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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/23


みんなの思い出



オープニング

「?」
 越沢は、その子供たちを見て疑問を覚えた。
 ここは、釧路市の北側・中鶴野。その住宅街の一角に、越沢は住んでいた。
 この近くには、大手建設会社の管理部と車両センターがある。越沢は、そこに勤めていた。その帰り道。車に乗った越沢は、信号待ちで車を止めていたが……。
 そこで、奇怪なものに遭遇したのだ。

 いつも通るその十字路。そこの信号機が赤になり、越沢も車を止めた。
 ふと見ると、すぐそばに子供が三人立っている。
「……待てよ、おかしくないか?」
 なんでこんな時間に? 学校や塾の帰りにしては、夜10時はあまりに遅すぎる。
 彼らは、越沢の車へと近づいてきた。みたところ、服装は普通の子供のそれ。年齢は、上はどう多く見積もっても12〜3歳くらい。下は5〜6歳くらいに見える。
 その子供たちが近づいてくるにつれ……妙な違和感が自分の中に生まれるのを、越沢は実感していた。
 子供たちが、車のすぐそばまで近づいた時。
 彼らは越沢の、ないしはその車の窓ガラスをコンコンと叩き、問いかけた。
「……車に、乗せてくれませんか」
「どうしたのかな……」
 何か事件に巻き込まれたか、あるいははぐれてしまったのか。声をかけた越沢は……。次の瞬間、恐怖に凍った。
 車内を覗き込んでいる子供たちの顔、そこには何も変わったところなどなかった。
 だが、その目は。こちらを見つめている六つの目には、「無かった」。
「白目」が無かった。あるのは、真っ黒な眼球。それが、越沢を見返していたのだ。 
 呆然としている越沢をよそに、「子供」は言葉を繰り返す。
「車に、乗せてくれませんか。車に、乗せてくれませんか。車に、乗せてくれませんか。車に……」
 そう言って、窓ガラスをバンバンと叩き始め……強引に、車に乗り込もうと試みた。

「……で、そのまま速攻でアクセルを踏んで逃げたよ。ま、今にして思えば、黒いカラコンを入れた子供の悪戯だったんだろう。まったく、まぬけな話だ」
 数日後。
 昼時に、同僚たちと与太話をしていた時に、怖い話が話題となり、越沢はこの体験談を語った。
 あれから、黒い目の子供たちには会っていない。しかし恐怖は消えずに残っている。
『まったくそうだな、子供のいたずらに騙されやがって』といった返答を期待していた越沢だが、期待は裏切られた。
「……なあ、その交差点の近くに……俺の知り合いのおばさんが住んでるんだが……」
 同僚の彼……近島が語り始めた。

 近くに住む駄菓子屋のおばさん。魂島は彼女、秋ヶ崎竹美だけは頭が上がらず、仕事帰りには彼女の顔を見に行くこともしばし。
 その秋ヶ崎が体験したことを、近島は聞いたというのだ。

 彼女がいつも通り、夕方に店を閉める時。店のシャッターを半分おろしたところで、5〜6人の子供たちが店に向かってくるのを見た。
「もう今日はおしまいだよ」
 そう言って、子供たちの顔を見た秋ヶ崎だったが……様子が変だと気付いた。
 店の前で立ち止まったその子供たちは、上は、どう見ても中学生くらい。見たところ、服装も佇まいもごく普通、おかしな点など見られない。
 だが、どこか変だった。なんとなくおかしい、普通じゃない。そんな感覚が、痛いほどに伝わってくる。
「……電話を、貸してください」
 ただならぬ雰囲気の中、一番年上と思われる子供がそう言った。
「電話ならそこにあるよ。十円玉無いのかい?」
 店の入り口、その脇には旧式の公衆電話が置かれている。今のように携帯電話が普及していなかった頃から、そこにずっと置かれているものだ。
「電話を、貸してください」
 しかし、子供はまた同じ事をたずねる。たずねつつ、店の奥へと顔を向けていた。
 様々な子供と知り合い、そのいたずらとも付き合ってきた秋ヶ崎は、とっさに判断した。この子たちは電話を借りたいんじゃなく、それにかこつけて家の中に入り込むつもりだ……!
「……水を、ください」
 返答を待たず、別の子供が、別の事を要求しはじめた。
 それにともない、他の子供たちもその言葉を唱和する。
「水をください」「水をください」「水をください」「水をください」……。
 要求の内容はともかく、その要求の仕方があまりにも普通ではない。礼儀に欠いたその言動に対し、いいかげんに……と言おうとしたその時。彼女は子供たちの目に気付いた。
 その目は、墨を流し込んだかのように……真っ黒だったのだ。

