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マスター:如月修羅
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/30


みんなの思い出



オープニング

●ただのお誘いではありませんでした
「タンポポと菜の花が沢山咲いている土手に行きたい方いませんかー?」
 職員がそう言ってひらひらと地図を振っているのに気がついた撃退士達が、なんだなんだと寄ってくる。
「とある村のながーい土手に、菜の花が植えられているんですよ、というか、村の人達の食料にもなってるそうなんですけれども。
春の味覚を舌で味わい、目でも味わいたい……と村人総出で毎年手入れしているらしくて。
それはそれはもう見事に真っ黄色なんです。道から下の川の方をみると、菜の花と……そして、タンポポも沢山咲いててまるで黄色の絨毯ですよ!」
 想像してみてほしい。
 暖かな日差しの中、そよそよと風に揺れる黄色い菜の花。
 蝶も舞ったりしているだろう。
 なんという穏やかな景色だろうか。
「さらにさらに、今なら土手のあちこちに咲いている桜もみれちゃったりして、三種類のお花を楽しめちゃうという豪華特典つきです」
 素晴らしいでしょう! と胸を張る職員に、数人の撃退士達も頷く。
「ちなみに、小さいこのぐらいの袋にならば菜の花のお持ち帰り可能な上に、土手ではお弁当を持って行ってピクニックも可能ですよ。
勿論ゴミは持ち帰って頂きますけれど……どうです? いきたくなりましたよね、いきましょう、是非行きましょう」
 このぐらいの、と見せられた袋は菜の花が2〜3入ればいい感じの小さなものだ。
 だがしかし、最後がやけに強引である。
 それに首を傾げれば、何やら職員の視線が泳ぐ。
「……ばれちゃいましたか……。まぁ、そんな場所に、モグラ型のディアボロがでちゃったらしくてですね。
数は10体で、物凄く弱いんです。
弱いんですけど……えぇっとですね、10体ばらばらに行動してまして」
 なんとなく嫌な予感に先を促せば、ぽりぽりと頬を掻く職員。
「土の中に隠れたりもするようなのですが、とにかくタンポポと菜の花の間を縫うようにすり抜けて行動してまして。
全体攻撃なんかでやっちゃいますと花が散ってしまいますし……出来ればあまり荒さないように対処していただきたいのですよ。
あぁいや、ディアボロですし勿論そんなこと気にせず全部倒してもいいんですけれども!」
 でも、やはり何十年もかけて今の光景があるわけである。
 出来れば……と言った所のようだ。
「物凄く長いですし、全員で移動するよりは敵も弱いことですし2人ぐらいとかに別れて探すのもいいかと思います。
あえて全員で探すのもいいと思いますよ。
ディアボロは楽しそうな雰囲気に誘われるようです。ピクニックをしたり楽しげに歌をうたってみたり……色々誘き寄せることもできるかもしれません」
 そこらへんは皆様にお任せします、と職員が言うと、頭を下げた。
「ディアボロを倒して楽しんできて下さい、宜しくお願い致します!」
 地図をそう言って、有無を言わさずに渡すのだった……。


