●今日も今日とて暑いですね!
太陽が容赦なく地面を焦がしていく。これがカラッとした暑さならばいいとよく言われる様に、日本はじめっとした暑さであった。
それは何も今日だって例外ではない。まとわりつくような不快な暑さに、辟易してしまうのはしょうがないだろう。
湿度が高いためのまとわりつくこの暑さ。しかも容赦ない日差し。いいとこが一つもない。
「つまり、最近暑いからみんなですずしんで来なさいってことだよね!?」
桜花(
jb0392)が今回の依頼の言いたいことをあっさりと言った。まぁ……ぶっちゃけ、そういうことですよね。
大体、依頼内容的にそんな匂いぷんぷんしてたもの!
でも別にそう思っているのは桜花だけじゃなかった。そもそもこんなん作った悪魔だってきっとそう思っていたはずだ。くそ暑い日々に癒しもとい涼しみを、と。
「では存分に涼みに……もとい、退治に行きますか」
涼しもう。それが皆の共通の認識である。知楽 琉命(
jb5410)は三千久遠以内で買えるシートやラップをしこたま買っていた。退治も勿論するが、敵の体に飛び込む気満々であった。
連日の残暑にどうしても涼しさを求めたくなる……。と思うのは御堂島流紗(
jb3866)だ。
(ついつい倒したく無くなるような条件のゼリーですけど一応それでもしっかりと倒さなければならないとはちゃんと思っているんです〜)
そう、それでも!
「…その前にちょっとだけ涼むのって罪じゃないですと思っているんです〜」
その通りと頷く満月 美華(
jb6831)。とにかく今日は楽しむと決めている。
「さて、今回は夏の終わりのバカンスで良いんだろう……? 」
一月=K=レンギン(
jb6849)がそう言って、少し遠い目をする。今年は依頼と部活で海にもまだ行けてない。
皆持って来て居るからと購買で手に入れた飲み物をクーラーボックスの中に入れて持ってきている。今日はバカンスだ!
セツリ・テスタヴェルデ(
jb6467)はすずしめると聞いての参加だった。まだ見ぬゼリーに思いを馳せる。ちなみちゃっかりあとで経費で落そうと思いつつ、トマト持参である。
冷やしトマト、これは譲れない。
そんな中、小さな背中に一杯の夢……もとい、レジャーシート、お菓子の類、お茶の入ったペットボトル、紙コップを詰めに詰め込んで、さらに両手にはネットに入れられた少々小振りのスイカと手頃な木の棒を持った木花咲耶(
jb6270)が居た。
これは……物凄く、遊ぶ気満々です。
スイカ割りを楽しむ予定のそのスイカを見つめて、わくわくしているのは鵜飼 博(
jb6772)だ。
タオルと大福を自らも持ち、羽根がパタパタと知らず揺れる。
「あ、あれだよな」
指差したそこには、どでーんと水色の塊が鎮座ましていた。まだまだ遠いが、3メートルは伊達じゃない。
見るからに、巨大ゼリーである。触っても居ないがぷるるんな感じが見て取れた。
すでにここまできて汗をかいてしまった木花咲耶がその言葉に視線をあげた。
「おお、あれが天然のクーラーかの? 水色でぷるぷるしておるぞ!」
「よし、いくぞ!!」
博がぱっと駆けだす。それに合わせて、皆も動きだした……。
さぁ、バカンスの始まりだ!!
●ひんやりと戯れろ!
半径2メートル。それがディアボロの攻撃が届く距離。
というわけで、一歩その効果の範囲にはいってしまえば……。
まさに至福だった。天然クーラーである。涼しい空気が身を包み、頭上のじりじりとした太陽の暑さなど、このバカンス的空間を楽しむスパイスにしか見えない。
ばっと服を脱いだのは桜花だ。数人が「?!」となったが、勿論安心してほしい! ビキニ姿である。
「桜花、濡れないだろう?」
博が首を傾げれば、桜花が笑う。
「ん? 服濡れないのにって? 濡れないって聞いてたけど、こういうのはイメージだよイメージ……それよりも、まぁ入ろう」
くいっと手を引いてみれば、入ってみたかったのは同じである。わーいっと突撃をかました。
羽根をばさばさしながら、つんつんと触れたそれはぷるっぷるでひんやりだ! 冷蔵庫の中にあるゼリー……まぁそのまんまな気がするが、そんな感じである。
桜花と一緒に足を踏み入れれば……。
「うおー! つめてー! なんかおもしれー!」
そんな声が上がった。桜花と同じように服を脱ぎ捨て全身タイツになったのは美華だ。戦闘時ならば俊敏に動けるその体は、今を戦闘と判断ししゅばっとその身をゼリーにと沈める。
たぷんと、その身を水色のゼリーが包み込んだ。勿論息は出来るから苦しくはない。
水の中を漂うようなそんな不思議な感覚に身を浸し、ふと思い出す。大量に持ってきた飲み物もこの中に入れるべきか……いや、外も十分に涼しい。
今はまだ少し、この身を浸していよう。
同じようにゼリーの中に物をいれようとしていたのは琉命。ラップに丁寧にフルーツ盛り合わせを包み込み、持参したコーラやドリンクをぽいっとゼリーにと入れる。
「確か事前の情報では、この場にジュースやスイカがあれば最高、とありましたので」
「琉命もはいろ?」
終わったのを見ていた桜花が声をかければ、琉命も足を踏み出した。
そんな脇ではアウルを網のように展開し、防御力をあげ準備体操をして万全に整えた木花咲耶が、ブルーシートを敷いていた。
問答無用でペットボトルをゼリーに突き刺し、持参したお菓子を広げる。勿論日陰になるようにセッティングしているので、直射日光は来ない。
「ささ、皆もここに座って涼しもうぞ」
「ありがとうございます〜」
流紗が持ってきていた冷やしたら美味しいお菓子、水羊羹、水饅頭、そしてチョコレート。ジュースも勿論あるのだが、それらをゼリーに突っ込みながら頷く。
冷えるまでの暫くの間、お話をしていようか?
そんな中ゼリーにトマトを突っ込み、ブルーシートの上に座って読書をしているセツリの姿があった。
いや、背中はゼリーにもたれかかっているのだが……。ぷるんとしたその身は、背中を預ければ極上のクッションだった。
(電気代も飲食代も無しに涼みながら本を読めるなんて素敵だよね)
取りこまれても私は本を読む……。そう決心した。
そんな中、水着姿で一月がゼリーに持ってきたものをいれていれば、しゅっとゼリーが伸びてきて、中にと巻き込んだ。
一応攻撃なのだが、ぶっちゃけキミもおいでよ! と言われている感じである。
(自ら招いてくれるのか……手間が省けるな……ん、冷たい……)
少し瞳を閉じた後、開ければ博が近くに来ていた。遊ぶ約束をしていたため、誘われるままにゼリーにと登り始める。
それを見れば、外に居たメンバーもゼリーにのっかかり始めた。
自然と誰が一番に頂上に登れるか、という競争が始まる。
「決して涼しむのが目的じゃないのです〜」
そう、流紗はこのまま頂上まで登り、敵の戦力を見極めるのだ。
下から上まで、そして全てを堪能……いや、知り尽くせば勝つこともたやすい。だから、別に勝つとかそういうのはどうでもいいのだ。
いいのだが……。自然と早くなる流紗の隣に、桜花が登っていた。
「ふあぁ……ヒンヤリしててキモチイイよぉ……」
ぷよんぷよんと掴むそれはめっちゃひんやりしていた。桜花の言葉に、流紗が小さく頷く。
……やっぱり、ひんやりしてるものね!
そんな中元気なのは、博だ。
「いっちばんのりー!」
ざっしゅざっしゅとゼリーをちぎりつつ登っていくため、その破片が下に落ちていく。
ちなみにゼリーは離れれば戦闘不能として処理されるのか、地面に落ちたそれはもう冷たくはない。
セツリの下に落ちたそれに、ゼリーを見上げた。皆がわしゃわしゃと登っている……。
「………」
ぱくりと口に入れたトマトはひんやりと冷たかった。
一月といえば、いつの間にやら参戦していた皆が登って行くのを、子供を見守る母のように、見守っていた。
ひょっとしたら攻撃を受けるのではないか、という危惧もある。まぁ先ほどの一瞬だけで、ゼリーが攻撃しようと全然してこないのだが。
やがて上まで登れば、そこからの景色は絶景だった。
「……すごいのぅ……」
木花咲耶がちょこんとゼリーに座り、空を見上げる。
「あ、誰か見てましたでしょうか?」
美華の言葉に、あっと皆が顔を見合わせる。一応一月が見ていたが、そもそも最初のスタートラインが違う。
皆が笑いだし、やがて一緒に持ってきたものを食べようか、という話しになる。
「せっかくですし、食べましょう」
琉命の言葉とともに、皆それぞれ突っ込んでいた食べ物や飲み物を取りだす。
食べきれない、飲みきれないぐらいあるが、残った分は持ち帰ってもいいだろう。
木花咲耶の持ってきたブルーシートに座って、パーティーが始まる。
冷たい食べ物が、飲み物が体を潤す。
「チョコ美味しい……!」
ぱくんと口の中に入れたチョコに、桜花がほわんと笑う。
「こっちも美味しいよ」
セツリがトマトを差し出せば、俺にもちょーだいっと博が手を出す。
次はゼリー合戦しようぜ! との言葉に美華が頷いた。その手は飲み物を皆に渡している。
「どうぞ」
しゃりしゃりと梨を剥きながら琉命も頷いた。
「あ、今手を離せないので……置いておいてください」
ことんとジュースが置かれた。一月もそれもいいな……と思いながら受け取った飲み物を一口飲む。
麦茶は冷たく美味しい。
「あー……バカンス、だな……」
流紗は大福を手に取り頷いた。
「本当ですよね」
口に含めば、小豆がひんやりと冷えていて、これまた美味だった。
スイカを手に取り、木花咲耶がスイカ割りを提案すれば、皆が頷く。
わいわいと楽しみながらスイカ割りが続く……そして。
綺麗に割れたそれは、しゅっと伸びたゼリーに取りこまれたのだった。
「あー!!」
「奪還するのじゃー!」
ちょっとしたハプニングがありつつも、無事スイカを奪還してまた皆でパーティーの続きをする。
……巨大ゼリーもスイカを食べたかったのだろうか。
やがて心もお腹も一杯になった面々は、腹ごしらえも兼ねてゼリー合戦を始める。
「どんどん投げるぞー!」
博の扇動の元合戦が始まった。
そんな中、木花咲耶は楽しげな声に耳を傾けながら上向きに寝転がり空を見上げていた。
(水の中から空を見上げると、こんな風に見えるのぢゃろうなぁ)
水色の世界から見る空はどこまでも青かった。
その脇には、セツリが本を読みながら埋まっている。………あ、やっぱり巻き込まれたんだ。
ぱらりと、めくり終えたセツリがちらりと空を見上げ頷いた。
「スライムの中にはいってて涼しいならスライムを口に入れたらもっと涼しいのでは!?」
と果敢にも挑戦しようとした桜花にべっちゃぁとゼリーがあたった。あとちょっとで食べるはずだったゼリーが変な所に入ってげほっとむせた。
「?!」
勿論投げたのは博だ。にししと笑うその姿に、セクハラと言うなのスキンシップを行うためにダッシュする。
追いかけっこと思ったのか逃げ出すその姿を、持っていたゼリーをどこに投げればいいのか分からなくなった琉命と一月、美華が顔を見合わせる。
再び果敢? にも敵を調査するためにゼリーの中にと身を浸そうとしていた流紗が小さく微笑んだ。それに合わせて皆から笑い声が漏れる。
まだ、もう少し……。
太陽は肌を焦がし、まだそこにある。
せめて日差しが落ち着くその時まで戯れててもいいだろうか……。
●楽しんだそのあとは
さて、そんな楽しい時間もあっという間である。ふと楽しんでいた合間に桜花がはっとした。
「あれ、撃退士がディアボロで遊んでいるって民間その他にばれたら大問題じゃね?」
うん、大問題です。その言葉に、皆あ、そうだよね……と気を引き締める。もともと倒す目的で来て居たため、まぁ大丈夫だと思うけれども!
流石に二の舞になってしまったらいけないし、大問題に発展したらかなりやばい。いや、でももうちょっと堪能してたかった……。
「退治するのか……」
一月がしょんぼりしていた。けれど、すでにもうお腹もいっぱい、丁度いい頃合いだと、心を鬼にする。武器を構え……すぐにぺちゃっとその身が倒れた。
巨大ゼリーが倒されたと同時に、涼しい空間が霧散する。
これがディアボロじゃなかったら……! と何度思ったか分からない。
ちなみに、流紗曰く次に生れてくるときは健全な冷蔵庫になって欲しいとのことであった。うん、きっとなれる……かな?
それぞれが持ってきたごみを確認していた。立つ鳥跡を濁さすである。
そんな中、きちんと最後の後始末用にブルーシートにゼリーをのっけ業者に持っていくのは琉命。
「暑い中涼しさを提供してくれてありがとうございました」
その言葉に、どこかで巨大ゼリーがどういたしまして、といったような気がした……。