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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/09


みんなの思い出



オープニング

 とある空き教室。
「どうです、結構あるでしょう? デザインも色々ですし」
 馬場精肉店「テキサス」の社長令嬢・馬場聡子は、集めた眼帯を友人に見せていた。
「で? 眼帯がどうかした?」それを半ば呆れつつ見ているのは、「スーパーひゆう」の一人娘、火遊いつみ。
「これらを美少女に擬人化したゲームを作ろうと思いましてね」
「先に断っておくけど、『眼帯これくしょん』略して『眼これ』とか言うのは無しだからね」
「…………いやあ、いつみさんもツッコミがうまくなりましたねー」
「もう慣れたわよ、すっごく不本意だけど。それから『とか言いつつ、こういうやり取りを望んでいるいつみ先輩でした』ってのも無しだからね、隠れてる大田鉢さん」
「……いつみ先輩、言うようになりましたねー。胸がない割には」
 と、さりげなく失礼な事を言いつつ、大田鉢小鳥は二人の前に。
「むっ、胸が無くて悪かったわね! っていうか、少なくとも大田鉢さんよりはあるわよっ!」
「すみませーん、『胸』じゃあなくて『度胸』の間違いでしたー。まあ、一文字付け忘れただけでここまで激昂するいつみ先輩でした……ってオチで」
「ぐぬぬ」

 今日も今日とて、「ガール・ミーツ・ガール(GMG)」……商店街「ひぐまストリート」のご当地アイドルたちは、学校に通っている。
 そして、今日の様にアイドルの仕事が無い日には、空き教室を使って色々と今後の予定を立てたりしている。といっても、お茶を淹れてダベってばかりであるが。
「で、ですね。この『魔法少女テキサス☆めいでん』。こないだのプロレスよろしく、この子をうちの『テキサス』の会社イメージキャラにしようと思いましてね」
 聡子が開いたノートPCに写るは、オリジナルの魔法少女のイラスト。メイドとエプロン姿に、手にするはチェーンソー。
「……なんでこの子、電動ノコを持ってるのかしら」いつみが問うと、聡子はしれっと回答。
「ああ、それは食肉解体用です」
「いやー、チェーンソーより解体用のナタとかどうです?」
 小鳥の提案を、というか血なまぐさそうな話題からそれようと、いつみは無理やり別の話題を。
「……そういえば、サリーさんは?」
「ああ、サリーさんは日直で……」
『遅くなる』とまでは言えなかった。サリー・フーバーその人が、教室に駆け込んできたのだ。
「……来る。来るよ……」
「何が来るんですか? まさかオホーツク海わたって巨大怪獣がここ北海道に上陸するとでも?」
「NO! チガウよ! ……おばさんが、来るの! 来日するの!」

 サリー・フーバーの両親は、トビーとマリリンの、フーバー夫妻。
 そしてマリリンの実家は、ヒューイット家。
 ヒューイット家はとある小さな田舎町の郷士で、テキサスに先祖から受け継いでいた屋敷に住んでいた。
 今もそこに住んでいるのは、マリリンの母・パトリシアと、マリリンの妹・キャロライン。(そして周辺の世話をするメイドが数名)。
 マリリンの妹、……つまり、サリーの叔母にあたるキャロライン・ヒューイット。彼女はテキサス州の端の小さな町の再建など、様々な事をやってのけた伝説的な女性であった。
 しかし、彼女は自他ともに厳しく、決して曲がった事を許さない女性。一緒に居ると正直なところ、疲れてしまうくらいに。
 で、そんな彼女が姪に会いに来るため、北海道にやってくるというのだ。

「なるほどー、厳しい叔母さんなんですね。でも、それが何か問題でも?」
「問題なら大アリだよ、サトコ!」
「BIG ANTがどうかした?」
「それは大きな蟻! っていうかコトリ、こんな時にダジャレ言わないで!」

 サリーの話を整理すると、こういう事。
 キャロラインはサリーの母、マリリンからの手紙を受けとり、サリーが北海道の一商店街のご当地アイドルをしていると知った。
 しかし、それが何かの逆鱗に触れたらしく、すぐさま来日を決定。サリーを訪ねるというのだ。事と次第によっては、サリーをアメリカに無理やり連れ戻す事も辞さないらしいと。

