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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/02/04


みんなの思い出



オープニング

 帯広市内の、帯広北大学。
 総合大学であるそこの一室に「奇妙な物体」を運び込んでいる者たちがいた。

「……まちがいない。これは……呪物として作られた『両面宿儺』だ」
 中道仲治。大学の民俗学教授が、それを持ち込んだ友人へと言った。彼ら二人の目前には、CTスキャン装置が、そして装置には「奇妙な物体」がかけられていた。
「『リョウメンスクナ』! ……あの怪談の? 二身一体、英雄にして魔物の名を冠したミイラだっていうのか?」
 友人の骨董商……苗代重助が、中道へと問い返す。
「そうだ、重助。……ったく、お前はどこでこんなもん見つけて来たんだ」
「内地(本州)の山奥にあった荒れ寺。土地の持ち主から、中の物を全部処分してくれって頼まれて、安値で買って家に送ってもらったんだ」
 重助はスキャン装置の隣りに置いた「それ」へと目をやる。そこに鎮座しているのは、「リョウメンスクナ」が入っていた、大きな仏像だった。

 苗代重助の家は、骨董品店。日本中を歩き回り品物を買い付けては、自宅兼店舗に郵送し売買していた。
 今回購入したものの中にあった仏像。中身が空洞のそれは、中に奇妙なミイラが入れられていた。
 それはまさしく、伝説と怪談に伝わる「両面宿儺」。下半身は普通の二本足だが、上半身は左右に広がり、腕は左右に二本づつ。そして頭部は二つ。包んでいたボロ布には「鬼傷天血」と記されていた。
 このミイラは何なのか。それを調べるため、重助は中道を訪ねていたのだ。

「で、父さん。どうだったの?」
 骨董品店「苗代屋」。その住居の台所で夕食を囲み、重助は娘・美亜の問いに答えた。
「ああ。やはりただのミイラだったよ。調べたところ、死体に細工跡は無かった。おそらくシャム双生児の遺体を興行師が手に入れて、『呪いのミイラ』とでっち上げたものだろう」
「ふーん。じゃあ、珍しいけど呪いなんか無い、ただの乾燥した遺体なのね」
「ああ。他に鬼の骨とか河童のはく製とかあったが、みんな奇形や死体の細工物だった。地主の先祖がインチキ見世物興行師をしていたらしいし、その時のものに違いなかろう。仲治の奴がもう少し詳しく調べてみたいというから、一週間ほど大学に貸し出し、調べてもらう事にした」
 大学。その単語を聞き、美亜は台所と続いた部屋、そこに飾ってある写真に目を転じていた。
「……もし孝一兄さんと、賢治さんがいたら……今年は大学生、なのよね」
 美亜のつぶやきを聞き、重助は表情を曇らせた。
「……あ、ごめんごめん。父さん、気にしないで。勝手に家出した孝一兄さんたちが悪いんだから。さ、食べましょ。今日は真ホッケのいいのが手に入ったのよ」
 いただきまーすと手を合わせ、二人は食べ始めた。

 しかし、数日後。事件が起きた。
 大学の倉庫に泥棒が入り、保管していた品物が盗まれたのだ。その中には、リョウメンスクナのミイラも含まれていた。
 この大学の民俗学関連の倉庫には、ここ半年は泥棒が何度も入り込んでは、資料となる品物を盗んでいくという事件が頻発していた。
 担当した刑事の霧島は、警備員を呼び出し、訊問を始めた。

