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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/07


みんなの思い出



オープニング

 釧路市・大楽毛。
 入野修平は、宿舎へ帰宅中だった。
「ふいー……」
 彼の勤務先は、ここから近い場所の工場……株式会社・東洋工業機械の組み立て工場。去年までは平凡な大学生だった修平は、ここに就職し、工場で工業機械を組み立てる仕事に就任。正直、楽な仕事ではない。が、悪くはない。
 宿舎二階の自室へと帰宅すると、時刻は11時過ぎ。明日も早い、休まないと。

 疲れから、すぐに眠りに落ちた修平。だが……。
 夜中の3時過ぎ。彼は悪夢を見て目覚めていた。煙にまかれて、窒息しそうになった夢を見たのだ。
 しかし、目覚めて寝床から半身を上げるも。……息苦しさは変わらない。いや、それだけでなく。妙な臭いが漂っている。
 甘い……いや、甘ったるいその臭い。嗅いでいたい臭いなどでは、断じてない。
 何かの腐敗臭? いや、家に食材は置いてない。食事はいつも外食ですます。ゴミ? いや、昨日が収集日。今室内には、ゴミはない。
 外から? だとしたら何の臭い? ゴミ? いや、ゴミ捨て場からこの部屋までは離れている。それにここは二階。窓から漂うなんてことはない。
 ガスレンジ? ガスの元栓は閉まっている。第一、ここ数日使ってもいない。それにこの臭いは、ガスの臭いではない。都市ガスの腐った玉ねぎの臭いとは異なる。むしろ、もっと甘ったるく、もっと気に障るような臭い。
 臭いは、更に強く濃くなってくる。それだけでなく……息苦しさが更に増す。
 空気を吸いたい。新鮮な空気を。ふらふらする思考と手足とを実感しつつ、立ち上がり……窓を開いた。
 新鮮な空気の代わりに、先刻の甘ったるい臭いが代わりに入ってきた。いや、何か薄いもやのようなものが、宿舎を取り巻いているのが見て取れた。
「な……なんだ?」
 苦しい、苦しくて仕方がない。甘ったるい臭いが、ますます強く濃くなる。
 頭がクラクラする。四肢や口が徐々にしびれ、うまく動かせない。吐き気がひどい。胸のむかむかが止まらない。
 戻してしまった彼は、救急車に電話するため、枕元の携帯電話に手を伸ばした。息も絶え絶えに連絡を入れる。
「……!?」
 が、彼は窓の外に、「それ」を見た。そして、その後。
 修平は、意識を失った。

 気が付くと、ベッドの上。体中が痺れ、手足は痙攣する。人工呼吸器がつけられ、修平は自分が大変な事態に陥ったのだと理解した。
 医師から説明があり、現場に駆け付けたところ……宿舎は異様な状況に陥っていたとの事だった。

 救急隊員が駆けつけると、宿舎全体がうっすらとした何かの「煙」、気体に取り巻かれていたという。まるで、周囲で煙を焚いて、その煙で宿舎事態を包み込んだかのように。
 しかし、焚火の痕跡はもちろん、煙を焚いた跡もない。なのに……「煙」は、確実にそこにある。
 ガスマスクとともに、宿舎に入った救急隊員たちだが……修平以外の住民は、全員が窒息死していた。
 そして、奇妙な事に。
 宿舎の周辺には、足跡があった。まるでハイヒールのような足跡が。