「でも、なんでそんなに怒ってるのかしら? 別に私たちはいかがわしい事をしてるわけではないのに」
 話を聞き、いつみが疑問を口にする。
「ウン。ついさっき、ワタシのケータイに叔母さんからTELが来たんだけど。なんだか……アイドルとか、ワタシの好きな日本のアニメとかマンガとか、そういうのがイケナイ、みたいな事を言ってた。『日本じゃ、子供にハウスメイドの服を着せて、人前で踊る「コスプレ」とかいうヘンタイ・ショーがあるらしいが、それをやってるのか』って」
「……一介のレイヤーとしては、聞き捨てなりませんね。つーかなんですかそれ。中途半端な知識を聞きかじって理解したつもりになってるとは、こっちこそ花の激おこピュンピュン丸ですよ!」
「で、キャロラインさんはいつごろこちらに来られるのですか?」
 小鳥のイマイチようわからん怒りをスルーし、聡子が改めてサリーにたずねる。
「『仕事を終えてからだから、今日からだいたい一週間くらいかかる』って。……どうしよう、ワタシ、まだみんなと離れたくないよ!」
「……私も、ですよ」
 サリーの言葉を聞き……聡子が何かを考え込むかのように目を閉じた。
「サリーさん……それでは、キャロラインさんにわたしたちが教えて差し上げましょう。サリーさんやわたしたちがやってるのは、どんな事なのかをね」
「どういう事?」
「いや、ちょうどイベントを考えてたんですよ。小鳥さん、コスプレイヤーとしてひと肌脱いでくれますか?」
「もちろん! で、何するの?」
「『ひぐまストリート』の販促イベントで、コスプレするんです!」

 聡子の策は、「ひぐまストリート」の販促イベント。
 その一環で、GMGがコスプレし、皆で商店街のアピール……というイベントを行おうというのだ。
 場所は、商店街から離れた場所の駐車場。そこに出店のテントを張り、野菜や食べ物など、北海道のご当地商品や、商店街の商品を格安で販売。
 そして、奥に設置した特設ステージで、GMGのミニライブコンサートとともに、ご近所のコスプレイヤーのコスプレを披露し、お客を呼ぼう……というもの。
 コスプレのテーマは「メイド」。以前にサリーたちが初来日した時にもてなしたように、様々なデザインのメイドさんになって、来客をおもてなししよう……というコンセプト。
 加えて、「魔法少女テキサス☆めいでん」もまた、この機に服作って、どさくさに紛れてデビューさせるつもりらしい。
「このイベントで、北海道の食材を売り込もう……ってなわけです。ただ……」
 が、ひとつ問題が。
「あと一週間では、ステージ設置は何とかなりますが、肝心のレイヤーさんが集まらんかもしれません。それに、運営を手伝ってくれる人手も心もとないですし」
「じゃあ、どうするのよ? ……ああ、そういう事ね」
「そうですいつみさん、そういう事です。困った時のあの人たち頼り。きっと助けてくれますよ」

「……というわけで、出場者、イベントの運営手伝い、雑用、そういった者たちを絶賛募集中だそうだ」
 久遠ヶ原の保健室。霞ヶ関女史が、面倒くさそうに君たちへと伝えた。
「既にレイヤーな奴、レイヤーじゃないけど興味ある奴、イベントの裏方を手伝っても良いって奴、このキャロラインとかいう女性にコスプレのなんたるかを教えてやりたい奴、その他参加したい奴はエントリーしてやってくれ」


リプレイ本文

「ひぐまストリート」の近く。販促イベント「ひぐまマーケット」
 出店が多く並び、焼とうきび(トウモロコシ)をはじめとした良い匂いがあたりに漂い、通行人たちの鼻をくすぐっていた。
 そこに現れた、一人の中年女性。
「地産地消を促進するイベントというわけね。それは大いに結構だけど……サリー。あなたのばかげたその仮装には、この場で着る関連性も、必然性も感じられないのだけれど」
「……そ、そんな事ないよ! それに、これは魔法少女!」彼女を出迎えたサリーは、その言葉を否定する。が、サリーを遮り彼女は更に畳みかける。
「どこが違うというのかしら? ハウスメイドの衣装はともかく、その訳の分からない派手なアレンジを施したメイドの服の、どこがばかげてないというの? 日本は変わっているとは聞いてはいたけど、こんな事を人に、それも未成年にやらせておいて、理解に苦しむわね」
 キャロライン・ヒューイット。金髪碧眼のその容姿は、サリーの母……マリリンに似ていた。
 サリーは「魔法少女テキサス☆めいでん」のコスチュームを着ていた。その後ろには聡子と、怒りを現した小鳥と、不安そうないつみ。そして……クラシカルなヴィクトリアンメイド服を着た、木嶋香里(jb7748)。
「サリーに良くしてくれて、あなたたちには感謝していますよ。ミス・サトコ。けれど、それとこれはまた別。魔法少女? よく知らないけど、邪悪な魔女のコスチュームを着て、何が楽しいのかしら? それに、そんな珍奇な服は、アメリカではモラルの低下を招くものだと相場が決まっています。言うまでも無く、問題ある有害なものとしか思えませんね」
「あの、その理屈も少しどうかと思うんですが」香里の問いかけに、キャロラインは眉をひそめた。
「何か問題でも?」
「変わった服を着てるだけで、モラルが低下すると決めつけるのは、どうなんでしょう。それと、魔法少女ってのは日本では『邪悪な魔女』じゃなくて、『魔法で皆に夢と希望を運ぶ、女の子の憧れ』なんですよ。それがモラルを低下させるとは、思えないのですが」
 香里のその言葉に、ちょっとだけ「意外」といった表情を浮かべたキャロラインだが、すぐにそれを打ち消さんと首を振った。
「……まあ、今日はサリーから『日本で行っている事を見て欲しい』と言われています。それを見たうえで、判断させていただきます。それでは……案内をお願いしますね」
 キャロライン。彼女は予想以上の強敵だと、皆は肌で感じ取り悟っていた。

「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!」
 レトロな和風メイド服に身を包んだ、ユウ(jb5639)。
 彼女は和風喫茶の屋台に、手伝いとして駆り出されていた。
「ほら、おばさん。あれが日本のお団子と緑茶ダヨ!」
「ぜひ、ひとくち召し上がって行って下さいな」
 サリーと聡子に連れられ、キャロラインが席に着く。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
「お帰り? いえ、別に帰っては……」
 戸惑う叔母に、サリーが説明を。
「違うよ、おばさん。このメイドさんたちは、『お店を自分の家だと思って、くつろいでください』って意味で、お帰りなさいって言ってるんダヨ!」
「そ、そうなの?」
 困惑しているキャロラインに、ユウが注文を取る。
「はい! ご注文をどうぞ!」
「……ええと、その前に聞きたいのだけど。あなた、そんな姿でそんな風に働かされて、大変じゃないのかしら?」
 楽しそうなユウの姿に、懐疑的な顔をしつつキャロラインが質問する。が、ユウの答えは彼女の予想に反していた。
「え? いえ、全然。むしろ、とても楽しいです!」
「楽しい? そんな変な服を着せられて?」
「変、ですか? 可愛いと思いますけど」
 ユウはくるりと舞う。その姿は確かに可愛らしく、聡子とサリーはつい笑みを。
「じゃ、じゃあ。あなたはその格好がカワイイと思って、自主的に着ているというの?」
「ええ。私にはコスプレ……というものは、まだよくわかりません。ですが……」
 この日に備え、色々と勉強した内容を思い出しつつ、ユウはキャロラインへと言った。
「ですが、皆さんに楽しんでもらえてますし、何より皆さんが笑顔になる事が、とても楽しいし嬉しく感じます」
 だから、大変だなんて全然思いません。その言葉とともに、笑顔を浮かべるユウ。対照的に、困惑の度合いが更に高まるかのような表情を、キャロラインは浮かべていた。

 会場の中央。そこでは、舞台を前にして座席と机とが並べられていた。
 その一角に腰を下ろすは、会場をくまなく回り終えたキャロライン。その両手には、野菜や牛乳や、肉や魚、その他北海道の物産品が多数。それらは、屋台を出している商店街の店舗の人間たちがくれたもの。GMGのサリーの叔母だと聞くと、皆が皆、商品をただで贈ってくれたのだ。

『サリーちゃんたちには感謝してるよ! ご当地アイドルのお蔭で、うちも売り上げが増えたからね!』
『サリーちゃん目当てで、このあたりの地域も元気がでてきてね。私らも若返っちゃったわよ!』
『サリーちゃんのあのかわいい衣装を、うちの孫娘たちもマネしたがってねえ。将来はサリーちゃんみたいになりたい、なんて言ってるんですよ』