リプレイ本文


 暖かな日差しの中、黄色の絨毯が続く土手へやってきた6人。
 黄色いお花の絨毯が見てみたい……とそわそわわくわくの小鹿 あけび(jc1037)は、周りに居る皆もそわそわわくわくしてきそうなほど楽しげだった。
(きっと綺麗で、楽しい気持ちになって、スキップしちゃうと思うです……!)
 長い土手いっぱいに咲く花をみたら、音楽も演奏したくなるに違いない。
 漸く見えてきた土手。
 ひらりひらりと風に乗り、一枚、一枚とピンク色の花弁を皆の元へと運びこんでくる。
「あぁ、ここだね」 
 綺麗だなと瞳を細めたのは陽波 透次(ja0280)。
 その視線の先では桜が咲き、黄色の花々が風に揺れている。
 これを村人達が植えて行ったのだ。
「何年もかけて大事に育てられた場所なんだろうな……」
 その言葉に景色を見つめ、頷くのは金鞍 馬頭鬼(ja2735)だ。
「いい景色ですねぇ」
 村の人々が丁寧に植えて行ったこの菜の花達のどこかに、ディアボロが居るという。
 だからこそ、思うのだ。
「さっさと掃除をしてのんびりしましょう」
 その言葉に皆が頷くが、だからと言って倒すのに集中しすぎてもダメだと思うのは麻生 白夜(jc1134)だ。
 村人達が植えた菜の花を見て呟く。  
「散らすのは、無粋」
 黄色の絨毯を散らさず、被害の出るようにしないようしなくては。
 そのためにも、と呟く。
「相手はモグラ……誘き出すが、良い。気を引く……楽しい雰囲気?」
 首をかくりと動かす白夜に、蓮城 真緋呂(jb6120)も小さく首を傾げた。
「2人ずつぐらいがいいって話だったし、最初はばらばらでいいかしら?」
 ある程度倒したら、今度は皆で集まって誘き寄せる方向でという真緋呂の言葉に皆が頷く。
 では……と行こうとした所であけびがあっと声を上げた。
「そういえば、連絡どうしましょう?」
 そこまで広い所ではないため、特になくても大丈夫そうではあったが連絡手段があって困ることもないだろう。
「時間で決めますか?」 
 連絡を取り合うのもいいけれど、時間で区切るのもいいかもしれない。
 礼野 智美(ja3600)がそう言えば、それが一番いいかもしれないと話がまとまった。
「では、またあとで」
 透次が手を振り歩き出せば、馬頭鬼もソーラー型モグラ音波撃退器を取り出し準備を始める。
「じゃぁあたしはこちらを!」
「おお、楽しそう」
 ハーモニカを手にあけびも歩き出せば、真緋呂もフルート片手に着いて行く。
 さらさらと微かな音を立てて花々が揺れている。
 このどこかにディアボロが居る……。
 白夜の瞳が細められた。
 はらりとピンク色の花弁が、目の前を落ちて行く。
「では、また」
 智美も皆を見送った後ゆっくりと歩き出す。
 はらり、はらりと花弁が舞って行った。



「この方法は吉と出るか凶と出るか……」
 花の少ない場所を見つけた馬頭鬼は、音波撃退器を設置して後じっとその場で待機する。
 暫し待って居れば黄色の花弁の間に、何かが動いた気がした。
 音波撃退器にというよりは、そういうことをする人物に興味を引かれたというのが正しかったのかもしれない。
 不快なソレに好奇心を抑えられなかったかちょこんと先に顔を出したのは尖った角部分だった。
 間違いないディアボロだ!
「掃除させてもらいますね」
 逃しはしない、と速やかに動く。
 発勁が的確にあたれば、ころんと転がったディアボロ。
 直線状の攻撃であったものの、少ない所を選んだお陰で沢山の花が散ることは避けられた。
「他にもかかりますかね」
 今回のだけで他のが無理そうならば、楽しそうな所へ追い込もうと馬頭鬼は様子見をすることに。
 今はまだ、ディアボロの姿は見えない。

 その頃、透次といえば、護衛のためにケセランを召喚していた。
 ディアボロは放っておくと危ないし、村の人達も困っているだろう。
 こんな穏やかな場所が台無しになってしまうのは悲しいことだから。
 聞こえてくる音色は、凄く楽しげだ。
 それに合わせて軽やかな身のこなしでステップを踏みながらも、その視線は花と土の間をしっかりと見詰めている。
 放たれる威圧感は、ディアボロに威圧感を与え注目させることだろう。
 唇から紡がれる校歌で、さらに誘き効果も上がることだろう……とまで考えていたものの。
(……恥ずかしいかもしれない)
 だがしかし、これはディアボロ退治のために必要なのだ。
 そして、そろそろディアボロが来てくれてもいいのではないか、そんなことを思った瞬間。
「きた」
 なるべく花を傷つけぬようにとケセランに指示を与えれば、ぼこっと顔をだしたその瞬間に仕留められた。
 なるほど、弱いというのは確かだろう。
 実績はあるということが分かり、少し移動しようと歩きかけた所で通りかかった智美へと声を掛ける。
「礼野さん、其方はどうでしょうか?」
「まだ見つかりませんね」
 そう言って苦笑を零す智美を手招き、一緒に探そうと言えば頷く。
「皆さんはどうでしょうね」
 智美が首を傾げれば、透次がちょっと考え込む。
「蓮城さんと小鹿さんの所は今の所、出てないみたいですよね」
 透次の視線の先では、あけびと真緋呂が演奏していた。


