●殺人現場へ!
8名の撃退士達が向かう先。
その視線はそれぞれ思う所があるのか、絡みあうことはない。
そう、この先に待ちうけるのは殺人現場なのだから。
温泉に嵌っている一川 夏海(
jb6806)がそんな温泉を前にして小さく呟く。
「その前にこのアホ狐共をなんとかしねェとなァ……」
隣でこくりと被り物を揺らしながら頷く友人の箱(
jb5199)も思うことは唯一つ。
(ココノ効能ハ何デショウ……肩コリニモ効キマスカネ、楽シミデス)
だがしかし、どんな効能の温泉か確かめる前にやることがある。
なぜならば今から足を踏み入れる先にはまだその現場が維持されているというのだから。
そんな現場へするりと足を先に踏み入れたのはスタイル抜群の際どい水着をすらりと身に纏い、惜しげもなく見せる文珠四郎 幻朔(
jb7425)だ。
(べ……別に狐をモフりたいとかじゃないんだからね)
そう、だから別にこれが犯行の動機というわけでは……。
同じようにその身を滑り込ませるのは狐珀(
jb3243)だ。
狐珀も一緒にいるとなんとなく狐が増えたような気がしないでもない。
2人が踏み入れた先で倒れているサーバント、その隣に座っているサーバント。
言われた通りの殺人現場があった。
そんな現場を見ながら草薙 タマモ(
jb4234)が小さく声を上げる。
「おー、温泉だー。露天だー」
最初に視線が奪われてしまうのは仕方がない。
だって暖かな白い湯気が、早くおいでおいでと誘うんだもの。
とはいえ勿論サーバント退治が重要なことは忘れていない。
その後ろからちょこりと顔を覗かせ小鹿 あけび(
jc1037)が見たのは、なんか楽しいことをしてくれるの?! とでもいうようにこちらを見つめる瞳だった。
本来ならばすぐにでも攻撃に転じそうではあるが、撃退士達をみる瞳はどこかわくわくしている。
ちなみに倒れたサーバントの足がぷるぷるぷるーとしていることから、明らかに倒れているのが限界という感じであった。
「辛そうですね……」
ぽそりと言葉が漏れてしまうのは仕方ない。
幻朔と同じように既に水着を纏い、猫耳と尻尾を揺らし準備万端な猫野・宮子(
ja0024)がずびしと指を突きつける。
(何か変わったサーバントにゃねー……少しもふもふも気になるけど、それは……うん、狐珀さんでもいいかにゃ?)
仲間ならもふもふさせてもらえるだろうか。
とはいえ、今は事件を解決しなければならない。
「とりあえず……魔法少女マジカル♪ みゃーこが来たからには犯人は直ぐにわかるのにゃ♪」
その言葉に、2匹のサーバントの瞳がそれは一層きらきらと輝いたのだった。
気持ちを入れ替えなくては、と夏海が頭を振って探偵モードへと移行する。
それを見ながら九頭竜 アンドロマリア(
jc1274)が呟く。
「殺人事件と聞いて、いざ成敗と来てみれば……何だこれは」
サーバント達の現場保留のていを崩さないのは、ノリノリだからだろうか。
アンドロマリアが視線をやった。
「どう見ても……いや、今はやめておこう。一応調査はせねばな」
そうじゃないと、そろそろぷるぷるしているサーバントの足が限界そうだった。
●深まる? 謎
湯煙漂う事件現場に探偵として足を最初に踏み入れたのは、胸元にくずりゅーと書かれた水着姿のアンドロマリアだった。
相棒のアナ子も居るが、蛇に温泉は大丈夫だろうか、ちょっとサーバント2匹の間で蛇?! と戦慄が走った気がしないでもない。
「まずは被害者の死亡確認だな」
だがしかし、重要なことを思い出す。
(良く考えたら私、冥界の出だからサーバントの生死の見分け方なんて知らんのだった)
見つめ合うアンドロマリアとサーバント。
こほんと咳を一つする傍ら、タマモが現場を見渡す。
(なんか、狐が3匹いる?)
