●忍び寄る恐怖
青い空の下、集団が動いていた。それ以外、動く姿はまだ見えない。
目指すは連絡のあった野原である。一人ひとりの表情は、険しい。総勢25名の撃退士達が手に武器を持ち駆ける。駆ける、駆ける!
やがて目の前に広がったのは、タンポポと土筆。
否、一面に広がる蝶のサーバント!
あちらこちらに塊を作りながら、またはちらほらと舞うその姿は圧巻だった。
注目させて散り散りになっている蝶を集め、広範囲攻撃によって数を減らし、そのあと五人一組、五グループで壊滅していく。
という、今回の作戦は数の多い戦場では、有利に働くことになるだろう。
勿論仲間達で声を掛け合い、敵味方無差別になる攻撃を持っている人の範囲や、孤立しないように配置するのを忘れない。
「お前達の相手は俺と光坂がしてやる、かかってきな」
「さぁ、私達の元にきなさい!」
周囲の注目を集めるオーラを放つ地堂 光(
jb4992)と光坂 るりか(
jb5577)。二人の不敵な台詞に、ばらばらになっていたものも含めて一か所に集まってきた。
当たり前だが、この二人に集中的に集まってくる。ぶわっと一固まりになるそれは、巨大な球体のようにも見えた。
一匹一匹ならばそこまで脅威ではない。けれど、それが一固まりになれば……。
流石に息を飲む者も居た。けれど……そこにユウ・ターナー(
jb5471)が敵の密度が一番濃い所を探した上で、闇の力を纏った腕が強力な一撃を直線状に放っていく!
大切な仲間にその塊をみすみす行かせるわけにはいかない!
「蝶々サンには悪いケド、ユウ、頑張っちゃうんだカラねっ! ここのは、ユウに任せて☆」
そんな元気な声があがり、蹴散らすまた別の場所では香奈沢 風禰(
jb2286)が炎の球体が直線状に蝶達を倒していった。
ぶわっと固まりが散ったり、また密度を増やしたりを繰り返す。それは一つの意思をもった塊のようにも見えて。
「蝶をバッサバサなの〜♪ こっちは任せてね〜」
だがしかし、そこで怯むわけがない。びしぃっとまた、数匹地面に落した。少し離れた場所で、レイ・フェリウス(
jb3036)の闇の力を纏った腕が強力な一撃を放ち、蝶達を地面にと落としていく。
「なにか、巨大な別の生き物のよう、だ……な?」
イワシとか、小さな魚が大きな魚に食べられないように大きな魚の振りをする、アレににていなくもない。
というか、まさにそんな感じかもしれなかった。ヴェーラ(
jb0831)の闇の力を纏った腕も直線状の敵を巻き込んでいく。
「これだけ多いと蝶というより……なんだろ……荒い霧みたいな感じ?」
ぼそりと呟いた先では、蝶がぱたぱたと落ちていった。そう、見えなくも……ないかな? と近くに居た数名がそっと頷いたのを見逃さない。
「こんなにいっぱいなの、ぜんぜんめるへんじゃないー!」
ファラ・エルフィリア(
jb3154)のその切実な言葉に合わせて、炎の球体が直線状に蝶達を落としていった。焼きつくす!! その決意は炎に負けず劣らず熱いのである。
流石に数は減ってきたとはいえ、その……メルヘンってこう……蝶々がひらひら〜ってまばらにいるものですもんね。っていう視線が数人いた気がした。
どちらにせよ、メルヘンだったとしても倒すことには変わりないのだが。
同じく、別の場所で炎の球体が蝶達を燃やしつくしていった。ラウール・ペンドルミン(
jb3166)だ。
「いっちょ気合入れるか!」
うしっと気合を入れて、さらに炎の球体を作っていく。その背を守るようにシールドを張った仲間が警護する。
守る者達がいるからこそ、こうやって一斉に攻撃だけに集中できるのだ。
負けるきがちっともしない!
「とてものどかな光景ですのに……流石にこの大きさ、この大群ですと、些か異様ですわね……」
残念でならないと瞳を曇らせ、リラローズ(
jb3861)の闇の力を纏った腕が蝶をパタパタと地面に落していった。
地面に落ちたその蝶々は蝶っていうか、また別の生き物のようにも見えた。同じく闇の力を纏った腕を振るうのはルルウィ・エレドゥ(
jb2638)だ。
「ほえ〜おっきな蝶々がいっぱいなんだよ〜」
いっぱいっていうか、芋洗いを超越したというか。これだけやってもまだまだいるのだ。早く野原を取り戻して、お散歩がしたい。
その近くでシルヴィ・K・アンハイト(
jb4894)の炎の球が蝶達を燃やしていく。
(今の私でどこまでやれるか)
その瞳は蝶達を見据えたまま。どこまでやれるか、それはもう少ししたら分かるだろう。レイラ・アスカロノフ(
ja8389)が駆ける!
