●
通りには、沢山の飴屋がそれぞれ自慢の品を持ち寄り呼びかけていた。
その声に誘われるように、1人、また1人……自分の思うとっておきを見つけるために立ち止まる。
陽波 透次(
ja0280)は、1人飴をみていた宮部静香にありったけの勇気を振り絞って話しかけた。
そんな2人のやりとりをきいていた華宵(
jc2265)が視線を寄越したのに気が付き透次が声を掛ける。
まだほとんど知り合いもいないからと是非にという華宵と共に、3人で見て回ることになったのだった。
普通にまずは見て歩きましょうという静香に快く頷き、あべこべな味の飴や大きな飴なんかを見て行く3人。
「あら綺麗、織物みたい。こっちは宝石みたいね」
天魔であることが気になる人が居れば……とスカーフをつけようか悩んでいた華宵だったけれど、どうやらつけなくてもよさそうで。
からころと音を立てて、和装姿で歩くのにすれ違う皆は涼しそうねと微笑みを浮かべるのみだ。
「本当だ、綺麗だね。……あ、静香さん、これなんかどう?」
いつもお世話になってお礼でも出来ればと思っていた透次は、静香が好きそうな飴を見つけては盛り上がる。
「猫さんですわね!」
華宵さんのいう宝石も捨てがたいですわ、と皆で盛り上がりつつ、買った飴を皆で食べようと少し休憩を。
「美味しい? はい、あーん」
口をあけて待つ華宵に、透次があわてて笑いあうのだった。
(お祭り……昔一回だけ師匠と兄貴分に連れて行ってもらったなー)
不知火あけび(
jc1857)はそのころを思い出し、自然と笑みが浮かぶ。
(鼈甲飴を強請ったっけ。きらきらして宝物に見えたんだよね)
人生二回目のお祭りである飴市。
もう少し規模の小さいものならあるかもしれないが、ここまで大きいのは珍しい方かもしれない。
そのためにいろんな所から人が集まっているようで、あけびは人の多さに困惑しつつもとりあえずは……と、鼈甲飴のお店へ。
そこには沢山の形をした鼈甲飴が並んでいた。
まるで宝石のようだと思い、昔の記憶を再び連れてくる。
買った鼈甲飴を持ちつつ、ふらふらと人が少ない方へ。
その時になって、なんだか騒がしい2人組をみつけて瞳を細める。
この飴市にくるしばし前。
ベンチに座り、黄昏ていた遊咲恭一(
jc2262)に声をかけたのはダリア・ヴァルバート(
jc1811)だった。
『おおお???なーになさってるんですか!!』
『ほっといてくれ……俺の力なんて、たかが知れて……お、おい、ま、待て腕を引っ張るな!』
そんなやりとりを交わした後、やってきた飴市はとても楽しそうな雰囲気に包みこまれている。
連れてきたのはダリアだというのに、彼女といえば見つけた人々に話しかけ、飴を貰ったり急に立ち止まって恭一だけが先に歩いてしまったりと結構自由だった。
恭一と来たことを忘れていたというわけでは……あったかもしれない。
最近の訓練の結果に落ち込んでいた恭一だったが、ダリアを追いかけつつも喧騒の中にいると少しずつ元気も貰えるような気がして。
それは元気付けるために連れてきたダリアにも感じとれたのだろう。
金魚飴なる赤い金魚のような飴をずずいっと差し出す。
「ささっ、お食べ下さい!! あっ、勿論恭一さんの奢りで!!!」
「俺が奢るのか……?!」
なんだかんだ言いながらも、財布を出してあげる所は優しい。
そんな彼女たちにあけびが気がついた。
「ダリアちゃん?」
「あけびさん!」
