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宮部 静香(jz0201)の要請に答えてくれた撃退士達、総勢6名は、依頼主である久保田の家へと向かっていた。
砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)の要請に答えて借りうけられた車を運転するのは、高瀬 颯真(
ja6220)だ。
「事故らない程度に飛ばしていくんで、つかまっててくださいね〜」
そんな言葉に頷きつつ、車内はどこか緊張したような空気が流れる。
されどそこは葛城 巴(
jc1251)がそっと言葉で久保田によりそいを示す。
「落ち着かない気持ち、お察しします」
静香も安心させるように声をかければ、ぽつぽつと少し張っていた気が緩んだのか返事をする久保田。
その様子を警戒しながら感じ取った竜胆は、支障になりそうな「あせり」をほぐす為に、言葉を選んで話を振ればほんの少しだけ笑みも浮かべられるようになったようだ。
(永遠の愛を誓った指輪……願いを託したくもなる、か)
そっと視線をやった先の久保田は、どこか弱弱しく見えながらも、その瞳の意思だけはとても強い。
(僕、超現実主義なんだけど、偶には浪漫のお手伝いもいいよね)
皆のやりとりをききながら、美森 仁也(
jb2552)は場が和んだの感じとり、気になっていたことをいくつか手早く質問する。
普段つけているのならば、まず落ちることはないだろうというのに、久保田も頷く。
「何か用事があって外されていたのでしたら、その場所とか心当たりはありませんか?」
言われてみれば……と久保田が暫し悩んだ後、少なくとも庭には出ておらず、また二階で外したわけではないと断言した。
「確か、あの時は話の流れで外して……その時に混乱があったものですから……」
やはり、居間か、台所か……混乱していたために、火周りの確認に風呂場などものぞいたかもしれないと久保田は言う。
逢見仙也(
jc1616)はそんなやりとりを見るともなしに見ながら、場所を出来るだけ特定しようと質問をしてみるが、やはり大まかになってしまうようだ。
「その時指輪を持って歩いていたか、なんかもちょっと思い出せません……」
すみません、と頭を下げる久保田になるほどと了解を示し、その視線は窓の外へ。
流れゆく景色を見ながら思う。
(思い人がいれば、それでいいのでは……?)
されど、出来るだけ早く指輪を見つけようとも思うのだった。
向坂 玲治(
ja6214)は、視線は常に車外へと向けていた。
(やれることはやっておいた方がいい)
流れゆく景色に、不審な所はなにもない。
(……後悔しないためにもな)
仙也とはまた違った考えの元、警戒を怠らない。
特に、後ろから追いかけてくる姿などないかとみてみるが、今のところそういう気配はないようだ。
再び雑談に話を戻し、久保田の話をきいていた竜胆が微笑む。
「そっか、ステキな奥さんだね。じゃあ是非ともまた2人で楽しく暮らして貰わないと」
「えぇ、そうですわね」
巴も頷いた頃……。
「ここだね?」
颯真が小さな家の前に、車を停めた。
「先に俺が下りよう」
一番先におり、安全を確認した玲治は久保田と静香達を家の方へと誘導を始め、仁也は阻霊符を使うのだった。
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気が急いてはいても、皆が自分のためにこうやって時間を割いてくれている。
それが分かるからこそ、軽く頭を下げると室内へと入って行く。
「まぁ何もないとは思うが……念のため俺らは見張りだな」
中に入って行った久保田達を見送り、玲治は玄関付近で警備を続ける。
玄関は比較的視野が広くみえる位置にあったために、このままここを拠点に警備を出来そうだ。
「では俺はあちらに」
仁也が反対方向へ警備へと向かい、離れた場所に広めの道があるのを見つける。
田舎特有の無駄に広い道ならば、多少暴れても大丈夫そうだ。
見つけた場所を無線機で皆に伝えておく。
とはいえ、本格的に使うことなどないのが一番いいのだけれど。
「何もないといいんですけれどね……」
「まったくだ」
仁也の言葉に、玲治が頷く。
だが、撃退士としての経験が2人に緊張を運び込む。
何が起こるかわらない。それが現場の基本であろう。
警戒班として動く2人は、それぞれの役目をしっかりと務めていくのだった。
警戒している班と同時刻。
「足元に注意しましょう!」
