●こういう時こそ!
部室で待っていたメンバーは総勢15人。ちなみにイケメンは勿論この場に居ない……どことなく漂う垢抜けない雰囲気。それが、このメンバー達の運命をものがたっていた。その中で中心的な男子、隊長と呼ばれる田中君と副隊長と呼ばれる飯田君がぺこりと頭を下げた。
「今日はありがとうございます……」
「さっそくですが、一体俺達どうすれば……」
おどおどと言う二人。隊長と副隊長がこんな調子である。その他のメンバーはすでに女子の姿を見るだけで眩しいものを見る眼差し。集まってくれた助っ人は6名。そのうち、駿河紗雪(
ja7147)と霧隠 孤影(
jb1491)、火鉈 千鳥(
jb4299)の三名が女性だ。
女の子だ……優しそう……とか声が聞こえる。お前らどんだけ普段辛い状況に置かれてるんだ。
(ホワイトデーです! 三倍返しです。つまり赤くすれば良いのです! チョコあげてないけどなんかくれです。 そうじゃなくて……お返しのお手伝いするです。 頑張るです。ニンジャーはご恩と奉公です?)
だがしかし、ちょっと待ってほしい。孤影がなんか怖いこと思ってる。つうか、赤くするって何をどう赤くするんだろうか。
(……上手く、いきますか……?)
千鳥は黒い瞳を不安げに揺らしている。色々と……不安があるようだ。その隣でほんわかと微笑みを浮かべている、紗雪。唯一女性陣で頼れそうな……?
(質も量もはなかなか難しいのです。けれど甘い物は優しい気持ちにしてくれますよね)
女性陣の心情等露知らず。メンバーはなんか頬を染めている者までいる。大丈夫か、こんなんで。そんな中、カウンターテナーの美しい声が上がった。その声は部室に綺麗に響く。
「3倍どころやないと思うけど、まぁ男子もまとめて楽しめば問題ないよな!」
亀山 淳紅(
ja2261)の満面の笑顔の言葉に、息を飲む。その声から紡がれる内容に、皆が顔を見合わせた。
「ホワイトデイ・お菓子・パーティー! である!!」
マクセル・オールウェル(
jb2672)がずばりそう言い切る。だがしかし、パーティー? となった空気を察し、さらに言葉を紡ぐ。
「作り方が分からずとも安心せよ。我輩が丁寧に指導するゆえ……その他部屋の飾り等の用意、買出し、パーティ時のウェイターなど役目はいくらでもある」
「!!!!!」
部室の中に驚愕の雰囲気が広がっていく。男子全員でケーキバイキングのようなものをイメージしたお菓子パーティーを開くことを提案された15名は、そうか、その手があったかぁぁぁぁと感嘆の声をあげた。
●買い出し買い出し♪
そんなこんなで買い出しである。天ヶ瀬 焔(
ja0449)が前もって考えていた物を買っていく。ちなみに参加者全員からお金を少量ずつ集めた結果、めっちゃ大金になったので色々な物を買うことが可能だった。
「レシピ本……入りますよね?」
紗雪がそんな中、そっと本を差し出す。確かに本があれば教える人が少なくてもカバーできるだろう。焔が微笑み、紗雪の手に持った本も会計に持っていく。
買い出しはこれで終了、荷物持ちをしようとしていた焔だったが、運動部の面々である。それぞれ荷物を持ってしまえば、焔の片手はあく。そうなれば必然と紗雪の手をとるのは自然な流れであろう。二人、こっそりと恋人繋ぎをして、ほんの少しゆっくりと皆の後を追いかけ歩いて行く。
「んぅーパーティー、外で出来てよかったですね」
歩調を合わせて歩いてくれる焔に微笑みながら言えば、頷きが返ってくる。そして、焔が口を開いた。
「女子部員と男子部員の中で、実は本命の人とか居るんじゃないだろうか?」
確かに居ても可笑しいことではない。その言葉に、ばっと振り返る数名、そして恋人繋ぎしている二人をばっちり確認。ら、来年こそ、俺だって、僕だってあぁなるんだっていう瞳、瞳してるよ!!
「………もし居れば、梱包したキャンディを、パーティーの中で特別に渡してみたらどうだ?」
こっそりとアドバイスしてみる。振り返った数名が頷いたようだった。実は買い出しでは材料だけでなく、飴そのものとか、ラッピング用具とかも買っていた。これならば、気になる人に渡すこともできるだろう。なにより、恋人が居る焔からのアドバイスである。なんとなくいけそうな気がした。
●準備準備!