そしてまたしても恭一を忘れ去ったダリアはあけびの買った飴を貰ったり、あけびのお祭りの楽しみ方やお土産についての質問に、ならば一緒に回って、お土産を買おうと盛り上がる。
「……」
そんな楽しげな様子をみて、恭一の口元に笑みが浮かぶのだった。
木嶋 藍(
jb8679)とユリア・スズノミヤ(
ja9826)は絶品の飴を求めて歩いていた。
藍の身を包むのは白地に深い群青の花模様の浴衣。
それに合わせてユリアは京紫地に赤と白の牡丹柄の浴衣で隣を歩く。
「甘いものを求めてぶらり散歩ってもう最高だよね」
ほんとほんとと浴衣姿のふたりはぶらりと歩く。
そんな彼女たちの視線の先には金平糖の屋台があった。
「にゃふふ、色と形の綺麗な金平糖を見つけたいにゃ」
金平糖がいっぱいだー! と2人で向かい、それぞれ別のものを買い求める。
違うものにすれば、つまみ食いのお味も二倍楽しめるのだ。
(金平糖は星屑……きらきら甘いねん)
ユリアは見つけた「星空の飴」を二つ購入。あとで藍にもあげようとこっそりと。
ちなみに食べたそのお味は青色なのに桃味だった。
そして次なる宝物はすぐ近くにあった琥珀糖専門の屋台だった。
「琥珀糖ほんと宝石……!」
ときらきらしつつも、見た目はしょっぱそう? とユリアが首をかしげるに合わせて左耳の青百合が揺れた。
青い琥珀糖を無事買い求めた藍は、味見は大事だと何個か手に取った。
「見た目はホント宝石だぁ」
うんうんそうだよね、と頷きあいつつ、躊躇なく口の中へ。
「ん、さくプルしてる」
そう聞いたら、ユリアだって食べたい! とばかりに躊躇なく藍の手から琥珀糖をぱくりと味見。
「わ! ユリもんも躊躇ない」
「ん、おいしい!」
そうして、宝石を食べた2人は笑いあう。
「わぁ! すごく色々な飴があるのね……!」
蓮城 真緋呂(
jb6120)の視線の先には苺や檸檬に葡萄やメロンの果物や薄荷やハーブが並ぶ。
そんな様子を平常運転ですねと見守りながら樒 和紗(
jb6970)も色とりどりの飴を眺め、目当ての飴を見つけて立ち止まる。
抹茶や薄荷飴を買う傍ら、真緋呂が置かれている飴を見ている。
「サイダー、コーラ、抹茶、珈琲……」
そういって見て行く。
「飲み物系も人気よね。クリームソーダ、コー……ンスープ!?」
これは買ってみなければと手に入れて、さっそく一口。
「あ、甘味あって中々美味しいかも」
他にもかった飴をがさごそしはじめた彼女が見ていない隙に、そっと和紗は超すっぱい梅飴も手に入れていて。
(京飴とか綺麗で和紗さんに似合いそうだなぁ)
もぐころしながら思う真緋呂はまだ待ちうける運命を気が付いていなかった。
鳳 蒼姫(
ja3762)と鳳 静矢(
ja3856)は蒼姫が蒼色の金魚をあしらった愛らしい浴衣を、そして静矢は紫を基調とした和風の着物でレトロな飴市を歩いていた。
「古い時代の匂いがする……どことなく懐かしいな」
巾着を揺らしながら歩く蒼姫は、いろんな色の金平糖がある店で足を止めた。
「金平糖は綺麗で昔から好きなのです」
だから買えて嬉しいのですよぅ☆ そういって選ぶその視線は、一風変わった「星空の飴」。
青色や菫色、それに黄色が袋に入ったそれは、星を模した金平糖だという。
味は食べてみてのお楽しみで、どうやら色から連想させる味ではないようだ。
通りをみて歩けば、バナナの形をした梨味なんていうのもあることから、きっとこれもそのひとつなのだろうと静矢は思う。
それと他の金平糖も買い求め、巾着から財布をとりだす。
