●
本日晴天なり。
予報通り晴れたその日。
足元に広がる黄色い絨毯は、今か今かと皆を待っているようで……。
「すごーい!」
一歩踏み出した子供達の歓声 が響き渡った。黄色いタンポポが足元で揺れる。
カイン・フェルトリート(
jb3990)とディアドラ(
jb7283)が女性の手伝いをするために動きだした、暫し後。
「では、時間まで自由にしてください」
説明が合った後、楽しい時間が始まる……!
「気を付けてくださいませね!」
宮部 静香(jz0201)の声を背に、撃退士と子供達がわぁっと駆けだした。
いつの間にやらところどころグループが出来ていて。
その一角、クインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)が子供達を前に演説……否、お話をしていた。
「ふふふ、僕の話が聞きたいのかい? いいだろう、冒険の末にこの光り輝く眼鏡と出会った時の話を……」
「えー光ってないよー眼鏡はひかんないよー」
意外と子供はシビアである。さくっと指摘されれば、クインVが首を振った。
「え、眼鏡は光らないだって? おやおや……」
子供の頃から偏見に凝り固まっていては将来が心配である……と零した。
(今、眼鏡を光らせてあげてもいいんだけれどね……)
と思っていたのだが、それよりもなんか作ろうよ〜とせっつかれれば、頷く。
「花冠を知ってるかい?」
「わかんない、どうやるのー?」
「花を繋げて輪っかを作るんだけれどね、それをこうして、こうだね……」
タンポポを組み合わせて魔法のように作っていけば、手元を覗きつつ、一緒に作っている子供達の瞳がきらきら輝く。
そして、出来あがったのと言えば……。
「どうだい、花眼鏡だよ」
なぜか、花眼鏡である。覗きこんでいた少年にかけてやれば、くすぐったい〜と笑う。
「え、葉っぱや花びらがくすぐったいのかい? 仕方ないな、この眼鏡を代わりにかけるといい」
とても穏やかな気持ちになって落ち着くよ、と微笑めば、他の子供達も掛け始めた。
眼鏡の安心感と言う奴だ。
そして、安心感に包まれれば……うとうとと眠り始めた子供達。
とても幸せそうなその表情を見つめる。やはり、子供だな……なんて微笑ましくて。
(眼鏡の夢でも見てるのかな)
そして、くいっと自然と眼鏡をあげようとすれば……。
(目が、目がぁぁぁぁぁ!!!!!!)
流石に声は挙げなかったが、ごろごろと目に入ったタンポポの葉に悶絶することになったのだった……。
そんな悶絶しているクインVを下に見詰め、龍崎海(
ja0565)が羽を羽ばたかせる。
海は事前に、各人がすることを纏めた者をサークル責任者である女性に伝えて確認していた。
その際、自分が空を飛ぶ……ハーフである自分の……悪魔の羽根を見せることの許可も貰っている。
天魔の被害によって不安定な子供達ではあるが、久遠ヶ原学園に居る人達が自分を傷つける人達でないことはよく理解している……何より、子供達は自分達のことを思って接してくれる人を敏感に感じ取った。
「お兄ちゃん、凄い、すごーい!」
きゃっきゃと楽しそうな少女の声に、微笑んだ。
何人も飛びたい、という子供達をとっかえひっかえ楽しんだ後、他には? 他には? と瞳を輝かせるのに、暫し悩んだ後セレクトしたのは……。
「きらきら、きれー!」
星の輝きがきらきらとタンポポを染め上げる。
周りに居る子供達は、本当に不安など何一つないように幸せそうだ。
それは、心を癒すアウルの力もあっただろうが、何よりも海の気持ちが子供達に伝わっていたから……。
「そうだ、体を動かしてみようか」
視線を合わせながらそういえば、子供達が何するのー? と興味津々で。
「目隠しをしてね、皆がどう動いたかを当てて見せるよ」
えー? できるー? なんて声が上がり、子供達が楽しそうに立ちあがった。
「じゃぁ目隠しするね」
生命探知がどこまで機能するか……。
あとは、海の努力と洞察力にも掛ってくるかもしれない。
神経を集中させた海の背後で、大きな歓声が聞こえた。
●
青空の下、響き渡る子供達の歓声。
「すごーい! お姉ちゃん、もっともっとー!」
