●スイカ畑にて
さわさわと緑色の葉が揺れ、緑色の丸い球が、太陽の下きらりと光りを反射させる。
青空の下に広がるスイカ畑は、生産者の愛情が籠っておりそれはとても見事だ。
そんなスイカが危機に瀕していた。
ゆらりとゆれる長身が畑の中を歩く。筋肉モリモリの足が、地面を踏みしめれば、足跡を力強く残していく。
スイカマンマッチョディアボロの足に蹴られれば、また一個とスイカが割れるのだった……。
●スイカ畑でこんにちわ
「こちらじゃ!」
そんな声がスイカ畑のちょっと手前で上がる。
声をあげたのはイオ(
jb2517)だ。悪魔だということで、怖がらせてはいけないと大きめのフード被っている。大きな角はそれにより隠れちょっと見は分からない。
その言葉に恐怖に歪ませていた少女と祖母が顔を撃退士達の方を向いた。
自分達だけではない……それに気がつき、ほっと息を吐く。幾ら動きが鈍いといえど、やはりディアボロと出会ってしまえば恐怖で身がすくむ。
そんな二人の元に一足早くかけつけたのは……。
「貴方の相手はあたし達ですわ!」
光の翼でいち早くかけつけたロジー・ビィ(
jb6232)が弓矢で今まさにスイカを踏みつけようとしたディアボロを攻撃する! それは足元に辺り、ぎりぎりスイカは守られた。
背中で揺れる翼が空気を揺らす。
「………」
ディアボロの視線が………目が開いていないので分からないが………上を向く。
その間に、二人を誘導するイオ。誘導されるまで待機している最上 憐(
jb1522)、礼野 智美(
ja3600)、梶夜 零紀(
ja0728)、セレス・ダリエ(
ja0189)達も護るように武器を構えた。
それをみて、漸く二人も彼らが誰なのか分かったらしい、ほっとしたように息を吐いた。
さらにイオが見せたのは学生証。
「久遠ヶ原の者じゃ。助けに来たぞよ。大丈夫じゃから落ち着いて安全な場所まで後退するのじゃ」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
「おばあちゃん、行こう!」
二人が大きく頷き、手を握り合い邪魔にならないようイオの誘導に従って離れていく。
(うむ。まあ、なんじゃ……脱力しそうじゃが一般人もおる。安全を優先じゃ)
自分の前を走っていく二人を見ながら、そう心の中で思う。なんとなく想像はしていたが、実際見てみると脱力以外の何者でもなかった。
そしてそれを背中越しに見送り、四人がじりじりと迫ってきたディアボロを睨みつけた。
そんなディアボロを見ながら呟くのは零紀だ。
「ディアボロと聞いていたが……なんだ、ただの変態か」
そう言われるのも無理はなかった。ロジーの誘導により、かなりのったりしながらもじりじりと道に向かってきているディアボロは、そう、なんというか変態だった。
ボディービルダーのごとき肉体美。サイドチェストとかダブルバイセプスとかやったら優勝間違いなしである。まぁそれだけならいいのだが(?)今回、さらにちょうど頭がある部分がスイカなのだ。
しかもとても見事なまるっとしたスイカである!
ただ目に当たる部分に穴があけられていない。なんというか……そのアンバランスさは、やっぱり変態としか言いようがなかった。
「これ以上、変態に畑を荒らされる訳にもいかないな。早々に退場してもらおうか」
それに大きく頷くのは智美だ。
彼女は地元が主産業農業なので、農作物を荒らす今回の敵に容赦するつもりは毛頭ない。すでに割られたスイカを見つめ、ぎりぎりと拳を握った。
(農家の人の汗と労働の結果をその後食べる事もせず割るとは……ディアボロ許すまじ!)
「西瓜割りはその後ちゃんと食べるのが礼儀! ただ荒らし回るの奴が公式用武器なんか持つんじゃねぇ!」
ずびしっと指させば、漸く道に来たディアボロが顔を向けた。だがしかし、向いているのは指を突きつけた智美の方ではなかった。
棍棒を振りあげた相手……それは擬態をして、気配を殺し風景に同化していた憐に向けてだ。だがしかし、一歩早かったのは憐である。憐の影から現れた腕が、ディアボロを掴みあげた!
「……ん。早く。倒して。スイカを。食そう」
そう、こいつを倒せばスイカが待っている! 空の上からロジーの弓矢が背中を穿ち、セレスから放たれた電撃がディアボロの身を焦がす。智美の阻霊符が領域を展開する。
ハルバートの方が射程距離が長いと少し離れた距離からアウルの力を込めたハルバートを、正面から叩きこむ零紀。
それはてらってらに光っているような錯覚を催す、肉厚な筋肉にとずぶりとめりこんだ。ハルバートから伝わってくる感覚はそう簡単にその身を地に横たえるのはそう容易ではないと伝えてくる。
自分達の攻撃により、スイカの葉や実や花を傷つけてはならぬと畑側……ディアボロの背後に回り込んだ智美。
その身から自身の闘争心を解き放つ! それに反応したのか、ディアボロが智美の方を向こうとしていた……。
「他に人はおったかのう?」
「いえ……」
「居なかったよ!」
イオがそう聞けば、二人はかぶりを振った。それに頷き、辺りを見渡してみるが居ないようだ。
すでに皆の姿はかなり遠い。遠距離の攻撃もこれならば絶対に届かぬだろう。ここならば安全か。
ちょうど物影もあるし、とイオが物影を示す。そこに身を預けていれば安心だろう。
「ちと、あの悪趣味なスイカを叩き割ってくるでの。ここでジッとしているのじゃぞ?」
終わったら呼びにくる、と伝えれば二人が頷いた。
(まぁイオが参戦する前に終わっている可能性もあるじゃろうが……)
再び皆の元に戻ろうと走り出しながら、そう思う。
はてさて、如何なるだろうか?
一方その頃、戦っているメンバーといえば。
「………」
ふわっと広がるスイカの香り。それは地面に転がるスイカ達だけはなく、明らかにディアボロからもしていた。
まるで、そうこれはスイカコロンである! とでもいいたげな甘い香りだ。別にこれに魅了効果とかなにもないのだが、なんだろう。
一応身だしなみに気をつけているとでも言うのだろうか。
「………」
だがしかし、その身はマッチョである。一歩一歩踏み出すその足の歩みは遅いが、筋肉もりもりのその姿はとてつもなく威圧感がある。
(うわぁ……やっぱり変態だー!!!!!)
という気持ちになっていたかもしれない。
棍棒をスイカ割りの要領で智美に向かって振りおろすその腕は、筋肉が波打ち、汗がきらっきらと輝き伝い落ちていく。
そしてなによりもスイカ頭が……どうしても変態だー!! と言いたくなる様子を醸し出していた。
「見てると、暑苦しい気分になってくるんだが……」
熱気むんむんである。汗だらっだらの筋肉質の変態を見ていれば、体感温度が2〜3度上がった気がするのも否めないだろう。
「俺もそう思う……」
憐の影から現れた腕に掴みあげられる中、無慈悲な追い打ちをかけながら智美が頷く。
その腕が緩んだ隙を見逃さず、そのまま振りあげた棍棒が近くに居た零紀にと振り落とされる! スイカ割りの要領で打ち出されるそれをそのままハルバートで受ければ、腕に鈍い重みが掛る。
じりじりと後ろに後退させられるほどの力強さ。確かに一撃はとてつもなく重い。
「こちらですわ! 離れなさい!」
ロジーの弓矢が背中に刺さるが、それは無視することに決めたのだろう。ディアボロは零紀に狙いを定めたようだ。
すぐにそんな攻防戦に割り込む姿。
「俺も居ること忘れんなよ!」
智美がその腕を離そうと激しい痛みを与える! 流石にそれには力を緩めるしかなく、ディアボロの腕から逃れた零紀が距離をあけた。
「……ん。スイカ頭。割ったら。中は。スイカなのかな?」
ディアボロの顔部分であるスイカからだと思うのだが、スイカの甘い香りもしている。ちなみにそれは完熟しているとても甘い香りである。
ということは………。
「ど、どうだろう……?」
どうなんだろうね! その答えを知りたいのならば、割ってみるべし! というわけで、零紀がハルバートを構えなおす。
ディアボロと睨み(?)あい……そして。
「その頭のスイカ、よほど割られたいようだな?」
すっと間合いを詰めて、頭を狙ってそのままなぎれば、それはダメぇぇぇぇぇ!!!! というようにディアボロの体がしゅっとのけぞった。全身の筋肉とか、運とか、動体視力だとか、よく分からない全てを使った動きだ。その動きが良く分からないという場合、ギャグ漫画とかでこれみたことある! という感じだといえば分っていただけるだろうか。分からないかもしれない!
そこまでして頭を狙われたくなかったのか……!! 皆が攻撃の活路を見出した瞬間だった。
それにしても、これすごい隙である。
さくっとセレスの雷の剣が足を薙ぎ払えばそのまま転倒した。
その隣に現れた影は、ふっと笑う。
「間に合ったようじゃな」
そんなディアボロに容赦する必要などないだろう。
復帰したイオの光の玉がやっぱり容赦なく頭であるスイカ部分を狙う。それはダメぇぇぇ!! とごろごろ転がるディアボロがスイカ畑に行きそうになれば、目にもとまらなぬ速さで突かれまくり(勿論頭を狙われた)、道端の方にと押しやられ、さらにやっぱり影からの腕にむんずと掴みあげられ。
「……ん。捕まえた。逃がさない。ココは。通行止め」
さて、スイカ割りをしようか?
全員が揃ったことにより、逃げだす隙間もなくなる。じりじりと輪が狭まり、頭を狙って一斉攻撃を受けたディアボロは、そのままその身を地面に横たえたまま動かなくなるのだった……。
ちなみに、スイカ部分がただのスイカであったかどうかは、神のみぞしるとだけ記しておこう。
●スイカ採ろうぜ!
そうして守られたスイカ畑が目の前に広がる。
そのあとはそれぞれ手早く別れて報告したり、もう大丈夫だと伝えたり、他に荒されてる場所はないかと見て回ることにある。
少々割れてしまった物はあるが、それは大丈夫な所だけでも使おうと、ジュースやシャーベットに姿を変えることになった。
それには少し時間が必要、とまずはスイカを採ってきてくださいと送りだされる。
ごろごろとそこかしこに、緑色の大きなスイカ玉が転がっていた。
土の香りと、葉の香り。
そして、スイカのどこか甘い香りがその場を満たす。大きく息を吸えば、それは胸一杯に甘い香りが広がった。
「かなり大きいスイカばかりだな」
零紀がそう言って、スイカ畑を見つめる。
(きっと、愛情込めて大切に育てられたんだろう……)
愛情と太陽の光を一身に受けて育ったスイカは、ごろごろと大きな宝石のごとくある。
大体平均と思われるスイカを手に取って、ぽんっと叩けばとてもいい音がした。
「貰えるのか……? これは嬉しいな」
本当に貰っていいのかと問えば、大丈夫ですよ、と言葉が返る。ふっと笑い二つ目を手に採る。
「持ち帰って、充分に冷やして食べることにしよう」
そんな零紀と違ってすぐに食しているのは憐だ。
一ミリでも大きい物を、と全部を見て歩いた結果、二個ほど大きい物を発見。
そしてすでに一個目は食べ終わっている状態だったりした。もぐもぐもぐ。とても美味しそうに食べているので、これは農家の方も喜ぶだろう。
「……ん。種。持ち帰って。植えたら。スイカ。出て来るかな?」
憐の足元に散らばる種が、きらきらと太陽をの光を弾き輝いていた。
愛情籠ったスイカをぽんぽんと叩いてるのは智美だ。
「俺は2つ共持ち帰りますので」
と断ったのには理由がある。食いしん坊の妹と知り合いの子供たちが、期待の眼差しで見つめてくるのだという。
ここで持ち帰らなければ、泣かれてしまうのだ。いいものを、と探すのにも力が入るという物だろう。
責任重大である。ポンポンと叩いた指先が、一つ身が詰まっているだろうスイカを選び出した。
残り一つ!
「西瓜は地元じゃ鴉や猪との戦いなんで、ここまで見事に育てるのちょっと難しいんですよね……」
その言葉にイオがほぅ……と頷いた。
ここまで見事に育ったスイカというのは、やはり努力の上に成り立つのだろう。
先ほど助けた祖母に話をきけば、模様の境目がはっきりしていて、雷のようにうねっているほど甘いということがきけた。
スイカが沢山採れるここだからこそ、皆知っているのかもしれない。
一個一個みて歩き、良さそうなもの二個手に取る。
「母上へのお土産ができたのじゃ〜♪」
そうやって、しばし時間が流れる。
さわさわと風が皆の間を駆け抜けていった。
皆が思い思いのスイカを手にとって戻ってくれば、スイカジュースとシャーベットが配れる。
セレスとロジーも手伝い、帰ってきた皆に配れば、笑顔が広がる。
甘いスイカの味が、戦いの疲れを癒す。
「美味しかったー!」
ごちそうさまでした、とお礼を居れば、農家の人も微笑む。
美味しいスイカをお土産に、それぞれ帰路についた。
甘い甘い思い出が、一つ刻まれただろう……。