 透次が先程踊っていたその曲を演奏するのはあけびと真緋呂だった。
 あけび主導で奏でられる楽しげなその音色は、皆も聞いたことがある曲で。
 ハーモニカとフルートの音色が空気を震わせていく。
(桜は綺麗だし、タンポポも可愛い……)
 ひらりひらりと風に揺れるピンク色に、足元をさわさわと音を立てて揺れるタンポポ。
 ただ、菜の花だけは美味しそう。
 真緋呂が最後だけちょっと真顔になりつつフルートを吹きながら見詰める。
 あの子だったらこの光景を絵に描くだろうか、彼だったらここで寝ちゃうかも?
 友達のことを思うその時間は、とても楽しい物で。
 だから、その音色もとても楽しそう。
 ちらりと視線をやったあけびと言えば、此方も楽しそうにハーモニカを弾いていた。
 真緋呂と、そして透次と自然と一緒に演奏することになり、楽しさは倍増でスキップする足は軽やか……とはちょっといいずらかった。
 どことなくバンビや子ヤギがぷるぷるしているイメージが見えてくるが、それでも楽しさは伝わってきていた。
 ただ、楽しいだけではないことは分かっている。
 視線はディアボロがいつでてきてもいいように花々の間をめぐって行く。
 ちゃんと戦えるか自信はないけれど、自分の出来る範囲で花を荒されないよう守ろうと思う。
「見つけた」 
 あけびより先に見つけたのは真緋呂だった。
「わ、わ、これで!」
 鎖状になった菜の花がその身を拘束したのに合わせ、あけびが手裏剣で攻撃を加える。
 あっさりと倒れたディアボロのお陰で、花が多少散った程度だった。
「この調子で、誘きだしましょうか」
「は、はい!」
 にこりと微笑む真緋呂。
 今日初めて会ったけれど、仲良くなれそう。あけびは深呼吸すると、もっと楽しく見えるようにハーモニカを構えた。 

 白夜は皆より離れた所で、1人オカリナを奏でながらステップを踏みつつ歩いていた。
「楽しげな、雰囲気……リズムが良いのが、良い」
 こくり、と頷きながら軽やかにステップを踏んで、黄色い花々の間を進んでいく。
 楽しげなな音色に、ディアボロより先にピンク色の花弁が共に舞ってくれたようで。
 くるくる、くるくる。
 それに合わせてぴょこんと顔を出した者がいた。
 ディアボロだ!
 曲に合わせて一緒に動くディアボロに、花がない場所へと誘導すれば、警戒心も抱かず共に移動していく。
「見つけた……さようなら?」
 ステップからのノーモーションによるスタンエッジに、ディアボロは何が起こったのか分からないまま地面に倒れ込む。
「ん、まだ、時間じゃない……」
 もう少し探そうと、白夜は再びオカリナと共にステップを踏むのだった。
 そろそろ時間だと、皆が最初の場所へと戻ってくる。
 最後に来た馬頭鬼がついた所で、何体倒したかの確認が始まった。
「7体ですか」
 結構倒したものの、だがしかしまだ3体の姿をみてはいない。
 さわさわと菜の花とタンポポが風に揺れるのみだ。

