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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/15


みんなの思い出



オープニング

「ガール・ミーツ・ガール」
 今日も今日とて、四人の少女たちは活躍する。一仕事終えた四人を、緋勇逸子が迎えた。
「皆さま、お疲れ様でした! この後は『スーパーひゆう』での販売実演、その後には公式グッズ用写真の撮影になります」
 本来、逸子はGMG……ガール・ミーツ・ガールの新メンバー、馬場聡子の実家である精肉店「テキサス」の社長秘書が本業。そのはずなのだが、最近はこちらのマネージャー業が板についている。
「いやあ、人気が出て何よりですよ。こないだのプールの一軒から、『スーパーひゆう』のお客さんも増えたとうかがってますし、商店街も活気づいてるようで、いいことづくめです」
 と、逸子は満足げ。
「スーパーひゆう」の経営者の娘、火游いつみ。
 精肉店「テキサス」の社長令嬢、馬場聡子。
 肉と巨乳好きなコスプレイヤー中学生、大田鉢小鳥。
 アメリカから留学している金髪少女、サリー・フーパー。
 地域振興のために日夜活躍する、それが彼女たち「ガール・ミーツ・ガール」。

 火游家、いつみの自宅の居間にて。
「えー。それで、今後の活動内容ですが……」
 逸子が皆に向かい、言葉をかける。
「みなさん人気もでてきましたし、ここはもう一つ……新たなインパクトを加えたいと思いまして」
「というと、窓や天井から登場とか?」と、小鳥。
「いえいえ。聡子さんのような変な行動は、すぐにインパクトなくなります」
「変とは失礼な。個性と言ってほしいですね。まあそれはともかく、ここで一つ提案です」
 逸子の言葉に憤慨した聡子。そんな彼女の前に、小鳥がずいっと進み出た。
「これですか?」
「小鳥さん、その手に盛ってる黒いものは」
「アンコです。手にアンコで手―アン(てーあん=提案)」
「……なんですかそのダジャレは」
「サトコ、コトリはダジャレキャラでインパクト取ろうって言ってたヨ。……インパクト、ないかな?」
「サリーさん。こういうのはインパクトとは言いません……っていうか、話が進まんじゃないですか。提案っつーのはこういう事です」

「料理対決?」
「はい。屋台で互いに料理を出して、その売り上げで競うってのはいかがと思いまして」
 考えてみれば、聡子とサリーの実家は精肉店、いつみの実家はスーパーマーケット。料理や食事に大いに関係ある。
「それはいいけど、対決って誰と誰が対決するノ? 誰かにチャレンジする?」
 サリーの疑問に「ちっちっち」と、聡子は人差し指を立ててニヤリ。
「対決するのは、わたしたち自身です。メンバー同士で対決するんですよっ!」

 聡子が出した企画。
 それは、今度の秋祭りにて。GMGの皆で互いに料理を作り、誰が一番かを競う、というもの。
 皆で屋台に立ち、料理を作ってお客さんに振舞い、もっとも売り上げた者が優勝というルール。
「一週間後の『ひぐまストリート』で行われる秋祭り。それにメンバー個人で競い合う事で、盛り上げようと思いましてね。で、料理対決だったら、アイドルに興味ない人にもアピールできるでしょうし、アイドル好きな人だったら推しメンを応援する事で、これまた盛り上がるでしょうし。みなさん、いかがでしょうか? ちなみに使用食材は『肉』です。肉料理ならなんでもOKってコトで」
「ワタシはOK! テキサス州のグランマから習ったチキンステーキは、得意ダヨ!」
「私も異議なし。角煮入りカレーで勝負!」
 サリーと小鳥は、やる気になっている。
「どうやら、異議なしのようですね。わたしもジンギスカン丼で……って、いつみさん?」
 元気がないいつみを見て、聡子が問いかけた。