会計している中、ふと隣の飴屋では昔ながらの鼈甲飴がところせましと並んでいた。
動物を模した形の鼈甲飴もあり……ラッコもあったのに、懐に忍ばせたラッコの写真に思いを馳せる。
とにかくも鼈甲飴を2人分買い求め、歩き出した蒼姫へ。
「べっこう飴……理科の実験を思い出すねぇ」
そうですねぃ☆ と頷き、口に入れれば理科の実験の思い出と、甘い甘い味。
次は林檎飴を手に入れなくては! と足を進める蒼姫の隣を歩きながら静矢も瞳を和ませる。
「あ、あそこじゃないかな?」
しばし歩けば、念願の林檎飴。
昔ながらの林檎飴は、氷の上で冷やされているのや袋入りもある。
「林檎飴は好きなのですよぅ☆」
にっこりと笑む蒼姫は林檎飴も買い求めて。
次はどこに行こうかと共に歩き出す。
「まったりと飴市も良いですねぃ、静矢さん☆」
本当にその通りだと、静矢も微笑みを浮かべるのだった。
逢見仙也(
jc1616)は召喚獣に乗って飴市を楽しみながら村のことを思い出していた。
(村の祭り以来かね飴は)
向こうより規模が大きいらしいのだが、どこか懐かしさを感じるのはやはり似通ったところがあるからだろうか。
流石に乗ったまま飴を買う訳にはいかないから、気になる飴を見つけたら降りて、激から唐辛子飴などという唐辛子を模した飴や、星を模した金平糖などを買っていく。
勿論、自分用だけではない。
「美味しい?」
水あめを貰ったストレイシオンも嬉しそうに共に進んでいく……。
ジョン・ドゥ(
jb9083)は浴衣姿の夫婦が林檎飴の入った袋を手に歩いていくのを視界に収めた後……出店の人に声を掛けられ視線を戻した。
気楽にぶらぶらと歩くジョンは、先ほどから食べてみてよ! とあちらこちらで試食に誘われている。
その都度……青汁の飴だとか、苺なのに林檎味の見た目に騙されるなキャンディだとか。
ちょっと変わった飴も少しずつ購入していく。
「へぇ……これもあるんだ」
まさかコーラ瓶みたいな見た目なのにソーダ味。
それもあるとは……。
意外と奥が深いもしれないと思いつつ、ジョンはぶらぶらと足を進める。
今回は「林檎飴は確実に買う」という目標を定めてはいるもののそれ以外は割とノープランだ。
さらに赤いロリポップキャンディーがあればなおさらいい……のだが。
立ち止まったお店で、本命の林檎飴。
氷に置いてある昔ながらのやり方の林檎飴たちと、袋に入った林檎飴。
どちらもきらきらつやつや真っ赤に輝いてジョンを誘っている。
暫し迷ってお土産に。
結構な量になっている飴を見つつ、さらにレトロな街並みを歩けば、仙也と視線があった。
「面白い飴があるんですね」
お土産に買った飴を見せれば仙也が微笑む。
ちなみに、ロリポップキャンディーも見かけたと言われ、お店を教えてもらうのだった。
さぁ、赤い赤いロリポップキャンディーも手に入れなくては。
黄昏ひりょ(
jb3452)は召喚獣に乗った仙也が去っていくのを見ながら、デジカメで写真を撮っていた。
ときおり見知った顔ぶれに手をふれば、そちらも気が付いて手を振ってくれる。
まるで昭和の時代に潜り込んだような街並みに、気分も一緒に昭和の時代へ行ったようだ。
(楽しい一日になるといいな)
わくわくと時折楽しそうな雰囲気を撮影しながら、飴を探して歩く。
甘い物好きな友人にお土産もちょくちょく買っていれば、沢山の「赤」が目に入った。
「わ、凄い赤いね?」
ジョンの買おうとしていたロリポップに目を奪われる。
赤は赤でも、かなり真っ赤だ。
他にもいろんな「赤」があるのにも驚いた。