「あそこが、アジトですか?」
 霧島の部下の紅林が、その家が見える場所に車を止めた。
 そこは住宅街だが、隣近所は廃屋や更地が多く……人気が多いとは言えない場所だった。車の中で霧島は、紅林に相槌を打つ。
「ああ。半年前から頻繁に盗難があるのに、犯人は全く捕まらない。目撃例すらない。で、ミイラのような大きなものを盗んでも、全く気付かれないなんてのはおかしいと思ってたら、案の定だ」
 警備員を締め上げたら、彼は泥棒に協力していた事を白状したのだ。彼は古物や骨董などを専門とする泥棒の一味で、適当な品物が倉庫に運ばれたらその情報を漏洩し、盗難の手助けをしていた。
 その泥棒たちのたまり場が、目前の家。母屋と倉庫とが隣接しており、盗品を隠すのには困らないだろう。きっと盗んだミイラも、あの中にある。
 時刻は夜。夕方からの吹雪と街灯の少なさから、視界は悪い。しかし、窓には明かりが見える。
「監視カメラの映像も、どういうわけか泥棒が入る時間には都合よく切れている。今回はどうやら、『ミイラ』という大物が手に入ったものだから、大人数で出向いて盗んだが……それが仇となって、こうやって尻尾をつかめたわけだ」
「でも霧島さん……ミイラなんか欲しがる奴、いるんスか?」
「好き者には、常識なんてねえのさ。ともかく、ここで張り込んで、奴らが確実に居るって事を突き止めたら、ブタ箱に……」
 霧島がそこまで言った時。
 いきなり、明かりが消えた。
 それだけでなく……窓から何かが放り出され、雪の中に転がった。その「何か」が人間だという事に、霧島は若干の時間を要した。

「これは……!?」
 すぐに車を発進させ、張り込んでいた家へと向かう。若い男が、血みどろになって倒れていた。後ろ前に捻じ曲げられた首を見て、死んでいる事は明らか。
 拳銃を手にして、霧島たちは明かりの消えた室内へと踏み込んだ。
 彼らの嗅いだことのある臭いが、そこには充満していた……。「血」の、そして、「死」の臭いが。
「……まだ温かい……俺たちが到着する直前に、犯人は殺しを終えていたようだ」
 内部には、数名の死体が転がっていた。ある者は頭を潰され、別の物は手足をもぎ取られ、五体満足の死体はない。
 家の壁には、大穴が穿たれていた。おそらくは犯人が開けたのだろう。犯行後、ここから出ていったに違いない。
「……霧島さん! こちらに生存者が!」
 紅林の言葉にかけつけると、家の納戸の中に隠れていた……チンピラ然とした若者を見つけた。
 手足がねじくれ、口からは血を吐いている。既に虫の息で、もう長くは持ちそうにない。
「警察だ、何があった!?」
「……や、やられた……」
「誰に?」
 霧島に、若者は苦しそうに答えた。
「リョウメン……スクナ……」
 なんだと? 痛みで混乱しているのか?
「あいつに……リョウメンスクナに……殺される……た……助けて、くれ……仲間を……仲間が……仲間の……賢治と……孝一が……」
 若者はそこまで言うと……息を引き取った。
「……リョウメンスクナに殺されただと? ショックで混乱していたのか?」
 霧島が呟くが……青ざめた紅林が、吹雪の中を指さしているのを見た。

「……吹雪で視界は悪かったですが、『あれ』が犯人に間違いないです」
 霧島刑事が、君たちへと依頼内容を説明する。あの時、紅林が指さした『あれ』。それを見て、彼も紅林と同様に……戦慄していた。
「……私に見えたのは、遠くへ去る大柄な後ろ姿で、ほぼ影のみでした。ですが……その影にはあったのです、二つの首が」
 その後で二人は、警察に連絡。アジトを調査したところ、メモを発見した。「ミイラと盗品は廃工場に移した」と。
 だが……泥棒たちを惨殺した「何か」は、明らかに普通の人間ではない。犯人の『リョウメンスクナ』が何かわからない以上、警察や犯人グループに犠牲を出す事は避けたい。
「そこで、皆さんに犯人が人間なのか、それとも人外の怪物なのかを確認し、もしも後者ならば殲滅していただきたいのです。犠牲者のあの男は、死の間際に言っていました。『リョウメンスクナに仲間が殺される』と。警察の方も、可能な限りサポートを行います。どうか……引き受けてはもらえないでしょうか?」


