●兎たち現る
杵を背負った兎たちが、ばばーんと山盛りのお月見団子を守るかのように立っていた。
一体どこからそのお月見団子を手に入れたのか。
誰が用意したのかと疑問は募れど、そのお月見団子は人が食べれるちゃんとしたお月見団子である。
甘い香りをあたりにまきちらしながら、兎たちはそんなお月見団子を守るかのように立ったまま微動だにしない。
そんな兎たちを熱いまなざしで見つめる姿があった。
陽波 透次(
ja0280)である。
彼は装備の強化費のために貧乏を経験したことがあり、飢えをしっていた。
だからこそ、お月見団子が粗末にされてしまうは悲しく思う。
「お団子は一つ残らず救ってみせる……!!」
(そして、お腹一杯頂くんだ……)
その決意はとても強い。
蓮城 真緋呂(
jb6120)も決意の強さでいえば同じぐらいだ。
「食べ物を粗末にするなんて言語道断!」
それに頷く皆に頷き返し、さらに言葉を紡ぐは。
「月に代わってお仕……」
おっと、これ以上はいけないと真緋呂が口を閉じるその傍らで、リベリア(
jc2159)が彼女の持って来ていた荷物をみていた。
ココアや抹茶、フルーツの缶詰がちらりと覗いてるのを見た後、その近くで今回一番の大荷物だった月乃宮 恋音(
jb1221)へと視線をやる。
彼女は今回、出来るだけお月見団子を救うためにブルーシートを用意していたのだ。
新品の物をという配慮のお陰でとても綺麗なブルーシートを敷いていた恋音は、漸く持って来ていた全部を敷き終え一息つく。
これなら落としたとしても食べることができるだろう。
まだ兎たちも間合いを図っているのか攻撃は仕掛けてこない。
「どこに置きましょうか?」
ゆえに、その問いに答える形で、どこにお月見団子を置いておくか話し合いをすることが出来た。
皆で話合った末にでた答えは、やはり兎たちより離れた場所。
ドドメ色の団子が被弾して爆発されてしまっては、せっかく救っても意味がないからだ。
「じゃぁ、あそこにしましょう」
真緋呂が示した場所に恋音が頷く。
大量のお月見団子を確保する場所さえ決まってしまえば、あとはお月見団子を救うだけだ!
改めて兎たちに向き直る。
ぽこんととってぽんっと投げる。
その言葉通り、軽快に投げてくる兎たちはどこか楽しそうであった。
しかし皆に向かって飛んでくるお月見団子はばばば! と擬音が付きそうな勢いである。
足元に広げられたブルーシート。
一体どこまで「ワンチャン」を保てるか……撃退士たちの手にかかっている!
●スタイリッシュとは
白いのと、ドドメ色。
皆に向かって飛んでくるお月見団子はその二色だった。
一番先に動いたのは真緋呂で、そんな彼女からはシャーっと滑る音。
そう、彼女の足元にはスケートボートがある。
「これに乗って、これを開く!」
スケートボードに乗り、落下地点で颯爽と開くはビニール傘とアンブレラ。
ぱっと全開にした二刀流で広範囲をカバーしたそれは、ぽとぽとぽとっと落ちてくるお月見団子を華麗に救う。
「これだと柄の長さで受止められる距離伸びるし、二刀流も出来て方向的にも範囲広がるでしょ?」
ラッパ型ではなく全開ゆえに、かなりの量が入るのだ。
伸ばした腕分、遠くのお月見団子を救いながらいわれるその言葉に、透次がなるほどと頷きつつ、自らも落ちてきたお月見団子をザルで救っていく。
3体居る兎たち。
全員で同じ方向に向かっても意味がない。
「こっちは任せて!」
出来るだけばらばらに対応できるように様子を見つつ、真緋呂は恋音やリベリアにも声をかけながら皆が間に合わなそうな場所へと動いていって。
そのお陰で、かなりの範囲をカバーすることができた。
スケートボートのお陰もあっただろう。
「ただ、難点はあとがついちゃうことなのよね」
たまったお月見団子を、皆で決めた集積場所へと持っていく。
ころんと転がった白いまるっとしたお月見団子には傘の骨の形にあとがついてしまっている。
「でも、沢山救えますのはすごいですわ」
宮部静香もヒリュウと共にザルで一生懸命、お月見団子を救っていたのだが、やはり量はそんなに多くはない。
でしょう? とそんな静香に微笑み、静香が受け止め損ねそうになったお月見団子を救うべく、スケートボートを颯爽と動かす。
伸ばした傘がくるりと円を描き、ぽとぽとぽとっと収まっていく。
風を切ってひらりひらりと舞うようなそれは、なんだかとても美しくも見えた。
ひらり、ひらりと傘が舞う中、がさっと音を立てながら開かれる袋。
がさがさがさっと音を立ててお月見団子たちが袋の中へと入って行く。
これならそのまま置くことも出来て衛生的にもいいだろう。
ふっと息を吐いた恋音は、ブルーシートから逸れてしまいそうなお月見団子へと慌てて手を伸ばす。
「あ!」
Lサイズの袋を構え、今まさにそんなお月見団子を救おうとした恋音。
されどそれは、袋の中ではなく豊満な胸の方にとバウンドして、その胸の間へと、とどまる。
「セーフ、ですわね!」
それを見てそういう静香は、じっと恋音の胸元をみて……そして自分の胸元へと視線をやり、真顔になった。
恋音がその様子を不思議そうに見つめ、何かしてしまっただろうかと首を傾げる。
そんな静香は、飛んできたドドメ色の団子を避けきれず被弾し、そして。
「あぁ!」
本物のお月見団子がお盆をそれてしまう!