「見たんだ。あいつを」

 そして、修平は。
 回復し、人工呼吸器が取り外された後。その「目撃証言」を口にした。

「……その『目撃証言』はだな。窓を開けて、外を見た時。怪人物の姿を目撃した、というものだ」
 依頼斡旋人の霞ヶ関が、君たちへと伝える。

 修平が空気を求めて宿舎の窓を開けると、そこから広がるのは畑、そして未舗装の私道。
 その私道の、街灯の下。そこには……異様な、あまりにも異様な姿の、「あいつ」が立っていたというのだ。
「あいつ」の顔は、ガスマスクだった。まるで巨大なハエの顔面のようなガスマスクを装着し、黒の帽子をかぶっているために、どんな面相かはわからない。
 服もまた、ガスマスクと同じく黒。軍服のようにも、スーツのようにも見える服装に、黒マントをはおっていた。
 マントの下には、何かを背負っているのか。背中が膨らんでいる。そして……背負った何かからはホースのようなものが伸びて、「あいつ」が手に持つライフルのようなものに続いていた。
 一見すると、それはライフルに見えたが……ライフルなどではない。ガス放射ノズルガンだ。実際、「あいつ」が持つノズルから、ガスが噴き出しているのが見えたのだ。この甘ったるい臭いのするガス……間違いなく、毒ガス……は、「あいつ」が放射しているのだ。
 それは、修平に見られているのに気付き、彼へと顔を向けた。
 が、「あいつ」は慌てる事無く……彼に見られながら悠々とノズルガンをマント内にしまいこむと、踵を返して私道を走った。
 走って数秒後……それの姿が消えた。

「入間氏は、そこまで見て意識を失った。翌日の現場捜査により、私道の街灯下にハイヒールのような足跡が発見され、この目撃証言に信憑性があると判断。捜査が開始された。で、犯人と思われるこの怪人だが、警察は当初、どこかのバカがしでかしたイタズラかと思っていた」
 そこから、このガス怪人を逮捕せんとしたが……調べたところ、先日からこのガス怪人に似た姿の何者かが暗躍している事が判明したのだ。
 近くの小学校、そこで飼われていた鶏小屋の鶏が、全て死んでいた。防犯カメラに映っていたのが、今回と全く同じ姿の怪人。鶏小屋には、甘ったるい臭いが残り、鶏たちに外傷は無かった。
 近場の工場でも、夜間操業中に甘ったるい臭いの気体が漂ってきて、数名が呼吸困難になった事もあった。その時にはあまり職員が来ていなかったので、大事には至らなかったが。それでも警備員が「ガスマスクをつけたマント姿の何者かが、暗闇の中に消えた」という証言を寄せている。そいつが倉庫の中に姿を消したのを目撃したので、すぐに向かったのだが。
「……どうしても、見つからなかったそうだ。まるで、暗闇の中に溶け込んだかのように、消えてしまったというんだな」
 明らかに、人間業ではない。つまり、どこかのバカがコスプレしてガスをまいているわけではない、と言うことだ。
 そして、この宿舎での事件後。住宅街や工場や会社の事務所などで、毎夜のように似た事件が発生している。
「警察の鑑識でも、このガスのものらしい残留物質は検知できたものの、具体的にはどんなガスかは特定できなかった。加えて、家庭で用いる都市ガスやプロパンガス、天然ガスの類ではない事も確認されている。で、事件の現場全ては、自然にガスが発生する環境ではない。つまり……」
 人知を超えた何者か、おそらくは天魔が、人為的にガスを散布し、殺人および殺人事件を起こしている。
「この犯人、狂ったガス魔『マッドガッサー』と名付けたが、こいつを誘い出し、殲滅する事が依頼内容だ。奴の出現は、必ず夜間。そして、奴は人間や生物が集まっている場所に現れやすい事が判明している。今、大楽毛全域にはガス漏れを名目に、全住民を避難させているから……」
 撃退士たち、すなわち君たちが適当な場所に宿泊してマッドガッサーをおびき出し、対決する。
 
「……難しい依頼だが、やってくれるか?」


リプレイ本文

:午後11時15分。赤平第二高等学校・南校舎一階、理科室。

 市立高校の一室。そこに二人の撃退士がいた。
 今宵、周囲の住居に光は灯らない。それゆえ、ここ……理科室の「光」は目立つ。
「なあ……今更だが、別に恋人装わなくてもよかったんじゃあねぇのか?」
向坂 玲治(ja6214)が問うが、黒瀬 うるか(jb6600)はかぶりを振った。
「すみませんね、先輩。ですが、怪しまれてはおしまいです。それに……」
 それに、敵……「マッドガッサー」なる相手が、どういう基準で住居を襲っているのか、現時点では不明。ならば、思いつく限りの対策や対案を試す必要がある。
 それは、向坂もわかってはいる。だからと言って、ここまでする必要があるのかとも思う。
「さあ、恋人としてふるまってください、先輩」



