ひぐまストリート内「スーパーひゆう」。会議室。
火遊いつみ、堂礼透子、そして馬場聡子に大田鉢小鳥、サリー・フーバーの五人が、参加者を迎えていた。
「それでは皆様。自己紹介をお願いします」
「私、酒井・瑞樹(
ja0375)と申す。以後、お見知りおきを」
「OH! サムライガール? 黒髪がとてもクールね!」目を輝かせ、サリーは彼女を熱っぽく見つめた。
「初めまして、月臣 朔羅(
ja0820)です。雪像作りなんて久しぶりね。作る時間はあまり無いようだから、早く作りましょう」
「……銀髪碧眼すてき! 特にそのおっぱいも! ちょっとだけ」「やめなさい。って、ちょっとだけ何をするつもりだったの!?」手をわきわきとする小鳥を、後ろからいつみが止める。
「ははは、中々かわいらしい御嬢さんたちじゃあないですか。おおっと、失礼。ボクはジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)。ひとつよろしくお願いしますよ。いつみちゃん、皆さん」
「え? あ……えっと、よ、よろしくお願いします」
「ははは、おもろい人たちやな! 僕は、夜爪 朗(
jb0697)っていいます、ひとつよろしゅう!」
「はい、こちらこそ。元気でかわいい男の子ですね、今回はよろしくお願いします」と、トン子。
「こちらこそ、お姉さん!」
「……藤堂 猛流(
jb7225)。今回はよろしく」
「むむっ、たくましくもぶっきらぼう、だけどいい人そうなキャラ! これは期待できますよワクワク」
「……だから、馬場さん! あなたも何に期待してるのよ! ……ごめんなさいね、彼女いつもこんな変な事ばかり言ってて」
「私は、ディアドラ(
jb7283)です。皆さん、今回は雪像! なるものを作ります!」
「うわー、こちらのお姉さんも素敵だなあ。あの、一緒にコスプレしてもよかですか?」
「大田鉢さん! だからやめなさいってば!」
「こすぷれ? ではペンギンの……」
「ディアドラさんも! 乗らなくて良いです!」
雪像を作る前から、どっか疲れを覚えたいつみであった。
「スケジュールですが……とれる時間は今のこの時間から、だいたい二日半。なので、このように予定表を作ってみました」
約30分後、再び会議室にて。
そこにある大きなテーブルに、朔羅は大きな紙を広げていた。
「備品の用意にこのくらい。で、雪像の元を作るのにこのくらい。そして、細工するのにこれくらい……ぎりぎり、といったところですね」
「なら……すぐにでも取りかからなければなりませんね」と、トン子。
「ではまず、雪像のラフスケッチと、サイズの確認を……」
「設計図なら、描いてきた」
朔羅の言葉が終わらぬうちに、瑞樹が。
「裏でも表門でも……これなら、良いかと思う。どう、だろうか?」
「……招き猫? いや……両手を上げた招き猫とは、中々面白いじゃないですか」聡子が、その設計図を覗きこむ。
「良いと思いますよ? じゃ、一つは決定と」
「って、早いわよ!」と、いつみ。
「時間が無いんです、急げるうちに急がないと。で、あと三つはどうしましょう?」
そのうちの一つは、ほぼ決まりかけていた。
「ううっ、さ、さぶいやん。さすがは北海道〜!」
と言いつつ、ストリートの裏側……裏通りに面した、多少大き目の駐車場。
その隅の方で、朗はヒリュウを召喚し……その姿をスケッチブックにてスケッチの真っ最中。防寒着を着込んではいたが、それでもやはり寒い。
