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マスター:如月修羅
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/19


みんなの思い出



オープニング

●狐村を目指して
「あれー? お前苛められたのかー……まぁ、一匹だけじゃ、そりゃ対抗もできねぇよなぁ」
 とある日、久方ぶりに自分が放牧したサーバントを見に来た天使は、そういって撃退士に苛められたサーバントを見つけてなでなでもっふもっふしていた。
 そのサーバントはつい最近、神社にと向かう道で退治されかけた経由を持つ。
 なんとか逃げ出せたサーバントではあったが、所々むしられた毛が痛々しい。
「つうか、お前のもふもふ具合が俺好きなんだよなー」
 もっふもっふもっふ……以下略。
 そんな風に約半日もふもふしていた天使は、ぽんっと手を叩いて自分の導きだした名案ににやりと笑った。
「仲間を作ってやるよ。そして俺はそのもふもふを堪能する!」
 
 かくして、とある山に居たサーバントの数がどぉぉーんと増えてしまったのであった。
 そして、天使がそれはもうめっちゃ至福な表情でもっふもっふを毎夜毎晩繰り返していたというのは、また別の話である……。


●そんなお話から約一か月後
「狐が増えました」
「……はい?」
「それは、まるで狐の楽園です! もっふもっふとした毛皮につぶらな瞳! 仲間同士でじゃれ合う姿は悶絶物です!!」
「お、おう」
 悔し涙を浮かべて力説する女性に、撃退士の面々が若干引き気味になりながら頷いた。
 一体全体どうしたのかというと、前回()で逃げてしまったサーバントが増えたのだという。
 前回の依頼自体は退治依頼ではなかったため、その後派遣して調べたところ……。
「それはもうもっふりと!」
「もっふり?」
「……いえ、沢山居まして。数をかぞえたところその数30匹!」
「多いな?!」
 よくもまぁうろちょろするサーバントの数を調べられたもんだ、といえば、それがですね……と女性が訳を説明する。
「何時の間にやら小屋ができておりまして。その近くに牧場? っていうんでしょうか、柵がかなり広範囲で張り巡らされていて……その中に狐たちが放牧されています」
「……はい?」
「小屋の入り口の所には看板があって……汚い文字で、狐村へようこそってなってました」
「…………」
 その場に居た数人の撃退士が額を抑えた。
 ずつうがいたい、というのだろうか。それは誤用ではあるのだが、一番それがしっくりくるような気がする。
「というわけで、皆様には狐村(仮)へ向かっていただき、全部倒していただきたいのです」
 その小屋は使った形式はあるものの、今回その使っていた主と会えるかどうかは分からない。
 どちらかといえば、会えない率が高いだろうという。
「まぁ小屋の主を気に掛けるよりも、まずはサーバントです。今回数が増えたからか、どうも一体一体は弱いようですね。
 そのため、もふもふし放題です。遊び放題です。いちゃらぶしほ……」
 女性が狐愛を叫びだしそうなので、強引に話を終わらせる。
 ようは、もふもふしながら倒せるぜ! というお話である。
「小屋の主はともかくとして、サーバントは全部倒してきてくださいね。
あ、一体だけなんか毛がむしられたサーバントは多分前回のサーバントです。そちらだけはちょっと体力強めですのでお気をつけて」
 そして、結構重要なことをさらっと言った。
「あそこの山は春先になっても雪が解けずに残るようなところです、雪対策は万全に」
 膝ぐらいまで埋まっちゃいますからね! と送り出した。


リプレイ本文

●狐村へようこそ!
 暖かな日差しが降り注ぐ中……。
 どぉぉぉんと白いそれは居た。
 雪だ。雪である。
 雫(ja1894)や饗(jb2588)や雪室 チルル(ja0220)のようにかんじきを用意してきた者は比較的楽に、それ以外の面々はそれなりに悪戦苦闘しながら雪山を踏みしめていく。
「膝まで埋もれるとなると、長靴の中にも雪入って却って動きにくくなる気が……」
 と礼野 智美(ja3600)が霧島零時(jb9234)の履く長靴を見ながら呟けば、零時が微笑を零した。
「コツさえつかめばなんてことないですよ」
 そのコツをつかむまでどれだけかかるだろうか……。
「これは……難儀な依頼です。雪もそうですが……」
 憂いを帯びるのは夏野 雪(ja6883)だ。
「もふもふの狐 ……可愛いけど、退治しなきゃいけないのよね」
 同じく憂いを帯びるのは蒼波セツナ(ja1159)である。
 なんだかお互い憂いを帯びては居るが、多分違うことを考えてる。
(適当に遊んで、油断させた後にでも退治しましょうか。
……ちょっとえげつない気がするけど、仕方ないわね)
 結構えげつないかもしれない。
「……帰り道の事を考えると、少し位雪かきしておいた方が楽かな……」
 智美の言葉に、皆が一瞬今まで歩いてきた道を見るが人が通ったためある意味雪かきもどき、みたいにはなっていた。
「帰りは今開いている穴を通っていく、ということで……」
 響がついっと開いた穴を終えば、皆の視線がその穴を辿っていく。
 そんな中、これから出会う狐と同じ耳と尻尾を揺らすミズカ・カゲツ(jb5543)が何かを見つけた。
「……小屋ってあれじゃないでしょうか?」
 漸く、視界に茶色い小さな小屋が見え始めたのだった。
 
