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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/11/03


みんなの思い出



オープニング

 スポーツの秋!
 芸術、食欲、読書! 「○○の秋」は数多くあるものの、やはり体を動かす「スポーツの秋」が一番! ……と、思っていた時期が彼女たちにもありました。
 その彼女たちとは! 一人は、友恵さやか。紅茶とケーキが好きな、ちょっと中二病から抜け切れてない女の子。
 そのライバル。その名も安功杏子。撃退士をめざし日々精進する二人は、久遠ヶ原学園内にて、勉強やスポーツをはじめとした様々な事に関しライバル関係にあった。
 今日もグラウンドにて、二人は野球ボールを片手に勝負!

「……投球対決、私の勝ちね」
「何言ってんだ! アタシの方がカッコいいに決まってんだろ!」
「あら。あん子のボール、投げてもキャッチャーミットにすら届いてないじゃない。まさに、ミットもない♪」
「あん子じゃねえ、アタシはキョウ子! 杏子の杏の字を『あん』って読んでるんじゃあねえよ! それにさやか、アンタもカッコ付いてるのは投球フォームだけで、真後ろや真横にしかボールが飛んでかないじゃん」
「……た、たまたま、狙った場所からちょっとだけ外れちゃうのよ。偶然よ、ついよ、わざとよ」
「どっちだよ。つーかそれって、ただのノーコンじゃあねーの。やーいノーコンさやか♪」
「そ、そっちこそ! せめてボールが届くくらいには投げて見せなさいよ! ポンコツピッチャーあん子! ついでに『安』功『あん』子で『あんあん』じゃない! いやらしい……」
「あん子言うなー! っていうか、人の名前を勝手にいやらしいとか言うなー! そんな発想するアンタの方がスケベだ! スケベスケベ! さやか・イズ・ベリースケベ!」
 そんな彼女たちを見て、グラウンドを占拠された野球部が一言。
「……お前ら、練習できないから早くどけ。つーか、『甲子園の決勝戦でカッコよく決まる投球フォーム対決』だと? まともにボール投げられるようになってから出直せ!」
「「しゅん……」」

 こんな感じで、様々な事に関して彼女らは競い合っていた。二人ともちと思考や行動が残念ではあったが。
 さて。時は秋、でもって、さやかと杏子は同じ町内に住んでおり、その町内では久遠ヶ原の有志の生徒たちが集まり、毎年秋・ハロウィンの時期に「ハロウィンコスプレマラソン大会」なるものを行っている。
 非常にざっくりかつぶっちゃけ言ってしまうと「久遠ヶ原の生徒限定で、コスプレしてマラソンします」ってな安易なもの。しかし優勝したら、学食の大盛りランチ十人前タダとか、近場のお店のスイーツ食い放題とか、サーモン十匹進呈とか、そういったお徳用な商品がもらえたりする。
 しかし、優勝するにはただ単に早くマラソンすれば良いってもんじゃなく、「コスプレ」かつ「パフォーマンス」も必要。
 珍妙かつかわいい(ここ重要)なコスプレでなければ、たとえ一着しても優勝にはならないのだという。審査員は関係各位から集められた有志の人間たち……という事になってる、暇を持て余し集められた生徒や教職員。
 スタート地点からまず、ハイウェイに出て車道を7km走り、第一チェックポイントにたどり着いたら、審査員の前で「かわいくアピール」。
 アピールはどんなものでもよいが、「必ず」しなければならない。
 次に、自然公園内に入り、公園の中にある大きな池の周り(距離にして約3km)を一周。一周したのちに、公園内の第二チェックポイント。ここで「一発ダジャレ」。
「ダジャレ」ゆえ、いかにくだらないかに注目される。ただし、審査員により安易だったりいいかげんだと判断されたら、池をもう一周して、もう一度別のダジャレを言わなければならない。大抵はここでダメ出しされて、何度も走る羽目になるが。
 そして、公園の外に出て、冬場にはスキー場になる山の斜面5kmを走る事に。頂上にたどり着いたら、第三チェックポイント。ここでもう一度「かわいくアピール」を行うが、もう一つ。
 必須ではないが、ここで「自分の秘めたる想いを、山の上から叫ぶ」ことが出来る。例えば片思い中の恋人に向けて好きだと叫んだり、仕事の上司を呪ったり、など。ついでに叫んだ方がポイント高い。
 あとは、ふもとのゴールまで一直線。急斜面3kmに、平地2kmを走ってゴール。
 と、かなりめちゃくちゃなコースであるが、なぜかそれなりに人気があるマラソンだったりする。そしてさやかと杏子は、毎年のようにこのマラソンに参加していた。