「……で、彼女はそれを見て、いやな予感を覚えたそうで。そのまま店のシャッターを閉めたそうだ」
 任務斡旋係が、君たちへと説明する。
「すると、しばらくの間シャッターをガンガンと叩かれた。彼女は警察を呼んだが、警官が到着すると同時に、子供たちは蜘蛛の子を散らすようにあちこちへと逃げてしまった。で、一人として警官に捕まる事は無かった……ただの、一人もだ」
 近島は、更に話を続けた。目の悪い老婆の家に、「子供たち」が押しかけたというのだ。
 老眼で、視力が衰えたその老婆は、その子たちが困っているものだと思い、子供たちを家の中に招き入れた。すると子供たちは、いきなりあちこちを探り、ひっくり返し、菓子を食い砂糖壺を空にしたりといった事。
 その間、ひたすら「電話を貸して」「水をちょうだい」といった要求を繰り返すのみ。老婆の息子……近島が帰ってくるまで、家の中は荒らされまくり、めちゃめちゃにされてしまった。
 逃げ出す子供たちの目は、真っ黒なそれだった。

「まあ、そういう話が中鶴間を中心としたあちこちで多発している。で、うちに話が回ってきたわけだ。この『子供』とやらが、天魔の類じゃあないか……とな」
 依頼斡旋係が、君たちに今回の依頼内容を説明する。
 この「子供たち」、徐々に数が多くなっているとのこと。最初のころは3〜4人だったのが、5〜6人。そのうち8〜10人にまで増えている。
 子供のいたずら、でもない。いや、実際にこの噂を聞いた子供が、黒いカラコンでいたずらをしたのだが……その当の本人たちが、本物に遭遇しているのだ。
「そいつらは、噂を聞いて、カラーコンタクトを使って悪戯したんだな。住民に怒られ逃げたが……たまり場にしてる空家に、その『黒い目の子供たち』に押しかけられた……ってな話だ」
 不良ではないが、近所で有名ないたずら者の悪ガキども。工場跡に勝手に入り込み、隠れ家にしていたのだが……。
 その周囲に『子供たち』が押しかけてきたのだ。最初はふざけているのかと思ったが、10人以上が隠れ家の周りを囲んだ事から、自分たちのようないたずらとは異なる事を悟った。
「中に入れて」とせがむ彼らを締め出し、閉じこもった。すると彼らは扉を怖し、強引に侵入。
「子供たち」に囲まれ、掴みかかられ、引き裂かれそうになるも、二階に逃れ、そして梯子でしか行けない天井裏に逃げ、閉じこもり……。
 一昼夜、彼らは恐怖に震え、探しに来た大人たちに救出されるまで、彼らはそこから外に出なかった。
 助け出されたものの、いたずらをした少年たちは今も恐怖に引きこもり、外に出ようとしない。
「……間違いなく、この『子供たち』とやらは普通の存在じゃあない。こいつらを誘き出し、倒す事が今回の任務。やってくれるか?」