「ヒリュウ、寒ないか〜?」
その問いに、召喚獣はふるふるとかぶりをふる。
「せやな、白いモフモフが天然のマフラーになっとるもんなあ。けど、もうちょう待っとってな」
にっこりすると、朗は鉛筆をスケッチブックに走らせ続けた。
「……ここにいたの?」店内から出てきた小鳥が、朗に声をかける。
「できた! ……ああ、小鳥お姉さん。僕のヒリュウをスケッチしてん。このデザインで、雪だるま作ろ思うんやけど、どうかな?」
「どれどれ……おっ、なかなかいい感じ。……滑り台も? うん、いいと思うよ?」
「へへっ、なら。決まりやね!」
「あらやだ、こんなおばさんをからかわないでよ〜」
「いえいえ、人が働く姿は美しいもの。ましてや毎日、人々の生活を支える仕事に従事しているあなた方レディが、美しくないわけがありません」
スーパーの裏、食品加工室に隣接する休憩室にて。年配女性の従業員たちと談笑しているのはジェラルド。
「まあ、お世辞なんて言っても何も出ないわよ〜……寒いでしょ、はいお茶」
「ほんとにもう、口がうまいんだから〜……お茶菓子食べる? 売れ残りのハッカ羊羹だけど」
「おお、好物です。それでは遠慮なく」
と、茶と茶菓子とをごちそうに。
「……雪像ねえ、今年はちょっと無理かもって思ってたんだけど……」
「……でも、いつみさんと副店長さんががんばってるから、手伝いたいんだけどね……」
「……けどねえ、スーパーの方も忙しいし、私たちも無理がきく年齢と身体じゃあなくてね……」
「大丈夫です。ボクたちが何とかして見せますよ。このお茶と羊羹とを頂いて、俄然やる気が出てきたよ! 楽しみにしててくださいねっ」
その言葉を口にしつつ、ジェラルドの脳裏には、作る雪像のデザインが固まりつつあった。
今年は午年。ならば、馬を作ろうじゃあないか!
表側門。朔羅たちは、そこに立っていた。
用意された「板」が、ひぐまストリートの表と裏、両方の門の両脇に建てられた。その内部には雪が詰められ、そして冷気により雪は凍りつつあった。
「そろそろ、板を外す時間ですね」
朔羅は板を外しにかかった。瑞樹やいつみ、トン子、ジェラルドもまた、それを手伝っている。
「朔羅さん、朗くんとディアドラさんは?」
「裏側門の方で、同じように板を外してるはずですよ。いつみさん」
「……で、馬場さんたちは?」
「「「……さあ?」」」と、朔羅・瑞樹・ジェラルドはかぶりを。
「どうせサボってるんでしょうね。まったく……ろくなことしないんだから、あの子たちは……ひゃああ!」
後ろからいきなり胸を揉まれ、いつみは叫び声を。
「むー。いつみ先輩のおっぱいって、いまいち揉み心地良くないんですよねー。小さいし」
「余計なお世話よ! ……って、大田鉢さん! 何やってるの!」
「……その、彼女たちは俺の手伝いをしてくれていた」
怒るいつみの後ろに、藤堂が。クマの着ぐるみを着て、プラカードを肩にかついでいる。
小鳥とサリーもまた、クマの着ぐるみ姿。藤堂は商店街の内外を歩いて、雪だるま作りの告知と、可能ならばその手伝いの呼び込みとをしてくれていたのだ。
「んー、トウドウってとてもクール! コレがいわゆる、ヤマトダマシイなのカシラ?」シロクマ姿のサリーが、ふんすと鼻息荒くしつつ感心していた。
「……まあとにかくだ。あの馬場って子も、裏側門で作業を手伝っている。あまり彼女たちの事、悪く言わないでやってくれるか?」
