●向かう場所は
今は使われていない教会にと向かいながら、カミーユ・バルト(
jb9931)が首を傾げた。
「幽霊の出る教会……だと? しかも幸せな婚姻関係を結ぶ教会だったと言うのに、花嫁姿の幽霊とは……」
些か信じ難くはないか?
という言葉に、キャロル=C=ライラニア(
jb2601)が微笑みを浮かべる。
「ゆうれい、ってみたことありませんの〜♪ ほんものでしたらどきどきですの……」
「まったく……花婿を現地調達しようだなんて、きついお灸をすえてあげなくちゃ」
桐原 雅(
ja1822)がそういえば、カミーユが頷いた。
「まぁ、何にせよ、この僕の美しい瞳で確と見届けてやろうではないか!」
ドヤァと言えば、光藤 姫乃(
ja5394)が肩を竦める。
「たとえ天魔じゃなくても、深夜の教会で一人こんなことしてる奴がマトモな訳ないじゃない」
というわけで、とにこりと微笑んだ。
「説得だけで終わるとは思わないことね、特に男子、あんた達尻本気で守りなさいよね」
という姫乃も男性なのだが。
そんな隣で女物の服で身を包み微笑む御堂 龍太(
jb0849)。
2人揃うと、逆にしっくりくるから不思議である。
「説得だけで終わらない……」
草薙 タマモ(
jb4234)がそう言って、男性陣を順繰りに見つめていく。
その視線に弱弱しい笑顔を返したのは志塚 景文(
jb8652)だった。
これから囮をするというのに、脅されまくりである。
城里 万里(
jb6411)が首を傾げた。
「それにしてもなぜボロボロな花嫁衣裳を纏った筋骨乙女なのでしょう……」
それが幽霊にせよ、不審者にせよ、天魔にせよ、と。
「やむなく結婚出来なかったりとか、婚活に敗れたりとか、そんな乙女の怨念が具現化し、花婿さんをチャペルで待ってますの?」
万里は将来そんな女になりたくないです、と震えていえば、伝染したかのように皆にも震えが走る。
「世知辛い世の中ですの……」
そんなこんなで、警察官にも挨拶を済ませ教会の周りにと陣取る。
まずは偵察をと偵察班が動き始めた。
●偵察してみよう
忘れていたかもしれないが、物凄い不可思議な音が聞こえていた。
「特殊な音波攻撃でしょうか……」
万里が首を傾げながら疑問を口にする。
どうも、高笑いをしているような、含み笑いをしているような……ようは笑い声のように聞こえ、確かに変な笑い声、としか言いようがないだろう。
「調べてみればいいわよね」
龍太がヒリュウを召喚すれば、時を同じくしてキャロルが飛び上がった。
雅は近づきすぎず、遠すぎずの距離を保ち、ぐるりと教会を回ってみる。
窓の数を確認し、ついでに天窓も見つつ仲間にと問いかけを発した。
「窓、割らないとダメかな?」
出来るだけ教会を壊したくないと皆、同じ思いのため最終手段にしようという話で纏まった。
ヒリュウとキャロルが中を覗き込んだ後、戻ってくる。
錯覚現象の有無も考慮したが、やはりそれではないらしい。
バサバサとんでいる青い鳥、そして明らかに異様な雰囲気の花嫁。
人間かと言われれば否だが、幽霊と天魔どっちかといわれれば、どっちだろうといった感じだった。
「あ、でもさ、入って危害を加えてきたら天魔だよね」
景文の問いに、姫乃が小さく頷いた。
「まぁ、そうね……一概には言えないかもしれないけど」
少なくとも此方が反撃する材料にはなるでしょうね、と。
「ゆうれいなら〜通り抜けますけど、これが触れちゃったりしたら〜」
キャロルがにこにこと微笑む。
なにそれヤバい予感しかしない。
そういえば、と首を傾げた。
「あおいとりさんは、きょうかいが幸せのためにかっているのでしょ〜か?」
警察に確認してみるが、ここはすでに廃墟と化した教会である。
飼っていたとしてもすでに他の所に移動しているだろうとの返答だった。
だとすると。
「青い鳥の幽霊、斬新ね」
タマモが言えば、カミーユが教会を見上げた。
「まぁここでごちゃごちゃ言ってても仕方なかろう。さぁ、行くぞ!」
(嫌な予感がする……いえ、嫌な、だなんて……まるで鏡を見ているような……)
そんなことを思う姫乃の先で、景文とカミーユがドアにと手を伸ばし……。