巴のその一言で、皆が足元に注意しながら中に入る。
久保田に案内された居間は、慌てて出て行ったというのがよく分かる有様だった。
颯真が磁力掌を使うというのを聞き、仙也はそっと距離をとる。
「片付ければ探しやすいですよね〜」
颯真の言うとおりだ。
皆、彼の邪魔にならないように場所を開けて行く。
障害物がないことを確認し、発動するがでてくるのはどこかから落ちたネジとかそんなものばかり。
「やっぱり指輪自体は出てきませんね〜」
颯真が言うとおり、他の金属はでてきたものの、指輪は残念ながらないようだ。
とはいえ、これでぐっと探しやすくなったのも事実。
ライトを持っていた仙也が主に暗く狭い場所を探し、巴は槍を手に取った。
もちもちとひっつけてとる算段のそれならば、柄も長いために深くまで出来るだろう。
「何か見つけたら呼ぶな」
「えぇ、わかりました」
ライトが必要な場所は深い場所が多い。
そういう場所は巴が持つ槍が一番いいだろうと仙也が言えば、巴も頷いた。
とりあえずは一体どこになにがあるかわらないとばかりに、視線は上から下へとむけて丹念に、を心がけて。
「重い物あったら動かすよ〜」
作った簡易ブラシを手にしつつ、竜胆が言えば、とはいえまずは動かさずに探しましょうと巴がいう。
ひとまず全部浚ってから、それでもなかったら移動しようということになり、それぞれが適度に散らばり探していく……。
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別れてから数十分程たった頃だったろうか。
一番先に気が付いたのは仁也だ。
空の上からも警戒していた彼は、誰もいないはずの場所に、動く影を認める。
何か動物でも、というわけではないと分かるのは撃退士としての経験ゆえか。
すぐさま連絡をいれ、仁也はディアボロを誘導すべく動きはじめる……!
連絡を受けたのと同時に、玲治は駆けだす。
仁也が言う、大通りはすぐに見つかり、その瞳はきつくディアボロを見据え、この先に絶対に行かせないという意思が見て取れる。
影から飛び出た腕がディアボロに掴みかかり、その場から動けなくするその隙を逃さす仁也が糸でディアボロを縛り上げるのだった……。
やはり、電波が通じなかったために無線機を各自持っている中。
『ディアボロが出ました』
その言葉に、久保田がはっと顔をあげた。
まだまだ指輪を探しはじめたばかりだが、ディアボロがでたとなればこうしてはいられない。
「じゃぁ、ここは任せたよ!」
竜胆が仙也にと目配せすれば、仙也も頷く。
加勢に行くために二人がその場を後にすれば、久保田が巴達にと視線をやった。
視線が合い、安心させるように微笑む巴。
「貴方に何かあったら、奥様が悲しみますから……」
だからこそ、ここに居て欲しい。
そういう巴に同調し、颯真も安心させるように言葉を紡ぐ。
「ここは大丈夫ですよ〜。戦闘してる仲間は百戦錬磨なので〜」
久保田にと、目的を思い出させるように微笑みを浮かべる。
「俺達は捜索に専念しましょう〜」
その言葉に、久保田は大きく頷いた。
出来るだけ早く、指輪を見つけ出さなくては……!
斬り裂かれた腕から血が流れる。
されど、玲治はどこか楽しげに瞳を細めた。
周りに被害をださぬように……いくら広めの場所とはいえ、何度も衝撃波を受ければ被害が増えるだろう。
仁也も出来るだけ近くで攻撃を仕掛けて行く。
ぎりぎりの均衡……。
それが、2人にとっていい方向に崩れる瞬間がきた。
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「加勢する」
駆けつけた仙也の雷の剣がディアボロの体を横凪に切り裂く。
「間に合ったみたいだね」
竜胆が衝撃波を盾で受け止め、玲治達の態勢を整える時間を稼ぎながら言えば、二人が微笑む。
ここからは全力で攻撃へと当たれるだろう。
「さて、そろそろ終わりにしようか」
攻撃にひるむことなく玲治が斬りこめば、それを補うように仁也がワイヤーで腕を拘束する。
「お願いします!」
「分かった」
仙也に再び雷の剣で斬りこまれ、唸り声をあげるディアボロが突破しようと猛攻撃をかけてくる。
雄叫びによる傷に眉をしかめながらも、撃退士達の動きは止まらない。
彼らが守る家に、もっとも弱い個体がいると確信しているのだろう。
それは、きっとディアボロの本能によるものに違いない。
「ここから先にはいかせない」
玲治から光の波が放たれ、ふっとんだディアボロは地面にと叩きつけられる。
