいなやつなのだ。それも鈍さ属性かなり強めの。というか「ワザとやってんじゃあないか?」と思うくらいに。
 
 で、雅子の紹介で翠子と顔見知りにはなったはものの、助清は相変わらず。
 デートしても、好きだと言っても、様々なアプローチしても、まったく反応なし。
 ストレートに好きだと言ったら、
「僕も好きだよ。雅子姉さんと同じくらいにね」
 要するに、友人として好きだというやつ。
こう言われて、すっかりへそを曲げてしまった翠子は、ちょっとした無理難題を助清に与えた。

「行方不明になったペットのコブラを見つけ出し、自分のところに連れ帰ってきなさい。あなたが、やらなきゃあダメ!」
「ええっ? なんで僕がそんな事を……」
「こないだ、私ん家に来て掃除してくれた時に、窓と玄関開けっ放しにしてくれたじゃあないの! その時に逃げちゃったのよ! つまりはあなたのせい! 責任取りなさい!」
「そんな事言われても……」
「うっさい! するの? しないの? どっちかはっきりして!」
「わ、わかったよ」

 と、半ば強引に了解をとりつけた。

「……あんたさあ、『ペット見つけろ』ってのはいいけど、コブラなんか飼ってたわけ? そんなのが逃げ出したなんて、危険極まりないわよ?」
 と、自宅の台所にて。自慢の自作豚骨ラーメンを食いながら、雅子は呆れた口調で翠子にたずねた。
「いえ、『コブラ』って名前の、ただの猫ですが何か?」
 それを聞き、ずっこける雅子。
「……どういうネーミングセンスよ。ったく。思わずラーメンむせそうになったわ」
「ちなみに、昔飼ってた犬には『ねこ』と名付けてました。昼寝好きで、寝る子は育つから、寝子って感じで」
「……まあ、ネーミングセンスに関してはおいといて。そんなにあのスカポンが反応しないんなら、振ってやったら?」
「それは……できません」
 翠子は視線をどんぶりへと落とし、静かに、そして悲しげにつぶやいた。
「助清さん、私が病気で寝込んでいた時、親身になってくれました。一か月分の給料を丸ごとなくしたときにも、その分を『返さなくていいよ』と出してくれました。私が事故を起こした時にも、代わりになって治療費や弁償代も出してくれましたし、何より……暴漢に襲われた時にも、身を挺して守ってくれました。私には……あの人しかいないんです」
 そして、どんぶりの中身、麺大盛りの豚骨ラーメンを勢いよくすすり始めた。彼女は精神的に不安定になると、こうやって大喰らいする事で解消する癖があった(そしてその割に太らない)。
「……なのに助清さんときたら、『僕なんか君にはもったいないよ』ってばかり。おかげで、最近食欲なくて……あ、麺の替え玉お願いします。バリカタ、大盛りで」
「はいはい……(つーか、食うのかよ)。まあ、あの朴念仁っつうかド鈍い莫迦は、天然でああだからねえ。腹立つのもわからんではないけど……」
「そうですよー! ああ腹立つ! バカバカバカばかーっ! ……でも好き」

「……とまあ、こんな感じでなあ」
 げんなり顔で、雅子は話し終えた。
「で、助清の方もコブラ(という名の猫)を探しに行きたいのだが、なにぶんパン屋も暇じゃあない。しかも助清の奴は近所の掃除やら破損個所の修理やら町内会の雑用やらと、空いた時間のほとんどをボランティアに充てててなあ。ぶっちゃけ探す時間がないんだわ」
 なので、君らに代わりに探してもらいたい、と。
「で、コブラを探し出したら、助清の手から翠子に返させてほしい。できればその際に、あの朴念仁馬鹿に、『アンタは恋人として好かれている』ってのを理解させてもらいたいんですわ」
 ほぼ無理ゲーだろうけどねと、ぼそっとつぶやき付け加える。
「猫のコブラちゃんは、おそらくは商店街のどっかに迷い込んでると思う。翠子が言うには、そのネコちゃんは私の作った豚骨スープの匂いが好きだって言うから、それを利用すればなんとかなるかもしれない。ともかく」
 そういって、雅子は君たちに頭を下げた。
「この問題、解決してはくれないかしら?」