「……とまあ、こんなむちゃくちゃなマラソンが行われるわけだが。今回の依頼は、これへの参加なわけだな」
 保険教諭の霞ヶ関。彼女が、君らに説明する。
「かの二人……友恵さやかに、安功杏子。彼女たちはこのマラソンに毎年参加しては競っていたのだが……安功が家の都合で、寮から引っ越しし、実家に戻らなくちゃならなくなってな。それを聞いたさやかは、今年このマラソンでの対決は最後になると知り、張り切って勝負に備えていたそうだ」
 体力つけるために毎日トレーニング。そしていつも以上に食べては、走り込み。当然コスプレ製作も忘れちゃいない。
 が、景気づけにケーキを食していたら(ついでにこれをダジャレに用いようとしてた)、それゆえさやかはマラソンに出られなくなってしまった。
 ホールごと買ってとっといた、好きなお店のケーキ。それを一切れだけ食べようと思っていたが、ついつい全部食べてしまった。
 ついでに言うと、購入したのは二週間前。ちょっと酸っぱい味わいだったが、まさか痛んでいるとは夢にも思っていなかったらしい。本人曰く「だってヨーグルトケーキみたいだったし、食べないともったいなかったし」
 かくして、お腹を壊した彼女は、それが原因でマラソン大会に出られなくなってしまった。
「……ま、正確に言えば『この腹下しが原因で足を捻挫し、マラソンに出られなくなった』だな。トイレに行き来してる最中に、足を滑らせ、そのまま転んで足を捻って……という事だ。まあ、原因はともかく、これですっかり落ち込んでなあ。『あのスケベポンコツ女と、最後の勝負が出来なくなるのは嫌だ。せめて……正々堂々と勝負したかったのに』ってな」
 で、さやかは無い知恵を絞り、考え……とある方法を思いついた。
 代理を立てて、マラソンで杏子に勝つ。
 で、負けた杏子に「悔しかったら、次に会う時にもう一度勝負よ!」と言い放つ。そうすれば、杏子の方もその屈辱を晴らさんとして、再戦の約束をするだろう。つまり……引っ越してしまっても、再会するための約束を交わすことが出来る。目を閉じ確かめずとも、交わした約束は忘れないのが杏子の良いところ。押し寄せた闇振り払って進むように、交わした約束を守る。さやかの方も、そういう約束を交せればこの先何があってもくじけない。多分。
「と言うわけで、コスプレマラソンしてくれる奴はいないか? コスプレしてマラソンに出るのは最低一人で構わんぞ。多く出てくれれば、それに越したことは無いが。コスプレ衣装をデザイン・製作するだけでもいいし、単にみんなの応援するだけでもいい。ともかく、この友恵さやかの依頼を受けてくれるんなら、とっとと申し出てくれ」


