:ラウンド1:自己紹介!
「こたびは参加ありがとうございます。竹尾ジンギスカン宣伝部長・大江山と申します」
礼儀正しく、名刺を差し出す。
「同じくー。馬場精肉店『テキサス』の社長代理、馬場聡子ですー」
こちらは、やる気も礼儀もまるで感じられず。
「はー、できれば男性限定っつったのに、なんで女性ばっか? 最近の若人は募集要項をちゃんと読んでないんですかね(ガッ)……ノーッ! ギブギブ!」
最後の「ガッ」は、聡子の隣の、線細め美女の仕業。彼女が聡子の顔面に、アイアンクローを食らわせていた。
「失礼。私は『テキサス』の社長秘書、緋勇逸子と申します。仕事のできるか弱き美人秘書、と覚えてくださいませ」
「か弱き〜? 暴走族全員のナニをつぶし病院送りの経歴持ちが……いたいいたい痛い! それ以上はマジ死ぬから!」
「……それでは皆様、自己紹介をお願いします」
「あ、あーっと……ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)。よっしく。こんな美女の頼みなんだ。マジ頑張っちゃうよ?」
「まあ、白い長髪が素敵。カイザービーフ役ですか? よろしくお願いします」
「俺は、風見斗真(
jb1442)。オイシク・ナイトをブレイブに演じるぜ!」
「いたたたた……はい、よろしくです。……うーむ、その私服のセンス。まるで青と赤な人造人間っぽいですねえ。笛の音聞くと良心が痛む的な」
「私は、遠石 一千風(
jb3845)です。プロレスは初めてだけれど面白そうね。当日は、ジンギスカンブラザーズ改めシスターズのラム2号を演じます」
「はぁ?『改め』って? 聞いてない……」
「逸子ラリアット!(ドガッ)……聡子さん、黙ってて下さい。マスクとコスチュームも変更? はいはい。こんな美少女が演じてくれるのなら、変更大歓迎ですよ♪」
「美具 フランカー 29世(
jb3882)ぢゃ。今回セコンドとして参加させてもらうぞ。美具の代わりには、この召喚獣・ヒリュウにマスクマンさせる予定ぢゃー」
「痛たた……って、だーかーらー、そんな勝手な事は……」
「逸子ボンバー!(どごっ)……失礼。こんなかわいい召喚獣なら、当日の活躍に期待ですよー♪」
「……俺は桐山 晃毅(
jb6688)、キラー・クズニク役だ。プロレスはガキの時分から見ていました。今回はよろしく頼みます」
「はい。竹尾ジンギスカンも今回は全力でバックアップします。よろしくお願いします」
「私は満月 美華(
jb6831)。大江山さん、試合を成功させるためにザ・ブタニク役を頑張りますわ」
「はい、頼りにしてます」
「わらわはジャル・ジャラール(
jb7278)! ジンギスカンブラザーズ改め、シスターズのマトン1号ザ・テキサス役だぞ! わらわに任せておけば成功間違いなし! 大船に乗ったつもりでおれ!」
「は、はあ……元気そうで何より」
大江山の後ろでは、「また設定改変ー!」と叫ぶ聡子と、「美少女だからいいんです!」と、聡子にインディアンデスロックをかけている逸子の姿が。
「ゲルダ グリューニング(
jb7318)と言います。ミスター・マズイを演じます。頑張ります!」
「はい、期待してます……」
そう言いつつ、大江山は後ろをちらり。
「美少女さえ出てればいいのかー!」とわめく聡子に、「黙れっつってんです! 美少女は正義!」と、逆エビ固めをかける逸子。
出演者たちの頼もしさと比例するかのように、こっちの不安感が半端ない大江山だった。
そして当日。
観客席は満員。レスラーたちの出番がやってきた!
:ラウンド2:試合開始!
