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マスター:如月修羅
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/21


みんなの思い出



オープニング

●とあるお話
 夏の終わりの最後の一匹。
 なぜ最後だって分かるのだって?
 最後の一匹は必ず真っ白だから。
 そんな真っ白な金魚には不思議な力が宿るのだという。
「まずは大前提としまして、夏の終わりと秋の初めの間に引いた風邪ででた熱は「夏の残り火」の仕業だ、というお話があるんです」
 旧暦とかじゃなくて? という問いに、そもそもはそうだったのでしょうが、時代と共に今の暦に合わせたのだろうという。
「とにかくですね、31日から1日に引いた風邪は「夏の残り火」が消えたくなくて体の中に入って熱を出させる。っていうことらしくて。まぁ、迷信ですね。
で、その熱は医者の薬じゃ治らないのだそうで、これまた 夏の終わりの最後の一匹の、金魚。
真っ白な金魚なのですが、その金魚が熱を吸い取ってくれるのだそうです」
 そうして、白から赤に変わったところで漸く完治する熱だというのだが……。
 職員が申し訳なさそうに微笑んだ。
「えぇっとですね、そんな迷信が息づく土地に、「夏の残り火」が三体出ました。
火の玉状態に見えるディアボロで、近づいてみると金魚のような物が火を纏っているそうです」
 それは……迷信をミックスしすぎだよね。という瞳に頷く職員。
「火の球を飛ばしてきて、火によるダメージを与えることは確認されております。
まぁ、多分金魚とのことですし、近づけば噛みついたり体当たりぐらいはしてくるかもしれません。
また、その火はあくまでも人間や動物などの、生きた物にしかききません。火事などの心配はなさそうです」
 ついでに、水で消そう としても消えないでしょうねという補足もついた。
「人を見れば追いかけてきます。人が多い所を好むようですので、丁度目撃証言の多い公民館の駐車場あたりに誘導していただければいいかと思います。
そうそう、あと火を纏っているからか火も好むようです」
 そう言って取り出したのは、もう出番も終えた花火達。
「やり方は色々ありましょうが、この花火を使って誘き寄せるのも良し、終わった後に皆様で花火をするのも良し」
 結構大量に残ってますから、楽しんでくださいね。
 そう言って、花火と共に送り出されるのだった……。


リプレイ本文

●夏から秋へと
 夏から、秋へと季節が変わる。
 ゆらりゆらりと揺れる夏の残り火は、その寒さを嫌がり温もりを求めて彷徨う。
「面白、い、迷信、も、あるもの、だな。仄、は、知らなかった、ぞ」
「確かに、あまり聞かない迷信やね」
 仄(jb4785)が花火を用意する面々を見守りながら言えば、葛葉アキラ(jb7705)も頷きながら呟く。
 火の玉だというが、プラズマと違ってディアボロだというその夏の残り火達。
「ちょっと時期外れかもしれんけど、陰陽師の名に賭けて滅させて貰うわな」
 その決意は固い。
 視線は花火をする面々だけでなく、周りにも向かう。
 そんな二人の言葉を聞きながら、小さく言葉を零す者が一人。
「逃がさないようにする為にも、タイミングは大事だね」
 奇襲を掛けるべく潜むソフィア・ヴァレッティ(ja1133)の視線の先で花火がぱちぱちと音と、白い煙を立てた。
「燃やす材料があれば焚火でも良かったかも知れませんね」
 雫(ja1894)が花火を片手に呟けば、Laika A Kudryavk(jb8087)が笑った。
「言われてみれば、そうね……」
 その視線がふと花火に落ちる。
 大きな戦いも有って、色々忙しかった。
 そうして気がつけばそろそろ秋……ライカは瞳を細める。
「粋な天魔いるもの、ね」
(ここは北国の住人らし、く。夏の終わりを迎えにいきましょう、か……)
 雫の花火だけでは少々心もとない。
「吹上花火とか派手で面白いし、目立ってエエかもしれへんね」
 アキラが吹上花火を置けば、バケツ片手に皆も集まってくる。
 何があってもいいように……きちんと水の準備も万端だ。
 盛大に上がった花火は、まだ敵は現れないとは分かっていても、やはり美しく、心が奪われ。
 もう一押し、とばかりに手に持っている蝋燭にライターで火をつけ夏の終わりを迎え入れる。
「ほら。夏はまだここ、よ」
 仄かに揺れる炎を見せるように掲げれば、ライカの言葉が聞こえたのだろうか?
 ウィル・アッシュフィールド(jb3048)が視線を上げたその先に、何かゆらりと揺れる物が現れた。
「火の玉……」
「あれが、火の玉金魚ね!」
 隣に立つスピネル・クリムゾン(jb7168)が瞳を輝かせる。
 ゆらり、ゆらりと揺れる火の玉が此方に向かってきている。
「どうやって息してるんだろうね〜?」
「答えは、もうすぐ分かるんじゃないですかねぇ?」
 天羽 伊都(jb2199)が瞳を細めて見つめていれば、漸くその全貌が見えてくる。
「火に群れるとは金魚というか、どっちかっていうと虫みたいっすね……」
 一直線に狙っているのは、どうみても雫とライカの持つ「火」である。
「ライちゃん、お怪我しない様に気をつけてね?」
 スピネルの言葉に、ライカが頷く。 
「夏の残り火ですか……遠目で見ると人魂ですね」
 雫がもう一本、花火にと手を伸ばす。
 ライカにより火を貰い、今一度ついた花火。
 ゆらり、ゆらり。
 最後の夏が、やってくる。
 