「落とさないよ!」
静香が落としそうなお月見団子を助ける黒い影。
「透次さん!」
彼が咄嗟に投げたシルバートレイがお月見団子を救う。
綺麗に磨かれたシルバートレイがきらりと輝き、無事に救いだしたお月見団子を誇らしげに乗せていて。
「ありがとうございましたわ!」
態勢を立て直した静香とはまた違う方へと機動力を生かし、透次は走り出す。
この大量のお月見団子をお腹いっぱい食べるためにも、一つとして落とすわけにはいかない。
閃の領域にて得た集中力により、スローモーションのように周りが見えるのを幸いに、ドドメ色の団子を避け、的確に普通のものを救って行く。
それに最近は特に勉強を頑張ってるのだ。
(頭を使うと糖分が、欲しい……)
今日は糖分も沢山とれそうである。
透次は美味しいお月見団子に思いを馳せ、ぱっとブルーシートを逸れたお月見団子を救うべき、身を躍らせるのだった。
●お月見団子と兎たち
「こちらに寄せておきますね」
恋音は時折ブルーシートへと落ちてしまったお月見団子を、無事救出できたものとはまた別に置いて行く。
ブルーシートも清潔ではあるものの、気持ち的な問題もあるだろう。
その時、飛んできたドドメ色の団子はそのまま柄で、弾き飛ばした。
せっかくのお月見団子が爆発に巻き込まれてしまったら事だ。
「……」
そんな風に守られた山をじっと見つめ、数をざっと確認していたリベリアは、今度は兎たちの方へと視線を向ける。
「半分……」
淡々とした口調で示されたお月見団子は、確かに最初に見たときよりもかなり減っていた。
それでもとどまることない攻撃。
ばらばらばらっとふってくるお月見団子をザルで受け止める。
そんな動作も、最初に比べたら楽になったきもして。
リベリアはじぃっと飛んでくるお月見団子を見ながらそろそろ終わりだろうかと思うのだった。
そして、そんな彼女のそばではザルの中にもお月見団子がいっぱい状態の透次。
ならばここはどうだ! と運よく口でキャッチでできたお月見団子をもぐもぐしながら透次も確認すれば、どうみても半分ぐらい。
どこか満足げ……というよりは、投げ続けて疲れたのであろう兎たちの動きが明らかに鈍っていた。
「そういえば、飛んでくる速度も遅くなってますよね〜」
恋音も袋の中に入る量が減っていたことに気が付いて覗き込む。
「いくよ!」
真緋呂がここが好機と傘を置けば、攻撃へと身を転じ、目があった兎へと白光が迫る!