リプレイ本文

 午後四時を過ぎたころ。
 中鶴野の住宅街を、三人が歩いていた。
「こちらA班、佐倉井 けいと(ja0540)。今のところ異常なしです」
 三人の一人が、無線機を耳に当てていた。その手には、お菓子や玩具が詰め込まれた袋を手にしている。
『……こちらB班も、現在のところは問題ないよ。子供どころか、人っ子一人見当たらず……』
 連絡先の御門 彰(jb7305)の声が、佐倉井の耳に響く。
 集まった撃退士たちの立てた作戦は、二手に分かれ、「子供たち」を探し出す事。
 発見した後。人気のない場所に誘い込み、正体を確認した後。洗脳された人間の子供ならこれを助ける。天魔ならばこれを殲滅する。
 すでに誘導先とする場所は、いくつか見繕っている。幸いこの近辺には、いくつか町工場や大きな空家があり、どこからでも誘い出し誘い込むのは難しくない。
 現在、佐倉井のA班三名……女装したたくましき男、御堂 龍太(jb0849)、力強きも美しき赤毛の美少女、アサニエル(jb5431)は、捜索するも……それらしい子供たちは見当たらず。
「う〜ん、どこにいるのかしら。『黒い目の子供たち』とやらは」
 御堂はそう言いながら、手にした籠から小さな菓子を取り、一つ口に放り込んだ。
「ちょっと、それは誘き出すためのもんだろ? つまみ食いしてんじゃあないよ」
 と言いつつ、アサニエルも一つつまみ食い。
「ああ、二人ともだめですよ。……本当にもう」
 それをたしなめようとした佐倉井だが、次第に空が曇りつつあるのを見た。
 あと二時間もすれば、日が落ちる。

「……向こうも、異常は無し。ふう」
 ためいきをつきつつ、御門は周囲を見回す。
 こちら、B班も三人。彰の他の二人……白銀の長髪が美しい、少女にも見える美少年、ヴィルヘルム・E・ラヴェリ(ja8559)。修道女……に擬態している悪魔、ヴォルガ(jb3968)。
「向こうも、見つからないようだね。たくさんお菓子を用意したのにな……」
 ヴィルヘルムも、両手にお菓子が詰まった袋を下げている。「黒い目の子供」をこれで誘き出せるかと思っての事だったが、今のところは効果はない。
 ヴォルガの手にも、多くの菓子を入れたバスケットが。
「……」
 物言わぬまま、ヴォルガは周囲を見つめていた。
「まあ、そう簡単には見つからないとは予想していたけどね。どこに隠れて、いるのかな……」
 ヴィルヘルムが、遠くを見るように……通りの奥へと視線を向けた。やはり、人の姿は見当たらない。
「……行きましょう。ここで立っていても、事態は動かないだろうしね」
 御門の言葉に、B班は動き出した。

 大通りを通り抜け、並ぶ家々を横目に見つつ……佐倉井達三人は住宅街を進む。
 だが、子供の姿は変わらず見当たらない。そろそろ日が暮れる。
「……くそっ、どこにいるんだ」
 アサニエルが、言葉をもらす。が、彼女の言葉を遮るように、御堂が言った。
「アサニエルちゃん、佐倉井ちゃん。あれを!」
 御堂が指さした先。そこには、住宅街の中に存在する森林公園、その内部に入り込む子供の姿があった。

