●やったー! キャンプだー!
6名の撃退士達は、サーバントが居ると言う無人島へとやってきた。
荷物も置いて、すでにそれぞれ水着姿だったり釣竿を持ったりして遊ぶ準備は万端である。
「うっわーーー! 良い天気っ!!」
きらきら輝く太陽に瞳を細めつつ佐藤 としお(
ja2489)はささっとマーキングを施したピアノ線を裏山に張り巡らせようとしたのだが、それは一人でするにはかなりの重労働だ。
発案自体は良かったのだが、せめてもう少し範囲を絞ればよかったかもしれない。
龍崎海(
ja0565)が阻霊符を発動する傍らで思っていると、何をしようかと話していた面々がとしおをみた。
しかし、索敵も鋭敏感覚もあるのだから、きっと大丈夫だろうととしおは首を振るのだった。
「さっさと退治して、楽しく遊ぶのですよー♪」
Rehni Nam(
ja5283)に同感を示し頷きながら、陽波 透次(
ja0280)がさて、結局何をしようか? と声をあげた。
魚釣りや潮干狩りや海で泳ぐのもいい……。
サーバント? なにそれ? なマリー・ゴールド(
jc1045)はサマーキャンプが初めてのためにそんな話をしながらわくわくそわそわ状態である。
そんな彼女と同じように、学園にきてから「沢山の初めて」と出会っている華宵(
jc2265)も瞳を細めて微笑んだ。
わいわいがやがや。
サーバントに聞かせる目的もあったけれど、自然と大きくなるのは目の前に広がる青い海と白い砂浜だったからだろう。
今すぐにでも駆け出したいのを止めたのは、としおの一言だった。
いろいろと考えていた彼ならではの早さの探知である。
「皆ー! 来るよー!!」
ばばっと走り出してきたのはふわもこの兎のサーバント。
としおの最後の言葉が終わるか終らないかの間に、ありとあらゆる攻撃が撃ち込まれ、オーバーキルで倒されたのだった。
「えぇと……では、遊びましょうですわ!」
召喚獣を出す暇すら与えられなかった宮部静香のその言葉に皆が頷き、ばばっと散っていく。
というわけでここからは各自自由時間だ!
●海で遊ぼう
ざざーんと響く波の音。
じりじりと肌を焼く日差しの中、海は学園指定の水着姿で泳いでいた。
あくまでもこれは依頼なのだからとのチョイスである。
「暑くなってきたらちょうどよかった」
この暑さの中で泳ぐのは本当に気持ちがいい。
青く澄んだ海の中で泳ぐ魚達も気持ちよさそうで、そんな様子をみれば笑みが浮かぶ。
他の皆はどうしているだろうか、と浜辺の方をみれば細められる瞳。
、泳ぐのが気持ちいいから……だけではなかったかもしれない。
ピンクのスカートが翻り、白く美しい足が浜辺を掛けて行く姿や、美しい肢体を惜しげもなくさらすビキニ姿で一心不乱に潮干狩りをしている姿も見えていて眼福である。
それをちらりとみてしまうのは、やっぱり男の子だからだろうか。
そんなことを思いつつ、そろそろ普通に泳ぐだけじゃなく、バナナボートを持って来てもいいかもしれない。
また違った楽しみがあるだろうから。
浜辺の方へ行く海と入れ違いに、としおがサーフボートで沖の方へ。
流れを読んで、波にのる。
言葉にすれば簡単だけれど、難しいそれを見極めようと目を凝らしていた。
しばし迷って、そして耐えて。
そうして「一番いい時」を見過ごすことなく、すごく良い波がやってくる。
そのチャンスを逃さすさっとのりこめば滑るように動きだし、波と一体になる感覚がとしおに訪れた。
何度でも、何度でも。
いつの間にか、海鳥たちもそんなとしおと一緒に波乗りをするかのように近くを飛び回る。
そんな海鳥を見上げ、海鳥と共に波乗りの一体感を味わいながら、としおは時間を忘れて没頭するのだった。
ちなみに彼が、その後日焼け止めを塗っておけばよかったかもしれないと後悔するのはまた別の話である。
●その頃浜辺では
ビニールシートとパラソルを立て、そこに折り畳みのデッキチェアーを置いた後にRehniが呼びだしたのは2体の召喚獣。
「おいで、大佐、スナオ!」
Rehniは大佐を肩にのせ、スナオの甲羅にのって海へと意気揚々と出て行く。
普通なら2体同時召喚は出来ないとかそんなことがある気がするが、まぁ細かいことは気にしない方向で、波を楽しめば2体からも楽しそうな雰囲気が伝わってきた。
海で遊ぶだけじゃなく、浜辺に戻ってパラソルの下スベスベ甲羅を撫でつつ鼻歌を共に唄う。
スナオから返ってくる鼻歌はこの時間を楽しんでいるような響きがあって波の音と混ざりあい、まるで合唱のようだ。
そんな風にのんびりした時間を過ごしながら、そろそろちょっと動きたい気もすると、取り出したのはスイカだ。
「大佐、スイカ割りしましょう!」
目隠しをつけた大佐が、Rehniに誘導されるがまま、あちらこちら歩いて見つけた先にはまんまる緑のスイカ。
少し持ちづらそうな木刀が振り下ろされぱっかーんと割れて出てきたのは瑞々しい赤色だ。
さて、これを皆で食べれば丁度よい休憩になるのではなかろうか。
「皆、スイカ食べませんかー?」
その呼びかけに、わらわらと皆が集まってくる……。
Rehniと大佐が割ったスイカを皆で食べた後、再び潮干狩りに戻ったマリー。
浮き輪とシュノーケルを再度つけて、安全対策はばっちりだ。
浅瀬とはいえ、カナヅチには必要な処置である。
先程まで採っていた場所から少し移動すれば、貝の呼吸をする穴を発見して、座りこんだ。
肌を適度に濡らす海水に身を浸しながら、取り出したのは塩だ。
楕円形……ちょっと涙のようにも見えるそれは、マテ貝の穴!
