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マスター:如月修羅
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/30


みんなの思い出



オープニング

●諸君、カニは好きカニ?
「諸君、私はカニが好きだ。
諸君、私はカニが大好きだ!!!!」
 突然そう言って、職員が愛を叫んだ。
 皆のあぁ、頭が沸いちゃったんだな……という視線にも耐えて、職員が眼鏡をさり気なく直す。
「そんな大好きなカニのお化けが出て、今年のカニが食べれなくなりそうなんで、今すぐに退治してきてください!!」
 カニのお化け……? と首を傾げれば、サーバントだと答えが返る。
「でっかい緑と青のまだらなズワイガニのでっかい版です。
攻撃は巨大なはさみに寄る切り裂きと、あとは泡を飛ばしての遠距離攻撃だな」
 緑と青のまだらという時点で、色々とやばい気がしないでもない。
「大体2mぐらいのズワイガニなんだが、カニのくせになぜか前にもずずいっときます」
 どういう構造なのかというのは、それは作った天使にしか分からないだろう。
「場所は、漁港の一角です。戦闘に支障はないけれど、漁船は止まってますので注意してな?
んでー無事終わらせた暁には、漁港のみなさんの好意で、ズワイガニの味噌汁と、ズワイガニの混ぜ込みご飯が振る舞われます!」
 沢山は食べれないけれど、疲れた体に癒しの時間にはなるだろうか。
「あ、そうそう、そのズワイガニモドキは、普通に行った所で出てこないそうです。
蟹をけなす。けなしまくる。
そうすると怒って海からでてくるようですよ」
 なんだそれ。という表情をした皆に、首を傾げた。
「ほら、あれじゃないですか? 漁師の中には蟹を食べ飽きて逆に悪態つくこともあるようで」
 そういう恨みつらみのなんかじゃないですか。
 なんかってなんだろう。
 そんな突っ込みをする前に、職員が大声をあげた。
「くっそー! 俺もカニくいてー!!」
 職員がせめて足の先っぽだけでもいいから持ち帰ってくれー! と訳の分からないことを叫んで送り出すのだった。 


リプレイ本文

●カニの気持ち
 漁港はとても静かだった。
 嵐の前の静けさ。
 まさにその言葉通り、不気味な静かさが漂う。
 葛葉アキラ(jb7705)とセレス・ダリエ(ja0189)が静かに見詰める中、内心テンションが高いのは黒神 未来(jb9907)だ。
(蟹か〜! 蟹鍋美味しいよな!)
「つーわけで蟹狩って蟹食べようか。しかし楽しみやなぁ」
 視線の先の海は今はまだざぱーんと波の音を立てるだけである。
「と〜れとれピッチピチカニ料理〜♪」
 思わす歌を唄ってしまう程度に楽しみな未来と同じく楽しみなのは双城 燈真(ja3216)だ。
 いや正しく言うと、もう一人の燈真……翔也の方である。
(カニカニカニカニカニー!! こんな機会滅多にないぜ! パパッと倒しちまおうぜ!)
 翔也の語りかけに、冷静に突っ込みをいれる燈真。
(翔也は見てるだけでしょ……)
 そして、思う。
(まったく何で高級食材見るとテンション上がるんだろう……?)
 一先ず、未来と共に見守ることにする隣で、礼野 智美(ja3600)も小さく溜息を吐いた。
(正直、海産物を馬鹿するのは気が進まないんだけど……俺、蟹の味噌汁好きだし)
 ここに居るメンバーは全員蟹をどちらかと言うと好きな面々だ。
 同じような気持であるに違いない。
「でも、お仕事お仕事!」
 気合を入れ直す智美は、事前に漁港の皆様に聞いてどんな言葉で蟹が出てきたのか調査済みである。
(蟹……すまんな、食べさせてやれなくて)
 麻生 遊夜(ja1838)がほろりと家族達に思いを馳せたのもつかの間、戦いやすい場所にと立つ。
 ぐるりと皆を見渡せば、頷きが返ってきた。
 ちなみに、遊夜も蟹が好きなため、貶すのは難易度が高い。
 すぅっと息を吸った後、響き渡る蟹への文句。
「味が単調な上に殻が硬くて食いにくくて飽きるんだよ!」
「調理もし辛いしね、時間ばっかり持っていかれるし」
 智美も合わせてそう言うが、パンチが足りないのか……出てこない。
「出てこないな」
 どうしようか、と智美を見るのに先ほど調査した結果を遊夜に伝える。
「話を聞いたら、食べづらいとかそういうことでもいい見たいです」
「なるほど」
 暫し考えた後、さらにもう一声。
「蟹なんて面倒くさくて手が汚れる食べもんなんざ食ってる奴の気が知れねぇな!」
「腐りやすいし、悪臭にもなるし……」
 そこまで言った所で、ざぱーんと水しぶきをあげて蟹がでてくる。
 まだら模様の蟹は、明らかにやばそうな色合いで、今悪口を言ったのはてめぇらかぁぁ!!
 とでも言うようにずずずいっと水を滴らせながらやってきた。
 つついっと横歩きで来る姿は、本来の蟹そのもののような。
「横歩き……前にも、動く……構造違う……なるほど」
 こくりと一つ頷いて。
「カニ……冬の味覚……食べ方……殻割り」
 ヒビキ・ユーヤ(jb9420)がわくわくとそう言えば、来崎 麻夜(jb0905)がヒビキと覗きこんでいた図鑑をぱたんと閉じた。
 まさに図鑑通りの……いや、大きさと色合い的にちょっと違うけど……を見てヒビキがこくりと頷く。
「はさみ……あわ……おんなじ」
 頷いたヒビキの目の前で、巨大な蟹の鋏が、悪口を言った面々に振り下ろされる! 


