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「悪魔どももこんな誰も来ないような廃校でご苦労なこった」
(まあ、俺としちゃあそう言う鴨が大好物なんだけれどね……)
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は廃校を見上げ、不敵に微笑んだ。
歩く四谷怪談を自負する身としては、これは乗り込みお化け天魔を弄り倒さなければなるまい。という気概に満ちていた。
場所は校庭、必然的に目に入るのは二宮金次郎の像だが、少なくとも今はただの銅像だった。
(ディアボロならば殴れる、怖くない)
陽波 透次(
ja0280)は静香が用意したお守りを刀にくくりながら思う。
裏を返せば幽霊は殴れないから怖い、ともとれるのだが。
「へぇ、此処が学校……。昔は沢山の子供で溢れてたんでしょぉねぇ……んふふ、素敵な場所じゃなァい」
寺子屋って行ったことがなかったのよねぇと産砂 女々子(
ja3059)が瞳を細めて隅から隅まで校舎にと視線をやる。
木造のその校舎は、きっと子供達が元気に走り回っていた時期もあるのだろう。
「しまった! ここはホラー依頼です! 皆さんは雪子に任せて先に行けぇ!」
きりっとフラグを立てている玉置 雪子(
jb8344)が居た。
「雪子……この依頼が終わったらステーキとパインサラダを食べるんです」
それあかんやつや……。
と突っ込みを入れる暇もなくラファルの要請により一緒に来た宮部 静香(jz0201)は皆より少し離れた場所で、お守りを握りしめながらぶつぶつと暗示を掛けている真っ最中だった。
「大丈夫? 静香さん」
佐藤 としお(
ja2489)が声を掛けてくれるのに、静香がこくこくと声もなく頷く。
ちなみにとしおの荷物が凄いことになっているのだが、バナナの香りが漏れてくるそれに突っ込みを入れることも出来なかった。
ガタンっ。
「ひっ!」
静香のすぐ近くから物音が聞こえ、震え上がったのは一人じゃなかった。
「いやぁぁぁ!!」
時期も雰囲気もばっちりじゃねぇかと一人ごちていたディザイア・シーカー(
jb5989)が悲鳴に視線をやる。
「おい、一人で行くのか?」
ディザイアの声も聞こえなかったのか、川中 糸魚(
jb8134)が物凄い勢いで走っていく。
胸元の谷間へとしっかりと収納したお守りを再度確認し、静香にと真珠・ホワイトオデット(
jb9318)が微笑む。
「静香さんありがとうですにゃ! 大切にするですにゃ」
その光景にそっと自分の胸元へと視線を落とした静香が真顔になった所で、そろそろ行こうかと皆、歩き出す。
「調理室は確実にいるって話だが……残りはどう来るか」
ディザイアが、小さく呟いた。
さぁ、肝試しが始まる。
●
「現れたり聞こえるってだけだからなぁ」
さて、どうするかとディザイアが首を傾げれば、啜り泣く男の声が聞こえてきた。
ディザイアが其方に足を向けてみれば、何かを察した女々子はゆっくりと歩いていく。
曲がり角を一つ、折れたその瞬間。
「いただきますにゃーー!!」
「いただきますにゃぁ?!」
真珠に襲われる糸魚という光景とエンカウントした。
糸魚は自覚がなかったが、どうみても頭部がお魚さんだった。
そんなお魚さんを食べたくなるのは本能である、仕方がない。
大騒ぎしながら逃げていくのと、瞳をきらきらさせて追いかけていく真珠を女々子は何も言わずに微笑んで見送った……のを、ディザイアがちらりと見る。
「とりあえず近いとこから探索すっか」
それは、とても真面な判断だった。
2人、廃校を楽しみながら歩いて行く。
そんなことが起こっているのも知らず、ラファルと静香が理科室を目指していた。
ぼろぼろの学校の様子に口笛を吹きそうな様子のラファルにどこか心強さを感じつつ、静香もきょろきょろと辺りを見渡す。
ふと、視線を廊下へと戻せば先ほど逃げ出した糸魚の姿を見つける。