視線が狐珀に一旦行くが、あれは仲間……いや、今は犯人か。
でもサーバントではないと視線をサーバントの方へとやった。
「あなたが第一発見者の狐さんですね? 事件を発見したときの事をできるだけ詳しく教えてもらえますか?」
お座りしたサーバントは、きゃんきゃん鳴いて一応報告してくれるが何を言っているのかさっぱり分からない。
きいていたアンドロマリアと顔を見合わせるタマモ。
パントマイムでもいいと言ったが結局何を言いたいのか分からない。
となれば……。
「犯人は事件現場に戻るっていうし、もしかしたら、この中に犯人がいるのかも!?」
魅惑的な視線でサーバントを見ている幻朔。
その心はもふもふしたい、可愛がりたいというあれそれなのだが、その表情からはうかがえない。
「ふむ、撃退士が私達以外いないということはきみかな?」
幻朔がそれに首を振った。
「別に気絶してれば可愛いものを存分にモフれるからとかそんな訳ないじゃない」
物凄く犯行動機のような気がするが、確証もない。
サーバントの視線が、えぇぇ、ひょっとして?! と猜疑心に溢れている。
その視線にふっと視線を外し、思わせぶりな幻朔。
確かに撃退士ぐらいしか倒せないけども、とタマモが頷きかけるが、基本を忘れてもいけない。
現場100回、そこから真実が見えてくるのだ。
ひとまず調査に向かうタマモを見送り、アンドロマリアが幻朔にそっと手を伸ばされ、もふもふされているサーバントに宮子達の方を指差した。
(あ〜モフモフ出来て幸せだわ……可愛い……)
もふもふする手は止まらない。
「サーバント君。あちらの探偵をどう思う?」
サーバントがこてんと首を傾げた。
宮子も地道に調査を重ねていた。
そんな彼女の前で、一生懸命拾ってはその端からぽろぽろ石鹸をとりこぼしてしまうあけびが居る。
ずるっと滑って、両腕から転がった石鹸を拾い上げ、そっと手渡しつつ宮子が何か不審な物がないかと聞く。
彼女ならばきっと現場について詳しいに違いない。
「怪しいものですか? これとか」
どこから見つけ出したのか、タオルだ。
「それも怪しいのにゃ!」
宮子にそっとタオルを差し出し、あけびがなるほどーと頷く。
「じゃぁ、あちらはどうでしょうか?」
「それも怪しいのにゃー!」
お次は立てかけられたモップに駆け寄っていく。
さっきから怪しい物だらけであるが、この空間で怪しくないのは寧ろ何もないようにも感じる。
だからこそ、こういう時は鑑識とかそういうのが大事なのかもしれない。
(クッ……コンナ卑劣ナ手デ狐達ノ絆ヲ奪ウダナンテ……! 犯人許スマジ)
というわけで、現場に何か落ちていないかと調べている箱。
そんな箱の後ろで、そっと夏海が何かを落としつつ倒れているサーバントを見た。
「後ろから平たいもので殴られた形跡……。そして凶器となる物は見つかってないときたか」
ちなみにかなり足がぷるぷるしている。
仰向けというのも気にかかる……と首を傾げている傍ら、そっと狐珀がサーバントを助け起こした。
「なんとかわいそうに……、私が慰めてあげるのじゃ」
もふもふと撫でまくる狐珀の傍に着た時、箱が声を上げた。
「……先生! 先生! 大発見デスー!! コレガ現場付近ニ落チテイマシタ!」
「おおッ、でかしたぞ箱! それでこの毛の持ち主はわかったのか!?」
「DNA検査ノ結果……サーバント2体ト狐珀氏ノ3名ノ毛デアル事ガ判明致シマシタ」
お手柄だ、箱! と箱を讃えつつ、夏海がずびしとサーバントと琥珀の方を向いた。
お手柄ですって! と照れている箱をお供にここから一息で行きますので、皆様頑張って聞いてください。
「これで狐が仰向けに倒れてることに合点がいった! 当時現場には第三者がいたって事になるんだ!
後頭部を殴られたのではなく前から押され後頭部を強打した。これは凶器が見つかってない原因にもなる。第三者の狐珀こそ真犯人に違いねェのさ」
夏海のセリフをBGMにもふもふされていたサーバントは、ん? 何? という顔で夏海と箱と狐珀を見つめる。
箱がうんうんと頷きながら聞いている。
「成程ソウイウ事デシタカ、サッスガ先生ィ!」
「そんな事はしらぬのう」
狐珀はしらを切るようにもふもふと撫でている。
「つまり、犯人はお前だ狐珀!」
びしっと指差し言われてもどこ吹く風だ。
「そこまで言うなら証拠を出すのじゃ!」
「コレデスヨ!」
先程夏海に渡したビニール袋に入れた毛を突きつける。
突きつけられた証拠。
倒れ伏す狐珀(嘘泣きです)。
「ううっ、あまりに綺麗な毛並みだったので独り占めしたかったのじゃ〜」
犯人だってー!? とでもいうように、幻朔に抱きかかえられあれやこれをされていたサーバントも飛び上がる。
今にも抜けだしそうなサーバントをぎゅっと抱きしめ叫ぶ幻朔。
もふもふを逃がすわけにはいかない!
「犯人は私よ!」
その言葉に、こっちにも犯人いたー?! とサーバントが反応した。
●真犯人だ!
どちらに向かえばいいのか。
ほんの一瞬隙が生まれれば、その隙をついて攻撃する者が居た。
「もういいではないか!」
アンドロマリアだ。
「どうせ皆こいつがうっかり足を滑らせて自滅したと思っているのだろう!? 私はもう誰でもいいから断罪したくて仕方ないんだ!」
アンドロマリアの容赦ないスマッシュが先程倒れていた方のサーバントに炸裂すれば、狐珀も攻撃に転じる。
「おぬしを殺して私も死ぬのじゃー!」
非常にヤンデレである。
わっと襲い掛かられあたふたと逃げ惑うサーバント。
なんだかその姿も愛らしく思えるのは何故なのか……幻朔の視線が向けられるが、倒さないで終れる依頼ではないようで。
泣く泣く取り出した武器で攻撃をしかければ、宮子の冷刀マグロがその身を吹き飛ばす。
そんなの背後から夏海の攻撃が当たれば、ぱたりと一匹が地面にと倒れた。
もう一体の方に空の上から攻撃を仕掛けるタマモ。
滑りまくる石鹸が結局の所なくなっていないので、あちらこちらで足を滑らせぶつかり合っていた。
「あ、すまん!」
「イエ、平気デスヨ!」
どんなことがあっても取れない顔のソレが気にならないでもない。
そんな皆の攻撃からさっと道具を避けるのはあけびだ。
戦闘は不慣れで自分の身と施設を守るので精いっぱい。
けれど、そのおかげで用具が壊れることはなかった。
「コレデ仕舞イデス!」
「誰かに倒される位なら私が!!」
箱の攻撃と、幻朔の攻撃が当たればパタンとサーバントが倒れた。
なんだか物足りないような気がしないでもないが、勝利は勝利だ。
「勝利にゃ♪ 魔法少女は負けないにゃ……うみみ!?」
決めポーズをしようとぐっと手を伸ばす宮子。
背後からかっこいいBGMが聞こえくる(ようなイメージ)その瞬間!
「みゃーっ?!」
石鹸に足を取られ、盛大に尻餅つく。
が、そこにあったのは温泉だった。
ばっしゃーん!!