 しばし後。
 そんなこんなで辿り着いたそこは、狐村というよりは狐牧場だった。
『狐村へようこそ!』
 なんだかその文字から漂うのは哀愁な気がしないでもない。
「……もふもふしたのがいっぱいいますね」
 零時がぽつりと感想を零す。
 雪の中を奴らはこれでもかと言うほどもふもふと遊んでいた。
「はっ……天界の狐がうじゃうじゃと。なんとも微妙な心地ですねぇ」
 目の前にいっぱいに広がるそんな牧羊的な雰囲気に呆れたような笑みを浮かべ、響が何かをとりだした。
 とりだしたもの……それは、シャベルだ。
 そう、これから始まるのは……雪かきである。
 もふもふでもなく戦闘でもなく、まずは雪かきである!
 何を言っているかと思うだろう、けれど今回の作戦で雪かきは大事な部分を占める。
 足元が悪いのなら、 その原因を取り除いてしまおう! そんなわけで、とりかかったのだが……。 
 勿論、やみくもにやるわけではない。
 小屋までの道のりと、牧場の中を……智美が高さと戦闘に支障にない程度、から割り出した直径10メートルの円を描くことにする。
「雪道を作り、狐たちが事態に気づき逃げ出した場合ある程度、まとまって逃げるように誘導できればと思うのですが、いかがでしょう?」
 零時の提案に、それはいい、とできるだで壁になるように雪を積み上げていく。
 雪専用のシャベルというのは柄が長くテコの原理が上手く利用されたものである。
 そのため、負担は普通のシャベルでやるよりは少ないのだが、それでもかなりの重労働だ。
 狐達はあれ、ご主人様? と寄ってきた ら違うことに気がつき、顔を見合わせる。
「……」
 そっと雪が差し出したのはクッキーだ。
 食べ物?! となった狐は……警戒心まったくなく寄ってきた。
 撫でてみる。もふもふだ。
「秩序もまだ乱してないし……いや、土地を占有してるから乱してるんだろうか……? でも、別に人が入ってる山じゃないし……でも、私有地ではあるんだろうか……?」
 そもそも天魔だ。その素材を考えれば……とわしゃっと頭を撫でてみる。
「私有地ですかね、そういえば……」
 そして、智美がそんな脇でお握り等を中心に置いて行く。そこに集まれば、という気持ちだ。
 ……狐達は、警戒することなくご飯だー!! と普通に寄って行った。
「……なんというか、その……」
 零時がぽつりと呟く。
 こいつら、現状が分かっているのだろうか? 
 否。
 絶対分かってない。
「油断はできませんが、なんとかなりそうですね」
 耳と尻尾がゆらりと揺れ、ミズカがそう言う。
「だね……」
 雫が、これ以上手懐ける必要があるか分からない狐たちを手懐けるため、しゃがみこんだ。



●ふわもこの楽園
 監視班と誘導班の境目はあいまいだったものの、明確に監視班に立候補していたセツナにチルルから通信機が渡される。
 ほとんどがスキルを使っての探索を視野に入れているため、余程のことがない限り知らぬ間に逃げられてました、ということはなさそうである。
 チルルはすでに小屋の方に移動し、特にふわもこに興味のない智美も小屋へと向かうその後を追いかけ、雪も去って行く。
「流石、天魔御用達のもふもふ。このまま、戯れて居たい……」
 狐たちは天使が言ってた通りとてつもなくふっわふわだった。
 ご自慢の尻尾がふわりふわりと揺れる。
「一匹ぐらい……お持ち帰りは、やっぱり、駄目ですよね?」
 雫がぽつりと零す。
 ぽーんと知らず 別の場所に行きそうになったのを油揚げを投げて呼び戻しながら響が首を振る。
「やめておいた方がいいのではないかと」
 集まった狐の毛皮にうもれたい。そんな表情を出さずに思いながらセツナも頷く。
「……ですよね」
 とはいえ雫だって別に無理に欲しいわけではない。
 戯れるだけにする。
 やけに人懐っこくすりすりしてくる狐の顎の部分触ったりしつつ、隣を見ればミズカが狐たちを集めていた。
「こちらですよ」
 油揚げがゆらゆら〜と揺れる。
 そして、同じく尻尾も揺れる。
 仲間だ、と思っているかは分からないが、その尻尾に……いや、多分油揚げに誘われて、ふらふらふら〜と4匹がやってきた。
 おくれ、おくれ、と膝に手をパシッと乗せた。
「…………」
 ちょっと渡してみれば、おいしーっなんだこれ、すごいジューシーとでもいうように至福な表情をしている。
「……なんだか、少々……」
 連れて行きにくいような、零時がぽそりと零す。
 とはいえこのままだとなおさら連れ出しにくくなる……と、ミズカと雫が中心になって狐たちを誘導し始めた。

 
「さ、もふもふしましょうね」
「気持ちいいですよ、もふもふ」
 二人が5匹の狐を抱えて小屋の中へ入っていく……。
 そうして、小屋の中に入っていく誘導班と、隠れていたチルルが入っていくのを見届け、監視班に役目を変えたセツナ、そして響と零時がさりげなく小屋の外に待機する。
 先に連れて行けなかったため、此方の物音を聞かせるわけにはいかないだろう。
 彼らは、まだ知らない……
 連れて行かれた先の出来事を。


●ふわもこバトル
 そして、小屋の中。
 逃げないように、とチルルと誘導班が交差し、最後にドアを背に中に入り込む。
 ぱたん、と閉じられたドア。
「小屋にようこそ! ゆっくりしていってね!」  
 チルルがそう言って、にっこぉと微笑んだ。
 あれ、なんか、違う……? 狐だってサーバント。
 グルルっと威嚇音をあげ、臨戦状態になった5匹にそれぞれの獲物を構える。
 そして、雪が改めてみた天魔に。
(……こんなにもふもふだけど、いや天魔
……こんなにかわいいけど、いや敵だ
……かわいいのに。こんなにかわいいのにかわいい)
「……私は盾。私は盾。私は盾。私は盾。私は……」
「雪、そっちいっちゃだめだ、戻ってきてー!!」
 チルルが槍を振るいながら必死に呼びかける。
 虚ろな瞳をした雪は、戦斧を目の前にいる狐にとふるっている。
 それは的確であったが、あったからこそなんだかとてつもなく危ない雰囲気を醸し出す。
「明らかにSANチェック失敗してるよ……」
 智美が目にもとまらぬ一撃を放ちながらぽそっと呟けば、呼びかけるのを諦めたチルルが首を振る。
「彼女は犠牲になったのだ、そう……作戦成功という名のな……」
 そんな間にもそれぞれの攻撃が狐をぱたぱた倒していっている。
 体力があまりない、というのはうそではないのだろう。
 戦斧が舞い、槍が突き刺す。
「ま、さっさと倒しちゃおう!」
 三人の刃が合わさり、狐の一体が壁に激突して、床にと鈍い音をたて落ちた。
 ぱたん、と今回つれてきた狐の最後の一体。
 終わったことをチルルが連絡していれば、やってきたのは誘導班の面々。
 その手にはもふもふの狐がいる。
 じゃぁ 交代する? 智美が問えば。
「え、交代ってするの?」
 連れてきた雫が首を傾げる。
 そういえば交代するとは言ってない。
「あ、でも……」
 すでに何度目かのSAN値チェックにも耐えられずかなりやばい所まで行ってしまった雪をちらりと見詰める。
 交代させたほうがいいのだろうか?
 そんな雪は掃除を終えていた。
 完全に綺麗には出来ないだろうが、少しでも気がつかれぬようと素早く掃除をしていたため、見られることもなかった。
「……」
 本人はいたって大丈夫そうなので、そのまま交代なしで進めることになった。
(まぁ俺はもふもふ興味ないし、これ以上やばいっていうんなら全面的にでてもいいしなぁ……)
 智美が言葉にせずそう思う。
 聞かれて感づかれてもまずい。
 ぽんっと肩を叩き、始めようか、と動きだす。
「知らなかったの? あたいからは逃げられない!」
 巨大な槍が、サーバントを串刺しにする。
「さぁ、終わりの始まりだよ!」
 ぶんっと振り回した槍に、狐達が恐怖におののいた。