「えぇっと」
どばっ! とその穴にと塩をぶち込めば、マテ貝がにょきっと出てくる。
「なるほど、簡単ですね」
面白いようにとれるマテ貝。
皆に提供できる分、手に入れられそうだとマリーは微笑むのだった。
●釣りといえば
海や浜辺で楽しそうにはしゃぐ人達を見ながら、透次と華宵は準備をちゃくちゃくと進め、共に魚釣りをしていた。
釣りの経験は一通りのことはちゃんと出来る程度の透次と、ずっと山奥に住んでいたために川釣りはあっても海釣りは初めてという華宵という組み合わせで、爆釣れというわけではないけれど、暇にならない程度には当たりがある。
久遠ヶ原に来るまで、海を見たことがなかった華宵は、ざぁんと音を立て水しぶきをあげる海をみて瞳を細めた。
そんな2人の元へ、釣れたかどうか静香がやってきて尋ねればのんびりとお話が始まる。
「あ、なんでも大丈夫なんだね」
好きな魚はなにかとの問いにそう答えが返って、ここで何が釣れるかは分からないけれどそれなら問題はなさそうだと透次が微笑む。
「ちなみに成長期の子供の身長を伸ばすには、マグロはとても良いって聞くかな」
あと僕はホッケが好きです。そう微笑む透次に、真顔になった静香がマグロ……と呟く。
「流石にここでマグロは無理そうねぇ」
くすくす笑う華宵の指先に、引きの感触が。
「あ、きたね!」
透次ときらきらと見る静香との声援を受けつつ、ぐっと引いてみるが……?
「…!? え、強い! 川の魚より引きが強い!」
ぐぐっと引っ張られ、え? と皆が思う間もなく、ぐぐぐーっ体が前のめりに。
「華宵さん?!」
透次と静香の手が伸ばされ、服を掴む前にどぼーん!! と凄い水しぶきとともに落っこちて。
「華宵さーん?!」
「!? 私、泳いだ事なかったわ……!?」
えぇぇぇ?! と慌てる2人に逆に冷静になれた華宵が、ここが岩場だったことを思い出す。
壁走りを使い、無事戻ってきた華宵に、2人は安堵の息を洩らしつつ華宵を迎え入れる。
「大丈夫?」
「えぇ、心配をかけちゃってごめんなさいね」
苦笑を浮かべつつそういう華宵に無事でよかったと話しつつ、着替えをすますかそれともいっそのこと乾くまでこのままかと笑いあうのだった。
一方その頃、潮干狩りをしていたマリーは騒がしくなった方を見て首を傾げた。
さて、そろそろ次の場所に移動しようと立ち上がった所で、としおの周りを飛んでいた海鳥がマリーの貝に狙いを定めたようで。
「きゃぁ!!」
ある程度、離れているとはいえ盛大な声があがればそちらを見るのはしょうがない。
みんなの前にマリーの水着が海鳥にとられるのが見え、そして視線を落とせば白色の肌と美しい形の双丘がみえ……なかった。
なぜか静香の召喚獣が水浴びしている様子が邪魔をしていて、残念に思った人がいるとかいないとかそんな状況だったという。
●さて、ご飯だよ
全員で持ってきた量と、さらに釣りの成果もあるとなれば、すごい量のバーベキューとなった。
焼いたソーセージを欲しがる静香に渡しつつ、透次は次々と焼かれるのをみていた。
持ってきた野菜の他に、釣りでは採れそうになかったほたても持って来ていたけれど、マリーの採った貝も美味しそうだ。
次は拘りのお肉を食べてもいいかもしれないと透次は焼き加減をじっくりと見極めて行く。
そんな傍ら、Rehniは作った串刺しを焼きながら、クラムチャウダーをマリーから貰う。
それはジャガイモや人参に、玉ねぎそして自分で採った貝も中に入っていた。
「どうぞ」
「美味しいですね」
全てが溶け込み、貝の風味も効いてるのに舌鼓を打ちつつ、甘く歯ごたえのある貝に笑みが浮かぶ。
そんな彼女たちに差し出されたのは赤身や白身のお刺身。
「これもどうぞ」
綺麗に盛られたそれは海が採ってバーベキューの具材とはならなかった魚をささっと捌いて刺身にして提供しており、それは皆に好評だった。
