●ハロウィンの国へようこそ!
一歩足を踏み出すと、真っ暗闇だった世界に、ぽっと一つ灯りが付きました。
ジャックランタンから漏れるその光は、道先案内人の持つ光。
案内されるままに歩き出せば、一つ、また一つと灯りが灯っていきます。
目の前には楽しげに笑いあう住人達と、そこかしこに広がるオレンジと黒と赤が彩るハロウィンの国が広がっています。
「さぁ、楽しいハロウィンを!」
そんな楽しげな声と共に道先案内人の姿がぱっと消えました。
あれ、ここからどうすれば……?
そう思っているうちに、目の前が暗くなりました。
ぐらりと大きく体が揺れて、ぎゅっと目をつぶりました。
●向かう道すがら……
ぱっと最初に瞳を開けたのは地領院 夢(
jb0762)です。
ふわんと黒いコートと黒いワンピースが風をはらみ揺れました。魔女帽子がちょこんとのってとても愛らしいです。
その手にもった魔女の杖がゆらりと揺らしつつぱちぱちと瞳を瞬けば、目の前に広がるのは豪勢なお城! 蝋燭の代わりでしょうか? あちらこちらに小さな南瓜のランタンが周りを照らします。
足元を見れば、真っ赤な絨毯が果てまで続きます。
その視線を辿るように赤い瞳を投げたのは亀山 淳紅(
ja2261)です。
セイレーン(男Vrである、勿論)の格好に身を包んでいます。ギリシャ風の服装は、とてもかっこいいです。ふわっふわの羽根がなんだかとてもさわり心地が良さそうですね。
そして、背中にある小さな赤い翼がパタパタと動きます。
その翼に誘われたのか、どこからか現れた蝙蝠が寄ってきました。
「ついてこいって、言ってる気がするんだよ」
ユウ・ターナー(
jb5471)が、くるり、くるりと皆を周りを回る蝙蝠をみて言いました。
ソルシェ・ロゼ(
jb6576)も頷きます。
(ハロウィン! ハロウィン! ソルシェいーっぱいお菓子もらうの!)
心の中はわくわくです。勿論、同じ魔女であるお姫様に会うのも楽しみでわくわくどきどき……。隣に居るとんがり帽子の魔女、満月 美華(
jb6831)を見上げました。
「楽しみだよねっ!」
ふわんと笑えば、美華も微笑みます。
「えぇソルシェちゃん。たのしみね」
蝙蝠について歩くエマ・シェフィールド(
jb6754)の手に持つランタンが音を立てながら揺れます。
黒とオレンジの魔女のドレスがふわんと踊ります。
同じく魔女のドレスに身を包んだ九鬼 紫乃(
jb6923)もついていきます。
長く長く続いた廊下の果てには、大きな古びたドアがありました。魔女は二番煎じになる……それに本物志向を目指すのならば、と悪魔の姿をすることにした仄(
jb4785)が指先を伸ばしたその瞬間。
ギィィィ……とドアが一人でに開きました。
「いらっしゃい! さぁ、沢山お話してちょうだい!」
きらきらとした瞳で見るお姫様がそこには居ました。
●お姫様とお茶会と
ひょっとしたら、仄と似た悪魔が居るかもしれない……。そんな風に思っていた仄は、執事が淹れてくれた紅茶を手に取りながら、ちらりと辺りを見渡します。
黒い角と鍵爪のついた黒い尻尾、黒い翼をつけた仄に淹れてくれた執事は、同じような格好をしていました。
違うのは二本生えた尻尾と、洋服かもしれません。ボロボロのマントが仄が紅茶を唇につけた時にふわりと揺れます。
黒い爪を揺らし、大きな帽子をちょこんと動かしながらお姫様が皆に問いかけます。
「ねぇ、撃退士ってどういうことをしてるの? 毎日楽しい?」
矢継ぎ早に言われる言葉に、ソルシェがちょっとだけ微笑みました。きらきら輝いている瞳が、好奇心を伝えてきます。
まずは初めまして! とご挨拶をしてから話し始めます。
「あのね、ソルシェも魔女なんだよー! ちょっと色々あって今は撃退士をしてるけど、これはこれで毎日たのしーのー」
同じ魔女というのに、ぱちぱちと瞳を瞬き嬉しそうに微笑みます。
それに頷き、美華がさらに詳しくお話しを始めました。
「友達と一緒におしゃべりしたり、遊んだり、勉強したりしていますわ。それに、依頼で一緒に戦ったことも……」
「ねー。一緒に戦ったり、おしゃべりたのしいよ〜」
ソルシェと美華がにこっと笑って頷き合えば、そっかー! と楽しげな笑い声が響きました。他には、他には? との問いに、蝙蝠の形をしたクッキーを食べながらエマが口を開きます。
「そうだね〜、確かに悪い人?達と戦う事もお仕事だね〜」
それに皆がうんうんと頷きます。
「あとは不可思議事象の調査にいってアイスを食べたり〜湖に星を見に行くついでに敵と戦ったり〜」
指折り数えて言えば、お姫様があれ? あれ? という表情を浮かべました。
「それと〜お祭りの騒ぎを止めにいって悪魔と友達になったり〜、おやつを護る為に戦ったりだね〜」
みんな仲良くすればいいんだよ〜! とちょっと話が脱線し始めたエマに首を傾げたお姫様が、疑問を口にします。
「……普通に戦うだけじゃないの?」
それに頷いたのは淳紅です。ぺこりと少し大げさにお辞儀をして見せた後、にっと微笑みます。
「そう、撃退士ってのは戦うだけやないんですよ! 美味しい料理作れる撃退士もおったり、自分みたいに歌が大好きな撃退士もおったり!」
その豊富さはこの国のお化けの数にやって負けてません! と言うのにお姫様が吃驚!
この国には沢山のお化けがいるみたいで、その例えの分かりやすさにうんうん頷きます。
「私はどこにでもいる式打ちよ」
面白い話、と言われてもちょっと分からず、ふと思いついた饅頭怖いの話をこの世界でも分かりやすく改変してお話しようと思っていた紫乃。 ちなみにお饅頭はシュークリームとかマカロンとか、そういうのにしようかなーなんて考えていたりもしたのだけれど。
ちなみに饅頭怖いのお話は、落語のお話である。怖いものは何かという問いかけに、好物の饅頭が怖いとわざと言って、怖がらせようとした人達からお饅頭を沢山せしめるという楽しいお話だ。
そのお話はちょっと脇に置いて、ね? 違うでしょう? と笑いかければお姫様もにこにこ微笑みました。
そんなお姫様にワンピースの端を持ってぺこんとご挨拶をしたのは夢です。
「初めましてお姫様。お招き頂き有難う御座います。私、夢っていいますっ」
「初めまして!」
お姫様の名前も言われましたが、それは皆には発音しづらい音でした。
お姫様にはどんなお話がいいだろう……? 冒険譚? サーガ? 身振り手振りを交えて自分が行った冒険のお話をすれば、口を開きました。
「ねぇ、武器ってどういうのかしら?」
「私はこの本で魔法を使ったのっ」
これ! と見せたのはアルス・ノトリア……魔法書です。触りたそうにしているお姫様に手わたせば、そっと触ってぱらぱらとめくってみます。
ありがとう、と返した後お姫様は納得したように頷きます。
「撃退士って、楽しいことばかりなのね?」
それに、ちょっと違うと首を振ったのは仄です。きりっと黒で統一したその姿をお姫様が見つめ、違うの? と問いかけました。
「撃退士が、やる事も、そう、楽しいモノ、では、ないな。降りかかる、火の粉、は、払う。弱肉強食。焼肉定食。まあ、そんな所、だ」
「あら、意外と殺伐もしているのね?」
まぁそうだな、と頷き、それよりもお姫様のことが気になる、と問いかけます。
「この、世界、の、雰囲気は、中々、仄、好み、でも、あるぞ。姫の、趣味か?」
それに頷いたお姫様に、仄が微笑みました。……ちょっと表情から分かりづらいですが、きっと微笑んだんだろうなぁ……という雰囲気になりました。
「中々、良い趣味、だな。また、此処、には、来たいぞ」
褒められたお姫様は大喜びです。
沢山沢山お話をして、そして時間はあっという間にパレードの時間になりました。
「お姫様も一緒に行こう! 皆で楽しめばきっと楽しいんだよ!」
毎年同じパレードにちょっと飽きていたお姫様ですが、ソルシェの言葉に頷きました。
「皆で、楽しもう!」
●さぁ、街へ繰り出そう!
