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マスター:如月修羅
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:13人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/08


みんなの思い出



オープニング


 その館は、とても楽しい音楽に溢れていました。
「まぁ、とても素敵ね!」
「おやおや少年、女性みたいな口調だね」
 少女はその言葉に瞳を瞬きました。
 あらあら、よく見てみると、少女はいつものドレスではなくてまるで男の子のように半ズボンを履いています。
 いつもと違って声も低いようです。
「あら? どうしたのかしら」
 目の前の少女……いえ、ズボンを履いて、瞳を瞬かせる青年は、小さく笑いました。
「おや、ここは初めてかい? この館は外とは違う性別になるんだよ」
 ということは、今の自分は少年ということでしょうか。
「ほら、楽しもうじゃないか! 音楽は始まっているよ!」
 少女は頷くと、青年と一緒にダンスフロアへと足を踏み入れるのでした。


●ちょっと変わったお誘いです
「ちょっとお話をきいていただけますか?」
 職員がそういって、絵本を手に撃退士達を呼び集める。
 少女の不思議な夢シリーズと書かれたその絵本は、地元愛を持つ作家が地元のあちらこちらを題材にした絵本シリーズである。
「何度かお誘いしておりますから、分かるかもしれませんが……そのシリーズの一つで、江戸時代後半〜明治初期に建てられた洋館をモチーフにしたものがあるんです」
 その洋館は、社交場として使われていたらしく、この時期にはダンス会場として使われるらしい。
「で、ですね? この洋館というのが絵本シリーズで書かれておりましたのをやろう! と月に数回、男女逆転イベントをやっておりまして。
今回この洋館に行くのでしたら、男女逆転してもらうことになります。
ようは女装・男装をしてもらう、ということですね。
ダンス自体は別に男女交代しなくても大丈夫ですよ、踊り易い方法で踊って下さい」
 ちなみに洋服は、自分で用意をしてもいいし、あちらで提供しているものを着てもいいという。
「今回は、ダンスする側か、曲を提供する側か、選べますよ。どっちにせよ、男女逆転な服装をしてくださいね」
 口調までやらなくても平気だけれど、やっても楽しいかもしれないと言う。
「立食式で、ケーキやお餅やクッキーやサンドイッチや……まぁ軽食があって、飲み物もありますので、演奏に疲れたり、ダンスに疲れたらそちらで疲れを癒してくださいね」
 ダンスはポップやジャズ、ワルツなど色々あるという。
 リクエストも可能だそうだ。
「一般の方もいますので、かなり大賑わいでしょうね……楽しんでくださいねっ」
 そういって送り出すのだった。


リプレイ本文

 その洋館は白と茶色のコントラストがとても美しい館だった。
 木の温もりを感じさせつつも、採りいれられた趣向は、西洋のもの。
 和の中にも西洋を感じさせる洋館は、現代でも人々に愛着されているのだった。


(この洋館……は? 凄く好みだ。和と洋が混在していて……今の俺が欲している芸能文化と寸分も違わない……)
 彼が開いた扉の先。
 男女の楽しげな笑い声や話し声が、音楽の合間に聴こえ、衣擦れのさらさらという音が今と昔を織り交ぜていく。
 懐かしい雰囲気を感じさせながらもどこか近代的なその光景に、郷に入れば郷に従えと、 色の長い姫カットされた髪を揺らしエドヴァルド キヴィ(jc2025)は豪奢な血色のゴシックドレス姿でなかへと滑り込む。
(女装の1つ位、俺の研究と知的好奇心の為にやってやるさ)
 黒いヴェール越しに注がれる視線は、磨き上げられた床の上を沢山の色彩が舞い踊る様を写しこむ。
 きっとここが完成した明治時代ならば、西洋と東洋が入り乱れ、それが目新しく映っていたのであろう。
 動きに合わせ、美しいドレープ部分が波打つ。
 ダンスを踊る人々の間をゆるりとめぐり、エドヴァルドはどこか嬉しげに瞳を緩めた。
 現代と過去が、交差していく……。