松永 聖(
ja4988)によって、もたらされたものだ。
(グループセラピーなんてやったことないけど……あたしに出来ること、やりたいな……)
この青い空の用に、子供達の気が晴れるのなら、頑張りたい。
花で遊ぶという柄でもないし、と決めたのは、技の一つでも見せようということだった。
「誰か、おねーちゃんの技、見てみたいコー?」
と言って募った子供は、少年が一番最初に手を挙げて。
「お。キミは勇気あるオトコノコだ。将来有望だね!」
にこりと笑って言えば、少年がちょっと照れたように笑った。
「んじゃ、ちょっとおねーちゃんに確り捕まってて?」
わかったー! と元気に言う少年を肩に担ぎあげれば、縮地で軽やかに移動する。
そうすれば、上がる歓声。
まるで瞬間移動のようなその技に、子供達のテンションは上がる一方だ。
「一瞬だったでしょ?」
肩からおろしてやった少年は、興奮さめやらぬ表情で大きく頷いた。
「おねえちゃん、私も……!」
「よーし、やりたい子は並んでー!」
楽しい、笑顔が溢れる時間を……。
聖の周りで、笑顔の花が咲いていく。
そんな笑顔の花が咲いている近くでは、礼野智美(
ja3600) が恋人の水屋優多(
ja7279)と共に子供達にとスキルを見せていた。
(40人の子供の引率かぁ……)
圧巻なその光景をみて、智美が小さく覚悟を決める。
その隣では、恋人が参加すると聞いてやってきた優多が微笑みを浮かべて子供達をみていた。
恋人となかなか一緒の依頼を受けることが出来ない……今回は久方ぶりの一緒の依頼だ、気合も入る。
知美が持ってきた野球のボールを投げれば、優多がフレイムシュートで打ち上げる。
とても優しそうな優多から繰り出された盛大な炎を纏って空高く飛ぶソレに、子供達の興味と集中はばっちりだ。
「お兄ちゃんはどんなことできるの?」
お兄ちゃんと信じて疑わない少年は智美にと強請る。
優多と智美が顔を見合わせ、ちょっと笑いあう……そう、2人は性別を逆に勘違いされることが多い。
「そうだね」
阿修羅は攻撃技が多いんだけど……と断った後。
「敵との間をすぐに詰めたりするので使うのが……」
と縮地を。
そして……と、さらに。
「潜入調査なんかで外見を誤魔化す時とか……」
忍法「雫衣」使って見せる。
「おぉぉ! ねぇねぇどんなお仕事してたの?」
「そのお話を聞く前に、ドーナッツはどうかな?」
優多がそう言って、智美が持ってきたドーナッツを配り始める。
料理上手な親友と妹に頼んで作ってもらったドーナッツ。
子供達と一緒に食べながら、智美が語り始めた。
仲間と一緒に過ごした、神社での鬼退治、亡霊武者退治、そして、海や山での依頼のお話…… 。
極力「人の被害が直接なかった」物を選んでお話していく。
子供達のきらきらした瞳が、もっと、もっととお話をせがんでいて。
暫しあと、ちょっと休憩しよう? とそれぞれが花冠を作り始めた。
「花冠作りですか? 蓮華草でのなら作った事ありますが……蒲公英で作るのは初めてですかね」
優多の指先が、黄色い花の冠を作っていく。
もちろんそれは、愛おしい彼女の上に。
「はい、智美」
ふわりと微笑んだその笑顔は、きっとタンポポのように暖かいものだっただろう。
騙された、とは嵯峨野 楓(
ja8257)の談である。
その騙した鴉女 絢(
jb2708)はきょとんと楓を見詰めた。
「のんびり散歩する依頼っていったじゃん……!」
絢ちゃん、騙したーと声を上げる。
「散歩? そんなこと言ってないよ何言ってるの?」
にへっと笑われれば、はぁっと溜息つく。
(子供苦手なんだよね……ま、仕事だし仕方ない、か)
気を取り直した所で、子供達が2人に気付いてやってきた。
「さぁって、何がしたいって?」
子供達は、あれやこれやと声を上げる。
それに答えるべく、普段消している光纏を出せば、ゆらりゆらりと桃色のオーラが狐火のように揺らめいては消えていく。
同じように子供達の希望に答えようと、具現化した翼で空を飛んで見せた絢。
なんだかスカートの中身が見えそうで見えない……ぎりぎりである。
(ほら、撃退士といえばあう……あうなんとかでしょ?)
