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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/28


みんなの思い出



オープニング

 猫が鳴いていた。
 その足元に、死体が。
 ここは、北海道芽室市。死体を発見したのは、マルティーナ・堀江。「マル美」のあだ名を持つ彼女は、芽室第二高等学校のボランティア部(通称ボラ部)に所属し、暇な時には人助けのボランティアに精を出している。
 以前に血なまぐさい事件の発見者になった彼女だが、人助けをしたいと思う気持ちは変わらず、町内会と協力して人助けに東奔西走していた。
 が……町内会会長・飯盛とともに、一人暮らしの老人「赤尾牛次郎」の住まいを尋ねたら。
 床に倒れた赤尾老人と、まるで餌をねだるようにその体に乗っている猫の姿があった。

 マル美たちはすぐに、警察に連絡を入れた。ヒグマのような巨大な獣による鉤爪により、腹部やのどを抉られていたらしい。
 やがて、警察にて。飯盛や彼女は取り調べの末、解放された。
「赤尾のやつ……気の毒に」
 飯盛はそう言って、そして噂になっていた『奇妙な影』の話をしてくれた。
 なんでも数日前より、夜に車で走っていると。ヘッドライトや街灯の光を受けて、奇妙な人影めいたものが目撃されていた、というのだ。
 どれもが直立した人間に見えるが、大柄で、どこか禍々しかったという。その正体はいまだに不明ではあるが……それが目撃された場所は、後に何かが殺され、むごたらしい死体が残されていた。
「今までは、家畜や犬猫などペットの死体ばかりだったが……この『影』が赤尾の家の周りで見られたそうだから、心配していたんだよ。まさか、なあ……」
 飯盛はそう言って、残念そうにため息をついた。

 しかし、それから数日後。
 またもマル美は、新たな「死」に対面した。
 今度は、一人暮らしのお婆さん。猫好きだが、飼っていた猫に先立たれ、「もうこれ以上は飼わない」と言っていた彼女……来栖川津留見は、お気に入りの肘掛け椅子に腰掛けて死んでいた。
 死因は……獣の爪による外傷。またも巨大な獣の爪により、胸や喉を抉られていたのだ。
 そして、家の中には。小さな子猫以外には、動くものはいなかった。

 家を訪ねたマル美は、中から漂う血の臭いを怪しく思い……来栖川の死を確認してから警察に連絡した。
 警察も、二度目と言う事でマル美を怪しく思ったが、証拠もなく、何より外傷から彼女に殺害は不可能と判断。すぐに解放した。
 
「災難だったね、マル美ちゃん」
「いえ……それより、ちょっと気になる事が」
 引き取りに来てくれた飯盛に、マル美は言った。
「……なんだって?」
「はい。津留見お婆さんですが、『ネコは二度と飼わない』と言ってたのに、なぜかあの時……猫がいたんです。小さな子猫が」
 マル美からそれを聞き、飯盛はかぶりを振った。
「……まあ、あの婆さん。そうは言ったものの、心変わりしたんじゃないかな? 例えば、野良の子猫を見かけて拾ったとか」
「ええ、そうも考えられますけど……」
「まあ。立て続けにこんな事件に出くわしてしまったんだ。しばらくはマル美ちゃん自身もお休みして、ゆっくりしなさい」
 飯盛の言葉に甘え、ボラ部の活動はしばらく休むことに。

 しかし、マル美にはあの猫が妙に引っかかっていた。
 それに、もう一つ。マル美たちの姿を見た猫は、赤尾老人の時同様に……すぐに逃げてしまった。そのために、はっきりとは見えていなかったが……。
 子猫の口元には、赤い何かが滴っていた。

 気になるマル美だったが、三日ほど部を休み、四日後に再びボラ部の部室に。
「あ、部長。大丈夫ッスか?」
 副部長にして後輩の朽木が、声をかける。
「うん、平気平気! また今日から、ボランティアがんばるよ! 他の皆は?」
「そうッスね。一年は……」と、朽木が活動報告を。
「……と、こんな感じッス。それで、ですね……」
 報告を終えると、彼は声を潜めた。
「部長。今日、自分が行くボランティアの現場なんスけど……」
 一緒に、来てもらえませんか。そう告げた。