「……ごめん。わたし、料理はちょっと」
 
 その返答に、しばしの沈黙。
 そしてその後に、全員からの驚きの声。
「「「えええーーーーッ!?」」」

「……し、知りませんでした。いつみさんってば、まさか聡子さんの言う通り、ポンコツドジっ子さんだったとは」
 いささか……というより、スゴク失礼な逸子の言葉が、いつみの胸に突き刺さる。
「だ……誰がポンコツドジっ子よ! それに簡単な料理ならできます!」
「たとえば? あ、インスタントやレトルトは抜きで」と、小鳥。
「……は、白米に納豆……」小鳥への返答は、かなり小声になってしまったいつみ。
「……カレーライスとか、作れないの? ニッポンのスクールじゃ、授業でクッキングするんでしょ?」サリーも問いかけるが。
「……家庭科だけは、昔からスゴイ苦手なの。調理実習は特に」
「でも、失礼ですがいつみさんは母子家庭ですよね。それじゃあ、今まで食事はどうされてたんですか?」逸子が再び問いかける。
「……スーパーのお惣菜の残り物とか、副店長のトン子さんが作ってくれたりとか、あとは外食やコンビニや、『ほくほく弁当』のお弁当とかで」
「……でも、確かに意外な一面でした。しかし、だとしたらこの企画はひっこめざるを得ませんね。一人だけ仲間はずれみたいなことは、したくはないですし」
 聡子がそうつぶやくが、そこで天井裏からがたごとと音が。
『はーい、そんなピンチにお母さん、参上!』
「……って、お母さん!?」
「もう、いつみさんのお母さま。わたしのマネして天井から登場なんて、無理は……」
 と、いつみと聡子が天井を見上げると。天井の壁が外れて……。
 垂れ幕が、降りてきた。
「……えっと、何々……『天井から参上と思った? 残念、床下からでした!』」
 垂れ幕の文字を読み終わると同時に、床板が外れ、いつみの母親……火游市恵がそこから現れた。
「はいっ、インパクトある登場してみましたー! 聡子さん、どうでした?」
「なかなか意表を突かれましたよ。ただちょっと回りくどいですねえ」
「そうかしらー。この点も今後の課題ね。メモメモ……って、そうじゃなくって!」
 聡子以外あきれて声も出ない中、市恵は居間に上がり込み、言った。
「ちょうどいい機会です。この際ですから、いつみに料理を覚えさせてください」
「……って、えええーーーーッ!?」
 予想外の母親の言葉に、驚きの声をあげるいつみであった。

「うちのいつみは、真面目ですし、何事にも真剣に取り組みますが……ちょっと融通が利かないところもありましてね」
 皆に淹れた茶を出しつつ、市恵は言葉を重ねる。
「なんというか、手先が不器用なのもそうですが、良い意味で適当に行うって事が出来ないんですね。目玉焼き一つ作るのでも、油の量も大過ぎか少な過ぎ、卵を割るにしても黄身をつぶしてしまい、奇跡的に黄身が無事でも、火加減がわからず焦がしすぎ。お皿に移すだけでも、ぐちゃって崩しちゃって、結果的に『目玉焼きと思えぬ何か』になっちゃうし」
 市恵の言葉に、言い返したくとも言い返せず、「ぐぬぬ」としてるいつみ。
「……まあ、そういうわけで。さすがにこのままじゃ母親として不安なわけで。この機に料理上手に……とはいかずとも、人並みに料理くらいはできるようになってほしいと思いましてね。というわけで、聡子さん。その企画やりましょう」
「じゃあ、いつみさんの料理指導は……」
「久遠ヶ原の皆さんにお願いしましょう。まずはいつみを鍛えてもらって、次にイベントにてみなさんをお手伝いしてもらう……ってな事を依頼するんです」

「……というわけで、みなさん。お願いできませんか? 我が家の思い出の味の、ハンバーグを作れる程度にいつみを鍛えて下さいな」
 事情を話した市恵は、君たちへと依頼した。