アウルを見せてーという言葉に答えた形である。
「しーっ……見てな」
口元に手を当て、下に降りようとやってきていた絢にと小狐を向かわせる。
それは真っ白い体を使いぱぁんと頭をひっぱたいて桜と共に消えていった。
「痛いっ! 急にどつくなんてどういうつもりなんだよ!!」
「あっはは! ごめんて! 絢ちゃん、危ないから離れててよー」
「ちょっと、ま……」
離れてて、と言われてる傍から。
「もいっちょお狐様どーんっ!」
勿論、手加減しているのだが、だがしかし容赦なく九尾の狐から炎をまき散らした。
転科したててあまり精度がよくないなぁ……なんて言葉を漏らして。
「本気で反撃だよ! 手加減する程頭いいと思わないでよ!」
反撃しようと左目を瞑り、右目に意識を集中して鴉型の弾丸を放った。
「……!」
子供達が息を飲み2人の行方を見守る。
勿論子供達に被害等行かぬように2人とも計算していて。
決着ついたそれに、子供達がわらわらと寄ってきて、何かお話してーと強請り始める。
「話……そうだねー。じゃあ鬼退治の話でも……」
やがて、御神酒で治療しつつそう言って楓が脚色して分かりやすく話し始めた。
その手は花冠を作っている。
「鬼退治の話! 私もするー!」
常に合いの手という話の邪魔をしつつ、子供達との笑い声が広がっていく。
「つまり狐最強って事よ」
「狐? 鴉のほうが最強でしょ!」
そんな2人の論争が始まった所で、花冠を載せてもらった子供達が、楽しげに笑い声をあげた。
●
その一角から離れた場所では一川 夏海(
jb6806) と陽炎 朔夜(
jb9145)が子供達と楽しげにクッキーを食べていた。
夏海の雰囲気で最初こそ怖がられていたが、すぐに子供特有の察知力で夏海にと懐いていく。
それも食べ終わるという頃、夏海が声を上げた。
社交ダンスをやろうというのに、子供達がわぁっと歓声をあげる。
「子供達の手本になってやるかァ」
ワルツが流れ始め、手を差し出す。
「ほら、手を貸してみろ朔夜」
腰に手を回し、ゆるりと曲に合わせて踊ってみれば、ふわり、ふわりとタンポポが合わせて踊りだす。
朔夜がちょろっと釘をさした。
「う、うむ。言っておくが子供に見せる為のダンスと言うのを忘れるでないぞ?」
「わ、分かってるって……」
そんな恋人同士の語らいさえも、ダンスをとても素敵に見せて。
きっと2人がそんなことを言いながら幸せそうだからだろう。
子供達の瞳がきらきらと輝いた。
「ぼくもする!」
「わたしも!」
子供達が我先にと教えを請いに行く。
「まずはそこのボウズと嬢ちゃん、やってみな」
一番最初にやってきた少女と少年に夏海が言えば、はぁい! と元気な声が上がった。
順調に始まったダンス教室。
とはいえ、きらきらした瞳はするものの、やっぱりちょっと恥ずかしい……もじもじと服を弄る少女に朔夜が手を差し伸べた。
「ほれ、皆で踊れば楽しいぞ?」
それに頷いて、少女が手を握り返す。
あくまでもダンスは手段、皆が仲良く交流して欲しい。そんな願いがある。
形になり始めた子供達がとても楽しそうに曲に合わせて踊りだす。
タンポポと子供達は、素敵なダンス会場で楽しそうにワルツを刻む。
「夏海。そなた、子供は何人欲しい?」
「そうだなァ……。子供は男女一人ずつ欲しいかな」
子供達の笑顔を見ながらそう問いかければ、夏海がそう言って微笑んだ。
●
ワルツが響き渡るその先には天羽 伊都(
jb2199)と遊んでいる子供達が居た。
「あたしもまぜて!」
「はい、いらっしゃい」
伊都が入ってきた少女を受け止める。
やってきた少女が、お花を摘みたいの! ときらきら見上げれば、私も! とまた一人、少女達が笑う。
