●来たれ、ヒーロー
子供達の非難の声が上がる中、撃退士達が公園内へと入る。
誘導するために声を張り上げていた人がその姿に気がつき、どこかほっとしたようなトーンになったのが分かった。
きたな、撃退士どもめ、俺様の力をとくと味わうがいい。
と、言ってるのだろうか。
ふっふっふというような感じでこう……肩? 付近が揺れていた。
「でっかいマシュマロと聞いてたが……あれはさすがに食べれそうもないな」
黄昏ひりょ(
jb3452)の視線の先のマシュマロンはおや、お前やるかぁぁぁ? とでもいうように挑発的である。
あるが、それがそう言っているとは誰も分からない。
「くっ、さすがにマシュマロン語を通訳できる人はいないよな?」
「ひりょ先輩、落ち着いて、マシュマロンは喋ってないわ」
雪織 もなか(
jb8020)が冷静に突っ込みを入れる。
なんだか大きい荷物をごとんと置いたのは真守路 苺(
jb2625)だ。
「いそいで公えんのお外に走ってにげてくださーい! 走れない子は、そこのおトイレにかくれてくださーい! ましゅまろんに見つかると、あっちっち! になりますよー」
(マシュマロマンか。キャラクターとしてはよく見かけるけど実物は初めてね)
盾を片手に公園に足を踏み入れた田村 ケイ(
ja0582)は、ましゅろの指示によってトイレに行こうとしていた女の子、その子よりちょっと遠く……マシュマロンの近くで、どうしたらいいのか分からない男の子を見つける。
「さあいきましょう。大丈夫、怖くないわ」
すぐにその子の近くにかけより、片手で抱き上げる。
ほっとしたようにぎゅっと握ってきた手は、白くとても小さい。
すでに子供たちはほぼ公園の外に居るがそれでもまだまばらに残る。
(わ、私、ふわふわしている、柔らかいものは苦手ですわ
だって、鋏での切り後妙が微妙ですもの)
簗瀬深雪(
jb8085)がとまどったように見上げれば、マシュマロンと自然と視線があう。
マシュマロンがにやりとわらった……気がした。
だがしかし、切り刻むのが微妙というだけの苦手意識である。
明らかにマシュマロンの方が劣勢なのだが、今はまだ勘違いさせておくのもいいだろう。
「……!」
深雪のすぐ傍にいた女の子が泣きながら抱き着いてくる。
確かにギャグのような姿ではあるが、あれはディアボロなのだ。
「え、え……!」
幼子が苦手な深雪はわたわたと見渡し、目があったソフィスティケ(
jb8219)に助けを求める。
戦闘ならいい。
でも子供は苦手である。ソフィスティケが笑みを零して抱きついてる少女にと声をかける。
「こちらに来てくださいですよー」
一時避難場所のトイレにと誘導していく。
ちなみにその際、囮役を買って出たアヴニール(
jb8821)にとましゅろから貰ったマシュマロを投げるのは忘れない。
そんな中、甘い物が苦手な剣崎・仁(
jb9224)が隅っこで震えていた。
否、女性ばかりの空間もかなりの大ダメージである。
「即殲滅、それでいいよな?」
それは確認ではなく、決定事項である。
(いやこれも任務だ確りしろ俺ああこれが夢ならどんなにか……!)
ぶつぶつと言っているが、その視線の先にベビーカーが石にでも引っかかってしまったのだろうか?
動けなくなっている母子がいた。
女性は苦手だが子に罪はない、とベビーカーから幼子を母親に断ってから抱き上げる。
「まずはこのまま」
どうにかとれたベビーカーを手に、外にと誘なっていく……。
そして、対峙するアヴニールとマシュマロンはなんかこう……運命の出会いのように見つめあっていた。
(マシュマロのお化けなのじゃ! ……何だか某タイヤ会社のマスコットキャラの様だのう)
確かにそう見えなくもない。
マシュマロンが、お前が相手かぁぁ! とでも言うようにまんまるな指をびしぃっと突きつけてきた。
ディアボロはディアボロである、と気を引き締めたものの……。
「……にしても、柔らかそうじゃのう。良いのう」
ちょこっと本音が毀れた。
●戦う者と守る者
やはり突然湧いたディアボロの所為で、公園内に散らばる人々……。
子供達は取り残されていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、あいつやっつけてー」
「ぼくたち、あそびたいよー」
子供達がそうケイにお願いする。
「早く倒して遊べるようにしたいけど、みんながいると危なくて集中できないから、ちょっと離れましょうね?」
はーい! と元気に返事をして誘導に従っていく。
「ほら、危なくないようお姉さんついていくから」
「本当? だいじょうぶ?」
不安そうな少女に頭を撫でるのはひりょだ。
「安心して?」
ソフィスティケからの声はまだない。
今はまだ猶予がある……と手をとって走りだす。
また一人、一人と外へと、トイレへと、避難を終えていく……。
皆が誘導出来るのは、マシュマロンを抑え込んでいる者がいるから……。
先に仕掛けたのは深雪である。
(なんとも面白おかしい奇想天外な姿ですわね)
「コーヒーに浮かべたら楽しそうですわね」
大きくても斬れぬものはなし、というわけでざくっと巨大な鋏で切る、切る、切る!!!!!