 その「子供たち」は、ガラス戸を叩き、なんとかして開こうとしていた。
「ねえ、開けて。開けてよ」
 家の中からは、住民の反応はない。逃げ込んだのか、それとも気づいていないのか
 御門たちB班は、玄関先に隠れてその様子を見ていた。
 玄関の門から、車が二台ほど止まるスペースが伸びており、その先にガラス戸と扉とがあった。そしてそのガラス戸に、三人の「子供たち」が取り付いている。ここからでは、「子供たち」は背中しか見えない。
「……あの子たち、かな?」
「まだ、わからないですね」
 ヴィルヘルムの問いに、御門は答えたが……正直、確信が持てない。
「………」
 ヴォルガの視線が油断なく、「子供たち」の行動を見つめる。
「ねえ、開けて。開けてってば」
 同じ言葉を、何度も繰り返す。これは……やはり?
 御門が物陰から一歩踏み出した、その途端。
 玄関先の明かりがともり、玄関の扉が開いた。
「「「!?」」」
 驚く彼女たちの前で、中から出てきた住民の声が響いた。
「……あらあら、お帰りなさい。ふわぁ……」
「お母さん、呼び鈴が壊れてたよ。直しておくって言ってたじゃない」
「あーごめん、お母さんパートから帰ってから、眠かったから寝ちゃってたのよー。夕飯ピザでいい? ……って、あなたたちは誰?」
 母親が、御門らの姿に気づき、声をかけた。それとともに、子供たちも振り返る。
 その目は、全員が普通のそれ。
「……えーと、怪しい者じゃありません」
 どうやら、勘違いだったようだ。
 怪訝そうな眼差しの母親と子供たちに、しどろもどろで御門は言い訳を口にし始めた。

「……ふー、助かりましたー」
 数分後。B班は近くの家の前で、安堵のため息をついていた。
 当初、御門の口調に信用ならない……といった様子の母親だったが、ヴィルヘルムの言った一言が、その場を取り繕ったのだ。

『僕たちは、今度近くに出来る教会の関係者です。その挨拶に来ました』
『そ、そうなんです。それでハロウィンも近いですし、近所の子供たちにお菓子をプレゼントしようと思いまして。ね?』
 そう言いつつ、御門はヴォルガのバスケットに手を伸ばし、取り出したお菓子を子供たちに手渡す。
 その後、色々と調子の良い事を述べたのち、『ミサには来てくださいね』と言いつつ別れた。
「ま、ヴォルガさんのこの姿のおかげで信じてくれました。ありがとうございます……」
 その時。
 無線機が鳴った。

「B班は?」
「すぐに来るそうです」
 アサニエルに答え、佐倉井は改めて「子供」を見た。
 その子供は、見たところは6〜8歳くらい。上は真っ赤なシャツ、下はズボンをはいているが、少年か少女かは定かではない。後ろ姿を見る限りでは、怪しげなところは何も見当たらない。
 なのに、その子供に対しては、どこか「違和感」を覚えた。どこか普通ではない、正常ではないと強く思わせ感じさせる、警告めいた「違和感」を。
 この住宅街の真ん中にある森林公園は、木々が生えたちょっとした子供の遊び場のようなもの。
「!?」
「子供」が、森林公園の木陰へと向かった先には。
 別の「子供たち」が、そこにたたずんでいた。
 子供たちの「目」がどうなっているかは、佐倉井達の位置からはわからない。だが……先刻に「子供」が一人だけの時に漂った「違和感」が、その「子供たち」からも漂っていたのだ。
 子供たちは、見たところ良くわからないが、上は13〜4歳くらいだろう。その数……少なくとも3〜40人くらいだろうか。いや、影だけを見れば、それ以上は確実に居る。
「……ねえ、アサニエルちゃん。佐倉井ちゃん。変じゃない?」
 御堂が、疑問を口にした。
「変?」
 彼の疑問に、佐倉井は聞き返し……すぐに己の疑問として受け止めた。
「……あれだけの数の子供が集まっているのに……どうして全員が静かに『立っているだけ』なのかしら?」
 アサニエルの言うとおり。子供があれだけ集まっていると、数名は必ず落ち着きなく動き回ったり、周囲をきょろきょろと見回したり、騒いだり喋ったりと、おとなしくしない者が出てくるもの。
 なのに、目前の集団にはそれが無い。身動き一つなく、一言もお喋りしない。先生や保護者など、そのようにさせている大人の姿は、ない。つまり……自主的に子供たちは、そうしている。
 まるで……魂を抜かれたかのように「生命感」を感じさせぬまま、集まって、立っているだけ。
 先刻の「子供」は、その目前の「子供たち」の中に混ざると、ゆっくりと……振り返った。
 それとともに、公園内の街灯に、灯がともる。
 街灯の光が照らした、「子供たち」の顔。その目には……。
 黒目しか、無かった。

「……!」
 佐倉井は、その子供たちと相対し、動揺した。
 外見上、異なるのはただの一点。その眼球が全て黒く、白目が存在しないという一点のみ。
 それ以外は、ごく普通の子供と同じ。笑ったり泣いたり、騒いだりおしゃべりしたり、今にもそんな事をやりそうに見える。
 が、それがまた不気味。たった一か所が普通と異なるだけなのに、醸し出すおぞましさのレベルは、計り知れないように感じられる。
 明らかにこれは、普通ではない。普通の存在ではない。普通の存在が、こんな怖気を出せるはずがない。
 アサニエルと御堂も、その「怖気」を受けて躊躇していたが……立ち直るのに時間をかけすぎた。3秒もかかったのだ。
「……! アサニエルさん、御堂さん……行きます!」
 そして。佐倉井は、そいつらの本性を知った。
 そいつらは、人間ではない。なぜなら……効果が無かったのだ。
 佐倉井が用いた、『気迫』の効果が。

「……どうやら、遠慮はいらないようね」
 歩みより始めた「子供たち」へと、佐倉井に続き、アサニエルは『異界認識』を試した。そして……佐倉井が知った事の裏付けを取った。
 間違いない、あれは……天魔!
「……お菓子、くれない?」
「ほらほら、こっちに来ればたんとあげるよ」
 声をかけてきた「子供たち」へと、アサニエルは数個のお菓子を投げてよこし……逃亡した。
 その後を、佐倉井、御堂が追う。誘き出すために、何個かのお菓子を掴んでは、「子供たち」へと投げつつ、逃げる。それを奪い合った子供たちは、包装を乱暴に破いて中身を、あるいは包装紙ごと、お菓子を口に放り込む。
「お菓子、くれない? お菓子、くれない? お菓子、くれない? お菓子……」
「子供たち」は、同じ言葉を繰り返しつつ……三人を追い始めた。

 その廃工場は、内部に何も置かれていなかった。ここならば、どんな状況に陥っても戦いやすい。
 小さな扉を開き、内部に入り込み……かんぬきをかける。
 すぐに、「子供たち」が、シャッターを、窓を、扉を叩き始めた。
「お菓子、くれない? お菓子、くれない? お菓子、くれない? お菓子、くれない? お菓子……」
 最初に壊れたのは、ガラスがはまった窓。続き、扉。そして、錆びてボロボロになったシャッターも、大人数で押しかけられて破られる。
 三人は、所有していたお菓子を床にぶちまけ……臨戦態勢を取る。
 最初に動いたのは、御堂。発動させた「祈念」とともに、御堂が演武を。それとともに出現した「刃」が、宙に浮かび、踊るかのように「子供たち」の一群へと放たれた。
「闘刃武舞」……御堂が手を振り、足を振るごとに、彼が召喚した剣神の刃が「子供たち」に襲い掛かり、斬りつけられる。
「ほらほら、つぶれちまいな!」
 続き、アサニエルの放つ「コメット」……発生させた無数の彗星が、「子供たち」へと放たれた。直撃し、ダメージを食らった「子供たち」は……その重圧に押しつぶされそうに。
 それらの攻撃の前に、「子供たち」は次々に倒れていった。が、それでも「子供たち」は痛みの声を上げる事も、呻きや叫び声すらもあげていない。ただひたすら、「お菓子、くれない?」の言葉を繰り返すのみ。
 そして、倒れた「子供たち」を踏みつけ、後ろから新たな「子供たち」が三人へと迫りくる。新たな「子供たち」が「お菓子、くれない?」の言葉とともに、掴みかかろうと迫った。
「はっ!」
 御堂とアサニエルの攻撃を受けずに済んだ「子供たち」へと、佐倉井は己が武器、トライデントと盾とを顕現させると、それを振るった。先端の鋭い三つ又が、「子供たち」に突き刺さり、長い柄が「子供たち」を薙ぎ払う。
「くっ……数が……!」
「ちょっと……多すぎる、わねっ!」
 壁に追い込まれ、佐倉井は「シールド」を張った。それが「子供たち」を防ぐが、別の方向からの攻撃までは防ぎきれない。そして三人は……とうとう、雪崩のように押し寄せられ、押しつぶされた。
「お菓子、くれない? お菓子くれない? お菓子くれないお菓子くれないお菓子お菓子お菓子お菓子お菓子……」
 その声が聞こえなくなりそうになった、その時。