「全部違う味なんだって」
赤いのに葡萄味。なんていうのも見つけ、なるほど宮部さんが言ったのはこういうことだったのかと笑みが浮かぶ。
変わってるねぇと話していれば、ひりょに気が付いて一緒に行動している仲間とともに、静香がやってきた。
暫しお話したあと、お裾分けしようと話せば、いろんな飴がでてきた。
「凄いですわね!」
これなら全部制覇できてしまいそう……。
その言葉に皆で笑いあうのだった。
「レトロ飴市か……こういうのも悪く無い……」
そんな笑い声をききながら、御剣 正宗(
jc1380)は星野 木天蓼(
jc1828)と共にお店を見ながら歩いていた。
「少し上から見てくるよ」
正宗がそう断って空へ飛ぶのを見送り、木天蓼は目の前の飴にと……いや、飴を買い求める少女にと向けて。
(飴探しもいいけど女の子探しも捨てがたいものですにゃ)
「へい、彼女ー! その浴衣かわいいのにゃ!」
勿論下心なんて全然ありませんにゃ? とのことではあるが、何か不穏な物を感じたのだろう少女にすげなくふられても、木天蓼は次なる少女へと視線を移す。
そのころの正宗といえば、街並みを見つめ……そしてそんな彼らが何か持ってるのに気が付く。
「あれ、なんだろう?」
戻ってきた正宗に慌てて木天蓼が視線を向ければ、巨大なぐるぐる飴や巨大な動物の飴を持つ人々の姿。
ちなみに味も辛いのから激甘までといろいろあるようだ。
「面白そうですにゃ!」
行こう行こうとかけていく……。
礼野 智美(
ja3600)は食べることの好きな妹の礼野真夢紀(
jb1438)の荷物もちとしてこの飴市に来ていた。
その妹といえば、きょろきょろと辺りを見渡している。
(液体の飴ないかな? あれかき氷にかけて食べるの好きだったんだけど、今まで買ってたお店が生産終了になっちゃったんだよなー)
と、液体飴を探していて。
そんな彼女の近くでは、美森 あやか(
jb1451)とその夫の美森 仁也(
jb2552)の姿。
今回あやかは親友とその妹と、夫に同時にこの飴市に誘われていた。
そのために……今回4人で訪れるという機会に恵まれたのだ。
(本当はあちこち連れて行ってやりたいんだけど、依頼と言う形でないと、俺は島の外に出れないから……)
とはいえ、元々はあやかは小食で、なにより飴もそんなに好きというわけではない。
されど、仁也の視線の先のあやかは智美や真夢紀と喋っては楽しそう。
件のあやかは飴はそんなに好きではないけれど、楽しい雰囲気は好きなために、見るのは冷やかし半分だ。
「お土産買いましょうか」
とはいえ、部室の皆へのお土産と、あとはお砂糖代わりの水あめぐらいは……と仁也をみれば、仁也も微笑みを浮かべた。
智美や主に真夢紀が目星をつけているけれど、自分達も目星をつけるのはいいことだろう。
それにしても、と共に仁也と飴を見ながら思うあやか。
(街並みは昭和だけど……7・8月だったら浴衣でも良かったかもしれないけど)
周りには浴衣を着て買い物をしている人もいるけれど、まぁいいかと隣で微笑む仁也を見つめ、思うのだった。
あちらこちらとふらふらする妹を見失わないようにしつつ、智美がそんな2人を見る。
夫とゆっくりと歩く親友達とは、すぐにはぐれてしまう! というわけではないけれど。
それでも心配りをしつつ、ただの荷物持ち、というのではつまらない。
(……姉上が夏バテし易い人だから、良く冷やし飴作るけど、何時も買うお店じゃない所の冷やし飴の元ってないかな?)