城の外ではすでにパレードが始まっていました。
沢山の子供たちの笑い声が聞こえます。
空を彩るのは大きな赤い月と、きらきらまたたく白い星。そして、辺りを照らすのはランタンの仄かな明りです。
ほの暗いその道は、魔女や狼男やミイラ男、はてはお化け達が列を作っています。
どこからか楽しげな音楽が聞こえてきました。
吸血鬼達が演奏しているようですよ? 黒いマントが音楽に合わせて揺れています。
それに合わせて歌いだしたのは淳紅でした。せっかくのお祭り。ただ歩くだけではつまらないと思っていた淳紅はとても楽しそうです。
「This is the night of Hallowe'en!」
とても綺麗なテノールが周りを満たしました。傍に居た子供たちが立ち止り聞き惚れています。
勿論、ただその場に立って歌っているわけではありません。パレードに合わせて歩き出します。
大きくなったり、小さくなったり……時にはおどろおどろしくなるその歌声に合わせて踊るのは夢です。
杖が当たらないように注意しつつ、踊りたそうに此方をみていたお化けの兄弟に手を差し伸べます。
「ただ歩くだけじゃ勿体無いよ、さぁ、一緒に踊ろう、楽しいよっ」
「夢ちゃんの言うとおりや!」
その言葉におずおずと手を取り、パレードの中に入りました。最初はぎこちなかったその動きも、夢が魔法の杖を振れば楽しげに踊りだします。
そんな脇をお面をつけた子が駆け抜けました。お面の子の後ろには沢山の子供たちがついていきます。
楽しげに踊る二人に手を振れば、二人も大きく手を振りました。
「トリックオワトリート!」
その声はエマのようです。狼男の指先から沢山の飴が溢れてきました。赤、青、緑、黄色……沢山の美味しそうな飴! 子供たちが大喜びでバスケットに飴を詰めていきます。
「ふふふ。みんな次はあっちだ〜!」
その言葉に、おー! と可愛らしい声が上がりました。
あっち、と言われた方には仄と紫乃の姿がありました。二人ともお菓子を配る方です。
紫乃の周りには南瓜の馬車に空飛ぶ箒が楽しげにパレードに加わっていました。そして、ちょっと変わっているのは可愛らしい式鬼がいることでしょうか?
四体の可愛らしい式鬼達がちょこちょことパレードに加わっています。とはいっても、本当に浮いてついてきてるぐらいなのですが。
とはいえこんな子は始めてみるようで、フランケンシュタインの子供が泣きそうになっています。
「ごめんなさいね」
クッキーをそっと差し出せば、おずおずと手に取りそして微笑みました。
「よかった、な」
仄の言葉に大きく頷きパレードの中に戻っていきます。そこに、また一つ別の子達が飛び出してきました。
「菓子か、いたずらか……好きな方、を、選べ」
勿論お菓子を選びます。お菓子は勿論貰うのではなく渡す物。仄にとって、意味合いというものは無意味です。
「まあ、有り難く、貰うと、良い。 ケーキ、や、マフィン、クッキー……どの菓子、も、紫色、だぞ。素晴らしい、だろう」
紫色のお菓子は、子供たちの掌の上でちょっと妖しくも美味しそうに輝いています。
ありがとう! と子供たちの嬉しげな声に大きく頷きます。紫乃からもお菓子を貰って、嬉しそうに駆けて行きました。
「さ、まだまだあるわよ」
「きちんと、並べ、よ」
子供たちはお行儀よく並び始めました。
「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃお菓子あげちゃうの〜!」
ちょっと離れた所で楽しげな声があがりました。くすくすと笑い声も聞こえます。ソルシェと美華のようです。
そんなおねだりをされているのは、大きな翼とトカゲのしっぽのようなものを持ったドラゴンでしょうか? どこから出したのか、大きなマフィンを差し出しています。
「お菓子くれてもお菓子あげちゃうの〜! ほら! ミカちゃんも一緒にやろ〜! クッキー分けてあげるから〜」
繋いだ指先がぎゅっと握られます。
「ふふ、そうね……」
楽しげな二人に、お姫様も微笑みます。
「お姫様もどう?」
美華の言葉に、お姫様がぱちぱちと瞳を瞬きます。ソルシェがきらきらした瞳でお菓子を差し出せば、ふわっと笑いました。
「trick or treat!」
お菓子が手に渡されました。ユウも吸血鬼の子供と一緒にお菓子を貰います。
「トリックオワトリート♪」
クッキーが籠の中に一つ、増えました。
皆の南瓜の籠の中に、沢山のお菓子が入っています。溢れだしそうな程に入ったお菓子達!
食べてみれば、それは甘くて楽しい思い出の一つです。
あちらこちらで、楽しげな笑い声と歌声と、音楽が響きわたりました……。
●おやすみなさい、いい夢を…
さぁパレードもおしまいです。
淳紅と夢の共演でファイヤーブレイクとファイアワークスが空を大きく彩ります。
「素敵な夜の幕引きは豪勢に、かつ華やかに! やでー♪」
(この素敵な街に、ここにいる沢山の人達にとって素敵な思い出になりますようにっ )
二人の粋な計らいに、皆の歓声が答えます。とても、とても綺麗な思い出が出来ました。
それを見上げつつ、ソルシェは美華にジャコランタンの形のロリポップを差し出します。
「ハッピーハロウィン♪ ミカちゃんには特別に……これあげるね」
「ありがとう……」
受け取ったそれを笑顔で受け取れば、近くに居たお姫様が仲良しさんね、と笑います。
やがて二人の共演も終わりをつげ、子供たちが散らばっていきました。
そろそろ帰る時間です。
「とりっくおわとりーと!」
甲高い笑い声と、楽しげな子供たちの声が遠く、遠くなっていきます。
楽しいハロウィンもおしまい!
また、どこかで……そんな声が聞こえました。