:午後11時45分。同学校、西側・グラウンド照明装置付近。


 
 第二高の南校舎一階・理科室を臨む場所。そしてグラウンドの照明装置の前にて。只野黒子(ja0049)は油断する事無く待機していた。
 待機しつつ、この学校の作りを頭の中で復習する。
 ここ第二高は、敷地全体の西側半分はグラウンド。正門は東側。敷地東半分の南側下半分には体育館、北側上半分に二棟の校舎。
 それぞれの校舎は、北側に近い方から北校舎・南校舎と呼称。グラウンドに近い校舎西側一階は、北と南とはそれぞれ家庭科室と理科室。その理科室に、向坂とうるかとが囮として今は居る。
 黒子が今居るのは、グラウンドの北西側隅の小屋。そこでは、グラウンド周辺に建てられた照明を動かし、照らせるスイッチがあった。
「……今のところは、怪しい存在は見当たりませんね」
 甘い香りも、まだ彼女の鼻に漂ってはこない。
 まだ、待ち続けるしかない。それを悟った彼女は、ひたすら監視に徹した。


:午前0時。同学校、北校舎屋上。


「明かりが……無いな」
 校舎の屋上、その一角に積み重ねた段ボール箱。そこに潜みつつ、雪風 時雨(jb1445)は呟いた。屋上故、街灯に照らされた周囲の住宅街が見て取れる。
「名物を楽しみたいところだが、人がおらんとどうにもならんな。さて、若き偽りの恋人たちは、いかなる事を語らっているか……」
 かけているコグニショングラスの望遠機能を用い、西校舎の理科室へと視線を向ける。
 なにやら、時間を持て余している様子。正直、今の自分もそう。
 スマートフォンを取り出すと、彼はそれを操作した。定時連絡も兼ね、少しばかり聞いてみよう。二人の恋人が何を語らっているのかを。


:午前0時10分。同学校、南校舎一階、理科準備室。


「『ええ、こちとら変化なしッす』……ッと」
 スマートフォンの画面に映るコミュニケーションチャットにて、安形一二三(jb5450)は会話内容を打ち込んでいた。
 理科準備室は、理科室の隣。そこで彼は、周囲を警戒していた。それゆえに、隣からの会話もついぞ耳に入ってしまう。
『……それでその子がね……そういう事があったの……ねえ、ちゃんと聞いてる?……』
 うるかの言葉に、向坂は適当に相槌を打っているのみ。
「やれやれ、大変そうッスねえ」
 待つ者だけが、大変というわけではないようだ。


:午前1時10分。同学校、北校舎一階、家庭科室近く。


「……『こちら楯清十郎(ja2990)、家庭科室周辺には異常なし』……っと」
 端末アプリのチャットにて、何度目かの定期報告。
 校舎中庭を挟んだ、南校舎の向かい側。その近くの植え込みに楯は隠れ、潜んでいた。ナイトビジョンであちこちへ視線を向けるが、やはりなにも見当たらない。
 退屈しかけたその時、アプリのチャット上に目をやると。

「……『警戒! 甘い臭いが!』」

 黒子からの書き込み。
 それとともに、理科室へと目を向けると。
 二人が立ち上がり、何かと対峙していた。


:午前1時10分。同学校、南校舎一階、理科室。


 アプリのチャットに、黒子が書き込んですぐ。
 強烈な甘い臭いが、うるかと向坂、二人の鼻孔に飛び込んできた。腐敗臭に、甘さを加えたような臭い。
 まだだ。怪しまれないように、できるだけひきつけ、誘き出さなければ。
 が、気付かないふりをする必要もなくなった。
 人影が、グラウンドに近い側の窓に映っていたのだ。
「「!」」
 言葉を交わす必要はない。すでにすべき行動は予想しており脳内で練習もしている。あとは……実行のみ。
 二人が立ち上がると同時に、窓ガラスに銃口が突っ込まれ、気体が放たれた。