●夏の残り火
 ゆらり。
 ゆらり……。
 炎に誘われ三匹がてんでばらばらに現れた。
「ここから後ろへは戻らせないよ!」
 皆とタイミングを合わせ飛び出したソフィアが金魚達の後ろの方へ回る。
 その動きに、金魚達が警戒するようにさらにお互いに距離を置こうと動き始めた。
 三匹がそれぞれ自分にとって都合のいい方向へ逃げようと動くため統制はとれていない。
「一網打尽といかなければ、ただ丁寧に追うしか無いっすね」
 同じく磁場形成により飛躍的に速く動き回れるようになった伊都が後を追うように退路を断とうと動く。
 その素早い動きに、近くにいた一体がゆらりと炎を燃やしながら逃げ惑う。
「これが、夏の、残り火、か」
 集まったものの、てんでばらばらに動く金魚達の姿を仄がじっくりと眺める。
 勿論、ワイヤーを張り巡らせることは忘れない。
「然し、見た目の、面白い敵、だな」
 てんでばらばらだった金魚達をさらに追いこむのは炎の槍。
 目の前を横切って行く炎に、金魚が後退しはじめる。
 スピネルから放たれたそれは、致命傷こそは与えないが三匹の金魚達をさらに一カ所へと向かわせる。
 すかさず命中率をあげたアキラによって、呪縛陣によって三体を拘束する。
「逃がさんよって」
 突然動けなくなった体を、必死に動かそうとする金魚達。
 上手く纏まった所で、ソフィアから放たれるのは太陽の欠片を宿す輝きたち。
 太陽のように光輝くそれは、三体を的確に巻き込んでいく。
「そう簡単に逃げられると思わないことだね」
 爆音と共に体力が削られた物の、やはり攻撃されれば逃げる方を優先するのか。
 束縛からも抜けだした金魚達は、我先にと再びばらばらに動きだす。
 わっと散らすように逃げるソレに、囲むようになってはいたが隙間をすり抜けて行く。
「ちょこまかと動くな……」
 逃げようとする一体にウィルが銃撃を食らわせる……。
 三班に別れる。
 一応そう決めていたものの、班のことは意識せず臨機応変に動こうとしている者もいた。
 明確に分かれることを意識していたスピネルは、ウィルが銃撃を叩き込んだ一体にと躍り掛かる。
 それを見てとれば、同じ班同士だと認識した者たちがそれぞれ動き始めた。
「……っ。夏の忘れ物だけあって元気ね……利かん坊がそっちに行ったわ!」
 ソフィアと同じ一体に攻撃を決めつつ、状況を見極めていたライカが声を上げ、一段遠くへ逃げようとする個体を皆に教える。
 その言葉に、人数の多い班に所属していなかった雫とそして臨機応変に動こうとしていた者たちが自然と向かう。
「逃がしません」
 禍々しく赤く輝く大剣があたれば、今まさに上手いこと逃げようとしていた金魚が、ぶるりと炎を揺らす。
 逃げきれないと、分かったかのようだった。
「さぁて。そろそろ本番を始めようか!」
 伊都が不敵に笑う。
 逃げ惑うのを一旦やめた金魚達は、夏を取り戻そうかというようにその身を燃やし始めた。