リプレイ本文

「ありがとー! じゃ、行ってきます!」
 コブラ……という名の猫を捕獲すべく、九十九 遊紗(ja1048)は豚骨スープを手渡され、元気よく駆け出して行った。依頼者のリサイクル店へと赴き、雅子と翠子からペットボトルに入った豚骨スープをもらった彼女は、それを大事そうに抱えている。
そんな遊紗の傍らで、御崎 緋音(ja2643)は今回の作戦内容をもう一度整理していた。
「二手に分かれ、片方は豚骨スープで猫のコブラちゃんをおびき出し捕まえます。もう片方は、助清さんの店に行って手伝い、ボランティア活動を肩代わりします。そのあとで説得し、翠子さんに助清さんの手から手渡しさせる、でしたね……山里さん?」
「は……はい! そうでした、ね……」
 緋音から話しかけられ、山里赤薔薇(jb4090)は少しばかりオドオドした口調で返答する。同世代の女の子、それもかわいい娘たちに囲まれているこの状況に慣れていないため、赤薔薇は不安を覚えていた。加えて、自分のコミュニケーション下手からして、ちゃんと意思疎通できているかどうか。それも不安。
「ん? どうしたどうした、何か不安なのかい? それとも、猫ちゃんが怖いとか?」
「ひゃっ!」
 お尻を叩かれた赤薔薇は、思わず声を上げていた。叩いたのは、銅月 千重(ja7829)。たくましいのみならず、自信としなやかさ、それに力強さをも感じさせる体格で、にっと笑顔を向けている。
「じゃ、赤薔薇お姉さん、緋音お姉さん。コブラちゃん探し、レッツゴーだよ! おー!」
 そんな千重に追随するように、遊紗の元気な声が響いた。
「ええ、行きましょう。おー! です」
 つられて、緋音も同じく声を上げる。
「頑張ろうな! おー!」
 当然、千重も。
「お……おー……」
 最後に赤薔薇は、それに合わせて声を出している自分に気付いた。

 
「はいこちら、ツナ入りちくわパンです……、はい、マヨバーグドッグが切れてる? 少々お待ちください……」
 昼時、アカンベーカリー。
 繁忙時間帯に、夏木 夕乃(ja9092)は手伝いに押しかけていたのだ。かの鈍感男こと助清が断るならば、強引に手伝おうと考えていたが。
『お手伝い? 助かるよ、じゃあお願いするね』
 とアッサリ。しかし、仕事内容はアッサリとはいかず、めっさ大変。
 このパン屋はかなりの人気。それゆえ、お客が長蛇の列を作っており、それに対応するだけでも大変。
「え、ええとええと……」
 対応してる瀬波 有火(jb5278)もまた、行列客相手に大苦戦。
「次の食パン焼けるのいつー?」「こしあんパンとつぶあんパンと、うぐいすあんパンまだですかー?」「ヒレカツサンドじゃなくてロースカツサンド欲しいんですけど。あと、メンチカツサンドにエビカツサンドも」「ツナ入りちくわパンとマヨネーズ明太子クロワッサン、もうないんですか?」「ねえ、まだー?」「こっちまだー?」「こっちさっきからずっと待ってんですけどー」「おい早くしろよ! やきそばパンまだか!」などなど。
「次のあんぱん焼けるのは……じゃなくて、ええと……うぐいすあんぱん? ちょ、ちょっと待ってください!」
「う、うわわわわーっ! あーもーわかんないわよっ!」
 と、夕乃と有火のパニくりレベルが最高潮に達した時。
「ああ、ちょっと待ってくださいね……」という言葉とともに、この店の店長が颯爽と現れ、すらすらと述べはじめた。
「次の焼きたて食パンは午後三時過ぎくらいです。追加のこしあんパンとつぶあんパン焼き上がりました、うぐいすあんパンはあともう五分お待ちください。ロース、メンチ、エビカツの各サンドイッチはあと十五分ほどでできあがります。ツナ入りちくわパンの補充は午後二時ごろです。マヨ明太クロワッサンはまだ別の棚にありますよ。……こちら、お待たせしました。こちらもお待たせしました。そちらお待たせしてます。はい、こちら焼きそばパンおまちどうさまでした……」
 数秒後。手際のよい助清の対応により、事態は嘘のようにおさまってしまった。
「ふ、ふええ」
「ほらほら、まだお客様は並んでるよ? 働いたり働いたり!」
 ぱんっ、と助清に肩を叩かれた二人は、さらなるてんてこ舞いを体感し実感し思い知る事に。
「困ったなあ。これじゃあ『ラブレター落として必殺乙女の涙作戦』できないじゃあない」などと夕乃は心の中でぼやいてみるも、後の祭り。
 そして、気が付くと。時計は三時を過ぎていた。