「まあ、私の姪が、この商店街の皆さんから愛されているというのはよくわかりました」
 更に困惑度がUPしているキャロラインだが、まだその口調は、全面的に信用していなさそうなそれ。
「……どうも、話に聞いていたのとは違うわね。確かにサリーの言う通り、無理に強要しているわけでもないし、未成年にいかがわしい事をさせているのとも違うし」
 サリーと聡子に事の次第を聞きたかったが、二人はその場にはいなかった。GMG……ガール・ミーツ・ガールの出番が近づいたというので、楽屋に赴いていたのだ。
 代わりにやって来たのは、カーテシーで挨拶する、メイド姿の黒髪の少女。
「お初にお目にかかります、メイドのステラ シアフィールド(jb3278)申します、お見知り置きを」
「初めまして、キャロライン・ヒューイットです」
 ステラと名乗った少女の姿、ないしはその服装を見て、キャロラインは目を奪われた。
 サリーや、聡子らが着ていた、フリルや何やらが付いて、丈の短めなスカートの、アレンジメイド服と異なる……キャロラインも知っている、本格的なヴィクトリアンメイド服。それを優雅に、可憐に、着こなしていたのだ。
 その流れるような黒髪と、醸し出す雰囲気に魅せられていたキャロラインだったが、
「……失礼ながら、キャロライン様はコスプレなる物を如何わしい物と認識していると聞き及んでおりますが」
 語り掛けられ、彼女は我に返った。
「ですが、本イベントにおきましては、一度偏見を捨て、ここで見聞きした事を踏まえて御一考をお願いしたく存じます」
「……え、ええ。そうですね、考えていたものと異なり、少し驚いていたところです。ですが、まだ確信するには至らぬので、もう少し考えさせていただきますわね」

 そして、同時刻。
 動いていたのは表に出る者たちだけではない、むしろそれ以上に、裏方は激しく、キビしく動いていた。
 陽波 透次(ja0280)も、その一人。同じく今回の依頼を受けた佐藤 としお(ja2489)とともに、彼は重い機材を運び、東奔西走していた。
「はい、スピーカーこっち! それからマイクです! ……もうじき本番ですか? はい! ……この机をこっちですね。佐藤さん!」
「はいよっ! ……うわったったった、ちょいと、重い、なっと!(ドスン) ……ふぃー、あぶないあぶない。さて……と」
 やがて、準備が終わりひと段落した二人は、楽屋裏で一息。
「キャロラインさんは?」
「んー、今はステラさんが接客してるみたいですっ。まあ、厳しそうな人ですが、きっとわかってくれると思いますよっ」
 と、そこにやってきたのは、同じ執事姿の長田・E・勇太(jb9116)。
「ハイ、お疲れ。調子はどう?」
「ま、疲れたけどなんとか……ってとこですね。長田さんは?」
「こっちも大変ネ。さっき、こんな事あったヨ」

………………

「……タレに肉を先に漬け込み、味を付けた『先ダレ』タイプは、直接肉を鉄板で焼くと焦げやすいので、野菜の上に乗せるのがポイントです。逆に下味を付けず、焼いた後にタレで食すのは『後ダレ』タイプ。肉本来の味わいを楽しめます」
 羊肉を大きな鉄板で焼いている屋台。その前で、鉄板に劣らぬ熱を込めた解説をしているのは、天羽 伊都(jb2199)。
 やはり彼もまた執事姿。そして物産展ゆえに、彼は販促でタレ解説をしていたのであった。
 おおーっという歓声とともに、パチパチパチと拍手。聴衆に向かい、一礼した天羽であったが。
 視界の隅に、雫(ja1894)が警備の人間と話し合っていたのを認めたのだ。彼女は、カメラを持った男を、警備へと引き渡していた。
「げしげしっ」と蹴りを入れつつ。

………………

「……あー、大体わかっちゃった。いわゆるカメコってやつだね」
 佐藤がそう言うとともに、当の雫本人が。
 彼女もまたコスプレを、メイド服を着ている。
「噂をすればなんとやら。雫、大丈夫? Are you all right?」
「……ん。問題ありません」
 長田へと、言葉少なに肯定する雫。小柄な少女は、心中で怒っていた。

『……あんな勝手な真似をするやつらがいるから、周囲から勘違いされてしまうのですよ』

 雫が取り押さえたのは、ローアングルからミニスカートのメイド服を撮影していた者。雫に呼び止められると、動きを止めたが……そやつは雫本人にもカメラを向け、シャッターを切ったのだ。当然ローアングルで。
 まったく度し難い奴だと、まだ怒りが収まらない。が、舞台でアナウンスが流れ……彼女は皆を促した。
「……そろそろ、始まります」
 そう、そろそろ始まる。GMGのコンサートが。



「「「「みなさん、こんにちはーっ! 『ガール・ミーツ・ガール』でーす!」」」」


 と、舞台上で挨拶する自分の姪、およびその仲間たちの姿を見て、キャロラインは改めて驚いていた。
 そして、いつの間にか周囲の席が埋まり、姪たちを応援する者たちに囲まれている事を知って、更なる驚愕を。
「ろ、ロックコンサートとまではいかないけど……ずいぶんと支持されているようね」
「ええ。皆さん、すごいですね」
 ステラを見ると、彼女も感心している様子。そして、GMGとやらが歌っている歌も、稚拙なところはあるものの……決して、悪くは無い。
 そしていつしか、キャロラインはGMGの歌に手拍子している自分に気付いた。

「どうですか?実際に見て聞いた感想は」
コンサートが終わり。キャロラインは自分のテーブルにて、雫に問いかけられた。彼女の手には、ティーカップが乗った盆が。
 彼女の後ろからは、ケーキが乗ったワゴンを押す、執事姿の陽波。そして、ティーポット一式を載せた盆を運ぶ香里の姿もあった。
「レディ(女主人)、お飲み物をお持ちしました」
 その言葉とともに香里が運んできたのは、オレンジティー。ミルクは入れず、砂糖少なめでストレートに飲むのを好んでいる。……サリーから教わったのだろう。雫が運んできたティーカップに注がれたそれを一口含むと、まさにそれは自分好みの味わい。
 このイベント会場に来るまでに感じていた、猜疑心めいたギスギスした気持ち。それがほぐれていくのを、キャロラインは感じていた。
「……キャロラインさんの言う事も、全てが間違いとは言いません。ですが……少なくとも此処にいる多くの人は、如何わしい真似などしていないでしょ」
 雫のその問いかけに、キャロラインは「ええ」とうなずき、微笑んだ。その直後、そんな事をした自分をキャロラインは知った。
 そして、キャロラインの前に、チーズケーキの皿が置かれる。……いわゆる、チーズスフレ。キャロラインの大好物。
 ケーキの皿を卓上に置いた執事姿の陽波も、キャロラインへと言葉をかける。
「コスプレの事は僕も詳しくは無いですし……正直、まともに見たのは僕も今日が初めてでした。ですが……今日のショーを見る限り、プレイヤーの方もお客の方も、皆良い笑顔してましたよね」
「……まあ、確かにそうでしたね。皆さん、私の姪やその友人たちを見て……とても楽しそうでした」
 そう言って、フォークでケーキを口にするキャロライン。その味に、彼女自身も嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「確かに、見慣れなければ少しばかり奇異に見えるのかもしれません。けど本当に如何わしいものならば、こんなに素敵な笑顔を沢山生み出したりは出来ないんじゃないでしょうか?
 こういう笑顔を……」
 と、陽波もまた微笑む。
「こういう笑顔を生み出せる世界なら、僕はとても良いな、と思いました」
 そうだ、目前の執事姿の青年の言う通り。単なるばか騒ぎでもなければ、モラルに反した事をしているわけではない。自分が知らないだけでどうこう言うのは、それこそ狭量以外の何物でもなかろう。

「……キャロラインさん。先刻に『ばかげた』と仰いましたが……。サリーさんたちはいつも、イベントやコンサートの時には頑張っているんです」
 と、香里の言葉に耳を傾ける。
「コスプレという行為は、自分が着たい衣装に身を包み、その人物・役割になりきって、自分や周りを楽しくさせる事が目的なんです。皆さん、イベントに来られた方々に喜んで貰う為に真剣に準備と努力してきたんですよ」
 ですから……。と、香里の熱のこもった言葉と視線とを感じつつ、キャロラインは聞いた。

「是非 サリーさんのやりたい事を応援してあげてくださいね♪」

 ……という、彼女の懇願を。

「……おばさん」
 香里がそこまで言ったところで、サリーが、GMGの皆が、そして佐藤と天羽、ステラとユウ、長田が、楽屋から戻って来た。
 サリーの心配そうな視線が、痛いほど伝わってくる。
「……おばさん、まだ……ばかげたものだと思ってる?」
 そう問いかける姪に対し、キャロラインは「そうね」と口を開いた。
「……正直、まだ私にはコスプレの事は分かりません。だから……」
「だから?」
「だから、サリー。私もちょっと体験してみようと思います。……コスプレとやらをね。けれど、その前に……」
 空になった皿を、キャロラインは陽波へと押しやった。
「もう一切れ、頂けるかしら? それと、紅茶もおかわりをお願いね」

 数日後。
「まだまだ、世界には自分の知らない事がある物だと知りました。サリー、まだ完全に理解できたわけじゃないけど、あなたが好きな日本のコスプレやアイドル活動の楽しさや尊さは、わかった気がします。
 ならば、とことんまでやってみなさい。おばさん、応援してるからね」
 ……と、メッセージを残して、キャロラインは帰国した。

 しかし数日後。
 キャロラインの住む町に、日本風のコスプレイベントが行われたのは、また別の話だったりする。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 未来へ・陽波 透次(ja0280)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 和風サロン『椿』女将・木嶋香里(jb7748)
重体: −
面白かった!:4人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
愛って何?・
ステラ シアフィールド(jb3278)

大学部1年124組 女 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