 ゆらり、ゆらり。
 夏から秋へと行くための戦いが始まる。

 
●消えた残り火
「やはり、人数が多いと早いですね」
 一番先に決着を見たのは雫達の班だった。
 一番後に攻撃することになったのだが、人数が多かったためだろう。
 自然と集まった4人は、素早く一気に壊滅に回る。
 雫の剣がその身を貫き、伊都の漆黒の焔を宿した直刀がその身を貫く。
「魚は好きじゃないけどこれも仕事なのでね、喰らってやるよ!」
 ぶるりと金魚が震えた。
 黒い焔が赤い炎と混ざり合い、燃えあがって行く。
 消えたくない、消えたくない。
 もっと炎を得ようと動く。
 だがしかし、勿論その炎は力を与えることもなく、逆にその身を滅ぼすもの。
「もう、終わってもいいでしょう」
 今一度、剣を振り落とせば、炎が揺らめく。
 けれどその炎は漆黒のそれで。
「ほら、……おやすみ」
 伊都の言葉と共に、地面にと沈む。
「じゃぁ、行こうか!」
 アキラが駆けだしながら言う。
 皆、まだ終わっていない班へと駆けだした……。

「そっち、お願い!」
 ソフィアとライカの連携により、金魚はぼろぼろだった。
 ぼろぼろだったが、未だその身の炎は消えず。
 出来れば逃げようと動いている金魚に、二人が追いすがって行く。
「待たせた、な」
 駆けつけた仄のワイヤーが金魚を絡め取ろうと動く。 
 ゆらり、ゆらり。
 炎が揺れる。
 もっともっと熱く、熱くその身を焦がしたいとばかりに、一段と強くなった炎はソフィアの腕を炙った。
「……っ」
 小さく息を飲んだソフィアに、「冬の盾」が盾より赤熱化した鉄片状のアウルを飛ばす。
 降り注ぐそれが、続いての攻撃を軽減する。
 それは……形は違えど、守るための「盾」だ。 
「逃がす、か」
 注意を此方に向けようと吸魂符を投げた仄に、力が戻る。
 そんな隙を逃さぬとばかりに、ソフィアが動いた。
 太陽の火花、その名の通りに明るく輝く光球が火の粉が散りつつ空を切る。
 それが地面に衝突した瞬間、爆発を引き起こす!
 仄がそれに怯んだ金魚を絡め取れば、ライカとソフィアの攻撃が交差する。
「すばしっこいね。確実に当てていこう」
 銃撃を右へ左へとまるで泳ぐかのように縫って逃げる様は、どこか夏の縁日のあの金魚を思わせる。
 再度伸ばされたワイヤーが、金魚をとうとう捉え。
「終わり、だ。な」
 地面にと叩きつけたのだった。 


 自然と引き離された金魚の一体。
「……もう少し手元が熱くなるかと思ったが、問題無い」
 殴られた金魚は、ぶるりと体を震わす。
 ウィル達が引き受けたそれは、ウィルよりもスピネルに狙いを定めその炎を燃やす。
 一層強く燃えあがった炎は、スピネルのその体を燃やそうと近づき、そして。
「お前の相手は、俺だろう?」
 引き寄せたその細い体を安全は方へ押しやり、強引に割り込んだその身を炎で焦がす。
 その様を見れば、スピネルだって黙っていられない。
「ウィルちゃんに触らないで?」
 お互いが、お互いを思いやる。
 スピネルから放たれた炎は、一層輝きを増し金魚を包み込む。
 度重なる攻撃に、敵を倒したいがこの身の炎を消したくない、とばかりに逃げようとする金魚。
 追いすがろうと駆けだしたウィルに、アキラの声が掛った。
「援護するよ!」
 ワイヤーがその動きを制限した所に、ウィルが拳を振り上げる。
「……そろそろ、か?」
「ウィルちゃん、アキちゃん、行こう!」
 揺らめく炎の弱さに、これがチャンスだと視線を交わし合う。
 アキラの呼んだ風の一撃が、その炎を掻き消す勢いの所に、ウィルとスピネルの攻撃が見事決まったのだった……。

 ゆらり、と最後の炎の揺らめきを残し、金魚が地面にと横たわる。
「おやすみなさい、いい夢を」
 雫がそう言い、全て終わったことを確認する。
「片づけ、しますか」
 伊都がそう言って、辺りを見渡す。
 流石に広いだけありそこまで荒れ果ててはいないようだけれど……。
「これなら、すぐに終わるね」
 最後の夏が、終わりを告げる……。
 否。
 最後の最後、一つ楽しい夏の思い出が待っている。