●カニの末路 
 風を切る音をさせて振り下ろされた鋏。
 そのままぱかっと開いた鋏が、その身を切り刻もうと鋭く光る。
 その最初の一撃を受けたのは遊夜だ。
 銃身で防いだ一撃は、足先までも痺れさせる。
「知らないものは、貶せないもの」
 そんな蟹と遊夜を見つつ、自分の中の「鬼」を解き放つヒビキ。 
 今回は遊夜や他の皆の蟹への悪口を参考にさせてもらう予定だ。
 ほんの一瞬後、空いたもう片手の鋏は同じく悪口を言った智美へと向けられたのを宙返りで避ける。
 空を切った蟹の鋏に向かって陰影の翼で空へ羽ばたいた燈真が、急降下してきた。
「関節が弱いのは生き物の基本だよね……! それ……!」
 掲げられた雪村が、そんな蟹のもろそうな関節部分に深く突き刺さった。
 どこか乾いた金属音。
 間髪いれず、同じく急降下してきた智美が痛烈なキックを蟹の身に与えれば、視線は智美の元へと向かう。
 そんな蟹の足元から音もなく忍び寄る黒い影。
「美味しいカニご飯の為に早く倒れてね?」
 くすくすと笑い声が聞こえ、絡みついていくのは黒い美しい髪だった。
 まだら模様のその体に、さらなる模様となっていく。
「ふふっ、ボクの髪からは逃げられないよー」
 ぎしり、動こうとする身に髪が鎖となり動けない。
 麻夜が楽しそうに微笑んだ、その隣で遊夜が随分と蟹好きな天使がいるもんだ、と溜息混じりに打ちこんだ一撃。
「とりあえずまぁ……見た目の色っぽく腐れてろや」
 蟹の身に打ち込まれた弾丸は、蕾のような模様がその身に刻み込ませた。
 だがしかし、しっかりと届いたその台詞に、蟹の中の鬱憤が溜まって行くのを皆感じていた。
 燈真と智美の攻撃がそんな蟹の足を叩きのめす。
「ふふっ、楽しそうだわ、楽しそうなの……さぁ、遊ぼう?」
 ヒビキのクーゲルシュライバーが蟹の鋏を突き刺す。
 自分の身に叩きこまれる衝撃を逃すかのように、ぶるりと体を震わす。
 そんな蟹の背後では、ゆらりと影から出てきたかのように立つ人物。
 隠れて後ろへと回り込んだ未来だ。
「蟹はどう食べても美味いよね」
 褒めて褒めて褒めまくる!
 そんな勢いで叩きこんだ一撃に、蟹の体が震えた。
 震えた拍子に外した拘束の勢いのまま、皆を巻き込み前に進み蹴散す。
 伸びた鋏が智美と遊夜にと伸びその身を力の限り挟めば、体勢をいち早く整えられたのは未来だ。
「ちょっと目先を変えてカニコロッケにするのもええね」
 智美側の鋏をぶん殴る傍ら、さらに褒める!
 それに合わせて、燈真も攻撃をしていく。
「そやそや、カニグラタンは寒い冬にはたまらんで!」
 それに照れたのかなんなのか、智美側の力が緩んだ。
 その反対では、遊夜を助けるために動く2人の姿。