「ううっ、ボランティアこんなにあるなんて、マジですか。休む暇ないじゃあないですか」
 思わず、夕乃はぼやいてしまう。
 三時過ぎ。焼きたて食パンを売り切った後、ボランティアだと聞いて夕乃と有火は代わりに行こうと名乗り出たが
「それじゃ、頼もうかな。これとこれとこれとこれとこれをお願いするね」
 そう言った助清は、自分がこれから行く予定だったボランティアの予定表を二人に手渡した。
 四時までに、アーケードの街灯修理。それからアーケード街の掃除。
 それらが終わったら、一人は、五時まで遊歩道のゴミ拾いと老人ホーム玄関先の掃き掃除。
 もう一人は、とある一人暮らしのお婆さんの家に赴き、庭の草むしりと、割れた窓ガラスの交換と、室内の掃除と夕飯の支度のお手伝い。これらを五時までに終わらせてしまう。
「二人も人手があって助かったよ。このお婆さんの家の草むしりと窓ガラス交換は、明日やる予定だったけど、できれば早めにやっておきたかったんでね」
 それらが終わった五時以降は、夕方からのパン屋の営業。七時に閉店した後は、近くの保育園に赴き、迎えに来るお母さんを待つ子供たちの世話を。その際、余ったパンを持たせたりも。
それが終わったら明日のパンの仕込み……と、彼は分刻みで仕事予定を入れていた。
「僕は、明日以降に予定していた別の仕事があるから、それを今日やってしまうね。じゃあ、頼んだよ!」
 去る助清を見て、有火は開き直るように叫んだ。
「……あーもう! こうなったらとことんやったろうじゃあないの! なんだかあったま来た!」

 
「……なあ、こんな量の仕事を、彼はマジにやってたのかい?」
「どうやら、そのようですよ」
「た……大変だったよー」
 五時過ぎ。
 ボランティアを全て終わらせ、へろへろになった夕乃と有火は、同じく途中から参加した千重とともに、「アカンベーカリー」へと向かっていた。
 千重はコブラ捕獲後、助清が行っていた別のボランティア……幼稚園の備品修理や神社境内の清掃、ちょっとした工事や力仕事などに付き合い、手伝った。
 そして、保育園の園児を送り出した後……全員が、「アカンベーカリー」に戻っていた。
「ただいまー……っと、あれ?」
 そこには、コブラを連れた緋音と赤薔薇が。しかし、彼女たちもまた、ヘロヘロであった。捕まえるのは比較的簡単だったものの、途中で逃走してしまったのだ。
「こ、コブラってば途中で逃げちゃって……」疲労困憊といった面持で、緋音がひとりごち。
「……捕まえるの……大変、でした……」あっちこっちボロボロの様相で、赤薔薇もつぶやいた。
「でも、コブラちゃんは目の届く場所に逃げてるだけで、最後には自分の方から捕まってくれたんだよっ。ボクが思うに、遊んでほしかったんじゃあないかなっ」遊紗も心なしか、ちょっとあちこち汚れている。
 そんなコブラに対して、助清は手を伸ばした。
「……ああ、逃げたっていうコブラを捕まえてくれたんだね。忙しかったから、助かったよ。これで翠子さんに怒られないですみそうだ。ほら、おいでおいで」
 しかし、コブラは近づかない。猫のコブラ……白地の背中に、コブラのような模様がついている猫は、まるで助清に対して怒っているかのように、そっぽを向いていたのだ。
「……」
 それを見て、夕乃は皆へと目くばせする。そろそろ説得タイム、そして説教タイム。
 そのための作戦を実行するのは、今しかない。
 夕乃の目くばせを受け、他の五人もうなずいた。