「ん、まだ大丈夫そうですかねぇ」
ソフィスティケが呟けば、足元の深雪の攻撃はまだまだ許容範囲なのだろうか、マシュマロンは視線をアヴニールからはずさない。
なぜならば……!
「美味しいのう♪ 羨ましかろうて」
それはそれはとても美味しそうにマシュマロを頬張っているのだ!
そ、それは、マシュマロ?! とでもいうように眼見である。
もしも視線で穴が開けれるのならばマシュマロに穴が開いていたかもしれないほどの眼見だった。
さくっと戦闘態勢に入ったはずのましゅろだったが、なんか滑り台横に居た。
マシュマロンに足元が見えないように……と持っていたカセットコンロを隠しながらの作業だ。
なぜ、カセットコンロに火がついているのか。
そしてなぜ、キューピッドボウの矢尻が見るからにあっつあつなのか?
その答えは、今に分かるだろうか……?
そろそろ〜っと音にすればそんな感じで後ろにまわったのはもなか。
「避難が終わるまで、少し大人しくしていてくださいね」
マシュマロンは上空にいるアヴニールと切り刻んでくる深雪に対応するので精一杯のようで色々疎かになっていた。
もともと知能はそんなに高くないようでもある。
するりと巻きついたのは氷の結晶のような鎖。
ぱきぱきと固まっていく……そう、これは!
「アイスマシュマロ?」
アイスマシュマロになっていた。
「誘導終わったよ!」
戻ってきたケイ達がみたのはもなか達によって動けなくなっている氷漬けのマシュマロンだった。
「シュール」
ひりょがぼそりと毀れた言葉は、まさにその光景を綺麗に物語っている。
その、なんというか……。
「見たらいけない世界って感じだな」
仁がさっさと殺してやるのがいいだろう拳銃を構えた。
「ま、……とっとと倒す、か」
それが、総攻撃の合図になる……!
●激闘! マシュマロン
「喰らえ、なのじゃー!」
雷を纏った剣……とでもいえばいいのだろうか?
その剣が、上空からそれは見事にマシュマロンの脳天に向かって叩き落とされた。
ちょ、ま、ここで?! と大きく腕を振り回し……麻痺を受けたため態勢も整えられないマシュマロンはそのままドシーンと落下をしたのだった。
「まっ白だしマシュマロだしお目目かわいいけど、たいどと攻げきがかわいくない。だから、ましゅまろんは……おしおきの刑っ!」
ましゅろがそういってそんなマシュマロンにとびしぃっと指差した。
だからどおしたぁぁぁ! と態勢を整えたマシュマロンがぶわっと手を広げた。
広げただけではない! 目の前にいっぱいに広がる、白く、白く、甘い、甘い……。
「この、食べ物かよくわからないぶったいがあああああ! 切り刻んでくれるわ!」
深雪の悲鳴があがった。
そして、再び……切る、切る、切る!!
「あつ……!」
ひりょからくぐもった声があがれば、すぐにもなかからアウルが送り込まれる。
「大丈夫? ひりょ先輩」
それは傷の再生を促すとともに、力を与えてくれるものの、白い物体……マシュマロがなくなるわけではない。
「もなかさん、ありがとう」
消えないんだ、という瞳をしつつ青い輝きと銀の輝きを宿した直刀で切りかかっていく。
切り取られたマシュマロが宙に舞うが、なくならない。
そんな中、後ろはまだ削られていないため、とてつもなくふんわりしていた。
(あのふわふわ感に包まれながら、大好きな星でも眺められりゃ最高……って!)
「何を妄想してんだ、俺!」
とっさに突っ込んだ仁に、アヴニールが声をかける。
「大丈夫かのぅ?」
「大丈夫だ……!」
光を纏った銃弾が、見事マシュマロンの頭にあたった……が、吸い込まれていく。
一応、ダメージは受けているようです。
同じく光を纏った銃弾がマシュマロンの口の中にはいった。
ケイの銃撃なのだが、もぐもぐ美味しそうに食べているように見えなくもない。
「攻撃、ちゃんとはいってるのよね……?」
不思議ではあったが、それは確実にダメージを蓄積していた。
マシュマロンはこれでもかと攻撃を食らった後、どこから出したのだろうか……?
マシュマロ徳用品の袋に入ってそうなマシュマロをばばばばと取り出す。
それはぎゅぎゅぎゅとどんな仕組みがあるかわからないが固まって一つの大きなマシュマロになった。
「……自ぶんを、たべるんじゃなかった……」
とても残念そうな瞳で見るましゅろ。
とはいえ容赦しない。
「ましゅろのあつあつハートをめしあがれ、だよっ」
ここであっつあつに熱した矢尻がその手に当たれば、あっつぅ! と微妙にその手が溶けていた。
そこはゆるぎないマシュマロであった。
それでも落さない! なんとか食べようと口を開けた所でもう一回……とあっつい矢が当たれば、とうとうマシュマロを落した。
それと同時に、見ていた深雪のお腹もなる。
確かにあんなにふんわり美味しそうなマシュマロ、見ていたらお腹もすくかもしれない。
皆の視線に気がついた深雪が手をぶんぶんとふった。
「ち、違いますわ。お、お腹なんてすいてませんわ!」
「……、でもあのマシュマロはもったいない気がするね」
ソフィスティケがそう言って紫の剣を持った、だるそうな黒猫のぬいぐるみにと指示を与え攻撃させる……と見せかけて自分からマシュマロンに突っ込んでいった。
「ひりょさん後ろ、お願い」
咄嗟にマシュマロンが抱き込み……とても、ふんわりしていたそうです。
「焼きマシュマロになってみるか?」
にやっと笑ったひりょがソフィスティケによって背後が疎かになったマシュマロンの背中をこんがりと焼き上げる。
「もなかさん、ソフィスティケさんをお願い!」
「任せて頂戴、大丈夫よ」
そして、引き裂きながらでてきたソフィスティケにと、もなかの暖かな光が癒しを与えたのだった。
仁の銃弾を背中に被弾し、どさり、と倒れたマシュマロンはそのまま動かない。
「おわった……」
仁がぐったりとしながら呟く。
多分彼は戦い以上に精神的に大ダメージだったかもしれない。
「お疲れ様じゃのぅ」
アヴニールの言葉に、小さく頷いた。
●マシュマロンのお味は?
倒されたマシュマロン。
ふんわり巨大なそれをみながら……ケイは、自分な大人なのだから駄目だ、駄目なんだ……! と葛藤をつづけていた。
(食べてみたい……しかし成人したいい大人がやることじゃない……もう少し、もう少し私が若ければ……!)
それは、ちょっと切ない願いのような気がしないでもなかった。
その隣で、同じように見詰めている姿。
最後は美味しく食べるのが、せめてもの弔い……と。
「マシュマロの亡霊さん、もう化けて出て来ないでね」
ソフィスティケがそう言って手に取ろうとした所で、ひりょが止めた。
「お墓作ってあげたほうがいいかもしれないね」
「そうね、そうしましょうか……」
食べるよりも、やはり供養だろうか。
「ましゅろもてつだうよ!」
ごそごそと後片付けをしていたましゅろが、参戦して賑やかにお墓を作る算段を固める。
流石に公園内に作るのはあれなので、ちょっと遠い場所に作ることになりそうだ。
そんな中、もなかはさりげなく小等部の子達の服装を整えてやっていた。
なんというか、和やかな時間である。
「はい、出来あがり」
ふわっと微笑んで、深雪の服を整えてやれば、深雪が小さくありがとうとお礼を言う。
「……あの、こちら一緒に、食べません?」
そして、さっととりだしたのはとても美味しそうなもの!
戦闘中にお腹がなった深雪はきちんと手作りクッキーサンドを持ってきていた。
勿論中身はマシュマロである。
すでに整えてもらっていたアヴニールは素直に受け取り口をつけるが、その視線は仁にと注がれる。
「仁は食べないのかのぅ」
その仁といえば……。
「……いや、無理だ……」
げっそりとしていた。
漸く甘い香りとおさらばしたと思っていたのに、また甘い香りが……。
「…………」
視線をやったその向こう。
彼の嫌いなマシュマロンがお前も大変だな☆ というように、サムズアップしたのが見えた気がした……。
「……」
「……」
ぱくり、と口の中に消えたマシュマロ。
それはとてもとても甘い甘い、味だった。
食べおわり、後片付けも終わった後。
「子供達を呼びましょうか」
「そうだね」
もなかとひりょがそう言って公園への外へ駆けていく。
やがて戻ってきた子供達やそれを見守る保護者達のさざめきが、広がって行った……。
そうして、とある空き地にマシュマロンのお墓、なるものが出来た。
マシュマロンはこうして倒され、公園にと平和が戻ったのだった……。