準備を始めた面々は、学校側から許可を貰ってテーブル等を外に用意した。外はそろそろ春の日差し。ぽかぽかと暖かい。外でするのにちょうどいいだろう。
テーブルクロス等は安めの白布を大き目にカットしかけておき、野花でも積んできて、コップにさし花瓶替わり。そんな風にぱたぱた働く淳紅。
(味付け等については酷い腕前やから、決して調理には関わらないんや……)
その代わりケーキの仕上げや盛り付けは、視覚芸術フル活用して、より美しく完璧にしあげてみせると意気込みを見せる。その隣ではせっせと折り紙で輪っか作って繋げたの作ったりしている孤影。
(色々な飾りつけで派手に行くです。ホワイトデーのお返しを大成功させるです。 パイパー半端ない感じにするです)
ぐっと拳を握る。ちなみに買い出しの際、 ボンテージインナーとか、紐パンとか、Tバックとか! を買っていた孤影。なぜ彼女がそんなのを買ったのかちょっと分からないが……その答えは後半で!
(エロいのがいいのです)
ふっとなにか聞こえた気がするが、とりあえずその脇では菓子にあう美味しい紅茶の入れ方を伝授する紗雪。さっき買ったレシピ本は、きちんと預けてある。
「簡単で重要なことだけ、器はちゃんと温めて、茶葉はきちんと開くまで待たないと駄目ですよ? お茶もお菓子も手間を惜しんではいけないのです。急に愛情は無理でも、時間だけは正確に掛けてあげてくださいね」
悪気なくにっこりと微笑むのだが……数人、うってなった奴が居た。大丈夫か、こんなんだからもてないんだよ! とかきっと今思ってる。近くでは焔が皆のフォローに回りながらやり取りを見て、小さく微笑んだ。だがしかし、一生懸命な様子を見ればきっと上手くいくだろう。
さてさて、その頃の調理組はというと……。
「総員、奮起せよ!! 外面ばかりの男に負けてなるものぞ。心意気を見せお主らの存在を刻み込め!! これよりここは戦場となる……!」
マクセルの言葉によって戦場になっていた。いや、そこまで凄い戦場じゃない……いや、やっぱり戦場になっていた。なんといっても、普段あんまり料理をしない奴らの集まりである。これで戦場にならないっていうほうが可笑しい。だがしかし、マクセルが丁寧に教えていく。最初こそぎこちなかったが、なんとか様になっていく。
「パーティーでは外せない唐揚げ・フライドポテト。影の主役、ワインビネガーを利かせた口をさっぱりとさせるポテトサラダ! 味の修正がしやすく初心者向けのかつ彩り豊かな煮物の入った肉じゃがである!!」
難易度たっけぇと数人の表情が物語るが、アクセルの教え方は完璧である。やがて表情が変わっていく。
(ううむ、確かにあの男、運動が出来外見が良くとも、心が美しくなかったのである…… 。これは是非ともこの男子学生達の力になりたいところであるな!)
いつ見たか分からないが、マクセルはどうやらイケメンを見たことがあるらしい。確かに得意げになっちゃったりしたら、それは見た目だけのイケメンと思われても仕方なかろう。真のイケメンというのは、見せびらかしたりしないのだから。
(さやえんどうやいんげん、当然人参もいれるのである!)
栄養面、彩り、そして好き嫌いを言わせない心づもりだ。
「さて。定番のクッキー 、意外と簡単なプリン、少々上級向けのケーキ 折角であるので個人で渡す用のキャンディーも作るであるぞ!」
その言葉に、数名の表情が変わった、明らかに真っ赤になっている……いるんだな、本命が。
その近くでは持ち込んだガスコンロで用意をしている千鳥。淳紅にと問いかける。
「……すみません……ここは、どのようにすればいいと思いますか……?」
「違う! 生クリームの角はその角度やないこうやぁぁ!!」
会場設置から料理の方に移動していた淳紅、その言葉に檄を飛ばしていたのをはっとやめて振り返る。
「ん、そうやなぁ……こんな感じはどうやろ?」
ふふっと笑い、持っていたのを飾りつける。
「ありがとうございます」
ふわっと笑い、お礼を言って次の作業に取り掛かる千鳥。包丁を手にとる……雰囲気がさっと変わった。包丁を使う時だけ、つまり斬る時だけしか持たない。
(それ以外で手伝うと破滅するから……)
「……刃物は、慣れてますから……」
その手さばきは素晴らしいものだった。タタタタタッと切られるそれは、匠の技である。
「すげぇぇぇ」
同じく包丁を持っていた男子から感嘆の声が上がった。なんといっても千鳥は暗殺者である、勿論それを公言することはないが、その包丁さばきは正直素人とは言い難かった。なぜならば、刃の部分が霞む程の動きで正確に切ってるだけでなく、身体の両側で、両手同時に別々のものを切っているのだから。
「ちょ、なにあれまじか!」
これが素人技だとは到底思えない、周りの戦慄をものともせずにそうやって時間は過ぎていくのだった……。
「これで良さそうですね?」
辺りを見渡した紗雪が微笑む。
テーブルを彩るお菓子や料理、そしてさらさらと音を立てて風に揺れる折り紙達。
なによりも、男子達のやりきった笑顔。今までここまでやったことがあるだろうか? いや、ない……そんな雰囲気だ。きっとこれなら上手くいく。
隣に立つ焔が頷いた。そっとその手を握り、これからの本番に向けて意識を向けるのだった……。
●パーティーの時間
呼ばれた女子部員達は、その光景に息を飲んだ。
「な、なにこれ?!」
「さぁさぁ座ってくださいな?」
部員達がさっと椅子を引いて座らせる。持ち込んだオルガンで借りBGM代わりに弾く淳紅。そこから紡がれる曲はまずはしっとりと。
「うはは、なーんか高級感でるやろー?」
「日頃の感謝を込めて、可愛いみなさんの為に頑張りました。馬が合わないとしても頑張りは評価してあげて欲しいのですよ。 美味しい物を食べてにこにこなみなさんはとても素敵だと思います そんなみなさんが大好きなのですよ」
にっこりと微笑まれる。皆最初こそぎこちなかったが、それぞれ乾杯をすれば、そこは運動部。すぐに打ち上げのごとく和気あいあいと場が進む。
「すごーい、これ作ったのー?」
「あぁ……ここに居る人達に手伝ってもらって……」
その言葉に、一斉に集まった撃退士達がぺこんとお辞儀をした。それに、女子部員達からありがとうございまーすと元気な声が上がった。
「あ、勿論これとか俺が……」
「だろうね、だって凄い形ぎざぎざ」
今回は、成功させるのが目的である。撃退士達は皆裏方に接していた。孤影はそんな中涎だらだらである。
(ヨダレダラダラです! でも我慢です! ニンジャーだから耐え忍ぶです! ……まてよ、ここはニンジャーらしくこっそりつまみ食いをするのもいやいや駄目です! しっかり任務をこなしてこそのニンジャーです!)
お菓子作りも涎だらだらな感じで我慢していた孤影、耐える、耐えまくる!!
(色々と楽しく愉快な感じで面白カッコいいな雰囲気で行けばきっと喜んでくれるはずです!)
「さ、次の曲リクエストお願いねーっ♪」
「じゃぁ……」
なんて声が上がる。楽しい雰囲気が周りに広がっていく。そんな中、とうとう勇気を出して、飴をあげようとする者達が出てきた。
「大丈夫だ、ほら」
焔がぽんっと背中を叩いてやる、その隣でしっかりと頷く紗雪。千鳥も、近くで大きく頷いた。それに勇気を得て、とうとう意中の人にと声をかける。
「頑張ってください!」
「大丈夫……頑張って……」
女性二人にも言われたのだ、ここで男を見せなければ、いつ見せる! 今でしょ? というわけでしっかりと誤解されないように意中の相手へと視線を合わせる。
「あの……!!」
「え……?」
(女子部員を迎え撃つが良い 。我輩は陰ながらお主らを見守っているのである!)
そんな様子をしっかりと見守るマクセル。物理的に本気で見守ってた。壁からそっと覗かせるその瞳は慈しみに満ちている。勿論、結果は……双方の笑顔が物語る。
女子部員達は悪気があったわけじゃないのだ。そのため、そこかしこで実は……なんていう結果を生み出していた。
(うむ! 素晴らしい結果なのである!!)
物質透過し、男子生徒達の行動に一喜一憂しながら本当に見守っているマクセル。芳しく行かなかった所もあるが、それでもどこかふっきれた表情をしていれば、今日この場を設けてよかっただろう。
そして……パーティーも終わりに近づく。
「ごちそうさまでした!!」
皆の声と共に、そうして楽しい時間は終了したのだった。
●終わりの時間
片づけは全員で。誰が言い出した訳ではないが、そこは運動部、結託によって速やかに行われていく。
「言わなくても、もう十分に分かってると思うが……皆頑張ったんだ」
焔が片づけをしながら女子部員達に声をかける。それに、顔を見合わせた女子部員達。分かっていた。この場を見たときから。
「……うん」
「……ごめんね、皆……」
それぞれ女子部員達、全員から謝罪の言葉があがる。一斉に頭を下げられた困ったのは男子部員達だ。
わたわたとする男子部員達を見ながら、いつしか撃退士達に微笑みが浮かぶ。
こういう情景を目にすることができるのも、皆が頑張ったから……。素敵な時間である。やがて、垣根が取り払われたのを示すかのように笑い声があがる。
完全成功、そんな言葉が誰しもの心の中に浮かんだだろう。
ところで。皆様忘れていないだろうか、孤影が用意したちょっとどころかかなりセクシーな下着達を。
それは、部活内で自他ともに認めるギャグ担当の男子の心にこれ以上もなくヒットした。同じく女子で自他ともにギャグ担当と認める女子部員……勿論意中の相手である……に渡した所、なぜか大うけされた。
平手打ちでもされるかと思った孤影だが、しかし世の中広いもんだ。意外とこういうの受ける女子とかいるよね!
(これはこれでよしなのです)
そして、そっと心の中で思う。
(後はプロテインだね! です。深い意味はないです)
そうして、時間は過ぎていったのであった……。