「皆様、本日は依頼をお受けいただき誠にありがとうございましたー。これ、新作の短角牛風味パイです」
「……聡子さん。こういう時に商売っ気出すなゆーとろーがっ!」
「どわわっ! ブレンバスターはやめてっ! (ドガッ)」
最後の「ドガッ」は、「スーパーひゆう」の会議室床に聡子が叩き付けられた音。
「……それでは改めまして。私はいつみの母親で『スーパーひゆう』店長、火遊市恵です」
依頼を引き受けた皆も、挨拶を帰す。
「黒百合(
ja0422)と申しますのよぉ……。よろしくお願いしますわねぇ♪」
「金色の瞳に、黒髪……キレイ……。あ、サリー・フーバー……デス。よろしく、お願いしますのです」
「……あのぉ……月乃宮 恋音(
jb1221)……ですぅ……」
「……こっ、これはっ! なんて大きくてやわらかそうなっ! あの、ちょっとだけ」
「小鳥さん! 女の子の胸揉みたがるその癖直しなさいって言ってるでしょう! ……あ、ごめんなさいね。私は火遊いつみ。この子は、大田鉢小鳥さん。変な子だけど、気にしないでね」
「変なとは失礼な、そこまで見境なしじゃあないですよ。あ、大田鉢小鳥です。以後よろしく」
「はっはっは! 元気でなによりじゃない! あ、私は日野 灯(
jb9643)。みんなのために、頑張るよ!」
「まあ、頼りがいのありそうな方です。それにお美人さんですなあぐへへ。……失礼、『テキサス』社長秘書、緋勇逸子です」
「こんなかわいい女の子たちが一緒だと、なんだか照れてしまいますね。私は、東風谷映姫(
jb4067)と申します」
「わたしは『テキサス』、馬場聡子です。こちらも、こんなに青い瞳にきれいな黒髪の美少女に引き受けていただけて、感謝感激雨あられ、おせんべ大福ひなあられですよ。いやあ、楽しみです」
「ええ、こちらも楽しみです。皆が楽しいと思われるイベントにできると良いですわね……。申し遅れました、唯は、唯・ケインズ(
jc0360)と申しますの。以後、お見知りおきを」
「まあ、西洋人形さんみたいな、とってもきれいで可愛らしい女の子ね。それじゃ、みなさん。今回はよろしくお願いしますね」
ぺこりと頭を下げる市恵。忘れられた感を多少感じつつ、最後のひとりが元気いっぱいに挨拶を。
「僕は、袋井 雅人(
jb1469)と申します! が、がんばりまっしゅ!」
張り切り過ぎて、噛んでしまった自分に気付いた彼であった。
「こちらは……ちょっと」
体育館・会議室。ミーティング中に体育館の館長は、首を振った。
撃退士たちは今回、「アイデアがあったら提案してほしい」という言葉に従い企画を出してみた。
恋音は『水着を活かした撮影会』『GMGのサイン入り集合写真を待合室に』。
袋井は『GMGグッズ購入者から抽選で、サイン会や握手会を』。
「撮影会の方は、プール自体のアピールになりますが……」
館長が続き発した言葉は、がっかりさせるもの。
「サイン会や握手会の方は、ちょっと……。今回はあくまで『市民プールの宣伝』が目的。アイドルさんのイベントではないので、できれば……」
「だめ、ですか……では、グッズ販売の方は」
「それなんですが。公式グッズはまだ作ってないんですよね」と、同席していた聡子。
「もちろん予定はありますが、予算も余裕もまだまだでして」
「って事は……」
「はい。誠に遺憾ながら、袋井さんの提案は却下で」
「それは残念です……。せっかくサプライズで、皆のプロマイドも配布しようと思ってたのに」
が、取り出した十数枚のプロマイドを、後ろからひょいっとかっさらう逸子と聡子。
「それでは、私が預からせてもらいますね」
「ちょ、逸子さん。まずは上司のわたしの検分が先でしょう」
「……って聡子さん、何勝手に唯さんのを確保してんですか!」
「逸子さんこそ、黒百合さんと映姫さんを独占してズルいですよ! ……おおっ、この灯さんの表情、なかなか良いですねぐへへ」
「それじゃ、こっちの恋音さんの萌え萌えなプロマイドはいただきますねぐへへ」
「……二人とも、何やってるのよ!」
同席してたいつみの雷とともに拳が落ちるも、争奪戦が止むのは更に時間が経ってからであった。
とかなんとかあって、数日後。
当日がやってきた。
「皆様、お待たせ致しました。本日はひぐま市民総合体育館のプールリニューアルオープンイベントに来ていただき、有難うございますの! 司会進行を務めさせて頂きます、唯と申しますわ」
「同じく、東風谷映姫でーす!」
映姫と唯。二人の少女が特設ステージに立ち、マイク片手に皆へと挨拶していた。
プール脇の特設ステージ。その裏には急ごしらえの控室。
ステージ前には水着を着たお客たちが、床に座ったり、後ろの方で立ち見したりして、唯と映姫へと視線を向けていた。
「……というわけで、このプールは結構歴史があるんですよ」
二人が簡単に、この市民プールの解説をした後……。
「では、皆様お待ちかねのゲストに出て来て頂きましょうか。皆さん、お願いしますー」
唯に言われ出て来たのは、クマの着ぐるみを着たサリー。
「皆さんコンニチワ! ガール・ミーツ・ガールのカワイイ着ぐるみ担当、サリー・フーバーデス!」
続き、リアルなデザインの鮭の着ぐるみ……まるで、特撮番組の怪人のようなそれを着た小鳥。
「同じく! ガール・ミーツ・ガールの中二病着ぐるみ担当! 大田鉢小鳥です!」
「まあ、お二人とも個性的な着ぐるみで可愛らしいですねー!」
唯の言葉に、サリーはにっこり。
「ワタシの着てる『ひぐまのヒー太郎』は、『ひぐまストリート』のゆるキャラデス! えっと……お帰りの際には、商店街でお買い物、プリーズ!」
サリーと対照的に、小鳥はカッコつけた決めポーズ。
「我が名は魚神サケガミ。命運ぶ赤き魚、『鮭』の化身にして、青き清流のエレメント! ……というわけで、私の着てるのは、北海道漁業組合のゆるキャラ『魚神サケガミ』です!」
「まあ、これはすごいですねー。ちなみに、小鳥さんは鮭はお好きですか?」と、映姫。
「はい! 特にとろサーモン丼は好物です!」
「でも小鳥さん。そんなにおいしそうな鮭さんですから、さっきからひぐまさんが狙ってますよー?」
唯の言葉とともに、サリーのヒー太郎が迫る。
「がおー、食べちゃうぞーデス!」
「ふっふっふ、食物連鎖という名の定め、今ここに断ち切って見せよう!」
などと寸劇が始まると、ステージ前に座ってるお子様数人が『シャケやっちゃえー』『くまさんがんばれー』『食べるのかわいそー』などと騒ぎ出した。
「はいはい君たちー、静かにしようねー」お客の監視役してる袋井が声をかけるが。
『おじさんなにー?』『きっとあれだよ、はんざいしゃ?』『ちがうよ、へんしつしゃって言うんだよ』などと言われる始末。
「お、おじさんって……僕はまだ17歳なんですがっ」
『おじさんじゃん』『きっとゆうかいして、みのしろきんとるんだよ』『でもべんごしがついて、むざいになっちゃうんだよ』
お子様たちのかなり偏った知識による言葉を投げかけられ、袋井は動けず。
「い、いやいやいや。誘拐もしないし身代金も取らないから! っていうか弁護士が付いても無罪になるとは……」
『ちがうって言うのがあやしいよねー』『そうやってだますんだよねー』『おじさんこわーい』
どーすりゃいいんだーと固まってる彼の前に、同じくお客の誘導および監視役に付いている日野灯が駆けつけた。