覗いて歩けば、沢山の変わった飴。
「板飴も好きなんだけど……変わった味や色や形状のも欲しいなー」
持ってきた真夢紀が共に覗きこむ。
「一番好きなのは基本の鼈甲飴なんだけど……」
そんな真夢紀に、あれじゃないか? と智美が指差す先。
沢山の鼈甲飴を並べるお店があった。
「これ全部下さい!」
そんな真夢紀に、店の人が吃驚するのはまた別の話である。
●
飴職人の作り出す飴はまるで魔法のよう。
飴職人達のエリアも、人でにぎわっていた。
あちらこちらで飴細工を作ってもらっている中、雪室 チルル(
ja0220)は胸をそりかえす勢いで宣言していた。
「せっかくだからあたいがさいきょーの飴を作るわ!」
さいきょーの飴とは一体なんなのか。
順番が来て、頼むのは雪の結晶の形。
少々難しいかもしれないと老人が悩み始めたところで、むしろあたいが作りたいと立候補。
さすがに列ができているためにチルル一人のために時間はとれないものの、手の空いている別の飴細工師が教えてくれるようだ。
さいきょーの飴を作るのは、自分じゃないとだめなのだ! と思っていたチルルにはうれしい時間だった。
あぁやって、こうやって。
飴細工師というものがあるのだから、もちろん飴細工がそう簡単にできるものではない。
けれど、チルルはあきらめなかった。
どうにかこうにか試行錯誤を重ねたあとに、自慢の「さいきょーの飴」が出来上がった。
満足いく形にカメラで記念撮影も忘れない。
「すごいですね」
そんな様子を見ていた雫(
ja1894)が声を掛ければ、チルルはばばーんとその飴を見せつける。
「でしょう? あたいが作ったのすごいでしょう!」
きらきら輝く雪の結晶飴は、とても甘くて極上の味だったのはいうまでもない。
雫はチルルがむしろ自分で作っているのを見て声をかけつつ……他の職人たちが作っているのも見ていた。
「お〜、単なる飴の塊があっと言う間に鶴になって来てますね」
彼女が作るのは鶴のようで、みるみるうちに首を傾げ羽を広げた鶴の形になっていく。
まるで魔法のようだと、見つめる瞳はきらきらと輝いている。
「洋菓子職人さんが作ったのはガラス細工みたいですけど、日本職人さんが作ったのは陶器細工のように見えますね」
確かに西洋と和風だとちょっと違うのもかもしれない。
その言葉が聞こえていたのだろう職人が、おっというようにこちらをみたのに、軽く頭を下げる。
チルルと同じように、雫も見よう見まねながら作ってみるのだが……。
やはり「職人」がいるわけだ、そうそう簡単に作れるものではない。
「やはり、簡単そうに見えて難しいですね……暖め過ぎると垂れて形が崩れるし、冷やし過ぎると切れ目を入れると割れてしまいます」
形になることはなかった「何か」な飴を口に放り入れ、もう一回やってみようかと思うけれどそろそろ味にもあきてきた。
「厭きて来ましたね……ミントか何かの香料を入れてみますか」
そう呟くのに気が付き、智美とあやかが声をかけた。
どうやら蜂蜜等が置いてある関連のお店があるらしい。
「いいですね、それにしてみますか……」
蜂蜜の飴も、きっと美味しいに違いなかった。
(たまにはこういうのんびりした祭り的なのも良い、な。)
水無瀬 快晴(
jb0745)は隣を歩く川澄文歌(
jb7507)とそしてその彼女の召喚獣の鳳凰型式神ピィちゃんを見つめる。
「飴細工ってどんなのがあるんだろう?」
辺りをきょろきょろ見渡す彼女の愛らしい様子に瞳を細める姿を、鞄の中からティアラが楽しそうに見詰めて。
飴細工のその場所は、甘い香りと楽しそうな笑い声が響いていた。
男性の方へ足を進めた快晴は、鞄の中からちょこんと顔を出すティアラを抱き上げた。
「……この猫に似せて飴細工って作れます、か?」
