:『ご主人様、自己紹介にゃりん♪』
「この日が来るのを夜も眠れず昼寝をし、三度の食事ものどを通らず六度の夜食とおやつしか口にしてないくらいワクテカしてますよ〜」
「……あー、皆さんとりあえず初めまして。テキサス社長代理の馬場聡子でーす。で、こちらの万年欲情してる自称美人秘書は緋勇逸子。美少女に見境ない危険人物。で、こちらの怒りっぽいのがツンデレ生徒会役員火遊いつみさん。そこのちんまい貧乳下級生が肉好きコスプレイヤーの大田鉢小鳥さん。こちらの秘書同様に美少女好きだそうで。以上自己紹介終了っと」
「怒りっぽいツンデレって何よ! べ、べつに怒ってなんかないんだから!」
「うわー、いつみ先輩ってばテンプレなツンデレ行動取ってますねー。あ、わたしが大田鉢小鳥です。肉とラーメンとコスプレと美少女のおっぱい好きなので、皆さん覚悟……もとい、気を付けて下さいね?」
なんの覚悟なのか、というか何に気を付けろというのか。そういう疑問が参加者たちの脳裏に走った。
「……自己紹介。……します。……染井 桜花(
ja4386)。……よろしく」
「ん〜、言葉少なの美少女ですね〜♪ その和風な佇まいに、お姉さんキュンとしちゃう♪」
「逸子さん、お姉さんって年齢ですか。トシ考えて(がきっ)……大股開きの恥ずかし固めはやめて〜」
「はじめまして。わたくし、斉凛(
ja6571)と申します。今回はよろしくお願いします」
「うわぁ……小さくてかわいい……あっ、えっと、火遊いつみです。今回はよろしくね」
「ボクは、綾(
ja9577)。メイド知識なら誰にも負けないわ。おもてなしは得意なの。よろしくお願いします」
「きれい〜♪ ふわふわツインテ素敵〜♪ それにおっぱい! あの……ちょっとだけ、いいですか?」
手をわきわきさせて迫ろうとした小鳥を、逸子が首根っこをひっつかんで止めた。
「小鳥ちゃん、ちょっとだけ何をするつもりだったんですか? まったく……」
「だって〜、かわいいし美人さんだし、おっぱい大きいし」
「ダメです。……そういう事は、後で一緒にこっそりお願いしましょう?」
逸子と小鳥のやり取りを聞いて、ちょっとだけいつみと綾は引いた。訂正・かなり引いた。
「あ、こんにちは、ですよ? 榛原 巴(
jb7257)と、いいます、です♪」
「うわっ。黒髪ロングに金の瞳とは、これまたグッとくる美少女さんですね♪」
「そうですねえ♪ メイド服来たらお姉さんと一緒に……ふがっ」
小鳥とともに想像し、その想像だけで鼻血を流す逸子。こんなのが社長秘書やって大丈夫か「テキサス」はと、いつみはいらぬ心配をしていた。
「えっと、俺は、高瀬 颯真(
ja6220)だよ。今まで女装はしてきたけど、メイドさんは初めてなんだ。気合入れて頑張るよ」
「あーもー、また男ですか! ジンギスカンの時もそうだったけど、なんでいつも……」
「「クロスラリアット!」」
小鳥と逸子の同時攻撃を受け、聡子は沈黙。
「まったく、聡子さんは『男の娘』のスバらしさを知らないので困ります」
「そうですよねー逸子さん。高瀬さん、当日はよろしくですよ? わたしも、男の娘メイド楽しみにしてます!」
ふんすと鼻息荒い小鳥の様子を見て、不安を隠しきれないいつみであった。
:『旦那様、当日が来てしまいました……』
当日。
「テキサス」が用意したのは、とあるビジネス街近くのレストラン。内装も色々と手が加えられ、どこからどう見ても秋葉原の一角。あちこちにはフィギュアが飾られている(うち数十点は聡子と逸子と小鳥の私物)。
その中心部には豪奢なテーブルがセッティングされ、そして……。
今回のゲスト二人が、そこに案内されてきた。
「見てママ、すごい! 『魔法少女まどみ☆マジミ』のフィギュアよこれ! うわー、これってfogmaじゃない! いいなー、欲しいなー」
そばかすの顔に眼鏡をかけた少女が、母親とともに部屋に入り、早速飾られていたフィギュアに目を奪われていた。年齢は12〜13だが、その身長は凛や小鳥より若干低い。そして体型もまた、凛や小鳥と同じようなスレンダーなそれ。
しかし顔立ちは悪くはなく、ちょっと努力すれば十分魅力的になる顔つきをしていた。
「……うーん、ママはこっちの『魔砲少女リリック・なのはな』のにゃんどろいどが好きね……。それにしても、こんなキュートな女の子が一杯なんて、日本って素敵」
そして、顔立ちが似ている女性が、少女とともにフィギュアに夢中に。20代中盤に差し掛かっているとの事だが、母親にしては若々しい雰囲気で、娘と並び立つと年齢の離れた姉妹のよう。
サリー・フーバーと、その母親マリリン・フーバー。
二人とも期待感マックス状態。そして、そんな二人の元へと、メイド服姿の少女たちが入って並び、ご挨拶。
「「「「お帰りなさいませ、お嬢様、奥様!」」」」
一瞬、母娘の時間が止まり、固まった。
「……すごいすごいすごい! 本物のメイドさんだーっ!」
そして、そのフリーズからいち早く解けた娘、サリーがまずは目を輝かせ、メイド少女たちに駆け寄る。
「Return to My Lady and young Lady」
そして綾が、続けて付け加えた。
「……スゴイわ、楽園ってここに存在したのね! ヘブンよ、パラダイスよ、これが日本というものなのねっ!」
娘同様に、否、娘以上に目を輝かせ、マリリンもまた駆け寄る。
どうやら、第一印象は大成功。
しかし、これからが本番。ここでポカったら、報酬が手に入らない、会社的に利益や評判がダウン、何より……メイドのスバらしさが伝わらないっ! その場に揃ったメイド少女たちは、色々な意味で気を引き締めた。
:『マスター、それではおもてなしを開始します』
「Hello! A beautiful my lady, a pretty young lady!(こんにちは、美しい奥様、かわいいお嬢様!)」
テーブルに着いた母娘。そのテーブルを臨む前に、純白メイド服姿の少女が現れた。
「magical witch girl maid RIN-pappa, obtrusion now♪(マジカル魔女っ子メイド凛ぱっぱ、ただいま推参なりよ〜♪)にしししし♪」
凛の頭にはネコミミ、お尻からは猫しっぽ。手にしているのはマジカルステッキ。それを手にして、ふわふわな純白メイド服のスカートをちょこんとつまみ、くるりと回ってポーズ。
「にしししし♪」と、チエシャ猫風に笑みを浮かべると、母娘は歓喜の笑顔。
「This is a Japanese thing "kawaii"! I have started magic! What should we do?(こっ、これが日本の『カワイイ』ってものなのねっ! もう魔法にかかっちゃったわっ! どうしましょうっ!)」
と、マリリンはいささか興奮気味。
「Oh! A mom calm down. ……but it is good!(もー、ママったら落ち着いてよー……でも、いいよねー)……とテも、カワいい、デス」
サリーもまた、目を輝かせる。
「おおっと、さすがは凛さん! わたしも負けませんよ!」
などと、コスプレイヤーの対抗心を刺激されたのか。小鳥も出てきた。
「ゲソゲソゲソリン、じっけったー♪ 愛の切り札、イカエース!」
「I know it!.Is it an additional soldier of this year?(知ってるわそれ! 今年の追加戦士でしょ?)」
どうやら、サリーは元ネタである少女向けアニメを知っているようだ。
「ほほー、小鳥たんもなかなかやりますな」小鳥のコスプレを見て、凛もまた満足げに微笑んでいた。
:『奥様、お茶でありますよー』
「……失礼、します。……お茶を、お持ち、しました。……お嬢様、奥様」
メイドの桜花が、紅茶を盆にのせてやってきた。
じっ……と、赤い瞳がサリーとマリリンとを見つめる。
「w…what……?」
戸惑っているマリリンだが、サリーはすぐにそれに反応した。
「Mom,this is coo-dere. Because she is shy, I become just taciturn. Therefore I am misunderstood.But she has a very hot heart though it is cool(ママ、これはクーデレって言うの。彼女は恥ずかしがりやだから、つい無口になっちゃうから誤解されちゃうのよ。でも、クールだけどすごくホットな心を持ってるのよ)」
いささか誤解しているものの、好意的に解釈したサリーは、桜花へと言葉をかける。
「You are very cool! At all danger KUNOICHI !(あなた、とてもクールね! まるでデンジャーなクノイチだわ!)」
「……さ、サンキュー」
言葉の意味は良く分からなかったものの、褒められたようだ。サリーの言葉にこそばゆく感じつつ、桜花はテーブルへウェルカムティーを……マリリンへはレモンティー、サリーに甘めのミルクティーの入った小さなポットを、カップとともに置いた。
そして、微笑みを向ける。サリーはそれに、満面の笑みで返した。
「Excuse me. My lady, a young lady.(失礼します。奥様、お嬢様)」
入れ替わり、女装しメイド姿になった高瀬が一礼し、カップに紅茶を注ぐ。
砂糖を入れると、
「ミルクを注ぎますので、いいところで『にゃん♪』と言ってください」
「NYAN?」
再び、不思議そうな顔の母親に、サリーは色々と説明した。
:『お嬢様、ご奉仕しちゃうぞー』
「ふう、こちらの料理はこれでいい……かな?」
綾は、一息ついた。桜花と合わせたメイド服姿で、パンプキンポットパイを調理していたのだが、もうじき出来上がる。
付け合わせのスペアリブは、前日から仕込んでおいた自信作。
逸子と小鳥は、そんな二人の作業を手伝っていた。
「綾さん、今お二人は、巴さんのサラダをお召し上がりになってますよ。サリーさんは野菜嫌いだそうですが、とても喜んでます」と、小鳥。
今、ゲストをもてなしているのは、凛と巴。
「行くよ、ともたん」
「はい、ですよ。凛、お姉ちゃん」
運んできたサラダをとりわけ、和風青じそと、洋風シーザードレッシングの二種類のドレッシングをふりかけ、和えつつ歌いだした。
「アリス、と、チェシャ猫、歌えば、サラダも、美味しく、なる♪」
「魔法の歌歌えば、サラダさえも、美味しくなりよ♪」
こうして出されたサラダをマリリンが一口。
「It's good. If such a maid always feeds you though it is meat dishes, I seem to become a vegetarian(おいしいわー。いつも肉料理だけど、こんなメイドさんが食べさせてくれるなら、ベジタリアンになりそうよ)」
特に彼女は、青じそのドレッシングが気に入った様子だった。
パンプキンポットパイも好評、そして……。
「はい、お待たせしました♪」
オムライスが盛られた皿を、綾はワゴンに乗せて運んできた。彼女の頭には、ネコミミが装着されている。
オムライスは、皿にソースを敷き、その上に本体を乗せているというスタイル。
スパイシー風味のオムライスをマリリンに、トマトソースのオムライスをサリーの前に置くと、ケチャップを取り出した。
「それでは、美味しくなる魔法をかけます♪ ご一緒にお願いします」
サリーには綾が、マリリンには高瀬が、ケチャップをセッティングする。
その周りに、桜花や凛、巴、それに逸子と小鳥、いつみに聡子も集まる。
「萌え萌えにゃんにゃん♪ 萌えにゃんにゃん♪」
皆でそう言いつつ、両手で猫の仕草を。
そして綾と高瀬は、オムライスにハートマークを描いていった。
「I really eat an omelette with rice in this way in Japan. It became somewhat fun(本当に、日本ではこうやってライス入りのオムレツを食べるのねえ♪ なんだか楽しくなってきちゃったわ♪)」
と、マリリンも萌え萌えにゃんにゃん♪ ……と、楽しそう。
心底楽しそうな二人を見て、この依頼を受けて良かった……と、綾は思った。
:『感謝します、我が主よ』
「ゴチソウ、サマ、デシタ」
二人とも、オムライスをいたく気に入ったようで、皿は見事に空に。
「Is good, NEKOMIMI. I want to follow me(良いなあ、そのネコミミ。私もつけてみたい)」
サリーの言葉を聞いた綾は、聡子といつみに目くばせして、用意させておいた「衣装」のワゴンを運ばせた。
「では、着替えて見ますか?」
立てたついたての向こうで、サリーは着替え終わった。
「……っっきゃー! かわいーっ!」
小鳥が騒ぐ。実際、綾もまた目を奪われていた。
着てみたのは、ミニスカートでフリル付のメイド服。真っ白なフリルのエプロンが、実に良く似合っている。頭にはメイドカチューシャとともに、ネコミミが。
「にゃ、にゃ〜」と、猫のまね。逸子はそれを見て、後ろの方で悶絶していた。
「よく、お似合い、です♪ サリー、お嬢様♪」
巴が嬉しそうに微笑む。お世辞でもなんでもなく、本当にサリーのメイド姿は似合っていた。かけている眼鏡がまた、その魅力を増しているかのよう。
「ど、どうかしら?」
マリリンの方も、かなり似合う。丈の長いメイド服に、同じくネコミミ。
「にゃ〜」と、鳴きまねしてみると、サリーもまた大喜び。
その後。
巴の作った、ミニ和風パフェ。綾の作った葛餅。そして……桜花のフルーツパフェと続き、メイドさんフルコースは、ここに終了した。
「オナカ、一杯。ゴチソウ、サマ、でした」
つたないが、最高の言葉とともに、その日の締めくくりとなった。
ハロウィンクッキーやジャック・オ・ランタンの団子、クモの巣タルトなどをもらい、サリーはとても嬉しそう。
「Really thank you today. It was a very comfortable day. I was able to know how a Japanese maid was wonderful(本当に、今日はありがとう。とても気持ちのいい一日だったわ。日本のメイドがいかに素敵なのかを、知る事もできたし)」
全員に握手しながら、マリリンはひたすらお礼を。
「But……Are you a boy? Why is it the figure of the girl?(でも……あなたは男の子、よね? どうして女の子の姿なの?)」
が、高瀬にのみ、再三不思議そうな顔をマリリンは浮かべた。
「mom. He is a 『daughter of the men』.Like that is one of the maid culture again, too(ママ。それは彼が『男の娘』だからよ。そういうのもまた、メイド文化の一つなのよ)」
というサリーの言葉も、最後までまだちょっと理解しきれなかった様子。とはいえ……、見送られ、「I‘m waiting for next return、行ってらっしゃいませ、奥様、お嬢様」の言葉をかけられた時の二人の幸せそうな顔は、その場にいた皆の心に深く刻まれた。
:『それではお嬢さま、またの機会に……』
後日。「テキサス」の設けてくれた接待の場は素晴らしかったと、改めて感謝の意が送られてきた。
「しかし、困った事が一つ起こってしまったよ」と、トビー・フーバー本人から。
「妻と娘が、また日本に行きたがってねえ。だが……もしアメリカに来ることがあれば、こんどは妻と娘とがおもてなししたいと言っている。よかったら、来てくれたまえ」
送られてきた写真には、メイド服姿のマリリンとサリーとが写っていた。