●魚釣り大会!
きらきら輝く太陽! 青い空! さらさらと流れる川の音!
まさに魚釣りするのにちょうどいい気候である。とはいえ、熱中症になっても大変と熱中症対策に保冷バックの中に凍った飲み物とお弁当を入れて、さらに塩飴まで装備なのは礼野 智美(
ja3600)。
また念の為虫よけスプレーと蚊取り線香も用意しており、準備万端である。
日焼け避けの麦わら帽子をくいっと持ち上げ、調節しながら思うのは音羽 聖歌(
jb5486)だ。
(まさか智の奴も居るとはな……)
小魚のディアボロなら退治出来るだろうと思って受けたら、幼馴染で、友人でもある智美も居たのだ。友人というか、悪友とでもいうべきか。そんな聖歌の傍らで、桃を持って歩いているのは紫園路 一輝(
ja3602)だ。
日焼け止め・帽子・ジュース・タオル・蚊取り線香と虫除けスプレー……そして、農家の人から先ほど貰った桃を吟味している。一人二個、と貰ったそれは、とても甘い香りを漂わせていた。
ちゃっかりと少しだけ硬い物をとったのは、まぁ貰った人特権と言ったところだろうか。
その甘い香りに、瞳を細めたのはソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)だ。自然と笑みの形に唇がなる。
(少年達の釣り道具は、移動しないと……)
壊れてしまったら大変である。それにしても、と若干遠い目になるのはヴィクトール・グリム(
ja8730)。
(悪魔共も時々ワケわからねぇディアボロ造るんだな)
確かになんでこんなことになったのかわけがわからないかもしれない。そして噂の岸に辿りつけば、ぽつんと落ちている釣竿達はすぐに発見できて。
「ディアボロ退治では有る様ですが、此度の依頼は少々趣きが違いそうですね」
そんな釣竿を見て、ミズカ・カゲツ(
jb5543) が言葉を紡ぐ。
「……その、如何にも緊張感や緊迫感を感じ難いと言いますか……」
その言葉にヴィクトールが頷いた気がしないでもなかった。だがしかし、と首を振ってきりっと前を見つめる。
「いえ、是も依頼には変わりありませんね。全力で退治に当たるだけです」
そんな決心の傍ら、ふっと爽やかな笑顔を浮かべるのはマクセル・オールウェル(
jb2672) だ。
「アユ釣りは我輩に任せるのである!! この、天界の釣り吉と呼ばれた我輩に!!」
ちなみに三秒ほどで考えた異名である。同じく天界出身のルーファ・ファーレンハイト(
jb5888)といえば、首を傾げていた。
「魚釣る、なにそれ。人間、色々好き、よくわからん」
よく分かっていなかった。
ここに来る前に話しはついている。そう……これから行われるのは魚釣り……いや、ディアボロ釣り大会である!
二人一組で戦うことになるため、さっと皆別れる。
勿論、少年達の釣り道具は危なくない所へ避けてある。ちなみに、智美がクーラーボックスの中身を確認したが、まだ何も入れる前だったのだろう。大変なことにはなっていなかった。
水洗いとかする予定だったが、何もなくて本当によかったものである。これで、憂いもなく大会ができろうだろうか。
だがその前に、と一輝が桃を皆に渡す。戦うためにも、まずは腹ごなしだ。
「はい、ソフィア良かったら使っていくら魅力ある褐色肌でも肌は守らないとね? それと熱中症対策に戦前の腹ごなしと♪」
そして、同じチームのソフィアには帽子やジュースも渡す。ソフィアが嬉しげに笑った。
「ありがとう」
しばし腹ごなしをした後、今度こそディアボロ釣りへと向かう。
「さぁ、開始だ!」
その言葉と共に、戦いの火ぶたが切って落とされる……!!
●ディアボロ釣りしよーぜ!