● 
 しぶといその3体は楽しさがまだ足りないとでもいうのか、未だ姿は見せない。
 そうとなれば、より一層楽しそうに過ごせばいいのかもしれなかった。
「楽しく過ごしましょうか」
 智美がそう言いながら皆で食べれる場所を探しに行く間、冠や摘んだりが出来そうだ。
 黄色い菜の花の中に、まだ咲く直前と言った物が数多くある。
「おとーさんと、おかーさん達の分」
 お土産用に、と白夜は家族の顔を思い浮かべながら摘んでいく。
 真緋呂も美味しそうな菜の花に視線をやった。少々ならば摘んでいってもいいだろうか。
 あけびは倒れてしまった菜の花をそっとなおしてやっている傍ら、馬頭鬼も持ってきた道具を片づける。
 そんな皆から少し離れ、スマホで桜とタンポポと菜の花がそれぞれ映るベストショットのために、探索していく透次。
 菜の花を採らない面々がお弁当を置くその近く。
 望んでいた場所を見つけて撮影を始めれば、お眼鏡に叶う写真が撮れた。
 最近は少しだけ写真が趣味なだけあって、なかなかにいい。
「タイトルは『春の風物詩詰め合わせ』かな」
 ちょっとだけネーミングセンスが欲しい所かもしれない。
 撮った写真を確認していれば智美が戻ってきた。
 桜と菜の花とタンポポが見れるいい場所があるという。
 移動し広げたお弁当達。
「お弁当食べましょう?」
 真緋呂の声に、大きく頷く皆。
 広げたお弁当は、それぞれ工夫を凝らしたものだった。
 あけびの前にどどーんと広げられたのは洋風和風、色とりどりのおかずも詰められた五段重だ。
 一緒に食べようと持ってきた真緋呂はにこっと微笑む。
「いっぱい食べてね!」
 だがしかし、誰が一つだと言っただろうか、さらにもう一つどーんと出されたそれに、あけびの瞳が大きく開かれた。
「こ、これ、全部ですか?!」
 あけびの持ってきたお弁当がなんだか小さく見える。
「あ、無理はしないで?」
 残ったら全部食べるから。
 そういう真緋呂に大丈夫ですか? と声が掛るものの、大食いだから大丈夫と頷くのだった。
 定番物を持ってきた透次は、自分のお握りと白夜の自信作だというお弁当を交換する。
「特にから揚げと、出し巻きが、オススメ」
 強調されたそれに、では出し巻き卵と交換する。
「美味しい」
 ほわんと広がる出汁の香りが美味しい一品だ。
 もぐりと透次から貰ったおにぎりを食べ、お茶を飲む。
 はらりと舞う桜が、囲むその場所へ舞い降りた。
 そんな桜の花弁の合間を縫って、あけびの箸が皆のお弁当の中身を少しずつ貰って行く。
 お礼を言いつつ苺サンドと交換されたそれらは、思った以上の多さになって。
「これ、お、美味しいです!」
 あけびがちょっとどもりつつも美味しいと満面の笑顔で言えば、真緋呂も微笑んだ。
 そんな中でも皆それぞれ、周りに注意をしていたが、一番早くに気が付いたのは透次だった。
 楽しげな雰囲気と、そしてひょっとしたら美味しそうな匂いに惹かれたのかもしれない。
「……来たね」 
 ぼこぼこと三つ、不自然に土が盛り上がる!
 透次の瞳が細められ攻撃が向かうのと同時に、さっと動いたのは馬頭鬼だった。
 目にも止まらぬ速さでの攻撃に、透次から逃げ切ったディアボロも耐え切れずに転がった。
 そんな仲間の最後を感じたのか、間髪入れずに飛び出したディアボロは、さっと智美の足をすり抜けていく。
「そちらです!」
 智美の声が飛び、それに反応した白夜が脇を通り抜けようとするディアボロにとスタンエッジを叩きこむ。
 電気に痺れたディアボロは、そのままぱたりと転がる。
「お願いします!」
 あけびが追いつめる先に待ち構えるのは真緋呂だ。
 気が付いたディアボロが土に潜り込もうとする一瞬の隙を付き、攻撃が決まる。 
「次に生れてくる時は、ゆっくりお花見してね……」
 最後の1体は真緋呂によって地面にと沈められた。
 それを見届け、白夜が皆を見る。
「これで、終わり?」
 こてんと首を傾げた白夜に、ディアボロの数を確認していた透次が頷いた。
 その近くで、花を確認していたあけびがほっと息をつく。
 素早く倒したお蔭で、少し花弁が散った程度だ、手を入れて直す必要もなさそうである。
 そんな皆をみて、そしてまだ食べかけのお弁当をみて馬頭鬼がぽつりと呟く。 
「もう少し楽しむのもいいですよね」
 馬頭鬼の言葉に、賛成! と声が上がる。
「じゃぁ、食べましょうか!」
 真緋呂の隣で智美も頷いた。
 再度のいただきます、のコールが土手に楽しげに響く。
 まだ食事を楽しむ者、花冠を作る者……。
 今度は皆で音楽を弾いてダンスを踊るのもいいかもしれない。
 それぞれが楽しく時間を過ごす。
 はらりはらりとピンク色の花が舞う。
 落ちた先の黄色と混ざり合い、さわさわとどこか涼しげな音色が聞こえていた……。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
金鞍 馬頭鬼(ja2735)

大学部6年75組 男 アーティスト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
楽しい時間を奏でる・
小鹿 あけび(jc1037)

大学部1年158組 女 鬼道忍軍
魂の救い手・
麻生 白夜(jc1134)

小等部5年5組 女 アーティスト