「失礼します」
「さぁ、姫。喜べ! 僕が迎えに来てやったぞ?」
そんな言葉と共に、ドアが開いたのだった。
●入った先で
ギィっと音がして、ドアが開く。
今は使われていない教会である。誰かが抉じ開けたのだろう、鍵はないに等しい。
素早くはいった景文とカミーユが、花嫁の姿を捉えたのと同時に、花嫁の周りで、祝福の鳥のごとく羽ばたいていた青い鳥達がドアめがけて飛んできた。
「……!」
攻撃か、それともただたんにドアが開いたことにより逃げ出そうとしているだけか……。
龍太がティアマットを召喚し、慎重に間合いを測る。
なんか大きいのが居るー! と青い鳥達の羽ばたきが大きくなり、彼らが生き延びるために攻撃をしかけてきた。
これから先にはいかせないぜ! という龍太のティアマット、そして体を割り込ませてきたキャロルのストレイシオン、二体により、ドア前の守りもばっちりだ。
全員が素早く入り、ドアを閉める。
「敵ですね〜」
確信したキャロルの言葉に、万里が頷いた。
「じゃぁ、はじめよう!」
鳥達が逃げないようにと光の翼で飛び上がり、窓の方へ行く。
此方側もきちんと対処しておけば、殲滅することも可能だろう。
「ちょこまかと、うっとおしいわねっ」
タマモも同じく開いていないかどうかと再度見てみれば、それに合わせてちょこまかと鳥達が羽をまき散らしながら攻撃をしかけてくる。
そんな中、2人の視界に花嫁が見えて……。
(花嫁衣裳というのは女の子なら一度は着てみたいものですの。なんていうか、その……体格良くても……)
「乙女心ってやつですの?」
ぼろぼろの花嫁衣装がむっちりとした体を包み込んでいた。
漢女、という言葉を知っている人なら想像できると思うが、まさにそれだった。
景文とカミーユという餌に釣られた花嫁はさらに嬉しそうに声を上げて笑い、ドドドという音が聞こえそうな勢いで突進してきたのだった。
●花嫁の婿探し
花嫁は、完全に女性陣をスルーした。
否、女性っぽい人達もスルーしたため、必然的に景文とカミーユのみがターゲットになってしまう。
囮は2人……ごくりと景文の喉がなる。
花嫁は、景文に標準を定め走り寄ってくる。
「花嫁、……あぁ……」
迎えに来たよ、等の続く甘い言葉も用意していたのだが、全然必要なかった。
せめてと祭壇前の広めの場所にと逆に向かいながら、笑顔が青ざめていく。
その顔が付きだされていることから、明らかに、そう、明らかにキスを強請られているのが分かった。
「それはちょっと」
とっさに構えた武器が花嫁の怪力により阻止され均衡状態になった。
青い鳥の方に向かっていた姫乃が、そんな景文を守ろうと全力で向かっていく。
花嫁との間で混じり合う鋭い視線。
「あたしの可愛いメンズ達に手を出さないで貰えるかしらぁ……?」
そんなわけで、常に囮役にも気を配っていた証である。
顔を狙って攻撃を仕掛けるが、何分火事場の馬鹿力状態になった花嫁は、そんなもんでは効かない。
これ幸いと逃れようとした景文の腕をごつごつとした指先で掴み、ぐいっと引き寄せ……。
「なんですってぇ?!」
ぎりっと眦があがったその眼光は、元ヤン系だったというのにふさわしかったかもしれない。
姫乃の決死の行動すらも掻い潜っての災難に、蒼白な表情の彼の語りを聞いて欲しい。
俺の父は知人の結婚式に出席した時、教会で母と出会ったらしい。
一目惚れだったそうだ。
そんな吐露と共に……花嫁の魔の手、いや、物理的に抱きしめられその唇が……。
「……今思い出さなくても良かったかな」
ぴしり、と何かが壊れる音がしたような気がした。
「志塚さーん!」
少しの空白ののち、タマモが青い鳥を攻撃しながら正気にかえるように叫ぶ。
彼にも大事な物があるだろう、なんとなく叫ぶのが遅くてちょっとなにやら奪われてしまったようにも見えるが、きっと気のせいに違いない。
花嫁のあの不可思議な音が聞こえてくる。
「やっぱりあれは笑い声なわけね……」
雅が青い鳥を攻撃しながら納得したように頷く。
ばらばらとそんな2人の周りを飛ぶ青い鳥達は、羽をまき散らす。
それはまるで2人を祝福するかのような……?