 ちらりと見える肩や背中に浮かぶ赤い蛇や赤い犬が麻夜が動くたびに一緒に動く。
「ふふっ、今宵もボクの嫉妬が荒れ狂うよー」
「外は硬くても、その対策くらいは、あるのよ?」
 ヒビキも金色の瞳を光らせ、挟むその隙間に武器を割り込ませていく。
 ぽろり、と落とされた遊夜。
 落としてしまった獲物を諦め、次の獲物を……と探し求める蟹の身に、大輪の花が咲いた。
 先ほどつけられたソレが、はらりはらりと散って行く。
 再びずいっと押しだされた体が、体勢を整えた智美と遊夜を弾き飛ばす。
 そのままヒビキと麻夜も巻き込み再び陣が崩れた。
「ハサミって美味しいんだけど身を取るのめんどくさいんだよね……!」
 皆が陣形を整える間に、注意を此方に。
「だからハサミは基本ポイしてるよ……!」
 時間稼ぎも兼ねて燈真がそう言って意識を向けさせれば、蟹は燈真にその鋏を向けた。
 勿論、こんなこと言うが自分達はそんな勿体ないことなどしない。
 なんだか心苦しくなりつつも、雪村を使い鋏からどうにか逃げ出した燈真は、そのまま再び空へ舞い上がり体制を整える。
「前に進めてもさすがに空は飛べないよね……、飛んだら凄い脅威になりうるけど……」
 セレスの雷の剣が間髪いれず蟹の甲羅に当たり、アキラの治癒膏が一番傷の深い遊夜をそっと優しく癒していく。
(……蟹って目に殻ってあったっけ?)
 蟹の元へ一気に詰めてきた智美が目にも止まらぬ速さで目へと一閃!
「網を切る海底の迷惑者は、地上でも迷惑者ですね」
 それに合わせるように、傷も癒えた遊夜がヒビキと麻夜と共に攻撃を仕掛けた。
「視界が黒く、真っ黒に、ね?」
 くすくすと楽しげに笑うのと共に、羽が蟹の目を塞いでいく。
「楽しいわ、楽しいもの……本気で行くから、もっと、遊ぼう?」
 刺付きのハンマーを振りおろし、楽しげに笑うヒビキの隣で影に楔を打ち込み動きを止める。
「動くんじゃねぇよ、面倒くさい。お前はここで俺と遊んでりゃいいのさ」
 動けなくなった蟹に、攻撃が一斉に向かった。
 行動を阻害され蟹の鬱憤はダメージと共にどんどん積って行く。
「でもやっぱりカニスキで食べるんが一番美味い! いくらでも食べられるで」  
 その言葉に、ちょっとだけ蟹が救われたように瞳を潤ませたように見えたのは、気のせいじゃなかったかもしれない。
 拘束された蟹は何度でもその身を震わせ解こうとするが、もう体力もほとんど残っていない。
「ユーヤ、マヤ」
 ヒビキのハンマーで地面に叩きつけられる蟹。
「「さようなら、良い旅を」」
 その言葉と共に、地面に引きずり倒されたままの蟹の目元付近に、赤黒いアウルと紺碧の鎖鞭が叩きこまれる。 
 一度、ずしんとバウンドした蟹の体は、そのまま二度と立ち上がることはなかった。


 ざぁんと波の音が聞こえる。
 船にも傷一つなく、大きな怪我人も居ない。
 軽く手当てをする傍ら、セレスとアキラが終わったことを伝えに行くのだった……。


●カニを堪能しよう!
 ありがとうございます、お怪我はありませんか。
 そんな挨拶もそこそこに、こおばしい味噌の香りが場を満たし始める。
 お疲れ様でした、と振舞われる蟹ご飯と蟹の味噌汁。
 感謝しながら食べる燈真はじんわりと広がる蟹の風味にほんわかと笑みがこぼれる。
「蟹食べるなんていつ以来だろ……、本当に美味しいな〜……」
 持って来ていたタッパーに、このご飯を持ち帰れたらいいのだけれど。
 そう思いつつ、そういえば、と職員への土産に蟹の甲羅を求める。
「あったら下さい」
 漁師が首を傾げながらも使い終わったソレは不用品だからと全て別けてくれて。
 渡された大量の蟹の甲羅を、受け取る。
「これで蟹グラタン作れば贅沢な気分になるよ……」
 そっと仕舞い込んだその隣で、アキラが美味しそうに蟹ご飯を頬張っていた。
「美味しいねぇ」
 アキラの言葉に、セレスが無表情ながらも小さく頷く。
 減って行くそれは、美味しいという証だろうか。
 そんな2人を見ながら、しみじみと呟く姿。  
「ご飯がおいしいのは幸せな事だよ」
 普段から食べれる自分はともかく、職員へのお土産を。
 ご飯と味噌汁にはまだ手をつけず、漁師に話を聞く。
「すみません、買い物はできますでしょうか?」
 そう思う智美の問いに、買い物は可能と答えが返ってきた。 
 それならば……と、振舞われたご飯と味噌汁をありがたく頂くことにして、一口もぐり。
「ん、美味しい……」
 出来たてほかほかのご飯がじんわりと体に沁み渡って行く。
 同じく、ご飯を食べて味噌汁を飲んで……を繰り返すのは未来だ。
 褒めて褒めて褒めまくったその蟹が、今まさに美味しく体の一部となっていく。
「味噌汁も美味しい! いくらでも食べれるで!」
 お代り! と差し出した後、はた、と気がつく。
 蟹が貰えるかどうか、聞いてみるのは悪いことではないだろう。
「家族用にも欲しいんだが、持ち帰りは可能かね?」
 お土産をちゃっかり頼む未来の隣で、遊夜も問いかける。
「タッパーは持ってきたよ」
 タッパーを一応持ってきた麻夜も小首を傾げた。
 それに余裕があれば、と漁師が言い、他にも欲しがっている人に気がついたようだ。
 確実に欲しいのならば、買うのが一番だろうとは伝えられ、漁師が市場を伝える。
 その言葉に、ヒビキがくいっと遊夜の服を掴んだ。
「ん、皆で食べる、あの子達にも、美味しい、カニを」
 待って居る家族のために……という思いは三人共通だ。
 麻夜も頷く。
「いっぱい買ってかなきゃだね、喜んでくれるかなー?」
 くすくすと笑いながら、誘われるのは市場。
 三人分の予算があれば、きっと待って居る家族達も大喜びだろう。
「さぁ、今日はカニ尽くしだぞ」
 ケラケラと楽しげに笑う遊夜に、2人がこくりと頷いた。
 食事も買い物も終わり、皆が帰り支度を始める。
 皆にご飯のお土産が配られ、お疲れ様でした。
 そんな言葉を背に帰って行く……。
 そんな中、帰り道ではたっと気がついた燈真。
「あ! しまった!」
 いや、翔也だった。
「カニ味噌無いか聞くの忘れてたぜ! チクショー食べたかったのにー!!」
 とかなんとか、翔也が叫んだのは御愛嬌であっただろうか。  


 ちなみに学園に帰った後。
 カニのお土産を遊夜達と智美と燈真に貰った職員が、カニの甲羅でグラタンと足部分と、そして沢山の蟹で美味しくその日の夜を過ごしたのは、小さなまた別のお話である。
「御馳走様でした!」
 撃退士達の活躍によって、漁師たちだけでなく、1人の職員の胃も助けられたのかもしれない……。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
夜に光もたらす者・
双城 燈真(ja3216)

大学部4年192組 男 アカシックレコーダー:タイプB
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー