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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/28


みんなの思い出



オープニング

 東崎雅子。
 商店街「ひぐまストリート」内の、ラーメン四天王の一角。
 本業は、リサイクルショップ「とんとんショップ」のオーナー。

 リサイクル店というのは、地方では結構需要がある。
 特に北海道には、個人店舗が少なくない。地方の住宅街郊外には大きな量販店があるものだが、買い替えるとなると中古のものを引き取ってもらわねばならない。
 しかし、田舎ゆえに、店舗や商店街まで遠い場合、中古品を引き取るのは結構大変。加えて、冬には雪などで閉ざされ、行き来がこれまた大変。
 大手の量販店では引き取ってくれる事もあるが、輸送費も莫迦にならない。また、年配者や学生など、「中古で構わないから、安価な商品が欲しい」という客も多い。
 そこで、リサイクル店の需要が出てくる。量販店から古い型のを安く買い取り、それに修理を施して、できるだけ安価で売る。そうする事で、中古製品を役立てるわけだ。
 もちろん、一般家庭で必要なくなった中古品を、買い取ったりもする。

 雅子の「とんとんショップ」も、そのようにして中古品を売買しているリサイクル店の一つ。ネット上でも告知したり、オークションなどに出品したりもしているが、基本は周辺地域のお客とのやり取り。
やがて、今日の仕事が終わった。一息ついて、ラーメンを作って食べようかしら……。
 などと思っていたら、電話が。

「……困ったわね」
 電話の内容を聞き、切ったところ。彼女はある問題を抱える事になった。
 次に、雅子は自分から電話を。
「……もしもし、ああ、雅子。おひさ〜」
「こんにちは、逸子。ちょっと……相談に乗ってほしい事があるんだけど」

「テキサス」が経営する、大衆食堂。その一角で、雅子は友人の緋勇逸子と会っていた。
「で? そのお客さんの要求ってのは何なのよ?」
 逸子の問いかけに、雅子は事情を話しはじめた。

 堀野家。
 母子家庭のその家は、母親明乃と、その息子寿太郎の二人暮らし。
 明乃はかつて、大学の大きな食堂に勤め、調理師として働きながら寿太郎を育てた。そして今、寿太郎は成人し独立。明乃は今、「ひぐまストリート」からほど近い、近くの住宅街の実家にて生活。今は寄る年波に勝てず、引退している。
 しかし、ここで問題が一つ。彼女は機械関係が全く苦手。PCや携帯関係はもちろん、DVDの録画すらできない。
 なので、近所の茶飲み友達などがやってきては、こういった事を代わりにしていたり、助けたりしている。雅子もそのお助け隊のひとり。
 それだけでなく、明乃は「とんとんショップ」の常連であった。昨今のPC関係を用いているものとは違う、旧式のアナログな機械や道具を買い求めたり、雅子にその修理を依頼していたりした。
 さすがにTVはブラウン管の旧式から、現在の液晶テレビになってはいるが、いまだに使い方があまりよくわからないらしい。
 しかし……彼女には最近、気がかりな事が。
 体を壊したことから、元気がなくなってきたのだ。「もうじき、私は死ぬ」というのが口癖になるほど、弱気になってしまった。
 元気を取り戻す方法は、一つだけある。それは、「かつて彼女の夫が撮った、寿太郎が生まれた時の8ミリフィルムを、もう一度見る」という事。

 堀野明乃の夫、堀野甚之助は新しいモノ好きで、過去に8ミリを手に入れた時。それを使って色々なものを撮影していた。赤ん坊のころの寿太郎も色々撮影し、それらのフィルムは倉庫内の金庫に保管していたが……。
 ある日、工場に運ぶ化学燃料を運んでいたトラックが家に突っ込み、火事が発生。明乃と赤ん坊の寿太郎を助けた甚之助だったが……その時の火傷が元で、甚之助は亡くなってしまった。
 火事のため、ほとんどの家財道具は焼けてしまった。件の金庫だけは残っているが、中に保管したフィルムを取るための、金庫の開け方が分からない。
 それだけでなく、もう一つ。火事の際に8ミリ映写機も壊れてしまい、開けたとしても見る事ができない。
「……なるほど。それで8ミリ映写機が、雅子んとこに無いかって聞いてきたわけね」
「そ。っても、さすがにうちにも無かったけどね。逸子、あんたんとこでは何か心当たりない?」
「いやあ、私もさすがにそういうものは……」
「はい、逸子さんが役立たずとわかった時点で、わたし、参上!」
 と、いきなり出て来たのは「テキサス」の社長令嬢・馬場聡子。
「聡子さんっ!? ……って、誰が役立たずですってーっ!」
 がきっと、アイアンクローで自分の雇主(の娘)の顔をつかみギリギリと締め上げる逸子。
「おおっ、死ぬっ! 特に顔が! ……いたた、こんにちは、雅子さん。お話は聞かせていただきました。それで、ものは相談ですが……場合によってはその問題の半分は解決するかもしれませんですよ?」
「何言ってるんですか聡子さん! ……ああ、ひょっとして、あの『ガラクタ・マウンテン』の事? さすがに、あの中には……」
 聞きなれぬ単語を聞き、雅子は聞き返した。
「ガラクタ……何ですって?」