「って、それはダメだよ!」
突っ込みを入れる雅が、近くを飛んできた青い鳥を吹っ飛ばした。
そんな中、果敢にも言う人が1人……。
「……僕が次のターゲットになってやろう」
カミーユがそう言って前に出る。
女性陣を危険にさらしたくない……そんな気持ちからだ。
「あら、いいの? 景文さんの見たでしょう?」
「とても〜、辛そうな、心の折れる音が、聞こえましたよ〜? 」
龍太とキャロルの気遣わしげな声音が聞こえるが、それに微笑みを浮かべる。
「花嫁、僕では不足か?」
ふわりと両手を広げられれば、花嫁だってそれはもう食いついて……。
ばきぼきどさぁ! という音が聞こえたような気がした。
やはり一瞬の空白ののち、声があがる。
「カミーユさーん!」
「いわこっちゃない……!」
再びタマモの叫びと、雅の突っ込みが入った。
「誓いのキッスに、ハグ……これで満足して成仏はしてくれませんかね?」
しませんでした。
万里は苦笑し、頷く。
「まぁそうですよね」
とはいえ、彼は踏ん張っていた。
筋肉質なその胸板に、攻撃を叩きこむ。
そんな様子を見ながら、龍太はそっと瞳を伏せた。
花嫁に対して思うこと。
「人だったらお友達になれるかもしれないわねぇ」
だがしかし、花嫁の愛情表現は全力で回避する。鉄則である。
ちなみにこんなことをしている間に青鳥は倒され、花嫁も攻撃を受けていたためドレスがぼろぼろだった。
血みどろになり、裂けて見える筋肉。
とてつもなく筋肉隆々だったが、疲労がにじみでており、肩が上下に大きく動く。
けれど、2人の尊い花婿を得た? 花嫁は、そんな状態でも表情というかオーラだけは生き生きしているようなことが伝わってきた。
「……、そろそろ、君の晴れの舞台に、幕を下ろそう」
景文がなんとか復活し、再びカミーユに抱きつき回復しようとしたのを吸魂符に阻止する。
自身にも力が戻るが、精神的な何かは未だ戻ってこないような気がした。
「貴女、何か無念な思いを残したの……?」
雷の刃を生み出しながら、タマモが問う。
それに答えを返すことはなかったが、どこか一瞬憂いを帯びたような気がした。
それが、答えか。
タマモがほんの少しだけ瞳を伏せる。
だがしかし、気を取りなおすように再度視線を上げた先で、あらかた犠牲者を出し終えた花嫁は左右を見渡していた。
龍太と姫乃と視線が交わるが、2人は笑顔で首を振る。
「ちょっと、無理ね」
新たな候補が居ない、そして婿候補がかなりの臨戦状態……。
なんだか女性陣を睨み付ける眼差し……見えないけれど……が強くなった気がする。
それを見て、最終手段と隠し持っていた何を出す姿。
「あらこんなところにお買い物途中で買った【花束】が!」
物凄い棒読みで万里がさっと差し出したブーケ。花嫁の視線が向く。
「ブーケトスします?」
花嫁ならばやはりやりただろうそれに、花嫁が食いついた!
すでにぼろぼろになっていたドレスを、今までの攻撃でさらにぼろぼろにしながらもふわりと風に揺らし、背中を向けた。
そう、そのまま後ろにいる女性陣にブーケを投げるように……。
「ごめんなさい、ね」
そのブーケが地面に落ちる前に。
撃退士達の一斉攻撃により、花嫁の方が地面にと沈み込む。
「避難させなくてすんで、良かった……」
雅の言葉に、改めて戦慄が走ったのだった……。
●終わったその後で
静寂が教会を包み込む。
そんな中、あぁ、大切な女性がここに居なくてよかったのかもしれない……とどこか遠い目をしながら景文が呟いた。
「……とはいえ、花嫁は救われたのかな」
そう呟き、花嫁をじっと見つめる。色々あったがそれだけが心残りだ。
「教会が元通りになるといいんだが……」
カミーユが教会を見渡しそう呟く。
この後、使われるかどうかは残念ながら分からない。
分からないけれど、きっと使われたその時は……。
「花嫁さんが、笑えるような、そんな素敵な教会になって欲しいわね」
思いを馳せていた雅がそう呟く脇で、ブーケトスにつかったブーケの埃をぽんぽんと払いつつ万里が祈りをささげる。
姫乃と龍太もそっと花嫁にと視線をやり、祈りをささげた。
「これが本当のけっこんしき(血痕式)……?」
となんか上手いこと言ったキャロルに、タマモが笑い声をあげる。
「さ、警察官にも報告しないとね」
「そうよね……」
姫乃の言葉に、龍太が教会のドアを開ける。
「次扉が開くときは、幸せな笑顔で一杯だといいわね」
きっと、そうなるだろう……。
撃退士達の胸に、そんな予感が広がって行った所で。
「はっ、よくかんがえましたら <物質透過>しますれば、わたくしもゆうれいごっこができましたのね……!」
キャロルのそんな言葉が、依頼の終了を伝えてくれた。