 朽木健一は中学時代には、運動部に所属していた。今ではボランティアに目覚め、ボラ部では力仕事関係を受け持っている。
「なんせ、人の手が足りないんスよ。他の部員に手伝わせるのはちょっと酷なんで」
「で、私なら酷じゃないわけね。はいはい、ひと肌ぬぎますか」
「ありがたいッス。後でなんかオゴるんで、よろしくッス」
 朽木とともに、マル美は今日の現場に。
 そこは、市の外れにあるさびれた商店街。そこの古書店の主人が高齢ゆえに店をたたむ予定だったが、人手が足らないとの事で、ボラ部に依頼が来たのだ。
「ここが、そのお店……?」
 しかし、マル美らが古書店「南国」の前に立ったら。
 そこには、強烈な「嫌な気配」が漂っていた。以前に、アパートに潜んでいた怪物を見た時のような。そして先日に、死体とともに「猫」を見かけた時のような。
「……!」
 朽木が、「それ」を見かけた。
 店の入り口。すぐそこに……死体があった。

「マル美嬢たちがすぐに警察に連絡し、そこからこの事件が明らかになった。死体はこの古書店『南国』の店主・北野介司。体中に残されていた爪痕から、死因は先の老人たちと同じと判明。喉や胸を、爪で抉られていた」
 依頼斡旋人が、事件の詳細を語る。
「で……マル美嬢は発見した直後。『猫』を発見した。三つの現場にいたのと同じ、『猫』がな。彼女はそれを見て恐れたが……もっとも恐ろしい事が、起こったというんだ。これは、朽木副部長も見ている」
 店内から出てきた猫……マル美が目撃していた猫と同じく、背中に特徴のある縞模様と、片眼鏡のような顔の模様。
 しかし……その「猫」は、「笑った」という。それも……マル美たちを見て、明らかに悪意ある笑いを、邪悪な笑いを浮かべた……というのだ。

「現在、古書店『南国』には『猫』はいない。しかし……最初に猫を見かけた『赤尾牛次郎』氏の家の周辺で、またも『奇妙な影』が目撃されている」
 そして、改めて家畜やペットの惨殺事件と照合したところ。これらの殺人事件もまた、ほぼ同じ手口で、同じ殺害方法で殺害している事が判明した。
「牛や馬、羊、犬猫。それらの動物が喉や胸に一撃を喰らい、内臓を抉られている。間違いなく、この殺人事件の犯人たちと同じだ。……間違いなく、こいつは楽しんでいる。殺戮という行為そのものを、な」
 赤尾老人の家の近くには、かつて倉庫として用いていた建物がいくつかある。『奇妙な影』は、そこで目撃されたらしい。
「お前さんたちの依頼は、この『奇妙な影』の持ち主……一連の殺害事件の犯人と思われる存在を見つけ、殲滅する事だ。正体不明でかなり危険な任務だが、やってくれるか?」


リプレイ本文

「……つまり、こういう事? 目撃されてから、被害が出るまでの日数は、今じゃ一週間に一度程度になったと」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)の問いかけに、担当の鑑識官はうなずいた。
「はい。最初の事件……というのが何かははっきりとは定義できませんが……最近の、明らかにこの「影」が犯人と思しき事件に関しては、そう結論付けて間違いないと思われます」
 警察署の一室にて、この事件に関する資料全てを広げ、撃退士たちは思案していた。
「獲物が人間になる直前に、獲物にされた動物は……こちらの小さな牧場で飼われていた、牛……って事で間違いはないんですね?」
 御門 彰(jb7305)が問いかける。彼女の手には、猟奇的な写真があった。
 ……無残な牛の死体。腹部が抉られ、内臓が抜き取られている。報告書によると、肝臓や腸などが乱暴に引きちぎられ、食い散らかされていたらしい。
 同席していたフローラ、そして月隠 朔夜(jb1520)もそれを見て、気分が悪くなった。
「……人間の犠牲者も、牛と同じく内臓を……抜かれていました」鑑識官が、更に気分の悪くなる事実を告げた。
 この事件、遡ると野良の犬や猫、飼われている犬猫や家畜などから始まったらしい。と言っても、普通の動物の仕業と思われていたため、こんな事件に発展するなどまったく予想できなかったとの事だ。
 しかし、普通の動物がこんな事が出来るわけがない。こんな事件を起こせるわけがない。もし起こせるとしたら……それは人間か、あるいは……天魔。
「凶器は? どんな凶器でこんな事をしでかしたのかはわかりませんか?」
 御門の質問に、また別の写真が差し出された。
「凶器は、非常に鋭利な『何か』としかわかりません。この痕跡を見ていただくと分かりますが……『刃物』じゃあないです」
「なんですって?」
「切断面から、金属の反応がありませんでした。加えて、切断部の形状から、もっとも近いのは『爪』ですね。動物の『爪痕』に最も酷似している痕跡でした。しかし……そうなると、おかしい点がいくつかあります」
「というと?」
「これが爪痕だとしたら、大きさから考えると、該当する動物は『熊』くらいしか考えられません。ですが……この地域には、クマの生息地域からは離れています」
「じゃあ、動物園から逃げたとか、でしょうか?」
 朔夜の言葉に、鑑識官はかぶりを振る。
「いいえ、すべての動物園やサーカスなどをあたりましたが、それに該当する事件はありませんでした。個人がこっそり飼っているものが逃げた線からも調査しましたが、そちらも空振りで。それに……もう一つ」
 鑑識官が、顔色を青くしながら、言葉を紡ぎ出す。
「犠牲者たちの遺体の傷痕は、どう調べても、熊のそれとは合致しないのです。熊の爪では、こんな傷痕は出来ません。仮に熊、または未知の猛獣の仕業だとしても……」
 犠牲者たちの一部には、臓器や手足を、『掴んで、もぎ取った』痕跡もあった。と、鑑識官は付け加えた。

 ハウンド(jb4974)は、発見したそれを見て……異様だと思った。
 被害者宅周辺、その足跡を探し、猫を探し、今日は成果なしか……と思った矢先。
 とある空き家の片隅で、新たな現場、新たな犠牲者を発見した。
 それは、犬。そして……その犬を散歩させていた、飼い主。それらのなれの果て。
 犠牲者の遺体は、原型を留めていなかった。蠅がたかり、腐敗臭がするところから……おそらくはあまり経過していない。死後二〜三日といったところか。
 が、ハウンドは足跡を発見し……それを見て驚愕した。
 血だまりの中を、何かが踏んだ跡があったのだ。それは途中まで足跡を残していたが……。
「なんだ、この足跡? 最初は、こんなに大きいのに……急にここで、小さくなってる?」
 しかも、小さくなったその足跡は……ごく普通の、猫のそれだった。

「うーん……」
 スピネル・クリムゾン(jb7168)は、猫を何匹も追いかけてみたものの……その全てが空振りだという結果に陥っていた。
「こんな可愛いナマモノが、人を襲って殺す……なんて、どうも腑に落ちないなあ」
 堕天使たる彼女は、人間界の常識は若干疎い。しかしそれでも、こんな小さな動物が、人を襲い、ましてや食い殺すとは思えずにいた。
 さっきも一匹を捕まえて、抱きかかえてみたのだ。暴れはしたものの、それほど危険な存在だとは思えない。
 マル美らからの聞き込みもしたが、彼女らの証言を得ても、疑問は解消されず。
「……他の人たちは、どうなのかなー……って、電話? ハウちゃんから? もしもし……」
 そしてそこで、彼女は知った。ハウンドが新たな犠牲者を見つけたと。

「……ともかく、『笑う猫』とやらは一応、片がついた……と見て良いんじゃないかしら」
 警察署にて。アサニエル(jb5431)は集まった撃退士たちに、自分の調査した内容を述べていた。
 ハウンドが新たな犠牲者を発見し、警察が急行。調査の結果、それは新たな『影』の犠牲者だと認定された。
 そして、ハウンドの事を聞き、スピネルとアサニエルは警察署に戻り、自分たちが調べた事を説明していた。
「あたしは、大外れー。おっかけた猫ちゃんたちは、みんな怪しいトコはなかったよー。でも、アサちゃんから連絡が入って、『笑う猫』ってのを見つけたって聞いてさー」
「というと?」フローラが、スピネルの言葉を聞いてアサニエルにたずねた。
「簡単に話すと、こういう事よ」

 アサニエルも現場となった場所を調査していたが、ある場所に訪れた時……、野良猫がたむろしているのを発見したのだ。
 場所は、空き家。ボロボロに朽ちた木造平屋のそこは、納屋か住居かわからないほどに朽ちていた。が、その玄関先には数匹の猫が転がって丸まっており、互いに身を寄せ合っていた。
 その中に……奇妙な猫の姿を見た。それは……マル美の証言にあった「背中に特徴のある縞模様」「片眼鏡のような顔の模様」を有していた。
 そして、その猫は、確かに不自然な笑いを浮かべていた。両の口角を上げ、歯をむき出しにして、まるでトランプのジョーカーのような笑い顔を……はっきりと、アサニエルに向けていたのだ。

「それから、どうなったのですか?」
 朔夜の言葉に、アサニエルはかぶりをふった。
「……結論から言うと、そいつは『ただの猫』だね。そいつに対し『異界認識』をかけてみたんだが、全く反応が無かった。そればかりか……その猫は、あたしに近づいてきたんだ」
 そして、アサニエルはその猫に対し……当初抱いていた恐怖と警戒心が消えるのを感じた。
 とってかわったのは、同情。憐れみ。
「その猫が浮かべていた笑い顔は……顔に受けた『傷』のせいだったんだよ。唇と、両の頬の肉が削がれ、まるでニヤッと笑っているかのようにさせられていたんだ。そして……背中の縞模様ってのは、爪による傷痕だという事も見て取れた。その猫は……邪悪な笑いを浮かべてたんじゃあない、助けを求めてたんだと思う」
「……ひどい、わね」
 しばしの沈黙ののち、フローラが、口を開いた。
「その猫も、被害者だったんだね。だったら、なおさら……真犯人を突き止めないと!」
 その事には、反対する者などいない。しかし……突き止めるにしても、どうするべきなのか。どこを探し、どうやって追い詰めるのか。
「それなんだけど、ちょっといいかな」御門が声をかける。
「『法則』を発見しました。これに沿って仕掛ければ……『影』を待ち伏せできるかもしれません」
 朔夜が、御門に続き言った。

 その日の夜。
 撃退士たちは、赤尾老人の家の裏……農場の倉庫、その付近に待機していた。
 フローラ、御門、それに朔夜は、警察で見せられた資料と、『影』の目撃地点。それらを突き詰めて……一定の「法則」を見出していた。
 法則その1:赤尾老人宅での事件を除き、全ての事件現場をつなげると……歪であるが、円になる。
 法則その2:そして、赤尾老人宅は、その縁の中心部に位置する。より正確に言うならば、赤尾老人宅の裏……すなわち、この無人の倉庫が中心になる。
 法則その3:さらに、「影」だけが見えて、事件が起こらなかった目撃例を吟味すると、それらはこの倉庫から、事件現場の途中で目撃されている。つまり、ここから現場に向かい、戻る。その途中で目撃されたものと思われる。
 色々と吟味し、推理し、考えた結果……ここが、「影」の潜む場所ではないかという結論に達したのだ。
 ならば、ここを見張っていれば……必ず、何かがつかめるはず。
 希望的観測はあったが、期待はしていなかった。が、皆は冷えた体をもみほぐしつつ……待ち続けた。
「? ……あれって」
 最初に見つけたのは、ハウンドだった。
 彼が見たのは、猫が街灯と星明りに照らされ、倉庫の近くをとぼとぼ歩いている様子。だが、途中で……何かに気付いたかのように、後ろや周囲を見回した。
 ハウンドに続き、他の皆も猫に、そして異変に気付く。
「あの猫……あれ、『笑う猫』だよ」
 アサニエルが、そうつぶやいた。確かにそれは、顔を傷つけられ、笑っているように見せかけられた猫。
 だが、猫は何かにおびえ、追われている様子。すぐに追っていた「何か」が、街灯の明かりの下に現れた。
 何の変哲もない、ただの黒猫。それが、笑う猫を追っていた。
 二匹の猫は、倉庫へと入り込んだ様子。しかし、すぐに……。
 二匹が争う、否、殺しあう音が響いた。猫の威嚇する声、それに、凶悪に何かをひっかく音。それはすぐに止み……次に響いたのは、苦しげに、悲しげに、猫が鳴きうめく声。
 そして……闇の中で、何かが、「猫でない」何かが、唸り吐息をもらす音。
 吐息と唸りは、大きく、強く。小さな猫が出せるものではない。
「……(こくり)」
 ナイトビジョンを装着したハウンドが、仲間たちに激しくうなずいた。
 そして。
 世界が、光に包まれた。

「罠にかかったのは……どっちだと思う?」
 嘲るように、スピネルが「そいつ」に問いかける。
 倉庫内部に仕掛けられていた、ライト。
 それが点灯し、「影」を映し出していた。そこにいたのは、ゴリラ並にばかでかく、体は墨のように真っ黒な肌をしていた、文字通りの怪物だったのだ。
 体型も、ゴリラのようだと言ってもいいだろう。しかしゴリラと異なり、両腕は太いだけでなくしなやかで、両手の指に付いているのは、長く鋭い凶悪な鉤爪。無毛の皮膚に、猫科の獣のような顔。むき出した口からは、牙が。手足の筋肉はさながら鞭のように盛り上がっており、身体を力強く見せていた。
 そいつが、吠えた。それが戦闘開始の合図となり、撃退士たちは駆け出した。