女の子っぽいことをすると女の子っぽく見えてしまって嫌だ……と伊都は思う。
(でも、お花摘みって嫌いじゃないんだよね)
「分かりました。一緒にお花を摘みましょう」
皆でわいわいと摘んでいく。
ある程度集まれば、伊都は花冠を作り始めた。
「お兄ちゃん、上手!」
綺麗に紡がれていく黄色の花冠を少女の頭にそっと載せてやれば、ぱぁっと表情が輝く。
「お姫様見たいですよ」
ありがとう! という少女を羨ましそうにみる少女に、ちょっと待って下さいね、と鼻歌混じりに作っていく。
他にも花のブレスレットやらも作って着飾ってやれば、きゃっきゃっと楽しげな笑い声が広がって。
「ねぇねぇお兄ちゃんはいつも何をしてるの?」
「そうですね……東北、四国、京都、どの話が聞きたいですかねぇ?」
「んと、んと」
全部ー! なんて声が上がって。
では、まずは……と一番綺麗だと感じた風 景や食べ物の話なんかを始めていく。
そんなお話をしているすぐ近く。
湧き上がる歓声に微笑みを零した鈴木千早(
ja0203)と苑邑花月(
ja0830)が2人、静かに寄り添っていた。
「今回も、花月さんとご一緒できて嬉しいです」
回を重ねる程に、より一層積もる思い。
その言葉を受けて、花月が微笑んだ。
「一面の、蒲公英……素敵です、の。こんな所……に、千早さん、と……来れるなんて!」
嬉しいのだと、その声音、表情、全てから伝えていて。
蒲公英は咲いてる時も、そして綿毛になっても楽しめると花月が言えば、千早も頷いた。
「蒲公英は可愛く、そして、強い花。ですね。此処は、黄色い絨毯ですね。1つ1つは小さいのに……」
「可愛らしい……花で、花月……も、大好き、ですわ」
視線が交差した所で、少女が1人寂しそうにタンポポを見つめているのに気がついた。
「千早さん、あの……その、あの子、と……花冠でも作りません、か?」
花冠ならば自分でも作れるというのに、良いですねと千早が頷き、2人で驚かせないように近づいて声をかければ、少女がぱぁっと笑顔になった。
「いっしょに、つくってほしいの!」
勿論! と頷き花月と少女に千早も教えてもらい、作り始める。
出来あがった花冠。
そっと花月が少女にと、載せてあげる。
「妖精のお姫様、の出来上がり、ですわね」
にこりと微笑んで言えば、ぱぁっと少女が微笑んだ。
そして、千早の頭上にもそっと載せてみる。
「……千早さん、は……妖精の王子様、のよう。その、素敵……です」
(その隣、に……並べるのが……花月……なら、どんなに……)
それは、言葉に載せないけれど甘く切ない願い。
「俺が王子様ですか」
くすくすと微笑みながら、そっと載せたのは少女と作った花冠。
とても、可愛く……そして美しい2人にと手を差し出す。
「姫、お手をどうぞ」
冗談めかしたそれだけれども、2人は恭しくその手をとって。
皆でタンポポの野原を歩いて行く。
「あのね、あのね!」
少女が内緒話のように手を取り歩く2人の手を軽く引いた。
自然と屈みこんで口元に耳を寄せれば、少女の小さな小さな声で、まるで大切な宝物を見せるかのように囁く。
「おにいさんと、 お ねえさん、とっても素敵なおうじさまと、おひめさまなのよ!」
2人はとても素敵な物語の主人公なんだね! と少女が微笑んだ。
1人歩くのは神谷春樹(
jb7335)だ。
少しの間戦いの事は忘れたい。そう願う春樹は別に1人行動をしているわけではない。
時折居ない子がでていないかと注意を向けながら、スキルや武勇伝を語っている面々の方をちらりとみて……そして、視線を戻した。
彼は音を立てずに歩いて行き、1人ぼーっと座っている少女の隣にと腰を下ろす。
「少しここで休ませてね」
少女はこくりと頷き、ただただ静かに花冠を作っている見ていた。