『皆さんお待ちかね! 美味と正義のスーパースターたちです!』
司会の声が、会場内にこだまする。
流れるは、勇壮なテーマ曲。
『その味、最強無敵の皇帝級! 「カイザービーフ」!』
花道を通り、リングへと軽やかに飛び上がり……マスクマンがコーナーポストを飛び越えて、リング内へと降り立った。
『我が名は……カイザァァビイィィィフ! 正義の美味の伝道者!』
それが終わると、力強いテーマ曲が。
『豚のパワーを、知ってるか!? 豚のスタミナ、知ってるか!? パワー・スタミナ・ナンバー1! 「ザ・ブタニク」!』
ふくよか体型のレスラーが、リング内に。コスチュームにウレタンを入れ、より太目の体型に。彼女は、同時にパワーもアピール。
『豚でも華麗に戦いますわよ!』
そして、最期のレスラーのテーマ曲。
『煮て良し焼き良し揚げて良し! オールマイティ・スペシャリスト! 「チキン・ザ・グレート」!』
カイザーと同じく花道から出て、空中で二回転し、コーナーポスト上に降り立つ。
『みーっ!』
召喚獣・ヒリュウにレスラーのコスチュームを着せた姿だが、主に女性からの『かわいいーっ!』という歓声が響く。
その様子を見て、「よーし、うむうむ、よーし」と、ドテラに腹巻、ステテコに眼帯姿の美具は満足そうにうなずいていた。
『肉の帝王! 牛肉は、食べ方も多種多様! みんな大好き牛丼! しゃぶしゃぶ! 握り寿司!!』
リング上では、カイザービーフがマイク片手に肉アピールしている。
カイザーのセリフとともに、周囲のスクリーンには料理の映像が大写しに。
『牛が帝王なら、豚は肉の大王! ビタミンは牛以上! スタミナも牛以上!』
入れ替わり、ザ・ブタニク。スクリーンも、豚肉料理の映像に。
ザ・ブタニクに続き、チキン・ザ・グレートが宙返りしてリングに降り立った。
『みーっ!』
『「鶏肉も負けては無い」? 「カロリーオフなら任せとけ、脂少な目ササミでダイエットもOK」?』
カイザーが、チキンの言葉を代弁する。
『「焼き鳥つくねに、照り焼きと、こちらも千差万別自由自在」? いかすぜ、鶏肉!』 そして、スクリーンに鶏肉料理の映像が。
『皆、絶対食べてくれよな!』
が、カイザーのその一言が終わらぬうち。毒々しい色のスモークが!
:ラウンド3:悪役登場!
『!?』
スモークと同時に、耳障りなテーマ曲。人を不安と不快に引っ張る曲とともに出現するは……。
『出たーーっ! 最強最悪、激マズ軍団のお出ましだーっ! これは不味いぞ、色々な意味で!』
ブーイングの中、三名のレスラーがリング上に上がった。
最初に上がるは、上半身に甲冑を着たレスラー。
『美味は全て破壊! マズさと邪悪と破壊の騎士! 「オイシク・ナイト」!』
『デリシャス反応あり、破壊! 破壊! 破壊でゴザル!』
甲冑を脱ぎ捨て現れるは、西洋鎧を思わせるコスチューム姿。
ナイトに続くは、巨漢のレスラー。
『顔も根性もクズなれど! 憎らしい程ストロング! 極悪クズ肉製造機! 「キラー・クズニク」!』
ボディスーツを引きちぎり、醜いマスクとコスチューム姿に。
『肉なんざ食えりゃいい! 味? 知ったことか!』
吼えると、観客席からは子供の泣き声が。
『邪悪なるジェントルメン! 美味を憎み、美味しさを嫌う最低紳士! 「ミスター・マズイ」!』
三人目は、燕尾服をモチーフにしたコスチュームに、片眼鏡マスク。
『鶏だの豚だのやかましいのダー! 肉などどれも同じ、激マズミンチダーッ!』
くるくるとステッキを手にして、憎々しげにマイクアピール。
『待て! そんな事は我々が許さない!』
カイザーらが立ちはだかる。
『ならば、止めてみやがれなのダーっ!』
言うが早いが、ゴングが鳴った!
:ラウンド4:ピンチ! 絶体絶命!
クズニクが、ブタニクをロープめがけて投げつける。
ロープがたわみ、その反動でクズニクへと体当たりするブタニク。
『このダイナマイトボディで押しつぶしますわよ! 「豚岩弾」!』
しかし……。
『効かねえな! 「クズニクプレス」!』
そのまま弾き返し、パワープレス! 倒れるブタニク。
『タッチだ!』
チキンと交代するブタニク。しかしクズニクは、オイシク・ナイトと交代する。
『悪のレスラーが時に野心を抱き、世界征服を夢見た時に……君はどうする、君はどうする、君はッ! でゴザル!』
そのまま蹂躙せんと、矢継ぎ早にナイトがキック、キック、キック! 何とかしのいだチキンは、空中に飛び上がりフライングキック!
『燃える闘志と、憎しみは……冷たく邪悪な、マスクの中! 誰も知らない俺たちの……』
が、ナイトはチキンの攻撃を受け、その勢いでリングに叩き付けた!
『これがこれが秘密の、秘密の切り札でゴザル!』
『みーっ!』
チキンが、苦しげな声を上げる。
『はーっはっはっはーっ! 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね、死んじまえでゴザル!』
『そうはさせるか!』
チキンとタッチし、カイザーが。が、カイザーが組みつくと同時に、後ろからマズイが攻撃!
よろけるカイザーの顔を、ナイトと交代したマズイがつかみ、頭突き!
『ふふふ、我が召喚獣「パイプ椅子」に恐れ戦くのダー!』
リング下から、クズニクに出させたパイプ椅子を手に取り、それをカイザーに叩き付ける!
『ぐわっ!』
何度も何度も叩き付けるが、そのたびに耐え抜くカイザー!
観客からのブーイングが、更に大きくなるのを見計らい……マズイはダメージを食らったカイザーをニュートラルコーナーへ叩き付ける。
『第二の召喚獣「一斗缶」もあるのダー!』
ぐったりしたカイザーへ、リング下から取り出した一斗缶で一撃! 一撃! 更に一撃!
『おーっと! どうしたカイザー! これは不味いぞ、いろいろと!』
リング中央に倒れたカイザーに、コーナー上に上るクズニク。
『ピーンチ! クズニク、「スーパークズニクプレス」をかますつもりかーっ!?』
巨体を翻し、ダイビングボディプレス! それを食らったカイザー、大ダメージ!
そのままリング外に戻り、助けに入ろうとしたブタニクを掴むと、アナウンス席へと投げつける!
ナイトも同じく、チキンを掴み膝蹴り!膝蹴り!
マズイ、一斗缶を掲げ、カイザーに止めを差さんとする!
クズニク、再びコーナーリングに上り、再び必殺技を狙う!
が、そのピンチに!
『『待ちなさい!』』
雄々しき二人の声が、リングに響いた!
:ラウンド5:登場!ジンギスカンシスターズ!
新たなテーマ曲とともに、花道を走り跳躍した二つの影!
『そこまでだ! 肉を愚弄する者たちよ!』
二人のレスラーが、リングに降り立った!
『わらわは、マトン1号ザ・テキサス! 肉を愛する者たちに誘われ見参!』
羊をモチーフにしたマスクとコスチュームの、小柄な方が言い放つ。その胸には、テキサスの企業ロゴ。
『同じく、ラム2号ストロング竹尾! 肉の美味しさ、貴方たちから守ってみせる!』
もう一人が、続き言い放つ。胸には同様に、竹尾ジンギスカンの企業ロゴ。
『『我ら、ジンギスカンシスターズ!』』
カイザーとタッチし、ラム2号がマズイへと突撃する。一斗缶を振るうマズイ、が、それを回避し、ソバットを。
バランスを崩し、一斗缶を取り落とすマズイ。すかさずその首根っこを掴み、首投げを決めるラム2号!
2度、3度と投げを決め、観客から歓声が。
が、後ろからナイトの攻撃を受け、リングに倒れる。
『がんじがらめの罠を仕掛け! 破滅を企むのは、俺だ! でゴザル!』
『ぐっ!』
更に、立ち上がる時、ナイトの一斗缶、マズイのパイプ椅子のダブル攻撃!
『目には目を歯には歯を! ルール無視の俺らに! 愛の掟で戦う? アホか! でゴザル!』
『弱すぎなのダー! ジンギスカン!』
『卑怯じゃぞー! 立て! 立つんだラム!』
『タッチだ!』
美具の声とともにタッチし、マトン1号と交代するラム2号。
しかし、タッチせずにリング上に出てきたクズニクが、マトン1号の前に。
マトン1号がつかみかかるも、軽く突き飛ばされる。
『お前のようなチビが、俺と戦う? 遊ばれるの間違いだろう?』
チッチッチ……と、侮るように指先を振る。
『うぬぬ! わらわの力はこんなものでは……あいたっ!』
突き飛ばされ、しりもちを。
が、そこで美具らにより観客席に配られる、試食用のラム肉。
『そうだ! ここには肉を愛する者たちがいるではないか! 皆よ、食べてその力を貸してくれ!』
美具から手渡されたラムチョップを受けとり、それを持って見せつけるようにかぶりつく。
同じく、ラム2号も串焼きをコーナーリング上にてかぶりついた。
:ファイナルラウンド:逆転!正義は勝つ!
『うおおおっ! 力がみなぎってきたーっ! 皆の肉への愛、受け止めたぞ!』
クズニクへと突進しラリアット! 吹っ飛び倒れるクズニク!
起き上がったクズニクが、ラリアットをかまそうとするも、小柄なために当たらない! よろけるクズニクの身体にとりつき、技を!
『マトンブラスター!』
さらに、両足を抱えてジャイアントスイング!
それをカットしようとリングに上がるナイトにマズイだが、カイザーとブタニクに引きずりおろされる。
『行くぞ! A5フランケンシュタイナー!』
場外乱闘! リングサイドで、技をマズイに食らわすカイザー! フラフラになったマズイへと、チキンのフライングクロスチョップ!
『不覚、ダーッ!』ダウンするマズイ!
『ふざけるなーッ! 俺が、俺が、俺が正義だーッ!でゴザル!』
仇討ちとばかりにカイザーに肉薄するナイト。しかし、ラム2号の足に首を挟まれ、フランケンシュタイナーを食らう!
『ラムクラッシャー!』
『た、タイムリミットが近い……でゴザル……』
ヘロヘロになり、そのままダウン!
そしてリング上。同じく回転され、ヘロヘロのクズニク。
『見よ! これが肉の力だ!』
闇の翼を広げ、ラム2号を抱え空中に飛び出すマトン1号。そのまま、2号は空中へと飛び出し、クズニクへと飛び蹴り!
よろめくクズニクへ、マトン1号が止めの一撃!
『『ジンギスカン・ダブルインパクト!』』
地響きとともに倒れたクズニクへ、フォール!
『1! 2! 3!』
『ウィナー、ジンギスカンシスターズ!』
ゴングが鳴り響く中、二人のレスラーが勝利のポーズを決めた!
:試合後:戦いすんで日が暮れて
「皆様、今日はありがとうございました」
打ち上げの会場にて。皆に飲み物を配り、逸子は乾杯の音頭を取っていた。
「お陰様で、テキサス、そして竹尾ジンギスカンさんの両方にとって、良い宣伝活動になりました。つきましては、ささやかなお祝いの席を用意しましたので、皆様……どうか召し上がってください」
「……おいしい!」
初仕事を追えて、ゲルダはジンギスカンに舌鼓を打っていた。
大変だったけど、やりがいもあった。皆さんも、こういう充実感の中で仕事していたのかな……。
「おい、わらわにもっと肉をよこさんか!」
「そちらの味付け豚肉、こっちにわけてくれません?」
「ん? ヒリュウ、その鶏肉うまいか? 美具も好きだぞ」
「んー♪ 牛肉うめーっ!」
先輩たちを見ると、肉の取り合い。
「……頑張ろう、色々な意味で」
そういう決意も新たに、肉を食らうゲルダだった。