リプレイ本文

「ドーモ、只野黒子(ja0049)サン。映写機の時にはお世話になりました。カレーアイスはいかがでしたか?」
「どーも。今回もよろしくお願いします。……そうですね、ユニークな味でした」聡子へと、前髪で目元を隠した撃退士の少女は挨拶を返す。
『スーパーひゆう』応接室。
 今回の依頼を受けた撃退士たちが、依頼人と顔合わせしていた。
「お久しぶりねぇ〜。水着、とってもかわいかったですわぁ♪」
「黒百合(ja0422)サンも、ドーモ。いやあ、おかげさまでいつみさんの萌え萌え水着姿を堪能できましたよー」
「へ、変な言い方しないでよ馬場さん! ……こ、こんにちは。あの時はお世話に……」
「ご無沙汰してます〜。あの時は水着姿、眼福でしたわぁ〜。もう少し布地が少なくてもよかったですけどぉ♪」
「なっ……何言ってるんですかっ! あれでも恥ずかしかったんですからねっ!」
 水着になった時の事を思い出し、思わず赤面するいつみ。
「初めまして、天宮 葉月(jb7258)と申します。お惣菜ならお任せ下さい!」
「初めまして。サリー・フーパーデス! オソウザイにも興味あります。いろいろ、教えて下サイ!」
 黒髪、黒い瞳の美少女へ、サリーはぺこりと頭を下げる。
「私は、木嶋香里(jb7748)。今回はよろしくお願いしますね!」
 葉月と同じく、長く美しい黒髪を持つ美少女。彼女の紫色の瞳に魅せられつつ、小鳥も挨拶を返す。
「こんにちは! 大田鉢小鳥です。いつみさんとは別に、いろいろ教えてもらえればと思います」
 サリーと同じく、小鳥も頭をぺこり。
「……影野 恭弥(ja0018)。よろしく」
 最後の一人が、ぶっきらぼうな口調で挨拶を。銀髪と金の瞳を持つ美丈夫に、逸子が頭を下げる。
「こんにちは、『テキサス』社長秘書、緋勇逸子です。今回はよろしくお願いします」
「ああ」
「うわー、愛想ないですねー。でも、かっこいいので個人的にはOK」
「ウン! なんだか、人生のウラカイドウを歩いてきた、ってカンジ!」
 ひそひそと、彼……恭弥の印象を口にしあう小鳥とサリー。しかし、当の本人は意に介さず。
「さて……それでは」
 同席していた市恵が、本題を切り出した。
「うちのいつみに、お料理の作り方。みっちり指導してあげてくださいな」
「はい、わかりました。それでは……」と、香里が市恵に問いかけた。
「まずは、市恵さんのハンバーグを教えて下さい」

「……と、これで完成です」
 市恵が、皿を皆の前に差し出した。それを見つめるは、恭弥。それに香里と葉月。
 ここは、「スーパーひゆう」の惣菜調理施設。
 皿の上に鎮座しているのは、ふっくらと焼きあがっているハンバーグステーキ。ソースは、市販のソースを肉汁の残ったフライパンに入れ、火を通したもの。
「……手際、良いですね」香里が感心し、
「良過ぎ、かも」葉月はそれに同意。
「私も昔はいつみと同じく料理下手だったんだけど、見様見真似でとにかく数をこなしていったら、こうなった次第なのよ。だから、人に教えたくても、ちょっと伝えられないの」
「……作り方自体は、俺や皆のやり方とほぼ同じか」
 恭弥がつぶやくのに続き、香里もそれに同意する。
「自分が考えていたのとも、ほぼ同じです。でも……」
 でも、目分量だけでここまで作れてしまうとは、全て実践と「慣れ」で作った……という事か。
「でも、市恵さんのハンバーグがどんなものか、だいたいわかりました」と、葉月。
「それじゃ、皆さん味見してってくださいな」
市恵のその言葉を聞きつつ、三人は箸を伸ばしてハンバーグを一口。
「……ほう」
「……おいしい! へえ、肉汁と混ぜた市販のソースってのも、いい味出すのね」
「……んー♪ お肉がふっくら! ごはんほしくなっちゃったなあ」
 この味を、再現……とはいかずとも、少しでも近づけるようにするにはどうしたものか。皆の頭の中で、考えが渦巻き始めた。

 別の調理室にて。GMGの四人の内、いつみ以外の三人は、割り振られたスペース内でそれぞれが供する料理の下ごしらえを行っている。
 黒子は、その手伝いをしていた。
「……みんな、上手なのよね」
 それを見て、いつみがつぶやいている。
「うふふっ♪ 大丈夫よォ……手とり足とり調きょ……指導してあげるからねェ♪」
 妖艶に微笑みつつ、黒百合がいつみの後ろから、ふうっ……と、うなじへと吐息を吹きかける。
「ひゃああっ! ……って、今何を言いかけました? 調教って言おうとしましたね!?」
 そんないつみから、聡子は黒百合を引き離す。
「だめですよー黒百合さん。いつみさんの調教……じゃなくて指導は、もっとこう二人きりで逃げられない状況にしてから言わなきゃです」
「そうねェ……けど、こういうところで羞恥プレイってのもぉ、いいんじゃあないかしらァ♪」
 いつみのジト目を受けつつ、二人は包丁とまな板とをいつみへと差し出した。
「まずは、優しくはじめましょうかァ♪」
 それらを受け取ったいつみではあったが、限りなく不安であった。色々な意味で。
「うーん、ワタシたちは中学生だからよくわかんないデス」
「そうだねー。R-18な同人誌っぽい……なんてまったく思わないしー」
 そんないつみを、GMGの二人は見ないふりしつつ下ごしらえ作業にいそしんでいた。

 こうして、調教……もとい、指導開始。

「そう、ゆっくり……ゆっくり……いい感じよぉ♪」黒百合に、包丁の指導を受けるいつみ。油揚げや豆腐などの切りやすい食材は割とうまく切れたので、現在は玉ねぎのみじん切りにチャレンジしていたが。
「……痛っ!」
 刻んでいた玉ねぎを、つるっと滑らせて手を切ってしまった。
 幸い、傷は浅め。すぐに絆創膏を貼って止血する。
「……とりあえず、玉ねぎに関してはみじん切り器を使いましょうか」と、葉月の提案を飲むことに。
 いつみは、黒百合と葉月、香里の三人から指導を受けていた。残りのメンバーは、GMGの他三名を手伝っている。
「ええと……調味料は……」
 黒百合の用意した、調味料とその容器。包丁さばきを覚えつつ、いつみは調味料も覚えようと努めている。
「調味料は、中身の確認が大事よォ? この調理読本に書かれている『小さじ・大さじ』も忘れずにねェ?」
「は、はいっ!」
 必死に、本当に必死な感じで、香里の用意したスライサーでみじん切りにした玉ねぎをボウルに入れ、ひき肉とともにこねる段に。
 香里が用意した、専用計量カップ。それにきっちりと各種食材を入れていく。
 しかし卵に関しては、卵割り器を用いても失敗。
「まあ、混ぜちゃえば大丈夫ですよ! 殻も入っていないようだし」
 香里の言葉を受け、ボウルに入れたひき肉をいつみはこね始めた。
 そして、ハンバーグの種が完成。今度はそれを形成する段になったわけだが。
 
「……こ、こんなもの、でしょうか……」
 簡単な作業だが、明らかに疲労困憊といった感のいつみ。
 空気抜きの際、手の間をキャッチボールよろしく行き来させたら失敗するだろうと思い、「まな板にクッキングシートを敷き、そこに軽く叩き付ける」というやり方にしたのだが。
 それでも、いまいちうまくいかず、いびつな形が続出。が、少なくとも香里と葉月の見た限りでは、そうひどくはない。
「……大丈夫、できてるよいつみさん。じゃ、次は……」
 焼きに入ろう。葉月はそう言葉をかけた。