 強烈な「切断音」とともに、多くの「子供たち」を、何かが薙いだ。
「……!」
 そこには、死神がいた。ローブを着た、恐ろしげな骸骨の姿。
 修道女の擬態を解いた死神……ヴォルガは、黒龍の剣・アイトヴァラスを二度・三度と「子供たち」に振るい、斬りつける。そしてそのたび、「子供たち」は切り捨てられ、工場内の床に転がった。
「……僕だってやりたくないんだ。本当はこんな事、心が痛いよ」
 ヴォルガの後ろで、そんな声が聞こえてくる。
 が、その言葉と裏腹に、ヴィルヘルムは手にした金属製の書物……メタルブックで、容赦なく「子供たち」を殴り、殴り、殴り続けていた。
「逃げ出すのは居ないみたいだけど……くっ!」
 マンティスサイスを振るい、御門が「子供たち」の群れを「刈る」。
 先刻に連絡が入った際に、「子供たち」が天魔だと知り、御門らは躊躇する事なく攻撃を下していた。
「お菓子くれない? お菓子くれない? お菓子くれない? お菓子くれない? お菓子……」
 それでも、「子供たち」の言葉は絶えない。
 助けられた佐倉井、アサニエル、御堂は立ち上がり、「子供たち」の言葉を止めんと、更なる攻撃を放った。
 そして、「子供たち」の声が止み……。
 いつしか、六人の撃退士の周囲には……動く「子供たち」の姿は消えていた。

 念のためにと、ヴォルカは「子供たち」の死体全てを集め、その首を跳ね……ようやく安堵したかのように剣を収めた。
「この残ったお菓子、もったいないから皆で分けよう。ふふ、なんだか楽しいね」
「おおっと、こいつはあたしがもらうよ。この菓子うまいんだよね」
 その胸が悪くなる光景の横で、ヴィルヘルムとアサニエルは散らばったお菓子、無事だったお菓子を袋に戻し、つまみ食いしている。
「……ともかく、状況は終了した、という事で良いみたいね」
 佐倉井もまた、ため息を吐きつつ……「子供たち」を見た。
「……?」
「……どうしたの?」
 が、怪訝そうな佐倉井の様子を見て、御堂は声をかけた。
「……あの、僕らが最初に見かけた『子供』……彼だか彼女だかわからないけど、あの子……この中に、居ないわよね?」
 佐倉井の言うとおり。「子供たち」の死体を見ると、真っ赤なシャツとズボン姿の「子供」は見当たらない。……一番最初に見つけた、あの「子供」、ないしは同じ服装の「子供」の姿は、そこにはなかった。
「……先刻助けに入った時には、全てが私たちに向かってきましたよ。逃げた『子供』は、見当たりませんでした」
 御門が言う。確かに先刻までの戦闘では、佐倉井自身も見ていない。逃げようとした、あるいは逃げた「子供」の姿は。
 なのに、なぜ……?
 確かに今回の事件は、これで解決はしただろう。しかし……再び起こらないとは、言い切れない。
 そんな予感めいた何かを、佐倉井は感じていた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
佐倉井 けいと(ja0540)

大学部5年179組 女 ルインズブレイド
全ては魔術に起因する・
ヴィルヘルム・E・ラヴェリ(ja8559)

大学部7年78組 男 ダアト
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
遥かな高みを目指す者・
ヴォルガ(jb3968)

大学部8年1組 男 ルインズブレイド
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