どうやら逃げまくっている間に追いかけっこも終了したらしく、一人迷っていた糸魚は誰かに話しかけているようだ。
「ん?」
誰と喋っているのか……ラファルが首を傾げた所で静香が何かに気づいた。
悲鳴をあげたのを、一応班分けしたものの、結果一人になってしまった透次の耳も捉えていた。
(頑張ろう……)
そう思っていたが、一人はちょっと怖い気もする、そんな時に聞こえてきた悲鳴だ。
これは、仲間のものかそれとも。悩むより先に走り出そうとした瞬間。
「そこに居るの誰にゃー?」
背中から声を掛けられ、ぱっと振り向けば糸魚に振り切られてしまった真珠が居た。
「あ、真珠さんか……」
仲間の姿にほっと息を吐く。
悲鳴が聞こえなかったときけば、お魚さんにばかり意識がいっていて、気が付かなかったとのことである。
「連絡してみようか」
仲間へと連絡をしようとまずは最初に静香にととかけ、繋がるまで暫しかかる。
「大丈夫そうにゃ?」
真珠の問いかけにまだ出ないと言おうとしたその瞬間。
『さ……よ』
「え?」
透次が首を傾げた。
『さむいのよぉおぉ!!』
真珠の耳にまで届くような大絶叫の後、通話が途切れてしまった。
「……」
なにそれ聞いてない。
知らず青白くなった顔を見合わせ、そっと理科室へと無言で足を向けるのだった。
そんな怪現象が行われるとは知らず、としおは本当は怖いんだけどなぁと思いつつもちゃくちゃくと幽霊対策をしていた。
調理室へ向かう前に見かけた鏡……女の子がでるという鏡に気が付き、荷物からごそごそと取り出したのは鏡だ。
某女性のように這い出されてはたまらない、だからこそ鏡から鏡へ移動してもらおうという作戦である。
(まさに鏡の中のアクトレス♪)
完璧に合わせ鏡になったそれに満足し、としおが調理室へと向かっていくその後ろで何かが通った気配がした。
ライトは使わず、ナイトビジョン?の機能で視界を確保した雪子だった。
テンションがめちゃくちゃ高く鼻歌もしそうな勢いだ。
先ほどから足音が聞こえるかの検証を繰り返しているが、特にそんなこともない。
「まっくろくろすけ出ておいで! 出ないとHDDの中のエロ画像ほじくるぞーっ!」
その言葉に、足音じゃなくて教室の中から物凄い音が聞こえてきた。
「隊長! これから潜入を開始するのであります!」
ガラッと開けた教室内は、薄暗かった。
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透次と真珠は辺りを警戒しながら進んでいた。
ついた理科室。
理科室への扉を開けようとした瞬間、中から聞こえてきたのは静香の悲鳴と凄い音量のミュージックだった。
先頭を務めていた透次がドアをそっと開き、顔を出した先で……骸骨がラファルとダンシング対決をしていた。
ラファルはスキルのダンスを使ってまでの見事なダンスだ。骸骨のダンスに負けることはないだろう。
「踊るの? 踊るの?!」
わくわくと後ろから顔を覗かせた真珠が、きらきらと瞳を輝かせる。
「楽しそうなのにゃー!」
追いかけていった真珠を見つめ……。
「……」
自然と静香と視線があった透次はとりあえず構えた紅爪で踊る骸骨に躍り掛かっていく……。
一方調理室。
確実にディアボロが居るというその場所では、としおが包帯片手にぐるぐる巻きにしようとしていた。
不器用な女性が誰かの為に料理を作ろうとしての怪我なのだろうと、感動したとしおは必死だったが、相手はディアボロなので容赦なく包丁でぶっ刺してくる。
「さぁ、こっちに来な!」
頭をむんずと掴みあげ、ほおり投げるディザイア。
「ここは任せて他にいけ!」
その言葉にとしおが頷き、次なる幽霊の元へと向かう脇から顔を覗かせた女々子が、ほおり投げられた女の持つ出刃包丁にと目をとめた。
「糸ちゃん、あんたを調理したいらしいわよ?」
女の視線は、なぜかほおり投げたディザイアではなく糸魚へと向かう。
「いやあああめめこさんめめこさん幽霊! 幽霊ですよ!!」
背中に回り込んだ糸魚に溜息零し、女々子がすっと動くと女へと足を振り上げようした所で……。
「包丁っ……血……お、お嬢さんそんな物騒な物しまいましょう?!」
と叫ぶ糸魚へと叩き込んでしまいそのお嬢さんの元へと送り込む。完全なる事故だった。
「ハハッ、存分に殴り合ってやんよ!」
女の持つ包丁を蹴り上げ、その頬をぶんなぐる! ディザイア達の攻撃が始まった。
暫しあと……理科室も終わり、窓から見た校庭。
そこではようやく動き出した二宮金次郎の像があった。
これはすぐに向かわなくては……と皆が走り出す。
二宮金次郎へと最初に襲い掛かったのは透次とラファルだ。
予想していたコースへ割り込み、透次により疾走停止に追い込まれた金次郎をこれでもかとラファルがぶんなぐる。
「もっと遊んで行けよ〜、お前らよー」
ゴッ、ゴッと鈍い音が響き渡る中、準備運動も無事終えた真珠が、タオル片手に2人にぼこられる二宮金次郎に飛び掛かり血をふきふきしてあげていた。
「血の涙……! 拭いてあげないとかわいそうですにゃ!」
二宮金次郎は一応ぶん殴ろうと手を振り回すものの、ほとんど攻撃すら当たらずしかも血を拭かれている。
「シュールですわね」
静香が、ぽそりとそんなことを呟いたのだった。
「……」
足元に転がる二宮金次郎だったものを見つめつつ、ラファルが声を上げる。
「つまんねぇな、もう終わりかよ?」
他に居ないかと足跡の検証も鏡の検証もしてA班、B班もしてみるが、聞こえたと大騒ぎする糸魚以外特に成果がない。
それから暫くして、音楽室に向かっていたとしおと雪子から何もなかったという連絡がくる。
「全部の怪談は、これで終了っぽいね」
透次が全員にとその旨を連絡する。
そうして、下駄箱の方へと集まることになったのだった。
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真珠と糸魚による感動の再会? があったりしつつ人数を数えると一人足らない。
「あれ? 雪子いなくね?」
ラファルの言葉に、あぁ、いない! と探し回る中、はっとしたようにとしおが声を上げた。
「さて七つ目は……!? まさかっ!」
七つ目は人食い校舎だろうと予想していたとしおが雪子を助けに行こうとした所で悲鳴が聞こえる。
「雪子さんにゃ!」
慌てて皆が走り出し、声が聞こえた教室のドアをディザイアが開ける。
「どうした、何かあったか!?」
薄暗い教室だけの教室のはずだったが、ぼんやりと明るく照らされたそこは、赤いどろりとした液体。
「雪子さ、」
ん、と透次の言葉が途切れる。
「……みて」
誰の声だろう、皆の視線が彷徨い声の主を探す。
(あれ? 声を出していないのに……)
疑問に感じる暇もなく、突如光が消える。
これは、好機!
「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁーっ!」
突如、皆の前に現れたのは蜃気楼にて姿を消していたのを解除した雪子だった。
「きゃぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!」
静香と糸魚が2人そろって走り去っていく。
死霊粉を身体にまぶして脅かす雪子に気が付かず走り去っていった2人に連絡を入れつつ、ラファルと女々子にお説教される雪子。
「アッハイ、サーセンした、もうふざけないです」
ゆっくりと校庭へと向かえば、逃走した2人がどこからか戻ってくる。
静香だけ、物凄い青ざめていた。
「そういえば警備員さん遅くまで大変ですね」
調理室へ行く時も、今もお世話になったという糸魚。
が、そこまで行って漸く気が付く。
「ここ、廃校……」
真っ白になった糸魚がさっさと撤収しようと皆に声をかけると大急ぎでその場を後にしたのだった。
ぺたぺたぺた。
学校のどこかで、そんな足音が聞こえた気がした……。