「ガラクタ・マウンテン」
 聡子の遠い親戚、故・藤間藤次郎は、芸術家にして遊び人であった。生前に世界中を回っては、様々な珍しいものを買いあさっては、自分の屋敷に溜め込んでいたのだが……。
 困った事に「凝り性のくせに飽きっぽい」人間でもあった。要は今、屋敷はほったらかしにされており、ほぼゴミ屋敷と化していたのだ。
 なんで今まで放置してたかっつうと、「屋敷が見つからなかったから」。屋敷は藤次郎の死後数年、今からひと月ほど前に、とある山奥で発見されたのだ。
 しかし、少なくとも20年近くが経過し、しかも整理整頓が為されてないから中身はごちゃごちゃしたまま。加えて、「テキサス」も昨今は忙しく、こちらまでかまけている暇がなかったのだ。
 中に入ってみたところ、ガラクタが山のように積まれていた。だから「ガラクタ・マウンテン」と呼ぶようになり、いつしかそれが定着。
「中には、何が入ってるかはわからんです。が、ずっと前の幼少時に、父や祖父から聞いたことがありました。『藤次郎は8ミリで映写会を何度もやってた』と。ひょっとしたら、中に映写機もあるかもしれません」
 実際、亡くなった20年ほど前には、有り余る金を用いて当時最新型のビデオデッキやらLDデッキやらを買いあさっていたそうなのだ。8ミリも撮ったり映写したりしていたので、まず間違いなく有るだろう。
 しかし、問題は「どこに何があるか、わからん」という事。なんせ山奥にある件の屋敷は二階建てで、一階は十部屋、二階は五部屋。しかもどこに、どんなものがあるのかがまったくわからない。値打ちものがあるかもしれないが、どちらにしろ一日二日では終わらないだろう。

「ですが、片付けはともかく、中に何が、どこにあるかがわからないのがやっかいでして」
 君たちへと、聡子が依頼内容を説明する。
「要は、あなた達に屋敷の中に入って、8ミリ映写機を探し出していただきたいんです。どこに何があるか、どんなものがあるのかは当然わかりません。あと、当然ながら壊しちゃあだめです。ただ……」
 本当に大事なものは、奥へ奥へとしまい込む癖があった……と、聞いた事がある。そして、藤次郎は8ミリ映写機を、本当に大切にしていたと。
「ま、そういうわけでして。ややこしい依頼ですが、お願いできませんか皆さん」


リプレイ本文

「あ、聡子さん。おひさしぶりです」
「ドーモ、城前 陸(jb8739)サン。お久しぶりです。おかげさまで商店街アイドルの人気はうなぎのぼりですよ」
「相変わらずのようでなによりです。今回も、よろしくお願いしますね」
 顔合わせにて、以前の依頼者へと睦は挨拶していた。そんな睦に、聡子は皿に乗った黄色い甘味を差し出す。
「まあ、どうぞお茶とお菓子でも。こちらはお茶菓子代わりにどうぞ。カレーとアイスクリームがお好きなら、きっと気に入られるかと」
 聡子が運んできたものに、只野黒子(ja0049)は注目した。
「……これは?」
「試作の新製品『カレーアイス』です。スパイシーなカレーをアイスでも楽しめる自信作! さあどうぞどうぞ」
 そこまで言った聡子に、逸子はがきっと関節技を。
「聡子さーん? ……こういう時に新製品の売り込みはやめれと言っとろーがっ!」
「ぐわーっ! お客の前でキャメルクラッチはやめてーっ!」
 などとコントを広げる二人を無視し、雅子はそのまま話を進める。
「……あの二人は気にしないでくださいね。で、私が依頼人の東崎雅子です」
「ああ。向坂 玲治(ja6214)だ。ひとつよろしくっと」