リプレイ本文

『さー、今年もやってきました。暇とコスプレ魂と無駄な体力とを持て余した学園の体育会系暇人ズの祭典、コスプレマラソン大会です!』
 そんな無礼なアナウンスが響く中。杏子の横に、何 静花(jb4794)と川内 日菜子(jb7813)とが立っていた。
「アンタたち、さやかの代役だって? アタシと勝負するための?」
「そうだ。そして……勝負事だから、優勝を取りに行く」
「……へっ、面白いじゃん」
 杏子の言葉に答えず、静花は自分のコスプレ……キョンシーのそれを完璧にすべく、額にお札を……「勅令随身保命」と書かれたお札を、ぺたりと貼った。
「こっちも、全力で挑むぞ!」
 と、暑苦しくも漢らしい熱血口調で、日菜子も会話に混ざる。彼女のコスプレは、全身タイツの真っ赤なヒーロースーツ。
「ヒーローらしくはないが……人助けは人助けだ。安功杏子! 私はあんたに……勝つ!」
「……ふうん。こっちもやる気十分って感じじゃんか。ま、いいぜ。さやかも何考えてこんな代役頼んだのか知らないけど……今年は乗ってやるよ。アンタたちとの勝負にさ!」
 自信たっぷりに、杏子は言い放つ。彼女のコスプレは、魔法少女。と言っても、最近流行りな「見た目はかわいいけどやってる事は殺るか殺られるか的バトルもの」なそれとは異なり、70年代によくありそうなファッションのそれ。
「……っと、そろそろ始まるな」
 言いつつ、杏子は手にしていた、食いかけの駄菓子を口に詰め込む。
『それでは! 位置について! 用意……スタート!……と言ったらスタートしてくださいね!』
 その言葉にずっこける一行。
 それを見てカラカラ笑う、観客席のさやか。
「……なんというか、このマラソンも色々と個性的ですね」
 さやかの隣りに控えている水瀬 藤花(jb7812)は、その言葉を発するのに若干の時間を要した。そして、その言葉とともに、彼女は昨日の事を思い起こしていた。

 イベント前。
 藤花の針仕事はほぼ完了。彼女の手により、コスプレ用衣装は完成。
「へえ、うまいもんだね」と、さやか。
「ええ。坊ちゃんのお世話で培った裁縫スキル。いかがでしょうか?」
「うんうん! 大したもんだよ! はー、私も参加できてればなあ。そうしたら……」
 と、心底残念そうな顔でつぶやくさやか。
「……皆さんにお任せしましょう。きっと……いい結果を導いてくれますよ」
 そんなさやかに、藤花は静かに……言葉をかけた。

「……さて、それでは向かうとしましょう」
 ランナー全員が走り去ったのを確認すると、藤花は鞄を肩にかけて立ち上がった。その鞄には、メガホンやドリンク、はちみつのレモネードなど、応援のために用意した様々なものが入っている。
「それでは、行ってきます」
 その言葉とともに、藤花は走り去った。

 自然公園の入り口、第一チェックポイントまでたどり着いた藤花は……そこで多数の脱落者が倒れているのを見た。
『んもー、女の子がそんな可愛くなさげなアピールするなんて、ダメダメのダメ子さんですよっ! めっ!』と、どう見ても男にしか見えない強面の巨漢審査員がダメ出し。
『次! 高等部1年9組! 何 静花選手!』
「……どうやら、静花さんの番のようですね」
 果たして彼女は、どんなかわいさアピールを行うのか。藤花は括目しつつその様子を見守った。

「……困った」
 忘れていた。静花は全力疾走でここまで走ったは良いものの……アピールを忘れてしまっていた。
 まずい。どうしたらいいか。上気した頬を掻きつつ……明後日の方向へと照れ隠しに視線を向ける。考えろ、考えろ……何でもいいから……!
『……合格!』
 え?
『うむ! 運動の直後、上気し頬を染めつつ、最小限の動きと仕草で萌えさせる! 実にスバらしい!』
「……まあ、いいか」
 随分といい加減な審査だが、ともかくチェック完了。早く次に向かうとしよう。キョンシー姿の静花はそのまま、走り去った。