「やっつけるよ!」
敵にたかられてはならないと、突出しないように気をつけながら皆が攻撃していない方向へ、アウルを一点集中させ、直線状にダメージを与えていく!
その背に背を向ける形で立つのはアルクス(
jb5121)。
「うわぁーあ……流石にこの数はきれいとか言ってられないね。と、こっちは僕に任せて!」
その言葉通り、アルクスの前に居る蝶達は、色とりどりの炎に巻き込まれて散っていった。
広範囲の攻撃が、縦横無尽に戦場を駆け抜けていく。自然と守る力を持つ者は、その身を盾にして最初の総攻撃を補佐し、守る力を持たぬ者は逸れてくる蝶を叩き落としていく。
それでも、未だに群がる蝶の群れ。
まだまだ、我が有利。そう言うかのようにぶわっと蝶達が持ち場を守るように広がって行く。
それを逃すわけにはいかない。
自然とそれぞれの班ごとに固まって、今一度仲間達を見る。
力強く頷く面々。
「「「いくぞ!!」」」
その言葉と共に、戦場をかけぬけた。
ふわりとそれによって出来た風たちが、タンポポを、土筆を、そして全てを揺るがしていく………。
●〜草原 右方向〜
草原のやや右側に移動したのは、銅月 零瞑(
ja7779)達だった。
目の前の大群は、まだまだ元気いっぱいに動いている。
まだまだ気は抜けない、抜くつもりもない。
昆虫の大群が発生することはままあること。自然相手ならば過ぎ去るのを待つのみ。けれど、これが天魔であるのならば……。
(撃退できるな……)
「こちらは引き受けよう」
曲線的な動きで、漆黒の大鎌を振う。はらりと真っ二つに引き裂かれ、一匹、と地面に落ちた。その死骸を踏みつけ、でも花は出来るだけ踏まぬよう、地面も気にしながらの行動である。
その背を見つめるように動く姿。ふわりと舞ってきた蝶を撃退する! シルヴィだ。
奇門遁甲を使用し、方向感覚を狂わせる。複数の蝶達が、右往左往し、果ては同士討ちを始めた。これ以上ない隙である。確実に地面に叩き落としていった。
「幻想の中で逝け」
また一匹、その言葉通り地面にと転がる。
「悪夢ねぇ……」
アイリ・エルヴァスティ(
ja8206)がそんな様子を見ながらぽつりとつぶやく。その瞳が、怪我を負った光の姿を捉えた。
先ほどのタウントの影響か、その身は他の仲間よりもぼろぼろである。けれど、その身を止めることなどしない。ならば、癒すまでだ!
「治療します」
声をかけ、祝福を与える。それはさらに、「魔眼」と「加護」の力をも与え力に変えていく。
「感謝だ!」
お礼の声が上がった。この身を動かす力が、光にとって嬉しい。
「頑張って下さい」
再び視線を走らせる。皆でやり遂げる……それが、アイリ達の目標なのだから。私は私の出来ることをする……。そう、誓う。
だから、普段より力を込めて蝶をケリュケイオンでぶん殴る! ぱたりと地面に落ちていった。
再び湧き出た力を攻撃にと変える光。アイリのすぐ近くで攻撃を再び開始する。
(この程度、姉さんのお仕置きに比べれば……!)
すみません、それはどんなお仕置きだと言うのですか。と心の声が聞こえていたら絶対に突っ込まれていたと思われることを呟く。
犬の幻影が直線状に走って行って蝶を地面に叩き落とした。
(護る戦いか……)
仲間達の姿が見える。皆それぞれの役割を守り、一つの目的を果たしていく。仲間と言うものは不思議なものだと、小さく呟いたその視線上には、アルクスの姿。
先ほどの範囲攻撃も終了し、グループ毎に別れた今。下手に範囲攻撃を加えてしまえば仲間を巻き込んでしまう。
だから……。漆黒の大鎌の攻撃に切り替える。その攻撃も、仲間に当たらないように、薙ぐようにではなく縦に振るようにと心遣いも見せて。
(下手に横に振り回すと仲間に当たるかな……?)
