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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/29


みんなの思い出



オープニング

 整体師の、月山俊二。彼は結構なイケメンである。
 同時に、麺類好き。食べる方だけでなく作る方も得意で、特につけ麺に関しては右に出る者はいない。そこからついたあだ名は「ツケメンカイザー」。
 しかし、顔が良いが、彼にはある秘密があった。それゆえ、彼は言い寄ってくる女性に不信感を抱いていた。

 先日も、その外見に一目ぼれした患者の女性が「デートして」としつこく迫ったが。
「ふっ……きみの骨格は形が悪い。顔の骨格だけでなく、全身がダメだ。全身の骨格を取り出し、交換してから出直してくるとよい」
 とばっさり。

「良くないわね〜……まあ、俊二ちゃん。顔が良い分、上っ面だけしか見ないバカ女に言い寄られまくってたからねえ」
「ふむ。ま、他人事だからあまりあれこれ言いたくはないけどね。けど、ちょっと友人として気にはなるわな」
「いやはや。一応結婚した身からしては、好きでもない相手に言い寄られるのは、正直つらいものがありますが」
 ラーメン四天王の、他の三名、豪島、東崎、大田鉢。
 いつも通りに集まってラーメン試食会してたが、月山は今回未参加。
「で、月山は?」
「それなんだけどねえ……」
 豪島が、口を開いた。

 月山整体院は、商店街の一角にある。
 そして、ルックスもイケメンな月山が院長やってるゆえ、それなりに客も多い。
 が、整体院に隣接したつけ麺屋「しゅうじ」は、月山が趣味で出しているお店。患者が少ない時や週末など限定だが、こちらも結構お客が入る。というか、近くのラーメン屋・つけ麺屋よりもうまいと評判で、行列ができたりする事もしばし。
「ふっ……僕はつけ麺でも女性のハートを奪ってしまうのか。なるほど……などと納得できるかーっ! 僕の本業は整体師! なぜいつも、『本来の意図』じゃあない方向ばかりがうまくいく!」
 と、本人は狂い悶えている。
 それもそのはず。月山は昔から、本命じゃあない方向ばかりがうまくいき、それが本命を凌駕する……ってな事が多くあったりするのだ。
 たとえば、学生時代。
 文化祭でのコスプレ喫茶。男子は執事、女子はメイドと決めていたが。ウケ狙いで月山にメイド服を着せてみた。
 あくまでウケ狙いであったが、その結果。男子からは「男の娘萌え」、女子からは「かわいい」などと、普通の執事&メイド姿の他の生徒たちを押しのけ大人気に。
 課外授業にて、老人ホームに赴いた時。掃除や遊戯など様々なボランティア活動を行った後、余興と手品をやってみたら、これまた大うけ。「ぜひ次も来て」と大人気。本人は「ボランティアのみなさんの事も……」とフォローしたものの、聞く耳持たず。
 しょうがないので2〜3回ほど行って行ったら、元マジシャン委員会の幹部という老人が「ぜひうちの委員に入ってプロマジシャンに」とせがまれるように。
 さすがにそれは断ったものの、今でもマジシャンの何人かとは交流が合ったりする。
 で、ラーメン好きなものだからとラーメン屋にバイトで入り、ゆくゆくはラーメン屋を始めようと考えていたのだが。
 ラーメン屋で修業中。親父が肩こりひどいものだからと肩を揉んだら「良い腕してんな。知り合いの整体師より上手いぞ」と、知り合いの整体師を紹介され。そこで「筋イイね君。ぜひ整体師になりなさい。いやなれ(命令形)」
 かくして強い後押しから整体師になり、店を開き現在に至る。
 整体師を本業とした彼だが、ラーメンはあくまで趣味……で作ってたところ、つけ麺がこれまたすごく評判良く、ラーメン四天王の一角として認知されるように。
「整体師として頑張ってたら、つけ麺も評判良いし。どうすればいいんだよ僕。どっちつかずだなあ」
 などと、才能ある故の悩みなど有していたり。
 しかし、そこでひとつの問題が浮上した。