:午前1時11分。同高等学校、北校舎屋上。


『マッドガッサー出現!』
 それを黒子からの電話で知った雪風は、即座に行動に移る。
「スレイプニル!」
 高速詠唱を用い、呼んだ召喚獣に飛び乗る。そのまま校舎を飛び越え、グラウンドへと向かった。
 だが、空中からの俯瞰にて。
「……!? これは!?」
 彼は一瞬、自分が見た光景を理解できなかった。
 教室から、グラウンドに飛び出した向坂とうるかの姿を見たが……何者かが「瞬間的に移動し、二人の先に回り込んだ」のだ。
 彼は、予感を覚えた。この戦い、予想より骨が折れるかもしれない。


:午前1時12分。同学校、南校舎一階、理科準備室窓。


「マジかよ、ありえねえ!」
 安形は、そいつ……マッドガッサーへの驚きを隠せなかった。
 黒子からのチャットとともに、自分の元にも「甘い臭い」が来て……窓から覗くと、すぐ近くに「そいつ」がいるのを確認した。
 すぐに二人はグラウンドに逃れたのが見え、そして「そいつ」の姿も見えた。
 が、マッドガッサーが振り返り、二人の姿を認め、駆け出したと思ったとたん。
 そいつは、猛烈なスピードで駆け出したのだ。
「くそッ、うだうだ悩んでもはじまんねえッ! いくぜ!」
 雪風同様に、相棒たる召喚獣……スレイプニルを召喚し、窓から飛び出す。
 その途端……。
 世界に、光が満ちた。


:午前1時13分。同学校、グラウンド。


 照明のスイッチを全て押し、黒子はそいつの姿を光の下に突き出した。そのまま、敵の元へと駆け出す。
 校舎方面からは、雪風と安形が、それぞれスレイプニルを伴い接近してくる。楯も走ってくるのが見えた。
 グラウンドの中心部には、うるかと向坂。向坂はタウントを用いて、「そいつ」の注意をひきつけているはず。
 改めて、「そいつ」の姿を見た。「そいつ」は、確かに全身が黒ずくめ。目撃証言通りに、顔はガスマスク。頭には漆黒の帽子またはヘルメットらしきものをかぶり、頭髪も含めて完全に隠していた。
 喉から下、胴体や手足も、すべてが黒に統一された衣服で包み込まれ、地肌は露出させていない。着衣はスーツのようにも、どこかの国の軍服のようにも見えるそれ。全ての生地が黒く、体の線が見えない。背にはためくたっぷりしたマントが、体型を見極めるのを更に難しくしている。
 マントの下、背中部分には何かのふくらみが。そこから伸びているだろうチューブが、手のライフルに続いている。……目撃証言にあった、ガスタンクとガスノズル銃に相違あるまい。
「……なるほど、まさに……マッドガッサーの名にふさわしいです」
 黒子の目前で、そいつはガスノズル銃を構え……濃い煙を周囲へと放出しはじめた!

 ガスが放たれ、周囲の空気が濁り始めたその時。
「……はっ!」
 うるかがマーキングを打ち込んだ。マッドガッサーの右腕に、アウルの塊が撃ち込まれる。
 マッドガッサーは毒ガスを放射し続け……それを煙幕のごとく、身にまとった。
「くっ! 黒瀬、場所わかるか!?」
「はい……前方11時の方向……待ってください! 三時の方向……右です!」
 右に視線を向けると、向坂はそこに……認めた。
 移動したマッドガッサーが、そこにはいたのだ! それも、1mと離れていない地点に!
 それを見て、向坂は悟った。こいつの能力の一端を、ガス以外の能力の一端を!
「! こいつ、超スピードで移動できるのか!」
 が、気付いた彼に対し、マッドガッサーは首をかしげてみせた。まるで、マスクの下で嘲っているかのように。
 構えたガスノズル銃の先端から、大量のガスが容赦なく吹き付けられた……。