勿論攻撃力は変わらないので、ぱたぱたと蝶が地面にと転がって行く。
回復が飛び、傷を癒し、そして攻撃を、と繰り返していく。
「海賊系なめんじゃないよ!」
アイリの声が上がり、守るために奔走する。零瞑の射程を考えて使い分けた攻撃が舞う。気がつけば、皆の背中が合わさって。
そのうち、数がまばらになり連携も取りやすくなった。
「さぁ、行こうか!」
攻撃が当たって行く。
●〜草原 左方向〜
草原のやや左側に移動していったのはメイシャ(
ja0011)達だ。
武器が太陽の光を受けて、きらきらと輝く。各々が使いやすい武器を手に向かう。
(久々の戦闘……思い切りやらせて貰おうか。このままでは腕が鈍ってしまう……)
フリスビーが今まさに向かってきた蝶を撃ち落とす! 地面に転がったそれを見て、すぐに視線をあげた。まだまだ敵は居る。
炎を表す模様が、光を受けきらりと反射しそのままスイングさせるように薙ぎ払ったそれは、また一匹と地面にと叩き落とした。その脇をすり抜けて飛んでいく蝶が視界に入った。
それに対処しようにも、また一匹と目の前に飛来してくる。
「そこ……、気をつけてな……」
せめて声だけでも、と隣に立つ風禰に声をかければ、そちらの方向にと向きを変え札を投げつける。
「ありがとう!」
「……感謝される覚えはない……」
照れてそういうのが分かったのか、くすっと微笑みを零す。けれど、すぐに視線をきっと見据えた。
「滅びろ」
小さな爆発が起こった。それを聞きながら、私市 琥珀(
jb5268)が声をかける。
「範囲攻撃って凄いねぇ」
そんなことを友人である風禰に言えば、頷いた。確かにあれは圧巻だったろう。戦場を入り乱れる味方達の攻撃は、とても心強いものだったのだから。
だがしかし、その会話の最中もお互いの攻撃がやむことはない。爆発を縫うように蝶達が飛来し、頬を、腕を足を切り裂いていく。
琥珀が小さなアウルの力を風禰に送り込む。
「大丈夫? しっかり!」
「ありがとう!」
その言葉に笑みを零した、自分のやれることをやろう。そう思いながら視線を動かす。まだまだ油断は出来ない!
そんな琥珀と自然と背中合わせになったのはリラローズだ。赤い髪が揺れる。その指先は翡翠から矢を放つ。
「……未だ、減らずですわね」
味方が攻撃範囲に居ないことを今一度確認し、三日月のように鋭い無数の刃を生み出し、攻撃を行っていく!
それは辺りを一掃する力となった。
グレイシア・明守華=ピークス(
jb5092)がその攻撃をみて、分断されないようにと同じC班に声をかける。
「あんた、出過ぎてるよ! 気をつけてよね」
「おっと……ありがとう!」
その言葉のお陰で、一人で飛び出すこともなかった。琥珀がまた駆けていく、それに合わせるようにグレイシアも動いた。
回復は今の攻撃により必要性がまた一つ下がった。
「こっちの方はあたしに任せてよ」
ならば、攻撃に回るのみ! 武器を構え、そして……自分への圧力はスクールシールドとシールドによってで軽減する。
少しでも長く、耐えて蹴散らしてくのみだ。
けれども、やはり回復だって必要になって。血が舞った。
「癒すよ!」
「ありがとう!」
そんな言葉を何度繰り返しただろうか? 何度、その背を守りあい、蝶を叩き落としただろうか?
メイシャの盾が攻撃を防ぎ、琥珀の光り輝く星の輝きが蝶を穿つ。
「一体ずつでも、確実に……少しでも皆の手助けを!」
回復に回ったグレイシアのアウルの光がリラローズを癒す。
やがて、皆の力により終わりが見えてきた。
「あと少しだ、頑張ろう!」
●〜草原 中央〜
草原のほぼ中央に移動するのは水城 要(
ja0355)達だ。
風が髪を揺らし、土を踏みしめるその足は止まることはない。
女性に間違われるその美しい顔を少々ゆがませる。
「蝶々ですか……普通に舞ってれば美しいものですが……」
流石にこう多いと雅も風流もないと苦笑を零す。確かにこんなに舞っていたらそんなものなさそうである。
光を背にするような形になってから動き出す!