「……あれ? 夏木さん、何か落としたよ」
 助清が拾ったのは、ハートのシールで封をした、典型的なラブレター。
 が、それを差し出された夕乃は、涙ぐみ……視線をそむけた。
「どうしたの?」
「実は……私には好きな人がいるんです」
 そう言って、夕乃は語り始めた。


 夕乃は、語った。
 ずっと片思いしている相手に、何度も告白していること。
 そしてその相手に、どんなに真剣に好きだと伝えても、嘘や冗談だと思われ、相手にされないこと。
 どうしたらわかってもらえるか。それを考えて手紙に思いをしたためても、それすら冗談だと思われ、中身も読まれず突き返された事。
「彼にとって……わたしの気持ちなんて冗談と同じくらい、軽くて読む価値もないんです……。何日もかけて書いたラブレターだけど、ただのゴミになっちゃいました……」
 本気で泣きじゃくりながら、夕乃は語る。
「……ねえ、夏木さん」
 それを聞いて、助清は真剣な面持ちで夕乃へ問いかけた。
「……ねえ。その相手、どこの何ていうやつなのか、教えてくれないかな」
「……え?」
「それを聞いてたら、腹が立ってきたよ。人の思いを踏みにじるなんて、ずいぶんひどい事をするね。僕が行って言い聞かせてあげるよ。そしたらきっと、さすがに気が付くんじゃないかな」
「……ええっ?」
 その瞬間、その場にいた女子全員が固まり、そして全員が心の中で同じく呆れていた。


「……あれ? みんなどうしたの?」
 当の本人たる助清は、そんな事に気が付いていない。というかそもそも、遠回しに自分の事を言われてるのだと全く気付いていない様子。
「……冗談じゃあないくらいに、鈍いねえ。今言ってたのは、あんたがやってきた事だよ。阿寒助清」
「え? 僕? 何言ってるんだい銅月さん。悪いけど、僕は夏木さんの事は今日初めて知ったんだけど……」
「そうじゃあなくて! あんた自身も翠子さんから何度も告白されてるのに、嘘だの冗談だの言って、人の思いを踏みにじってるじゃないか!」
 怒り心頭な顔で、二番手とばかりに千重が迫る。さすがに助清も、それには言葉を失った。
「い、いや……僕なんかに告白なんて……」
「あーもー! うっとうしい!」
 三番手。有火が荒げた声を上げる。
「あなた、何をしてもどこを褒めても自分の事否定してばっかり! 自己評価にこだわりすぎて、相手の事を全く見ようとしてないじゃない! 何が『僕なんか』よ!」
 深呼吸し、有火はさらに言葉を叩き付ける。
「あれだけパン屋に行列作って、なおかつ客のさばきも完璧。パンも最高、それに暇さえあれば無償で人助け。どっからどう見ても、立派な良い人よ。なのに他人の言葉を聞き入れず、そうやって自分の事を莫迦にしてばかり! あなたは……あなたはとっても良い人だけど、だからこそ、とっても酷い加害者だよ!」
「そ、そんな……加害者なんて、僕が何をやったっていうんだよ!」
「いいえ、有火さんの言う通り。助清さん、あなたは身勝手で自分勝手な加害者です」
 有火の次、四番手の緋音が言葉を投げつけた。
「相手の気持ちを、自分の『常識』に当てはめて考えている時点で、自分勝手ですね。真剣な告白を冗談だのドッキリだのと捉える事で、傷つく女の子の気持ちを考えたことがあるのでしょうか?」
「……相手の、気持ち?」
「ええ。そもそも、あなたを客観的に評価するのは他人なのに、その他人からの好意を捻じ曲げ、悪い方向に解釈するのは相手にも失礼ですよ。そんな失礼な事を、あなたは翠子さんにずっと続けて、翠子さんを傷つけていたのです」
「傷つけてたって……そんな、そこまでだとは思ってなかったから……」
「そこまで? ここまで言って、それでも貴方をからかっている、騙しているように思えますか? 貴方の事を好きな女の子は……私以上に、信じて欲しいと思っていた事でしょう」
「……そ、そうです。好きな人に……好きと、気付いてもらえないのは、とてもつらい事です……」
 緋音の後ろから、五番手……赤薔薇もまた助清へと声をかける。
「それに……翠子さんは、あなたが好き。助清さんも、同じなのでは?」
「……僕が、翠子さんの事を?」
「……商店街の人たちに、尽くしてるけど。翠子さんには……他人にできない事も、してあげてます。自分に、自信をもってください。……ご近所に、これほど信頼されて、パン屋さんも繁盛させてる。簡単じゃない事を、してるんですから……」
「………」
「ねえ、助清さん」
 六番手、最後。
「翠子お姉さんの事、どうして信じてあげられないの? 遊紗わかんないなー」
「九十九、ちゃん……」
「大人になると、人の気持ち、……信じられなくなるの?」
「…………」
 遊紗の言葉には、助清は返答しなかった。
「……もしもし、翠子さん?」
 かわりに、携帯を取り出し、翠子へと電話をかけていた。


