●一食・自己紹介!
「さて、我らがラーメン同士たち! 自己紹介、いってみよーかっ!」
病室にて。ハイテンションな金之助が、ベッド上から皆へと声をかける。
「はいっ! 道明寺 詩愛(
ja3388)です。 ラーメンは私も大好きです! よろしくおねがいします!」
「うむっ! 澄んだ塩ラーメンスープのごとき、礼儀正しい美少女だ!」
「僕は、レグルス・グラウシード(
ja8064)です。ラーメン道、すごいんですね。尊敬します」
「君もまた、博多トンコツラーメンの麺がごときハンサムボーイだねっ!」
「神埼 晶(
ja8085)です。すごく面白そう! 私もお店、手伝いますよ!」
「おう、面白いぞ! 君のような頼もしい美少女がいてくれれば、味付け玉子トッピングと同じくらい千人力さ!」
「え、ええっと……久遠寺 渚(
jb0685)です。よ、よろしく、お願いします」
「ほほう、白髪ねぎがごとき可憐な乙女だねっ。ネギのように、ラーメンを引き立ててくれたまえ!」
「美森 あやか(
jb1451)と申します。……お手伝い出来れば、と思いまして……。これ、お見舞いです」
「おおっ、カップ麺! その心遣い、スープのダシのように感謝するよっ!」
「あたくし、フィンブル(
jb2738)ですわ。らーめんというものを良くは知りませんが、興味津々ですの。お手伝いさせていただくわあ」
「これはまた、味わい深いチャーシューのごとき美女だなあ! 抱いた興味を満足させてくれるぞ、ラーメンってやつは!」
と、やたらと興奮気味で訳のわからん賛辞を述べる彼に、今回の話を持ってきた学園教師・大伽鉢が言葉をかけた。
「……おい金の字。とりあえず落ち着け。また腰をやられるぞ」
「大丈夫大丈夫、みんなの顔を見たら麺のコシ同様に復活……(ぐぎっ)……ちょ、ちょっと待て……」
ほーれいわんこっちゃないと、大伽鉢は呆れ顔。
やがて落ち着いた金之助は、皆に向き合った。
「……と、とりあえず、説明をさせてくれるかなっ」
●二食・フェス開始!
ってわけで、一週間と数日後。フェス当日。
商店街の一角に設けられた、特設会場。その一角に、金之助の「田村ラーメン」のブース。そしてその隣には、詩愛の「ラーメン研究会」のブース。
詩愛自身は客引きと列整理。そして金之助のラーメンとともに、自分の研究会のラーメン……『特製!エビカニ味噌ラーメン』をも供し、それらを以て「キング・オブ・ラーメン」を目指す。
「……せっかくの参加です。本気で優勝取りにいきますよ!」
ぐっと拳を握りしめ、詩愛は決意を新たに。
「お釣用の小銭はっと……よし、OK。みんな、用意はいい?」
レジはないが、電卓はある。経理担当の晶は、制服にエプロン姿で皆に声をかけた。
「晶さん、えと……こ、こちらは用意、できてます……!」調理担当の渚が割烹姿で、まな板と包丁を用意しつつ答える。
「……こちらも、準備完了です……」調理・給仕担当のあやかもまた、同じく割烹着と三角巾姿でそれに返答。しかし少しばかり、緊張した口調。残飯用の大きなポリバケツや、設置された流し台の用意も整っている。
「給仕係。いつでもOKですわよ」
「僕も、給仕の準備はできてます……がんばりましょう」
フィンブルとレグルスもまた、見たところ準備はできている様子。
いよいよ始まる。一週間ちょっとではあるが、金之助から、ラーメンの手ほどきを叩きこまれた。それを無駄にはしない!
他のブースの人たちも、その想いは同じ様子。そう、ラーメン四天王の四名も。
多くの人々の想いが交錯する中、アナウンスが響いた。
『それではこれより、商店街ラーメンフェスティバル。開始します!』
●三食・フェス開催中!
「はぁいお客さん、こちらよお。……ええっ、ふーふーして食べさせて? はあい、ちょっとまっててねえ」
「味噌らーめん三つ、おまたせしましたー。お冷のおかわり? 少々お待ちくださいー」
「はい、食券です。こちらお釣り……はい、こちら五名様ですね」
男性客が、フィンブルの色気たっぷりな給仕に鼻の下をのばし、女性客が、レグルスの振舞いに黄色い声を上げる。それを見つつ、晶もまた食券の支払いに大忙し。
フェスのルールで、ラーメンの料金は食券式の先払い。しかし、それでも思ったより人数が多い。電卓を叩いてお客をさばくだけで、晶はせいいっぱい。
「……ふうっ、参ったなあ。これじゃあ他の人のラーメン食べに行けられないじゃあない」
つぶやきとともに、晶のお腹が鳴る。そりゃもう半端無く。
そんな中。渚とあやかは金之助から学んだ事を、彼女たちなりに実践し続けていた。
『……すでにこの寸胴で、鶏ガラと豚骨、野菜と根昆布にトビウオのアゴダシでスープを煮込んである。これはラーメン屋の命だ、命と同じく大事になっ!』
『……タレとなる味噌は、これらの合わせみそをこの割合で混ぜてある。それに、これとこの調味料を加え、良く混ぜて……』
『……麺のゆで加減を覚えるには、実践あるのみ。お客の好みで麺の固さも異なるから、可能な限り練習を繰り返し、身体で覚える事!』
『……トッピング関係は、適度に用意しておくこと。メンマは作り置きがあるが、白髪ねぎや味玉などは賞味期限もあるから、それらにも注意な!』
「……基本的な作り方は、そう難しくはありませんが……」
小さくつぶやきながら、あやかは学んだラーメンの作り方を思い出し、それを実践していく。
「ですが……簡単だからこそ、繊細で難しい作業です」
渚とともに、あやかは作っては出し、作っては出しの繰り返し。
実際、金之助の味噌ラーメンはみるからに旨そうなのだ。味噌の香りが色濃く漂うスープには、少し太めの手もみ麺。それらを彩るは、白髪ねぎとチャーシュー、炒めモヤシとバターコーン、そして味付け玉子に万能ねぎ。加えられた麻油と焼き味噌の香ばしい香り。それだけで、口の中につばが湧きあがる。
見ただけで旨そうなそれは、空の丼が数多く帰ってくることで、本当に旨いだろう事を予想させた。忙しくなるのも当然。
しかし、忙しく思うと同時に、感動もしていた。
「……こんなおいしそうなラーメンを、自分の手で作り出せる……。そして……皆さんが喜んで、楽しそうに食べてくれている……」
レシピは他人のものでも、自分の手で作ったごちそう。それが誰かの舌を喜ばせ、満足させる。
その事実を実感し、彼女は感動を覚えていた。
「「「「たのもー!」」」」
と、そんな考えに浸ってたあやかと渚の前に。
四名の男女が、そのラーメンを食べにやって来た。
●四食・好敵手!
「ふむ、金ちゃんは欠席って聞いてたけど、代役の子達もなかなかじゃあない」
スープをじっくり味わうは、トンコツの東崎雅子。
「……ふ、なるほど。麺もまた、金さんに指示されて君たちが打ったのかい? やるね」
時間をかけて麺をすする、ツケメンの月山俊二。
「いやはや、このチャーシューの焼き加減。金ちゃんのよりわしは好みだな」
チャーシューにかぶりつく、チャーシューメンの大田鉢新三郎。
「良いわね〜。この香味油と焼き味噌が、味にインパクトを与えてくれて良いわね〜」
具と味噌とに注目する、坦々麺の豪島民太郎。
「「「「ごちそうさま!」」」」
彼らもまた、丼を空に。
「あのっ! ラーメン四天王の皆さんですよね? 私のラーメンもぜひどうぞ! 一杯百円です!」
食べ終わった頃合いを見て、詩愛が申し出る。
「あら、かわいい子ね。もちろんいただくわよ」と、東崎。
やがて彼らの前に、新たなラーメンが。それは、詩愛のサークル『ラーメン研究会』名義のラーメン。数日前からチラシを配り、商店街にて宣伝してはいるものの、やはり実績がないためかイマイチ知名度が低かった。
「エビとカニの味噌ラーメン……ふ、なるほど、麺は手打ちの、細ちぢれ麺か。濃いめのスープに合うようにしているわけだね……」
「いやはや、エビとカニから取ったダシのスープか。ちと生臭いが、パンチが効いている。悪くないね」
「良いわね〜。このタレ、赤味噌に干しエビと……カニ味噌も? エビカニ尽くしなところが良いわね〜」
「ふむ、具はワカメに磯海苔、それに……エビカニのすり身の揚げ団子? 面白い味ね。この香味油は……大蒜と生姜と、赤唐辛子を軽く焦がしたものかしら。ふむふむ、嫌いじゃあないわ!」
手ごたえあり。四人の反応、なかなかいい感じ。
それを見て、詩愛もまた満足を覚えていた。
●五食・フェス終盤!
やがて日も落ち、フェスの終わりが近づく。
皆は、自分のところのラーメンを口にしていない。スープも麺も具も、全てが売り切れたため、店じまいにしたのだ。
「……投票結果は、後日に郵送されるんだったわね。それにしても……お腹すいたー!」
店じまいした後、晶がため息とともにぼやく。無理もない、忙しくて昼食を取る暇もなかったのだ。
「疲れ……ましたね」
「お腹……空きました」
「あたくしも……らーめん道って、お腹が空くものなのねえ」
レグルスが指摘し、あやかとフィンブルが空腹を訴える。
「わ、私も……」
「ううっ、ラーメン食べたかったなあ……」
渚と詩愛のその言葉が終わるとともに、
「「「「なら、食べる?」」」」
そう問いかける、四名の声があった。
「……こ、これは……!?」
渚が、坦々麺のスープを口に含んだ。ゴマのうまみが、口いっぱいに広がる。
「こんなにおいしいの、生まれて初めて食べました……!」
レグルスもまた、美味を実感する。
ラーメン四天王は、皆に持ち掛けていたのだ。自分たち用に取っておいたラーメンを、皆にごちそうしたいと。
その言葉に甘えた皆は、それぞれのラーメンへと向かっていた。
渚とレグルスが向かうは、豪島の坦々麺。甘辛く味付けされたひき肉と、味の濃いゴマダレとが、二人の舌を悦ばせる。
「良いでしょ〜? 『メン・イン・タンタンメン』の自慢の一品、ゴマの香りが良いでしょ〜?」
訪ねる豪島に、渚とレグルスはうなずく。
「……え、ええっと……はい! おいしいです!」
「ラーメンって、こんなにおいしいものなんですね……! 知りませんでした!」
「ちょっと、なにこれ! つけ麺ってこんなにおいしいものだったの!?」
晶が食すは、「ツケメンカイザー」のつけ麺。
「ふ、なるほど。君も僕と同じく、つけ麺の魔力に憑りつかれたようだね。その通り。麺のうまさは、ラーメンよりもつけ麺の方がダイレクトに感じられるものさ」
月山の言葉に、晶はうなずく。
「本当ね。スープもだけど、すっごくおいしいわ、この麺!」
「あらぁ、このお肉! トロっとしていて、柔らかいわあ」
「ええ。金之助さんのチャーシューより、おいしいかも」
「いやはや、美女と美少女とにそう言われると、『ロード・オン・チャーシュー』としては嬉しいねえ!」
大田鉢のラーメンで舌鼓を打つは、フィンブルとあやか。彼が供するは、とろけるようなチャーシューがたっぷり入った醤油ラーメン。
「確かにこれだけの美味なら、『命をかける』と口にするのもわかりますわね」
「はい! ……金之助さんが夢中になる気持ち、わかります……!」
言いつつ、二人は肉汁したたるチャーシューを口に運び、じっくりと味わった。
「む……このトンコツスープ、お店出しても十分やっていけますよ!」
詩愛は、自分がそう口走るのを聞いた。
「ふむ、そう言ってもらえると光栄よ。私も、自分のラーメンは金ちゃんに勝るとも劣らないと自負してるからね」
『クイーン・ザ・トンコツ』が、ラーメンどんぶり越しに微笑んでいるのを、詩愛は見た。
「私、ラーメンの事はそれなりに知っていると思ってたけど、まだまだ知らない味があるものだと知りました。勉強になりましたよ!」
「ふむ、金ちゃんってば、将来有望なラーメンの若人たちと知り合いになったようね。詩愛ちゃん、あなたのエビカニラーメンも見事だったわよ。私たちも、うかうかしてられないわね」
すっ……と、東崎は手を伸ばす。
「お互い、がんばりましょう。ラーメンを愛する者として」
「はいっ! 私もいつか、もっともっとおいしいラーメンを作って、食べてもらいたいです!」
がっと、詩愛は固く握手を。この瞬間、詩愛は実感した。
見知らぬ者だった両者の間に、ラーメンというものを通して、絆が結ばれた事を。
●六食・事後報告!
「すみません、金之助さん。頑張ったんですけど……」
晶が、やや元気のない声で報告する。
数日後。退院した金之助とともに、皆は「田村書店」厨房に集まっていた。退院祝いと共にフェスの結果を知らせる事になっていたのだ。
結果は……惜しくも二位。東崎のトンコツラーメンに、わずかに及ばなかったのだ。
「はあっ、本気で優勝狙ってたんですけど……ほんとうに、ごめんなさい」
しょんぼりした詩愛は、うつむき加減で謝った。ちなみに自身の「ラーメン研究会」のラーメンも、三十組中十位と健闘。
そんな詩愛に、金之助は言葉をかけた。
「いやいや、みんな良く頑張ってくれた。いきなりの代役で、ここまでやってくれたんだ。それに……」
レグルスから受け取ったノートを掲げ、金之助は嬉しそうに目を細める。
「わざわざ作ってくれた、お客や四天王の連中からの感想ノート。これを読めば、来てくれた人たちが、当日のラーメンを楽しんでくれたのは良くわかる。四天王の連中も書いてくれたとはな。これ以上嬉しい事はない……」
一息つき、彼は……静かに言葉を続けた。
「これで、もう悔いはないよ。引っ越し先でもやっていけると思う。ありがとう、みんな。君たちこそが『キングス・オブ・ラーメン』! この俺のラーメン道にかけて宣言する!」
「あの……あたくしも、是非伝えたい事がありますの……田村様の、らーめん様に対する情熱、感動しましたわ」
フィンブルの言葉が、金之助の厨房内に静かに響く。
「何か一つの事に情熱を注ぐ事の出来る殿方は、大変愛らしいと思いますわ。でも、問題が一つ……」
「?」
「らーめん道って、とても奥深いものだと知ってしまいましたの。もっと興味が出てしまい、もっと知りたくなってしまいましたわ」
彼女の言葉を聞き、金之助はニッと笑顔を浮かべサムズアップ。
「よっし、ならば退院記念! この俺が直々に、特性味噌ラーメンをごちそうしよう!」
「はい! ぜひお願いします!」
「あ、僕にはののじの奴、いっぱい入れてください!」
「わ、わたしも……!」
「私は大盛で! あの時食べ損ねちゃったからね!」
「楽しみです……!」
「いただきますわ、田村様!」
そして、滞りなく引っ越しは行われ。後日。
皆の元に、手紙が届いた。
『引っ越し先で、古本屋の副業に、ラーメン屋を開いちまったぜ! 皆、関東に来ることがあったら、ぜひ食べに来てくれ!』
添えられた写真には、店舗の前でサムズアップした金之助の姿が映っていた。