●お菓子の国へようこそ!
ふわふわと綿菓子のような雲とソーダ水のような青い青い空の下。
飴で出来た色とりどりの木々や花々が風に揺れ、お菓子の家の周りでは老若男女の楽しげな笑い声が聞こえてきます。
さぁ、今から皆様もここの住人です! 好きに食べたり飲んだりできますよ!
●飴色夢色
招待状を持って集まったのは8人でした。
南瓜マスク、黒いタキシード、そしてシルクハット。背中を飾るはマント。それをひらりと舞い踊らせながらひょいっと愉快に一礼するのはエイルズレトラ マステリオ(
ja2224) です。
クッキーでできたマスクがかたりと揺れました。なみなみ注がれたバケツのチョコフォンデュも揺れます。
「さぁさ、お菓子の国とは素晴らしい! すべてを僕の大好きなチョコレートで塗りつぶしてあげましょう! そうそうもしもよろしければ、チョコを塗って差し上げましょうか?」
皆がそれに微笑みます。きっと、大好きなお菓子にチョコが塗られたら美味しいものになるでしょう!
「お菓子いっぱい、です。物語の中みたい、です」
(詩を書いて、物語が好きな私には、こうゆうとこすごく、嬉しい、です)
ユイ・J・オルフェウス(
ja5137)はここでしかできないことをしようと、こくんと頷き気合を入れます。飴の可愛い柄の入ったワンピースを揺れ、可愛らしい林檎のヘアピンが頷きに合わせてぴょこんと跳ねました。
すでに歩き出しているのは飴細工で出来た大きな赤いリボンをつけた最上 憐(
jb1522)です。光纏中はお腹がすく彼女は、目に入ったカレーのケーキにと手を伸ばします。
「……ん。目一杯。沢山。全力で食べる。久しぶりに。満腹になれるかも」
ケーキに練りこまれたカレーは甘さと辛さがマッチしていました。今日は国から追い出されることなく食べられます!
「……甘味は嫌いでな……」
カレーケーキなるものがあるのならば、甘くないお菓子もあるだろうとニスロク=K=ザッハトルテ(
jb5000)が辺りを見渡します。すぐに気がついた住人が、声をかけてきました。
「……苦み中心の……そうだな、カカオ99%の物がいい。……それ以下だと甘くてかなわんからな」
その言葉に、じゃぁ此方ですよと住人が微笑みました。林檎の髪飾りを揺らして、住人達が案内する方へと向かっていきます。そして、その脇をすり抜けるようステップで駆けだしたのは、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)です。
ふわりと苺のショートケーキをイメージしたドレスが風に舞います。ホイップクリームのフリルが楽しげにきらきら輝きました。キャンディガムのリボンに、赤い赤い飴玉のペンダントは苺味です。楽しげにキャンディの杖をくるくる回しました。
「まあ! なんて素敵な世界なのかしら? お空の雲が綿飴で、小川の水がピンク色のピーチジュースだわ! ふふ、うふふふ♪」
目に入る全てがお伽の世界のようです。漫画の世界の主人公のように、きらきら瞳が魅力的に輝きました。みくず(
jb2654)も同じように声を上げます。
「わーい! お菓子でいっぱいのお菓子の国なんて、最高! 夢じゃないよね?」
軽くほっぺたを抓りましたがとても痛いです、これは夢ではないのでしょうか? とにかく、楽しまないと損です! 苺のタルトをイメージしたバルーンワンピースをふわりと揺らし、地面にとしゃがみ込みました。足元に茂る草も勿論お菓子です。
お砂糖みたいな甘い色合いのリボンがさらりと顔にかかりました。それをちょっとどけてから葉っぱを摘まんでみます。
「わぁ……綿あめなんだ♪」
もぐもぐと食べてみれば甘い味が広がりました。
マカロンがポイントの可愛らしい洋服を着たルルウィ・エレドゥ(
jb2638)が辺りを見渡しました。ふんわりしたスカートがそれに合わせて動きます。瞳があった住人に微笑みを浮かべました。
「今日はご招待ありがとう〜ルルゥ、皆でお菓子食べるの、好きなんだよ〜」
「じゃぁお譲さんには此方を差し上げましょう」
手に持っていた大きなビスケット。サクサクのそれは、いい音を立ててルルゥの手の中に収まりました。
「ありがとうなんだよ〜」
ゆっくりと見て回ろうと歩き出したルルゥの後ろでは、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)が何の材料を使ってるのが吟味しながら食べていました。
さてさて、こうして皆目的の場所にと向かいました。
●空色グミ色
クッキーやチョコ、ケーキや飴で飾り付けられたお菓子の家に刷毛でチョコを塗っているエイルズレトラ。窓や壁がとろーり甘いチョコに彩られていきます。それは大きなキャンバス。
あちらに、こちらに……余すところなくチョコを塗っていきます。勿論、食べるのだって忘れていませんよ! 時々休んでは住人達と一緒にチョコ付きの家を食べていきます。
そこに、歌いながらやってきたのはルルゥでした。
「けーき、くっきー、ぐみ、ぜり〜 あいす、あんみつ、あめ、あめ〜
ぷりん、まかろん、ちょこれーと〜 紅茶、ジュースも飲み放題〜」
ふと立ち止まれば、視線が合います。歌詞の中にあったチョコレート、そう、そこには確かに並々のチョコレートを抱えているエイルズレトラが居ます。これは、塗ってもらうべきでしょう。
「楽しそうなの〜チョコ、塗ってもらっていい〜?」
先ほど手に取ったカステラのまぁるい葉っぱを見せます。それににこやかに答え、くるりと一筆でチョコを塗って上げます。とろりと溶けたチョコは、綺麗にまぁるいカステラを彩りました。
「チョコはお好きですかな、お嬢さん?」
「うん〜好きだよ〜ありがとう〜♪ いただきま〜す」
ぱくん! それはとても甘くて美味しい味がしました。ひょいっと大きく腕を曲げて一礼したエイルズレトラは、塗っていたべっ甲飴の窓を取って渡します。
「さぁさ、お譲さん。私の大好物のチョコと一緒に召し上がれ!」
勿論、自分も一緒に食べます。もぐもぐと食べるたびにマスク越しの瞳が幸せそうに微笑みます。
「あま〜い♪ 次は何を食べようかな〜?」
瞳を彷徨わせる先には、みくずの姿がありました。首を傾げて、ちょっと不思議そうにしています。どうしたんでしょうね?