 ひらり、と揺れるのは夕貴 周(jb8699)のスカイブルーのロングドレス。
 周の体にフィットしたそのドレスは、華美ではないけれど綺麗な仕上がりであった。
そんな彼の姿に、瞳を細めて見詰める人物。
(お誘いは周くんからだけど、今日は私が男側ってことだよね)
 ダークネイビーの細身のスーツに身を包み、スカイブルーのショートのウィッグが人目を引く姿の木嶋 藍(jb8679)は、きりっと表情を整えた。
(僕、完璧にエスコートするから!)
 フロアで待っていた彼の元へ。
 百合モチーフの古いラベルピンが差された黒いタイが揺れる。
 周の視線がそんな藍の元へと行く。
 知らず、周の瞳がほんの一瞬見開かれた。
 伸ばしたのは周のその指先へ。
「僕と、踊って頂けますか?」
 差しのべられた藍のその指先に、一瞬、周の動きが止まる。
(……似るよな、そりゃ)
 興味本位で誘っただけだったけれど……。
 まさか、その結果がこれとは。
(やるんじゃなかった、なぁ……)
 目の前の彼女は、自分が憧れて、今も会いたくて仕方がない人にそっくりで。
 だからこそ、そんなことを少し思ってしまう。
 されど、すぐに周は笑みを浮かべると藍の手を取った。
 引き寄せ、耳元でこそりと囁く。
「ダンスは僕にリードさせて下さいね」
 二人、視線を合わせて微笑む。
「お願いするね?」
 藍の言葉に、ふわりと周が頷いた。

 流れるのは美しくもその場を壊さない調和された歌声……コーラスとジャスの調べ。
 隣に立つベーシストの黒いロングのキャミソールドレスがどこか楽しげに演奏するに合わせて揺れる。
 その二人が演奏するジャズ・ロックの曲に合わせリードするのは周だ。
 できる限り藍が踊りやすいように……。
 緩急つけて、周がリードしていく。
 そんなこともあってか、二曲目に入る頃にはだんだんといい感じになってきた。
 藍からも、ダンスを楽しむ笑顔が毀れてくる。
 そして……二つ目の曲も終わって、暫しの小休止。
 視線が合えば、やっぱり周は綺麗だな、と藍は思う。
「次は私に化粧させてね!」
「え、次?」
 きょとんした声に、きょとんと藍が首を傾げる。
 じっと見詰めあう二人。
「次はもう在りません」
「あれ? 女装好きなんじゃ……?」
 藍があれれ? と首を傾げて混乱しはじめれば、周がにっこりと微笑む。
「僕、女装趣味はないんですよ」
「か、勘違い……?」
 ごめんなさい! と、次の曲が始まり、ステップが始まりながら謝れば周が小さく微笑んだ。
 ステップを踏んで、二人で呼吸を合わせて。
 やがて、二人とも自然と笑みがこぼれる。
 楽しい気持ちは、周りにも伝わるよね!
 藍のその気持ちは、周りにも……そして、きっと周にもしっかりと届いていたに違いない。



 白シャツにサスペンダー、黒い長ズボンを履いて、いつもとは少々違う音をたててフロアを歩く斉凛(ja6571)。
 レディのエスコートは僕にお任せ、とばかりにビスチェにショートジャケットを羽織り、いつもより少々長いふんわりとした髪を揺らすシャットアウト・ユーラン・アキラ(jb0955)へと手を伸ばす。
「お手をどうぞ?」
「よろこんで!」
 二人、仲良くフロアの真ん中へ踊り出る。
 有閑マダムから紡がれる歌声に、銀の薔薇を胸に差した男性の紡ぎだすピアノ。
 それは大切な仲間が紡ぐ、二人がダンスしやすい音色。
 オペラ、椿姫の中の楽曲、「乾杯の歌」だ。
 ショートパンツにサッシュベルトをつけた足にふんわりしたトレーン。
 その靴はブーツだ。
 仲間の演奏に合わせて踊るアキラは、飛ぶかのように楽しげにステップを踏む。
 そんなアキラの身長に合わせて、50cm程浮く凛。
 天使の羽でふわりと浮けば、赤い蝶ネクタイがふるりと震える。
 二人から笑顔が毀れる。
 凛のキャスケット帽子が楽しげに人々の間から見え隠れするのだった。