「水城 要……参ります……っ!」
矢が刺さり、蝶を叩き落とす。次に、大太刀に持ち替えアウルの力を込めて、強烈な一撃で叩き落とす! その余りの激しさに、はらはらと蝶達が逃げるように散った。
けれどその蝶の大群は攻撃の合間を縫っては攻撃を加えてくる。頬を腕を、武器を持つ手を切り裂いていく!
回復に奔走するのはバルドゥル・エンゲルブレヒト(
jb4599)だ。同じ回復を担うアレクシアと回復が被らないように声を掛け合う。
「るりか殿を癒そう」
小さなアウルの力がるりかの傷を癒していく。
「無事か?」
先ほどのインパクトの影響もあり、かなりの傷を負っていたるりか。
その傷が再生により塞がって行く。
「ありがとうございます」
これで、進撃が可能だ。ふっと意識を蝶に向け、その足を蹴りだした! シルバーレガースが蝶を一匹一匹と地面に落していく。
今の所は回復の必要なしと、バルドゥルが武器を構えた。
「さて、これほどの多数敵相手はそうそう無いが……」
普段よりも強烈な一撃が、蝶を捉え地面に落させる!
「戦は数で押せばよいとうものでは無い故……な」
だから、あせらず落ち着いて、確実に殺っていく。そして、また一匹、頭上に飛んできた蝶を地面にと叩き落とした。
「これだけいるとちょっとしたホラーだな……」
流石に、ホラーですよね分かります。そんなことを言いながら、アレクシア・フランツィスカ(
ja7716) が傷を負った仲間を癒す。
小さなアウルの力が要の傷ついた体を癒し、再生させていった。
「無事か?!」
大丈夫だという言葉を聞いて、ほっと一息つく。
他にも感知能力を使って、不意打ちされないよう気を配るのも忘れない。
すぐ傍に居たヴェーラに声をかける!
「そっちだ!」
その言葉に動いたのはるりかだった。ヴェーラとの間に割入り、ランタンシールドでその蝶の攻撃を受ける!
「大丈夫?! ここは任せて?」
「ありがとう!」
その後ろから、ヴェーラの目に見えない弾丸が、蝶にと吸い込まれていった。穏やかな笑顔が、蝶を見据える。
前にでる、とるりかに声をかけ、今一度前にでる。仲間を巻き込むわけにはいかない。今一度、仲間がいないかどうか確認する。
全員後ろにと居た。
「さぁ、散りなさい!」
三日月のように鋭い無数の刃が蝶達を巻き込んでいく。いざという時までとっていた攻撃だ。
ばらばらばらと蝶が巻き込まれ、地面に落ちていった。
蝶達が死角に入ってこようとすれば声を掛け合い、攻撃を繰り返す。
要が助走もなしに飛び上がる! 蝶の塊から逃れ、光り輝く星の輝きを武器に込めたアレクシアがその蝶を叩き落とす。そのアレクシアを守るようにバルドゥルの盾が蝶を叩き落とす。
数もかなり削れてきた。
ここからが、力の見せ所……皆の攻撃が熱をました。
「さ、最後まで気を抜かずにね!」
●〜草原 斜め上〜
少し離れた方にかけていったのは早見 慎吾(
jb1186)達!
蝶達を見据え、武器を大きく振りかぶる面々。見知った顔達が、今から行う戦闘に心強い。
自然と笑みが口元を彩る。それは、勝つための力となる。
「さぁ、やろうか」
皆の壁になるように前出た。その手からは癒しの力が注がれる。
「私が癒しますから、心おきなく戦って下さい」
皆が無事に、戦えるように……隊列を崩さぬように注意しながら回復をしていく。その動きは、同じD班にとって力強いものになって。
「負けるわけには、いきませんよね」
ふっとその瞳に決意が漲る。その隣にいるのはファラだ。
「ちゅーちゅーするよ!」
ちょっと体力に心許なくなった。ダメージを与えつつ、その魂を吸い取れば、漲る力。まだまだいける!
「よっし、いくよー! ちゅどーんするよ!」
味方を巻き来ないように注意しながら、爆発を起こす魔法陣を出現させた。それがダメージを与えていく!