魚を釣る側と、撃破する側に別れて川辺にと集まる。
ぽちゃん、と糸をたらせば、すぐにくいつてくる……。
黒いアユのような塊。ディアボロだ! その姿を確認した撃破側が、武器を構えた。
・ソフィア&一輝ペア
「やるからには勝ちを狙いたいよね。どんどん倒していくから、釣るのはよろしくね」
ちなみにソフィアの心持ちは、一輝が釣った魚でまだ撃破していないのがなくなった場合は、他の人の釣った魚でまだ撃破していないのを狙いに行くというかなり好戦的な物である。
始まったばかりの今ならともかく、終わり頃になったら阿鼻叫喚になるかもしれなかった。
そして、一輝としても本気で勝ちに向かっている。それは、まだ出していないが数本の竿と、針の数を増やした仕掛けが物語っていた。
このチーム、かなり本気で狙っていっている。漲るオーラは、どのチームよりもしょっぱなから強いかもしれなかった。
「うわーマジ針のみで釣れるし……」
ひょいっと落とせばすぐに釣れるアユもどきを後ろに投げれば、ソフィアの攻撃が射抜いて行く。
ぴちぴちと跳ねまわるそれは、後ろに投げられたと同時に、ソフィアにと向かって飛び跳ねていくため、凄く狙いやすかった。
「どんどん、投げてね」
「任せて!」
あちらこちらと飛び跳ねるアユもどきが溜まっていけば、巨大な炎で一掃する。Fiamma Solareだ。太陽のようなまばゆい光を発したそれは、勿論敵だけを的確に狙って発せられた。
数だってきちんと把握してある。片手で数えながら、ソフィアが大きく頷く。順調だ。
ゆらりと蚊取り線香の煙がたゆたうなか、二人の撃破数がどんどん伸びていく……。
・ヴィクトール&ミズカペア
(まァ遊び心ってのは大事だわな。負ける気なんぞ毛頭無ェが)
というわけで、すぐに糸を垂らしたのはヴィクトールである。彼もまた横取りできそうならしようという心意気の持ち主だった。
かぷり。それはすぐに食いついた。
そしてそんなに遠くない場所で、ミズカが80cm程の日本刀を構えていた。その刀身は紫色に輝き、銀色の柄、雷を象った鍔を持っている。
決して油断せず、そして例え攻撃されても驚かず。その瞳に漲るのは決意だ。
「ほらよ」
ひょいっとミズカの方へ投げ飛ばせばそれは、びちびち跳ねながらと歯をむき出して。
「……行きます」
さくっとその刀身が身を切れば、それはすぐに命を終えて。
そんな所へ数をしっかり数えながらひょいひょいと渡していくヴィクトール。
「入れ食いじゃねぇか。こんだけ釣れりゃ面白いわな」
「これが入れ食い、と言うのですね」
このままでは攻撃が間に合わないと発勁を使うことを視野に入れる。
一匹、一匹と確実に数を増やしていく。二人の息はぴったりだった。
・智美&聖歌ペア
智美が左側に座り、その少し離れた所に聖歌がスタンバイする。
「お前俺より遥かにLV高いだろうが、何でこの依頼受けてるんだ」
「悪かったな、依頼に大小ないし、旗取り大変なんだ」
という感じにほのぼの? とやっているのはこのペアの特色かもしれない。そして、このペアは最初は二人で釣っていたのだが、釣るスピードと溜まるスピードが大変なことになったので、すみやかに智美が攻撃に回ることになる。
15cm程の隠密苦無を使い、的確に倒していく。
「やっぱり小回りきくと違うんだな」
「そういやお前、まだ小回りの利く武器って持ってなかったもんな」
さくさくと釣っては投げて、そして倒しを繰り返しながら、やはりどこかのんびりとした会話が繰り広げられる。
お互いがお互いを信用しているから、だからこそこんな風にできるのかもしれない。
「もともと俺の武器防具って殆どお前が購入して使ってないもん融通してくれたものが殆どだしな、小刀自体お前から譲渡されたものだし」
これ、と示せば智美が頷く。
「大規模なんか組んで参加して居るんだ、姉上達を護りたい以上組んで行動するお前達の戦力整えた方が俺も助かるし」
結局は、心配なのだろうか。
そうか、なんて頷く聖歌がまた一匹釣りあげる。
「頼んだ」
「任せろ」
保冷剤で涼を取りながら、また一匹、と記録を伸ばしていく……。
・マクセル&ルーファペア
「オールウェルも天使、よろしく」
「よろしくなのである!」
しっかりと挨拶をして、向かうのはマクセルの後ろ。
「ルー、殴る方とくい、とりあえず殴っとく」
そう、今回は撃破側なためである。
そして釣る側のマクセルはと言うと……。素肌にライフジャケットを着込み、その両手が持つのは……二刀流ならぬ、二竿流だ!