「……つまり、ガスバーナーと工具をお貸りしたいと?」
「ええ。俺たち二人が堀野家に赴き、金庫を破らせてもらいます。そのために、バーナーと工具とを貸してほしいんです」
 暫く話し合った後、常磐木 万寿(ja4472)が雅子に告げる。
「万寿と俺、翡翠 龍斗(ja7594)は、金庫を開ける事に専念したい。ただ、唯一気がかりなのが、中身が無事か、というところだが……」
「それなら、たぶん大丈夫かと」
 キャメルクラッチから逃れた聡子が、翡翠へと言葉を。
「依頼人の依頼人さんが言うには、金庫は内側にもう一つ扉が付いており、さらにフィルム自体も、耐火性の小さな手提げ金庫みたいなものに入れてあるそうです。つまりは、三重にしてあるわけで、その点は問題ないかと」
「じゃ、後の問題は『いつ始めるか』ですね。さ、今すぐにでも行きましょうよ」
 今流行してる宝探しみたいで、わくわくしてますよ……と、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が楽しそうに言う。
 しかし、数刻後。
 エイルズレトラは、その言葉をちょっと後悔したり。


「……『目録・第13号:奥の部屋の廊下の上に、天井裏への隠し梯子有。その中に貴重品を保管している』……で、これですか」
 エイルズレトラは、奥の部屋へと向かう廊下、その天上に隠し扉を発見し、そこに上がった。
 その内部にも、またガラクタ。そして目録が。
目録には、こう書かれていた。

『目録・第14号:ここに保管しようと思ったけど、やっぱやめ。最初の部屋に戻ったところで、隠し扉を設置して、その内部に新たな目録入れとこう』

「いやあ、なかなかおもしろい趣向ですねえっはっはっは……生きてるうちに、私がとどめを指してやりたかった気分です」
 にこやかに笑いつつ……聡子はこめかみに青筋を。
聡子と逸子の案内で、「ガラクタ・マウンテン」に出張ってきた撃退士たち、黒子、陸、向坂、エイルズテトラの四人であったが、結構呑気してた撃退士たちは、作業に入ってから徐々に浮かれ気分が消えてくのを実感した。
「……なんすか、このかび臭さ」
 向坂が、いつも以上にぶっきらぼうに。扉を開けるたびに、むわーっと強くかび臭い空気が襲ってくる。最初に正面玄関を開いたところ、その洗礼を受けて思わず皆、気絶しそうになってしまった。
「……マスクしててよかったです」
 などと黒子は思ったが、内部に積まれたモノのレイアウトも、これまた非常識的。
「ガラクタと値打ち物とを並べる」という嗜好から、映写機に関するガラクタの周辺、また「良く上映会を開いていた」という点から調査しようと試みていたが。
「……確かに、ガラクタと、ある種の人間にとっては値打ち物、だが……」
 見つけた、と思った黒子だが。
「……空き缶で作ったロボット像と、箱に入れられた……これは?」
 空き缶像は、どこかの芸術家が作ったと思われる、実に精巧なできばえ。では、箱の方がガラクタか?
「ロボの方に何か入ってますね……『目録・補足17号。このガラクタ空き缶ロボと、貴重品とを一緒にしとこう。見つけた奴、絶対開けるなよ? もし開けたら……内部までじっくり見るなよ? 男なら見たくなるだろうけど』……こっちが貴重品ですか」
 しかし、この言い方は一体何事。好奇心に負けて、大きな箱を開けてみると。
「! ………」
 問答無用で、箱を閉め、そのまま後ずさる。
「ん? 何か見つかったか?」そこへ、向坂が通りがかる。
「……なんでもないわ。さ、次さがしましょう」
 向坂を尻目に、黒子はそのままそそくさと別の部屋に。その顔は、かなり真っ赤。
「なんだ? 何か見つけたのか?」
 同様に好奇心に負け、向坂は箱を開けてみた。
「なっ……! こ、これは、ちょっと……」
 思わずちょっと、じっくりと見てしまう。
「……いやいやいや、確かにこれは、貴重といえば貴重かもしれんが……げっ、こんなとこまで! さっき見つけた『猿でもわかる肉体言語』もそうだったが、ったくどんな趣味してやがったんだここの主は」
 箱の中身は、希少本であった。ただし、11歳の黒子、および17歳の向坂が見るには、非常にはばかられる内容のそれ。ぶっちゃけ昭和に発売されていた成人向け書籍だったのだ。しかもかなりエグめの。
「何か見つけましたか?」
 いきなり聡子から語り掛けられ、向坂は大急ぎで箱を閉め何食わぬ顔。
「な、なにもないぜ。さて、次探すかな」
 黒子同様に顔真っ赤にして、その場から去る向坂であった。