月光を収束した武器から放たれたそれは、兎へと被弾し、そのまま大きく吹き飛ばされていく。
そんな仲間の様子に、慌てて杵をふりあげた兎に、恋音のライトニングが纏わりつく。
びりびりとしびれたように体を震わせた兎は杵から手を離してしまう。
また別の兎には透次の連射が襲いかかる。
さらに静香やリベリアが遊撃に動けば、こちらに被害がでることなく兎たちは地面へと倒れ込んだ。
無事倒したことを確認した皆が、改めて状況を確認しあう。
倒れた3体の後ろには、まだまだ沢山のお月見団子。
その山はまだ残っている分と、撃退士達でわけた二つ分でぱっと見は少なく見える。
見えるのだが、実際はとてつもない量である。
「全部食べきれますかしら?」
静香がヒリュウと……そして皆を見渡した後、ぽつりとつぶやく。
この人数のお腹の中に納まるか否か少々疑問が残る量だというのだけれど、しかし、その山を見て怯むことはない者が1名いた。
「大丈夫、食べきれない分なんて出ない!」
とても心強い一言を真緋呂が宣言すれば、静香のヒリュウも大きく頷く。
こんな山なら食べれるよ! とでも言っているようだ。
「むしろ足りなくなりそうだね」
透次もあちこち動いた分、お腹は空いている。
自然とお腹をさすれば、今にも腹の虫が聞こえてきそう。
それは皆もそうだろう。
持ってきた調理セットを手際よく準備をしつつ、恋音がそんな皆をみて微笑みを浮かべる。
「落ちた分は心配でしょうから、火を通しますねー」
持ち込んだキャンプ調理セットで火を通すという恋音。
まずはお汁粉を作るという彼女に頷きつつ、真緋呂も手を挙げる。
「焼いた方が良かったら、炎焼で焼き上げるわよ♪」
そわそわと手をあげた静香は、どうやら焼き団子が食べたい様子。
真緋呂がそんな静香のために焼き団子を作り始める。
「じゃぁその間にリベリアさん、一緒にお月見団子移動したりしようか」
「……わかった」
そうして、沢山あるお月見団子は皆の手分け作業により、瞬く間に美味しい「料理」へと生まれ変わっていくのだった。
●お月見団子を食べよう
そうして出来上がった料理は、お月見団子のフルコースといってもおかしくはないものであった。
フルーツポンチにみたらし団子、お汁粉に焼き団子……。
普通のお月見団子につけるものも、抹茶にココアにきなこにあずきに、と豊富で目移りしそうだ。
「いただきます」
透次はお汁粉にと手を伸ばし、ゆっくりと味わう。
ほんのりとした甘さが、疲れた体に癒しと、そして自分の足元に置いてある参考書を見る活力にもなりそうだ。
「んー、美味しい♪ あ、私が作ったのも食べてね」
真緋呂のココアや抹茶のお月見団子は、また違った味わいだと好評だった。
もぐもぐと自らも食べつつ、ヒリュウに食べさせていた静香は特にココアが気に入ったようで。
「それにしてもヒリュウさん、いい食べっぷりだね」
一気に10個ぐらい口の中にほおりこんでは幸せそうなその様子に、透次も召喚するはヒリュウ。
「透次さんのヒリュウさんも、とても幸せそうですわね」
美味しそうに座ってきな粉のお月見団子を食べる姿は、ちょっと和む瞬間である。
なんだかうれしいですわ、と微笑む静香に透次も笑みを浮かべたあと、きらりと眼鏡を輝かせ、参考書を手に取るのだった。
主席卒業と外交官の資格。
この二つを成し遂げるための勉強。
こんなに美味しいお月見団子と、のんびりした時間ならば、勉強もきっとはかどるだろう……。
ぱらりと参考書を広げる彼の傍らで、リベリアはスプーンでお月見団子を掬っていた。
「美味しい……な……」
フルーツポンチとあんこやきなこの焼き団子をほおばっていたリベリアは、瞳を細めて呟く。
「こちらもどうぞですよぉ」
目の前には恋音から差し出されたお汁粉もある。
まだまだお腹にも余力はありそうだとお汁粉に手を伸ばすのだった。
真緋呂も、手渡された6杯目のお汁粉を食べながらあたりをぐるりと見渡す。
あんなに沢山あった料理の数々も、今はもう空ばかりが目立つ。
これなら残ることはないだろうと、真緋呂は最後のひとつまで美味しく食べようとスプーンをすすめるのだった。
それから暫し後。
余力を残した真緋呂と、さすがにお腹ががいっぱいで満足そうな透次。
糖分は存分にいきわたったお蔭だろうか、今日は沢山勉強が進んだ気がする。
リベリアも恋音も、おいしくたべたようで。
最後の1個が皿の上から消えると、もうそろそろ帰りの時間。
「「ご馳走様でした!」」
お腹をさすりさすりみた空は、まぁるい雲が浮かんで居るのが見える。
それはまるでお月見団子が浮かんでいるみたいで。
あのお月見団子はどんな味なのだろうかと、片づけをして帰路につきながら思うのだった……。