仁也の攻撃もその身に受ければ、やはりもともと満身創痍だったディアボロの動きが目に見えて悪くなった。
「往生際悪いよ?」
竜胆の槍が、ディアボロの胸を突き抜ける。
それ以上、動くこともなく、ディアボロは倒れるのだった……。
必死に探す久保田達の元にも、戦闘の音は届いていた。
それでも、久保田も、巴も、颯真も、静香も手を止めることはなかった。
丹念に、丹念に思った以上にある隙間を丁寧に探って行く。
居間と、そこに繋がる台所にはもうないのか……そう思った瞬間、報われる瞬間が漸くきた。
「あったよ〜」
ぱっと声があがったのは台所だった。
コンロの隙間に入り込んでいた指輪をそっと手に取り、颯真が久保田へと手渡す。
「きっと、火まわりの確認の時に、落としたんだね」
ほっとしたような泣きそうなそんな表情を浮かべた久保田が、ありがとうございます、と大きく頭を下げた。
普段でもなかなか探さないような場所だ。
二度と落とさないというようにぎゅっと握りしめる姿を見詰めた後、ふと周りが静かなことに気がつく。
「戦いの方も、終わったようですわね」
巴がそう言えば、丁度おわったとの連絡が入る。
「じゃぁ、戻ろうか!」
長居は無用。
されど、まだディアボロがいないとも限らない。
まずは戦闘にでていた皆が戻るのを待ってから移動することにするのだった。
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見つかったとの一報を受け、戦っていた皆もすぐに戻ってきた。
他にもいるかもしれない……とのことで、警戒は誰一人解かずに家の中へ。
「戻りましょう」
巴の一言に、皆が頷く。
軽く片づけを、という仙也の言葉に、気持ちは嬉しいけれどと久保田が首を振った。
「他に敵がいるかもしれませんわ!」
その言葉に仙也が頷き、警戒をしながら先を進む。
最後に乗り込んだ玲治がドアを閉めれば、車が動きだす。
今回は、事前に指輪を探す範囲を絞り込んでいたこと、さらに指輪以外の金属を避けておいたのが幸いしたのだろう。
指輪を手に、どこかほっとしたようにも見える久保田を見ながら、仁也は思う。
(指輪か……考えてみるべきかな)
届けをだしただけの披露宴も指輪も渡していない状態の妻のことを思い、指先にと視線を落とす。
結婚衣装自体は結構きてもらっているけれど、また違う「結婚の証」、そして「絆」はあってもいいのかもしれない。
どこか行きより緊張がとけた車内、巴が元気づけるように声をあげる。
「終わったことですし、最後に愛は勝つサンドは如何ですか?」
体が弱ってしまっていたら、目覚めた奥さんが悲しむ……。
その言葉に久保田にも少し力が戻ったようだ。
(これがドラマだったら、結婚指輪を取り戻したら奇跡が起きる流れなんだろうけどね〜)
運転しながら、颯真は思う。
だがしかし、そんな奇跡が起こらないことは嫌という程、分かってもいた。
それでも、ここにその希望を信じたい人がいる。
その気持ちを守るためにも、車を走らせるのだった。
病院へつけば、久保田の妻はまだ夫を待っていた。
「既に使ってはあるだろうけど……」
許可を得た竜胆がヒールを施すが……これもまた、気持ち程度なのかもしれない。
「久保田ちゃんの想い、自分が信じなきゃね」
(僕もそんな存在が出来たら……願いたくなるのかな)
暖かな光を送り込みながら思う。
今のところは、その対象としてでてくるのははとこなのだけれども。
久保田は頭を深く下げつつ、指輪をそっと妻の細い指先へと祈るように滑り込ませた。
そんな様子を、どこか羨ましく、そして、どこか微笑ましく見守る巴。
自分と玲治には訪れることのない、愛の形。
視線の先にいた玲治が気が付き、瞳を細めたのに小さく首を振り、そっと久保田の隣に立つ。
「良かったら、奥様が退院する時にでも使って下さい」
差し出された化粧品に、小さく久保田が瞳を瞬き……そして、微笑みを浮かべた。
愛する人のために身ぎれいにしていたいだろうという の気持ちを貰い、きっと使わせていただきますねと囁く。
久保田の妻が峠を無事こせるかどうか、それは分からない。
けれど、皆のお蔭で久保田は後悔なく、この先を過ごすことができるだろう。
今ここで皆に見守られている妻も気持ちは感じ取っているに違いがなかった。
「あ……」
その時、颯真が気が付いた。
「笑ってるね」
幸せそうに、嬉しそうに、感謝を示すように。
それは本当に微かなものではあったけれど、どこか暖かな未来を予感させるようにも感じられる瞬間だった。