 その頃。
「まあどうぞ、お茶でも」
 常盤木と翡翠は、雅子とともに堀野家に赴いていた。
「あ、いや。おかまいなく」
 しかし常盤木の言葉を無視し、堀野はお茶とお茶菓子を。
「いえいえ、遠慮しないで。ほら、老舗『沢芽屋』のオレンジアームズタルトいかが? 異次元のおいしさと評判なのよ?」
 と、大き目に切ったうまそうなタルトを差し出す。
「いや、俺たちは。別に飲み食いしに来たわけでは……」
 遠慮しようとした翡翠だが、途端に堀野はよよよと崩れ落ちた。
「そうよね、こんな死にぞこないの余命わずかなおばあちゃんの差し出す茶菓子なんていらないわよね。ああ、あの世に逝った愛しのダーリン、私はバーチャル世代でゲーム感覚な今どきの若いもんに無視され排斥されつまはじきにされて身も心もボロボロになってそのまま孤独死する運命です。その日は近いですよよよよ」
 言葉を失った二人に対し、雅子が耳打ち。
「このばーさん、訪ねたお客に『全国の銘菓を食べさせる』って趣味持っててね。断るとこうやって死ぬ死ぬ詐欺するのよ。ややこしいから調子合わせてやって」


 こうして、約一時間。
 銘菓と銘茶でお腹を膨らまし、二人は作業に。
「……まあ、お菓子もお茶も、確かにうまかったけど……」
「……毎回こうじゃあ、ちょっと、なあ……」
 ゲップゲップになりつつ、翡翠は金庫に取りつく。
 金庫は確かに、表面が焼け焦げていた。
 しかし。
 思った以上に金庫を開くのは難儀だと、二人は実感していた。
「……確かに、昔のパンフレットで型式を確認したら……『核ミサイルでも大丈夫!』ってキャッチコピーが付いていましたね。鍵の形状は……これも調べると、今はどこも製造してないもの。加えて……」
 表面が溶けてしまって、扉がまず溶接されたようになってる。これをガスバーナーで切った後に、出ている蝶番を切り、鍵部分を破って開くしか方法は無さそうだ……と、常盤木は判断していた。
 幸い茶菓子を食べて元気が出た。ならば……と、借りて来たガスバーナーを構える常盤木だが。
「……あのー、東崎さん。このガスバーナーですが」
「なに? うちのリサイクルショップに最近入荷した、ほぼ未使用の最新式よ? 性能は保障するわよ?」
「いえ。ガスバーナーと工具自体には問題はありません。ですが……」
 なんでガスバーナーのボンベ全て、ついでに工具のグリップやら何やらに、アニメだかゲームだかの女の子のイラストが印刷されているのか。しかもかなり扇情的、ぶっちゃけエロい絵柄。
「なんかねー、どっかの田舎の役所が、地方振興のご当地萌えキャラで町おこし! ……を安易に狙って失敗し、その結果余ったものらしいのよ。『痛車』ならぬ『痛工具』ね。まあ、道具としては問題ないでしょうから使っちゃって」
「…………はあ」
 なんとなく、作業前に疲れを感じた常盤木と翡翠であった。


「……『目録・第89号:VHSビデオデッキと、ベータのビデオデッキ。それらと一緒に宝石のガラクタ、それに8ミリの映写機をしまいこんだ部屋のカギを保管しとこう』。……なんか僕、疲れてきました」
 召喚獣を召喚し、高い場所に置いてあった豪華な装丁の辞書を持ってこさせたエイルズレトラは、くりぬいた中身にまた新たな目録を発見した。
「……えーと、ビデオデッキしまってたのはどこでしたっけ……確かこっちの方に……」
「ああ、それならこちらです」
 やはり疲れた顔で、黒子がエイルズレトラを誘い出す。そこは、陸が先刻から探していた二階部屋。そこで聡子と逸子もまた、大量にためこまれたビデオテープに埋もれそうになりつつ、映写機を探していた。
「……この通り、『宝石のガラクタ』は発見したので、この部屋に鍵がある事は確かでしょうけど……」
 そう言って、宝石で作られた……小便小僧の小像を見せる陸。既に彼女の割烹着と三角巾は、薄黒く汚れてしまっていた。
「にしても、趣味悪い。この像は一体……」
 ぼやきつつ、黒子は小便小僧をよく見ようと手に取ったが……。
 つるっと滑って、床に落としてしまった。そのまま、ばきっと言う音が。
「……ああっ! ごめんなさい!」
「いや、黒子さん。お手柄ですよ!」
 逸子の言う通り。『ばきっ』という音は、破損音。しかし、砕けた小便小僧の中から、鍵が出て来たのだ!
 だが。
「……なんでこの鍵。小便小僧が手に握ってるものと同じ形なんでしょうね」
 聡子の言葉にうなずきつつ、その場にいる全員が先刻の黒子と同じく「趣味悪い」とぼやいていた。