 
●最後の、夏へ
 きちんと、花火をやりましょう……。
 雫のその提案に、否を唱えるものは居なかった。
「もう大分涼しくなったしね。今年の花火はこれで納め、かな」
 ぱちぱちと爆ぜる花火を見ながら、ソフィアが言えば、隣で花火を吟味していた伊都が頷いた。
「まぁ、残夏を楽しんで秋を迎えよう?」
 なんて、ね? と笑い沢山ある花火からひとまず一本、手に取った。 
 それは、仄も持つ線香花火。
「そういえば、何故、花火は、夏が、盛り、なのだろう、か」
 手に取った花火を見つつそう問えば、アキラも首を傾げる。
「大きな、花火大会、で、盆の迎え火、送り火の、かわりに……、と、言うのも、ある事は、あるが」
「冬もやってないことはないんやけどねぇ」
 手に取った吹上花火を持ちながら言えば、仄の手に持つ線香花火がゆっくりと炎が丸く、大きくなって行く。
「そう、なの、か。冬の、花火も、見て、みたい、な」
「クリスマスとかに、あったと思うんよ」
 シュッとついた花火に瞳を輝かせる。
 とても綺麗な火が、辺りを照らし出す。
「おお、結構、線香花火、の、最後が、大きくなった、な」
 ぽとりと落ちたそれが消える最後の瞬間まで見つめ、瞳を軽く伏せた。
「燃え尽き、落ちるのも、また、在りしモノの、一つの形、か……」
「そうやね……っと、所で……」
 派手な分、結構短い花火をバケツに入れて、鞄を手に取った。
 持ってきた軽食を皆に見せる。
「後で、一緒に食べよ?」
 楽しく騒いだら、きっとお腹もすくはずだから。
「まぁ、まずはパラシュートもみたいとこやねぇ……」
 軽食のお誘いに頷きつつ、ウィルが手に取ったのはあまり大きな音を立てない物。
 静かな煌びやかさを醸し出すソレを手に持つ。
 視線はその線香花火へ……というよりは、目の前ではしゃぐ大切な人へ。
「ライちゃん、ほらほら〜」
 ぶんぶん振りまわす花火は綺麗に弧を描く。
「とても、綺麗ね」
 やってみる? なんて声にライカが微笑み二人仲良くやってみて。
 1人此方を見るウィルに気がついたスピネルが、ライカに一声かけてから隣にやってきた。
「ウィルちゃんは線香花火?」
 あたしもやりたい! としゃがみ込めばその距離が近くなる。
 でも、まだ足りなくてもうちょっと近づけば、こつん、とぶつかった額にくすくすと笑いが毀れた。
 ウィルが火をつけながら囁く。
「線香花火――俺は好きだ。短くとも、見る者の為に懸命に輝く」  
 パチパチと爆ぜる間に、囁かれる言葉。
「……俺も、そういう命の持ち主でありたい」
 決意を秘めたその言葉に、スピネルが真摯に頷く。
 その思いは、伝わってくるから。
 大きな火の塊になったそれが、ぽとりと落ちるその瞬間。
「ウィルちゃん、顔、赤いね?」
 ふふっと微笑めば、ウィルが次の線香花火を手に取った。
「……顔が赤い? ……花火のせいだろう、きっと」
 それだけじゃない気もするけれど。
 その答えは、もうちょっと後で聞こうか……。
 夏から秋へと、季節は確実に移り変わる。
 きらきらと落ちる花火に視線をやり、ライカが呟く。
「夏も悪くない……けど。やっぱり私は冬派。また来年……なんて、ね」
 けれど、その視線はどこか夏の名残りを楽しむかのようで。
「そうですか……」
 雫も頷きながら、今度はじっくりと花火を楽しむ。
 散る火花に目を奪われたところで、声が上がる。
「はいはい、ちょっと離れてくださいねー?」
 注意を促せば、一際高い音が上がった。
 伊都が打ち上げたロケット花火だ。
 あの独特の音を立てながら遠く、遠くへ。
「高く行ったねぇ」
 ソフィアが呟けば、雫が頷く。
「本当に、凄いですね」
 きらり、きらりと向かった先の夜空に星が輝く。
「昼はまだ暑さが続いてますが、夜に成ると涼しくなって夏の終わりを感じますね」
 とはいえ、と言葉を繋ぐ。
 まだ、夏は……少なくとも、ここの夏は花火がなくなるまでは終わらない。
「次は、何にしよっか?」
 ソフィアの声が続きを促す。
 抱えた花火はまだ沢山。
 花火に負けないぐらいきらきらと輝く笑顔が、花開いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
瞬く時と、愛しい日々と・
ウィル・アッシュフィールド(jb3048)

大学部6年55組 男 阿修羅
静寂の魔女・
仄(jb4785)

大学部3年5組 女 陰陽師
瞬く時と、愛しい日々と・
スピネル・アッシュフィールド(jb7168)

大学部2年8組 女 アカシックレコーダー:タイプA
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
撃退士・
Laika A Kudryavk(jb8087)

大学部5年233組 女 ディバインナイト