 髪は襟足で束ね、陸軍将校正装服という、きりりとした姿で参加するのは樒 和紗(jb6970)だ。
「少し派手でしょうか……」
 彼女の視線の先では、急遽話し合いで決まったのか、二人が軽く音合わせした後に紡がれた曲に合わせて優雅に踊る人々が見える。
 そんな中に入っても、そこまで違和感はないだろうけれど。
 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)はそんな彼女に薔薇色の美しいドレスを翻し、そんなことはないと力強く言う。
「や、和紗くらいじゃそう派手でもないでしょ」
 寧ろ、美しく化粧も施こした竜胆の方が派手かもしれない。
 美しい美人に仕上がった竜胆を、ちらりちらりと同じく女装した男性たちが見ていく。
「竜胆兄。別に褒めてはいませんが、女装似合いますね」
 その言葉にぱっと笑顔になる竜胆。
「やっぱり? いやぁ和紗に褒めて貰えるとは……」
 が、途中で気が付いた。
「って褒めてないのね」
 ほろりとなる竜胆を見つつ、和紗がフロアへと誘う。
「まあ楽しもうか。……エスコートお願いね?」
 二人が本格的にダンスフロアへ入る頃には、三人組から交代し、ワルツを奏でる人々が居た。
 ワルツしか踊ったことがないから、丁度いいのだけれど……和紗はきりりと背筋を伸ばし、竜胆を見ながら言う。
「とは言え、ワルツも先日竜胆兄に教えて貰ってやっとですし……流石に男役でリードは無理です」
 流石にダンスまでは男役は厳しいかと、竜胆がリードしワルツを踊り始める。
 ふわりとゆれるドレスが和紗の陸軍将校の服と折り合い、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる。
 きっとここが出来た当初、こんな風に人々はダンスを踊っていたに違いない。
「お。なかなか上手くなったじゃない 」
 ひとつ、ひとつ。
 ステップを踏むたびに和紗の成長を感じ取る。
 和紗が疲れぬようペースを整えながら、二人、のんびりと踊っていく……。



「新年のごあいさつに舞踏会ー。楽しみだねえ♪」
 九鬼 龍磨(jb8028)は上品に化粧をされた顔を綻ばせ微笑む。
 穏やかな音色は天使のハープとバイオリンが織りなす音色。
 先程の仲間たちの楽しげなダンスを思い出す。
 次は二人の演奏で、自分達が踊るのだ。
 紫のブラウスに黒ベルベットのベスト。
 そしてとパンツに身を包み、今日は髪は解いて貴婦人に恋する青年に……華澄・エルシャン・ジョーカー(jb6365)はノースリーブのロングドレスに長手袋に指先を包み、白いファーのストールをはおった有閑マダム……こと、龍磨の手を取る。
「踊りましょうか、マダム」
「喜んで」
 華澄は男性側のステップを踏み龍磨をリードすれば、そのリードにそい、軽やかにステップを踏む龍磨。
「僕だけを見て。今宵は貴女の夢を叶えてご覧にいれよう。素敵だ。貴女は羽のように踊るんだね」
 胸元に挿した銀の薔薇が、爽やかな香りを振りまく。 
 龍磨からも同じ香りが漂い、二人の華麗なステップに彩りを添える。
 ふわり、ふわり。
 まるでかろやかな羽のような雰囲気。
 夢想の調べが、二人を夢の世界へと誘って行く。 