 雅子が、仕事で「とんとんショップ」に戻っている間。
 常盤木は、汗びっしょりになっていた。ようやくガスバーナーでの扉切断に成功したのだ。
 しかし、翡翠は苦戦している。蝶番を根こそぎ切り落としても、扉は開かない。
 ならばガスバーナーで切断し切込みを入れたつなぎ目に、更に切込みを入れるが、やはり開かない。
 鍵の部分にマッドチョッパーで切り込みを入れるも、やっぱり開かない。
 いいかげん、精神が汚染されそうになった、その時。
「まあまあ、ご苦労様。『ウィザー堂』のプレーンシュガードーナツでも食べて、一休みしてくださいな」
「……いえ、今はそんなに空腹じゃあないので」
「……ああっ、人と人との交流が無いイマドキのインターネット感覚なスマホ世代に嫌われてしまったわっ。きっと私は若者に嫌われつつ孤独死して死後一週間後に腐敗死体で発見されるのねよよよ」
「……いただきます」
 ホントに面倒くさい依頼人だと思いつつも、口にしたドーナツはこの上ない美味。
 食べ終わり、仕事再開しようと二人が立ち上がったその時。
「ああ、お疲れ様。こちらの仕事も終わったから、お手伝いしますね」
 雅子が帰ってきた。そのまま、ばんっと金庫を叩くと。
「「「あ」」」。
 その場にいた、全員がハモる。
 金庫の扉が、ばかっと落ちて……開いたのだ!
『もしもし、こちら「ガラクタ・マウンテン」の向坂』
 加えて、ハンズフリーにしてた翡翠のスマホから電話が。
『映写機、発見したぜ! 今そっちに持って行くところだ!』


 二重になった金庫の内部は、滞りなく開いた。
 そして、その中には……堀野家のアルバム、そして……手提げ金庫。
 幸い手提げ金庫の鍵は、金庫内にあった。加えて、その手提げ金庫を開くと。
 火事の熱から守られた、8ミリフィルムがそこにはあったのだ。
 こうして、黒子、陸、エイルズレトラ、向坂の四人が見つけた映写機にかけられ、上映される事に。
 撃退士6名と、依頼人4名。計10名が見る中、修理を終えた8ミリ映写機による映写が行われた。
 そこに写し出されたのは、ごく普通の家族の肖像。
 若き頃の堀野老婆と、その息子の、今は亡き夫との、家族の何気なくもささやかな、しかし、大切な思い出。
 上映中、堀野は涙を流していた。言葉は無く……声も出ない。
 上映を終えた後でも、堀野は涙を流し……そして、しばらく経ってから、皆へと向く。
「……みなさん、本当に……ありがとうございました。あの人との思い出……こうやって、死ぬ前にもう一度見ることが出来て、こんなに嬉しい事はございません。心より、感謝申し上げます」
 そう言って、深々と頭を下げた。


 その後、翡翠の出資により、8ミリはDVDにしてもらった。最新の媒体で見られるようにと、翡翠が提案し、実行してくれたのだ。
「ありがとうありがとう。バーチャル世代のゲーム感覚でも、優しい人はいるんだっておばあちゃんわかりましたよ。これ、お礼のおみやげね。『栄かま』のかまぼこと『斎藤水産』の海産物セット十人前。おいしいから食べてね」
「は、はあ。どうも」
 DVDを手渡す時、またもお礼にと全員におみやげをくれた。このおみやげ大量送り付けはちょっと……と思ったが。
「……まあ、喜んでもらえて何よりだ」
 嬉しそうにほほ笑む堀野を見ていると、自身も嬉しくなる。それを翡翠は、そして撃退士たちは、その事を実感していた。


 ちなみにもらった「栄かま」のかまぼこと、「斎藤水産」の鮭や塩辛。結構うまいこれらのお土産に、もらった撃退士たちは、しばらくの間ちょっとハマったらしい。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
落葉なき宿り木となりて・
常磐木 万寿(ja4472)

大学部9年287組 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
ガクエンジャー イエロー・
城前 陸(jb8739)

大学部2年315組 女 アストラルヴァンガード