盛大な水音と共に、水しぶきが上がる。
「なかなかにいいお湯だな」
「どうせだし、もうはいっちゃいましょうか」
「いいですね、温泉だー」
水着を着用していた面々が、大丈夫かと問いかけつつそう言えば。
「い、痛いにゃぁ。うう、か、格好がつかなかったにゃ……」
「大丈夫です?」
ざばぁと上がってきた宮子に、あけびが手を差し伸べたのだった。
●のんびりと浸かろう!
ゆるりと湯煙が辺りを漂う。
差し入れられたお酒や温泉卵が湯に浮かぶ。
ちゃんと耳と尻尾をとった宮子ものんびりと温泉卵を楽しみながら浸かっている。
「はふぅ、やっぱり温泉は気持ちいいんだよー……。サーバントでも入りたくなる気持ちがわかるよね」
そんな脇では同じようにのんびりと肩まで浸かり、瞳を閉じて堪能しているタマモがいた。
「あー……、生き返るわぁ〜」
じんわりと体に染み入っていく温泉。
体の疲れが取れて行くようだ。
同じようにゆっくりと浸かり、湯船に入らぬように髪を纏め上げたあけびが楽しげに辺りを見渡してた。
その隣で、泣く泣くサーバントを倒すことになった幻朔も湯船に浸かっていた。
どうせならばサーバントとしっとりゆったりと楽しみたかったが、今回は仕方ないだろう。
そんな脇でのんびりと湯船に浸かり、お酒を飲むのはアンドロマリアと狐珀だ。
「極楽じゃのうー」
白いマイクロビキニを身に纏い温泉に浸かる狐珀の尻尾がゆらりゆらりと揺れる。
揺れるのは尻尾ばかりではない。
その胸元へ視線をやったアンドロマリアがアナ子と温泉卵を分け合いつつ小さく溜息をつく。
「ところで狐珀は胸部がたわわなのだな……」
私ももう少し欲しいなーというその言葉に、狐珀が楽しそうに笑うのだった。
そんなほのぼのの脇では箱にと夏海が背中を流そうと声を掛けた。
「ワーイ! オ風呂デス! ……ヌ? 一川サンオ背中流シテクレルンデスカ?」
「男女で裸の付き合いなんてそうそうあったもんじゃねェし、まず俺から洗ってやるよ」
「ソレハアリガタイ!」
ではお願いします、と背中を見せる箱。
だがしかし、夏海が指先を伸ばした先は背中じゃない。
箱の被り物だ!
「ぐっ、なんだこれ! 全然取れねェじゃねェか!」
ぐいぐいぐいぐい。
「……痛ッ! ヌアッ!? 何故ニ!? 何故ニ頭ヲ引張ルンデスカ一川サン?!」
「あ、そろそろ上がろうかな」
扉を開けたあけびの声と共に、空気の流れが変わったのかぶわっと湯気が濃くなる。
「ムギャアアアアアアアアアヤメテエエエエエ」
すっぽーん!!
「?!」
とった反動ですっころんだ夏海。
頭を打った所為か遠くなる意識の中、あとちょっとで見えるというその瞬間に覆った湯気の所為で、夏海が箱の素顔を見ることはなかったという……。
そんなことなど露知らず。
「お風呂あがりといったらやっぱり牛乳だよね♪ これを飲んでもう少しいろいろ成長をっ」
お風呂上がりにぐいっと腰に手をあてて一飲み。
冷たい牛乳が、喉を潤していくのに合わせ、視線は自分の胸元から足先まで見る宮子。
同じように白ひげをつけつつ飲むあけび。
自分ももうちょっと色々成長を……なんて思う。
ちなみに湯船では体育座りをした箱が、ぐしぐしと涙にくれているのが目撃されたという。
腰痛・肩こり・疲労回復……心の回復まではしてくれなかったようだ。
こうして湯煙殺人事件は無事、一件落着となる。
真実はいつだって一つ……ではないのかもしれない。