「……こ、こんな時間に呼び出して、何の用よ」
 アカンベーカリーに呼び出された翠子は、どこか期待するかのように、視線を泳がせていた。
「……コブラちゃん、見つけたよ。それから……君に言うことがある」
「え? ……な、何よ」
 助清の言葉に、頬を染め……翠子は向き合った。
「……僕は以前、親からネグレクトを受けた事がある。『役立たず、生むんじゃなかった』と言われ続けた事がある。学校でも、居なくていいやつだと言われ、イジメられ続けた事もある。民生委員によって里親に預けられるまでそれは続き、ずっと自分は要らない奴だと思ってた」
「……そ、それがどうかしたのよ」
「けど、僕はそれに囚われていた。そんなものを断ち切るために……僕は信じるよ。君の言葉を、そして……僕自身を!」
 助清は、コブラを翠子に手渡し……翠子の目を見て、はっきりと……言った。
「僕も、君が好きです。付き合ってください」


 後日。
「ふむ。できたっと……みんな、ご苦労様。これ、お礼のラーメンね」
 雅子の家にて、女性六名は今回の礼にと絶品豚骨ラーメンをごちそうになっていた。
「わーい、いただきまーす。……あっちち」
「うん、美味い! なかなかのもんだね」
 遊紗と千重とは、さっそくラーメンに舌鼓を打つ。
「あの、それで翠子さんと助清さんはどうなりました?」
 夕乃の問いかけに、雅子は「やれやれ」と言わんばかりにかぶりを振った。
「まー、付き合いはしているけどねえ……」


「翠子さん、式場……予約しておいたよ」
「なっ! まだ早いわよ!」
「え? ああ、その前にホテルで……その、男女ですべき事が先、かな?」
「ちーがーうー! 何考えてるの! っていうか早すぎ!」
「あ、そうかごめん! ええと……ゴムは用意してあるよ?」
「そうじゃなくて! ばかっ! もう知らない!」
「……深読み、し過ぎたかな?」


「……ってな感じでねえ。あの様子だと、翠子の苦労はまだまだ続きそうだわね」
 苦笑交じりに、雅子はそうつぶやいた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
九十九 遊紗(ja1048)

高等部2年13組 女 インフィルトレイター
心に千の輝きを・
御崎 緋音(ja2643)

大学部4年320組 女 ルインズブレイド
海に揺れる月を穿つ・
銅月 千重(ja7829)

大学部9年185組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
バイオアルカ・
瀬波 有火(jb5278)

大学部2年3組 女 阿修羅