『高等部1年5組! 川内 日菜子選手! 合格っ!』
「……よし!」
 こちらも、どうやら合格したようだ。『左手を腰に当て、右手を前にガッツポーズ』は、イマイチかわいさ……という点では微妙だが、審査員の一人が『俺の好みだ! カワイイから許す!』と、通してしまったらしい。
 が、それは直前の安功杏子も同様。彼女もまた、審査員の一人に気に入られたらしく、これまた通ってしまった。
「……この審査員たちには、いささか問題があるようですね」
 複雑な気持ちとともに、藤花はその様子を見ていた。

 公園内の池、その周辺の3km散歩コース。
 そこを一周した選手が、第二チェックポイントへとたどり着くが……。先刻の可愛さアピールと異なり、半分、否、それ以上の選手が『やりなおーし!』と、送り返されている。
 先刻以上にハァハァと息を切らせつつ、ダジャレチェックポイントの列へと並ぶ静花。
『次!』
「……ど、どこかの国のキングが怪我しました。『オー(王)痛い』……」
『その程度でダジャレと言えるかっ! 不合格! もっかい走ってこい!』
 静花の前の参加者、ゾンビ姿で息を切らせているその生徒が、そのまま散歩コースへと戻された。
「……ハァッ、ハアッ、ハアッ……へっ、アンタもここまで走ってこれたかい……」
 息を切らせた、杏子の声がすぐ後ろに。
「……ああ。言っただろう? 勝ちを取るとな」
『次! ダジャレを披露せよ! 疲労してても披露せよ!』
 審査員からのダジャレに答え、静花は一歩……審査員たちの前に進み出た。

「……まったく。普通、中国人に日本のダジャレなど解らん!」
 心中、静花はそうぼやいていた。
 ……いたのだが、律儀に彼女は予習していた。
 解らんが、だからといって勝負を捨てはしない。いざ、勝負!

「……値が張るネガをメガネが買う、奴は目がねぇ」

『…………』
 静花の疲労もとい披露したダジャレ。それは……静寂を生んだ。
 まるで、周囲の喧騒そのものが……静花の発したダジャレに吸い取られ、そのまま昇天したかのように。
『……イイネ!』
 と、その静寂を破る者が。
『「ネガ」という単語を、「値が」「メガネが」とひっかけ、それに「メガネ」と「目がねぇ」とを加えた下らなさ! これぞダジャレ! 合格!』
 と、審査員の一人が大絶賛。
「……いいのか、こんなんで」
 良い事にしとこうと、彼女は自分で納得し……そのまま次のルートに。
『次!』
「安功杏子、行くぜ! ……『友人がバインダーを忘れました。どうすれバインダー』」
『却下』
「……って審査早いなオイ! つーか早すぎだろ! これのどこがダメなんだ!」
『ん〜……強いて言うと、フィーリング? いいからとっとと一周してこい』
「なんで疑問形だよ! こんなの絶対おかしいよ!」
 などとぎゃいぎゃいやってる最中、日菜子がたどり着く。
「……川内、ダジャレ行くぞ! ……『ランナーにヘルメットは要らんなー』」
『却下』
「なっ……なぜだ!」
 ちょっと自信ありげだったのが、いきなりその自信を砕かれた。わけがわからないよ。
『なぜ? まあ、ダジャレに関係なく、ノリで決めちゃった、みたいな?』
 そのカル〜クいい加減な返答に怒りを覚えた日菜子だが、それより先に杏子が口を挟んだ。
「……なあアンタ。一緒にコイツら、いの一番でぶっ潰さねえか?」
「そうだな、スポーツマンシップにのっとって正々堂々と……と思っていたが、こんなんじゃあ、話は別だ」
 杏子の言葉に対し、まるで悪党へ処刑宣告するかのように、日菜子も同意する。
 そのただならぬ雰囲気に、審査員たちが慌てだした。
『……うっそぴょ〜ん。僕らに釣られてみた? 実は冗談です。お二人とも合格、この上なく合格。誰が何と言おうと合格。さー、次のチェックポイントまでレッツらゴー。いやあ、70年代風魔法少女コスかわうぃーねえ、ヒーローのコスかっこいいねえ』
 いきなり恥も外聞もなく、褒めちぎる審査員たち。
 絶対こいつら、後でとっちめてやると思いつつ、二人はその場を後にした。