「いっけぇっ! プルガシオン!」
 プルガシオンの書を、飛び出し上空に飛び上がったスピネルが放つ。放たれた光の矢が、空中から雨のように降り注ぎ、「影」の身体を貫く。
 が、「影」はあまり堪えていない様子。逆に駆け出すと、手近な獲物とばかりに撃退士たちの一人に、……手刀を構えた御門へと襲い掛からんとしていた。
「……!」
 が、御門も同じく、「影」へと襲い掛からんとする前に、己が襲い掛かった……手刀を構え、懐に飛び込んだのだ。
 御影の右腕が、毒々しいオーラに包まれる。それをすれ違いざまに……撃ちこんだ。
「影」は、吠えた。そして、そのままその両腕を振りかざし、まるで何もないかのように、別の目標へと迫る。
 カタラクトクレイモアを構えたハウンド、ネイリングを手にした朔夜へと向かったのだ。
「「!」」
 「影」の一撃が、地面をえぐる。強烈な腕の一撃と、指に生えた鋭い爪。横ざまに転がったハウンドと朔夜とは、喰らわずに済んだその一撃を喰らわなかった幸運に感謝していた。
「Schneegeist!」
 クロセルブレイドを手にしたフローラが、すかさず一撃を放つ。練りだされた式神が、「影」の身体に絡みついた。
「影」はそれを受けつつも、更なる進撃を放たんと思ったその時。
 不意に、その動きが鈍り始めた。
「……先刻の『毒』が効いてるわ! さあ、はやくとどめを!」
「はい! はあっ!」
 御門の声が響き、朔夜の剣・ネイリングの一撃が「影」に食い込む。どす黒い血潮が、気味の悪い「影」の身体から噴き出した。
 が、「影」は中々くたばらない。体の動きが徐々に鈍り、力が失われつつある。
「あーら……よっと!」
 続き、ハウンドの攻撃が。カタラクトクレイモアの刃が、怪物の脇腹を切り裂いた。
 悲鳴のようなうめきが、怪物から響く。
「逃がさないし、そんな簡単に逝かしてあげないんだよ?」
 にやりと微笑み、スピネルは、堕天使は……手にウォフ・マナフを、白色の大鎌を取り出し急降下!
「影」は、最後の悪あがきとばかりに、スピネルへとその腕を振り上げ……。両者、すれ違った。
 しばしの、沈黙。そして、スピネルは力尽きたかのように、地面に倒れこんだ。
 が、すぐにその後を追い、怪物もまた倒れこむ。その体には、肩口から袈裟懸けに、大鎌による一撃が撃ちこまれていたのだ。
「……首を、狙ったんだけどなあ。とっさによけるとは、悪あがきにもほどがあるよ」
 しかし、怪物の悪あがきもそこまでだった。それは倒れると、やがて……その亡骸に変化が訪れた。
「?」
 全員が、その様子に目を奪われる。それは、小さく縮み、やがては……撃退士たちの前に、おそらくは本来の姿となって、その姿を皆に突き付けた。
 それは、猫だった。ただの、ごく普通の、小さな猫。そこにあるのは、それ以外の何物でもない、猫の死体だった。

 その後、追加調査が行われ、事件は終了となった。
「この事件……つまりは普段猫に化けていた『影』が、夜にはあの姿で襲い掛かっていた、という事だったんですね」
 警察署から出つつ、御門が呟く。
「ええ。普段は猫に擬態し、殺す獲物を探し、そして……夜になるとあの姿に戻り、殺戮していたのでしょう」と、朔夜。
 あの怪物……「影」かなにか知らないが、少なくとも殺戮するためにだけ存在していたのは事実。そして、自分たちはその殺戮を、やめさせる事ができた。
「これで……犠牲者の人たち、動物たち、とりわけ猫たちの供養になれば、いいんだけどな」
 アサニエルが、静かにつぶやいた。

 その後。「影」が目撃される事は無くなり、そして猟奇的な事件もまた、起こらずにいる。
 赤尾老人宅、およびその周辺地域は、今もなお無人のままである。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
衝華に問う・
月隠 朔夜(jb1520)

大学部6年2組 女 阿修羅
桂の大切な友人・
ハウンド(jb4974)

高等部1年1組 男 阿修羅
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
瞬く時と、愛しい日々と・
スピネル・アッシュフィールド(jb7168)

大学部2年8組 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