「ま、まあ。藤堂さんがそうおっしゃるんなら……」
裏側門では、藤堂の言うとおり。防寒着姿の朗や、ペンギンの着ぐるみを着たディアドラが、聡子とともに雪像の製作作業に入っていた。
「……じゃあ、確認しますけど。こちら側、裏側門の二つは、朗さんの『招きヒリュウ』と、藤堂さんの『クマ雪だるま』……って事でおkですね?」聡子の確認に、朗は元気よくうなずいた。
「OKOK、じゃ、始めるで!」
朗は、手にしたカラーペンキスプレーを、目前の雪塊に吹き付けはじめた。既に彼の前には、板が外された雪像の「元」が立っている。それを素体にデザインと照らし合わせつつ、削る部分にスプレーを吹き付け、そして削っていく……という予定。
スプレーで色づけし、それをガリガリと音を立てて、借りたシャベルにて削っていく。
「夜爪様、こちらの方はこれくらい削りましたわ」大太刀・蛍丸で、凍りかけた雪の塊を、ペンギンのディアドラが削った。
「……っとっとと! あかんて、ディアドラさん。そこ削り過ぎやー。バケツん中の雪でカサ増しせな。聡子さん、頼んます」
「はいはい! ここんとこにモリモリっと……うーん、なんだかポリパテでフィギュア作ってる友人を思い出しますよ」
などと三人でわいわいやってるところに、藤堂が小鳥とサリーを引き連れ、戻ってきた。
「もう始めてるのか?」
「あ、猛流さん! 先始めてますで!」
「トウドウ、ワタシたちも始めよ?」
サリーが、シャベルを手渡す。それを受け取った藤堂は、彼女の後ろに小さな子供たちが見上げているのを見つけた。
「……くまさん。ペンギンさんとゆきだるま、つくるの?」
「……手伝って、くれるクマ?」クマの着ぐるみを着たままの藤堂が訪ねると、子供たちは笑顔でうなずいた。
「ふっふっふ、我が名はディアドラ! 見ての通り天使である! お手伝いしてくれて嬉しいのであるよ!」
その様子に、ペンギン姿のディアドラもまた嬉しそうに笑顔を向けた。
「……なんとか……形には……なってきたかなっ……」
表側門。ジェラルドは……作るのに難儀していた。
表側門の雪像。作るのは瑞樹の「両手で招く、招き猫」と、ジェラルドが作る「馬」に決定。ディアドラの予定通りに製作は進んでいた。しかし招き猫はともかく、馬はかなりの苦労を要する事に。
「あの、ジェラルドさん。張り切っていただくのは大変うれしいのですが……複雑な形状は、どうしても時間と手間と……日光で溶ける問題がありますので……どうかその点に留意していただければ」
ならば、もう少し考えねばならないだろう。
「……参ったな、こりゃ。小さな馬のメリーゴーランドもと思ったけど、とてもそこまでは……」間に合いそうにない。最初の構想よりかなり省略しないことには、時間的にも物理的にも間に合いそうにない。ため息をついたジェラルドだったが。
「はい、甘酒です」すっ……と、甘酒が差し出される。トン子が差し入れに来たのだ。
「出来の方は、いかがですか? ……無理を聞いていただいて、本当にありがとうございます」
「……いえいえ! 女性からの願いを聞くは、愛に生きる紳士として当然の事! それにこの甘酒があれば、勇気百倍、元気二百倍! すぐにでもすませてしまいますよ!」
トン子から受け取った甘酒を口にしつつ、ジェラルドは請け合った。そうとも、レディの笑顔を見るためには、なんだってやってやるし、してみせる!