(でもどうしてここに来たんだっけ? 忘れちゃったなぁ。でもなんだかこういう甘い匂いを嗅ぐとなんとなく懐かしい感じ。なんでかなぁ?)
でも、今はお菓子を食べることに集中です、あ、勿論魔女が居ないか確認します。だって、絵本の世界っていったら、魔女ですからね。でも、勿論魔女なんておらず、ただただ楽しい笑い声が広がります。
「ゆっくり、食べよう」
飴細工のお花畑で座りこんで、ぽかぽかした日差しの中甘い香りを吸い込みます。砂糖菓子を食べた時の、ほんのりした甘さが一杯に広がりました。もぐもぐ食べているのは、飴細工でできたお花です。
「うわぁ、すっごいしあわせ!」
ぱっと立ちあがりました。エイルズレトラとルルゥが居るお家も気になります。せっかくですから、お家も食べてしまいましょう!
「わぁ……、こことか、どんな味だろう?」
窓枠を掴んでみます、どうやらパンの耳に銀色のデコレーションがされているみたいですね。
(食べても食べてもなくならないなんてふしぎ。すっごくしあわせ! ……でもなんでか少し胸が詰まる。どうしてかなぁ?)
どうしてでしょうか? けれど、すぐにまたお菓子にと没頭します。そうですね、今日は楽しみましょう。
さて、先ほど走り抜けていったシェリアはどうしているでしょう?
フィナンシェを敷き詰めた道をステップで駆け抜け、現れたのは、お菓子で出来た大きなお城でした。
チョコクランチの跳ね橋を超えて、チョコクッキーの大門を潜って城内へ入ります。
「凄いですわ! ここはお菓子の宝庫ね!」
板チョコの天井を飾るのは飴細工のシャンデリア。そこに灯る蝋燭は白いギモーブ。 螺旋階段はロールケーキ。その手すりはコーティングされたキャラメル。
飾られている彫刻達は、和菓子や洋菓子で作られた物でした。可愛らしくデフォルメされたそれらは、優しくシェリアを見守ります。
「ごきげんよう苺大福のうさぎさん。ふふ、お腹の餡子が重くて上手く走れない所が可愛い」
声をかけながら、ロールケーキの階段を上がっていきます。
二階に上がるとサブレの大きな扉がゆっくり開きました。 シェリアが覗いてみます。そこにはパイ生地に注がれたホットココアの大浴場が!
「ドーナツの浮き輪をつけて泳ぎましょう!」
シナモンの香水を振りまき、フレンチトーストをココアに浸してぱくぱく食べます。ほわんと口に広がる甘さは、極上の物でした。
「んん……♪ まるで夢みたいですわ!」
さて、その城下に視線を戻しましょう。そこでは、もくもくとひたすら食べている憐の姿が。
「……ん。カレーは。飲み物。主食。オカズ。そして。お菓子でもある」
その主張通り、目の前にはカレーに関するあれやこれが沢山ありました。そして近くに流れるのはカレーの川! ここでは洋服が汚れたりするのは気にしないで入ることができます。
ざぶんと入って飲み始めれば、口の中に広がるまろやかなカレーの味。
「……ん。一度。カレーに。飛び込んで。泳いで。飲み干して。みたかった」
飲み干せるでしょうか……? ここはお菓子の国です、からっからに干上がるぐらいにはいかないかもしれませんね。けれど、泳いだり遊んだりはできます。憐は思いっきり遊んだり、飲んだり、持ってこられたパンにつけて食べたりしました。
上がった後は、デザートに、これまたカレー味のパフェを食べます。カレールーが甘口、中辛、激辛と層になっていました。ひっきりなしに運ばれたり、いつの間にか出現してきます。
「……ん。食べても。食べても。次があるのは。良いね」
今度はカレーパンをぱくり。ここに居るだけで動く必要もありません。欲しいな、と思ったのはいつの間にかテーブルに並びます。
食べっぷりのよさに気を良くした住人が、巨大なカレータワーを持ってきました。カレーが入ってるシュークリームや、カレーパン、カレーケーキ、カレーのアイス等が乗った豪華な一品です。
「……ん。食べて。食べて。食べ尽くす」
しゃきーんと構えたフォークが光ります。さぁ、まだまだ時間はありますよ! さて、苦みを探して来たニスロクは、木の実を形をしたチョコを食べながら辺りをゆっくりと見渡します。
(どうせだ、辛味や酸味も探してみようか。 人間に食えんほどの辛味だろうが酸味だろうが、私は悪魔だ。問題無く食える……)
ぽそりと呟いた後、視線がとある一角を見つけます。そこにはちょっと顔をしかめた人や、逆に嬉しそうに笑う住人がいます。寄っていけば、そこは探していた辛味と酸味のコーナーです。
真っ赤なケーキに酸味のきいたケーキ、辛味と酸味が入ったシュークリーム、キャラメル、ビスケット、それにアイスや飴やカステラや、トッローネ。他にもまだまだあります。クッキーに、手を伸ばしながら久しぶりお菓子に胸が高鳴ります。
(甘味嫌い故に、普段は菓子なんぞ食えんからな……。ここで存分に食わせてもらおう……)
「菓子なんぞ食うのは何百年ぶりだ……。味は違えど、やはり良いものだな……」
久しぶりのお菓子を思う存分食べました。そうしたら、気になるのはやはり作り方です。人間界のお菓子の作り方を学ぼうと、住人に声をかけました。それに快く答えたのは一人の女性です。
魔法のように沢山のお菓子を作り始めました。味見をどうぞ、と差し出されたレモンパイを口にします。
(一度食べれば、作り方は大体分かる……その一瞬程度は、甘味も我慢しよう)
「酸味が……きいているな……」
甘さと、酸味が口に広がりました。そうそう、こうなったら天界のお菓子もたべてみたいですね? 探してみましょう!
そんな中、やはり同じように作り方を気になっていたグラルス。
「同じように見えてわずかに味が違ってる。どうやったらこんな味付けができるんだろう……気になるな」
それに答えたのは一人の男性でした、自分が作ったお菓子をそう言ってもらえて嬉しかったようです。説明してくれました。それにありがとうと答え、視線をやれば芸術的な彫刻が施されている飴細工が目に入ります。その周りには芸術の域にまで昇華された、ミニケーキやタルト達がありました。
「これは凄いな。ここまで精密にできるなんて、まさに芸術だよ」
ありがとう、ありがとうとそこかしこから声が上がりました。小さなそれらをちょっとずつ食べながら楽しみます。一つに絞るなんてもったいないですからね!
(これ、後で同じようなの……作れないかな?)
目に焼き付け、味も忘れないようにします。
「これは僕もよく作るけど、ここまで美味しくはできないな。作り手として感服するよ」
ケーキを口にし、そう言います。けれど、まだまだこれからです。きっと今日のことが明日への新しいイマジネーションになるでしょう。
「結構食べたな。それでも全然飽きがこないというのもまたすごいところかな」
小さく笑い、カヌレ・ド・ボルドーを口に含みました。外側がカリッ、中身がもっちりのそれに、ほわんと笑みが毀れます。ラム酒のいい香りがしました。
「リンゴ味の物、どこ、ですか?」
ユイがそう言って住人と聞きます。
(りんごは、正義、です。りんご飴は必ず、食べます。リンゴに関係するお菓子は、全部食べたい、です)
こちらだよ! と案内されたのはリンゴコーナーでした。
「リンゴ飴、アップルパイ、アイス、チョコレート……いっぱい、です♪」
リンゴ味の物が沢山で、夢のようだと瞳をきらきらさせます。リンゴジャムを使ったタルトやクッキーやマカロンもあります。
(ちょっとだけ、食べ過ぎることにする、です?)
そうですね、ダイエットも気にしないでいいのですから沢山食べましょう! 女性の象徴的な所も、大きく……なるのかな?
堪能した後は、お菓子の国を見て回ります。
「こうゆう経験、詩で役立つかも、です」
(お仕事の一つ、ですから、しっかりと、目に焼き付けないと、です。周りの人や、お菓子の国の人に、お話きくのも、いいかも、です)
メモ帳に書きながら、お菓子の国の住人達にお話を聞きます。そしてお菓子の家の前に来ました。
「ちょっと、くつろいでみたい、です」
(お菓子の家、ですから。食べてなくなっちゃうのは、残念、ですけど、そこで過ごせるのは、とっても、幸せなことだと、思う、です)
そうしてそれぞれの時間が過ぎました。
●終わりの時
満足したその後は。
「「ごちそうさまでした!!」」
おや……? なんだか皆さん眠そうですね。
これが現実か夢か、ですって? そんな野暮なことは聞かないお約束ですよ、さぁおやすみなさい、いい夢を。