●ふわもこの逃走劇
 そうして、攻撃と誘導と、監視の三つが折混ざってしばし後。
 30匹居た狐の姿はもうまばら。
 ふるもっふされている子の脇で、ご飯に貪りついている子がいる……そんな長閑な光景が続く。
 だがしかし、最後までそのままではなかった。
 勿論ただの狐ではない彼らは、漸く気がついたのだ! 
 今、こうやってふるもっふしてくれてさらにご飯を与えてくれる人が、ただの人間ではないということを!!
 そう……自分の敵なのだと!!
 と、いってもその数はすで5匹。
(あぁ、やっぱり所詮は低俗な獣ですよねぇ。この数まで気がつかないとは……)
 漸く逃走の兆しを見せた狐達を、誰もが見逃すはずもない。
 セツカは念のためにと小屋班にも連絡する。
 結局最後まで残ったのは毛がむしられた狐と、その取り巻き達だった。
 ちょろちょろちょろ〜と取り巻きが蜘蛛の子を散らすように走り出した。響の氷の夜想曲によって取り巻き達がぱたぱたと倒れ始める。
 けれど、それすらもすり抜けて逃げるのはあのリーダー格の狐だ。
 比較的セツカと近かったためネットを放って捕獲を試みる。
「比較的弱いですし……足止めぐらいには」
 確かに、足止めというか少々鈍らす程度にはなったが、火事場の馬鹿力と言われるようにその時狐にも何かが宿ったのかもしれない。
 がむしゃらに暴れてつっきぬけていった。
 すぐに追いかけつつ零時が、誘導班にと声をかける。
「ここに居るのをお願いします」
「任せて」
 ミズカが日本刀をすらりと抜き、雫も頷く。
 有効に動いたのは、普通に雪かきをしただけではなく、逃走阻止を念頭に置いたお陰であっただろう。
 雪の壁に阻まれ、いつものような俊敏性を封じられた狐にとって逃げ道はあまりなかったのかもしれない。
 障害物も特になかったため、瞬間移動によって追いついたセツカの炎のような糸が狐のちょうど剥げた部分を中心に巻きついて行く。
「おやおやどうしました? ……逃がしませんよ?」
 後ろから追いかけた響がニタァと笑い武器を振るうその姿は悪魔そのものである。
「逃がすわけにはいかないんですよ」
 同じく追いついた零時が大太刀を構え、見据える。
 噛みつこうと飛び上がった所に金色の刃が叩きこまれ、雪の壁に激突する。
 キャンっと鳴きながら逃げようとするのを、三人に追 いつめられていく。
 元々攻撃力はあまりなく、どちらかというと防御力と機敏性、集団戦を得意とするサーバントは次第に追い詰められていく。
「終わりにしましょうか」
 冷静なその一言共に大太刀に込められた強烈な一撃がその身に当たった瞬間、とうとう狐は地面にと身を横たえることになったのだった。


●さようなら、狐村!
 セツカから連絡を受けた小屋班と、残っていた誘導班によって、残りの狐達も無事倒されたことを、戻ってきた三人にと伝える。
「お前たちは、なにも悪くないのにな。ごめんな」
 戻ってきた零時が、倒れた狐達に手を合わせる。そんな脇で、苦笑を零したのが一人。
「それにしても、これからまた帰るわけですが」
 響が、死体に一瞥をやったあと視線をそのまま登ってきた方へやる。
「…………」
 セツナが空を仰いだ。
 あぁ空が青い……。
 だがしかし冷静沈着な彼女は分かっていた、ここでこんなことをしていてもしょうがないと。
 撃退士とはいえども、体力はかなり消耗しているだろう。
 誰も何も言わない……いや、言ったら最後な気がするのだろうか。
 そしてなにより、これだけは言いたい。
 雪かきの疲れは数時間後に来るということを!!
 行きよりはやはり口数少なく降りていく。
「雪かきは当分したくないよー!」
 チルルの声が大きくこだまするのに、皆が頷く。
 次の日、筋肉痛で動けなくなるかもしれないのは、きっと撃退士達だけが知るだろう……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
憐憫穿ちし真理の魔女・
蒼波セツナ(ja1159)

大学部4年327組 女 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード
悪魔囃しを夜店に響かせ・
饗(jb2588)

大学部3年220組 男 ナイトウォーカー
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅
いにしへの都の春を彩りて・
霧島零時(jb9234)

大学部2年98組 男 ルインズブレイド