「ほらほらボクたち、静かにしようねー」
「はー、助かりましたよ日野さん。僕ひとりじゃあ……」
「静かにしないと、このメガネのこわーい変質者で犯罪者なおじさんに誘拐されて、大変な事になっちゃうよー」
『『『はーい』』』
なぜか申し合わせたかのように、静まるお子たち。
「これでよし……あれ、袋井さん。どしたの?」
「……いえ、別に」
がっくりしている袋井に、気が付かない灯であった。
「……やっぱり、無理!」
そして、舞台裏の控室。
水着に着替え、いざ登場……となる直前に、いつみはごねていた。
「何言ってるの、 お客さんがお待ちよォ♪」
アシスト役を買って出た黒百合が、いつみに促す。
「で、でも! こんなに……布地が少ないビキニなんて!」
「…………とても、お似合いですぅ………」
同じくアシスト役の恋音も、控えめ過ぎるくらいに控えめに言う。自身も水着姿の聡子も、うんうんとうなずいた。
「ほんと、似合ってますよ。せっかく恋音さんが調整してくれた水着なのに、無駄にするんですか!? いつみさん」
聡子の言葉に、ぐらっと揺れるいつみ。
「……で、でも!」
「それに、お母様もお待ちしてますよぉ♪ せっかくの晴れ舞台、台無しになったら悲しむでしょうねぇ♪」
決意がぐらっと更に揺れる。だが、こんな姿で出るのはっ……。
「はー……GMGを楽しみにしてる皆さんを裏切る事になるとは……商店街のみならず、お母様の面目丸つぶれ。そして『スーパーひゆう』は信用失い、売上ガタ落ち。いつみさん母娘は路頭に迷い、そして……」
「そんなわけないでしょ馬場さん!」
「なら出ましょう。決定」
と、聡子に言われ、黒百合に引っ張られるいつみ。
「え? え?」
いつみの後ろから、恋音もそそくさと付いてくるのであった。
「さて、それでは皆様お待ちかね! GMG……ガール・ミーツ・ガールのリーダー。そして新メンバーの登場です!」
「ど、どうも……」
「こんにちわーっ!」
唯に紹介され、いつみと聡子が壇上に。二人ともパーカーを羽織り、腰にはパレオ。この時点では、着てる水着はまだ見えない。
「これで、GMGは全員揃いましたのね。それでは、お二人から一言ずつ頂いても宜しいでしょうかしら?」
「は、はい! ……GMGの……」
言いよどむいつみだが、ステージ下から黒百合が広げているカンペを目にして、なんとか持ち直す。
「GMGの……リーダー! 火遊いつみです! 今日は皆さんと会えて、とても嬉しいです!」
たどたどしくもそう言ったいつみは、檀上から皆へと手を振り、微笑みかけた。
拍手する観客たちの後ろの方には、母親の姿が。照れ臭いが……なんだか嬉しい。
「そして! GMGの新人にして、いつみさんの親友! このわたしが! 馬場聡子です!」
そのまま、えいっとパーカーとパレオを脱ぎ捨てる。その下には……。
水着に包まれた、弾けるような聡子の肢体があった。
どよめきとともに、歓声が。白っぽい生地のビキニで、胸元に「GMG」のロゴマーク。恋音が用意した薄いピンク色の水着は、聡子の身体にフィット。
いつみはそれに、一瞬見惚れてしまった。いつもの、服に隠れて見えない彼女のスタイル……。それは、いつみですら心奪われるもの。
「まあ、大胆ですね! それにとっても可愛らしい水着です!」
唯の言葉に、聡子は楽しげに笑う。
「いやあ、わたしよりもいつみさんの方がとってもかわいいですよっ。それっ」
と、聡子は言うが早いが、いつみのパーカーとパレオに手を。
彼女もまた、聡子とお揃いで色違いの、水色のビキニ。決して大き目ではない胸だが……スレンダーなスタイルのいつみも、決して見劣りはしていなかった。