料理はしたことがないけれど、焼くだけならなんとかなるかもと華宵は焼き加減を見ながら焼いては皆に渡していく。
「はい、静香ちゃん」
「ありがとうございますわ!」
透次と華宵が釣った魚を貰い、嬉しそうに微笑む静香に笑みを返し、華宵も頃合いをみて食事をしていく。
「ん、このお肉も美味しい」
としおがじんわり肉汁が美味しく口の中に広がって行くのに笑みを浮かべた。
わいわい食べてあらかたなくなった後。
「お食事はね、皆が持ってきてくれるようだったから。私はデザート系を準備したの」
甘い物、食べましょう? と出されたのは林檎やマシュマロだ。
華宵の女子力は高めかもしれない。
そこにとしおの声が響き渡った。
「最後に魚粉をまぶして完成ー!」
最後の〆といえばラーメンでしょ! と、としおが作っておいたラーメンを皆に配る。
それは焼きそばを作る要領で作られており、スープだけ調整されたものだ。
具材は焼き豚、メンマ、味玉、青ネギというもので、あんなに食べた後でも食欲をそそる。
月と綺麗な星々に見守られ、波音を聞きながらすするラーメンは、格別に美味しかった。
「ご馳走様でした!!」
皆の嬉しそうな笑顔に、としおも笑顔になるのだった。
そして、華宵が中心となり、片付けも終われば、さぁまた楽しい時間の始まりだ!
●月明かりの下で
食べ終わった面々は、花火を引っ張り出してくる。
バケツに水を入れて蝋燭に火を付けて。
せっかくだから噴出花火は時間差にしましょうとRehniが言えば、華宵が首を傾げた。
「ひとつずつやるのと違って、迫力満点です!」
「それはすごいわね」
ただ、煙はすごいですけど。というのは聴こえなかったようで。
次々噴き出す花火はとても綺麗で皆から歓声があがったけれど、煙に咳こんだというオチがついたのもまた楽しい思い出の一部だろう。
楽しんでいます? と静香が持ってきた花火を手に取り、海ととしおが楽しんでいると答えを返す。
「静香さんこそ楽しんでる?」
としおの問いかけに、はい! と軽やかな笑顔が返った。
「じゃぁ、火をつけるよ」
危なくないように少し離れて、ぱっとついた火が赤や緑の火花を散らし、足元を照らしてくれて。
はらはらと毀れる宝石のようなその一瞬の美しさを楽しみつつRehniが、彼らの近くに置いてある花火を取ろうと手を伸ばす傍ら、マリーが駆け抜けて行った。
「なんで追いかけてくるんですかー!」
その駆け抜ける足元も、ちょっと妖しい。
「……?」
「大丈夫?!」
どうやら自分で放ったネズミ花火に追いかけられているようで、最終的に追いつかれ吃驚して転んでしまう。
としおが慌てて救出しようと追いかけて行くのに、Rehniと近くに居た海は顔を見合わせ、自分たちも2人の元へ向かって行く。
そうして起こされたマリーと共に、皆で花火を楽しむのだった。
わいわい楽しんだ後はしめに線香花火を。
自然と静かに楽しむ面々は先程までは聴こえづらかった虫の声を楽しみながらぱちぱちと爆ぜる花火を楽しむ。
「綺麗ねぇ」
「本当に」
華宵が瞳を細め微笑み、透次も頷いた。
最後の締めの線香花火も終わった頃。
「ちょっとお散歩してくるわね」
華宵が空へ浮かぶのと同時に、透次が静香に声をかけて一緒に星空を観察しはじめる。
きらきら瞬く星たちは、遮る光がないために綺麗に見えた。
「さそり座はどこだろうね」
まずは目印になる星はどれかしら? と首を傾げつつ、透次と静香が話し合う頭上では、華宵がひらり、ひらりと舞うように楽しんでいた。
(山奥での生活もそれなりに楽しかったけど、久遠ヶ原では今までした事がない経験が出来て楽しいわね)
華宵を月明かりが照らし、下では仲間達が語らっている。
そんな彼らを見守る星たちと波の音。
今日は、お疲れ様でした。
まるでそういうかのように、ちゃぽんとどこかで魚が跳ねるのだった。