リプレイ本文

『……先日より北海道に停滞している低気圧の影響で、日中は晴れますが、夕方よりまた雪が降りだし、夜半には大雪になる事でしょう……』
 
 この天気予報から、任務遂行する日中ならば大丈夫だろう……と判断した佐藤 としお(ja2489)だが、大丈夫ではなかった。
「やれやれ……これはちょっと困りましたね」
 晴れるどころか、空には雪雲がいっぱいに広がり、ちらちらと雪を降らせている。
「……とはいえ、これ以上泥棒を放置もできないでしょうし、何より……双頭の『何か』もこれ以上、放置する事も危険。ならば……」
 やるしかない。この任務が終わったら、熱い味噌ラーメンを食べて身体を温めよう。そう決意し、佐藤は……目前の山を見上げた。

「う〜、寒いっ!」
 雪を踏む音を響かせつつ、佐藤は雪山を進んでいた。
「寒いですねえ、佐藤さん」同行している森田良助(ja9460)が、その言葉に相槌を打つ。
 防寒着に身を包んではいるものの、それでも「寒さ」は染み込んでくる。
 そしてそれは、上空のアサニエル(jb5431)も難儀させていた。
 天を舞うその姿はまさに天使。実際、天使である彼女は、その背に「光の翼」を顕現させ、手にしたペンライトで佐藤と森田とを誘導していた。いたのだが……。
「……くっ……ちょっとばかり、身に染みるね……」
 雪とともに冷気が、空を飛ぶアサニエルに容赦なく襲い掛かり、彼女を辟易させた。
「そのまま真っ直ぐ……そう、その先には大きな岩があるから、ちょいと曲がって」
 アサニエルの指示に従い、佐藤と森田は先を進む。
「……あの、佐藤さん」
 だが、森田が立ち止まった。
 彼の元へ近づいた佐藤は……凍りついた。体がではなく、心が。
 目前に、死体があったのだ。
「……犬、ですね」
 ややしばらく経って、森田が口を開く。
 アサニエルもまた、上空からそれを見つけ、降り立った。
「……殺されてから、時間が経ってるようだね。けど……」
「けど……『異様』です。この死体」
 佐藤が、アサニエルに続き言った。
 その犬の躯は、首が後ろ前になっていたのだ。明らかに……事件の発端となった「何か」と同じ殺害方法で、犬は殺されていた。
「…………」
 背筋に冷たいものが走るのを、三人ははっきりと感じた。それは吹きすさぶ寒風のせいだけではない事を、皆は悟っていた。

「雪、降ッてきたねェ」
 三島 奏(jb5830)は車を運転し、道を進んでいた。
 道路は、木々が茂る山の斜面脇に通っていた。あと二十分ほど走れば、山を通り抜けるトンネルに入る。
 車の後ろには、日産タイタンに乗った桃香 椿(jb6036)が。そのピックアップトラックは椿本人がリクエストしたもので、支給された時に嬉しそうに頬ずりしていたのを奏は見ていた。
「……ッて、どうした? なンだか思いつめた顔してるよ?」
 静かなのが気になり、隣の助手席に座っているリーゼロッテ 御剣(jb6732)へと声をかける。
「え……あ、なんでもないです」
「ふーン……まあいいけどサ。悪い予感でもするのかい?」
「ええ、ちょっと……」
 実際、変な感覚をリーゼロッテは覚えていた。『リョウメンスクナ』というのが、どっか食べ物か何かのような響きがするからと、この依頼を受けたのだが……今と貼ってはその動機をちょっと後悔しそうなくらい、「嫌な感覚」が自分を苛んでいる。
 この「嫌な感覚」が何なのか。正直……わからない。ひょっとしたら、勝手に怖がっているだけかもしれない。それで済めば良いのだが。
「……ま、行ってみないとわからないわよね」
 が、いきなりブレーキが踏まれ、リーゼロッテは我に返った。
「な、なんですか!」
「……あれ、一体なンなンだ……?」
 道の脇に「それ」が、姿を現していたのだ。
「それ」は、巨体だった。目測で、10mくらいはあるだろう。重々しく、下敷きにされたら……まず、無傷ではすまない。すむわけがない。
「……なぜ、こんなところに『倒木』が?」
 道路脇に、木が倒れていたのだ。
 しかし、その根元の折れた面はまだ新しい。枝もまだ茂っている。少なくとも、倒れるほど枯れた木ではない。自然に折れて倒れたものとは考えにくい。まるで……何かが、生えていた木に無理やり手をかけ、倒したかのよう。
 幸い、道路脇へと車を寄せれば、通り抜けられる位置に倒れている。
「……行くよ。『奇妙』ではあるけど……ここで留まッてるわけにもいかないからねェ」
 言葉とともに奏が、倒木を避けて車を進ませる。
が……リーゼロッテは倒木を横目に見て、先刻の不安感がより大きくなるのを否定しきれずにいた。