 ダンスをする顔ぶれが、曲ごとに変わって行く。
 好きな曲の時に、好きなように……。
 そんな雰囲気の中、顔ぶれが変わるのはダンスだけではなかった。



 曲を演奏する顔ぶれも変わって行く。
 得意な曲を演奏する者、仲間と演奏する者……。
 ケイ・リヒャルト(ja0004)は曲を演奏する人々を見ながら瞳を細めた。
 演奏する人々も、勿論男女逆転だ。
「ふふっ、面白い試みね」
 演じるのは嫌いじゃない、寧ろ演じなければ良い曲は歌えない、そう思う。
 ヤナギ・エリューナク(ja0006)がケイの言葉に黒を基調とした金のヒールのピンヒールサンダルをかつんと鳴らし、黒いロングのキャミソールドレスを揺らしながら頷く。
「面白そーじゃねェか。俺の色気が役立つってモンだ」
 そして、にやりと隣のケイに笑う。
「なぁ、ケイ?」
 ふふっと笑い、頷くその姿は、白を基調としたシャツに細いネクタイ、それに合わせるスーツはグレーを基調としたピンストライプのケイと二人、並ぶ姿はとてもかっこよく美しい光景だった。
 演奏が終わったのに合わせ、二人も位置へとつく。
 二人が演奏するのはジャズだ。
 視線を交わしあえば、それでお互いがしたいことがわかった。
 胸元に挿した、自由を表す月見草がケイが歌い、弾くピアノの音色に合わせて揺れる。
 ダンスを妨げぬジャズ・ロック。
 歌声も楽器の一つと見立て、ダンスだけじゃなく曲も妨げない控えめな歌……というより、ジャズコーラスといったところか。
(ケイの歌は折り紙付だ……ケド、今回はそれも控えめにな)
 どっちかというと、弾むようなピアノの方が今回は重要だろうか。
 ケイの七色の歌声が楽器としてプラスされ、絶対に面白い、と思った彼の言うとおりに、皆がダンスを踊りながら、食事を楽しみながら二人の演奏に聴き惚れている。
 そんな彼女に合わせ、とびっきり魂に響くようなジャズロックを響かせるヤナギ。
 もともとベーシストだった彼は、ウッドベースを指弾きしつつ、この場をアップテンポな曲で温めて行く。
 彼が弾くウッドベースもダンスのし易いように拍打ちにしているけれど、どこか跳ね上がるような。
 皆が曲にのりやすいような、そんなイメージを心がけて。
 気がつけば、胸元で白いファーストールがダンスを踊るかのように、揺れているのだった。
(皆、楽しんでくれるといいのだけれど……)
 ケイが視線を走らせた先には、そんな思いを受け取って、楽しそうに踊る人々がいる。
 あぁ、なんて楽しい時間なのだろう。


 そんなケイたちが休憩に入り、華澄と龍磨が変わる。
「夢の一夜の開幕だな」
 既にフロアに居る仲間を見つめ、奏でるのは乾杯の曲である。
 鍵盤に乗せた指先が、龍磨の歌声をより綺麗に響かせるように、そして二人がダンスしやすいようにと曲を紡ぐ。
 その紡がれた曲に合わせ、龍磨が乾杯の曲を歌いあげる。
 人々がその音色と歌声に合わせ踊りはじめれば、まるで空を飛ぶかのように踊る二人を見つけ、華澄と龍磨の瞳が笑みの形になる。
 この曲が終わったら、さて、次は自分達が踊ろうか?