「切り裂け」
クレセントサイスを放ったレイ・フェリウス(
jb3036)が雷鳴の魔法書から雷の矢の様なものを生み出し、攻撃していたケイン・ヴィルフレート(
jb3055)と場所を交代する。
(ファラ、時々無茶するし……心配だね)
レイの心の中は妹分のファラを心配していたが、そのファラは元気に攻撃中である。大丈夫そうだと、目に見えない弾丸を蝶に打ち込んで行った。
「がんばろうね〜」
慎吾に背を預ける形で攻撃を加えていく、まだ、回復は必要なさそうだ。
「どんなに多くても倒して行けば一緒だよ〜」
「そうですね」
二人で視線を交わし合い、微笑む。
そのうち、回復も交代で行うことになるだろう。でも今は。
零にするために、攻撃を。
「にーちゃにたかるなし!」
びしぃっとたかっていた蝶を蹴散らす、ファラにレイがお礼を言う。そんな声を聞きながらラウール・ペンドルミン(
jb3166)がしょっぱなから全力で行っていた。
「いっちょ気合入れるか!」
魔法陣を出現させ、にっと笑う。
「ぶちかますぜ!」
それは、目の前に居る蝶達をばらばらと落ちていく。だがしかし、油断は出来ない。
「俺ァ自己回復あるから回復は後回しにしてくれ」
回復が尽きる可能性もあるし、と言えば、主に回復を担う慎吾とケインが頷く。
自己回復があることもあって、回復よりも攻撃の手数が増えた。お陰で早くに数が減って行く。勿論、一撃では落ちずに何度か攻撃をあいまみえることもあったのだが。
慎吾の光り輝く星の輝きがこもった武器で蝶を落とし、深い闇を纏ったレイが蝶から身を守りながら攻撃する脇で、ケインのアウルの光が癒す。まだやれると魂を吸い取る術を使いながら、敵を落とすラウール。
あともう少し、皆の動きが一つの刃になった。
「いっくよー!」
戦場に声と音が響き渡った。
●〜草原 斜め下〜
逃がしはしないとかけていった先の塊を狙うのはユウ達である。
土を踏みしめ、駆け抜ける!
まだまだ元気いっぱいの蝶達に、負ける気はしないと挑みかかって行く。
太陽光に背を向け、少しでも見やすいように。その行動のおかげか、死角になる場所に敵を発見した。
「レイラおねーちゃん、危ない!」
ユウがレイラの後ろに居た蝶に気がつき、目に見えない弾丸を飛ばす! それは炸裂し、蝶を地面に落した。
「ありがとう!」
レイラがお礼を言いながらも、その手は止まらない。ユウもまた、一匹と、時に守りに入りながら落として行った。
「こう多くちゃ視界悪くてたまんないねぇ……!」
レイラの体内でアウルを燃焼させ、その力で加速された炎熱の鉄槌を一閃させる! その頬を、ぱしり、ぱしりと蝶の羽根が叩いていった。
流れ出る血を無造作に拭えば、手が赤く。けれど、まだ、戦える。仲間達が攻撃の手を緩めていない。
フェリス・マイヤー(
ja7872)の癒しの力が戦場を駆ける。
「がんばって!」
「ありがとう、助かるよ!」
光が細胞を再生させていく。完治したのを見た後、迫りくる蝶にいつもより強い打撃を与える。ぱたりと地面に落ちた。
「うぉりゃ!」
さらにまた一匹と数をこなしていく。まだまだその手を止めるわけにはいかない! きっと見据えたその先には、まだまだやるよ? と言いたげに羽根を揺らす蝶達の姿が。
「ふんぬ!!」
どっかーんと当てに行った。
ファリス・メイヤー(
ja8033)がその近くで攻撃を加えていた。羽根が顔や腕を擦っていくが……まだ大丈夫、まだ行ける!
「さぁ、殲滅しましょう」
一匹、一匹とたんたんとこなしていく。普段より力を込めたその攻撃は、羽根を散らすのには十分で。
「そちらに行きましたよ!」
すいっと他の班の方へ横切って行ったのを見逃しはしない。
その言葉に、他の班で行動に移れるものが素早く動いた。
「皆でやり遂げてこそ、でしょう?」
小さく、微笑む。その隣で、しゅんっとちょっとだけしてしまったのはさっきまで範囲攻撃に奔走していたルルウィだ。
さっきの総攻撃時、どうやら知らない間に蝶の切り裂き被害にあってしまっていたらしい。服がほんのちょっと破れていた。
「これ以上当たらないようにするんだよ〜」
それに、当たったら痛そうだし〜、と小さく呟く。マジカルステッキで、今まさに自分に向かってきた蝶をぶん殴った。
服の恨み、というわけではなかろうが……ちょっとだけ攻撃力が上がっている気がしないでもなかった。
癒す力も、限りがあるから。だから余計に自分で自分の身を守る。確実に、数は減って行き。
やがて、終わりが見えてくる。
「まだまだぁ!」
「消えるがいい!」
フェリスとファリスの声が響く。あと、少し、だからこそ、気を抜かずに! 自然と皆背中合わせになる。
「よし、じゃんじゃんいくよ!」
その言葉に、皆の攻撃が一つになった。
●そして終わり
騒々しい音が、戦場をどのくらい支配していただろうか。
ひとつ、ひとつ、またひとつ、と音が消えていく。
やがて、最後の音が止んだ。
それは耳が痛くなるほどの静寂だった。
先ほどまでの騒々しいまでの音が消え、静寂が満ちる。
(((終わった……?)))