「勝負してほしいのよねえ。あの『ツケメンカイザー』と」
「メン・イン・タンタンメン」の豪島が、君たちに依頼を持ち掛けていた。
「簡単に言えば、学生時代のコスプレ喫茶からの因縁。その時に、お店の料理としてつけ麺を出したのが始まり。で、ラーメン屋の息子である『ぶさいくラーメン』の房行仲夫(ぶさいく・なかお)って子は、自分を蔑ろにして月山ちゃんが調理担当になったのが気に入らなくてねえ」
 そこから、いつも月山を敵視し挑戦するも、負けてばかり。
「卒業後、家業のラーメン屋を継いだんだけど、『やつに正々堂々と勝たなければ意味が無い! そこから俺のラーメン人生が始まるんだ!』ってな感じで、妙な執念と根性を持ってるのよねえ」
 で、お見合いして結婚する方向に向かったものの。高校の卒業アルバムで月山の顔を見た結婚相手が、写真を見て月山に一目ぼれしてしまった。
「相手の女性……綿杭奈子(めんくい・なこ)は、『結婚して欲しくば、このステキな方以上のつけ麺作れると証明してくださる?』とか言い出してねえ。そうでもしないと、収まりそうにないのよ」
 で、月山と房行はつけ麺勝負する事に。
 しかし、問題が一つ。
「……この、房行って子のつけ麺。味の方はぶっちゃけ『並』なのよね。で、このまま勝負したら、房行ちゃんは確実に負けるでしょうね。悲しいけど、私も麺類には素人じゃあないから、実力差はわかるわ」
 依頼内容。それは『房行仲夫に味方して、月山俊二とつけ麺勝負し、勝つ事』。
「月山ちゃんも勝負事には厳しいから『相手に無礼なきよう、勝負となったら正々堂々、全力投球の直球勝負します』って言ってるのよね。当然、今回の勝負も同じく。ともかく、こうやって正々堂々と勝負して勝たない事には、房行ちゃんはこのさきずっと月山ちゃんに挑戦し続けるでしょうよ。で、月山ちゃんも性格的には手抜き……って事が出来ないからね。なんとかしてやりたいわけよ」
 正直、誰かが悪いわけではない。とはいえ、問題が起こったわけだから、解決しなくちゃならない。

 勝負の方法は以下の通り。
 両者は、商店街に設立したテントにて。自身のつけ麺を、店名と自分の名を出さずに100食づつ用意。互いの食器に紅白の印をつけて、商店街のお客にふるまう。
 食べたお客は、アンケートで気に入ったか否かを○×で記入(両方が○でもOK)。加えて、もう一度食べたいと思ったら、志として料金を(小銭一枚からでOK)。
 時間は、午前10時から午後4時まで。それまでに用意したつけ麺が全てはけて、アンケートに○がついた数、および志とする料金の金額で勝敗を決する。

「というわけで、手伝ってはくれないかしら? 月山ちゃんに勝てるように、房行ちゃんをお手伝いしてくれない?」


リプレイ本文

●自己紹介の一杯目。

「あら、久しぶり。金ちゃんのラーメンフェス以来じゃあないかしら?」
「はい! あの時は坦々麺、ごちそうさまでした!」
 一同の顔合わせ時。レグルス・グラウシード(ja8064)は豪島へと挨拶していた。
「良いわね〜、相変わらず元気そうで良いわね〜」
「豪島さんも、お変わりないみたいで何よりです」
「なんだ。顔見知りか?」
 矢野 古代(jb1679)の問いに、レグルスはうなずいた。
「はい! 以前にラーメンフェスで知り合ったんです。今回戦う月山さんと同じ『ラーメン四天王』って呼ばれてるんですよ?」
「……くっ! 『ラーメン四天王』! 忌まわしきもの!」それを聞き、同席していた房行が顔をしかめる。
「……どうにも、問題があるような気がするわね」依頼を聞いた時に抱いた印象通りに、この房行という男は情熱的だという事は痛いほど伝わってくる。キャロライン・ベルナール(jb3415)はそれを、身を以て味わっていた。
 同時に、その情熱の向ける方向が、若干斜め上……とも思っていたが。そちらも予想通りかもしれない。
「ええと……初めまして。廣幡 庚(jb7208)と申します、よろしくお願いします」
 礼儀正しい美少女が、ぺこりと頭を下げて挨拶する。
「あら、かわいい女の子だこと。こちらこそよろしくね」
「……ぶつぶつ、やはり奴のつけ麺に勝つには……ぶつぶつ、ぶつぶつぶつ……」
 豪島は愛想よく返答するも、房行は心ここにあらず。
「……ふー、ちょっと失礼」
 考え込んでいる房行の前に、一人の少女が進み出ると……ハリセンを取り出し、その後頭部を派手にぶっ叩いた。
「……ってーっ! なにをするだぁーっ!」
「……見ての通り、挨拶を無視した無礼者に怒りの一撃を食らわしただけだが、何か?」
 くせっ毛で半眼(というかジト目)、小麦色の肌を持つ少女……何 静花(jb4794)が、ぶっきらぼうに答えた。
「そうよ房行ちゃん、あなたのために来てくれた人に、ちょっと失礼じゃあないの?」
 豪島の言葉に、房行はようやく気づき、ばつの悪い表情を浮かべる。
「……すまん……」
「と、ともかく。我らが依頼人・房行殿をツケメンカイザーに勝利させるため、自分らはここにいるでござる! 大船に乗ったつもりで、頼りにしてほしいでござるよ!」
 静馬 源一(jb2368)の言葉に、房行は歯を食いしばり、挑むような表情で空を仰いだ。

●対決備えた二杯目だ。

 ここは豪島の家の離れ。そこに設けてある厨房。豪島自身も「メン・イン・タンタンメン」の二つ名を持つほどの腕前を持っていた。
 この厨房を借り、房行は対月山・ツケメンカイザーと戦うための新たなつけ麺を開発していた。居るのは撃退士六名、および房行。
「奴と同じつけ麺を作って、正々堂々と勝たなければ! 努力と根性さえあればっ!」
「…………」
 つけ麺を作る房行を、遠巻きに見守る撃退士たち……静花、レグルス、矢野、庚、キャロライン、静馬。
 彼ら六名の前に、房行のつけ麺が並んだ。
「いただきまーす♪」
 わくわくしながら、レグルスは皆とともに、つけ麺に箸をつけ始める。
「……うーん」
 やや、しばらくして。
 ある程度食した皆は、箸を置いた。
「……最初は美味しいんですけど……食べてくうちに、喉が渇いちゃって……」
「ああ……食っていくと、ちと塩辛くなっちまうな。水、もらえるか?」
 自分同様、矢野が水をがぶ飲みするのをレグルスは見た。
「……だめか? だめなのか? 畜生ッ……畜生ッ!」
「……そうだな、だめだ。だめすぎる」
 レグルスは、右隣の静花がそう言うのを聞いた。
「……こんなんで勝負するつもりか? 勝負するまでも無く負けてるだろ」
「……だ、だが! 努力と根性でっっ!」
「……先刻に、俺たちはツケメンカイザーんとこに行って、奴のつけ麺を食ってきた」
 レグルスの左隣の矢野が、房行の言葉を遮った。
「……正直、大したものだった。プロとして店出してもおかしくないくらいにな」
 再び、静花が言葉を投げかけた。
「整体師が打ったそうだから『かなりコシのある麺』と予想していたが、予想通りだった。加えて、それに合わせたつけ汁。本人は否定していたが、あれはかなりの技術がなければ作れないものと推測できる」
 一呼吸おいて、更なる言葉を。
「この程度の技術で、あれに勝つのは、まず無理だ。加えて……そんな暑苦しさと精神論で、勝負の日までに急に伸び、勝つつもりか? まず『無い』」
『無い』の部分を、静花はきっぱり、はっきりと叩き付けるように言い放つ。
「『勝負』がしたいのか、『勝ちたい』のか……どっちだ? どちらかをはっきりしろ」
 ずいっ……と、静花が詰め寄った。その気迫は、矛先を向けられていない、ただ隣にいるだけのレグルスですら「怖気」を感じるほど。
「『勝負』して『勝つ』! 両方だ!」
 その言葉とともに、静花のハリセンが。
「食を舐めるなっ! 今、お前は……人類の歴史に唾を吐いた! お前ひとりの思い込みごときが、料理の味を向上できるとでも思っているなら……それはこれ以上にない『食』への冒涜だ!」
「……ま、まあ落ち着いて下さい。……私は、房行さんは、月山さんには無いものを用いて勝負すれば、良い勝負になるんじゃあないかと思いますよ」今度は、庚が言葉をかける。
「だって、お父様から受け継いだお店を、きちっと受け継いでいらっしゃるんでしょう? それは、真面目に努力されてるからこそできる事じゃないですか。それに……」
「それに?」房行が聞き返す。
「それに……月山さんのつけ麺ですが、若者達以外からは『つけ汁が濃すぎる』『塩が多い』『麺が多すぎる』という評価もございます。では、そういったお客様の要望に叶うつけ麺にするには、どうしたらいいでしょう?」
「……そうか……確かに奴のつけ麺……俺がいつも作ってるのと似ていたからな……そういう考え方もあったか……」
「ええ。あのつけ麺に、同じつけ麺で対抗するより、あのつけ麺には無い、新たなつけ麺で勝負されてはどうでしょうか?」
 庚の言葉に、まるで雷に打たれたかのように……房行は考え込んだ。
「私からも良いか?」キャロラインが挙手する。
「日本の盛そばには、汁をつけて食べ終わった後に、蕎麦湯で伸ばして食べる事があると聞いた。そこから、つけ汁を割って飲めるようにしたらどうだろうか?」
「良いアイデアだ。俺からは、つけ汁をちょっと月山のとは違うものにする……って提案するぜ」と、矢野。
「つけ汁は魚介豚骨醤油系でも、あっさりめの味に。麺は太目で、ちょっとした香りを付けるんだ」
 それらを聞いた房行は、天啓がひらめいたかのように顔をあげた。
「……みんな、今メモを持ってくるから、もう一回今のアイデア言ってくれ!」

●勝負の時来た三杯目。

 そして、勝負の日。
 商店街の、ラーメンフェスが行われた空地にて。
 二つの大きなテントが張られ、それぞれには大きな机が置かれた。机の上には、紅白の丼……赤の月山と白の房行とのつけ麺が入った丼100杯が、ずらりと並べられている。
「アンケート用紙、OKでござる! 料金箱、これもOKでござるよ!」
 静馬が、忍者のスキルを生かし、会場の用意を。
「……月山! 今度こそ負けない! 正々堂々と、勝負だ!」
「……ふっ、こちらも望むところ! 正々堂々と、勝負!」
 二人のテントから離れた場所には、もう一つテントが……関係者の控え席があった。そこには、豪島の他、東崎と大田鉢、ラーメン四天王の残り三名、そして……綿杭奈子の姿が。
「……綿杭さん、今日の勝負……真剣に見てほしいのよ。もしも房行ちゃんのあの姿に感じるものが無ければ……勝とうが負けようが、貴方の好きにしていいわ」
「あーはいはい。わかったわよ。……まったく、本当にこんな勝負しかけるなんて」
 豪島の言葉に返答したものの、奈子の口調には期待感があった。
 そうこうしているうちに……勝負が始まった。

 時間が経過。すでに月山の……「ツケメンカイザー」のつけ麺へと十数名が向かい、舌鼓を打っていた。
「やっぱこれだな!」「この麺! ボリュームあってうめーぜ!」「やっぱりツケメンカイザー様、サイコーだよー♪」
 若い層、特に体育会系のクラブに在籍していそうな者たちが、次々に月山のつけ麺に殺到しては、その麺に食らい付き、丼を空にしていく。
 が、幼児を連れた主婦、年配の客はその限りではない。
「……うーん、美味しいんだけど……これはちょっとねえ」
「塩気強すぎでなあ。いくらうまいつけ麺でも、ワシもちょっとこれはなあ」
「おいしいけれど、麺の量が多すぎてねえ。孫は好きなんだけど……」
 赤色の丼は、減りはするものの、評判は全て良いとは限らない。
 
「はい、こちらお待ちどうさま!」
「二人分? 了解した、静馬! 頼む」
「了解でござる! しばし待たれよ!」
 庚が丼を運び、注文を受けたキャロラインと静馬とが動く。
 そして、その丼を空にしていく客たちが、アンケート用紙を書き込み、アンケート箱に。そして志を料金箱に。
「……見たところ、丼の消費は互角。やれるか……?」
 戦況を見た静花が、静かにつぶやく。この調子で進めば、結果はどうなるか……?
 冷静に決めているつもりが、彼女自身……胸の内が熱く高鳴っているのを感じていた。
 レグルスと矢野もまた、配膳に動く。
「……つけ麺の反応、それに評判……悪くないかも!」
「ああ、ひょっとしたら……いけるかもな!」
 矢野の言葉にうなずきつつ、レグルスは房行が厨房でがんばっている時の姿を思い出していた。

……………

「……柑橘系の果物、レモンとかを途中で絞ったら、風味が変わる、というのはどうでしょう?」
「それに、麺に柑橘系の果汁を練り込むのもな。麺に少しだけ柑橘系果汁を加え、トンコツや魚介を一層引き立てるように、柑橘がほんのり香るようにするんだ」
 レグルスに矢野が提案したアイデア。それを房行は実践してみる。
「……レモンを絞るのは手間がかかるが、レモン塩をかけてみるか。柑橘系……スダチやミカンも良さそうだ……!」
 そして、つけ汁。
「そば湯を参考にして、つけ汁をスープで割るサービスはできないか? つけ麺の配布スペースの横に、ポットに入れたスープを用意し、いつでも温かいスープをつけ汁に注げるようにするというものだ」
 加えて、つけ汁は魚介豚骨なれど、さっぱり系。塩味でのしょっぱさよりも、食材の旨味を押し出したものに。
「……なるほど! これも面白い! つけ汁はしょっぱいから飲み干せないが、こうしたらいけるな!」