:午前1時14分、同学校、グラウンド。


「待ちやがれ!」
 ガスの放射とほぼ同時に。グラウンドに響き渡る声が。
 スレイプニルを伴った、バハムートテイマーが二人。その片方・安形が……。
「てめェは、この俺が倒す! スレイプニル、行け! 『トリックスター』!」
 攻撃を放った! 召喚獣スレイプニルが、神速のきらめきとともにマッドガッサーへと襲い掛かったのだ!
 スレイプニルの蹄が地面を蹴り、光の速さで移動する。が、マッドガッサーも負けじと素早く動き、その攻撃のほとんどを回避した。
 ガッ!
 が、回避はされたといっても、「ほとんど」であり、「全て」ではない。スレイプニルが、強烈な蹴りを一撃のみだが……マッドガッサーの胸に直撃させていたのだ。
 無様に吹き飛ばされ、後方へと転がるマッドガッサー。
 そこにできた隙により、向坂とうるかはガスの直撃をまぬがれ、他メンバーは布陣を張る時間を稼げた。
 黒子が西側を、楯が北東を、安形と雪風が南東、そしてうるかと向坂が南西にと散らばり……マッドガッサーを囲む。
 ガスはまだ、濃く漂っている。拡散する様子はなく、塊のまま漂い続けていた。
 すぐに立ち上がったマッドガッサーは……状況に、気が付いた。
 自分が囲まれている、という状況に。


:午前1時16分、同学校。グラウンド。


「『ハイブラスト』! ……ちっ、あてが外れたか」
 スレイプニルの力を借り、雪風は雷状のエネルギーをガスへと放ったが……それは、ガスを多少吹き飛ばすのみに終わった。ガスが本体かと思ったが、どうやら違っていたらしい。
 他の皆も、マッドガッサーへと攻撃をしかける。が、毒ガスを濃く、大量に放出し続けるため、視界が効かず、接近できないでいた。
「……黒瀬さん。マーキング、まだ効いていますか?」
 うるかの隣りに移動していた楯が、彼女に問いかけた。その手には、飛龍翔扇が握られている。
「ええ……来るわ! 正面から接近!」
 その言葉が終わらぬうち、マッドガッサーが突進し……二人の間を通り抜け、二人の真後ろに出現した。それとともに、ガスを放つ!
 が、楯はそのガスを多少浴び、吸い込んでしまったが……同時に、携えていた武器を放つ!
 飛龍翔扇、龍が描かれた大振りな扇子が飛ぶが、それはマッドガッサーの目前まで飛ぶと……明後日の方向に飛んでいってしまった。
 が、マッドガッサーは自分の右腕、ガス銃を持つ右腕を見下ろした。
 鋼の糸、カーマインが巻き付いている。それを握っているのは、楯。
「足を狙いましたが……案外、手ごわいですね」
 しかし、状況が有利になった事を楯は悟った。動きを封じたら、あの超スピードも使えない様子。ならば!
「ならば、動けない間に攻撃させてもらうぜ!『神輝掌』!」
 向坂の読みが当たった。それとともに、攻撃も当たった。輝ける光の力を帯びた、強烈な一撃が……マッドガッサーの胸部に命中する。
 ガスを撒き散らしつつ、マッドガッサーはもんどりうって後方に倒れた。すかさず、黒子がスナイパーライフルで、うるははマシンピストルで、その小癪な怪人へと狙撃。弾丸は容赦なく怪人へと打ち込まれ、小気味の良い音を立てる。
 うるはの弾丸が、マッドガッサーの背中、タンクらしき部分を撃ち抜いた。それとともに、小爆発が。
 どうやら背中のタンク、ないしは重要な部分に命中したらしい。何度も何度も小さな爆発が続く。ガス銃の先端からも、ガスは出ない、出てこない。
「おっと、逃がしませんよ!」
 逃れようとするマッドガッサーだが、楯はカーマインを離さない。痺れと麻痺があるものの、手を離さない事くらいはできる。
「『ハイブラスト』!」
 雪風が、再びハイブラストを、今度は動けぬマッドガッサーへと放った。その直撃を受け、怪人は膝をつく。
 武器も、逃走も封じた。勝利を確信し、とどめとばかりに安形が最後の攻撃を放った。
「これでとどめだ! カスなヴィランは、ガスごと退場しやがれ!『ブレス』!」
 強烈な、スレイプニルの一撃。この一撃で、マッドガッサーは倒れる。勝った!
 が、その確信は、裏切られた。
 マッドガッサーは、あえてその一撃を受けたのだ。召喚獣の攻撃を受け、カーマインが巻き付いた右腕が引きちぎられる。
 しかし、右腕を失った事で、カーマインの束縛から解放され……さらには、強力な召喚獣の一撃を利用し、グラウンドから撤退したのだ。
 学校の西側。フェンスに受け止められるが、そのフェンスも倒れ……マッドガッサーは校舎外へと飛び出す。
「なっ……!」
 安形は声を失った。が、それは他の皆も同じ。
 素早く立ち上がり、マッドガッサーは闇の中を駆け出した!
 