まだ警戒は解けない。感知を持っている者が辺りを警戒するが、特になにもいなさそうである。
スキルだけでなく、目で見て、確かめる。
地面に転がるのは蝶の死体の山。飛んでいる物はいなかった。これで、終わりかと皆で確認しあう。
漸く壊滅を全員が確認したころには、日が真上まで上がっていた。
だがしかし、それぞれの働きがあったからこそここまで速やかに壊滅できたのであろう。
今日会ったばかりの仲間が居て、いつも一緒の仲間も居る。
誰が言ったか分からない。けれど、歓声があがった。
「「「やったぁぁぁ!!!!!」」」
手を叩きあい、肩を叩きあう者がいる。一人喜びをかみしめる者も。友達同士、喜び合うものも。
いつしか、皆の顔に晴れやかな笑顔が広がっていた。
このあとは、お楽しみの時間を持ったとしても文句は言われないだろう。
それぞれ、思い思いに過ごすことになる。
●楽しみの時間!
青い青い空の下、鳥達が鳴き、風が心地よい。
あちらこちらに散らばる人々。
かなり荒されていたが、それはしょうがないだろう。
ただ、奥の方はまだ荒されていなかった。そこで楽しむのもいいだろうし、残っているのを楽しんでいもいいかもしれない。
「お疲れ様だ、怪我はないか?」
アレクシアの言葉に手が上がる。それでは……と治療にと向かう。
「終わったー! あれだけいっぱいいるときっついねぇ!」
フェリスの言葉に近くに居た人の笑顔が返る、その通りだと頷きあう面々。
本当にあれだけは疲れただろう。
その近くでは、土筆狩りに精を出すファリス。曰く。
「体に良いと聞きました。持ち帰って調理してもらいたいですね」
とのことだ。アレクシアと同じく治療をしていたアイリは首を傾げた。
「それにしてもどうしてこんなに大量発生したのでしょう……?」
その意味を知るのは、作った張本人だろうか? レイラがのんびりとタンポポを見ている。
(蒲公英って好きなんだよね可愛くて!)
これを楽しめるのも、頑張ったお陰だ。その隣で、ヴェーラが首を傾げていた。
(蒲公英で花冠でも作ろうかしら……でも花冠ってどう作るんだったかしらね?)
そんな花冠を作っているのはラウール。
「ま、こんなもんかな」
ふとその視線がヴェーラを捉えた。
土筆狩りをする慎吾。
「花粉アレルギーに効くんだよなあれ……まだあるかな…」
(蒲公英コーヒー作りたいかな……)
まだまだ沢山あるので、是非に採って行ってもらいたい。
二人仲良く飲み物を飲むのは風禰と琥珀だ。
「疲れたなのなの♪ 一服なのなの♪」
「うん、疲れたね〜……もうちょっとのんびりしていこうか」
甘くて美味しいイチゴオレと、冷たい牛乳、二人微笑みあう。
「たんぽぽは食べられるんだよ!」
ファラがきりっといって食べ始める。
「蒲公英は、食糧……なのか」
愕然とするレイにケインがのほほんと笑う。怪我人は居ないようで。
「蒲公英、コーヒー用に持って帰っちゃ駄目かな〜……?」
そんな中、整地をするのはリラローズだ。
(綺麗にいたしますわ……少しでも……)
バルドゥルがのんびりと皆を見つめながら野原を楽しむ。
(ゆっくりとするのもいいものだ……)
のんびりと空を眺めながら、働きながら、笑いあいながら。
いつか、近い未来か遠い未来かは分からないが、今日のことを思い出した時。
それは確かな撃退士となる、一歩になったと、思うのだろうか……?
それは、未来の自分達が知っている。