「……これは、また……」
 うめくように、佐藤はつぶやいた。
 山を越え、廃工場を裏から臨む場所。山の斜面の藪に身を潜めた佐藤と森田、アサニエルの三人は、目前の廃工場へと視線を向けていた。
 そこは、確かに廃工場。しかし……かなりの広さ。広い敷地内に、いくつもの棟や建物、施設が建っている。それらは汚れ、くたびれ、この位置からでもガタが来つつあるのは見て取れた。が、それでいて取り壊しに至るほどではない頑丈さも保っている。
 それらは、小さな道路をはさみ、フェンスで外界と隔てられていた。
「しかしまあ、なんでまたほったらかしにされてるのかねえ。立て直すか取り壊すか、はっきりすりゃ良いものを」
 アサニエルが疑問を呈する。佐藤と森田もまた、それに関しては同意だった。
後で聞いた話では。この工場を所有してる会社は、経営縮小の関係からここを閉鎖。しかし、取り壊しも資金がかかるため、放置され現在に至る……との事だった。
 ここから見ている限りでは、おそらく侵入するのは容易。しかし、広い内部のどこに、泥棒たちのボスが居るのか、盗品を隠しているのか。そこまではわからない。
「……車班の皆さんに、工場裏に到着したとメールを送っておきました。それじゃあ……」
 行きましょう。森田の言葉と共に、皆は立ち上がった。

「……到着、したようやね」
 森田のメールを受信。運転しつつ、椿はその文面を確認した。
 支給されたタイタンのハンドルを握りつつ、彼女は目前の、奏とリーゼロッテの二人が乗った車を追う。
 じきに、工場に着く。しかし……どうにも胸騒ぎがして仕方がない。今のところ異常はない。……先刻の「倒木」以外は。
「……さて、げに恐ろしきは、泥棒か、それとも……」
 不安感を紛らわそうと、椿はつぶやいた。

 裏口のフェンスの一部を破り、アサニエル、佐藤、森田は内部に侵入する。
「さてと、どこにいるのかねぇ……って、こりゃ、いったい……?」
「生命感知」を用いたアサニエルだが、予想外の反応に驚愕していた。
 あちこちから、生命の反応を感知したのだ。そのうちの幾つかは、すぐそばから反応し……それらは、近づいてくる。
 とっさに身構えたが。
「……猫?」
 薄汚れた数匹の野良猫が、みすぼらしい姿で近づいてきたのだ。猫たちはアサニエルたちの姿を認めると、逃れるかのように姿を消した。
「……野良の犬猫が、暖を取るために潜り込んでるみたいですね。やれやれ」苦笑交じりに、佐藤が安堵する。少なくとも……危険な存在ではない。
 工場内部は薄汚く、薄暗く……黴臭い匂いが充満していた。がらんとして……人の気配は全く感じられない。
 後で何かの役に立つだろうと、森田はデジタルカメラにて工場内部の映像を撮り続けている。
 それからしばらく、三人は「生命感知」を何度かかけつつ探索を続けていた。多く反応するも、その多くはねずみや野良の犬猫。少なくとも、追っている泥棒の親玉の反応ではない。
 そして。
「……どうやら、今度は当たりじゃあないか?」
 工場敷地内の、中心部にやや近い場所。アサニエルはそこで……一つきりの、生命反応を感じ取ったのだ。
 その反応がある場所へ、静かに、音を立てぬように……次の部屋へと続く、鉄の扉を開いた。