「交代しよう」
「ありがとう!」
 エドヴァルドは二人がダンスに向かうというのに、交代を申し出る。
 二人、楽しげに向かっていくのと入れ替わりにピアノの前へ。
 音楽をやるのは好きだし、即興のジャスでも……。
 黒のコルセットスカートを翻し、椅子へと座れば、ドレープ部分から鳥籠を思わせる黒のクリノリンが覗く。
 それに目を奪われた少女……いや、今は少年たちから感嘆の声があがった。
(ピアノなら……ワルツよりもきっとジャズが似合うしな)
 始まったジャズの音色に、ジャズ好きの人々がダンスフロアへと向かいだす。
 楽しませつつ、楽しむ……今日の自分は普段とは違うみたいだと、ヴェールの下で苦笑を零すものの、それが嫌な気分になるものではない。
 リズムを取り出す人や瞳を閉じて口遊む人。
 指先から紡がれる音色が、人々を確実に楽しませているのを感じるのだった。


 先程のダンスは楽しかった、と凛がアキラに微笑む。
(わたくし……こほん。僕も今日は大人っぽく皆を楽しませるね)
 こほんと一つ息を吐く凛。
(久しぶりに楽しみますか!)
 とアキラもダンスを楽しんだ後、次は演奏を楽しむことに。
 それに、今度は自分達の演奏で、仲間二人を楽しませるのだ。
 あくまでも主人公はダンスを踊る人々……。
「ロマンティックな曲だよね。僕は好きだな」
 ハープに手を掛ける凛。
 バイオリンを構えれば、アキラと凛の視線が絡み合う。
 紡がれていくのは夢想の調べ。
 人々の思いを乗せた音色が響き渡り、紡がれた音楽で踊る人々もそれぞれの思いを紡ぐ。
 凛とアキラの視線の先では、有閑マダムと背筋を綺麗に伸ばした二人が、流れるように踊っていた。


 一度、凛と別れてアキラが他の人と演奏し終えた御剣 正宗(jc1380)にと声を掛けた。
「よし、次は一緒に演奏するか!」
「そうだね……」
 正宗はピンクのミニスカのフリルを揺らしながら、二人でなんの曲にするかを決めていく。
(まさにボクの為にあるような物じゃないか……)
 そんな思いで参加した正宗は、アキラと視線を合わせ曲のリズムをとっていく。
 その指先が紡ぎ出す音色はアキラの音楽と合わさって一つの音楽となって。
(皆、楽しそう……)
 踊る人々の表情はとても楽しそうだ。
 隣で演奏するアキラとの共演も、また楽しい。
 自身も楽しく演奏を続けていたものの、何曲か立て続けにしていたから、少し休んでもいいだろうか。
 ちらりと視線をやった先では、立食を楽しむ人々がいた。 

 美味しそうな香りが疲れた体をいやす。
 そこにはやはり男女逆転した人々が、いつもと違う雰囲気の中楽しげに歓談しているのだった。



 楽しい音楽に、素敵なダンス。
 少々疲れた体を癒そうと、美味しい料理が並ぶ。
 鳥籠のようなドレスに身を包んだ人がピアノで紡ぐジャズの音色を聴きながら、不知火あけび(jc1857)は左肩に流した長い髪を一つに結び、普段とは違った装いに身を固めていた。
(男装をやってみたかったんだ!)
 普段が和服なために今回はタキシードに身を包み、ノンアルコールのカクテルを片手に踊る人々を眺める。
 その背筋は綺麗に伸びており、まるで立派な侍のようにも見えた。
 目に入る洋館も周りも綺麗だし、ノンアルコールも初めての体験。
(なんだか自分じゃないみたいでふわふわする……)
 ダンスを踊る人々に合わせて視線を動かし、まるで自分も踊っているような気持になりながら、一口、甘いピーチフィズを。
 あまい味に瞳を和ませながら、もしも自分が忍びの生まれじゃなかったら、撃退士じゃなかったら何をやっていたかとふと考えた。
 演奏する人たちは、本職ではない人だっているはずだ。
 ダンスを踊る人々だって……。
 周りの人々を見て興味がわいたのかもしれない。 
(普通の高校生? 勉強や部活中心の? 剣道はしたい……)
 でも、それは今と対して違くないのではないか。
 いや、でも逆に今よりも違うのだろうか。
(うまく切り離せないな)
 目の前で踊る人々は、一体どんな生活をしているのだろうか……。
 誰かに話してみたい。そんな思いをしているあけびの隣で、オレンジジュースを手にのんびりとしている正宗。
 そんな正宗にとあけびが声をかけた。
 撃退士には自分が男だと伝えているけれど、周りから見れば、女性同士……? とちょっとだけ不思議な勘違いが生まれてしまいそうな光景だ。
 あけびと話す正宗の受け答えも対応も、まさに女性そのもの。
 女性は男装では……? という視線に微笑みつつ、あけびとジュースを飲みながら女子(?)トークを。
 話は弾み、悩みも口に出来そうだとあけびは思う。
 ダンスは憧れるけれど、出来ないから、ケーキを食べようかと思っていたけれど。
 ケーキを食べるのは、もう少しあとになりそうだ。