「……ごちそうさま。いやあ、実に良い味ですよ。よろしければ、後で作り方を教えてくださいね」
やる気の再充填完了したジェラルドは、雪像作りの仕上げに取り掛かった。
そして、一昼夜。
「完成! へへっ、自分で言うのもなんやけど、良い出来に出来たで!」
招きヒリュウの前で、モデルのヒリュウとともにガッツポーズする朗。すでに雪像の周囲には、子供たちの「かわいいー」という声とともに列が。
「滑り台、なかなか盛況そうでなによりです。うーむ、謎かけ一つ、整っちゃいましたよ」その様子を見て、満足そうにうなずく聡子。
「この滑り台とかけて、無理に笑いを取ろうとするいつみさんと解きます。そのこころは……『どちらも、必ずスベってしまう』」
「……馬場さん、だれがスベってしまう、ですって!?」後ろからいつみが聡子に迫るが、聡子はそれを軽くスルー。
そんなやり取りする二人をよそに、朗もまた子供たちとともに遊ぶ。
「ヒリュウ、お姉さんたち! 一緒に滑ろうやないか!」
「朗君のヒリュウもいいけど、こちらのクマさんも好きかなー」
「ウン! ワタシも、テキサスの実家のテディベア、思い出したよ」
朗とひとしきり遊んだ後。小鳥とサリーは、彼とともに他の雪だるまを見分していた。携帯を取り出し、写真を撮る。
「うん、さすがは藤堂さんやな! でっかいクマさんや〜! こういうの作れる大人、尊敬するで!」
「普通の熊さん以上に、かわいさ二割増しになってるよねー。うん」
少年少女からの賛辞を聞き、藤堂も悪い気はしていない様子。
「あー……表門の方、行ってみるか? まだ見てないんだろう?」
照れくささを隠さんとする藤堂の提案を、皆は受け入れた。
「……まあ、悪くは、無いかな」
「いや、そんな事ありませんて! 両手招きの招き猫! こいつは縁起ええと思います!」
商店街を抜けた朗たちは、そのまま表側門へ。そこで門を飾る二つの雪だるま、およびその前に立つ製作者たちの処へと赴いた。
片方は、両手を上げた招き猫。
「……ネエ、でも両手のマネキネコって、『オテアゲだから、エンギ良くナイ』って言われてなかった?」
「……え?」
サリーの言葉に、瑞樹は、そしてその場にいる全員が、凍りついた。
「……いや、サリーお姉さん。こういう場合は、『悪い奴は入れずお手上げ』って解釈するもんやで?」
「……そ、そうなんだ! それにこの招き猫は、二刀流の宮本武蔵をイメージしてこうなったわけで……決して、お手上げで両手を上げているわけではないのだ」
朗のフォローで、瑞樹もまた言葉を取り戻す。
「ええと、こちらのお馬さんは、ジェラルドさんが作ったんですよね?」
小鳥もまたフォローとばかりに、話題を振った。
「ははっ、どうかな? トン子さんのために、そしてこの商店街のレディ全員のために、頑張りましたよ」
完成した雪像は、たくましい馬が真ん中に、その周りに小さな馬があしらわれている、というもの。本当は小さな馬に製作者の女性たちを乗せ、更にはメリーゴーランドのように回るように……としたかったが、時間がなく断念したのだった。
「かっこいいなあ。今年は午年だし、ぴったりやね!」
「そして、更にサプライズがあるんですよ……夜になると、もっと綺麗になりますからね」
ジェラルドの言うとおり。夜になると仕込まれた電飾が輝き、その光が雪像をより美しく見せるのだった。
そして、夕方。再び「スーパーひゆう」にて。
「みなさん、今回は本当にありがとうございました! 大したものは用意できませんでしたが、どうか召し上がってください」
会議室にて。用意された甘味を、撃退士たちは振舞われていた。
「暖かい……この甘酒、一段と良い味だな」
「ええ、全くです」瑞樹の言葉に、朔羅が相槌を打つ。
「うん、スーパーのレディ達には一度会ったけど、それを思うと一際温まるねえ」
好物の甘酒を再び味わい、ジェラルドは満足げ。
「うん。お汁粉ってこんなにおいしいものだとは思いませんでした!」ペンギンの着ぐるみ姿のままで、ディアドラも舌鼓を。
「来年の冬は……こういう穏やかな日々がもっと増えるよう頑張らないとな」恋人との誓いを思い出しつつ、藤堂もそれを味わう。
「僕らの作った雪だるまが、誰かに喜んでもらえたなら、これ以上嬉しい事はないです。いつみお姉さん!」
「ええ、また来年も、お願いしたいわ。朗くん、皆さん!」
そして、後日。
今年の雪だるまは、お客にかなり好評……との事だった。