静かに、静かに時間が流れ、そして……。
自然と2人作り始めた花冠が出来た所で、少女が笑った。
「お兄ちゃん、とっても上手。それ、恋人に上げるの?」
おませな口調でそう言って、きらきらと輝く瞳に、嘘はつけず。
「……一応好きな子はいる」
真っ赤になった顔を背けつつも頷けば、少女が嬉しそうに笑った。
「とっても、すてきだね! お土産にしたらいいよ!」
黄色いタンポポの花が、そうしたらいいよ、と言っているようだった。
鑑夜 翠月(
jb0681)は子供達と一緒に花冠を作っていた。
(こうやって交流を図るのも大切ですよね)
のんびりと楽しむ翠月の近くで、子供達が悪戦苦闘していた。
「お花は茎が長い方が作りやすいんですよ」
短い茎で何度も作っては壊れるを繰り返していた少女が、これ? と見せた茎はきちんと長くて、大きく頷いた。
「短いのしかないよー!」
という子には、出来るだけ根元から採った方がいいと瞳を合わせて助言する。
子供達と視線を合わせて喋るように心を配れば、子供達もそれに気がついているのだろうか、安心して助言をこうてくる。
「……」
そんな中、1人あまり上手く出来ないのかちょっと皆より離れて作っている少女が居た。
「どんな感じでしょうか?」
そっと見せられたそれは、ぼろぼろで。
「こうやって……」
一つ、一つ丁寧に今期よく作っていく。
「……できた!」
少女が満面の笑みを浮かべて、花冠を翠月の目の前にと見せた。
やがて、皆で被りあって見せあいっこを始めれば、先ほどの少女がやってきた。
「とても、似合ってるよ」
頭を撫でてやれば、少女がお兄ちゃん、ありがとう! とタンポポに負けないぐらいの笑顔を見せた。
そんな翠月達の近くでは肩車でもして走りまわろうか、と考えていた黄昏ひりょ(
jb3452)が居た。
しかし、子供達同士の絆を深めるためにも皆で長い花輪を作ることに。
緋流 美咲(
jb8394)もそれに賛同し、やってきた子供達と花輪を作り始めた。
「どうやるのー?」
「うん、こうやってね……」
ひりょが教えれば、美咲の元にも少女が半泣きでやってくる。
「ほら、こうするといいんですぅ」
教えてあげれば、笑顔が花開く。撮ってもいいですか? と許可を貰いつつ、美咲がぱちりとスマフォで笑顔を切り取った。
「上手く出来た子は教えてあげてね?」
できたよー! と声が上がれば、ひりょと美咲が上手だと声をかける。
「ねぇねぇ、こんなに長くしてどうするのー?」
それに、ひりょと美咲が電車ごっこをしようといえば、テンションがMAXになった。
「タンポポ号、いくよー!」
子供達がそういって、楽しそうに遊び始める。
タンポポに負けない笑顔が花開いて行く。
ぱちり、ぱちりと撮っていた美咲が1人此方を見ている少年に気がついた。
「一緒に遊ぼう?」
でも……とまごまごしていれば、ひりょも手招きした。
「おいで、一緒に楽しもう」
皆が少しでも楽しく笑顔で居てほしい……。
笑顔の絆づくりをしたい……。
2人の思いによって、笑顔の輪がどんどん広がっていく。
「なんだか元気をもらっちゃったな」
ひりょが呟けば、美咲もそうだね! と微笑んだ。
●
子どもたちに楽しい思いをしてもらいたい。
だから、精一杯のお持て成しを。
星杜 藤花(
ja0292)と星杜 焔(
ja5378)は共にお菓子を持ってきていた。
(ちびっこ達のために有名店のあれそれ作ってあげてたの思い出すなあ)
焔は事前にアレルギーの子はいないかというのを確認済みだ。
季節のフルーツのデザートサンドイッチは、傷まないようにとクーラーボックスにきちんと並べられて入っていて。
「たくさんあるからみんなで分けましょうね」
ふわりと微笑んでいう藤花の周りに、子供達がわぁっと集まってくる。
「いただきます」
1人1人渡ったのを確認して、頂きますを言えば皆が美味しそうに頬張れば笑顔が広がっていく。
やがて食べ終わった子から騒ぎ出すのは必然で。
焔が冬を使って元の姿に戻って見せれば、歓声があがった。
「すごーい、もっと見せてー」
「では、飛んでみる?」
天使の羽根を羽ばたかせ言えば、少女が大きく頷いた。
藤花はそんな2人を見ながら、他の子供達と花冠を作る。
「とても、素敵」
載せた花冠が、少女の頭の上できらきらと輝く。
こんななんでもないごく当たり前が、至福の時間と思える。
「生きている証ですね」
藤花の言葉に、戻ってきた焔が頷いた。
(未来のために……子供達の相手を、ちゃんと出来るようになろう)
子供達の笑顔が、その未来がすぐそこまで来ていることを2人にと教えてくれた。
或瀬院 由真(
ja1687)はそんな2人の近くで、パンダの着ぐるみで参加していた。
「皆さん、こんにちは!」
色んなお菓子が入ったバスケットが、そんな言葉に合わせて揺れた。
パンダの着ぐるみは由真の真心だ。
気になって寄ってきた子供達にと声を上げる。
「美味しい和菓子がありますよー。食べたい人はこちらへどうぞっ」
「お姉ちゃん、もふもふしていー?」
「どうぞ!」
もふもふしたり、撫で撫でしたりしながらお菓子を配れば、やがて黄色の絨毯に皆で腰をおろして歓談が始まって。
「ほら、こんな子を呼び出す事も出来るんです。可愛いでしょう」
呼ばれたヒリュウが、子供達にご挨拶。
きゃっきゃと楽しそうに触れ合う子供達だが、ちょっと貪欲である。
他には、他には? と声が上がった。
他には? という問いかけに由真が微笑んだ。
「え、他の子も? よし、頑張って呼び出しちゃいますよ!」
子供達のきらきらした瞳が、まだかな、まだかな……と期待に膨らんで。
そして……召喚されたストレイシオンに歓声が上がった。
同じくヒリュウを召喚するのは森田良助(
ja9460)だ。
「ぬふふ、僕のヒリュウは色々なことが出来ます。さあ、皆が見たい芸を言ってごらん」
子供達のリクエストは際限ない。
全部答えるわけにはいかず、可能な範囲でヒリュウにさせていけば、子供達は凄く嬉しそうに歓声をあげた。
黄色のタンポポの絨毯の元、くるりくるりとポーズを決めるヒリュウ。
くるりとターンし、どや! とポーズを決めたヒリュウに他に何かあるかと問いかける前に先ほどのことも考え、釘をさす。
「あまり難しいリクエストされたら、最終的に僕が怒ったヒリュウにかまれることになるから勘弁な!」
そんなこと言われたら、したくなるのが人情というものだ。
子供達が顔を見合わせこそこそと何かを相談していく……。
あ、これはひょっとして、と良助が思った所で、子供達がそれぞれ色々な無茶振りなリクエストを上げていく。
ちょ、まってぇぇというように混乱したヒリュウが、がぶりと良助を噛んだ。
「やめろなにをする僕はお前のご主人様だぞ……!」
子供達の笑い声が広がった。
そんな風に楽しい時間が過ぎていく……。
良助が伝えたかった撃退士は戦うだけじゃなく、楽しいことも沢山できるよということは伝わっただろうか。
(これからも今の皆のように、「楽しむこと」を忘れずに生きていってほしいな……)
その願いは、きっと伝わっただろう。
答えは、子供達のその瞳が、伝えているような気がした。
のんびりとお話を聞いているのは城前 陸(
jb8739)だった。
お菓子を食べていれば、自然と子供達がお喋りを初めて。
ぽつり、ぽつりと学校のこととか、こうやって時々あるサークルのお話だとか。
陸の優しい相槌に、子供達は安心して喋っていく。
そんな様子を、静香がぱちりとカメラに収めた。
「お手伝いいたしますよ?」
40人分は大変だろう。という陸に首を振り、楽しんでくださいませ、と静香もまた、楽しそうに写真を撮っていく。
これをアルバムにして渡したら、きっととても素敵な思い出になるだろう……。
子供達の笑顔を見ながら思う。
「あのね、あのね!」
これは内緒なんだけどね、と陸の耳元に、少女がこそこそと話しかける。
「なんでしょうか?」
くすくすと微笑みながら耳を傾ければ、少女がとても、素敵なことを語りかけてきた。
「わたしね、いっぱいみんなにやさしくしてもらったから、お返ししたいのよ!」
これからね、いっぱいいっぱいお返ししていくの。と少女が微笑む。
(前を向いて、歩いて行ける証ですね……)
その微笑みが、きっと少女が歩んでいく道に力を与えてくれるだろう。
「春ですね、良い事です」
お菓子の入った鞄を持ち直しつつタンポポを見つめて言う安瀬地 治翠(
jb5992)。
時入 雪人(
jb5998)はその言葉を受けて、小さく呟いた。
「春だね。……でも俺は引き篭もりたいかな」
とはいうものの、子供達がお菓子、お菓子ー?! と寄ってくればそんなことも言っていられずに、治翠が取り出したお菓子を2人で配っていく。
子供達の嗅覚は的確にお菓子を探り当てていた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんたち、どんなことできるの?!」
貰ったお菓子をお礼をいって受け取った子供達からそんな声が上がる。
「どんな事が、ですか?」
私たちの専攻は特殊だから、と悩んだ治翠だったが、超常現象スキルでも、とアウルを発動させる。
「こんな風に気配を消したり……」
と蜃気楼を使ったり。
「磁力を利用したり……」
と磁力拳で玩具を引き寄せたりすれば、子供達の歓声が上がる。
そんな治翠を見つつ、お兄ちゃんは? と強請られれば何かを、と考える。
磁場形成で高速移動を子供を背負って、とも思うが……と辺りを見渡せば、すでにやっている人がいた。
(やっても平気そうですね)
高速移動してやれば、子供達のテンションはさらに上がって行った。
一段落した後、ぽわーっとなっている子供達にタンポポの氷結晶を手渡せば、私も、僕もの大合唱になった。
雪人も一緒に作り始める。
「ありがとー!」
子供達のお礼を背に、一息もついて雪人と共に草原を散歩し始めた治翠は子供達と撃退士達が遊んでいる姿をみて口を開いた。
「雪人さんの子供の頃もこんな風に遊ばせてあげたかったですね」
早く帰って引き篭もりたい気もするけど、たまには、と共に歩いていた雪人は頷いた。
「子供の頃か……、俺が引き篭もりになる以前から、あまり外では遊ばなかったね」
「今から一緒に遊んできますか? えぇ是非」
にこりと微笑んだ治翠に雪人が首を振る。
「……でも今はいいや」
(………あと、うん、ハルはそのまま俺を外へ連れ出すだろうしね)
その言葉は、胸の内だけに留めて。
タンポポが風に揺れた。
●
楽しく1日を過ごせば、そろそろ時間だと告げる声。
「そろそろ、帰りましょうですわ!」
静香が声を張り上げ、カインとディアドラが女性の隣で、此方だと手招いた。
「忘れ物はない?」
「今日は楽しかったですね。また今度、遊びましょう?」
そんな声があちらこちらから広がって。
……そして1人、また1人と後片付けも終わり帰路にとつく。
最後に、と女性が頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました」
「「ありがとうございましたー」」
子供達のありがとうの感謝の声が、空に吸い込まれ楽しい一日が終えたことを、撃退士達にと伝えていた……。