きゃっと声をあげるいつみだったが、歓声を上げる観客、そして……注目されている事を知り。気が付くと、恥ずかしさは消えていた。
「……どうやら、うまくいきそうですねぇ♪」
黒百合の言葉に、微笑みつつうんうんとうなずく恋音だった。
「……はい、『十年前に公開された、ホラーのキャラが対決する映画』のタイトル。聡子さん、答えは?」
「答えは、『フレンディ対ジョンソン』です!」
クイズコーナーにて、唯と聡子とが最終問題を。勝ち残ったは、一人の男性。
「優勝、おめでとうございます! お名前は?」
映姫が勝者にマイクを向け、後の撮影権を勝ち取った事を伝えた。ビンゴやクイズの勝者は、GMGメンバーとのツーショット写真を含む、プール内のミニ撮影会の権利を得られる。
「では、撮影会は後ほど。それにしても、GMGの皆さんもここで泳いでいたんですか?」
恋音と黒百合がフリップにて『フリートークに移って』と指示を出したため、唯は話題を振った。
「え、ええと……」言いよどむいつみだったが、フォローするかのように聡子が。
「わたしは、ここに来たのは初めてです。ですが……」
優しげに、聡子は微笑んだ。
「……誰かの思い出になるような、そんなプールになってほしいと思います。ここに来た事で、また明日も頑張れる。そんな風に思えるような」
いつもと異なる、聡子の表情。それに心奪われたいつみだったが。
「……そして! 美女や美少女のセクシーでキュートな水着姿を見られる場所になってほしいですねっ! ポロリもあればなお良し! そうでしょう会場の男子諸君!?」
その言葉とともに盛り上がる様子を見て、なんだか裏切られた感があるいつみであった。
フリートークが終わり、ミニコンサートも終わり。
「また、このプールに足をお運び下さいませ。今日は集まって下さいまして有難う御座いました!」
唯の言葉とともに、イベントは終了した。
「今日は、お疲れ様&ありがとうございましたー」
撃退士たちは皆、プールで泳いだり、浮かんでたりとのんびり三昧。
「疲れた〜。着ぐるみって大変」
スクール水着に着替え、サリーは浮き輪でプールにぷかぷか。
「あ、あのぉ……」
「いいなあこの大きさ♪ まさに『進撃の巨乳』!」
と、牛柄のビキニ水着に着替えていた恋音の後ろから、スク水姿の小鳥は抱き付き、豊かな両胸を揉んでいた。
その様子を、羨ましそうに視線を向ける袋井。
「あっはっは! まったくしょうがないなあ」
そう言いつつ笑う灯だが、小鳥の目が自分に向かってくるのを見た。
「灯さんもおっきいなあ。あの、ちょっとだけ」
と言いつつ、小鳥は灯の胸もモミモミ。
それを遠目に見つつ、いつみと聡子も水に浮かんでいた。
「止めないのぉ?」
「……諦めました」
黒百合からの問いかけに、心底疲れたとばかりにいつみ。
「でも、今日のいつみさんたち。とっても素敵でしたよ。商店街の皆さんに愛されてるって、見ててわかりました」
映姫の言葉に、いつみは照れて頬を染めつつ視線を逸らす。
「そしてそれ以上に。今日は皆さんのおかげで成功できたようなものです」いつみと逆に、聡子は元気そう。
「特に、唯さん。あなたのプロマイド……拝見しましたが。とっても素敵です! まさに、無垢なる水辺のお嬢様、『プールサイド・イノセント』って感じで」
「うふふ、なんだかちょっと照れますね」
「みなさんに、わたしたちも元気づけられました。これからのGMGに、どうか期待してください!」
唯の手を握る聡子は、満面の笑みとともにそう告げた。その笑顔を見て、唯は、そして他の撃退士たちは、彼女たちの今後の活躍に想いを馳せるのだった。