マクセルの膂力ならば、片手でも問題なく釣れる。釣れるのだが、なにぶんそんなに最初からうまくいくわけでもないので、明後日の方向へ吹っ飛ばしてしまう。
「ルーに、任せろ」
たたたと其方の方へ行くルーファが風の衝撃波でなんなく倒す。ちなみに、衝撃で針が抜け、手首のスナップを使い、交互に岸へ投げていく。
やがてコツを掴んだマクセルが順調に数を伸ばしていくため、ルーファの数を数えるのも力がこもる。
「ええと……今、15匹、……あれ、今いくつ?」
二竿同時にくれば分からなくなるものしょうがないかもしれない。
「たぶん、16匹……」
なんとなく数が減ってしまった気がするのは、気のせいだろうか?
「まだまだ先は長いのである!」
「頑張る」
そんな二人もまた、息があったコンビだった。
そんなこんなで二時間も経とう頃。
やがて数が減ってくれば、本気を出したのはソフィア&一輝ペアだ!
針の数を増やしただけでなく、数本用意する。他にも、びちびちと跳ねまわるアユもどきを追いかければいつの間にか他の班の所に行っちゃうのも確かで。
油断しないように魚釣りをしていた聖歌とその相方の智美と言えば、なんとなくどこ吹く風状態だったが、自分達の獲物をやるわけはない。
さくっと飛んできたルーファの攻撃をはじき返し、自分の分のを確保だ。
「ルーの、違う…? 間違えた、ごめん」
ではこちらか、と本気で狙いに行く面々に火花が散って、それぞれのエリアまでその手を伸ばす。今回は他の班のを攻撃してもOKなのだから!
「そちらの、貰うよ!」
ソフィアの攻撃が、ヴィクトール班のを狙えば、同じく狙っているヴィクトールが許すはずもない。
「やるかよ!」
クレイモアで応戦だ。暫くの間、ディアボロ相手ではなく仲間同士で火花が散っていた気がしないでもない。
そして。
「あ、もう釣れないみたいである!」
釣り側が垂らす糸に、何一つ食いついて来なかった。
●そして、結果は?
優勝者はソフィア&一輝ペアだった。
その数90匹以上!
やはり双方の気概と、竿に工夫を凝らしたのが優勝の決め手であろう。
僅差だが、負けてしまったのはマクセル&ルーファペアだった。それでも80匹以上釣りあげていたのだから、一体ここに何匹いたのかと戦慄する。
「天使、釣りうまくない、そういうことかも」
何が悪いわけではないが、これが運というものかもしれない。
ちなみに、智美&聖歌ペアとヴィクトール&ミズカペアは同点である。
今回は本当に僅差だったので、皆よく頑張ったとしかいいようがない。
「お疲れさまー!」
その言葉に笑い合えば、今日の疲れも吹き飛びそうだった。
●魚釣りしよーぜ!
全部終われば、魚釣りの時間である。
家事担当だという聖歌は先に帰ることにする。
だがしかし、今日は魚料理はやめにしよう……。そう思ったのはしょうがないかもしれない。
精神修行の一環となることを発見したのはミズカだ。
「ふむ……成程。ゆっくりと魚が掛かるのを待ちながら、それでいて釣り糸の様子に細心の注意を払う……」
これはいい精神修行になりそうだと、微笑む。
ふわりと空を飛び、探し人探すのはルーファだ。
「ん、ここもいない、山はきらい? まあいいか」
残念ながら、気配すらも感じなかった。では、と釣りに集中することにする。
次は主探しだ! 上流に居ると言う情報を思い出して向かう。そんな中ふかぁ……と煙草に火をつけながら釣りをするのはヴィクトール。
「……さっきの入れ食いの後だと全ッ然物足りねぇな」
まぁそれこそが魚釣りの醍醐味かもしれない。そして魚釣りして釣れた物を焼き魚にしているのはソフィアだ。塩焼きのそれはいい香り。一輝へ渡せばディアボロの残った切り身を持っていたそれと、交互に見ている。
どんな味がするんだろう、という皆の思いが交差する中、マクセルが自身で淹れたアイスコーヒーと、ジュースを配る。
それはいい息抜きになるだろう。
先に依頼人達に釣り道具を返しに行っていた智美。帰って来てからはのんびりと散歩していた。
「あぁ……気持ちいいな」
やがて、マクセルも魚釣りから復帰し、一緒に料理を作り始める。カレーも作れればよかったのだが。
そのうち残っている者全員でご飯を食べることになって。
穏やかに、時間は過ぎていく……。
さぁそろそろ帰りましょうと戦果を見れば、ディアボロ釣り程ではないけれど。
けれど、そこには沢山の魚達が。
自然と足取りも軽やかに下って行ったのだった。