 そして、数秒後。
 遠くの方で、爆発音が響いた。


:午前1時45分。学校近く、廃車置場。

 
 安形はすぐに、スレイプニルを戻し、ヒリュウを召喚。マッドガッサーの姿を捜索した。
 そして、発見した。そこは学校近くの廃車置場。そこで、廃車を巻き込んだ……何かの爆発した痕跡を発見した。
「くそッ! 勝てたと思ッたのに! ……すんません、俺が未熟なばッかりに」
 ぎりぎりという音が聞こえそうなほどに、安形は歯をかみしめている。
「いや、あんなやり方で逃走するなんて、誰も予想できませんでした。あなたのせいじゃありませんよ」
 黒子がフォローを入れつつ、皆とともにあたりを調査する。
 先刻に放った、タンクへの攻撃。それが功を奏し、マッドガッサーごと爆発した……。そう考えるべきだろう。
 しかし、死体が見つからない。少なくとも、マッドガッサーが滅んだという証拠が欲しかった。
「来てくれるか? こっちに……」
 雪風が、何かを見つけたらしい。皆で行ってみると、道路の排水溝の近くに、ガスマスクが転がっていた。
「……どうやら、奴は倒せたって事でいいのかな」
 向坂が呟くが、次の瞬間。
 全員、凍り付いた。
 ガスマスクが、排水溝に落ちたのだ。否……排水溝から伸びた黒い腕が、ガスマスクをつかみ……暗黒の中に引き込んだように見えた。
 すぐに皆で駆けつけ、排水溝を開き明かりを照らす。が……そこには何もなかった。
「……奴、なのか?」
 暗かったし、はっきり見えなかった。気のせいだ。向坂はそう言いたかったが……言えなかった。

:後日。

 それから、大規模な調査が行われたが、マッドガッサーらしき存在は目撃されていない。事後調査が終了し、住民が戻ってから現在。やはり……事件も無く、目撃もされていない。
 あの黒い手は、幻か? マッドガッサーは倒したのか? それとも……。
 が、撃退士たちは確信はなくとも、確実に誓った。
 どうであっても……もしも次があったら、必ず確実に倒す、と。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
戦場を駆けし俊足の蒼竜・
雪風 時雨(jb1445)

大学部3年134組 男 バハムートテイマー
V兵器探究者・
安形一二三(jb5450)

大学部3年109組 男 バハムートテイマー
能力者・
黒瀬 うるか(jb6600)

大学部3年293組 女 インフィルトレイター