「……おや?」
 この審査員たちの調子の良さにあきれていた藤花だが、日菜子と杏子を通した後、「ズルいぞコノヤロー!」「なにえこひいきしてんのよ!」「ダジャレ却下され走らされたオレらの立場はどうなる!」などと、並んでいたランナーたちからのブーイングを受ける様子が目に入った。
「一触即発……のようですね」
 とかなんとか思いつつ見ていたら、審査員が余計な事を言ったらしく、雪崩れ込まれ大乱闘。
 ぼてくりこかされる審査員たちを後ろに、藤花は日菜子らを追って先を急いだ。
 
 とかなんとかやってるうち、静花は坂道5kmを走り……第三チェックポイントに。そこには、やはり数名の審査員が待ち受けている。
 既にこの時点で、皆が皆、疲労困憊。最後に残った道しるべにすら気づかない状態。
「……確かに……少しばかり、息が、切れるな……」
 そして、静花もまた、疲労困憊しつつふーらふら。
「お疲れ様です。あと少しですね」
 追いついた藤花より、タオルを受けとりそれで汗をふく。
「ああ。あと少し、だな」
 差し出された飲み物を飲み干して、火照った体を内側から冷やし、気力を奮い立たせた。
『おう! 第三チェック受ける奴ら! ワシらん前で可愛さアピールじゃ! 泣けるのを一つ頼むで!』
 審査員の声に従い、静花は……前に。
「高等部1年9組。何 静花……行くぞ」
 彼女は可能な限り息を整え、両手を、右手の拳と左手の掌とを、親指を合わせて前に出した。
 俗にいう、「拳包礼」。そして、その挨拶とともに彼女は……静かに、笑顔を浮かべた。
『……キョンシーが、中国拳法の武の礼儀……この可愛さは泣けるで!』
 合格じゃーと、皆で大きく腕でマルを作る。
「……なんというか。本当にこんなんでいいのか? 審査員、えらくいい加減だが」
「……そうですね、本当に、なんと言うべきか」
 藤花の疑問を背に受けつつ、最後のコースを走り切らんと、静花は駆け出した。

「私、参上ッ!」
 多少遅れて、日菜子もまたアピール終了。
『合格じゃーっ! この可愛さに全米のワシらが泣いた! 特にワシが!』
「……ほんっと、今年の審査はいい加減だな。去年はまだまともだった気がしたけどなあ」と、いい加減さに杏子もあきれ顔。
「いい加減でも構わないさ! 私はこういうのがやりたくて来たのだ!」
 そして彼女も、ラストスパートかけんと走りだす。
「っと、やっばい。アタシも追わなきゃ」
 そう言う杏子の言葉を背に受け、日菜子も静花の後を追いつつ走り出す。
「いよいよクライマックス……優勝は誰でしょう?」
 静花と日菜子より先行しているランナーは、かなりの数。先頭集団は、もうゴール近くまで向かっているはず。
 静花、日菜子、そして、杏子。彼女たちのゴールを確かめんと……藤花もまた、駆け出した。