「……また、失敗です」
 更に疲労困憊、といった状況で、いつみはため息を。
 すでに十回ほど焼いているが、最初に香里や葉月、黒百合が手伝うと、それなりにうまく焼きあがる。が、一人で行うと……焦げるか、生焼けかのいずれかに。
「……黒焦げ? そんなにひどくないわよぉ? ちょっと見た目は斬新だったけどぉ」
「……今度は……うーん、火が弱すぎたかしら」
「……火加減に気を付けて、もう一度やってみましょうか」
 黒百合は、その失敗作を全て腹に収めていた。決して「まずい」とは口にせず。
 それは、葉月や香里も同様。しかし、
「……やっぱり、私……」
 再びいつみは、うなだれた。
 そんないつみへと、葉月は声をかける。
「……いつみさん、楽しくないですか?」
「えっ?」
「料理ってのは楽しい気分で親しまないと、ですよ? 料理は一つ一つの、『今できる作業』の積み重ねで完成するもの。楽しく作業したら、それだけ楽しい結果が待っているものですよ」
 香里が葉月に続き言う。
「でも、私……お母さんみたいに……」
「『お母様みたいに作れない。だから、自分はお料理できない』とか考えてるならぁ、そんな考え捨てちゃいなさあぃ♪」黒百合が言葉をさえぎる。
「そうですよ。市恵さんは市恵さん、いつみさんはいつみさんです。無理にお母様の作り方を真似しなければ、上手になれる素質は十分あります! 現に……」
 と、生焼けのハンバーグをフライパンに戻し、葉月は火を通し直す。
「……ほら。焼直したら十分に食べられます。あとは、練習あるのみ!」
 彼女たちの言葉に、いつみの顔が上がっていった。
「……そう、ですよね。少なくとも、まだ落ち込むのは早いですよね」
 その顔には、できなかった事を憂鬱に感じる表情はない。以前より、やる気に満ちたもの。
「まだ、挽肉残ってますよね……これをこれから、全部焼きます! 皆さん、ご指導よろしくお願いします!」
「そうこなくっちゃ、いつみさん! 練習には付き合いますよ!」
 香里の返答を聞いたいつみの瞳に、黒百合は見た。炎のようなやる気が、彼女に満ちていくのを。
「うふふっ、いい顔でいい反応……興奮してきちゃったわぁ……」
 そして、葉月にもまた見えてきた。市恵の味を受け継ぎ、市恵とは異なるいつみのハンバーグの完成形を。
「……このデミグラスと赤ワイン、使えるかしら?」

 そんなこんなで、数日後。
「ひぐまストリート」にて、秋祭りが開催!
 
「ルールの確認します」
 当日、開始の直前。
 会場の中心にて、聡子らGMGが集まり、最後のミーティングをしていた。
「全員同じ量と値段、一つ300円で販売し、一番多く売れた者が優勝です。全部売れたら、一番早く売り切れた人が勝ちって事で」
「OK! うちの角煮カレーのおいしさ、証明してみせるから!」
「ワタシのチキンステーキ、食べたら誰もがハッピーになれるからね!」
 小鳥が得意げにガッツポーズ。サリーもまた、かなり自信ありげな口調。
「二人とも、自信満々ですね。わたしのジンギスカン丼も、なかなかのものですよ」
 小鳥とサリーに負けじと、聡子もまたにやりとする。
「……いつみさん?」
 が、言葉少なないつみに、三人は彼女へと視線を向けた。
「……私も、負けないわよ」
 そう言ったいつみの両手は、痛々しいほどに包帯と絆創膏とでおおわれていた。
 しかし、それと対照的に、いつみの顔には自信があふれている。
「……そうですよ。そういういつみさんを見たかったんです」
 再び、聡子は微笑んだ。
「お互い、正々堂々とがんばりましょう」
「ええ! それじゃ……」
 味勝負・開始! 開催のアナウンスとともに、GMGの皆、およびそれを手伝う撃退士たちは、それぞれの屋台へと向かっていった。