あぁ、任せてくれとティアラをじぃっと見詰めた後、何色か色を見出し作って行く。
「わぁ、飴細工でこんなに精巧なものがつくれるんだね♪」
その傍らでは、文歌が見本で置いてある今にも泳ぎだしそうな金魚やまるでダンスを踊るかのようなクマを見つつ、ペンギンの飴細工を老人へと頼む。
「わ、もう? ……どう?」
猫は慣れたものなのか、魔法のように少々ディフォルトがきいた形のティアラの飴が出来あがったのを受け取り、快晴が文歌に見せれば、文歌が口元に苦笑を浮かべた。
「これはティアラちゃん? なんだか味のある感じだね」
そんな彼女には、今にも踊りだしそうなペンギンの飴細工。
「ふぅむ? 確かに凄い、ねぇ?」
やはり熟練の技はまた違うのだろう。
「カイも食べる? 味もおいしいよ」
交換しあって、一口食べれば甘い甘い味。
「ふに、美味しい、な」
2人で微笑みを交わし合う。
そんな彼女たちに、ピィちゃんが自分も作ってほしいとアピールを。
「ピィちゃんも自分の飴細工つくってもらいたいの?」
「ピィのも作って貰う?」
老人が、では作ってみようか。と声をかけつつ、世間話を。
その時に2人が結婚を控えている恋人同士だと聞いた店の人が、それならこれを! と差し出したのは青い花の飴細工。
お幸せに! そう言って微笑む女性から受け取り、文歌も笑みを浮かべるのだった。
黒百合(
ja0422)はレトロな建物をみながら、満足気に瞳を細める。
「きゃはァ、いいわねェ……こんなレトロな感じの場所もォ」
くすんだ色合いの建物たちは、この飴市に綺麗に同化しているようだ。
(私はレトロも好きだしィ、飴も大好物よォ♪)
彼女の視線の先にはや が楽しそうに笑いながら駆け抜けていく。
そんな彼女が頼みたいのは飴細工。
「黒百合だね……ちょっとまってな」
黒百合の花のイメージ色の濃い紫色の飴をとりあげ、するすると立体的な黒百合を作り始める。
「ふぅん、凄いわねェ♪」
まるで魔法のような速さで出来上がっていくのを楽しげに見守っていれば、黄色い飴を花開いた黒百合の真ん中に置き、出来上がった。
つやつやと輝く黒百合は、まるで朝露に濡れたような繊細な輝きを黒百合へ見せてくれる。
「ありがとォ♪」
受け取った飴をじっくりと見つめ、しばしこの「黒百合」を目で、香りで楽しんだ。
「きゃはァ、綺麗でずーと残しておきたいけどォ、飴なんだから最後は美味しく食べなきゃねェ♪」
甘い甘い黒百合を舐めながら、黒百合は視線をまた別の場所へ。
綿あめを制作するのも楽しいかもしれない。
まだ、時間はあるのだから。
快晴が老人からペンギンの飴細工を受け取っているのを見つめた後、静矢と蒼姫が老人へと声を掛けた。
「ペンギンが好きなのです☆ 作れますかぁ?」
きらきらした蒼姫の瞳に老人が笑顔で頷き、ついで静矢から差し出されたラッコの写真へと瞳を移す。
「この様なラッコを頼みたいのですが良いですか?」
少々愛らしくなってもいいのなら、という答えに、静矢が頷いた。
先に作られたのは蒼姫のペンギンだった。
ちょこんと挨拶するかのように羽をあげたペンギンは愛らしい瞳でじっと蒼姫を見つめている。
そして作られた静矢のラッコだったが、それは、依頼を一緒にしたことがある人なら、「どこかでみたことがある」と言われそうなラッコだった。
ありがとうと2人お礼を言って、次はどこに行こうかと歩き出すのだった。
2人と別れたあけびは、ラッコとペンギンをもらった2人を見送りつつほぅっとため息ついた。
もったいなくて食べれない……と見つめていたのに職人が気が付き、薄いピンクでつやつやできらきらな桜が目の前に。
「ありがとうございます!」
ぱぁっと笑顔でお礼を言えば、職人も嬉しそうに微笑んだ。
次の人のために場をあけながら、楽しそうな笑い声にみんな楽しそうでいいなと思う。
(そうだ、お世話になっている人達にお土産を買っていこう)
「可愛い飴を探さないと」
最初の不安感はなくなり、わくわくと再び飴を探しに向かっていく。
正宗は老人にうさぎの細工を、木天蓼はお姉さんにネコの細工を。
2人の手にはマーブル模様の飴や大きな動物の飴、正宗は鼈甲飴と金平糖、木天蓼は林檎飴と金平糖……そんな飴たちが袋に入れられゆらりゆらりと踊っていた。
「わ、可愛いですにゃ!」
きらりんと輝く座る猫に。
「ありがとう……」
今にも跳ねていきそうなうさぎさん。
そんな細工を手に、また、2人歩きだすのだった。
辿りついた飴細工のコーナーで降りた仙也は、乗せてくれていた召喚獣の飴細工が出来るかどうかと問いかける。
「んー……ちょっと待ってね」
女性は困ったように眉を寄せ、他の職人の元へ。
どうやらまだ力量がなかったようで、老人がやってくる。
「難しいならヒリュウの方で……」
呼ばれたヒリュウがふすー! としているのに老人が笑い、少々可愛くなってしまうかもしれないが、どちらもできると太鼓判を押してくれた。
どうやら今はモンスターなあれそれが人気で、それなりな形のものなら出来るようだ。
少々時間はかかったものの、ヒリュウと 、どちらも出来上がって。
つやつやと今にも羽ばたきそうなその二つに目を見張る。
不満そうなヒリュウにも作ってもらった飴細工を渡しつつ……せっかくなので仙也も飴を食べることに。
(向こうだと飴細工やらされたなあ。もうそんなことは起きる訳無いけれど)
作るより食べる方が楽しいし、と仙也は美味しくいただくのだった。
老人にお願いしたのはふわもこ羊に、華宵に似合う花。
手早く作られていく飴細工に、透次は感嘆をもらす。
「これが私に似合う花? ふふふ、綺麗ね、嬉しいわ」
華宵に渡されたのは赤い椿。
貴方の髪に映えそうだと微笑まれれば華宵も笑みを返す。
そしてふわもこの羊といえば。
「こっちの羊は静香ちゃんに。可愛いもの好きそうな気がしたから……好き?」
「大好きですわ! 華宵さん、ありがとうございますわ!」
きらきらと笑顔で受け取り、静香は頭を下げるのだった。
『蓮華は癖はないけど、蕎麦は癖ありまくりだし。柑橘つながりで蜜柑や日向夏あたりが良くないか?』
なんて会話をしながら関連のお店で、蜂蜜や水あめ、さらに金平糖を入れる小瓶なんかを買った面々は飴細工の場所まで来ていた。
ぱっと走り出した真夢紀が女性に頼んだのは動物の形だった。
「狐と兎と鳥と犬、あ、犬は可愛い柴犬じゃなくて凛々しい秋田県系列でお願い致します!」
わかったわ、と作りだす傍ら、あやかは作った棉飴を食べつつ作る作業を見詰めていた。
林檎飴……ではなく苺と葡萄が芯の果物飴をこれまた智美に預けつつ、真夢紀も作業を眺める。
出来あがった飴は全部、真夢紀のもの! というわけではなく、仁也が狐であやかには兎。
そして智美には……。
「狼……じゃなくて犬か……」
そして真夢紀が持って居るのは鳥なのかと、仁也と呟く。
「これは俺達が動物だったら、というイメージで作ってもらったものかな?」
問いかければそうだよとの答えが返るのだった。
さて、まだまだ買い物は続きそうだ……。
●
飴職人ではないけれど、自分でも飴を作れる……。
綿あめコーナーでは、楽しげな笑い声が響いていた。
「わわわ、メロンの綿あめが出来たのですよぅ☆」
そんな楽しげな笑い声に負けないはしゃぎ声をあげ、蒼姫が差し出したのはメロンの綿あめ。
「メロンか……色合いが鮮やかだな」
静矢と言えば、そんな彼女と彼女の作った綿あめに瞳を細めながら金平糖の綿あめを作っていた。
「どんな感じになるかねぇ?」
どこか金色かかった金平糖の綿あめと半分こしつつ、味わう。
「アキの作ったメロンの綿あめは如何でしたか? 静矢さんの作った綿あめも美味しかったのですよぅ☆」
「ふむ、どちらも変わった味だが美味しい綿あめに仕上がったねぇ」
にこにこと微笑みあう2人は、仲良く食べるのだった。
「薄荷のわたあめは如何な感じになるのでしょう……?」
和紗は真剣にわたあめを作っていた。
勿論、真緋呂のために作ることも忘れない。
「……出来ましたよ、どうぞ」
微笑を浮かべた和紗より差し出されたのはちょっと薄いピンク色。
わーいっと受け取り、真緋呂はしかし香りに首を傾げる。
「ん? 香りが……」
一口食べて、漸くその原因が分かって顔を顰める。
「……す、すっぱ……っ!?」
「成程。やはりわたあめにしても酸っぱいのですね」
たんたんと言いながら薄荷の棉飴を食べる和紗は、それでも完食した真緋呂に、平常運転だなと微笑みを浮かべつつ作った棉飴を口に運ぶのだった。
透次たちも棉飴を作ろうとやってくれば、そこではひりょも作っていて。
(お祭りで見る度に自分でもやってみたかったんだよね)
皆で盛り上がりながら透次は檸檬味の棉飴を。
ひりょはコーラ味の綿あめを作り出せば、同じように作っていたダリアが声をかけてくる。
「なに味ですかー?」
「コーラですよ」
ありがたく受け取るダリアや皆と食べつつもう少し飴を多くしたらどうなるんだろう? なんて話し合っていれば、わぁっと声が上がった。
物凄く大きな綿あめを作った人がいるらしいと大騒ぎする皆の視線の先……。
そこには藍とユリアがいた。
飴を入れて、くるくる〜とかき混ぜる作業が楽しい藍。
「わー、楽しーい」
そんな彼女と一緒にしゅるしゅる〜と回すユリア。
「空より高い綿飴よ、いでよー!」
そんなユリアの願いが届いたのか、沢山の種類を入れた綿あめはレインボーで豆の木のような巨大というより高いものが出来上がっていた。
「んー……ま、いっか! 大きいことはいいことだ!」
あやういバランスでふわふわしているそれはに呆気にとられたのは一瞬で、ユリアは金平糖をまぶぜばきっと綺麗! とさらさらとかけてみる。
なんだか天の川のような巨大綿あめになったのに、ぱぁっと2人笑顔になる。
「せーの、いただきまーす☆」
一緒にぱくりとほおばれば、甘い香りが口に広がった。
そんな彼女たちが食べている中、真緋呂と和紗もやってきて一緒にご相伴にあずかる。
「これは……また大きく作りましたね」
「すごい! 大っきい!」
大きいでしょう! と胸を張る2人に、2人も感嘆しつつ頷く。
「一緒にいっぱい食べよ、楽しさもスパイスだね」
もちろん食べます! と真緋呂は頷き、和紗も少しもらいますね、と微笑む。
「ふふ、皆で食べると美味しいですね」
倒れそうになる綿あめに悪戦苦闘しながらも、一緒に食べるみんなには笑顔があふれるのだった。
黒百合はピーチとブドウや、コーラとサイダーなどのちょっと変わり種のミックス綿あめを作っていた。
混ざり合ったその綿あめは意外とおいしいものもあって、新しい発見があった。
「ふぅん、いいのができたわねェ」
さて、誰に食べさせようかと失敗作も含め、黒百合の視線があたりをさまよっていく……。
「ほら、苺味だ」
その頃、恭一は棉飴を作ってはやってきた子どもたちに配っていた。
嬉しそうにほおばる子どもたちに、恭一も笑みが浮かぶ。
そんな様子を眺めた後、ぱっと何かをとりだすユリア。
「あ、藍ちゃん!」
ユリアが持ってきていた小瓶二つに金平糖を入れて……そのうちの一つをそっと差し出す。
「今日の想い出に、ふぉーゆー☆」
ぱぁっと笑顔になった藍に、ユリアもまた笑顔を浮かべるのだった。
ふわふわ、きらきら。
お気に入りの甘い飴を手に、26人の撃退士たちは路地を歩く。
この飴を食べる時、またはどこかで見かけたとき……きっと今日の楽しい思い出も口いっぱいに広がるに違いない。