 そして。
 静花が二位、日菜子は三位、杏子は十位という結果を残し、マラソンは終了した。

「みなさん、お疲れ様でした。見事な走りでした」
 タオルと飲み物、はちみつ漬けレモンなどを藤花から振る舞われ、静花と日菜子、そして杏子はへばっていた。
「……まあ、悪くは無かったな」
「ああ! コスプレやダジャレはともかく、マラソンはいい汗をかいた!」
「はあっ、はあっ、はあっ……アンタたち、最後の追い込み……スゴかったぜ」
 息切れを起こしつつ、賛辞を贈る杏子。しかしそこへ、さやかが。
「……さやか?」
「勝てると思った? 残念! 負けでした! ……杏子、代理とはいえ、あんたの負けよ。リベンジしたければ……」
 そこで、ふっとさみしそうな表情をうかべるさやか。
「リベンジしたければ……また、勝負よ。次に会う時にね!」
 そうだ。もうさやかは杏子と離れ離れになってしまう。でもこうやって約束をとりつければ、またいつか会える。
 遠くへ引っ越してしまう杏子と、また会いたい。そのための道しるべ。
「? ……まあ、いいけどさ。じゃあ、次は来月の球技大会で勝負といくか?」
 しかし、頭にハテナマークを浮かべつつ、杏子はさやかに予想外の返答を。
「……えっ?」
「えっ? ……ってなによ! 杏子、あんた家の都合で寮から引っ越しして、実家に戻るって言うじゃない! だから、毎年やってるこのマラソン対決、来年は出来なくなっちゃうから……わざわざ代役立てたのに!」
「そうです。そう伺って、私たちは今回代役を引き受けたのですが……」
 さやかに続き、藤花が問いかける。続き、静花もそれに同意した。
「ん。私もそう聞いている。引っ越してお互い会えなくなるから、再会する約束を取り付けるために、代役を立てた、とな」
「……なあ、みんな。さやかが……本当にそんな風に言ったんだな?」
 呆れかえった口調で、杏子が静花に、皆に問うた。
「ああ。杏子が引っ越す、とな。転校するのか?」
「いや、アタシ引っ越さないし。っていうか転校するつもりないから」
「え?」今度はさやかが疑問を。
「さやか、何を勘違いしたか知らないけど。寮から引っ越すのは、建物の耐震構造に問題があったから、補強工事する間だけだぜ?」
「え?」
「家の都合で、実家に戻らなくちゃならないと聞いたぞ?」という日菜子の問いには。
「たまたま法事があったから、その間に一時的に帰宅するだけだって」
「それなら、転校する予定は別にないわけだな?」
 静花の質問に、大きくうなずく杏子。
「当然、いつも通り通う予定。寮は、工事終了後に戻る予定だけど?」
「え?」
 再三、同じく「え?」と動揺するさやか。
 そして彼女は、理解した。
 今年のこのマラソンでの対決が、別に最後ってわけじゃあなかった事を。
「……なんだよさやか、引っ越すって思い込んでたわけ? ばっかだなあ」
 杏子が笑うと、さやかは青い顔でその場に膝をついた。
「うん……バカだ、あたしってほんとバカ……川にいるのはカバ……押し寿司美味しいのはサバ……ハズレの馬は駄馬……ファーストフードはバーガー……」
 自分の勘違いのあまりに恥ずかしさに、絶望的な表情を浮かべたさやかは、ぶつぶつ言っている。
「って、おい、さやか! 気をしっかり持て! ……まったく、そこまでして来年もいっしょに勝負したかったのかよ」
 ずーんと落ち込んでいるさやかを後ろから抱きしめ、杏子は今度は優しく言葉をかけた。
「しょーがねえなあ。いいぜ、また勝負してやるよ。一人じゃ勝負できないし、一人ぼっちは寂しいもんな」
 こうして。
 さやかの勘違いから始まった依頼は、さやかの勘違いという事で幕引きとなった。
 一応その後も、二人の友情は続いているようである。

「ところで静花さん、優勝賞品は何だったんでしょう?」
「海外で行われる、ダジャレマラソンの招待券らしい」
 藤花の問いに静花が答えていた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅
新入生・
来島 凛樹(jb7070)

大学部4年235組 男 ナイトウォーカー
新世界への扉・
水瀬 藤花(jb7812)

大学部2年52組 女 鬼道忍軍
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