 工場前。
 怪しまれぬ場所に駐車し、奏はリーゼロッテと椿とで、工場を見張っていた。
 工場前の正門は固く閉じられているが、その前の地面には……車両のタイヤ痕が。
「……中に、誰かが潜んでいるのは間違い無さそうだねェ……」
 しかし、リーゼロッテの様子を見ると……先刻より、顔を曇らせている。
「どうした? 具合でも悪いの?」
「いえ……ただ、さっきから嫌な予感がして……」
「ああ。あたいもさっきから、妙に胸騒ぎがするばい」
 リーゼロッテに続き、椿も同じ事を。
ただの杞憂かもしれない。奏もまた、そうである事を願っていた。

 が、数刻後。
 その願いは覆されることになる。

『……サツかと思ったら、ガキ二匹にねえちゃん一人かよ』
 スピーカーから、声が響く。
 まさに当たり。佐藤と森田とアサニエルが扉を開けたそこは、盗品の置き場に改造されていた。
 扉の向かい側。高さ五m位のところに、工場全体を見下ろすようにして部屋が据えつけられていた。おそらく元は、工場全体を監視する施設だったに違いない。
 森田は盗品をカメラで映し、そして周囲にもカメラを向ける。……相変わらず、人の気配はない。
 声の主へと近づこうとするが、男が拳銃を向け、発砲してきた。佐藤たちはすぐ、物陰に隠れる。
『てめえら、何者だ。……ここに来て、ただですむとは思ってねえだろうなあ?』
 部屋の窓から、男が顔を出す。凶悪な面構えの男だ。間違いない、泥棒たちのボスだろう。
「あー、こちらは敵じゃあありません。俺たちは、あなたを保護に来ました」
 佐藤が、声をかける。
「あなたのお仲間が、全員殺されたんです。ここも危ないから、あなたを助けに来たんですよ」
『なんだと?』
「それに、あなたの仲間の……賢治さんと、孝一さんも狙われてるそうです。だから、命が惜しければすぐに」
 佐藤の言葉が終わらぬうちに、再び銃声が。
『そんな嘘でオレを騙すつもりか? オレは絶対捕まらねえ!』
「……まったく。自分の命より、捕まらない事の方が重要なのかい?」
「呆れたやつですね。まあ、強引にでも取り押さえて……」
 アサニエルと森田とが相談するが……銃声が無い。
「……まずい! 逃げたようです!」
 それに気づき、佐藤はすぐに後を追った。
 