「サリーさん、チキンステーキなのに、鶏肉が見当たりませんが」
「ううん、これはフライドチキン風に揚げた、牛肉の料理なのよ。日本でいうトンカツみたいなものね」
 黒子は、サリーの屋台を手伝いつつ、カルチャーショックを受けていた。粉をはたいた脂身なしの牛肉を、サリーはそのまま油で揚げている。
 仕上げには、マッシュルームのグレービーソース。
「テキサスのグランマの味、召し上がれ!」


「ほう、うまそうだな」
「ブロックの豚肉を圧力鍋で煮て、それをカレーで煮込んだ自信作よ。脂身はトルトルっとして、肉はホロホロ! 口に入れたらとろけるんだから!」
 恭弥に手伝われつつ、小鳥は角煮カレーを。前日に炊き上げた大量のサフランライスも、カレールーと合わさりうまそうに見せている。
「この角煮、我ながら完璧! さ、食べて食べて!」


「うわ、豪快ですね!」
「ラム肉は臭みが少ないですし、野菜もたっぷり。この甘辛いタレが温泉卵とあわさったら、ごはんがすっごく進みますよ」
 香里は、聡子に頼まれ、彼女の屋台を手伝う事に。業務用の大きな炊飯ジャー。白米の上にタレで味付けされた羊肉と野菜とが盛られ、とどめとばかりに温泉卵。
「特製ジンギスカン丼! 今日最高の逸品ですよっ!」


「どうかしらぁ?」
「うまく、いけるかもしれません……!」
 黒百合の言葉に、注意深くパテを焼いていくいつみ。前日に用意しておいたそれが鉄板の上で焼かれると、肉の焼けるいい匂いが漂う。
 それに加わった新たな匂いが、さらに食欲をそそる。
「赤ワインを加えたデミグラスソース、肉汁と合わさると旨みが膨らみます。いつみさん、絶対みんなに気に入ってもらえますよ!」
 葉月が請け合う。そして、その言葉を裏付けるように。
「GMGの……火遊いつみさんですか? ハンバーグひとつください!」
 最初のお客が、屋台に並び注文した。


 それから数時間が経過し、夕日が辺りを赤く染める頃。
「……終了、です〜。いやあ、疲れましたね」
 イベントが終了し、皆の売り上げを確認する。
「え? みんな売り切れましたか?」と、聡子。
「それじゃあ、売り切れた時刻は……」と、皆が申し出る。
「ワタシとコトリは、ちょうどジャストで売り切れたよ。この時間にね」
「ふーん……わたしは、この時刻です……あれ? という事は……」
「私が……一番最初に売り切れた、の……?」
 つまり、ハンバーグが優勝。その事実を受け止めるのに、いつみは若干の時間を要した。

 イベント後の、打ち上げ会。
 GMGと、その手伝いをした撃退士たちは、料理を口にしていた。
「ほう……これはまた」
「ウン、ビーフを、フライドチキンみたいに衣つけて揚げたから、チキンステーキって言うのよ!」
 サリーのステーキに、恭弥は舌鼓を打つ。
「角煮いいわねぇ〜。そういえば、ラーメンも得意なのよねぇ?」
「うちの父が得意ですね。機会があったら、食べに来てくださいな」黒百合は、小鳥の角煮カレーを。
 そして、いつみと聡子は、
「……やっぱり、かなわないなあ」
「そんなことないですよ。いつみさんがここまでのものを作れた事は、正直驚きです」
 それぞれ相手のジンギスカン丼とハンバーグとを食していた。
「でも……いつみさんの努力の味、って感じがしますね」黒子もまた、いつみのハンバーグを口にして感心する。
「真面目に努力するいつみさんの姿は、見ていて好感が持てますしね。きっと……将来は料理がすごくうまくなっているかも」と、葉月。
「ええ。今度は……いつみさんが独力で作った料理を食べてみたいです」
 香里は未来に思いをはせつつ、もう一口ハンバーグを口に運んだ。

 そして、その日から。
 台所に立ち、自主的に料理を練習するいつみの姿があった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
紅蓮の龍人・
藤沢 龍(ja5185)

大学部4年253組 男 ルインズブレイド
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド