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目の前に広がるのはピンク色の中に混じる、真っ赤な花弁とそして野太い声。
「なんて事にっ!?」
肌がちらみせどころが、ほぼ全見せなな勢いのその様子に佐藤 としお(
ja2489)の瞳が見開かれる。
褌姿のとしおがこれに巻き込まれれば、色んな意味で大変なことになるのは間違いないであろう。
やってきた撃退士は6名、雫(
ja1894)は、全員女性ならば良かったのに……ととしおを見ながら思う。
彼には大変辛いことになるだろうが、物理で記憶を消去することも考えなければならないかもしれない。
だがしかし、雫は気が付いていなかったが、男性は彼だけではなかった。
藍那湊(
jc0170)は視界に広がる桜を見つめながら思う。
(んむ……桜がいっぱいで綺麗だけれど、あれの半分は敵かぁ……)
桜は川沿いにあるみたいだし……と、それを踏まえ、最短ルートを導き出すために、湊は異界認識で把握しようと努める。
「最短ルート、探してみるね」
助け出すためにも、最短ルートは必要だろう。
そんな彼に頷きつつ、アルティミシア(
jc1611) は顔を覆う。
「は、破廉恥はデストロイでーすー!」
だがしかし、ちらちら指の隙間から囚われた男性達をみてしまうのは、種族的も仕方がない……のかもしれないが、なんで見てしまうのだろうと心の中で思う。
「桜の木の天魔ですかぁ……。お花見の邪魔をする子たちはメッ! なのです」
メッ! しないとですよね〜と深森 木葉(
jb1711)がアルティミシアに頷く。
そんな皆の近くでは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)がよろよろ……というかよぼよぼというか、既に色々されたかのような状態で居た。
全体の8割近くが機械という彼女。
「あ、あいつら……いつか殺す」
涙目で、物騒なことを呟いている。
これからディアボロと戦うというのに、自分にかけられた制限。
幾らそんなに強い敵じゃないからといって、と思いつつも、彼女の視線の先……。
すでにうめく声すらも、かすれ気味の男たちがいるのだった。
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彼らは、ほぼ肌色状態で拘束されていた。
すでに笑いすぎて辛いのだろう、ときおり震える以外に動きも鈍い。
もしも囚われたらこんな末路なのかと戦慄が走るのに十分だ。
湊によってディアボロの位置を把握し、皆が動き出す。
行きの間に、普通の桜に紙テープを投げるのは木葉だ。
これならば、間違えて攻撃することもないし、そして、終わった後も桜を傷つけずに回収も可能だろう。
「彼らの近くにはいないようでよかったです」
投げつつ言う木葉に、湊が頷く。
「本当だよね……先にディアボロの方にも印をつけておきたったけど」
今のうちに、動かぬディアボロの枝でも切り落とそうかと思っていた湊だったが、あいにく近くにはなかったために、木葉とはまた違う桜の木に紐をかけていた。
でも2人の行動のおかげで、これから先、戦いやすくなることは間違いない。
そんな中ボディペイントを駆使し、さらに隠密を併用して近づいていた雫が大剣を構える。
「こんな事なら大剣では無く、斧を用意して置けば良かったですね」
ちなみに彼女の視線は木の根元に注がれ、上の方にみえる肌色を決してみようとはしてない。
「だ、大丈夫、ですか?」
そんな彼女とは違い、湯気が真っ赤に染まった頬というか全身から出ていそうな勢いなのに、どうしてもちらりちらりと見てしまうのはアルティミシアだ。
それでも2人連携して攻撃を加えれば、ほどなくしなしなと枯れ始め、ほぼ肌色しか見えない男性が放り出された。
「なんで、こんな姿でいるんですか……」
雫のその問いに、一番それを聴きたいのは彼だったかもしれない。
「……ヒィッ! あ、あああの、服が、乱れている、みたいですが!」
乱れているという状況をはるかに超えた状態に、先程よりさらに真っ赤にし、湯気がぽっぽとでつつも……それでも男性の服を整えてあげれば、男性がほっとしたように微笑んだ。
そんな助けられた男性の脇から、大型ライフルをふるふる震えながら持ち、ディアボロに定めるのはラファル。
「今助けるぜ!」
ふるふる震えながらもそこは撃退士。
ぱしんと見事的確に二度、三度とあたり、しなしなと萎れていくのと同時に解放された男性を、としおががっちりと抱き留めた。
「大丈夫か?」
がっちりと抱きとめられた男性は、色んな意味で大丈夫ではなさそうに体を震わせるのだった。
なんだか肌色成分多めな光景を背に、湊と木葉も囚われの男性を助けだす。
「大丈夫ですか?」
しなしなと萎れたディアボロから解放された男性を湊が助け起こし、あまり見ないようにしつつ木葉が助け出された3人に帰路を伝える。
「あちらのテープや紐がついている桜の木の方から行ってくださいね」
木葉と湊によって、帰路は分かりやすく確保されている。
目印を通っていけば、ディアボロに捕まることなく移動が可能だろう。
「ありがとうございました!!」
さっそくその道を湊が枝から守りつつ3人が駆け抜けて行く。
くすぐられ体力も減っていたためか少々時間はかかったが、無事警察と合流できたようだ。
「一先ず、無事で良かったですが……」
雫の視線が桜へと注がれる。
「確かあれが、ディアボロって言ってたぜ」
ラファルが示す先には、今はディアボロか桜か見分けのつかない木が。
その木が幾らディアボロだと分かっていても、攻撃があたる、はあちらの攻撃もあたる、である。
「阿鼻叫喚に、なりそう、ですね」
アルティミシアの冷静なその一言に、頷く撃退士達。
奇襲されないだけましだと考えるしかないだろうか。
真の戦いは、これから始まるのだ!
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この先の悲劇を分かっていても、戦いに赴くのが撃退士達である。
それでも彼らも戦いになれた撃退士ゆえか、腕をとられたりしても、連携で仕留め、悲劇的結末になるものはまだいなかった。
特に湊が囮を務めたお陰で、女性陣に被害は腕を触られた程度で少ない。
「さすがにここからは、分かりにくいな」
道路側はディアボロが多かったために戦いやすかったが、ここから先は桜とディアボロが混在する地域だ。
としおが皆を見るが、異界認識が使えなくなり分かりにくくなった現状でも、足を止めるものはいない。
「よし、じゃぁここから覚悟を決めるか!」
それに頷き、先に行動したのはアルティミシアだ。
「逃げられないのは、ボクも、オマエも、同じです」
どう動いても多少は悪戯されるのはしょうがない……と冷静にそう判断し……そして、枝に気をつけつつ、ディアボロへと接近を試みる!
伸ばされた枝をさっと避けた所で、もう一本あった枝が腕を掴んだ。
「きゃっ!」
咄嗟に態勢を整える前にひゅんっと伸びた枝が、高々とアルティミシアを持ち上げ、素早くその枝を服の下に潜り込ませる!
「ひぃん! あにゃにゃ!」
枝の動きにあわせて、なまめかしい声と共に、声と同じくなまめかしい香りが漂ってくる。
「だ、誰か、た、助けてくださーい!」
雫の視線の先ではアルティミシアが服の隙間から忍び込まされた枝で、脇をこれでもかとくすぐられていた。
赤く染まる肌に、くすぐられてこぼれる声音。
「もしかして、この香りの発生源はアルティミシアさんですかね?」
香りに首を傾げつつも助け出すために大剣を振りあげた所で、彼女と視線が合う。
妖しく光る瞳は、どこか淫靡ながらも……どこか辛そうに細められて。
これは、色々危ない。
これが男性にみられていたらやばい、とはっと、としおに視線をやれば……。
「これなら取られるモノはないから安心!」
自信満々で枝に絡め取られるとしお。
ディアボロにとって、それはささいなことのようだった。
赤い花弁がついた枝が、彫られた刺青にそって鍛え上げられたとしおの胴に絡みつき、そのわき腹や、足の付け根を這う。
ぞくりと体に走ったのは、快感か、ただのくすぐったい感覚なのか。
「ちょ、流石にそれは洒落にならないよ?!」
下肢に伸びる枝に、色々とやばいことになりそうなのに気がついたとしおが、慌てて足で枝を蹴り飛ばす。
「今、助けてやるぜ!」
ラファルのライフルが向けられ、ぱしぱしぱしっと銃弾を当てて行く。
だがしかし、今回のこの体の不調。
解放されたとしおやアルティミシアを助けようにも、なかなか皆のように機敏に動くとはいえそうになかった。
湊や木葉が肩で息する2人を助ける中、次なる魔の手は周りを警戒していた雫へと伸びる……!
「きゃぁっ!」
腕をとられ、腰を取られ、幹に突き刺そうと動く手をとらえ……と揉みあううちに、雫の肩があらわになる。
つつーと伝っていく枝は、くすぐるベストポジションを探しているのだろうが、くすぐったいような、それとも違う何かが駆け抜けていくような気もして。
耐えられる、かと思われたその瞬間、背中と脇腹、同時にくすぐられる!
「ひゃん!?」
あがった声に、ますます勢いを増すディアボロ。
「何処を触っているんですか! この変態天魔!」
そんな言葉で止まるのなら、ディアボロやってない。
とばかりに声があがった場所を念入りにこしょこしょされれば、乱れていく服。
「みせるわけには……っん……っ!!」
男性にこんな姿は見せられない、とヒプノララバイをかけたいところではあるが、あがるのは声ばかりだ。
「だ、大丈夫、みてないよ?!」
そこはとしおも心得たもので、視線を思いっきりそらしながら助けるために攻撃をすればようやく雫も解放されたのだった。
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そんな感じで一体どのくらい倒したのか。
体感ですでに何十時間もたたかっているような気持になりつつ、助けたり助け出されたりしつつ、順調に敵の数は減らしていた。
「なにっ?!」
今まで動きが鈍かったゆえに、逆に皆が先に餌食になることで助かっていたラファル。
だがしかし、伸びた魔の手は彼女の体を這っていき、くすぐりポイントを探し求める。
機械化された体にだって、まだ生身の部分はあるのだ。
「ま、まて、そこはやばいじゃんか?!」
なんだか反応がにぶくね? とばかりにどんどん下がる枝。
その枝が、あ、ここ? と目指した場所はラファルのおしりで……?
「ちょ、あ、アーッ!」
それを助けようと湊が視線をそらしつつ、弓矢で攻撃をするが、いろんな意味で間に合っていなかったかもしれない。
(し、心頭滅却すれば……! 桜の美しさで気を紛らわすとかっ)
気を紛らわそうと視線を彷徨わせた所で、伸びる枝に気がついた。
囮としてなんどかその腕をとられたりしていたものの、致命的なことになっていなかった湊だが、氷の幻を砕く枝とはまた別の枝に気がつくのが遅れてしまう。
「ふぁ!? ちょ……あは、や、やめ」
いつも通りの服装が、明らかにあだとなっていた。
男だから多少の服の乱れは気にならないけれど、枝は大胆にも湊の脇腹からぐぐっと服を押し上げて行く。
「……くっ……ふ……」
上がる声を、上がる息を、ぐぐっと耐えに耐える湊。
ぎゅっと閉じた瞳が全身くまなくくすぐる枝が敏感な場所をくすぐるのに、かっと開かれた。
「……やめろ!」
ぶちぎれた湊のその声音に、びくっと枝がほんの一瞬とまるのだった。
「今、助けます!」
自らも餌食になるかもしれないというのに、木葉が湊を助けるために弓矢を放つ!
「えっ?」
油断していたわけではないが、攻撃を仕掛けているところに伸びた枝に、ひょいっと持ち上げられ彼女はそのまま木の枝に拘束されていく。
あらわになる肩に、足首からはいよる枝が、袴の裾をそそそと太ももの方にとあげていく……のを、黙ってさせておく木葉では勿論ない。
「〜〜っっ」
奇門遁甲を発動すれば、枝はあらぬ場所へと伸びて行く。
まるでそこに木葉が居るように、ゆるりと動く枝から解放され、放り出された木葉を助けたのはアルティミシアと雫だった。
「うぅ、いちいち、反応してしまう、我が身が、恨めしい、ですぅ」
肌色成分多めの木葉をちらちら見てしまいつつ、それでもささっと服を整える。
さすがに男性陣は肌も露わな彼女の方から視線をそらし、残りのディアボロを壊滅するために動き出す。
特に、冷たい笑みを宿した湊が全力で攻撃にあたっていた姿が目撃されたという。
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尺の都合で割愛させていただくが、どうにか残り1体まで追いつめた撃退士達。
まともな格好をしている人は、誰一人としていなかった。
褌姿のとしおのみ、まともな格好をしているといえばいるのだが……。
その体は異様なほどに汗が浮き、無事とは言い難かった。
湊の氷の植物が、ディアボロを刺のついた枝で攻撃をしかけ、としおが枝を押さえつける。
「これで終了だぜ……!」
ラファルが放った弾丸で、最後の一体がしなしなと枯れ落ちる。
周りには、この激戦を駆け抜けた仲間たちが、座り込んでいる姿が見えた。
皆が見上げた先……。
そこには、満開の薄ピンクの桜が舞っているのだった。
服を整えたりしたあと。
のんびりした時間を過ごそうと撃退士たちはそれぞれ時間を過ごしていた。
儚げに散る美しい桜をみて、木葉が瞳を細める。
(何度見ても物悲しさを感じますね……)
『風渡る 水面に映る 薄桜 鮮やかに舞う 短き春を』
出来た一句は、今の情景を表す素敵な一句となった。
そんな木葉とは違い、盛り上がる者も勿論いる。
「れっつ、ぱーりー!!」
と、盛り上がるとしおだったが、特になにも用意はされていない。
それでも解放感とあとは桜が舞う様は、やはりどこか気分が盛り上がるものに違いないだろう。
雫や湊もそんな彼に応じるかのように桜を見つめている。
「綺麗ですね……」
今日のあれそれを忘れようとひらひらと舞う桜に瞳を細めながら、雫が呟く。
そんな風に舞う桜に、水面に映る桜。
いろんな一面を見せる桜を楽しんでいたアルテミィシアがふと、としおの姿をみて首をかしげる。
「ところで、きみ、服は……」
帰りにラーメンでも、という心意気なとしおだが、そういえば……と皆の視線が突き刺さる。
朝からこの人、褌以外の服装について何も触れていない。
「無事に帰れるといいね?」
湊がぽつりと呟く傍ら。
ラファルは今日の戦いを思い出し、さめざめと泣き伏しているのだった……。