 ボスを追い、階段を上って部屋に入る。
 そこには、開け放たれた扉が。そして、別の建物に逃げ込む男の姿が。
「逃がさないよ!」
 アサニエルが光の翼でそこから飛び、佐藤も扉から降りる。森田もすぐ、それに続いた。
 籠球かした、倉庫らしき建物。アサニエルの目前で木の扉が閉められ、内側から鍵を掛けられた。
「アサニエルさん、下がって!」
 駆けつけた佐藤が、拳銃で鍵を吹き飛ばす。
 扉を開いた、その時。
「「「!」」」
 三人は、絶句した。
 何かが飛んできたのだ。
 それは、人間だった。もっと言ってしまうと……それは、三人がたったいま、追っていた男。泥棒たちのボスだった。
 すぐに横に退いて、それをかわす。雪の上にボスの身体が転がり、壁に叩き付けられて、勢いは止まった。
「……な、なんだ?」
 アサニエルが、困惑した声をあげる。男は……片腕だったのだ。右腕がなかった。
 加えて。腕は「切断」されていなかった。「引きちぎられて」いたのだ。
 胴体を追うかのように、ちぎられた右腕が建物内から飛んできた。
 すぐにアサニエルが、男へと駆けつけ……ライトヒールをかける。
「くっ……いったいなんなんだ!」
 男は痙攣し、今にも意識を失いそうに。
「大丈夫ですか!」
 銃声を聞いて、リーゼロッテ、椿、奏もかけつけた。
「どうしたァ!? 奴は?」奏の声に、森田が指し示す。
「倉庫の中です! 中に……何かが!」
 開かれた扉から、内部へと視線を転じる。そこには……悪夢が広がっていた。
「……あれは……一体……?」
 椿はそれを見て、言葉を失う。
 扉の奥、開けた広間。巨体が、そこにはあった。扉から入る光だけでは全容は見えないものの、そいつの身長は少なくとも三mはある。
 波打つ筋肉と、荒れた浅黒い肌。太くしなやかな両腕は、触られただけで破壊されるような錯覚を起こさせる。
 ……いや、胸部からも小さな腕が一対生えていた。この巨人は、腕が四本あるのだ。
 そして、頭があるべき位置には頭は無く、両肩に一つづつ……歪んだ、人間の頭部が備わっていた。
 暗くて良くは見えなかったものの、右側の顔は憤怒、左側は哀しみの表情を浮かべているように見える。……少なくとも、リーゼロッテの目にはそう見えた。
 そして、撃退士たちに見られながら……双頭の巨人は咆哮し、手近にあった巨大なフォークリフトをひっつかみ、投げつけてきた。
「やばい! みンなにげろォ!」
 奏が叫ぶのと同時に、まるで赤子が投げつけた玩具のように、巨大で重い重機が軽々と飛ばされ……雪降る中に転がった。
 撃退士たちはそれを回避するも、戸惑っていた。……これほどの力を持つ相手に、どうやって戦うべきか?
 体勢を立て直そうとする撃退士たちの前で、そいつは……鉄骨に手をかける。破壊音とともに、鉄骨がもぎ取られた。
「なっ……!?」
 リーゼロッテは、言葉を失った。
 そして、次の瞬間。
 建物自体が、崩れ落ちた。

「…………」
 撃退士たちは目前の瓦礫の山を、複雑な心境とともに見つめていた。
 建物自体が老朽化していたため、先刻の怪物が柱となっている鉄骨をもぎ取った時。自重に負けて崩れてしまったらしい。
 すでに警察の現場検証が始まっている。が……。
「……この建物の地下。すぐ近くに下水道の本管があると、さっき聞きました。ならば……」
 もしそこに逃げ込んだとしたら……「あいつ」は生き延びているかもしれない。
 佐藤の言葉に、皆がうなだれた。
「……あの、片腕をもがれた男。ライトヒールで応急処置を施してはおいた……けど、助かるかどうかはわからない、とさ」
 苦々しく、アサニエルが言った。
 少なくとも、泥棒たちが盗んだ品物は取り戻せた。その中には、仏像。そして……事件の発端となった、件の双頭ミイラもあった。すでにトラックに積み込み、運ぶ準備はできている。
 泥棒たちのボスも、生死の境を彷徨っているが捕まえる事は出来た。そして……双頭の「何か」が存在することも。
 だが……あの「双頭の巨人」は一体なんなのか。
「……ディアボロか、サーバントかもしれないけど……」
 森田が、撮影した映像を見つつつぶやいた。鮮明な映像は撮れていないが、「あれ」の存在感は皆の心に鮮烈な印象を残していた。まるで、楔を打ち込まれたかのように。
「……とりあえず、味噌ラーメンでも食べに行きませんか?」
 佐藤が沈黙を破った。
「おそらく、これでは終わらないでしょう。それに備えて……鋭気を養っておきましょう」
 その言葉に、皆はうなずいた。
 ……あの「双頭の巨人」とは、再び必ず会いまみえる。その時のために……備えておかなければ、と。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
月夜の宴に輝く星々・
三島 奏(jb5830)

大学部7年170組 女 阿修羅
釣りガール☆椿・
桃香 椿(jb6036)

大学部6年139組 女 アカシックレコーダー:タイプB
天に抗する輝き・
リーゼロッテ 御剣(jb6732)

大学部7年273組 女 ルインズブレイド