 聴こえてくるのはワルツの音色。
 和紗は竜胆に料理を取り分けていた。
 皿の上に乗せる料理に、甘い物はない。
「……いつも俺がやって貰ってますし、まあ偶にはいいんじゃないですか?」
 普段は冷たいのに……! と取り分けてもらい、感動してぱぁっと笑顔になる竜胆。
 そんな彼に和紗はクールながらも気遣いは忘れていない。
 自分の分も少し皿に取り分け、さぁ食べようか、という時。  
「ね、和紗。折角だし食べさせて欲しいなー?」
 ひょっとしたら、ひょっとして、今日ぐらいはもっと優しくしてくれるかもと竜胆はさらなるお願い。
「はい、あーん」
 雛鳥のように唇を開ける竜胆に、少し優しくしたぐらいで調子に乗る……と小さく溜息。
 彼女がゆるりと竜胆の口元へ上げたのは、自分の皿に盛ったものではなかった。
「……少しでも甘くしたのは間違いだったようです」
 もぐり、と口で味わう前に、竜胆の脳内に電撃が走る。
 そう、それは。
「ぎゃあ甘い! しぬ!」
 わざわざ甘いものが苦手な竜胆のために選ばなかった激甘ケーキ。
 悶絶する竜胆にはぁっと小さく溜息を零すのだった。


 ダンスも演奏も、ひとまず休憩。
 奏にアキラ、華澄に龍磨……。
 いつもとは違って、役目が逆転だ。
「僕の一輪の薔薇。ご一緒できて光栄です。ああ、淑女は動かないで。 貴女の望みは僕になんなりと」
 なんて、華澄の立ち振る舞いは紳士そのもの。
 凛とアキラが視線を交わす。
 負けてはいられないとばかりに凛もきちんとエスコート。
「はい、こちらをどうぞ」
 凛がアキラのために、料理をとる。
「美味しそうだね」
 アキラが微笑めば、その隣では龍磨が華澄から料理を受け取っていた。
「僕、いやさ私は社交界の大物なのよ」
「確かにそうみえるね?」
 凛がくすりと笑ってそういえば、アキラも頷く。
「本当だ、こんなに素敵な紳士がいるんだものね」
「そうでしょう、彼女は僕の一輪の薔薇ですからね?」
 冗談のつもりだった龍磨は、皆の反応にマダムらしく口元を隠し微笑みながら、内心ちょっと焦るのだった。


 演奏もダンスも料理もまだまだ続いていく。
 洋館は暫しの間、昔懐かしい夢を現実のものとする。
 皆の楽しげなその時間は、過去から現在、そして未来へと残っていくのだろう……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
『久遠ヶ原卒業試験』参加撃退士・
ユーラン・アキラ(jb0955)

卒業 男 バハムートテイマー
愛する者・
華澄・エルシャン・御影(jb6365)

卒業 女 ルインズブレイド
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
白花への祈り・
夕貴 周(jb8699)

大学部1年3組 男 ルインズブレイド
『AT序章』MVP・
御剣 正宗(jc1380)

卒業 男 ルインズブレイド
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
撃退士・
エドヴァルド キヴィ(jc2025)

大学部4年184組 男 アーティスト