……………

「……あれだけ努力したんです。がんばって、房行さん!」
 レグルスは、自分の心の中でのエールが届くようにと、静かに願った。

 そして、時は経ち。
 午後四時、タイムリミットを迎えた。

「両者、それまで!」

:勝敗の結果の四杯目。

「さて、勝敗の判定よ。月山ちゃん、房行ちゃん。二人とも……用意はいい?」
「いつでも良いです、豪島さん」
「同じく! どんと来いだ!」
 二人の前に、疾風のように駆け抜ける一人の忍び……静馬が、回収したアンケート用紙、そして空になった丼を並べていた。
「アンケート用紙の回収! およびその○×の集計! 済んだでござる!」
 そして、両者の志の合計もまた、集計が済んだ。
 丼は、両者とも午後四時までには注文され、はけるのに成功。この点では引き分けに。
 とはいえ……月山の丼は注文はされたものの、「残す」者もまた多々見られた。
「……麺のボリューム、少し考えた方が良いかな。残されるのは、ちょっともったいないし」
 端正な顔つきで、月山は悩むような表情を浮かべた。確かに赤の丼は、若者層や肉体派、体育会系などの客層は空になっている。が、それ以外の客層の丼には、麺が若干残っていた。
「アンケートによると、月山殿のつけ麺は、『麺そのものの味、つけ汁との相性は抜群』。しかし……やはり『量が多い』『塩気が強い』という意見が多いでござるな」
 静馬がアンケートの一部を読み上げる。
「ふ……なるほど。僕のつけ麺を食べにくるお客は、一定層のお客が多いと思っていたけど、どうやらその通りだったようだ。参考になったよ」
 その事実を、月山は冷静に受け止めていた。
「で、房行さんのつけ麺は……さっぱりめなところは、幼年層や年配層の人たちに好評でした」
 庚が、房行側のアンケート内容を読み上げる。
「味が薄めな点は、若者層や体育会系の人たちにはイマイチだったみたいです。けど……麺の量が少な目なところ、量を若干調整できるところが、ありがたいとの事です」
「で、つけ汁をスープで割って飲めるところも好評との事でした。『これを月山さんのつけ汁で飲みたい』って人もいましたね。……で、それから……」
 庚が、料金箱の合計金額を発表した。
「……志の合計金額は、このようになりました」
 その結果は……房行の方が若干多め。
「というわけで、総合的に判断し、房行ちゃんの勝ちとします」
 豪島の言葉を聞き、房行は明るい表情を浮かべたが……すぐに元に。
「……ま、まあ。約束だし、結婚は……良いわよ。それに……つけ麺作ってるあなた、ちょっと……かっこよかったし」
 顔を若干赤らめて、奈子が言葉を出した。が、房行はそれを手で制する。
「……すまんが、奈子さん。その話はしばらく待ってもらえませんか」
「え?」
「……昨日、撃退士のキャロライン殿に言われたのだ。『結婚とは、男女が生涯を共に生きることを誓うものだ』と。……俺は、月山に勝つ事しか考えず、勢いだけでこの勝負に挑んでいた。こんな事では、勝ったとは言えない」
「……で、でも!」
「それに、もう一つ。矢野殿からもこう言われた。『常に勝っているわけではない。負けて負けて、でも最後には勝っている。 最初の目的を忘れないで戦っているからだ。房行さんはなんで、ラーメンを作っているんだい?』……俺はこの言葉に、自分の未熟さを痛感させられたよ。俺は最初の目的を、完全に忘れていた……親父のラーメン屋を継いだ理由……『皆にうまいラーメンを食べさせたい』という理由を、な」
「何言ってるのよ! 仲夫さん、勝ったんだから胸を張りなさいよ!」
「いや、俺が納得いかない。『試合に勝って勝負に負けた』ってやつだ。……これから俺は全国を行脚し、ラーメン職人として身も心も技術も磨く修行に出たいと思う。そして、一人前になったと実感してから……改めて結婚を申し出たい!」
 その顔付から、その言葉が「本気」だと、豪島や月山、撃退士たちは感じ取っていた。

 次の日。房行は店を知人に任せ、どこへともなく修行の旅に出てしまった、という。それを追い、奈子もまた旅に。
「僕にとっても、色々学べた勝負だった。房行、また勝負したいな」
 それを聞いた月山は、遠くを見つつ、静かにつぶやくのだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
心の受け皿・
キャロライン・ベルナール(jb3415)

大学部8年3組 女 アストラルヴァンガード
遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅
星天に舞う陰陽の翼・
廣幡 庚(jb7208)

卒業 女 アストラルヴァンガード